※この作品はR-18です。

淫姫絶頂したいフォギア   作:拙作製造機

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ティキ

元オートスコアラーにしてアダムの秘書をしている少女。
元々は無垢故のアダムの模倣から来る周囲の見下しなどが酷かったが、シキとの触れ合いを通じて変化成長し、優しく素直な性格へと変わった。
アダムの本音を聞いてディバインウェポンとなるも、響達の呼びかけと歌に呼応し正気を取り戻し、改心したアダムの告白を受けて彼を許すなど器としての大きさは並の人間を超えている。
アダムのパートナーを自覚しているが、シキの事も兄や父のように慕っている。


アダム・ヴァイスハウプト

創造主が創りし人類のプロトタイプにしてパヴァリア光明結社の統制局長。
己に代わって創造主に選ばれた人類を見下し、自分が支配する事を考えていた”人でなし”。
ティキさえも道具としか思っておらず、その事で激怒したシキ達によって野望ごとその心を砕かれる。
その後、シキの体を使ったエンキの言葉に迷いを抱き、シキの呼びかけで改心に至った。
現在、彼主導の下パヴァリアは改革を進めており、非人道的な行為などを厳しく取り締まるようになっている。


卑しき錆色に非ず

「姉さんっ!」

「セレナ……それに奏も無事だったのね」

 

 セレナと奏に協力する形でエンキは遺跡内にいる装者達へ中枢部までの道を解放した。まずそこへ現れたのはエルザを伴ったマリア達だった。

 エルザも涙の跡を残しながらも、切歌と調の二人と笑みを見せ合いながらその場へ現れた。

 

「うん、切歌と調、それにエルザも無事で良かった」

「とりあえず合流出来て良かったよ。後は翼達か」

「みんなっ!」

 

 そこへ姿を見せるのはミラアルクを連れた響達だった。彼女達もそこにいる者達の姿に喜びを見せ、駆け寄り笑みを見せ合う。

 ミラアルクもエルザの傍へと駆け寄り、その体を優しく抱き締めた。その姿にその場の全員が笑みを浮かべるも、すぐにある事へ気付いた。

 

「ヴァネッサとは、会っていないの?」

 

 マリアの問いかけに響達だけでなく奏達も俯くしかない。エルザとミラアルクもいる以上、ここにヴァネッサも来ている事は明白である。にも関わらず、ここへ姿を見せていない上に誰も会っていない。

 

「……ヴァネッサは、多分来れないであります」

「ああ、きっと自分を責めてるんだぜ」

 

 エルザとミラアルクの言葉はとても重い物を宿していた。それを誰よりも知るのはこの場にいる装者達だった。

 

 重苦しい沈黙が場を包む。だが、それを破る者がここにいる。

 

「申し訳ないが今はシェム・ハの事をどうにかするべきだ。君達はここからシェム・ハのいる星へ戻る術はないのか?」

「あったらとっくに帰ってるっての」

「ここには地球へ行く術はない?」

「残念ながらそれはない」

 

 素気無く告げられた言葉に誰もが肩を落とす。いかなシンフォギアとはいえ大気圏突入能力などは通常ではない。エクスドライブを発現させるにはフォニックゲインが足りない上に確実性さえもないのが現状。

 打つ手なし。その言葉がその場の全員に過ぎり下を向くも、それでも俯き続ける訳にはいかないとすぐに顔を上げる。

 

「月から地球までの距離はおよそ38万キロ。まずはその距離をどうにかしないといけないわね」

 

 そのマリアの言葉に響達が思い悩む中、何かに気付いてミラアルクとエルザが息を呑んだ。

 

「ヴァネッサさえ、ヴァネッサさえいれば何とか出来るんだぜっ!」

「どういう意味だ?」

「今の私め達は、三人揃っていればある事が出来るであります! それなら、ギリギリ地球まで帰る道を作り出せるはずであります!」

「ああ、38万キロの道を、な」

 

 微かな希望が見出された頃、ヴァネッサは一人通路に座って何をするでもなく佇んでいた。

 

「……死ぬ事も出来ず、生きていればシェム・ハに利用されるかもしれない。私は、どうしたらいいのかしら?」

 

 答えが返ってくるはずもない問いかけ。それでもせずにはいられない。今のヴァネッサはどうする事も出来なくなっていた。

 生きる事も死ぬ事も決められず、ただ時間が流れるのを待つだけ。もう戻れない、戻らない日々を思って、彼女はただ目を閉じる事しか出来ない。

 

 と、そんな彼女の耳に聞こえてくる足音があった。それに彼女は目を開けて顔を動かす。

 

「……え?」

 

 響達の中の誰かか、あるいはミラアルクやエルザのどちらかと思っていたヴァネッサは、見えてきた相手に目を疑った。すると、相手もヴァネッサが見ている事に気付いたのだろう。小さく笑みを浮かべて彼女へ手を振ったのだ。

 

 そしてヴァネッサの腕が片方なくなっている事に気付くや、慌てて走り出した。その姿と反応が、ヴァネッサに見ている相手が本物なのだと瞬時に理解させると同時に熱いものを流させる。

 

「うわっ、これは酷いな。すぐ治すから待ってて」

「っ……はい、シキさん。お願いします」

 

 シキの手から放たれる光がヴァネッサの腕を元に戻していく。その温もりに涙は止まる事なく流れ、ヴァネッサの心をゆっくりと動かし始める。

 

「これでいい。ヴァネッサ、まだ体の方は待ってもらえるかい? 何があるか分からないから、君のその力も貸して欲しい」

「でも、私はシェム・ハに二回も操られて」

「うん、だからだよ。多分だけど、シェム・ハは君に何らかの固執をしている。その理由は分からないけど、三度目があるとすればそれを今度はこっちが利用したい」

「利用、ですか?」

「ああ。その、説明するのは長くなるからこれだけ頷いてくれ。ヴァネッサ」

「はい」

「その、抱かせてくれ」

「……えっ?」

 

 聞き間違いかと思うヴァネッサに対して、シキはどこか真剣な表情で彼女へ迫る。そして両肩をしっかりと掴むとキスをしてすぐにこう告げたのだ。

 

「時間がないんだ。頼む」

 

 その男らしい表情と有無を言わさぬ声に、ヴァネッサは二度目の恋をした……。

 

 

 

「んんっ! ああっ!」

 

 久しぶりと言ってもいいシキさんとのセックス。まさか月の遺跡でなんて思いもしなかった。乳首を弄られながら神の力を注がれる事で私の体は一瞬にしてオマンコ―――シキさんに教えてもらったセックスの別名―――出来る状態にされて、シキさんの逞しく力強いチンポ―――これもシキさんに教わった言い方―――をねじ込まれた。

 

 体中を電流のような快楽が走り、忘れかけていた幸せを思い出させてくれる。

 

「ヴァネッサのオマンコ、きつさが増してるなぁ。もしかして、これも体が変わったせいかな?」

「か、かもしれません。もしかしたら処女の状態だったのかも。あんっ、も、もうっ、何でチンポ反応させるんですかぁ!」

「いや、だって、考えてみたら俺ってヴァネッサの初めて二回ももらえたんだってさ。凄い幸せだよ」

 

 そう言いながら私の体をそっと抱きしめてくれるシキに心がときめく。向かい合うように抱かれてるせいもあって、私の視線は常にシキさんと絡んでる。

 

「……私も、シキさんに二回もヴァージンあげられて幸せです」

「ヴァネッサ……」

 

 そこでそっとキスをする。優しいキスだけど、とっても心と体をあったかくしてくれる。シェム・ハから死んだと聞かされた時はどうしようと思った。風鳴司令から生きていると聞いてほっとした。

 そして、こうして肌を重ねて思った。もう私はこの人がいないと生きていけないって。ミラアルクちゃんとエルザちゃんには悪いけど、今の私にはシキさんこそが全てなの。

 

「シキさん、私の人生全てアナタに委ねます。それが、私の生きる道です」

「……分かった。絶対に後悔させないよ」

 

 凛々しい表情で断言するシキさんを見て私は気付いた。何かが前と違うって。はっきりと分からないけど、多分前よりも頼もしさみたいなのが増してると、思う。

 

 今度はシキさんからキス。だけど、それは舌を入れるディープキス。でも分かる。これは性欲からくるキスじゃない。これは私を強く愛したいっていう気持ちからのキスだって。

 舌を絡めているけどシキさんの手は私の事を抱き締めるだけ。胸を触る事もなければ乳首を弄る事もない。本当に愛情からの行為だって、そう思えるし伝わる。

 

 でも、今の私はそれだけじゃ足りない。もっと、もっと求めて欲しい。私は人間で女だって自覚出来る程抱いて欲しい。

 

「シキさん、お願いがあります」

「言わなくても分かるよ。ヴァネッサが俺を強く抱き着いてきたからね」

「……じゃあ」

「うん。でも、ごめん。時間はあまりかけられないから一気にいくよ」

「え? それってどういうっ?!」

 

 シキさんの両手が私の胸を掴んで神の力を急激に流し始めた。それと共にシキさんが私の口をキスで塞ぐ。それに私の体が一瞬にして快感を覚えて絶頂した。

 頭が真っ白になって何も考えられなくなる。その次の瞬間だった。私の中へシキさんの遺伝子が、精液がたっぷりと注がれたのは。

 

(あれ……意識が……遠のいてく……?)

 

 そう思った時には、もう目の前が真っ暗だった。でも、次に意識を取り戻した時、シキさんは私を抱き締めて微笑みこう言ってくれた。

 

―――もう大丈夫。俺のヴァネッサには、例え神様だろうと好きに出来ないようにしたから。

 

 優しい笑みと力強い声、そして頼もしい腕に抱かれて私は思った。ああ、この人を選んで良かったって。きっと世界中探しても、神様を相手にこう言って説得力があるのはシキさんぐらいだろうから。

 

 

 

 何だ? 一瞬あの怪物(バケモノ)の一人との繋がりが切れたような気がしたな。それを詳しく確認しようにも、これだけ羽虫のように周囲を煩く飛び回られてはそれだけの余裕が作れん。

 

「どこを見ているっ!」

「ちっ……」

 

 このように僅かに意識を逸らしただけでこちらへ迫ってくるとはな。それにしても、先程から奴らの必死さは何だ? 我への攻撃を更に苛烈にしてきてはいるが、攻撃力がその分落ちている事に気付いていないのか?

 

 だとすれば、それだけ焦っているという事だろう。ただ、こちらもそろそろ体が休眠したがっている。所詮は赤子か。仕方がない。

 

「少々計画を早めるか」

 

 あの怪物(バケモノ)共は二人が中枢に、もう一人がそちらへ向かっている。私の影響力を強く行使できるのはあの機械仕掛けの方だ。残りの二人ではやや支配に難がある。

 しかも、今や心を強く持っている以上あの二人を制御するのはちと意識を集中せねばならん。こうなれば、予め仕込んでおいた奴を使う方が確実というものだ。

 

「そろそろお前達との遊戯も終わりとしよう。我にはやらねばならん事が多いのでな」

 

 この身に纏うファウストローブとやらは中々人が作った物にしては使えるな。賢者の石と言う名の物へ我が力を注いで強化した物だが、どうしてどうして思った以上に力となってくれているぞ。

 

 周囲に展開している錬金術師共へ向かって力を放射する。それらを回避するために動く者と防ぐ者とに分かれたところで私はその場から転移する。

 着いたのはユグドラシルの中。ふと見ればあの人間の腕が転がっていた。可能ならばここで体を休めたいところだが、思った以上に錬金術師共が邪魔をしてくる以上そうも言ってられん。

 

「こんな事なら怪物(バケモノ)共の二人はこちらへ残すべきだったか」

 

 装者共をまとめて月へ飛ばすには餌が多い方がいいと思っての処置だったが、こうなると手駒がいないのは痛いな。

 

「まあいい。奴らも一旦退くだろう。今の内にまずは邪魔なバラルの呪詛を……」

 

 意識を向けてあの機械仕掛けへとシンクロする。どうやら中枢へと辿り着いたらしい。目の前にはにっくきエンキの姿が見える。奴め、やはり自身の人格を使って我の復活を阻止していたか。

 だが、さすがに我がこの機械仕掛けに我自身を仕込んでいるとは思うまい。周囲の者共も警戒どころか注意さえしていないか。

 

 これ以上ない状況、という訳だ。ならばここで動くとしよう。ついでにその場ごと我の邪魔をする者共を一掃してくれる。

 

「「っ」」

 

 よし、これでいい。最早あの機械仕掛けの怪物(バケモノ)は我の支配下だ。何をしようと止める事は出来ぬ。あの神殺しとやらがその手を薄汚れたオイル(褪せた血)に染める事が出来れば話は別だがな。

 

「ヴァネッサ? どうしたでありますか?」

「っ!? 不味いんだぜ! ヴァネッサがシェム・ハにまた乗っ取られたっ!」

 

 すぐに気取られたが構わん。この体は機械仕掛け。それ故いくらでもやりようはある。

 

「お願いっ! 私を止めてっ!」

 

 意識だけは残してやろう。せめてもの餞別だ。己が体が人類を包む呪いを壊す瞬間を見届けるがいい。

 

「響ちゃんっ! お願いっ! 早く!」

「で、でもっ……」

「私を人でいさせてっ! 人に害為す怪物にしないでぇ!」

「っ?! あああああっ!」

 

 神殺しめ、意外と決断が早いな。だが、もう遅い。その拳が届く前にその腕を飛ばして、神殺しをすり抜けエンキの人格が宿った中枢へと接続、即座に我がそれを乗っ取ってやる。

 あの機械仕掛けの怪物(バケモノ)はその腹部を砕かれていたのが見えた。もうあれに用はないので構わぬ。さて、これで邪魔な呪詛は……何っ?!

 

「これでよしっと」

「あ、ありがとうございます、シキさん」

「どうしてシェム・ハがヴァネッサばかりに執着したのかがこれで分かったよ。サイボーグボディだから細工が簡単だったんだ。で、狙いは最初からここだったんだな」

 

 な、何故だ! 何故あの者がここにいる!?

 

「シキさん、それより今は!」

「っとそうだった! これで……エンキっ!」

 

 なっ、これは……奴の力が……増している? 我が……逆に侵蝕されている……っ!? このエンキは……罠か……っ!

 

 

 

「……侵入したシェム・ハは全てこちらに取り込んだ。来ると分かっていれば対応は可能だったが、要シキの援護があったのも大きい。シェム・ハがお前の存在に動揺したのを突く事が出来たからな」

 

 エンキがそう言って俺達に告げるとやっとみんなから安堵の息が出た。いやぁ、俺がヴァネッサにシェム・ハが入れ込んでるような気がしたから探ってみたら、何かよく分からない感じがするプログラムみたいなのがあったんだよなぁ。

 で、分からないって事は良くない事だろうと踏んで、それまでの流れから、それがシェム・ハがここぞと言う時にヴァネッサを使う理由なんだと読んで、ヴァネッサに一芝居頼んだって訳。

 

 シェム・ハがヴァネッサを乗っ取っても彼女の体は運の良い事にサイボーグ。腹部を砕かれたから即死って訳じゃない。俺がすぐに駆けつけて治してしまえばいいだけ。

 

 エンキへは、まず中枢近くまで来た辺りでヴァネッサに目を閉じてもらって、その間に奏達を含めて軽い打ち合わせと言うか報告をして、シェム・ハがハッキングを仕掛けてくる事を告げて対策してもらったと言う訳。

 それだけじゃ不安もあるから俺が神の力でエンキの援護をする事も決めて、何が起きてもいい様にしていれば予想通りの流れとなった。

 

「これでシェム・ハが復活する事は出来なくなった訳か」

「いえ、完全にという訳ではないわ。呪詛がある限り、と注釈をつけるべきね」

「それなんだけど、シキさん、聞いて欲しい事が」

「呪詛があると俺と子供が出来ないって奴だよな? それなら俺に考えがある」

 

 セレナの言葉を遮って、俺はエンキへと向き直る。

 

「シェム・ハの事を何とかしたら、呪詛を解除する事は可能かな?」

「……そもそもそれが不可能だから呪詛がある」

「もしもの話だ。今聞きたいのは現実がどうこうじゃない。もしその限りなく不可能に近い事が実現出来たらの答えだ」

 

 俺がそう迫るとエンキは目を閉じて僅かに考え込んだ。そしてゆっくり目を開くと俺の目を見つめて口を開く。

 

「そんな事がもし出来たら、呪詛は存在意義を失う。なら、それを続ける意味はない」

「分かった。絶対何とかしてみせる」

 

 アンジェの時は呪詛の意味を知らなかった。だから統一言語ってものを誤解していたけど、真実を知った今ならむしろあっても意味がないと思える。

 ただし、シェム・ハの事を何とか出来たらだ。でも必ず何とかしないといけない。俺の奥さん達がそれで思い悩んでいるし、一人など心に深い傷を負っているんだから。

 

「それで、ここからどうやって地球に帰るんだ?」

 

 今は考え事をしていられない。地球じゃシェム・ハを相手にアンジェ達が戦ってくれている。すぐに戻らないといけない。

 

 するとミラがヴァネッサとエルザを見て凛々しい表情を見せたんだ。

 

 

 

「ヴァネッサ、アレをやる時だぜ!」

「月から地球まで38万キロ。なら、私め達のアレなら」

「そうね……。ミラアルクちゃん、エルザちゃん、やるわよっ!」

 

 響達を囲むように三人は位置取り、頷き合って息を吐いた。疑問符を浮かべるシキ達だが、ヴァネッサ達を信頼し何かするでもなく彼女達の動きを待った。

 

「忌まわしい今の体だからこそっ!」

「役に立つ事があるんだぜっ!」

「今の私め達は卑しき錆色に非ずっ!」

「「「この流れる血は、気高き人としての(あか)い色! 例え体は怪物でも、心だけは人間のままでっ!」」」

 

 その三人の紅の絆(ノーブルレッド)の誓いにシキ達が頷いた。そんな彼らがいるからこそ、三人もまた怪物にならずに済んだ。

 人を人足らしめるのは人と繋がればこそ。だから人と人の間と書いて人間と読む。ヴァネッサ達はまさしくそうだったのだ。シキ達と関わり繋がる事で人間であり続けられたのだから。

 

 三人の力が地球への道を作り出す。皮肉にもシェム・ハが彼女達を完全な怪物とした事でその作り出したものは制限時間のない道へと変わったのだ。

 ダイダロスの迷宮と呼ばれるはずのそれは、むしろアリアドネの糸としてシキ達を地球へと向かわせる。そしてシキはその道中で装者達へその身に宿した神の力を照射した。

 

「みんな、これを受け取ってくれ」

「あっ……これって……神の力?」

「これが神の力か……」

「シキ……あんた……」

「んだよ、このあったかさは。あの調神社の時以上だぜ」

「うん、あの時よりも強くてあったかい」

「体中から元気がみなぎるデスよ!」

「疲れも吹き飛んじゃうね」

「でもエクスドライブには届かない、か」

「じゃあ、絶唱のエネルギーを加えたらどうですか?」

 

 その未来の言葉に全員が頷いた。愛する男がくれた光がその身を包んでいる今なら、絶唱さえも命がけにはならないと知っているのだ。

 それよりも、愛する男が託してくれたあったかさを無駄にしたくないという想いの方が強い。だから彼女達は迷う事無く歌い始める。

 

 それは、かつては死と隣り合わせの歌。だが、シキがそれを変えた。彼の力を、愛を受ければ、それは命を賭した歌ではなく命を繋ぐ歌となったのだ。

 

「力強い歌声ね……」

「ああ、聞いてるこっちも勇気づけられる感じだぜ」

「当然であります。みんなの歌は、誰かを守るための歌でありますっ!」

「そうだね。いつだってみんなはその歌で何かを、誰かを守ってきたんだ」

 

 誰よりも装者達の傍でその姿を見てきたシキ。その言葉には、眼差しには、これまで隣り合って支える事が出来なかった事への悔しさと寂しさがあり、同時に、これまでの戦いでの彼女達を知るからこその誇りと嬉しさが宿っていた。

 

 絶唱のフォニックゲインと神の力による輝きが九人の体を包んで隠す。そのまま彼女達は速度を上げて進み始めた。

 

「不味いっ! 三人共、俺に掴まってっ! さすがに宇宙空間で放り出されたらどうなるか分からないから!」

「「「はい(ああ)っ!」」」

 

 シキが三人を抱き締めるようにしてその体を加速させる。それよりも速く九つの光は進んで行く。

 

 その頃、シェム・ハのいるユグドラシルを見つめ、アダム達はその体を休めていた。

 

「悔しいね、これは何とも。絶好の機会なんだけど、攻め入るには、今こそ」

「風鳴司令の読み通り、向こうは長時間の戦闘が出来ないワケダ」

「夢子の体だもの。どれだけ頑張ったって赤ちゃんなのよ、元々」

「体力は我々よりはない。ただ、こちらも全力を出し切れない分、消耗が激しい」

「申し訳ありません。私達も飛行出来れば良かったのですが……」

「派手な能力には、地味な制約や反動がつきもの。マスターが許可を出すとは思えない」

「ったく、こんな事ならオプションでフライトユニットでも用意してもらえば良かったわ」

「アン達ばっかりに頑張らせてごめんだゾ」

 

 肩を落とすミカを見てアダム達が小さく笑みを浮かべて首を横に振った。

 

「気にしないでいいよ。役に立ってるさ、君達は」

「そうよん。ミカ達の援護で何度かあーし達も危ないところ助けられてるの」

「ああ、シェム・ハも私達へ意識を向けなければならないからな。そちらの援護は本当に助かっている」

「むしろこちらこそ飛び回る中を注意して援護させて申し訳ないと思うワケダ」

 

 そう、縦横無尽に飛び回るシェム・ハに対抗して動き続けるアダム達。その援護は一つ間違えればフレンドリーファイアとなりかねない。それでも、ファラ達は一度として誤射する事なく援護射撃を実行していたのだ。

 

『聞こえるか? 今、キャロル君から連絡があった。何とかしてシェム・ハをシャトーへ連れ込めないかと言っているが、どうだ?』

 

 その弦十郎からの問いかけにアダムでさえ苦い顔をした。動きを止める事さえも出来ないのに、その身柄を転送させるのはより難しいと分かっているからである。

 ただ、それを弦十郎も承知の上で聞いているとも分かっていた。だからこそ、少しだけ沈黙した後でアダムが息を吐いた。

 

「やってみせよう。ただ、無理だよ、何度もは」

『ああ、分かっている。そして、故にその一度を必ず掴んでくれるともな』

「ふっ、我々をその気にさせるのが上手いワケダ。見習って欲しいものだな、局長にも」

「そうね。でも、いいじゃない。気の遣える局長なんてらしくないもの」

「酷いじゃないか、随分と。僕だって、遣えるよ、気ぐらい」

「それが空回るから私達は不満を持つのです。まぁ、最近はティキがそれを補っているのでいいですが」

 

 話している内に重たい雰囲気が多少薄れてきたと気付き、サンジェルマンは笑みを浮かべた。その切っ掛けはアダムのスコア達への労いであり、より効果を高めたのは弦十郎の言葉だと分かったからだ。

 

(成程。組織の長としての振る舞い方が局長にも出てきたのは彼の影響か)

 

 シキを通じて繋がった二つの組織の長同士。その関係は、ゆっくりと知り合いから友人と呼べるものへ近付いているのだが、それをサンジェルマンが知るのはもう少し後となる。

 

 アダム達の前へ再びシェム・ハが姿を見せたのは、彼らが少しだけ笑みを見せたその時だった。

 

「我を謀るとはやってくれる。見直したぞ人間共。その褒美だ。せめて苦しまず死ぬがいい」

「っ! 散れっ!」

 

 サンジェルマンの言葉を聞く前に全員がその場から離れていた。すぐさまアダムがシェム・ハへと向かっていき、後を追うようにサンジェルマン達も飛び立つ。

 そんな四人を援護しようと空を見上げたファラ達だったが、そこでふとある事に気付いて目を凝らした。

 

「……何、あれ?」

「何か空からこちらへ向かってきているような……」

「ふぃ~ふ~み~……九つだゾ!」

「それにあの輝き……色……派手な帰還ねっ!」

 

 九つの流れ星はその軌道を途中で変えてシェム・ハへと向かっていく。その意味を理解し四人は笑みを浮かべて叫んだ。

 

「「「「シンフォギアっ!」」」」

 

 その声に呼応するように九つの輝きはシェム・ハの周囲へと降り立つ。その姿はセミエクスドライブと言うべき状態だ。翼はあるが形状が大きく変化している訳ではない。

 ただ、そのギアは輝きを宿していて、本来のセミエクスドライブとは異なる事を示していた。九人に取り囲まれる形となったシェム・ハだったが、それでもその表情に焦りや不安はなかった。

 

「ほう、月から帰ってくるとはな。だが、そんな姿になったところで我を倒せるとでも思っているのか?」

「私達は倒そうなんて思ってないっ! ただ夢子ちゃんを返してもらうだけだっ!」

 

 響の言葉に誰もが頷く。大事なのは夢子の無事。それ以外にないと言外に言い切ったのだ。

 ただ、そんな人間の傲慢とも取れる発言をシェム・ハが許せるはずもない。見下すように口の端を吊り上げ、自らを取り囲む装者達を見回した。

 

「我を倒さずこの体を取り戻すだと? 我も見くびられたものだ。その物言い、後悔させてやるっ!」

「来るぞっ!」

 

 奏の声で響達が散開する。シェム・ハの攻撃がそのすぐ後を追うように放たれた。追尾するように響達を追い駆ける光線。

 それを響は握った拳で迎撃する。神殺しの力がシェム・ハの力を殺し無力化するように光線を散らした。それだけではない。奏達も手にしたアームドギアによる攻撃でシェム・ハの光線を防ぐあるいは捌いたのだ。

 

 それは、彼女達の体に宿った神の力によるもの。いや、シキの愛の力だ。同じ力同士がぶつかれば、勝つのはその質量の多い方になる。ならば、人の愛を宿している分だけ装者達の方が強い力と言えた。

 

「馬鹿な……我の力を上回るだと?」

「シンフォギアっ! シェム・ハの体を何とかして取り押さえてくれ! 夢子とシェム・ハの分離をキャロルとエルが可能にしてくれるっ!」

「あーし達は転送の準備しておくわ!」

「すまないがそちらだけで頼むワケダっ!」

 

 サンジェルマン達の言葉にそれぞれが深く頷いた。シェム・ハの撃退方法が見えた今、九人の心は一つ。

 

「「「「「「「「「任された(デス)っ!」」」」」」」」」

「調子に乗るなっ!」

 

 ぶつかり合い火花を散らす神の力。それを眺め、アダムは何かに気付いて視線を上へ向ける。

 

「……思い出すね、色々と。そうだったよ、僕の時も」

 

 きらりと光るそれを見つけ、アダムは自分が敗北した時を思い出していた。あの時も九つの女性達が自分の目と注意を惹いて、それをどうにかする事だけしか考えていなかった。

 それをやってのけた時には、もう自分は詰んでいたのだ。一番見下していたはずの、装者でさえない人間の手で。

 

「ただ今の彼には少々重りがついてるようだ。僕に引き受けられるか分からないが、行くだけ行こうか、受け取りに」

 

 そう呟いてアダムは一人密かに上昇を開始、シェム・ハ達が戦う遥か上空へと向かって行った。

 

 セミエクスドライブは飛行能力を有しただけの通常ギアと言ってもいい。だが、神の力を纏った事により普段以上の力を発揮する事が出来ていた。

 ただ、それでもシェム・ハには届かない。相殺できる分サンジェルマン達よりは多少マシだが、どうしても一撃を加える事は出来ないままだったのだ。

 

 特に響はそれが顕著に出ていた。神殺しを発動させるにはその拳でシェム・ハを殴ればいい。だが、それをすれば確実に夢子の体にも影響が出る。

 いくら神の力で成長させられているとはいえ、また生後一年にも満たない赤子相手だ。その体へ全力の一撃など当てればどうなるか分からない。その恐怖と不安がここぞという時の響の攻撃を鈍らせていたのだ。

 

 だが、一人だけシェム・ハを僅かではあるが警戒させている者がいた。

 

「おらぁ!」

「くっ……」

 

 鋭い槍により一撃がシェム・ハの頬を掠める。奏だけはシェム・ハを殺しても構わないと思える程の気迫で攻撃していたのだ。

 それは、奏なりの覚悟から来る行動。シキが目を覚まさなければ夢子を殺してでもシェム・ハを止める。その決意はシキが目覚めた今でも消える事なく彼女の中にあったのだ。

 

(こいつはあたしらが夢子を殺す事はしないと思ってる。だから余裕がなくならない。だから、あたしだけでも本気で攻撃して余裕を崩してやらないとダメだっ! マリアっ! 翼っ! あんた達なら分かってくれるだろ!)

「夢子の体を盾にしてれば安心だって思うのはここまでさっ! あたしは少なくても夢子を人殺しにするぐらいなら、あたしがこの手を血に染める方を選ぶよっ!」

 

 その言い方でクリスは悟る。奏があの時の覚悟をまだ貫こうとしていると。最悪の場合、夢子の手で誰かをシェム・ハが殺すとなったら、奏は迷う事無くその槍でシェム・ハごと夢子を貫くつもりだ。

 そう察したクリスは周囲へ聞こえる大きな声で叫んだ。

 

―――夢子を殺したくないのはみんな同じだっ! だからこそ、その手を血で染められる前にあたしらで止めるしかねーんだよっ! 殺したくないからこそ殺すつもりでやらなきゃあの神様気取りは止まらねーぞっ!

 

 鬼気迫る表情でそう言い放つとクリスはそれまで控えていたミサイル攻撃を開始する。それは、今言い放った言葉を肯定する一撃となった。

 

「マリアっ!」

「ええっ!」

 

 そのミサイルがシェム・ハへ殺到していくのを見て、翼とマリアが意を決した。その手にしたアームドギアへ力を込め、それまでよりも半歩踏み込むように攻撃するようになったのだ。

 

「……やってやるデスよ。夢子はまだ赤ちゃんデス! その手で誰かを殺すなんて事、背負わせる訳にはいかないデスっ!」

「うんっ! もし背負うのなら、先に生まれた私達が代わりにっ!」

 

 エルザの涙を見た切歌と調は分かったのだ。エルザでさえ自分達を殺しかけた事をあそこまで気にしたのだ。なら、夢子ならどうなるか。またその母である了子は、父のシキはどうするのか。

 流れる涙があるなら、せめてその涙が少なくなるようにする。流れる血もそれと同じだ。ただ、二人は可能な限りその流れるものを出したくないのだ。

 

 例えその結果、自分達の手が血で染まるとしても。

 

「そんな事言わないのっ! でも、だからこそなんだね……っ!」

 

 切歌と調の言葉に反射的に声を出すセレナだが、その内に秘めた想いへも気付き瞳を潤ませる。今の彼女は戦う事から逃げる事はしない。そして、それを年下の者がするのであれば自分がその代わりにと思う程の強さを持っている。

 

 故にセレナは切歌と調を下がらせようとはしない。ただ、二人がその手で幼い命を奪わないで済むように自分がと、そう思ってシェム・ハへ向かって行くのみであった。

 

「響、どうするの?」

 

 そんな中、未来は響へ問いかけた。誰もが最悪の状況を考え、その手を血に染めるかもしれないと覚悟していると知って。

 

「……決まってるよ。私は、私はやっぱり最後までこの手を握り締め続けたくない。そうしなくていい可能性を信じ続ける。諦めないよ、最後まで」

 

 そう告げて響はその真っ直ぐな眼差しでシェム・ハを見つめた。正確には、その体の持ち主である夢子を、だろう。

 

「だから未来、手を貸して。一人で届かないものも、二人でなら」

「そう、だね。うん、精一杯伸ばそう。二人でなら、きっと届く」

「うんっ!」

 

 響はやはりその手を血で染める事を良しとは出来ない。それに仲間達もだ。誰一人血を流す事も流させる事もせず事態を終わらせる。そんな夢物語を実現するために、彼女は未来と共にシェム・ハへ向かって行く。

 

 そんな装者達に遂にシェム・ハが苛立ちを見せた。七人による殺しかねない攻撃の数々と、響と未来による神殺しと凶払いの力に余裕が消えたのである。

 

「鬱陶しいぞっ! シンフォギアっ!」

 

 全方位への神の力による放射攻撃。それに九人の装者達が守りに入る。が、それを待っていたかのように凄まじい速度でシェム・ハへ迫る者がいた。

 

「もらったよっ!」

「っ!? 失敗作が図に乗るなぁぁぁぁっ!」

 

 自身を拘束しようとするアダムへシェム・ハは咄嗟に光線を放つ。その一撃がアダムを捉えるも、彼はその一撃を全力で防ごうと両手をかざす。

 展開される防壁に神の力が激突し激しい光を生んだ。その眩しさの先にシェム・ハは見たのだ。そう、自分を見つめるヴァネッサ達を。ただ、滞空行動を取るヴァネッサにしがみつくエルザだけでミラアルクは見えない。

 

「どういう事だ?」

 

 と、シェム・ハの意識が一瞬ではあるがアダムから逸れた瞬間だった。

 

「これを喰らえだぜっ!」

「なっ……」

 

 アダムの背中からミラアルクが顔を出し、シェム・ハへその瞳に宿した力を叩きつけたのである。無論シェム・ハを操る事は出来ないが、その視界や思考を僅かではあるが乱す事は可能だ。

 何せ今のミラアルクの能力は、シェム・ハによって本物の怪物に相応しいものとなっていたのだから。

 

「ぐっ……小癪な真似を……っ!」

 

 目を庇うように手で隠してシェム・ハが体勢を崩したその瞬間だった。その体を後ろから何者かが羽交い絞めしたのは。

 

「な、何者だっ!」

 

 だがシェム・ハにはそれが装者ではない事が分かっていた。そしてアダムではない事も。何故なら、彼女の中で眠る夢子が一気に反応したからだ。

 

「夢子の父親だっ!」

 

 そしてその名乗りこそがトドメとなる。一気にシェム・ハの中で夢子が目覚め泣き出したのだ。神の力をシェム・ハへ流し込みながらシキは夢子へと想いを使って呼びかける。

 焦って大きくならなくていい。まだ話が出来なくても構わない。ただ一緒にいてくれるだけでいいんだと。その想いが力となって流れ込む。それはあのヴァネッサの時と同じ状況だ。

 

―――夢子っ! もう大丈夫だ! 父さんと一緒にみんなの、母さんのところへ帰ろうっ!

―――とーさんっ! とーさんっ!

 

 シェム・ハが一つだけ見くびっていた事があるとすれば、それは赤子の感情の爆発力だろう。本来赤子は言葉を使えないため、感情表現の多くを泣き声で代用するのだ。

 空腹や排便をした事からの不快感、はたまた眠るための場所へ移動させて欲しいなど、それらは多岐に渡る。そのため、赤子の泣き声は大きくて響く。

 

 その泣き声がシェム・ハの脳内にこれでもかと響き渡ったのだ。

 

「ぐっ……こ、これは……」

「シェム・ハっ! 夢子を返してもらうぞっ!」

 

 シキは自身の神の力をありったけシェム・ハへ注いでいた。自分からそれがなくなっても構わないとばかりに。そうしてでも彼は夢子を元に戻したかったのだ。

 

「そ、その力を全て失ってもいいのか!?」

「こんなもん、夢子に比べるだけの価値もないっ!」

 

 迷う事なく即座に言い返してシキは更に神の力を流し込んだ。

 

「夢子っ! 父さんにおかえりって言わせてくれっ! 頼むっ!」

―――とーさんっ! とーさんっ!

「がっ……このままでは……ああっ!」

 

 もし仮に夢子が赤子ではなくせめて物心ついた年頃ならば、シェム・ハも打つ手はあっただろう。苦しむ姿で夢子の声を使いシキの精神を乱す事が出来ただろうからだ。

 だが、赤子の夢子がシキの精神を乱す事を言えるはずはない。つまり、この時点でシェム・ハが打てる手は皆無だった。

 

「シキっ、そのまま押さえていてくれ!」

「プレラーティ、どう?」

『これで……大丈夫なワケダ! すぐそちらへ行く!』

 

 本部へと戻っていたプレラーティはエルと協力しシャトー用の転送結晶へ細工をしていた。それは、今までとは異なる場所への転送を行うためだ。

 今、シャトーではキャロル達が一回限りの好機を掴むために神経を鋭くしてその時を待っている。神を名乗るシェム・ハ。その企みごと夢子から叩き出すために。

 

「シキさん……」

 

 響はシェム・ハを羽交い絞めにしたまま神の力を流し続けるシキを見つめ、その拳を握りしめていた。これまで、彼女はどんな相手であれ最後にはその手を開いて繋ごうとしてきた。

 

 だが、今回はそう出来ないとどこかで思い始めていたのだ。

 

 シェム・ハはよりにもよってまだ一歳にも満たない夢子を利用した。更にシキによって体を戻してもらったヴァネッサ達を以前よりも酷い状態へと変えた。

 トドメに、シキを躊躇いなく殺そうとしたのである。ここまでやった相手には、さすがの響もその手を開いて差し伸ばす事は躊躇われたのだ。

 

(どうしたらいいんだろう? 酷い事をしたから、シキさんを殺そうとしたから、手を繋がないっていうのは、良いのかな?)

 

 アダムも酷い事をしたが、その時はティキという存在が思っていた事もあり、その処遇を彼女へ委ねるという点でシキ達は一致していた。

 だがしかし、シェム・ハにはそんな相手さえもいない。それが響を迷わせる理由の一つ。シェム・ハは誰からも必要とされていないという、悲しい事実だった。

 

「響……その手、開くかどうかで迷ってるんでしょ?」

「……うん。未来、私は……どうしたらいいかな?」

 

 そう言っている間も響の視線の先では、シキが神の力を流してシェム・ハの中の夢子へ呼びかけ続けていた。その光景を見つめ、響は未だ拳を開く事が出来ないでいた。

 未来もそんな響の拳を見つめて目を閉じると、小さく深呼吸をしてから目を開けてこう告げた。

 

「絶望と希望があったら、響はどっちを選ぶの?」

「絶望と希望……」

「そう。私は、アンさんから聞いたんだ。響がそんな問いかけをしたって。なら、答えは響の中にあるはずだよ。私に言えるのはそれだけ」

 

 そっと響の拳を包む未来の手。その温もりに響も目を閉じて深呼吸一つ。それだけでもう今までの迷いは晴れた。

 

「未来、私、行くよ。この手で希望を掴んでくる」

「うん、行ってらっしゃい」

「行ってきますっ!」

 

 握っていた拳を開き、響はシェム・ハとシキへ向かって行く。丁度それと時を同じくしてプレラーティが転送結晶を手にその場へ到着していた。

 

「待たせたワケダ!」

「いや、間に合っている。それが?」

「ああ。これを使えば一気にシャトーの正面へご招待というワケダ」

「じゃ、あーしがこれを」

「いや、私に任せてくれ。神の力と呪詛に関わる今回の件、その幕引きをさせて欲しい」

 

 サンジェルマンの言葉に、カリオストロもプレラーティも分かっていたかのように苦笑し頷いた。こうしてサンジェルマンもシェム・ハとシキへと接近していく。

 

「シキさんっ!」

「シキっ!」

「響? アンジェも……」

 

 響はシェム・ハの両手を掴み、サンジェルマンはシキへ見えるように転送結晶を見せた。その行動だけでシキは何かを察し、力強く頷いて二人を見た。

 

 そのすぐ後、四人はその場から消える。周囲の願いを一身に背負うように……。

 

 

 

「っ! キャロルっ!」

「分かっている! 博士、今だっ!」

「分かっていますよっ! まずは分析からですねっ!」

 

 シャトーの正面へ転送されてきたシキ達を確認してエルが叫ぶと、それを合図にキャロルとウェルがシャトーを起動させる。その機能を使い、シェム・ハと夢子の違いを探って解剖出来るようにするためだ。

 

 その間、響はシェム・ハと無謀とも言える会話を行っていた。

 

「お願いです。夢子ちゃんを返してください。そして、もうこんな事は止めて欲しいんです」

「何を馬鹿な事を。我は人を今よりももっと強い生命へと変える。そして、痛みや苦しみから解放してやらねばならんのだ」

「人間を人間じゃなくして、それで味わう痛みや苦しみはどうするんですか!」

「人の姿は我らが決めた。なら、我がそれを変えればそれが人の姿や形となる」

「そんな……」

 

 話にならない。聞いていたサンジェルマンはそう思った。そして、その姿はシキと出会わなければ自分がなっていたかもしれない可能性であるとも感じ取っていた。

 

「人が味わう痛みや苦しみとは、相互理解の事か?」

「そうだ。人は統一言語という形で繋がっても、互いを理解し分かり合う事が出来なかった。いや、繋がったからこそ余計に理解が難しかったのかもしれぬ。知的生命体は、必ずその苦しみを抱えて悩み迷い傷付いていく。我は、それをどうにかしようと思っていた。そこで人類をもっと強く変えようと決意した」

「それがあの塔みたいな奴を使ってやろうとしてた事か」

「そうだ。人類を次なる高みへと引き上げ、私はこの星を捨てた同胞を追って」

「誰かそんな事を頼んだ?」

「……何?」

 

 サンジェルマンの放った一言にシェム・ハが虚を突かれた顔をした。ただ、シキと響はそんなサンジェルマンと気持ちが同じなのか驚きもしていない。

 サンジェルマンはかつてシキに言われた事を思い出していた。統一言語があれば本当に人は相互理解し争いや貧富の差による差別などから解放され続けるのかと。

 

 その答えを今、彼女はシェム・ハの口から聞いたと思っていたのだ。統一言語があっても人は結局相互理解を出来た訳ではないのだと。

 だから彼女はかつての自分の決断に安堵していた。バラルの呪詛を無くさないで良かった。神の力による干渉を認めないで良かったと。

 

「そちらから見れば、我々は未熟で不完全な生命なのだろう。だが、逆に言えばまだ完熟する余地があり、完全へ至る可能性が残っていると言えるのではないか?」

「有り得ない。我は見てきた。この数千年にも及ぶ時間の中、お前達は同じ過ちを繰り返し続けている」

「だとしてもっ! まったく変化していないとは言えないんじゃないですか? シェム・ハさんから見て、私達人類は、生まれた時から今まで何も変わっていませんか?」

 

 響の強くしっかりとした声にシェム・ハは僅かではあるが息を呑んだ。気圧されたのではない。ただ、彼女から感じる生命の息吹の力強さに一瞬ではあるが見入ったのだ。

 

「……良くない方にばかり変わっている」

「じゃ、良い方に変わる可能性は十分あるって事ですよね? まったく変わらなかったのなら希望はないかもしれないけど、何か一つでも変わったのなら変化していく可能性はたしかにあるって事ですから」

 

 その断言にシキだけでなくサンジェルマンも苦笑する。屁理屈ではある。だが、たしかにその可能性は否定出来ないのだ。肝心なのは変化する可能性があるかないかであり、それがどちらかなのかはこの際問題ではないからだ。

 

「それでも我は」

「認めないと言うならそれでもいい。ただ、私達もただ黙って変えられるのを受け入れはしない」

「はい。そっちの考える人間らしさと私達の考える人間らしさは違います。私達は、例え迷っても悔やんでも悩んでも、傷付きながらでも誰かと分かり合おうとする生き方を選びたいんです」

「そうさ。俺達は例え数千年数万年かかっても、僅かな可能性を信じてもがき足掻く。神様の力なんかで一足飛びに上手い事やったら、それからは神様の力なしじゃ何も出来ないようになっちゃうからな」

 

 人はそんなに強くないと知っているからこそ、シキ達はシェム・ハへ告げるのだ。人は人のままで、人の力だけで足掻かなければ意味がないのだと。

 そんな時、シャトーによるシェム・ハの分析が終わり、夢子である人の要素とそれ以外のシェム・ハと思われる要素が判別された。

 

「よしっ! これでやれるはずだ!」

「父さんっ! 今からシェム・ハから夢子を助け出しますっ!」

『ちょっと待ってっ!』

 

 返ってきた響の言葉にキャロルとエルは思わず顔を見合わせる。ただ、ウェルだけは何かを気付いたようにため息を吐いたが。

 

―――まぁた始まりましたか。あの融合症例のKYが。

 

 きっとその呟きをマリア達が聞けばそれはお前だと声を揃えて告げただろう。ウェルの呟きが聞こえていない二人は、ただ響がそう言っただけである程度の察しを付けられるぐらいには彼女の事を知っていた。

 

「キャロル、これって……」

「ああ。響はあいつとも手を繋ごうとするつもりだ」

「手を繋ぐぅ? はっ! 相変わらず甘ちゃんですねぇ。乳幼児を使い、月遺跡へ侵入して呪詛を解除しようとした相手ですよ? 人を人とも思わず利用する相手と手を繋ぐ? どこまで夢を見てるんですか、あの小娘は!」

「「響(さん)はそういう奴(人)だ(です)」」

 

 ウェルへそう言い切って二人は小さく笑みを浮かべる。響がらしさを失っていない事を好ましく思って。

 

 その響は自分の言葉に怪訝な表情を見せるシェム・ハの目をしっかりと見据えていた。

 

「シェム・ハさん、どうすれば私達の言葉を信じてくれますか?」

「信じる? 何の証拠も根拠もない言葉を信じる必要があるか?」

「ならこう言えばどうだ? このままじゃ、お前は夢子の中から消えてそのやろうとしていた事が果たせないで終わる。そうなれば結局俺達が変化するかしないかと見届けるしかない訳だ」

「信じる術を自ら提示すれば、シェム・ハにその野望を果たす可能性が出てくると言う訳か。どうするんだ、神を自称するものよ」

「……面白い。我に賭けを持ちかけているのか」

「いや、互いの主張の違いを何とかしようってとこだ。俺達は人の可能性を信じてる。それをお前に認めさせて終わらせたい。で、お前は人の可能性なんかないって思ってる。その信念のぶつかり合い辺りが一番良い表現だろ」

「なら、良くない表現ならば何だ?」

「決まってる。意地の張り合いだよ。何せ、結局どっちが正しいかはおのずと分かる事なんだ。ただ、その結果が分かるまでどれだけ時間がかかるか分からないだけでさ」

 

 シキの苦笑しながらの言い方にシェム・ハは何も言い返す事が出来ず、ただ黙る事しか出来なかった。この時だけは、彼女よりもシキの方が正しく現状を認識していると分かったために。

 人類は変化出来る。これをシェム・ハも肯定した以上、シキの言う事がもっとも正しい意見だと彼女も分かっていたのだ。

 

 正直に言えば、このままならシェム・ハの敗北は確定である。例え今後人類の中に潜み続けても、復活に必要な神の力を集める事は叶わず、鍵である腕輪を破壊されている以上シキが死ねばもう事実上復活は不可能。

 

 そもそも月遺跡の破壊もしくは呪詛の解除に失敗した時点でシェム・ハの復活はないようなものだ。

 

(何を考えているか知らぬが、我に勝てる千載一遇の好機を逃した事、後悔するがいい)

「よかろう。ならば我と戦い証明してみせよ。今の人類には神の干渉など必要ない程の強さがあるのだと」

 

 シェム・ハがそう思っているのも知らず、その言葉を受けシキは彼女から少し離れた場所へ移動すると、響とサンジェルマンを抱き締めた。

 

「シキさん……」

「シキ……」

「ただいま、二人共。それと、心配かけてごめん」

 

 響達とは月遺跡で少しだけ会話出来たものの抱擁などは出来なかったため、シキは万感の思いを込めて二人の女性を抱き締めた。

 

 二人はその逞しさと温もりに甘えるように顔を埋め、同時に顔を上げてシキを見つめた。微かに濡れた瞳がシキの心を掴む。

 

「……目を閉じて」

 

 それだけで二人は嬉しそうに微笑み目を閉じる。すると、まずサンジェルマンの唇が優しく塞がれる。その温もりと感触にサンジェルマンが幸せに打ち震える中、響の唇が優しく塞がれた。

 

(あぁ……やっぱり私はもうこの人がいないとダメ。キス一つで今までの疲れが消え失せていくのだから……)

(シキさんのキス、優しくて甘いよぉ。もっと、もっとキスして抱き締めて欲しいってなっちゃう……)

 

 蕩けた表情と目でシキに無言の訴えを行う二人。それは、完全に雌のそれだった。

 

「……舌、出して」

「「えー……」」

 

 シキも久しぶりの再会に加え先程までの決死の行動からくる反動で性欲が高まっており、響とサンジェルマンがギアとローブを纏った状態での誘う表情に我慢出来ず、ディープキスなら構わないと謎の判断を下した。

 

 さて、その光景を見せられ絶句していたのはシェム・ハである。どう見ても無防備なのだ。まるでいつでも攻撃してくれと言わんばかりの行為に、さすがのシェム・ハもその真意を探りかねていたのである。

 

(まぁいい。今の内に我も体を休めるとしよう……)

 

 夢子の体は先程の大泣きで消耗し切っており、シェム・ハの力を以ってしても最早継戦は不可能なぐらいには疲れ切っていたのだ。

 シェム・ハはゆっくりとその場から移動し、シャトーの屋根部分へ降りるとすぐに横になって目を閉じた。

 

 そんな事にも気付かず、シキ達はその舌を絡ませる事に集中していた。響とサンジェルマンなど、シキの温もりを遮る形になっているギアとローブを邪魔だと思い始めるぐらいに体を密着させていたのだ。

 

「シキさぁん……もっとしてくださぁい」

「ズルいぞ立花響っ。私だってもっとしたいのぉ」

「響もアンジェもここまでだよ。俺だってもっとしたいけど、これ以上は……さ」

 

 そこで二人はシキの股間へ目をやった。そこには立派に主張をしているものがある。それに二人は無意識で唾を飲んだ。

 

「っと、到着したワケダ」

「あら? ちょっとシェム・ハが休憩中なんだけど?」

 

 聞こえた声にシキ達が振り向くと、そこにはカリオストロ達がいた。それだけではない。奏達やヴァネッサ達までいたのだ。アダムを除いたあの場にいた全員である。

 

「みんなっ!」

「「「「「「「「「「「「「「シキ(さん)っ!」」」」」」」」」」」」」

 

 シキの声に表情を輝かせ、女性達はすぐさま彼の傍へと文字通り飛んでいく。その頃シャトー内にもファラ達が帰還を果たしてキャロル達にその無事を報告していた。

 

「そう、良かった。ファラ達が無事で」

「ところでマスター、良かったのですか?」

「シェム・ハ、夢子の体使ったままだゾ?」

「えっと、あれは父さん達がシェム・ハと決着を着けるらしくて」

「どうせあのお話大好きが切っ掛けでしょ」

「相変わらず地味な行動で派手な結果を出すわね、響は」

「困ったものですよ。おかげで僕が英雄になり損ねました。ったく、だから嫌いなんだあの小娘は」

 

 毒づくウェルだが、それに対して誰も何も言わなかった。シキがいればこう言っただろうと思ったからである。

 

―――人の好き嫌いは誰かが口出しして直るものじゃないからね。それも個人の主義主張だし、それを誰かに強要しないなら許されるものだよ。

 

 ただ、キャロル達はウェルの性格などをこの短期間である程度理解したからこそ、彼に文句を言うという無駄な労力を惜しんだという事もあったのだが。

 

 同じ頃、シャトーの外でもスコア達と似たような事を奏達から言われ、響がやや困り顔で説明していた。シキとサンジェルマンもそれに同意し、更にシキはこう締め括ったのだ。

 

「俺達人間の意地と強さ、そして可能性を神様に見せてやりたいんだ。人間は、神様に縋らなきゃいけない程弱くはないって」

 

 そのシキらしい考えに誰もが呆れ、ため息を吐き、そして苦笑して頷いた。が、そこでシキが尋ねたのだ。何故アダムがいないのかを。

 それに対する答えはある意味当然のものだった。シェム・ハとの戦いで常に最前線に居続けたアダムは、その疲労などが最高潮に達したために本部内で休養しているのだと。

 

 特に彼の奮戦を見ていたサンジェルマンは納得するしかなく、シキへ彼の活躍を簡単に説明し理解を求めた。

 

「あー……それじゃあ仕方ないか。で、何か伝言とかない?」

「鋭いわねぇ。一言だけよ。僕の分まで頼む」

「僕の分まで、か。うん、たしかに引き受けた。アダムの分まで俺がシェム・ハに一発キツイの叩き込んでやるさ」

「それはいいが、そんな事可能なのか? 未だに奴は夢子の体を使っているワケダが?」

「実は、俺一度シェム・ハに会ってるんだ。フィーネと繋がってる時に、さ」

 

 そこでシキは告げる。シェム・ハに自分が厄介だと言われた事を。それを今までは分からないでいたが、一つの可能性に気付いてその答えを得た事も。

 

「俺との間に出来た子は呪詛が不完全になる。これってさ、もしかすると呪詛以外にも意味があるんじゃないか? 要は、シェム・ハの因子が半減するって感じで」

 

 一瞬シキの言った言葉の意味が分からなかった周囲も、すぐにその意味に気付いて息を呑んだ。

 

「ま、まさか、シェム・ハがシキさんを殺そうとしたのって……」

「そうか。シキの遺伝子を持った人間が増えれば増えるだけシェム・ハの復活は遠のく。呪詛が不完全になったとしても神の力が、それもかなりの量がなければ復活は不可能。なら、時間がかかるかもしれないけど、いつか人類はシェム・ハを駆逐し統一言語を取り戻せる」

「だから急いで復活しようとしたんだ。あれ? でもそれなら余計ヴァネッサさんの体で復活すれば良かったんじゃ?」

「きっと、私では神の力を復活するまで溜められないと思ったのでしょうね。あと、神の力を注がれた後の母乳はおそらくその力が増幅されていたんだと思うわ」

「そっか。だから夢子ちゃんは了子さんのおっぱいをよく飲むようになったんだ」

 

 これまでの事とシキだけ明確に殺そうとした事。それに納得出来る理由がついて誰もが視線をシェム・ハへ向ける。彼女は何とシャトーを床代わりに眠っていたのだ。

 

「……豪胆と言うべきか」

「いや、それぐらいあいつも疲れがピークだったんだよ。切羽詰まってたんだろうさ」

「あー……じゃあきっと俺が夢子を泣かせたからだろうな。ぎゃんぎゃん泣いて俺の事呼んでくれてた」

 

 あまり大泣きしない夢子しか知らないため、誰もがその言葉に驚きそして納得した。ここにいる者で泣いた事のない者はいない。それだけ泣くと言う行為は疲れるのだ。それが激情からでもそうでなくても。

 

「ところで響?」

「ふぇ?」

「サンジェルマン、ちょ~っと聞きたいんだけど?」

「な、何だ?」

「アニキもだぜ。ウチらに教えて欲しい事があるんだぜ」

「……どうぞ」

「「「「「「「「「「「「「みんなが来るまで何してた(でありますか)?」」」」」」」」」」」」

「「「ごめんなさい。少しイチャイチャしてました」」」

 

 そこから始まる集中砲火ならぬ集中口火。特にシキは全員から愛情のこもった文句や不満をぶつけられる事となる。

 それらを鎮静化するため、シキは一人一人で誠心誠意を持って謝り、宥め、抱擁やキスをする事となった。

 

 ただ、エルザとミラアルクは妻でない故に頬となったが、二人して初めての異性からキスと抱擁に内心ドキドキしていた。

 

(お、お義父さんにキスしてもらったであります! え、えへへ……心がフワフワするでありますよ)

(な、何かウチも流れでアニキにキスされたけど、あ、案外悪くないもんだぜ。……アニキって、思ったより男らしい体してんだなぁ……)

 

 幸せを噛み締めるかのようなエルザと照れくさそうに頬を掻くミラアルク。そんな二人をヴァネッサは母親のような眼差しで見つめていた。

 

(エルザちゃんもすっかりシキさんの子供って感じね。ミラアルクちゃんも嬉しそうで良かったぁ)

 

 その後ろでは、シキがサンジェルマン達三人へも神の力を放射してローブの強化を図っていた。

 

「……これでどうかな?」

「ああ、あの時と同じ、いやそれ以上の温もりを感じる」

「神の力が強くなってるとはどういうワケダ?」

「全部片付いたら、ちゃんと教えてくれるわよね?」

「ああ。奏達は、エクスドライブは無理そうか?」

「だね。感覚的にはいけそうなんだけど……」

「うん、何か弾け切れないような感覚がする」

 

 翼の表現に装者全員が頷いた。彼女達は何か内側から溢れそうな力を感じ取っている。だが、それがどうしても外へ出てくれないのだ。

 それを聞いてシキは腕を組んで考え、ある結論を導き出す。それは過去二度に渡って起きたエクスドライブの発現状態。

 

「みんな、一度ギアを展開し直したらどうだろう。だって、これまでのエクスドライブってギアを纏い直した時になってたじゃないか」

 

 その指摘に響達は顔を見合わせ、やってみる価値はあると思って頷き合う。どこかで直感していたのだ。エクスドライブは段階を得て至るものではなく、最初から限界を超えた時に発現するものなのだと。

 

 シキが神の力で足場を展開し、そこへ九人の戦姫は降り立つ。ギアを消し、普段の姿へ戻った彼女達はその胸の歌を、聖詠を無意識に紡ぎ出した。

 

 まるでそれ自体を歌うように。

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl」

「Balwisyall nescell gungnir tron」

「Imyuteus amenohabakiri tron」

「Killter Ichaival tron」

 

 優しい声で紡がれる聖詠と共にエクスドライブ状態のギアを纏っていく奏達。だが、彼女達はどこかでまだ弾け切っていないエネルギーを感じていた。

 しかし、それを解放するのは今ではない。そう思って四人は目を閉じてその時を待つ。それを受けた形でマリアが口を開く。

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

「Seilien coffin airgat-lamh tron」

「Zeios igalima raizen tron」

「Various shul shagana tron」

「Rei shen shou jing rei zizzl」

 

 残る五人もエクスドライブギアを纏う。すると、それを待っていたかのようにゆっくりと奏達が目を開ける。そして彼女達は目を合わせて頷いた。

 

 Gatrandis babel ziggurad edenal

 Emustrolronzen fine el baral zizzl

 Gatrandis babel ziggurad edenal

 Emustrolronzen fine el zizzl

 

 紡がれ始めたのは絶唱。それも聖詠と同じく優しい声と響きで歌われる。まるでこれを最後の絶唱とするかのように。

 その歌を聞いてシェム・ハがゆっくりと目を覚ます。その視線が淡く輝く九人の装者を捉え、静かに目を見開かせていく。

 

「……な、何だあの力は? あの光は何だ? 我さえも知らぬものを、奴らは持っていると言うのか……っ!」

 

 未知なるものへの恐怖をシェム・ハが初めて感じ取っている中、絶唱を紡ぐ声は穏やかに消えて行く。だが、その次の瞬間九つの光が柱となって天へ向かって放たれる。

 その輝きに、力強さに、美しさに、誰もが言葉を無くして空を見上げた。そしてその九つの光の柱は、歌声と共に消し飛ばされる。

 

「「「「「「「「「激唱っ! 旋律っ! 歌になれぇぇぇぇぇっ!!」」」」」」」」」

 

 そこにいたのは、エクスドライブであってエクスドライブではないギアを纏った戦姫達。ギアの一部にイグナイトの黒やアピーズの白を残し、それぞれのイメージカラーを主体としたギアを纏う九人の戦姫がいたのだ。

 

 今、新しい時代を告げる風が吹き荒れようとしていた。神の庇護を受けていた時代は終わり、人が人だけの力で生きて行く時代を迎えるために。

 ”アクシアの風”が高らかに鳴り響く。九つの歌声による旋律。それは、まさしく神さえも知らない埒外の力を引き出すものだった。

 

 かつて、スープもドリンクさえもない状態で響達はスープを摂取したサンジェルマン達を圧倒した事がある。それは、これによるものだった。

 神の力さえも凌駕する埒外の力。人だけが至れる”奇跡”という名のヒカリ。希望の輝きが、今、この場に顕現する。

 

「面白い……我に恐怖を与えるとはな。褒めてやろう。お前達は、いや貴様達は我が倒すに相応しいとっ!」

 

 視線の先にいる装者達を見つめてシェム・ハが吠える。それに呼応するようにサンジェルマン達が響達の周囲へ移動し身構えた。

 

 人と神の最終決戦が、始まろうとしていた……。




どうして争うのか? どうして傷付けあうのか? その答えを、彼女は出した。
個があるから対立し衝突する。ならば、個ではなく全とすればいいと。
だが、それは諦めの答え。希望ではなく絶望の答え。
だからこそ、彼女へ彼らはこう告げるのだ。
淫姫絶頂したいフォギア”ハジメニコトバアリキ”

―――だとしてもっ!
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