※この作品はR-18です。

淫姫絶頂したいフォギア   作:拙作製造機

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風鳴弦十郎

S.O.N.Gの指揮を執る誰からも信頼されている男性にして翼の叔父。
ノイズへの対抗手段さえ持てば装者達が不要となる程の強さを持つ。
シキにとっては兄でもあり父でもある存在で、彼が目指す背中の一つである。
櫻井了子へ異性としての好意を抱いていたが、彼女がシキと結ばれた事で失恋する。ただ、それを表に出す事無く二人の幸せを心から祝えるだけの男気を見せた。
現在、着実に取り残されつつある発令所の状況に若干ではあるが困っており、独身を脱するべきかと思案中。
ちなみにエルの突発的発言については父親のような心境で受け止めている。


藤尭朔也

S.O.N.G所属のオペレーターでシキの数少ない同性の友人。
気さくな性格でシキとは男子学生のノリで接し、彼が胸を張って友人と言える一人。
若干お調子者で臆病のきらいがあるが、それでも優秀である事に変わりはなく、同僚のあおいや弦十郎からも信頼されている。
夢子の誕生や了子の一言が切っ掛けであおいと単なる同僚の関係を脱しつつあり、今では時々二人でサシ飲みをする関係となっている。
あおいの事は異性の友人と思っているが、恋人になれるかどうかはまだ分からないようだ。


友里あおい

S.O.N.G所属のオペレーターであったかいものを淹れる名人。
真面目で厳しそうに見えるが、実際は優しく気配り達人の”出来る女”である。
シキの事は朔也と似たような人物と見ていて、装者達と男女関係である事を知っても特に嫌悪感を見せない事から潔癖のきらいはないらしい。
夢子の誕生や了子の一言が切っ掛けで朔也と単なる同僚の関係を脱しつつあり、今では時々二人でサシ飲みをする関係となっている。
朔也の事は異性の友人と思っているが、恋人にするかどうかはまだ保留中。


今、もつれた糸を断ち切って

「やはり潜んでいたんだね、人の中に」

 

 ヴァネッサとの一戦、と呼んでいいか分からない情事を終えて、エルザとの買い物兼散歩から帰ってきた俺を待っていたのは風鳴さんの呼び出しだった。

 その場所は例によって前回と同じ男性用大浴場前の脱衣所。そこには先に呼び出されていただろうアダムがいて、俺と風鳴さんが現れるなり先程の一言を告げてきたと言う訳だ。

 

「ああ。要の話では彼女は神の力で体を戻されている事も関係しているんじゃないかとな」

「一理あるだろう。呪詛が消えているかもしれない」

「……もしくは我々よりは弱い、か」

 

 脱衣所の長椅子に座っての、相談なのだろうかこれは。いや、相談じゃなくて会談か。

 

「それで、他にないのかな、情報は」

「俺の神の力を吸い取ろうとしてたぐらいだ。多分だけど今のままじゃ完全復活は出来ないんだと思う」

「ふむ、分かってはいたが腕輪を壊して正解だったらしい」

「そうだね。膨大だったよ、あれに秘められていた神の力は」

「あの時錬成したものより?」

 

 俺の問いかけにアダムは深く頷いた。それだけで風鳴さんも分かったらしい。あのアダムとの一戦がなかったらどうなっていたかを。

 神の力の恐ろしさと異常さはあの時に俺も嫌って程分かった。何せ俺が風鳴さんみたいに戦えたのだ。そして壊れた境内の修復なんかも。

 

「つまり、それだけの力がなければ腕輪のカストディアンは復活出来ない。ただし、逆に言えば復活した場合はこれまでのどんな戦いよりも厳しいものとなる」

「疑い様がないね、それについては。それにしても、どうやって追い払ったんだい、そんな相手に対して」

「あー……簡単に言えば俺とヴァネッサのコンビプレー、だろうな」

 

 疑問符を浮かべるアダムと風鳴さんへ、俺は簡単に説明する。俺が神の力を込めた射精と合わせてヴァネッサが腕輪の主を邪魔しただろう事を。

 要は神の力を吸収しようとした相手をヴァネッサが妨害し、俺の想いと共に膨大な神の力で腕輪の主を押し流したんだと思う。

 

「中々凄い事をするね、君は」

「いや、だが要にしか出来ない方法だろう。相手が要とヴァネッサ君の絆を見誤ったのも大きいかもしれん」

「有り得る話だ。人を見下していた僕が言えた事ではないが」

「要はどうだ?」

「俺もそう思いますよ。あいつ、人間を見下してました。以前のアダムよりも、もっと」

 

 考えてみれば当然だろうと思う。相手はかつてこの星で生命を弄っていたと思われる存在だ。そいつからすれば人間も自分の作った物の一つだろう。

 

「だけど、了子達の言ってた事も気になるんです。どうしてヴァネッサの魂を塗り潰さなかったのかって」

 

 例えヴァネッサの体を使って復活するつもりじゃなかったとしても、わざわざヴァネッサの自我を残しておく必要はないはずだ。

 俺の意見にアダムと風鳴さんも腕を組んだ。フィーネは迷う事無くそうしてきてる。まぁ、今回はそうしたはずなのに了子の魂が甦ったらしいけど、多分それは俺のスープの影響らしい。

 

 そういえば最近は忘れかけてたけど、俺の正体はホントなんなんだろう? 間違いなくただの人間じゃない。だけど、カストディアンって訳でもない。

 可能性が高いのはアダムと同じように作られた存在なんだろうけど、だとしても色々と腑に落ちない事が多い。

 

 まずは俺が発見された状況。ノイズ達が守るようにしていた事だ。次に俺の記憶。発見された時からしかなく、どんな手段を使ってもそれ以前の記憶は手がかりさえなかった事。

 

 最後に、俺の能力。体液全てが極論を言ってしまえば生命へ良い影響を与える事。

 

「……もしかして、俺って最初から弱い神の力持ってたのか?」

「ないとは言い切れないな。お前の能力は今考えてみればあの力に通じるところがある」

 

 呟いた一言を風鳴さんが肯定してくれた。そうか、そうだよなぁ。何せ絶唱の負荷を減らし、適合率を上げ、更に病気やら肌艶やらを治してしまうのだ。

 

「そうなると、分からなくなるな、余計に。君は一体何者なのか」

「まぁ、お前とは違う事だけは確実だよ。あと自分から話題を変えてしまって何ですけど、本来の議題について考えません?」

「そうだな。要の事はいずれ分かる時も来るだろう。今は、カストディアンが何故ヴァネッサ君を完全に我が物としなかったか、か」

「難しいものだね。君の話では、演じていたんだろう、最初は」

「ああ、うん。ヴァネッサの口調と声だった」

 

 今も思い出せる。あの時の事は。俺の事を見る目がどこか冷たいものになったヴァネッサを。

 喋り方や声はヴァネッサなのに、その表情と雰囲気がどこか違った。そこへきてのあの吸い尽くしてやろうだったからなぁ。

 

「それが出来るのなら尚の事理解出来ないな。何故ヴァネッサ君の魂を塗り潰さなかったか。出来なかったのか、あるいはする必要がなかったのか」

「もしくは、あったのかもしれない、別の目的が」

 

 アダムの意見に風鳴さんも頷き、そして三人して黙り込む。正直これで終わったとは思えないんだ。

 ヴァネッサから追い出したとも思えないし、そもそもそんな事が出来るならバラルの呪詛なんてものは必要ないはずだ。

 

 つまり、あいつはまだいる。そして復活の機会を窺っているはずだ。それも、俺が生きている間に。じゃないと神の力を得る事が難しいからな。

 

「悔しいですけど、今はまたあいつが動くまで静観するしかないかもしれません。幸い復活には神の力が不可欠みたいですし、俺が気を付ければいいだけです」

「そう、だな。今は待ちの姿勢しかないかもしれん」

「なら、報告などを頼むよ、何かあったらね。僕が出れない時はティキへ頼むよ」

 

 そこで話し合いは終わり、アダムは何と風鳴さんと二人でこれから飲みに行くらしい。場所はどこかと思ったら何の事はない。風鳴さんの家との事。

 きっとそこで今のとは別の事を話すんだろうな。組織のトップ同士の会談って訳だ。

 

 転送する二人を見送り、俺はリビングへと向かう。その道中、俺の頭の中をあの腕輪の主の事が巡る。

 

 あいつは俺の神の力を全て吸い尽くすと言ってた。そんな事可能なんだろうか? 俺だってちょこちょこ使ってるけどなくなる感覚を感じた事はない。

 もしかして、あの吸い尽くすってのは俺を殺すって事だったのか? だとすればヴァネッサの魂を塗り潰さなかった理由も分からないでもない。俺が実力行使出来ないようにじゃないだろうか。

 

 ……人質として利用するつもりだったのかもしれない。とにかくあいつは俺を邪魔に思ってるのはたしかだろう。とすると、やっぱり俺はあの腕輪の主と敵対したカストディアンと関係があるんだろう。

 

「ヴァネッサが選ばれた理由は、俺と関係を持っていて神の力で変化をしたからだとすると、エルザやミラが選ばれる可能性は少ないかもしれない」

 

 言いながら個人的希望が多分に入ってると思う。だけど、俺とヴァネッサがエッチしている時に干渉してきた事から見ても、あいつは俺の精液から神の力を吸収した上で殺そうとしていた。

 つまり、下手をすれば俺は俗に言う腹上死させられていた訳だ。考えると笑えない死因だ。何せ神の力がなかったら、俺はそうなってた可能性があるんだもんなぁ。

 

 そんな事を考えている内にリビングへと到着し、俺は夢子を抱えているミラへと近付く。

 

「ミラ、ベビーシッターはどうだった?」

「ん? あー、まぁ思ってたよりも気楽だったぜ。それに、楽しかったし。な、夢子?」

「あいっ」

 

 ミラが軽く頬を突くと夢子が嬉しそうに返事をした。どうやら今日一日でミラは夢子に魅了されたようだ。

 

「そういや、兄貴に聞きたいんだけどさ」

「ん?」

 

 夢子と戯れるミラを微笑ましく見つめていると、ミラが思い出したかのように話を切り出してきた。

 で、言われたのはヴァネッサの事。疲れたので仮眠を取ると言って部屋へ行ってしまったと言うのだ。

 

 一応夕食が出来たら呼んで欲しいと言っていたらしいが、ミラが言うにはかなり疲れているように見えたとの事。

 なので心当たりはないかと言われたのだ。了子達は俺へ聞いてみるといいと言ったそうで、おそらく俺の判断で話していい部分とダメな部分を選べって事だろう。

 

「……あまり大きな声で言いたくないんだけどな」

「へ? う、うん」

 

 心持ち声を潜めて低くする。表情も真剣に。それだけでミラが少し驚き戸惑った。さて、じゃもう少し仰々しくしよう。

 

「耳、貸してくれるか?」

「わ、分かったぜ」

 

 さてさて、ではここでネタばらし。

 

「実はな」

「っ……」

「医務室でちょっとエッチな事を」

 

 ゴツンっといい音がした。そして頭に感じる痛み。ミラの拳骨が炸裂したらしい。

 

「なっ、なっ、何してんだよ!」

「返す言葉もございません」

 

 真っ赤な顔で抗議する義妹に俺は頭を下げるしかない。ただ、多分本当の理由はそれじゃない。間違いなく体を乗っ取られた事だと思う。

 でも、さすがにそれは話す訳にはいかない。なので嘘ではないが真実でもない事で納得してもらう。まぁ、その結果義兄としてのイメージ悪化は仕方ない。何せ事実だし。

 

「サイテーっ!」

「さいてー」

 

 地味に心を抉る夢子の反復。笑顔で言ってるので意味は分かってないんだと思うけど、それがかえって辛い。大きくなった夢子にそう言われないようにしたいものだ。

 

 ただ、この女性関係はそれを避けられない気はしているけれど。

 

「どうした? 何か騒がしいゾ?」

「ミカか。まぁ、全部俺のせいだから」

「あ、兄貴がそういう事をしてるのは知ってるし、ヴァネッサも嫌がってないだろうけどな、場所は考えろってのっ!」

「かんがえろー」

「考えろー、だゾ」

「ミカ、ノリで言わないでくれ。夢子もだ。ミラ、夢子は最近単語を言うようになってきてるんだからさ、少し考えて発言してくれるかい? 今回は俺が悪いから強くは言えないけどね」

「うっ、わ、分かったぜ」

「おー、気をつけるゾ」

 

 さすがにミラも夢子が意味も分からず厄介な言葉を覚えたら不味いと思ってくれたようだ。で、ミカは反省していないような声で返事をして終わり。

 夢子はただニコニコしているだけ。我が家最強は本当に無敵である。本気で成長した時に最低と言われないようにしたい。

 

 こうして夕食が出来上がる頃には了子達も帰宅し、ヴァネッサをミラが起こしてきてクリスにアンジェ達も揃っての食事となった。

 

 幸いにもヴァネッサの事が話題になる事もなく、話題の中心は夢子の単語反復に終始した。

 

「美味しい。はい」

「おいしー」

「ああんっ、ホントに可愛いわねっ! 夢子夢子、リオ、綺麗。はい」

「う? りお、きれー」

「ありがと~」

「カリオストロ、何を言わせてるワケダ」

「貴女らしいとは思うけどね」

 

 呆れた顔のレティと苦笑するアンジェ。一人リオは満足そうに微笑んでいる。で、周囲はと言えば呆れ半分と苦笑半分。

 

「今の夢子は何でも言うからね」

「名前の次は単語かぁ。だけど、それが普通なんだよね、父さん」

「そうだね。でも、一般的には赤ちゃん言葉で覚えるんだよ。車をぶーぶーとかさ」

 

 そう言うと了子も頷いてくれ、更にはヴァネッサやミラも同意したのでキャロルやエルだけでなくエルザまでも感心した声を出した。

 考えてみれば、ここにいる中で一般家庭で育ったのって了子とヴァネッサにミラを除くと精々がリオとレティぐらいじゃないだろうか。

 クリスやアンジェは途中で親を亡くしているし、キャロルもそうだ。俺なんかはそもそも親がいないだろうし。

 

「そういえば、夢子に最初グランマをばーばって呼ばせてたね」

「あ、うん。それも赤ちゃん言葉なんだよ。じーじとかもね」

「じゃあ、夢子も赤ちゃん言葉は使ってるんだ」

「う?」

 

 キャロルの視線に夢子が了子の腕の中で首を傾げる。それだけでみんなが微笑む。本当に赤ちゃんは不思議だ。たった一つの動きや言葉で周囲のみんなが笑ったり困ったりするんだから。

 

 だけど、だからこんなに明るく楽しい時間になるんだとも思う。間違いなく今の俺達の中心は夢子だ。

 以前までなら俺って言えたけど、夢子が生まれてからは完全に夢子にその座を譲っているし。

 

 そんなこんなで今日も夕食は賑やかに楽しく過ぎる。こんな時間がずっと続いて欲しいと願いつつ、俺は腕輪の主の事をどうするべきかと思い悩むのだった……。

 

 

 

 シキを狙ってカストディアンが動いてから一月近くが経過しても、彼らが警戒していた次の襲撃は起きていなかった。

 シキや弦十郎は首を傾げつつもアダムやフィーネとも協力し、その狙いと動きを予想し続けてていた。

 

 そんな中、遂にツヴァイウイングのツアーが終わりを迎える事となる。そのファイナルライブの会場は、かつてマリアとの合同ライブを開催した場所。つまり、あの時のやり直しをしようと考えていたのだ。

 

 ただ、それでは人々にマリアがゲストと読まれてしまう可能性が高いため、そのライブ当日の夕方マリアも別会場でライブを行う事となっている。

 

 その距離は車で二時間ほどではあるが、マリアのライブ終了時刻だとツヴァイウイングのライブ終了までは間に合わない。

 

「それであーしの出番って訳ね」

「悪いわねリオ。でも、これぐらいしないと無理なのよ」

 

 マジシャンの格好をしたカリオストロにライブ衣装のままでマリアが申し訳なさそうに声をかける。

 そう、転送結晶を使っての移動を考えていたのだが、普通にやったのでは物理的に不可能過ぎる。それを誤魔化すため、カリオストロをマジシャンに仕立て上げての瞬間移動マジックとするのだ。

 

 ちなみに、これは当然シキの企画である。どうせバラすのなら、それさえもエンターテイメントにしようという考えであった。

 

「まぁいいわ。結構これもオシャレでいいじゃない。色合いは地味でもセクシーに見えるし」

「そうね。似合っているわ」

「ありがと。じゃ、打ち合わせ通りにやればいいのね?」

「ええ。私が透明なケースの中に入ったら、上から布をかぶせてくれればいいわ。その間にテレポートジェムで移動するから」

「OK。あーしもこっちが片付き次第向かうわ。いいステージ、期待してるわよ?」

「任せて」

 

 そうしてマリアが舞台へと向かおうとしている頃、奏と翼のいる舞台にも大人一人が余裕で入れる透明なケースが運ばれてきていた。

 

「さあ、ライブもそろそろクライマックス。ツヴァイウイングのワールドツアーも今日で終わり」

「だからこそ、どうしても私達は今日ここで迎えたいゲストがいるんだ。それは、彼女」

 

 二人のMCに会場全体がどよめく。二人の頭上にあるモニタがある場所を映し出したからだ。

 

 同じ頃、マリアの方でも会場の観客達がざわついていた。

 

「今日は私のステージを見に来てくれてありがとう。だけどごめんなさい。今夜はアンコールに応えられない。これからちょっと行かないといけない場所があるの」

 

 そしてマリアの上にあるモニタが何とツヴァイウイングのライブ会場を映し出す。どよめく会場にマリアは笑みを浮かべるとステージへ透明なケースが運ばれてくる。

 それが映像と同じである事に気付いたところでカリオストロが登場し、遂に両会場へ説明がなされる。

 

「は~い、これから始まるは世紀の大魔術。世界の歌姫を両翼の歌姫達のいる場所へ転移させるの。成功したら拍手喝采をお願いするわね」

 

 同じ音声がツヴァイウイングの会場にも流れているのだろう。遠い二つの地で反応が一致する。

 

「じゃあ……イッツ、ショータイムっ!」

 

 黒い布が同時に場所を変えてケースへかけられる。両会場の観客達が固唾を飲んで見守る中、カリオストロのカウントだけが響き渡る。

 

「スリー、ツー、ワン……ゴーっ!」

 

 二つの会場で同時に布がどけられると、地鳴りのような驚きと多少遅れて大歓声と拍手が鳴り響いた。

 

「待ってたよマリア」

「無事に来てくれて嬉しい」

「私もドキドキしたわ」

 

 いかにもな会話だが、実際そうなので笑えない。座標は当日にキャロル達が入念に調べているので問題はないのだが、それでもケースという物の中へ転送させるのは不安が残っていたのである。

 

 こうして大興奮のままライブは再開する。ドライディーヴァの歌声とパフォーマンスに二つの会場は盛り上がり、否応なく会場のボルテージは最高潮へと達していく。

 

「どうなってるのよあれっ! アニメやマンガじゃあるまいし!」

「まぁ、ビッキー達のお仕事関連だろうけどさ」

「私達の知らない方達も増えていましたし、その中のどなたかですよね?」

 

 ライブを楽しみながらも疑問を浮かべるのは響と未来の友人である弓美であった。勿論マリアの瞬間移動の事を言っている。

 同じ事を思っていただろう創世と詩織も頷いていた。ただ、三人は響がギア装者である事を知っているため確実それ関連の何かだと読んではいたが。

 

「あー、えっと」

「ライブが終わったら話してあげるから。今はライブを楽しもうよ。ね?」

 

 響がどうしたものかと困っているのを横目に未来が一番無難な解決策を提示する。一種の先延ばしであるが、未来の言う事ももっともだと思って弓美達はそれ以上の追及はしなかった。

 

 そんな五人を眺め、クリスはセレナと苦笑していた。

 

「ったく、あのバカは。テレポートジェムは一種の機密扱いだって知ってるだろ」

「ふふっ、仕方ないよ。だって、機密であるギアをあの子達は知ってるんでしょ? じゃあ響からすれば話してもいいかもって思うんじゃない?」

「それがバカだって言うんだけどなぁ」

「つい最近、うっかりお友達を部屋へ入れる事になって大慌てしたクリス先輩が言えないと思います」

「デスデス。ガリィに手伝ってもらって掃除したって聞いたデス」

 

 呆れるクリスへ放たれる言葉の矢。それはジト目の調と切歌のものだ。

 そう、クリスはクラスメイトの友人達と卒業旅行の計画が持ち上がり、その話し合いの場として自分の部屋を提供する事になったのだ。

 だが、もうシャトーへの引っ越しを進めており、彼女の借りていた部屋には最低限の家具しかなく、しかも掃除も週に一度となっていたために大慌てで迎える準備をせざるを得なくなった。

 

 その際に手伝ってもらったのがガリィ。それは彼女の受け持ちが掃除である事に加え、その時手が空いていたからである。

 が、クリスはこの時失念していたのだ。そういう事へのガリィの口が軽い事を。なので、クリスのその失態はガリィから他の者達へ今のように伝わってしまう事となったのだった。

 

「くっそぉ、ガリィの奴口が軽すぎるんだよ……」

「だから私に言ってくれればって言ったのに」

「セレナは無理デスよ」

「うん、ガリィはクリス先輩の部屋のスペアキー預かってるから」

「あー、そっか」

 

 会話しつつも彼女達の視線はステージへと注がれている。そして会話もなくステージに集中しているのは初めてこういう場に来た者達だ。

 

「奏さんも翼さんも凄いですっ!」

「マリアもさすがね。伊達に世界の歌姫と呼ばれてないわ」

「アン、そのサイリウムもう光ってないから」

「お待たせ~。間に合ったかしら?」

「ああ、見ての通りなワケダ」

 

 錬金術師組とでも言えばいいのだろうか。キャロル達五人はただただ初めて見るライブの熱に包まれていた。

 エルの両手には赤と青のサイリウムが一本ずつ握られていて、サンジェルマンも同じように持っている。キャロルはマリアが来たのを見て白を増やしていて、プレラーティも同じように三色持っている。

 

 カリオストロは空いていた場所へ座るや、前もって用意していたであろう三色のサイリウムを取り出して光らせた。

 

 そして、実はここにいるのは彼女達だけではない。

 

「かなでー、つばさー、まりあー、がんばれー」

「頑張れ~」

「ティキ、言葉が違うよ、残念ながら」

「そうよ。ここは頑張れって言わずに名前を叫ぶだけでいいのよん」

「そうなの?」

「の?」

 

 ティキと同じような声を出す夢子に了子達が笑みを浮かべる。そこから少し距離を置いた隅の辺りにシキの姿があった。

 

「ごめんなさい。やっぱりどうしても」

「無理もないよ。こっちこそごめん。アンジェ達と同じような感覚で考えてた」

 

 シキの周囲にはヴァネッサ達かつてのパヴァリア組がいた。彼女達はアダムがいるため、彼から距離を取っていたのである。

 

「ウチらも別に嫌ってる訳じゃないんだぜ。ただ……」

「まだ一緒に笑える相手じゃないであります」

「そうだね。ちょっと急ぎ過ぎたみたいだ。エルザもミラもごめんな」

 

 シキがエルザの頭をそっと撫で、ミラへも視線で申し訳なさを伝える。彼の横にエルザは座り、その横がミラアルクでヴァネッサとなっていた。

 そして、シキのもう一方の隣には彼女が座っている。

 

「それぐらいでいいでしょう。そろそろライブも終わりです。今はマリア達のステージを楽しみましょう」

「はい、グランマの言う通りにするであります」

「だな」

「はい」

 

 ナスターシャの優しい声にエルザが真っ先に反応し、ミラアルクとヴァネッサが続く。すっかりエルザからもお祖母ちゃん扱いをされるナスターシャは、やはりかつての厳しさなどが薄れて本来の顔が出てきているのだろう。

 

 一方、発令所ではドライディーヴァのステージを眺めてため息を吐いている者がいた。

 

「あ~あ、本当なら俺達も行けたはずなのになぁ」

「ぼやかないの。見れるんだからいいじゃない」

 

 朔也の言葉にあおいが苦笑しながら注意する。その表情は以前までのものとどこか異なっていた。きっと飲みに行くようになる前なら彼女は苦笑ではなく呆れていたはずだからだ。

 

「そうだぞ。本来なら勤務中に装者のとは言えライブ中継を見るなんて問題だからな」

「それは分かってますけどね? それでも愚痴の一つぐらい言わせてくださいよ」

「一つ許すと二つ三つと言いそうだからよ」

「そういう事だ」

 

 あおいの指摘と弦十郎の同意に朔也は反論する事も出来ず押し黙って項垂れた。それこそが何よりの答えと思い二人は笑う。

 と、そこで姿を見せる者達がいた。ガリィ達である。念のため、装者達代わりに本部に詰めているのだ。今発令所でライブ中継を見ているのは彼女達への配慮と表向きはなっている。

 

「あったかいもの持ってきたわよ」

「おお、すまないな」

「どうぞ、だゾ」

「ありがとう」

「そちらもどうぞ」

「サンキュー」

「派手に盛り上がっているようね」

「ああ、もう終わりも近い。後はアンコールだろうな」

 

 その言葉通り、モニタの向こうでは歌い終えた三人がそれぞれ手を大きく振って袖へとはけて行くのが映っていた。

 

 

 

「さて、準備はいいかい?」

「いつでもいいわ」

「ええ。これが私達にとっての最後の大舞台になる。そこに全力を出し切るための心の準備は出来てるから」

 

 水分補給などを済ませ、三人の歌姫は無言で頷き合うと聞こえてくるアンコールの大合唱をその体に受けるべく歩き出した。

 ステージへ三人が姿を見せると、割れんばかりの大歓声が沸き起こる。だが、それがゆっくりと静かになっていくのを待ってまずは奏が声を発した。

 

「ありがとう。実は、最後の歌を歌う前に聞いて欲しい事がある」

「今日のライブを以って、私達ツヴァイウイングは活動を休止します」

 

 その瞬間大地を揺るがすような悲鳴と困惑の声が上がる。だが、それは次のマリアの言葉でより大きくなる。

 

「私も今日のライブで活動を休止するわ」

 

 最早大混乱である。泣き出す者や呆然とする者、様々な感情が渦を巻き会場を包んでいた。

 当然ではあるが、この時弓美達三人だけでなく響や未来なども大きく驚きシキへ説明を求めていたが、彼は三人の言葉を最後まで聞けば分かると宥めていた。

 

「その、突然の事できっと心が乱れているとは思う。だけど、これだけは分かって欲しい。解散でも停止でもない。あたし達もマリアも休止するだけさ」

「ゆっくり休んだ後、また両翼として羽ばたくのかは分からないけど、その可能性は残したい。それと、私はソロとして活動を続ける事を報告させてもらいます」

 

 その言葉で少しだけ、ほんの少しだけ会場の空気が変わる。それを感じ取り、マリアもまた笑みを浮かべて語りかける。

 

「私も、少しゆっくり考え直したいの。デビューから今まで走り続けてきた。それはそれで楽しかったし得るものも多かった。だけど、当然失ったものや得られなかったものもある。今度は、それを手にして見つめていたいの。そして、時が来れば、また私もみんなの前へ戻ってくるわ。いえ、戻ってきたい」

「ドライディーヴァは、今日で当分お休み。だけどさ、いなくなる訳じゃない。みんなが待っていてくれれば、望み続けてくれれば、必ずいつかまた戻ってくる事を約束するよ」

「ただ、その時がいつになるかは約束出来ない。会場も、もしかしたら小さなライブハウスになるかもしれない。だとしても、これだけは断言します。私達三人がこうしてまた揃って歌う時を作ると」

「そのために、聞いてください。私の故郷の歌です」

「「「Apple」」」

 

 その歌声が流れ出した時、誰もが思い出したのだ。それがどんな時に聞こえた音楽かを。世界が一つになった時、その切っ掛けを作ったメロディだと。

 優しくもどこか儚いそれに誰もが聞き入っていた。それは当然関係者席のシキ達も例外ではない。

 

「……凄いな」

「素敵な歌声……」

「まったくだ。見事なものだね、本当に」

 

 シキの呟きにティキが呼応するように呟き、それにアダムが同調する。他の者達は声さえ出さずに三人の歌声に聴き入っていた。

 

 そしてその歌声がゆっくりと余韻を残して消える。伴奏などもなく、ただのアカペラであったが、何よりも会場の心を掴む歌だった。

 三人が静かに一礼したのを合図に、観客からこの日一番の拍手が送られる。勿論関係者席の響達も同様に。

 

 ドライディーヴァの最初にして最後かもしれないステージは、こうして幕を下ろす。

 

―――はずだった。

 

(時は来た、か)

 

 その声は誰にも聞かれる事なく呟かれる。いや、厳密には一人だけ聞いている者がいた。ただ、その者は聞こえた声に疑問や不安を抱く事なく、ただ不思議そうに声を出すだけ。

 

「う?」

「ん? どうしたの夢子。お腹空いた?」

 

 何もしても言ってもいないのに夢子が声を出した事に気付いた了子が優しく問いかける。が、それに夢子が答える前にその額に謎の紋章のようなものが浮かび上がった。

 

―――邪魔だな。

―――え……?

 

 夢子の声で告げられた言葉に了子は思わず理解が遅れる。次の瞬間、夢子の体から衝撃波が放たれた。だが、それは了子達を傷付ける事なく防がれる。

 

「何とか間に合ったようだ」

「フィーネ、助かりました」

 

 間一髪危険を察知したフィーネが了子と交代し、その力で自身の後方を守っていたのである。

 

「怪我はないかい?」

「さっすがアダム! ティキの大好きな人だけあるわ!」

 

 更にアダムも錬金術で防御していたらしく、ティキが嬉しそうにその体へ抱き着いていた。

 

「こちらも無事だ」

「まったく、せっかくいい気分だったのに」

「台無しなワケダ」

 

 サンジェルマン達三人が響達を守るように防御壁を展開し、こちらも怪我など負った者は一人としていない。

 最後にヴァネッサ達三人を守るようにしていたのは当然彼であった。

 

「シキさん……」

「兄貴、サンキューだぜ」

「こ、怖かったであります」

 

 神の力で防御壁を展開しながらシキは視線の先にいる相手を見つめていた。

 

「ほう、あれを防ぐとはな。思った以上の力は持っているらしい」

 

 シキ達の視線を集めるその相手は、一糸まとわぬ姿の女性だった。それも、不気味な程白い肌をしている。

 

 ただ、その顔はどこか眼鏡のない了子に似ていた。

 

「お前は、お前は一体誰だっ!」

「我か? ふふっ、名乗ってやる義理はないが、まぁ復活を手伝ってくれたのだ。その礼として聞かせてやろう。我が名はシェム・ハ。いや、こちらの方がお前達には馴染みがあろう。カストディアン、だ」

 

 その瞬間、全員が声を失う。いや、シキだけは違った。彼だけはその拳を握りしめていたのだ。

 

「そうかよ。なら、返してもらうぞ! ヴァネッサの時のようにっ!」

「出来るのか? あの時のような手段を、実の娘に」

「っ!?」

 

 放たれた言葉はシキの手から神の力を失わせるに十分だった。ヴァネッサの時の手段とは当然性行為。それが効果があったとはいえ、シキは実の娘とそういう行為が出来る程人として壊れていない。

 

 その間に響達装者はギアを纏っていた。そこで未来までも装者である事を知り、弓美達が小さく驚きを浮かべていたが。

 

「夢子ちゃんから出て行けっ!」

「それは無理と言うものだ。我がこの体を借り受けているのはこの赤子の意思でもある」

「どういう意味だっ! 返答次第じゃ痛い目見てもらうぞ!」

「て言うか、嘘言ってるんじゃねーデスよっ!」

「夢子が貴方なんかに体を渡す訳がない!」

 

 アームドギアを構えるクリス達を見て、シェム・ハは口の端を吊り上げて笑みを浮かべる。

 

「この赤子は、早く大きくなってお前達と話をしたいと願っておった。それをお前達も望んでいたからだ。だが、どう足掻いても体の成長には限度がある。それを我がどうにかしてやると言ったのだ」

 

 告げられた内容は、その場にいた要家の者達を黙らせるのに十分だった。

 知らず夢子に期待と言う名の重圧をかけていたのだと、そう思ったためである。幼いながらも信じられない速度で成長していた夢子に、誰もが無意識の内で願っていたのだ。

 

 早く話が出来るといいな、と。

 

「健気ではないか。お前達の喜ぶ顔や声がこの赤子は嬉しかったのだ。それ故、統一言語を利用して言葉を覚えていったのだからな」

「統一言語を利用?」

「ふっ、どうやら気付いていないようだな。貴様はエンキの器、いやその転生体だ。奴め、我の復活に備えて自身を再生させようとしたのだろう。だが我との戦いで負った傷が原因でそのままとはいかなかったようだ。結果、完全なる転生ではなく自身を基にした存在を作るのがやっとだったのだろう」

「俺が……カストディアン?」

「正確にはその力を持つ存在と言う事だ」

「では、シキはあの方の子供とでも言うのか!」

 

 フィーネの叫びにシェム・ハは小さく頷き、シキを見て不敵に笑う。

 

「無様なものだ。己が何者かも知らず、その遺伝子を人と交配させるなど。まぁ、礼は言おう。おかげで我はこうして復活出来たのだ」

「……まさかっ!? シキさんが妊娠させ辛い能力を持っていたのは、バラルの呪詛のない存在だったからなのですかっ!?」

 

 ナスターシャの驚きにシェム・ハは愉しげに笑い出した。それこそが何よりの答えだった。

 

「そうだ。そやつはエンキと同じでバラルの呪詛とやらを宿しておらん。故に人と交わっても子が出来ぬようになっているのだろうさ。人と交わり子が出来てしまうと、その子には呪詛が不完全な形でしか宿らないからな」

「じゃ、じゃあ何故私が操られたの!」

「お前も似たようなものだ。そやつの力で体を弄られた結果、呪詛が不完全になったようだ。ただ、まさかあのような方法で我を眠らせるとはな。ただ、おかげでこの体へ力を注ぐ事が出来た」

「力を注ぐ……?」

 

 疑問符を浮かべる響だったが、それは誰もが同じだった。そこでシェム・ハは告げる。神の力を流された結果、ヴァネッサは妊娠してもいないのに一時的に母乳が出るようになった事を。

 それはクリスも覚えがあったため疑われる事はなかったが、問題はその後だった。何とシェム・ハはヴァネッサの思考を誘導し、その母乳を夢子へ飲ませて神の力を吸収させていたのだ。

 

 それだけではない。了子やフィーネを使い、同様の事をその前から進めていたのである。そう、子を望むフィーネの気持ちもまた知らず利用されていたのだ。

 

 呆然自失となるフィーネを素早く支える者がいた。その人物は衝撃波で割れた関係者席の窓から現れた。

 

「しっかりして!」

「……マリアか」

 

 そう、突如として起きた関係者席での爆発。それを受け観客達は避難誘導に従って避難を始めており、三人の中で装者である事を知られているマリアだけが真っ先にギアを纏ってここへ来れたのである。

 

 そんなマリアを見てシェム・ハが面白い物を見たかのような顔をした。

 

「ほう、中々変わった物を身に纏っているな」

「貴女は……っ?! 夢子なの!?」

「いかにも。ただ、それはこの体の名だ。我が名はシェム・ハ」

「シェム・ハ? そう。ご丁寧にありがとう。ついでに夢子の体を返してもらえるかしら?」

「出来ぬ相談だ。我はやらねばならぬ事がある」

 

 そう告げるやシェム・ハは右腕を上げてシキへと向ける。

 

「まず、邪魔になるだろう貴様を処分しておこう」

「そうはさせないっ!」

 

 シェム・ハの腕の前に現れるのは響。その拳を握りしめ、シェム・ハの攻撃をさせじと睨み付ける。

 

「出来るのか? 我を傷付ける事は幼子を傷付けると同義だ」

「っ!?」

 

 分かっていても改めて指摘される事で意識してしまう事がある。それはシェム・ハは夢子でもあると言う事。

 ギアを纏った響ならシェム・ハを倒す事が可能だ。その身に宿った神殺しの力がシェム・ハには有効だからである。

 

 ただ、その力は触ったりするだけで効果を発揮する訳ではない。しっかりとその一撃を相手へ叩き込む事で発揮するのである。

 

 動揺する響へシェム・ハは笑みさえ浮かべて両腕を開いて無防備な姿を晒す。

 

「さあ、やってみるがいい。その身に宿した力ならば、我を殺す事も可能であろう。そら、遠慮はいらぬ。我は何もしないでやろう。幼子一人の命で神を殺せるのだ。犠牲とすれば安いものだぞ?」

「っ!? そんなの、そんな事ってないよっ! 夢子ちゃんを犠牲にして掴む平和なんて平和じゃないっ!」

「響……」

 

 目に涙さえ浮かべて頭を左右に振る響に未来が悲しそうにその名を呟く。響の言葉はその場にいる全員の言葉だった。

 夢子を犠牲にして幸せになどなれるはずもない。誰もが夢子の笑顔を、声を覚えているのだ。その思い出が戦意を鈍らせる。気持ちを、覚悟を弱らせる。

 

「皆、無事かっ!」

「待たせたねっ!」

 

 意気消沈する響達。そこへ現れる翼と奏。その視線は当然シェム・ハへと向いて、そしてその正体に気付いて息を呑む。

 

「まだおったか。ぞろぞろと目障りだな」

「そんな……夢子、なのか?」

「嘘だろ……」

 

 思わずアームドギアを落としそうになる二人だったが、そこでシェム・ハは周囲を見渡して頷いた。

 

「これで全部だな。さて、ならば始めるか」

「何をするつもりだ!」

「知れた事。月へ行きバラルの呪詛とやらを無くすのよ。そしてかつて成し遂げられなかった事を今度こそ果たすのだ」

「バラルの呪詛を……無くすだと?」

 

 そのシェム・ハの言葉に真っ先に反応したのは当然サンジェルマンだった。彼女はそれを目標にしていた事があるからなのだが、今回はそれだけではない。

 

「それがなくなれば人は統一言語を取り戻す。そうなって初めて我の目的が達成出来るようになるのだ」

「随分ベラベラと喋ってくれるじゃないか。阻止されるとは思わないかい?」

「お前達にこの体を傷付ける事が出来るのならやってみるといい」

 

 奏の言葉へ即座に返される言葉が持つ意味は重い。何せ相手は生身の上裸なのだ。アームドギアでの一撃が当たれば下手をすれば即死。錬金術も同様だ。

 何をしても夢子を殺してしまう可能性が高い。そう、シェム・ハが夢子の生殺与奪を握っている。そして、夢子からシェム・ハを追い出す術は今の所倫理的に問題がある方法しかない。

 

「何がどうなってるのよ、これ。アニメじゃあるまいし、赤ちゃんが大人になってわけわからない敵になるとか酷いじゃないっ!」

「弓美さん……」

 

 戦う力のある者達が揃って身動き出来ない中、弓美はやるせない怒りを発散するかのように叫んだ。その震える肩へそっと詩織が手を添える。

 

「ヒナ、ビッキーなら倒せるってどういう事?」

 

 そんな中、創世がそっと未来へ近付いて小声で尋ねる。神殺しの力。それを未来は簡潔にこう返したのだ。

 

―――ギアを纏った響だけが、神様を倒す事が出来るんだ。

 

 それがいまいち理解出来ない創世だったが、一番大事な事だけは理解していた。未来が使わなかった表現がある事を。それと、響だけしか現状シェム・ハを名乗った相手を止める事が出来る事も。

 

「もういいだろう。話す事など我にはない。エンキの悪あがきは今は捨て置いてやろう。それより……」

「「「っ?!」」」

 

 シェム・ハが不敵に笑うと同時にその額の紋章らしきものが光る。すると同じものがヴァネッサ達三人の額に浮かび上がった。

 そのまま三人はゆっくりと足を前へと踏み出す。まるでシェム・ハの下へ集うように。

 

「どうしたのエルザ姉さんっ!」

「ミラっ、止まりなさい!」

「行くなヴァネッサっ!」

 

 周囲の止める声にも反応せず、三人はまるで操られるようにシェム・ハの傍へと集まる。そして、その瞬間シェム・ハが無表情で三人の体へその腕を突き入れていったのだ。

 

 あまりの光景に誰もが言葉を失う。だが不思議な事に突き入れた腕を抜いても血が流れる事はなかった。ただし、目を疑いたくなるような光景が広がったのだ。

 

 エルザの頭に以前あったような獣耳が生え尻尾も出現し、ミラアルクの背には蝙蝠を思わせるような翼が現れたのである。

 最後にヴァネッサだが、彼女は外見的に何ら変わったようには見えない。ただ、シキ達一部の者には分かってしまった。彼女から微かに聞こえる駆動音のようなものを。

 

「シェム・ハっ! お前ぇぇぇぇぇっ!」

 

 シキが怒気を放つように神の力を全身に纏わせる。その輝きにシェム・ハは動じる事もなく、ただ無表情のままヴァネッサ達へ目を向けた。

 

「何を怒っている? こやつらの体を力によって変えられる前に戻したようなものだ」

「っ!」

「アナタっ! ダメだっ!」

 

 冷酷に告げられた一言にシキが弾かれるように飛び出す。それを咄嗟に止めようとするフィーネだったが、その目の前でシキの体へシェム・ハの攻撃が放たれた。

 全てがゆっくりと流れるようだった。誰もが息を呑み、シキの体が後方へと戻されるように動いていく。手を伸ばしたフィーネの表情が驚きから悲痛なものへと変化していった。

 

 落下するシキをアダムが受け止めるも、その左胸からは赤いものが流れ出ていた。その赤を見たティキが目に涙をいっぱいに浮かべてシキへと駆け寄る。

 

「シキぃぃぃぃぃっ!」

「ティキ、いらないよ、心配は。必ず助けてみせるさ、この僕が」

 

 止まる事ない流血にアダムが即座に癒しの錬金術を施す。かつては自分を命がけで助けたシキ。その礼を返す時だ。そう思ってアダムは全力での治癒を始める。

 

「これで第一段階は終わった」

 

 シキを一瞥し、シェム・ハは意思のない三人を連れて関係者席から外へと移動する。それを止める事も防ぐ事も出来ず、響達は唇を噛むしかない。

 次第に小さくなっていくシェム・ハ達を追い駆ける事も出来ず、ただその場に立ち尽くしたのだ。その間に走り出す者達がいた。

 

「父さんっ! 父さんっ!」

「嘘だよねっ!? 嘘だって言ってよっ! 父さんっ!!」

 

 エルとキャロルも弾かれるようにシキへと駆け寄り、サンジェルマン達もアダムに手を貸して治癒を始める。

 

「これは……出血が酷い……っ!」

「心臓は動いているがこのままでは不味いワケダ!」

「嫌よシキっ! 死んだら許さないんだからねっ!」

 

 四人の錬金術師が治癒の術を施す中、装者達は本部の弦十郎からの通信を聞いて拳を握りしめていた。

 

「では、おそらく転移したのね?」

『ああ。こちらで追尾していたが、突如として反応が消えた。おそらくだが行先は』

「シャトー、でしょうね。ヴァネッサ達が持ってるテレポートジェムはシャトーか本部の二ヶ所。なら、本部へ行くよりシャトーの方が都合はいいでしょうし」

『こちらもそう読んでいる。実際、もしこちらに来た場合が怖くはあるが……』

「現在本部は移動中。座標が変わっている以上使えないからね」

 

 奏の言う通り、現在本部は移動していてその転移場所となっている部屋も普段とは異なる座標にある。それもあって一先ず本部内への奇襲は避けられていた。

 ただ、シャトーは現在誰もいない状態だったため、確実に占拠されている事が予想される。ガリィ達も本部に詰めていた事が不幸中の幸いとなっていたのである。

 

『一先ずファラ君達にはこのまま本部へ滞在してもらうとして、問題は要か。様子はどうだ?』

 

 弦十郎のその問いかけに少しだけ静寂が続く。次に聞こえてきた声は装者達のものではなかった。

 

「一応出血は止まった。だけど呼吸が弱い。しばらく安静させなければならないだろう」

『そうか。すまないがそちらへ救急隊が到着するまで要を頼む』

「分かっている」

 

 サンジェルマンはそう答えて視線をシキの顔へと向ける。顔色は良くないが何とか持ち直してはいた。ただし、それはサンジェルマン達四人がかりで治癒を施してやっとだ。

 つまり、最悪死んでいた。アダムがいなかったらまず間違いなく、サンジェルマン達の誰かがいないだけでもその可能性は高かっただろう程に。

 

「レティさん、父さんは大丈夫なんですか?」

「……一命は取り留めたワケダが、油断は出来ないワケダ。科学と錬金術の併用なら心配はいらないと思うワケダが……」

「大丈夫よ。きっとその辺りも考えて入院先は考えてくれるわ」

「アダムぅ、シキ、死なないよね?」

「ああ、それは避けるさ、絶対。まだ死んでいいはずはないからね、彼は」

 

 ティキを抱き寄せようとするアダムだったが、その手が血で汚れているためにその動きが止まる。だが、それに気付いたティキが自分からアダムの腕を引き寄せて抱き締めさせる。

 

「ティキ……」

「アダムの手に付いてるのはシキを助けるために付いたカッコイイ証だもの。それならティキの服を染めてもへいき、へっちゃら。やっぱりアダムは最高にカッコイイよ」

「……ありがとう」

 

 重苦しい雰囲気の中、ティキの言葉だけがアダムや他の者達の心を軽くする。

 

 夢子がシェム・ハとなり、ヴァネッサ達はかつての怪物と近しい姿へ戻され連れ去られた。最後にシキが意識不明の重体である。これだけの状況はこれまでにないものだったのだから。

 

「これから、どうする?」

 

 その中でフィーネの問いかけは、途轍もなく重たいものがあった。夢子を取り戻す術はないに等しい。今ある手段は響の神殺しのみ。ただそれは夢子の命と引き換えである。

 もう一つはシキの神の力による手段だが、それは彼が重体の今不可能であり、もし意識を取り戻したとしても実行は出来ないと言ってもいい。

 

 更に、ヴァネッサ達の事もある。シキが戻した体を再び戻すどころかより悪化させた以上、力の使い方や強さはシェム・ハの方が上手である事は疑いようがない。

 

「私は、私は夢子ちゃんにこの拳をぶつける事は出来ません」

「響……」

「ううん、きっとヴァネッサさん達にもです。だって、もう一緒に笑ったりした人達なんだよ? 最初から戦ってた人達じゃないんだ。やっと、やっと幸せになれたのに、こんなのって……ないよっ!」

 

 三人の過ごしてきた状況を少しではあるが聞いている響からすれば、シェム・ハのやった事は到底許せる事ではない。シキの力と三人の想いで成した奇跡を、易々と無駄にしたどころか悪化までさせたのだ。

 怒りと悲しみの気持ちで拳を握る響を未来は黙って見つめる事しか出来ない。弓美達も、かつてのフィーネとの激戦よりも厄介で恐ろしい状況に言葉がなく、それでも響を慰めるようにその傍へと歩み寄った。

 

「響さん、未来さんも、心中お察しします」

「二人にとっては大事な人達を人質に取られたようなもんだもんね」

「ビッキー、ヒナ、力になれそうになくてごめん。だからさ、せめて弱音や愚痴なんかは聞くよ」

「みんな、ありがとう……」

 

 同級生五人組がその友情を確かめ合う横で、悔しげに俯く姿があった。

 

「エルザ、シキさんの子供になれて、嬉しそうに色々話してくれたね」

「デスよ。お父さんとお母さんが出来て、キャロル達みたいな可愛い妹も出来て幸せだって、そう言ってたデス」

 

 エルザと仲良くなっていた調と切歌が揃って拳を握る。施設育ちの二人にはエルザの気持ちが痛い程分かるのだ。

 義理とは言え優しい両親や姉妹が出来る。家族を得る事がどれ程心を強くしまた温めるか。それを思えば、エルザが今後味わう気持ちは言葉に出来ないものだろうとも。

 

「ミラの奴も似たようなもんだ。シキの事を兄貴って呼ぶようになって、昔兄弟が欲しいって思った事を思い出したって言ってたぜ」

「クリス……」

 

 軽い口調でそう告げるクリスを見てセレナが悲しげな顔をした。見るからに無理をしてると分かったのである。本当は叫びたいし喚き散らしたい。だけど、それをしたいのはみな同じと分かっているからこそ、クリスは自分を抑えていた。

 

「どうしてだ? 彼女達はやっと人間としての時間を取り戻したのに、幸せを、権利を取り戻したはずなのに、何故こんな事になる?」

「サンジェルマン……」

「ホントよね。シキが体を戻した事で今回の事に繋がるなら、誰も救われないじゃない」

 

 カリオストロの言葉が誰の胸にも響く。

 良かれと思ってやった事をシェム・ハに利用されてしまったのだ。

 

 夢子など了子が試しにとやった体外受精で誕生した存在である。本来であれば生まれなかった。

 そして夢子が生まれた事が結果的にシェム・ハの復活に繋がっていたのだ。

 

 その事に気付いてナスターシャはそっとフィーネへと近寄った。

 

「フィーネ、了子さんはどうですか?」

「……以前より酷い。今回は夢子をさらわれシキを傷付けられている。その原因は自分だとな。きっと私と代わっていなければ、半狂乱になって喚き散らしていただけでは済まなかっただろう」

「……そうですか」

 

 ナスターシャはフィーネが言わなかっただろう言葉を察して悲痛な表情を浮かべた。自殺。あの結びの言葉でナスターシャはそう気付いたのだ。

 半狂乱になり喚き散らすだけでは終わらない。自分の子が父を殺しかけた。それを夢子が自覚してはいないが、結果的にはそうとも言える状況なのだ。そうなれば妻であり母の了子がどうなるかは、パヴァリアによるシキの誘拐後の彼女を知るナスターシャには容易に想像がついた。

 

「問題があるとすれば、あの三人に自分の意思が戻るか否かね」

 

 マリアが告げた事が意味する内容に翼や奏が頷いた。シェム・ハに操られたままならばいっそ開き直って戦える。だが、もし自意識は残っているが体の自由が利かないとなれば話がややこしい事になる。

 それぐらいにはヴァネッサ達と響達は仲を深めているのだ。何度か言葉を交わし、笑い合い、同じ食事を食べたのだから。

 

「姉さん、せめてヴァネッサさん達だけでも何とかしないと」

「そう、ね。夢子に関しては……」

 

 そこでマリアは言葉を切った。そこが一番問題であり難問だからだ。シェム・ハが体を乗っ取っている以上、助けるためには二つの方法しかない。

 一つはシキがヴァネッサにやったような神の力を利用した強制的にも近い沈静化。もう一つが言わずと知れた響のガングニールによる神殺し。

 

 前者は倫理的に、後者は物理的に問題がある。だがそれ以外の方法が現状ではないのだ。

 それもあってマリアは詳しく話し合うのは止めておくべきと判断した。それに何より、この場の全員を繋いでいるシキが重体なのだ。

 口には出さないがマリアもキャロルのように縋りつきたい気持ちなのである。そして、おそらくそれは彼と関係を持っている女性全員の気持ちだろうとも。

 

「結局はシキなんだよね、あたしらの行動理由は」

 

 小さく噛み締めるように奏が呟いた一言が、やけにマリアの耳には響いた……。

 

 

 

「……本当に、泣きたくなるわね」

 

 どこか投げやりな声が室内に響く。場所はシャトーの一室。そう、ヴァネッサ達三人が与えられている部屋である。そこにヴァネッサの姿があった。

 

 シェム・ハはヴァネッサ達が持っていた転送結晶を使いシャトーへと移動すると、食事などの支度を命じて眠りに就いたのだ。

 当然ヴァネッサ達は逃げ出そうとしたが、ある事に気付いたエルザが涙を浮かべて二人を止めたのだ。

 

―――夢子が一人ぼっちになってしまうのであります。

 

 シェム・ハが体を乗っ取っているとしても、夢子を一人にはさせられない。姉となったエルザだからこその言葉であった。それにヴァネッサとミラアルクも逃げる事を止め、自分達しかいなくなったシャトーで生活する事を受け入れたのである。

 

 今、エルザは冷蔵庫の食糧を確認して食事の用意を始めている。ミラアルクはその手伝いをしている頃だ。

 

 彼女達三人は一言も自分達の体については話さなかった。分かっていたのだ。かつてよりも、いやもう既に人間ではなくなっている事を。

 

 エルザもミラアルクもかつては人外らしい力を使うには機械の力を借りていた。それが、今は自身の体から出現しているのだ。これ以上ない証明である。

 そしてヴァネッサもそうだった。サイボーグではなくアンドロイドと呼んでもいい状態。人間と機械の間ではなく限りなく機械に近い体となっていたのだから。

 

「シキさん……」

 

 胸に去来するのは愛する男の事。初めて恋をし、交わり、子を望んだ相手の事だ。

 

「私達に出来る事は少ないでしょうけど、それでも夢子ちゃんだけは助けてあげたい。相手が何であろうと、それが私達に人としてのあったかさを思い出させてくれたあの人達への恩返しなんだから」

 

 例え、それで我が身を犠牲にするとしても。それだけの悲壮な覚悟を決め、ヴァネッサは立ち上がると部屋を出た。

 

 床の数か所に、水滴を落として……。




世界を自分の思い描くように改造するその目的を果たすため動き出すシェム・ハ。
その手始めに異変が起こるは鎌倉の地、風鳴本家。
そこに眠っていた力を使い、神を語るシェム・ハが笑う。
それを止めようとする響達だったが、その前に立ちはだかるのは、これまででもっとも弱くけれど倒せない三人の敵だった。
淫姫絶頂したいフォギア「XV(X-factor Victims)」

「私さえ、私さえいなかったらっ!」
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