※この作品はR-18です。

淫姫絶頂したいフォギア   作:拙作製造機

80 / 83
お久しぶりの更新です。
まぁ、こうなりました。そして例によってまたも次回更新は未定(汗

本当に申し訳ないです。


団欒の中で

「「写真の事、ごめんなさい」」

 

 俺の目の前には頭を下げる立花さんと小日向さんがいた。

 どうも俺が持たせた写真を向こうのクリス達が放してくれないらしく、そのままこちらへやってきた事を申し訳なく思ってるようだ。

 

「いいよいいよ。あれはまた焼き増しをすればいいからさ」

 

 こういうところは本当にそっくりだ。そう思って小さく苦笑する。

 俺の言葉に二人がゆっくりと頭を上げた。それを見て気になっていた事を聞いてみる事に。

 

「えっと、つまりそっちにとってあの写真はそんなに有り得ないものって事だよね?」

 

 無言で頷く二人に俺は予想が間違ってない事を察した。

 

「じゃあ、答えは言わなくていいよ。今から俺が勝手に独り言を言うから」

「「え?」」

 

 理解出来ないみたいな顔をする二人を無視するように、俺は小さく深呼吸をしてから口を開く。

 

「セレナと奏が亡くなってるからだね」

「「っ」」

「フィーネと了子もだ。マムに、初日の反応を見るにウェルさんもか。キャロル達はもう聞いてるから、アンジェ達三人にアダムとティキもだし、そこから考えればヴァネッサ達三人もそうか……」

 

 二人の顔を見つめながら淡々と告げていく。俺の挙げる名前に少しだけ目を伏せていくのでどうやら想像通りらしい。

 生命のスープがない以上、その死を回避出来なかった存在は分かり易いからだ。

 きっとこれで写真に写ってる中で亡くなってるだろう人達は終わりかね。

 

「あ、あの……」

 

 そう思っていたら、立花さんが言い出し辛そうに手をおそるおそる挙げる。

 

「どうかしたかい?」

「……翼さんのお父さんも、です」

「っ!? 八紘さんがっ!?」

 

 信じられない。どうして八紘さんが亡くなるんだ?

 そんな状況こっちじゃ欠片もなかった。

 

「もしかして訃堂さん絡み?」

 

 俺の中で唯一浮かぶのはそれぐらいだ。

 

「え、えっと、そうとも言える、のかな?」

「ど、どういう事?」

 

 考えてみればこっちとはキャロルが関わるところから違ってるんだ。

 ならそこからの展開も違って当然だ。それでも、それでも俺は平行世界の義父の死を知りたいと思った。

 

「こっちでは、シェム・ハは私の体を使って復活したんです。で、その裏で動いていたのが」

「訃堂さん、か。でもそれでどうして……」

「翼さんが、操られて訃堂さんって人の側にいっちゃって……」

 

 簡単に二人が教えてくれた内容に俺は納得するしかなかった。

 訃堂さんが神の力へ興味を持っていたのはよく知ってたからだ。

 だけど、まさか改造されてた頃のミラにそんな能力があったなんてなぁ。

 

「…………その、ありがとう。こんな話し難い事を話してくれて」

 

 理由はどうであれ、未成年の女の子に話させるには重たい内容を話させてしまった。

 俺もまだまだ大人になれてないな、やっぱり。

 

「いえ、気持ちは、分かるつもりです」

「要さんにとっては、翼さんのお父さんは義理のお父さんですから」

「そう言ってくれると助かるよ。でも、そっかぁ。これは翼には伝えられないな……」

 

 今や八紘さんだけでなく訃堂さんとも関係修復が始まりかけてる翼だ。

 そこへこの話は悪影響を与えかねない。

 

「それなんですけど……」

「ん? まだ何かあったかな?」

 

 何か不思議そうな小日向さんへそう尋ねると、彼女はある意味当然の事を聞いてきた。

 

 それは訃堂さんの事。どうやら向こうの訃堂さんはこちらよりも積極的に神の力へ関わったらしい。

 そうなれば今の俺はあの人がどう動くかがある程度分かる。

 あの日から時折キャロル達を連れて会いに行き、関わりを持っているからだ。

 

 で、その事などを話していくと二人が目に見えて驚きを浮かべていく。

 特に俺のスマホにある訃堂さんが夢子を抱いている画像を見せた時なんかは、二人して目を大きく見開いて驚いてた。

 

「す、凄い……」

「ふ、普通のおじいちゃんだ……」

「今も神の力を諦めてないし、それを護国にって思ってるけど、それでも少しだけこっちの事を認めてくれつつあるんだ。血が繋がらないひ孫も出来た事で、こんな風に普通の姿を見せてくれるようにもなったし」

「「そうなんだ……」」

 

 まぁあまり笑顔は見せてくれないけど。

 ただ、それも俺が見てるとこでは、らしい。エルが言うには彼女達しかいない時は時々笑顔も見せてくれるんだそうだ。

 エルザやキャロルも証言してくれたので間違いない。孫に甘いのがおじいちゃんおばあちゃんとは昔から言うが、まさか訃堂さんもとは正直驚きだった。

 

「でも、納得出来るよ。訃堂さん、こっちではシェム・ハ相手に生身で戦ってるし」

「「生身で……」」

「うん。それにしても、そうか……。八紘さんが、翼を庇って……」

 

 どれだけこちらが運が良かったかを実感させられる。

 何せ、一つ間違えば訃堂さんと八紘さんは完全に仲違いしていた可能性があるんだ。

 今は俺を間に入れてるからそうでもないけど、八紘さんの護国は人を守る事で、訃堂さんの護国は国を守る事と元々相反してる。

 それ故に俺が二人の仲介者となって双方の意見を相手方へ伝える役割を果たしてる。訃堂さんもあの一件で俺の事を少しは認めてくれてるようで、意見を聞くだけはしてくれるし。

 

 ……あとは、時々殴られても俺が耐えられるようになってる事もあるかも。

 いやぁ、人間って適応する生き物だよ、ホント。

 つい最近だと意識飛ばなくなってきてるしね。訃堂さんが「成長する的と言うのも一興か」なんてとてもイイ笑顔で殴ってきたのは怖かったけど。

 

「うん、分かった。じゃあ、あの写真を持たせたのはそういう意味じゃ失敗だったね」

「そんな事は……」

「いや、分かり易いと思って渡したけど、考えてみれば亡くなった大事な人達が写ってるなんて辛いよ。ごめん。俺も配慮が足らなかった」

 

 深々と頭を下げる。何せ八紘さんが亡くなった事を聞いた俺でさえかなり衝撃だったんだ。

 そんなのが何度も連続して襲ってきたらと思うと、精神的にキツイ以外の何物でもない。

 

「い、いえ、そんな事ないです! その、あの写真を見て、私は嬉しかったから……」

「響……」

 

 頭の上から聞こえる声は、噛み締めるようなものだった。

 多分立花さんはこっちの響と一緒で全員と手を繋ぎたいって思ってるはずだ。

 なら、きっとキャロルやアンジェ、ヴァネッサなど多くの繋げなかった手があるんだろう。

 

「私が、私達が繋げなかった手、届かなかった手が届く世界があるんだって。あんなにもあったかい光景が出来るんだって、見せてもらえたから」

「そう、だね。みんな笑ってて、温かかった。とっても、素敵な写真だった」

「うん。だから、要さん、頭上げてください。きっと翼さん達もあの写真を見れて嬉しかったはずです」

「……ありがとう、立花さん、小日向さん」

 

 ゆっくりと頭を上げると、そこには優しい笑みを浮かべる二人の少女。

 俺が愛している二人とそっくりな顔だけど、どことなくこちらの方があどけなさを感じる気がする。

 

 で、そこからは二人からこちらで起きてる事件などはないかと聞かれたので、例のノイズ反応について話した。

 

「「謎のノイズ反応?」」

「そう。三秒ぐらいで消えて、そこへ行っても何かが炭化した痕跡さえもないっていう謎の反応」

「カルマ・ノイズ、じゃないだろうけど……」

「そうだね。もしそうなら怖い事になるし」

「かるまのいず?」

 

 一体何だ、そのノイズ。

 

「えっと、その説明は全員へしたいんです。なので」

「ああ、うん。そうだね。何度も同じ話は面倒か」

 

 小日向さんの言葉にそう言って納得する。

 すると、そこで丁度良くノックの音が聞こえた。

 

「開いてるよ~」

「お父さん、そろそろ時間であります」

 

 顔を出したのはエルザ。

 にしてもそうか。もうそんな時間か。

 

「「時間?」」

「はい。今日は週に一度のひいおじいちゃんの家へ遊びに行く日であります」

 

 そう、訃堂さんの家、つまり風鳴本邸へ行くのだ。

 訃堂さん曰く、神の力の器である夢子を手懐けるためらしい。

 ただ、そこへキャロル達も招いてくれてる辺りに本音が透けて見えるんだけど。

 

「良かったら二人も来てくれないか? 訃堂さんに話を通しておいた方が後で色々便宜を図ってくれるだろうし」

「えっ!? で、でも……」

 

 明らかに立花さんが不安げな顔をした。見れば小日向さんも似たような顔をしてる。

 まぁ無理もないか。ただ、こっちの響はここまでじゃなかったんだけど。

 

 ……やっぱりこっちの訃堂さん、少し丸いんだろうな。あるいは、俺が辛うじて丸く出来た、のかね?

 

「大丈夫でありますよ。ひいおじいちゃんは、見た目は怖いですが意外と優しいでありますから」

「「優しい!?」」

「はい。エルや私めによくお小遣いを」

「へぇ、それは初耳だな。エルザ? 詳しく話を聞かせて欲しいなぁ」

「っ!?」

 

 どうりでエルザが訃堂さんを怖がらないと思ったよ。

 あんな高圧的な人、エルザは苦手だと思ってたのに初めて会った時の帰りにはすっかり懐いてたし、妙だなと思っていたんだ。

 

「お、お父さん? これは、その、別にやましい事ではないでありまして」

「うん、それならちゃんと話してくれるよな?」

「え、えっと……あっ! 時間がないでありますっ! 私めは先に転送ポートへ行ってるでありますよっ!」

「こらっ! エルザっ!」

 

 脱兎のごとく部屋を出て行くエルザ。

 まったく、お前さんは猫みたいだった事はあっても兎ではなかったろうに……。

 と、俺が腕を組んで息を吐くとクスクス笑う声が二つ聞こえた。

 見れば立花さんと小日向さんが苦笑してた。これはお恥ずかしいところをお見せしたなぁ。

 

「いや、面目ない。今見た事は忘れてくれると助かるよ。それと、ヴァネッサ達にも黙っててくれ」

「ふふっ、はい」

「要さんとエルザちゃんって、本当に親子なんですね」

「どうだろうな? まぁ、そう見えたのなら少し自信がつくよ。で、どうする? 残るならファラ達がいるからよろしく頼んでおくけど」

 

 そう俺が言うと二人は顔を少しだけ見合わせて小さく頷き合った。

 

「「行きます」」

「ん。じゃあ行こう」

 

 どうやらさっきのエルザの言葉が二人の心を動かしたらしい。

 結果オーライだが、ちゃんと叱っておこう。

 それと、訃堂さんにお礼を言っておくとしよう。

 

 こうして俺達は転送ポートと呼んでるいつもの場所へと向かった。

 余談だが、夢子へと渡されたお金はキャロルが丁重に断ってたらしい。

 

――それは将来夢子が自分で判断出来るまで待ってあげてって、そう言っておいたから。

 

 立場的には次女であるが、しっかり長女らしい考えと振る舞いをするキャロルに俺は感謝するしかなかった。

 

 エルは、エルザから自分が話すので言わなくてもいいと口止めされていたので、俺は二人へ帰ったら話があるとだけ告げるに留めた。

 

 小さくて色んな分別がつかないならともかく、もう二人は自分の判断で色々分かる。

 ならまずは話す事が大事だと思ったのだ。殴るのは最後の手段と、そう思っていきたいしな。

 

 

 

「一週間ぶりですね、訃堂さん」

「うむ、そうだな」

 

 大広間の上座で座る一人の老人。その正面に正座するシキの姿があった。

 響と未来は、その若干重たい空気に飲まれかけていた。

 

「み、未来、凄いね、あのおじいさん……」

「う、うん。こうしてるだけでも何か威圧感みたいなのを感じる……」

 

 シキの後ろに位置して正座で座っている二人だが、本来であれば内緒話さえも出来ない事を知ればどう思っただろうか。

 ここに二人の世界の翼や弦十郎がいれば、まずそこに気付いて息を呑んだ事だろう。

 

「して、そちらの二人が例の平行世界とやらの住人か?」

「そうです。立花響と小日向未来。名前まで同じの、別人です」

「「ど、どうもはじめまして」」

 

 ジロリと擬音が付きそうな眼差しに委縮しながらも頭を下げる響と未来に、訃堂はふむとばかりに息を吐いて視線をシキへ戻した。

 

「それで、何故儂に引き合わす?」

「八紘さんへはもう弦十郎さんから報告がいってます。でも、訃堂さんへはこないでしょうから」

「……そういう事か。貴様も中々狸になったな」

「俺がタヌキなら訃堂さんは大狸じゃないですか。どうせもう情報だけは知ってたんでしょ?」

「どうしてそう思う」

「さっき自分で言いましたよね? 例の平行世界って。俺がこの事話したの、嫁さんやあの家の人間を除いたら弦十郎さんだけなんですけど。まぁウェルさんも知ってますけど、こういうの簡単に喋る人じゃないんで」

 

 シキの言葉に訃堂が楽しげに笑みを見せると響と未来は息を呑み、キャロル達は小さく苦笑した。

 

「どうせ、本部から出た時に私へこっそり付けてる護衛からでしょ? ね、グレートグランパ」

「か~っかっかっか! その通りよ。聞いた時は俄かには信じられなんだが、実際見れば信じるしかあるまい」

 

 呆れるようなキャロルの言葉に大きな声で笑い、訃堂はシキの言葉を認めたのだ。

 それにシキ達要家の者達が揃って息を吐き、響と未来は驚きで目を見開いた。

 

「じゃ、何かあった時はお願いしてもいいですか?」

「何故儂が」

「グレートグランパ、僕らからもお願いします」

「いざとなった時頼れるのはひいおじいちゃんだけであります」

「何もいつでもなんて言わないから。ただ、父さん達が頼んだ時は出来るだけ受け入れてあげて欲しい」

「ひーじーじーっ!」

 

 可愛い義理のひ孫(本来は孫)四人からのお願い攻撃。それも、根幹世界の訃堂であればどうしたかは分からない。

 鼻で笑い飛ばすか、あるいは聞き流すか。それとも意に介さないか。

 ただ、この世界の訃堂にとってそれは無視出来ない事だったようで……

 

「むぅぅぅぅぅっ」

((すっごい悩んでるっ!?))

 

 苦悶の表情を浮かべ、腕を組み思い悩んでいたのだ。

 まさかの反応に響と未来は言葉がない。

 

「訃堂さん、ならせめて彼女達の世界へ興味を持つとかはなしにしてくれますか? 平行世界ってものは色々と危ない要素も持ってるはずですから」

「…………よかろう。ならば、儂は一切その者達の世界へ興味を示さん事にする」

「ありがとうございます」

「「っ! あ、ありがとうございますっ!」」

 

 深々と頭を下げるシキを見て、慌てて響と未来も頭を下げた。

 

「別に良い。まぁ、儂としてはその平行世界とやらがこの国に災いを持ち込まぬかが問題なのだ」

「それはないと思いますよ。むしろ、こっちの世界に問題が起きそうだから彼女達は来たらしいので」

「何?」

「簡単に言うと、どうも彼女達の世界には平行世界専用の警報があるみたいなんです。それは、放置しておくと彼女達の世界も危なくなるぞって教えてくれるらしいんですよ」

「……真か?」

「は、はい! 今までもそうだったんです!」

「だから私達は調査も兼ねてこっちへ来たんです」

「ふむ……」

 

 響と未来の様子から嘘ではないと見抜いた訃堂はシキへ視線を戻した。

 

「貴様はどう考える?」

「訃堂さんも知っての通り、最近起きてるノイズ反応がそれだと思うんです。不可解極まりないですから、あれ」

「成程な。つまり、あれを放置すると我らの世界だけでなく平行世界とやらまで危険に晒すと」

「きっとそういう事だと思います」

 

 その会話を聞きながら響と未来はシキの印象を改めていた。

 これまでは優しい夫であり父親の面しか見えていなかったのが、訃堂と対等に意見を述べる事が出来る所を見て、弦十郎や八紘にも似た男としての頼もしさを感じ取っていたのだ。

 

(要さんって、見た目じゃ分からないけどやっぱり凄いんだなぁ。今なんて師匠みたいに見えるよ)

(普段は優しいお父さんなら、こういう時は立派な大人になるんだ。切り換えって事だと思うけど、差が凄いからドキッとしちゃうかも……)

 

 大人をしている時のシキは妻達が揃って“頼もしい”と感じる程の凛々しさを持っている。

 何せアダムとの戦いにシェム・ハとの一件、更には訃堂との対話で彼はその強さを磨いたのだ。

 神の力の恩恵はあるとしても、今や彼は弦十郎や八紘などから認められた“大人の男”でもあるのだから。

 

「では、そう俺から弦十郎さんへ伝えておきます」

「うむ」

 

 どこか響と未来が呆けている間にシキと訃堂の話は終わった。

 そこでシキは小さく息を吐いて後ろへと振り返った。

 

「「っ!?」」

 

 当然響と未来へ話をするために、凛々しい男の顔で。

 

「聞いてたとは思うけど、この事へのそちらの意見や考えも聞かせて欲しい。現状こちらで動ける装者はマリアと奏を除いた七人。これならそちらの助けはいらないと思えるんだが、きっとこれでも厳しい事になるんだろう?」

「は、はい。その、過去には私達が行った全ての平行世界の力を結集して倒した相手もいたんです」

「は?」

「本当です。なので、もしかしたらそれぐらいの敵が出てくるかも……」

 

 未来の言葉にシキは一気に表情を引き締め、前を向きなおした。

 訃堂もその表情を険しいものとしている。

 

「訃堂さん、善は急げだと思います。俺は彼女達と共に先に帰らせてもらっても?」

「構わぬ。夢子達は儂が足を手配し本部の方へ確実に送り届けさせよう」

「いえ、それならいつもと同じ時間までここに置いてやってください。四人共訃堂さんと会うのを楽しみにしてたので」

「たわけ。護国の前には何事も」

「ひーじーじっ! まだへーきっ!」

「むっ」

 

 夢子の言葉で訃堂が表情を若干ではあるが緩めた。

 更に夢子の額に紋章が浮かび上がって淡く輝く。

 

――急いては事をし損じる。この国の言葉だろう。ならば、今はそなたが動く時ではない。

「その言に体を持たぬ貴様がどう責を負う?」

――忘れるな。今の我はその気になればいつでも体を持てる事を。もしそれが望みであればすぐにでも我が足で大地を踏みしめてやってもよいのだ。

「そこまでだ。シェム・ハも訃堂さんも、今は身内同士で揉めてる場合じゃないでしょう。とりあえず俺は今はシェム・ハの意見に賛成です。訃堂さんはいざと言う時までどっしり構えていてください。それまで些事は俺達に任せておいてくださいよ」

「……ならば儂の耳に吉報以外聞かせるでないぞ」

「善処しますよ。シェム・ハもありがとな。ただ揉め事を起こすような物言いは勘弁して。それと、復活するとしてもまず夢子の許可を得てくれよ?」

――ふっ、分かっている。

 

 響と未来は聞こえてくる会話に耳を疑いたくなっていた。

 何せ訃堂とシェム・ハが会話し、その仲裁をシキが行うと言う様を見せられたのだ。

 その中でもっとも二人が驚いていたのが……

 

((身内って事、二人共否定しなかった……))

 

 シキがいるからかもしれないが、それでも二人からすれば驚きではあった。

 この世界のシェム・ハが自分達へ優しい事を知ってはいたが、まさか訃堂へも嗜めるような言葉を言うとは思わなかったのだ。

 

 こうしてシキと共に響と未来はシャトーへと帰る事となる。

 そしてシキはそこから未来と共にS.O.N.G本部へと向かい、響はシャトーに残る事となった。

 

「じゃ、私は一度本部へ戻って今日聞いた事を報告してくるね」

「うん、お願い」

「それじゃ行こうか、小日向さん」

「はい」

 

 テレポートジェムを使用して響の前から未来がシキと共に消える。

 それを見送って響はとりあえずリビングへと向かった。

 

「あら、もう帰ってきたのですか?」

 

 そこではファラとレイアが朝の家事を片付け休憩をしていた。

 そのメイド服も相まって本当に家政婦のように見える二人だが、ティーセットとカップケーキを前に寛ぐ姿はいかにも休憩中のメイド然としている。

 

 響もその光景に笑みを浮かべながら右手を頭の後ろに回した。

 

「あはは、ちょ~っと色々ありまして。二人は休憩?」

「ええ、地味に午前の仕事は終了」

「もし良ければ貴方もご一緒しますか?」

「え? いいの?」

 

 思わぬ申し出に響は小首を傾げる。

 どう見てもカップケーキは二人分しかなかったからだ。

 するとファラが小さく笑った。響の視線で何を考えているか察したのである。

 

「ふふっ、心配せずともケーキは今も焼いています」

「派手に食べる奴がいるからね」

「あ~、もしかしてミカ?」

「「もしかしなくてもミカよ(です)」」

 

 そうやって揃って告げられた言葉に響は思わず吹き出してしまう。

 仲良さそうな雰囲気がそこから感じられたからだ。

 

(あったかいなぁ。ここはあったかさが溢れてるよ)

 

 そういう事ならと響も遠慮なくテーブルに着き、ファラの淹れた紅茶を飲んでまったりとした時間を過ごす事になる。

 やがてそこへガリィとミカが姿を見せ、オートスコアラー四人とちょっとした茶会をする事となった響は笑みを絶やす事はなかった。

 

「うまいうまい。レイアのケーキは最高だゾ」

「あんたね、少しは遠慮しなさいよ」

「いいですよガリィ。ちゃんと客人の分は確保してあります」

「地味に大事な隔離政策。派手さはないけど効果的ね。さぁ、食べるといいわ」

「ありがとうっ!」

 

 家族というか仲の良い同僚がしっくりくるオートスコアラー四人だが、それでも響は嬉しかった。

 かつて戦うしかなかった相手と共に過ごし笑顔になれる。

 同じ物を食べ、語り合い、笑みを交わす。それさえも響にとっては夢のようだったのだから。

 

「おう、帰ったぞ」

「ただいまダゼ」

「あっ、おかえりなさい。クリスちゃん、ミラアルクちゃん」

 

 そしてクリスとミラアルクも買い物から帰宅し、リビングは一気に賑やかとなる。

 

「へぇ、そっちのあたしは留学すんのか」

「うん、そうなんだ。えっと、お父さんとお母さんの夢を継ぐんだって」

「……そうか。まっ、あたしもシキと出会ってなきゃ、そういう道を考えたかもな」

 

 どこか遠い目をして告げるクリスに、響は大人の匂いを感じ取り何も言えなくなった。

 

「じゃ、響はどうすんダゼ? 今年で卒業になるんダゼ」

「あー、うん。考えないといけないなって思ってはいるんだけど、ね」

 

 このまま装者として働くべきだろうと、そう響は漠然と考えていた。

 

「出来るだけ早く決めた方がいいと思うんダゼ。うちは来年からお菓子の専門学校へ行くつもりなんダゼ」

「お菓子の?」

「ああ。アニキと相談して学校も決めたんダゼ? うち、将来は小さな洋菓子店をやるつもりでさ。エルザや夢子達に美味いお菓子を作ってやりたいんダゼ」

「そっか。うん、きっと叶うよ……」

 

 力比べをした事がある響には、そう言って微笑むミラアルクがとても眩しいものに見えたのだ。

 姉貴分としている事もあるが、未来に希望しかないと言うような輝きを放っていたからでもある。

 

「なら、その時はお前も客として来るんダゼ」

「え? 私?」

「以外に誰がいるんだよ? まぁ、心配すんな。少しずつお菓子のレパートリーを増やしてるし、腕の方も順調に磨いてるから」

「なんダゼ。来てくれるよな?」

「うんっ!」

 

 自分へ笑みを向けるクリスとミラアルクに、響は心から嬉しそうに笑顔を浮かべて頷くのだった……。

 

 

 

「ほ、本当にいいんですか?」

「ああ。それに私も平行世界に興味がある」

 

 シキと別れた未来はゲートへ向かおうとしていたが、ある人物と遭遇した結果連れ立って根幹世界へ戻る事となっていた。

 

「でも、向こうにも翼さんがいるんですけど……」

 

 それはもう一人の風鳴翼、ある意味で要翼であった。

 彼女は軽く笑みを見せると未来へ告げる。

 

「だからこそだ。一度自分と手合せしてみたくもあったし」

「……分かりました」

 

 どこか翼らしいと思ってしまった未来は、苦笑しながらゲートを目指して歩く。

 やがて二人はゲート前へと到着するとギアを展開、揃ってその中へと飛び込んだ。

 

「これがゲート、とやらの中か……」

「はい。じゃ、行きましょう。はぐれないでくださいね?」

「ああ、分かっている」

 

 未来の案内に従い要翼はゲート内を行く。

 そしてギャラルホルンから根幹世界へと出た彼女は、そこが見慣れている場所だと気付いて息を吐いた。

 

「本当に同じなんだな」

「はい。ただ……」

「当然異なっている事もある、だろう? シキさんがいないと聞いた時点で覚悟はしている。それでも未来は未来だった。なら私も私だろう」

「まぁ、それは……」

 

 翼から名前で呼ばれる事に違和感が拭えない未来だったが、それで言えば要クリスもそうだったので特に何か言う事なく発令所目指して歩き出した。

 

 と、その途中で二人はある意味で一番会ってはいけない相手と出くわしたのだ。

 

「ん? 小日向か?」

「っ!? つ、翼さんっ!?」

 

 曲がり角を出た所で翼と遭遇したのである。

 先に歩いていたのは未来だったため、翼は要翼に気付くはずもない。

 妙に驚く未来に小首を捻る翼だったが、その謎はすぐに明かされる事となった。

 

「どうした未来? 何があった?」

「なっ!?」

 

 そのすぐ後から姿を見せた要翼に翼は驚愕したのである。

 

(うわぁ、面倒な事になっちゃったなぁ……)

 

 せめて弦十郎へ報告などをしてからが良かった。

 そう思いつつ、未来は簡単な説明を行う。

 その間翼の視線は要翼へ注がれていた。何せ彼女から見ても同じ風鳴翼と思えない程明るさと女性としての自信に満ちていたからだ。

 

(一体何だ、この違いは。これまでの平行世界で見聞きした私とは何かが違う。あの一人称が異なる私とは異質の、私に限りなく近いのに限りなく遠いような、そんな気がする……)

(これが男性を、シキさんを知らない私、か。それときっと奏を失った私、かな。多分自分を厳しく律しているんだろうけど、もう少し女性としてのしなやかさがないと危ない気がする……)

 

 互いに相手へ思うのは自分との違い。ただ、その原因が分かっている要翼と違い、翼は明確な理由が分からないでいた。

 予想も出来ないだろう。目の前の自分は男性と肉体関係を持ち、女性として強く深く愛される事で強さと優しさ、更に輝きまで得ているとは。

 

「……なので、これから司令へ報告をしようと思って」

「そうか。なら私も共に行こう。見ただけである程度の事情を理解してもらえるだろうし」

「いいんですか?」

「ああ」

「なら行こうか未来。私も風鳴女史の意見に賛成だ」

「っ!? み、未来?」

 

 まさかの名前呼びに動揺する翼だが、それを予想していた要翼は小さく苦笑すると……

 

「こっちでは私もクリスも全員名前で呼ぶようにしている。仲間であり、今では半分家族にも近い相手だからな」

「か、家族?」

「と、とりあえず発令所へ行きましょう」

 

 まだ翼へ要家の話をするには早いと判断した未来は先んじて歩き出して話を強引に終わらせる。

 そんな彼女に要翼は苦笑し翼はやや訝しむような顔でついていく。

 

「一ついいだろうか?」

「何?」

 

 未来の後ろを隣り合って歩く二人の翼。

 だが、一方は相手へ強い興味を持ち、もう一方はそうでもないという差があった。

 

「半分家族に近いと言っていたがそれは」

「今、私はチフォージュ・シャトーでシキさん達と、要家の一員として暮らしている。奏やクリスも一緒にだ」

 

 絶句。思わず翼が足を止めてしまう程の衝撃がその言葉にはあった。

 それでも何とか一歩遅れただけで歩き出せるところに翼らしさがある。

 すぐに要翼と隣り合って歩くように戻し、彼女は隣でどこか楽しげに笑うそっくりな顔をした女性へ問いかけをした。

 

「そ、その、それは同居?」

「実際には同棲が近いかもしれないがな」

「っ!? ど、同棲?」

 

 目を見開く翼に要翼は楽しそうに目元を下げながら口元を隠して頷く。

 

(ふふっ、何となく奏が私をからかう気持ちが分かった気がする)

(くっ、向こうにいいように弄ばれている気がする。まるで奏のような私だ)

 

 如実に人としての経験値と環境の差が出る二人の翼によるやり取り。

 一番の違いは何と言ってもシキという存在の有無だ。

 

「今度は私からいいか?」

「な、何だろうか?」

「ラブソング、苦手でしょ?」

「っ!?」

「恋、してみればいい。想像と現実は違う事が多くて楽しいから」

「なななっ!?」

 

 妖艶さを漂わせての囁きに翼は思わず赤面した。

 自分とは思えぬ程の色気に驚愕し、そこで悟ったのだ。

 目の前の相手は男性経験があると。

 

「どうかしたんですか?」

「いや、私が少しばかりからかってしまっただけだ。騒がせてしまってすまない」

 

 さらりと誤魔化し、要翼は未来の近くへと歩み寄る。

 その背を見つめ、翼は小さく息を吐いた。自分とは女として違う事が多すぎると感じて。

 

(あ、あちらの私は恋をしたのか? しかも、それが実を結んでいると、そういう事、なのか……)

 

 未来と話す横顔は幸せそうにしか見えないもの。

 翼が自分があんな顔をしたのが最後はいつだったかと思う程の幸福感だ。

 

(お父様が……あちらはご存命だから、かもしれないな……)

 

 翼の顔を曇らせる一番の要因。己が心の弱さが招いてしまった最大の悲劇。

 操られてしまった事で最終的に目の前で最愛の養父を失ってしまった、翼にとっての奏を失った事に匹敵あるいは凌駕しかねない一件だ。

 

 あのシキが未来と響へ持たせた写真を見た翼の心は、未だにガタガタと表現してもおかしくない。

 乗り越えようとし、乗り越えたと思っていたところへ見せられたのがあの写真であったのだ。

 

 こうして翼の心を大きく揺るがして要翼との一時は終わる。

 だがしかし、これはまだ始まりに過ぎなかった事をこの時の翼は知る由もなかった……。

 

 

 

「奇妙なノイズ反応、なぁ……」

「でも、そちらでもノイズは既に確認されなくなっているのでしょう?」

 

 マリアの言葉にあちらの私は頷いた。

 

 場所は休憩スペース。司令への報告を終えた小日向とあちらの私……ここは敢えて風鳴と呼ぶか。

 風鳴は帰還する前にこちらの雪音達にも意見を聞いておきたいと言い出して現状となっている。

 

「ああ。既にフィーネの力によってノイズは全滅している事も実証済みだ」

「……じゃあ、その反応ってのが不気味になるわな」

「そうね。もう確認まで済んでいるノイズの全滅。にも関わらず突如として出現するノイズ反応……」

「こちらでもキャロルを中心に色々と手を尽くし、アン達、サンジェルマン達パヴァリアとも密かに協力して探っているのだが、一向に成果が出ないのだ」

 

 その風鳴の言葉に雪音とマリアが小さく息を呑むのが分かった。

 私とて同じ気持ちだ。あの写真で分かってはいたが、こうやって私の顔と声で告げられるとより一層現実味を持つな。

 

 向こうでは私達が望めない日々や時間を過ごしているのだと、そういう事だ。

 

「え、えっと、ちなみにヴァネッサさんもS.O.N.Gの所属研究員だそうです」

「「なっ!?」」

「そうだ。マムの助手として働いている。ただ、今は妊娠しているのでそろそろ在宅勤務へ切り替えるかと考えているが」

「「マム……」」

 

 私の声でマムと言われると複雑だが、仕方ない。

 あちらの私は、いや私達はナスターシャ教授の事を全員してマムと親しみを込めて呼んでいると聞いた。

 

「どうもあちらでは私達装者はこちら以上に繋がりを深く持っているそうだ。そして、ナスターシャ教授もその流れで呼び易いと言う理由もあってかマムと呼ばれているらしい」

「キャロルやエルなどはグランマと呼んでいるがな」

「「グランマっ!?」」

 

 二人が驚きの声を上げる。つくづく暁と月読がいなくて良かったな。

 いればきっとこれ以上の声を出していた気がする。二人で買い物らしいが、今回はそれに助けられたか。

 

「か、要さん、そろそろ戻りませんか?」

「ん? そうだな。そちらへもこちらの状況を簡単に理解してもらえたし、何よりも……」

 

 そう言って風鳴は私を見つめた。どこか優しい眼差しで。

 

「私は、シキさんと出会わなくても、奏を失っても、その足で立って生きていける事が分かった。私とは異なる道を歩いても、それでもその目指す先は同じなのだと知れたのは嬉しかった。ありがとう」

「……どう、だろうな」

 

 その眼差しを避けるように私は顔を背ける。

 お父様がいてくれる貴方には私の気持ちは分からないと、そう言ってしまいそうになったからだ。

 それだけじゃない。あちらには奏もいる。それに、要シキと言う愛する男までいる。

 私とは何もかもが違い過ぎる。支えてくれる者が、相手が、違い過ぎるっ!

 

「では行こうか未来。響も待ちわびているだろう」

「は、はい。じゃあ私達はこれで」

「失礼する」

 

 小日向と共にギャラルホルンへと向かう背中を見つめ、私は言いようのない気持ちとなっていた。

 このまま小日向や立花だけに任せていいのか。あちらの事を羨むだけでいいのか。

 そして何よりも、私が私に負けていると思っているままでいいのかと。

 

「……待てっ!」

 

 気付けば私は二人を呼び止めていた。

 雪音とマリアが驚いた顔をしているが、それさえも今の私には関係ない。

 

「私も、そちらへ行こう。司令の許可を取ってくるからギャラルホルンの前で待っていて欲しい」

「翼、本当にいいの?」

「先輩、あっちには、その……」

「分かっている。だからこそ私は今まで二の足を踏んでいた。あちらは今の私には辛い事の連続だろうと」

 

 だが、それではいけないのだ。

 私は防人。この身は、この力は全ての生きとし生ける者を守るために使わねばいけない。

 それが今は亡きお父様への何よりの弔いであり、喜んでくれる事だから。

 

「悲しんでいても、悔やんでいても、失われた者は帰ってこない。なら、それを飲み込み、受け入れ、前を向いて歩くのみだ。そのためにも、今の私はあの世界へ行く」

 

 けれど、少しぐらい、少しぐらいは、お父様の元気な姿を見たいという想いもある。

 

 向こうのお父様は要シキという男を息子のように扱っていると聞く。

 私はその男性と会ってみたい。あのお父様が認めた相手を、あちらの私が見初めた相手を、この目と耳と肌で知りたい。

 

 恋を知れと言ったのはあちらの私だ。ならば、私が見初めるような相手を知りたい。

 どのような男性か。姿だけではなく、その在り方や考え方などを踏まえて。

 

 こうして私は司令の許可を得て平行世界へと向かう事になった。

 

――本当に、いいんだな?

――はい。これで本当に乗り越えられたかを確かめてきます。

 

 司令の、いえ叔父様の確認の意味を噛み締めるように返して、だ。

 

「小日向、あちらの世界はこちらとほぼ同じなのか?」

「えっと、それはどういう意味ですか?」

「その、大きな事件の流れだ」

 

 ルナアタックから始まり、フロンティア事変、魔法少女事変と続く流れ。

 簡単に聞いたが、それはルナアタック前の事だったからな。

 

「少し違っている。そちらではパヴァリアとの戦いが夏頃だったらしいが、こちらは冬だった」

「冬?」

「そちらはそもそもキャロルと事を構えて色々とあったらしいが、こちらでは直接キャロル達と戦ったのは片手で足りる程だ。しかも本格的な戦いは一度だけ」

「そこまで違うのか……」

 

 それでどうやってキャロル達と和解したのか。それも分からない。

 ただ、大きな要因は分かる。要シキ。その人物が大きく関わっているはずだ。

 

「それもあって、そこからしばらくは平和な日々が続いたんだ。クリスマスイヴまでは、な」

「「クリスマスイヴまで?」」

「私達はイヴと当日の二日間パーティーをするつもりだった。その初日の夜、みんなでトランプなどをしていた時に、アルカ・ノイズがバルベルデに出現した」

 

 時期こそ違え、始まりはやはりあの国か。

 

「キャロルのおかげですぐに場所を特定した私達は、装者九人にキャロルとエル、それにフィーネやシキさん、そして夢子を連れてバルベルデへと向かった。そこでの戦い自体は大きな問題もなく終わったんだが、アルカ・ノイズをバルベルデに流した相手の痕跡を調査中、アン達錬金術師達によるティキ確保のための戦いが起きてしまい……」

「神の力、か?」

「そうだ。幸いマリアのガングニールによって錬金術による怪物は倒された。そこへ別働隊として動いていた私達旧二課三人が合流する途中でパヴァリア幹部三人を発見、交戦した結果撃退に成功。ただ、それで彼女達はこのままではラピスを使っても互角がやっとだと知り」

「ま、待てっ!」

 

 信じられない言葉が聞こえてきた。サンジェルマン達を相手に戦い、撃退は構わない。

 人数も違うし、そもそも相手の不意を突けたはずだ。ならば結果はいい。

 だが、ファウストローブを使われても互角とはどういう事だ。

 私達は暁と月読のユニゾン以外で対抗するには、愚者の石にてイグナイトを使用した上でそれぞれのユニゾンを可能にするしかなかったというのに。

 

「どうした?」

「そ、それは通常のギアでという事か?」

「そうか。言い忘れていたな。実は、私達はある方法で適合係数を上げ、更に絶唱を負荷無しで使えるように出来る術を有していたのだ」

 

 開いた口が塞がらないかと思った。

 奏やセレナが助かった理由はそれかと直感で察した。

 きっと要シキという人物がそれを可能としている事もだ。

 

「この詳しい話は戻ってからにしよう。響も、いや立花も交えてな」

 

 その言葉に私と小日向は頷くしかなかった。

 

 それにしても、適合係数を上げ、絶唱を負荷無しで使える術、か。

 もしそれを私達の世界でも可能になればマリア達がリンカーに頼らずとも良くなるな。

 

「翼さん、もし持ち出し可能な物とかなら、一つ分けてもらってエルフナインちゃんに調べてもらいたいですね」

「そうだな」

 

 小日向も私と同じ事を考えているらしい。

 今のリンカーは体への負荷は抑えられているが、それでもまったく皆無と言う訳ではない。

 なら、おそらく副作用などもない未知の手段が利用可能ならそちらへ切り替えるべきだろう。

 適合係数も上がるのであれば余計だ。絶唱の負荷さえも無しに出来るのも大きい。

 

 思わぬ収穫と言える事を胸に、私は小日向達と共にゲートをくぐる。

 要シキという存在との出会いが良きものであれと、そうどこかで期待しながら……。

 

 

 

「「「生命のスープ?」」」

「そうよん。私が命名したの。あの人だけが持つ特殊能力ってとこ」

 

 時刻は午後六時を過ぎてシャトーにもほとんどの人間が帰ってきていた。

 大きな円卓には料理が隙間がない程並べられ、けれどそれぞれの目の前には白飯と味噌汁が置かれている辺りに、要家が食事形式の基本を日本式にしている事が翼にも窺えた。

 

 まだ家長であるシキがいないが、もうそろそろ帰ってくるという連絡がファラ達に入ったため、メイド四人を中心に夕食の準備が着々と進められている。

 

 そんな中で異邦人響達三人はフィーネの姿の了子から“生命のスープ”についての話を聞いていた。

 自分達とシキ達の世界の差異を生んだ大きな要因であるそれを聞いて、響達三人は耳を疑いたくなっていた。

 適合係数を上げる・絶唱の負荷を恐ろしく軽減する・生命力を高めるためか病気なども治療出来るなどなど、聞けば聞く程信じられない効果を持つ物だったからだ。

 

「そ、それを要さんが生成できるんですか?」

「そうよん」

「あ、あのっ、それを少し分けてもらう事って出来ませんか?」

「分ける?」

「ええ。出来ればこちらでもそれを分析・研究して」

「それは無理よん。あれはあの人以外では生成出来ないの。だからこそキャロルはあの人をさらい、アン達も同じ事をするしかなかったんだから」

 

 翼の言葉を遮って告げられた内容に響達は反射的にキャロルやサンジェルマン達へ顔を向けた。

 彼女達も了子の話を聞いていたのだろう。向けられた三人の顔へ小さく苦笑して頷いてみせたのだ。

 それが何故か三人には妙に気になった。

 

「それに、きっとお嬢ちゃん達じゃアレは使いたくないでしょうしね」

「だろうな。私でも最初は信じられなかったワケダし」

「「「信じられなかった?」」」

 

 プレラーティの言葉に疑問符を浮かべる響達だが、キャロルはプレラーティへ少しだけジト目を向けた。

 

「レティ、あまりそういう言い方しないで。リオも興味をそそるような言い方しない」

「むっ、そうだな。今のは私の失態なワケダ」

「そうねん。ごめんなさい」

「分かってくれたらいい。そっちも父さんの力関係については本人から聞いて」

 

 そのやり取りさえも三人にとっては軽い驚きを感じるものだった。

 何せ平行世界でのキャロルとプレラーティは犬猿の仲と呼んでもいい間柄だ。

 当然カリオストロへも柔らかい対応などしない。

 

(こ、こっちのキャロルちゃんはやっぱり普通の女の子みたいだ)

(仲が良いなぁ。響から聞いた話じゃ平行世界じゃ結構いがみ合ったりしてるらしいのに)

(これが、この世界では当たり前、か。やはりこれまでの平行世界とは異なる事が多いな)

 

 そもそも愛称で呼び合う事も響達からは信じられない。

 その発案者もシキである。全てこの世界の中心には彼がいると言えた。

 

「はいっ! ……分かったでありますっ!」

 

 そんな時、一際大きなエルザの嬉しそうな声が響く。

 誰もがそれだけで笑みを浮かべてエルザを見つめた。

 

「エルっ! キャロルっ! お父さんが帰ってくるでありますよっ! お出迎えに行くであります!」

「はいっ!」

「分かった」

 

 笑顔で転送ポートへと向かうエルザを追う形で動き出すエルフナインとキャロル。

 その姿を見て響と未来は微笑み、翼はどこか悲しげな顔をする。

 

(父親の出迎え、か……)

 

 自分が出来なかった普通の娘としての行動。

 それを思い出して顔を伏せる翼だが、そんな彼女が思わず顔を上げてしまう展開がこの後に待っているとは夢にも思わないだろう。

 

 やがて翼の耳に複数の足音が聞こえてきた。

 だが、そこで彼女は不思議に思って首を傾げる。

 

(足音が一つ多い? 迎えに行ったのはエルザを含めて三人だ。なのに何故五つ足音が聞こえる……?)

 

 顔を上げて振り返った翼は、そのままの姿勢で固まってしまった。

 

「お父……様……」

 

 何故ならそこには八紘の姿があったからだ。

 彼も自分を見て固まる翼に気付いたのだろう。小さく驚きを浮かべるも、すぐに何か納得するように息を吐いて隣のシキへ顔を向けた。

 

「成程な。百の言葉よりも一の光景だ。君の言う通り、平行世界というものが実在すると心から納得出来た」

「それは良かったです。それで、お義父さんには風鳴さんの横へ座って欲しいんですが、構いませんか?」

「私は構わないが……」

「わ、私も構いません」

 

 八紘の顔が自分を見た事に気付き、翼は一瞬口ごもったものの何とか了承の意を伝える事が出来た。

 こうして翼の横に八紘が座り、両者の間に微妙な空気が流れる。

 

「とりあえず食べようか。話は食べ終わった後にしよう」

 

 シキの意見に反対する者はおらず、夕食はこうして始まった。

 

「エルザ、どうしたんダゼ? 何かアニキを妙に怖がってるけど……」

「今日は訃堂さんのところへ行ったんでしょ? 何かあったの?」

「え、えっと、ひいおじいちゃんの家では何もなかったんでありますが……」

「じゃ、その前に何かあったワケダ」

「じゃあじゃああーしが当てちゃおうかしら? うーん……」

「ヒントもなしで当てられるとは思えないワケダ」

「そうねぇ。エルザちゃん、お姉ちゃん達にヒントくれない?」

 

 シキの方をチラチラ見ながら食べるエルザを話題に盛り上がる者達……

 

「キャロル、一体父さんは僕とエルザ姉さんに何の話をするのかな?」

「知らない」

「きゃろるねーさん、うそ、めっ!」

「え?」

「ゆ~め~こ~?」

「キャロル、どういう事?」

「ふふっ、夢子? 時には知っていても黙っている事も必要なんだ」

「フィーネ、まださすがに夢子にはそういう事は無理でしょう」

「だがなマム。シェム・ハを宿している今ならそういう事も分かっていそうな気がするのだ」

「……実はそのシェム・ハが夢子へ入れ知恵をしたのではありませんか?」

――ふふっ、露見してしまったか。

 

 仲良し家族と言った様子の夢子を中心とした者達……

 

「やっぱこうなってくると動くのもちょっと億劫だね」

「同感。アンもそろそろ自宅勤務に切り替え?」

「いや、私は限界まで協会の方で働くつもりだ」

「いやいや、アンもそろそろあたしらの世話になれって」

「私もその方がいいと思いますよ。マムだってあのお家、切歌と調のために使っているようなものですし」

「そういえば最近週末はここにいるな」

「マムも出来るだけ夢子達といたいみたいよ」

「仕方ないって。可愛い孫達に娘達もいるんだ。で、頼りになる息子までいるんじゃ、マムだってここで暮らしたいって思うって」

 

 妊婦であるサンジェルマン達を交えて話す者達……

 

「で、そっちじゃどうなの?」

「え、えっと、こっちでもある意味では同じ、かな」

「まぁ板場さん達はどこでも三人でよく行動してるだろうしね」

「うん。でも、まさかこっちじゃ男の人を紹介してって頼むなんて……」

「響さんと未来さんが幸せそうだからです」

「デスデス」

「実際幸せだから仕方ないじゃん。ね、未来?」

「そうだね。けど、それだけじゃないと私は思うよ?」

 

 二人の響と未来を交えて話す学院組……

 

「客人がいるといえ、賑やかさが凄いですね」

「地味な食事よりもこちらの方が派手でいい」

「ガリィちゃんとしては程々が一番だけどね」

「ご飯は楽しく食べるのが一番だゾ。笑顔がいっぱいであたしは嬉しいんだゾ~」

 

 給仕から一旦解放され、食事を楽しむオートスコアラーの四人。

 その視線の先にはいるのはシキ達四人である。

 シキと要翼、そして八紘と翼の四人だ。

 

「では、君の方では父はそこまで神の力に固執したのか」

「はい。結果、護国の鬼と呼ばれた風鳴訃堂は一時的に権勢を失いました」

「そうか……」

「でも、お爺様の事だ。まだあの力への興味を失ってはいないでしょう」

「こっちでも表向きはそう言ってるしな」

「だろうな。弦はそれに対して何か手は打っているのか?」

「私はそこまでは……」

 

 四人の会話は主に八紘が質問し翼が答え、時折シキや要翼が補足などをする形式となっていた。

 

 その会話中、翼は奇妙な感じをずっと覚えていた。八紘が一向に自分の事を聞いてこない事に、である。

 更に訃堂の動向について尋ねながらも、何故か平行世界の自分ではなく弦十郎の対応を聞くなど、翼からすれば疑問符が消えない事だらけだ。

 

 だが、その謎の答えをこの少し後、思わぬ形で翼は知る事になる。

 

 そんな楽しい食事を終え、後片付けをそれぞれに協力し合う中でシキによるエルフナインとエルザへの軽いお説教がありつつと、どこか普通の家庭らしい顔も見せつつその時は来る。

 

「カルマ・ノイズ……」

「黒い瘴気から生まれたノイズ、か……」

「はい。それを生み出す世界蛇はもう私達が倒したので大丈夫、だと思うんですけど……」

 

 響達三人によるカルマ・ノイズを始めとする話はシキ達にとっては大きな驚きとなった。

 だが、響達からすればこの世界へ世界蛇が来ていても、下手をすれば返り討ちにあっただろうと思っていた。

 

 何せ様々な平行世界が手を取り合ってかき集めた力が、この世界では最初から揃っているのだ。

 しかも、それよりもより強力な状態となって、だ。

 

「謎のノイズ反応は、まさかその世界蛇とやらの影響か?」

「いえ、それはないと思います。もしそうなら、カルマ・ノイズとして既に動き出しているでしょう」

「そういえばお義母さん、あれから何か変化はありました?」

「いえ、特には。相変わらず反応が出る時間は三秒程度。出現位置もバラバラで規則性などはなく、現場には炭化の痕跡もないというものです」

「お義父さんの方でもですか?」

「こちらにも特に変わった情報はない」

「父さん、グレートグランパは何か分かったら教えてくれるって」

「訃堂さんが? そっか。ありがとなキャロル」

 

 訃堂がそう言ったのは可愛いひ孫達からの頼みだからだろうと、そう読んだシキだったが、キャロルはそんな彼に首を小さく横に振った。

 

「お礼なら私じゃなくて夢子に言ってあげて」

「夢子に?」

「はい。夢子がグレートグランパにお願いしてくれたんです」

「ひいおじいちゃんも夢子が言うならって言ってくれたんであります」

「そっか」

 

 微笑むシキ達と違い、翼はあまりの言葉に驚愕していた。

 だが、響と未来が驚いていない事に気付き、どういう事かと顔を向ける。

 すると、二人も翼の事に気付いていたのだろう。実はと今日経験した事を簡単に話して聞かせたのである。

 

「……お爺様が……お小遣いを……」

「「あっ、まずそこなんだ……」」

 

 驚愕と言った表情で呟かれた内容に響と未来の声が揃う。

 翼でさえも訃堂から小遣いをもらうなどという経験はなかったのだ。

 極端な話ではあるが、訃堂が金を使うのは護国に役立つ時のみ故に。

 

 だからこそ翼はそれだけで理解したのだ。この世界の訃堂が自分の知る訃堂とは違う道を歩き出している事を。

 

「それに、ひ孫とは言え護衛を付けたり、その言葉を受けて情報の開示を約束するとは……」

 

 信じられない。その気持ちをひしひしと感じさせる声で呟く翼。

 

「気持ちは分かる。私や、弦も少し前はそう思う気持ちはあった」

「え……?」

 

 その声は翼の隣から聞こえた。

 顔を上げた翼が見たのは小さく苦笑する八紘の顔だった。

 

「あの父がいくら何でもそんな分かり易い変化をするはずがないと、そう弦は主張し色々と探りもした。だが、そんな時シキ君に言われたらしい。家族なのだからまずは信じてみるべきだと。相手を見極めるのとそんなはずはないと思ってみるのは似て非なるものだからとな」

 

 シキの言葉は翼にとっても響くものだった。

 家族なら信じるべき。それを告げたのが、多くの妻を持ち、血の繋がらない子供と妹を持つシキだったのだから。

 

 つまり、シキは血の繋がりという分かり易い絆がないからこそ心の繋がりに縋るしかない。

 それが転じて家族と思った相手を信じるという行動となっているのだ。

 

「要さんが、そんな事を……」

「あの年齢で自分を変える事は凄まじい力が必要だ。ならば例え誤魔化しや企みがあるとしても早々出来る事じゃないともな。私の義理の息子は誰かを疑って無傷でいるよりも、誰かを信じて傷付く事で胸を張る男なのだ」

「…………ご自慢の息子ですか?」

「かもしれん。私の自慢の娘が選んだ男だからな」

「っ」

 

 八紘の優しい声で告げられた言葉。それだけでなく自分へ微笑みを向けてのそれは、翼の心を一瞬にして掴んでしまう程の威力を持っていた。

 

 言葉に詰まり瞳を潤ませる翼へ、八紘はその表情のまま小さく告げる。

 

「きっとどこの私でもそう思っているはずだ。翼と言う名を付けたのなら、な」

「お父……様……」

「君に会えて良かった。私の娘は、どこでもしっかりとその足で立ち、名に負けぬよう羽ばたいてくれると知れたからな」

 

 もうここまでくれば翼も理解する。目の前の人物は自分の現状を知っていると。

 平行世界で自分が死に、娘が悲しみを乗り越えて力強く生きている事を。

 そしてそれを誰が教え、八紘と自分を関わらせたのかも。

 

(要シキ、か……。私の事はおそらく立花達から聞いたのだろう。そして、もう一人の私を知るからこそ、お父様を失った事でどうなっているかを察したと、そういう事か)

 

 涙が流れるのを見せまいと顔を伏せる翼だが、その顔は嬉しそうに笑っていた。

 あの時、父から聞けなかった言葉を、きっと伝えたかっただろう言葉を聞けたと、そう思って。

 

 そうして翼にとって忘れられない時間は終わりを迎えた。

 

 後片付けを楽しげにやるファラ達を眺め、食後のお茶をまったりと楽しみながら談笑するサンジェルマン達に笑みを浮かべ、夢子との触れ合いでは驚きと戸惑いを感じながらも久しぶりとなる心からの笑顔を見せた翼へ、シキは一人安堵するように微笑むのだった。

 

 

 

「ここです、ここ。ここがこの家のお風呂場です」

 

 胸の中にあたたかなものを感じながら、私は立花と小日向に案内されるまま女風呂へと到着した。

 

「……まるで旅館のようだな」

「あはは、ですよね~」

「私達も初めて見た時は似たような事思いました」

 

 “女”と書かれた暖簾を見つめて苦笑する私へ立花と小日向も同じ反応を見せる。

 中へ入ればまさしく旅館や銭湯のような脱衣所。ここまでくると見事なものだ。

 

「まさかここまでとはな……」

「翼さん、感心するのはまだ早いですよ」

「何?」

「中も結構らしい感じになってますから」

「そうなのか。それは楽しみだ」

 

 要シキという男性がこの家の大黒柱である事は分かった。

 こちらの私やお父様が認めただけあり、優しいながらも芯の強さのようなものを感じさせる方だと思う。

 ただ、まさかお爺様とも手を繋ごうとしているとは驚きだった。

 いや、それで言うのなら大勢の女性を妻としている事も、だろう。

 

 やっている事はお爺様に似ているのに嫌悪感や拒否感はあまりないのは、この家の者達がみな笑顔だからだろうか。

 

 裸となってタオルを手に浴室へと向かうと、そこは、その、所謂銭湯のイメージそのものだった。

 

「これは……見事だな」

 

 タイルに描かれた富士を見つめ、私は素直に感心していた。

 立花が言っていたのはこの事だろう。

 

「ですよね。でも翼さん、これ、誰かやったと思いますか?」

「誰が?」

「実はこれ、キャロルちゃんがタイルの色を使って作った物なんです」

「何?」

 

 立花の言葉を確かめるべく、私は浴場の奥にある壁面へと近付き、息を呑んだ。

 たしかにその富士はそこへ描いたものではなかった。

 その壁面そのもので描いた富士だったのだ。

 

「何でも要さんが喜ぶだろうと思ってやったそうですよ」

「キャロルちゃん、要さんの事、お父さんって思って慕ってるんです」

「そうか……」

 

 私もそうだったから分かる。血の繋がりなどなくても、心の繋がりで家族は出来るのだ。

 ここのキャロルも、きっとそうだったのだろう。要さんを父として想い、慕い、生きているのだな。

 

 洗い場で体を洗い始めると、そこへ風鳴が姿を見せ……なっ!?

 

「あっ、風鳴さん。風鳴さんもお風呂ですか?」

「ああ」

 

 私と同じはずなのに、彼女の裸体は同性の私から見ても魅力的に感じられた。

 女性としての自信が内面から溢れているし、私よりも、その、胸も幾分大きい気がする。

 

「っ!」

 

 そうして見ていたからか、風鳴が私の視線に気付いたらしく、こちらを見て小さく微笑んだ。

 

「まぁ、そちらも年齢的に構わないか。ご想像の通り、私もシキさんと男女の仲だ」

「「「っ」」」

 

 放たれた言葉の意味が重い。

 つまり、彼女は既に男を知っていると言う事だ。

 

「ふふっ、本当にこうなると分かり易いな。まぁ、私もシキさんしか知らないから大きな事は言えないが」

「あ、あのっ、風鳴さん」

「何だろうか?」

「えっと、その……初めてって、痛いって言いますけどホントですか?」

「ひ、響っ……」

 

 立花の質問に風鳴は小さく苦笑する。それが、私のようでやはり違うのだと感じる程愛らしく見えた。

 

「くくっ、そうだな……痛みはあったが、それよりも私は快感と幸福感の方が強かった」

「そ、そうなんだ……」

「考えてみれば分かるだろう? 強く想い、繋がりたいと考えた相手と結ばれるんだ。あの時の気持ちは、何とも言えないものがあった。勿論今も抱かれる度に幸福感は感じるし快感もある。それでも、あの時の事は鮮明に思い出せる」

 

 懐かしむような語り口に私は不思議と羨ましいと思っていた。

 話されているのは性体験なのに、風鳴の表情はとても幸せそうで綺麗だからかもしれない。

 

「キスをしながら抱き合い、最愛の男性と繋がる。その温もりに勝る幸せは中々ないぞ?」

 

 告げられた内容を想像すると体の奥底が少しだけ熱を持つ。

 見れば立花と小日向もそうらしく、若干俯いていた。

 

「ただ、残念ながらシキさんは私だけが妻ではないがな」

「そ、それなんですけど、それで風鳴さんはいいんですか?」

 

 至って当然の疑問ではある。そもそも私もそこが気にはなっていた。

 何故ならこの状況は一種の後宮だ。重婚ではないが実質それと言える環境で、何故私でもある彼女は平然としているのだろうと。

 

「では逆に聞こう。この状況の何が問題だ?」

「え?」

「私達はこの状況に対して大きな不満はない。むしろ幸せを感じる事の方が多いのだ。キャロルやエル達は私達からすれば妹のようなもので、ファラ達は家族だ。アン達もヴァネッサ達も同様に。血の繋がりなどないに等しいが、私達は家族のようになりつつある」

「そ、それはそうですけど……」

「要さんが他の女性と赤ちゃんを作ってるのは、どうですか?」

「羨ましいとは思うが憎みはしない。私も同じ事を望み、子作りに励んでもいるしな」

「「「っ!?」」」

 

 まただ。見事なまでのカウンターを喰らってしまった。

 何というか、向こうは私達をからかっている気がする。

 ただ、興味がないとは言えない。私とて愛する異性と出会い、結ばれる事をまったく考えた事がない訳ではないし。

 

「それに、シキさんは時を重ねるだけその器を大きくしているんだ。出会った時から今まであの人は成長を続けている。男性としても、人としても」

「だから余計惚れ込んでしまう?」

「自分に置き換えて考えてみればいい。それで答えは出るはずだ」

 

 そう言われてしまっては私達にもう言葉はなかった。

 元々惚れ込んでいた男性が共に過ごす内に成長していったとすれば、そんな事考えるまでもない。

 だから立花も小日向も無言なのだろう。

 

 私達が黙った事を受け、風鳴は軽く笑みを浮かべながら私の横へと座った。

 

「私達はこの状況を認めて欲しいとも、受け入れて欲しいとも言わない。ただ、良く知りもしないであれこれ言わないで欲しいとは思う。何せ私達とてこれが正しいとは言い切れないのだ」

 

 そうは言っているが、彼女からは少しも悲壮感のようなものは感じられない。

 正しいと言い切らないだけで間違っているとは思っていないと言う事だ。

 

 それにしても、子作りか。何というか、妊娠している奏やマリアを見たから生々しく感じるな。

 ただ先程の言葉は、想像すると幸せだろうとは思う。

 愛する男性と、その、交わりながら、キスをして抱き締め合うなんて……。

 

 未経験な事だらけではある、あるのだが……

 

「顔が熱くなるな……」

 

 誰にも聞こえぬように小さく呟く。

 要さんは穏やかな人だ。見た目だけならどこかにいそうな気もする人と言える。

 だが、そんな人が叔父様やお父様、更にはお爺様にさえ認められるとはな。

 

 湯上りで要さんの部屋を訪れて話を聞くべき、かもしれない。

 特に生命のスープと言われる物についても聞いておきたい。

 

「立花、小日向、私は湯上りに要さんの部屋を訪れ生命のスープについて話を聞こうと思うが二人はどうする?」

「私も行きます」

「私も聞きたい事がありますし、一緒に行きます」

 

 小日向が聞きたい事とは何だ? 生命のスープの事ではないようだが……?

 

 

 

「あ~、生命のスープねぇ……」

 

 シキの声にはどうしたものかというような感情が宿っていた。

 彼の目の前には湯上りの根幹世界三人組がいる。

 

「やっぱり言えない事なんですか?」

「いや、どう言えばいいのかなって」

「可能なら分けていただきたいのですが」

「分けて、ねぇ……」

 

 響や翼の言葉に難色を示すシキだが、それも無理はないだろう。

 何せ、彼の能力とも言うべきものは端的に言うのなら精液なのだ。

 

「あの……」

 

 そこで未来が恐る恐る手を挙げたのでシキは不思議そうな顔で彼女を見た。

 

「どうかした?」

「えっと、要さんは神の力が使えますけど、どうしてなんですか?」

 

 その言葉に翼が息を呑んだ。

 

「ほ、本当なんですか?」

「ああ、うん。丁度いいか。俺はね、どうもエンキって名前のカストディアン? アヌンナキ? まぁどっちでもいいか。その人のクローンみたいな存在らしいんだよ」

 

 あっさりと放たれた言葉に響達三人は絶句した。

 何故ならシキの言葉を簡単にまとめれば、自分は神と同義であるという事なのだから。

 

「俺も知らなかったんだけどさ、シェム・ハの一件で明らかになったんだ。月遺跡には今もエンキがいるよ。まぁAIみたいなものだけど」

「つ、月遺跡が残ってるんですか?」

「そうだよ? あれ、そっちじゃもう残ってない?」

「はい。シェム・ハとの戦いで月遺跡は破壊されました」

「マジか……。じゃあシャトーも?」

「あ、はい。こんな風に残ってないです」

 

 その響の言葉にシキは何とも言えない顔で息を吐いた。

 

「そっか……。そんなに君達の世界は激戦続きだったんだな」

 

 噛み締めるようなその言葉に響達は何も言えなかった。

 激戦で片付けるには少々苦いものが多くあったが、それを言えばシキの心に大きな波を起こすだろうと思ったのだ。

 

 ここではサンジェルマン達がシキの妻であり、ヴァネッサまでもその一員なのだから。

 

「それで、どうなのでしょうか? 生命のスープを分けていただく事は可能ですか?」

「分ける事は可能だけど、それを分析したところで複製は出来ないと思うよ」

「そ、そこまでですか?」

「考えて欲しいんだけど、アンジェ達もアダムも、そもそもフィーネさえもそれを断念してるんだ。これでも複製は可能だと思うかい?」

 

 納得しかない言葉だった。少なくても三人にそれを否定もしくは反論出来る要素は皆無である。

 

 その三人の様子を見たシキは、いっそ真実を教えるべきかもしれないと考え始めていた。

 かつてであればスケベ心を発揮し黙っていただろう事だが、今の彼にとっては黙っている方がどうかと思ったのだ。

 

(正体不明だからこそ気になるんだよな。じゃ、いっそ教えた方がいいだろう。俺に対してどう思うかは、この際度外視だ)

 

 このまま生命のスープについて気にし過ぎると面倒な事になりかねない。

 そう判断したシキは黙り込んでいる三人に対して小さく息を吐くとこう切り出した。

 

「えっと、信じられないかもしれないんだけど、生命のスープってのは俺の精液なんだよ」

 

 そこからの反応にシキは苦笑する事となる。

 何せ三人は大きな声を出すのではなく、心底訝しむような顔で本当かと問いかけたのだ。

 そんな彼女達へシキは信じさせるのは簡単だけど難しいと告げた。

 

「何せ物が物だろ? 試しに使ってくれなんて言えるもんじゃないから」

「あ、あの、要さん? 本当にそうなのですか?」

「嘘を吐くならもっとそれらしい事を言うよ。いきなり精液なんて言うのが逆に事実だって思ってくれると助かるかな?」

「せ、精液って……」

「正確には俺の体液全般らしい。でも、一番効果が高いのがそれだってだけ」

「ほ、ホントなんだ……」

 

 さらりと答えるシキの様子から、響達も彼の言う事が本当なんだと感じ始めていた。

 表情にまったく変化もなく、下心のようなものが見えなかったのもそれに拍車をかけた。

 

「だから分ける事は出来るけど複製は出来ないって理由はそういう事。おかげで一時は頭を抱える事になったんだけどね」

「どういう事ですか?」

「精液が生命のスープだったからか受精前に全部吸収されてたんだ。だから子供が欲しくても妊娠させられなかったんだよ」

「え? で、でも、マリアさん達は」

「うん、今は神の力のおかげでそれを何とか出来るようになったんだ。そうなる前は割と深刻な悩みだったんだ、これ」

 

 その言葉に響達は納得するように頷いた。

 一種の不妊治療へ臨むような心境だったのだろうと。

 そしてそれを意図せずして克服したのが神の力という所に、彼女達は小さく苦笑するしかなかった。

 彼女達の中では人知を超えた恐ろしい力である“神の力”。

 それがシキの手にかかれば不妊治療用の力へ転用されたのだから。

 

「でも、それで適合係数が上がるって事は……」

「あ、これだけは言っておくよ。それが目的で俺と関係を持った装者はいないから。そもそもそれも奏と俺が男女の関係になってしばらくして分かった事だし」

「奏と? どういう事ですか?」

「あー……実は昔の俺はね」

 

 シキの口から語られた昔話は三人にとっては複雑な気持ちになるものだった。

 何も昔のシキに幻滅したからではない。シキが昔の自分の事を包み隠さず話すからだ。

 スケベ全開だったシキが、了子の指示でやってきた翼との出来事を切っ掛けに両手に花を夢見た事。

 それが現状への第一歩となったと聞いた時、もう一人の翼は頬を少し赤めて俯いてしまった。

 

「あ、あのっ、それで奏さんと翼さんを恋人にしたんですか?」

「したと言うよりなってくれた、だな」

「二股かけたのに許してくれたんですか?」

「そう。しかも俺は隠してたつもりだったけど、二人にはバレバレだったのに」

 

 その言葉に響と未来が驚くように息を吐く中、翼はポツリと呟いた。

 

――それだけ、要さんが好きだったのでしょうね。

 

 それは自分だからこそ分かった感情だった。

 奏と取り合うのではなく分かち合う。しかも自分達を秤に乗せていたような相手にも関わらずだ。

 だからこそ翼は分かったのだ。そこを含めて愛しいと感じたのだと。

 

「今の要さんとかつての要さんが別人と思える程違うとご本人が言うのなら、その頃からこちらの私や奏は要さんに惚れ込んでいたと思います。もしかすると、そうやって二人を天秤にかけていると思っていた事も含めて愛らしいと思ったのかもしれません」

「あー……そうなのかな? まぁないとは言わないけどね」

「きっとそうだと思います。それに、そうやってこちらの私や奏を恋人としながらも、現状のようになっているのは要さん自身にそうなってもいいと思わせる何かがあったのかと」

「あ、でも私もそう言われたら何となく分かる気がします。多分要さんって嘘吐けないんですよね」

「吐けないとは言わないけど、あまり吐かないようにしてるよ。それと、響と未来に関しては二人一緒にいたいって気持ちがあったのも大きいかもしれない」

 

 小さく微笑みながらのその言葉に響と未来は互いを見合って、一瞬の間の後で赤面した。

 その二人を見てシキは可愛らしいと思って父親の顔で微笑んだ。

 翼はそんなシキの笑顔を見て思わず息を呑む。

 

(そんな風に笑うのですね、要さんは……)

 

 どうしてもファザコンの気がある翼にとって、今のシキの父性溢れる雰囲気は心に刺さるものがあるのだ。

 この世界の翼がシキに惹かれたのとは違う部分で、根幹世界の翼は要シキという男性へ心惹かれる切っ掛けを得てしまった。

 

 その後、シキは三人へ一冊のアルバムを差し出した。

 それはシェム・ハとの一件が終わった後に購入された物だ。

 まだそこまで多くはないが、そこから今までの数か月の間の思い出が収められていた。

 

 最初のページには要家全員での写真が大きく張られていて、次のページからは夢子を主役に日常の中でのキャロル達子供の笑顔が散りばめられていた。

 その幸せそうな写真に三人も自然と笑みを浮かべ、一枚一枚の写真を愛おしげに見つめて行く。

 

「俺は風呂に入ってくるから、見終わったらそれをベッドに置いてくれる? 片付けたりしなくていいし、部屋の鍵も開けっ放しでいいからさ」

「「「分かりました」」」

 

 一度としてアルバムから目を離す事無く放たれた返事にシキは密かに苦笑して部屋を出た。

 残された三人はそこにある何気ない写真の一つ一つを見つめ、笑みを浮かべ続けた。

 そこに映る笑顔は自分達の世界では見る事の出来ないものが多いにも関わらず、悲しみや苦しさよりも嬉しさや温もりが強かったのだ。

 

「……これで終わり、か」

 

 最後にあったのは響達が持たされた夢子の誕生日会の集合写真だった。

 が、そこで翼もあの事に気付いたのだ。

 

「? ……何かいい匂いがするな」

「あっ、翼さんもそう思いますか? 要さんの部屋、何ていうか不思議な匂いがするんですよね」

「お香とかかなって思ったんですけど、それらしい物が見当たらないんです」

 

 その未来の言葉に翼は小さく頷いて、ふと何かに気付いたように顔を赤くした。

 

「も、もしや生命のスープの匂い、ではないだろうか?」

「「っ?!」」

 

 シキから聞いた情報から推測した翼の意見に響と未来は否定出来ずに顔を赤めた。

 そして三人は無言で顔を見合わせ、小さく頷き合ってゴミ箱へと近付いた。

 ただ、そこは空であり、しかも匂いなどしなかったのだ。

 

「あれ? まだいたんだね」

「「「っ!?」」」

 

 背後から聞こえた声に三人が反射的に振り向いた。

 湯上りのシキは上はTシャツ、下は短パンというラフな格好になっていて、まさにもう寝るだけという格好であった。

 

「あ、あのぉ、要さんに聞きたい事があるんですけど」

「何?」

「生命のスープって、良い匂いだったり、します?」

 

 響のやや恥ずかしそうな問いかけにシキは疑問符を浮かべるものの、すぐに何かを理解して苦い顔をした。

 

「まぁ奥さん達にはそういう風に言われたね」

 

 シキは察したのだ。この部屋に沁みついている精臭に三人が気付いたのだと。

 なのでこう言葉を続けた。

 

「これで俺の言った言葉を信じてもらえるかな?」

「え、えっと……」

「それは……」

「やはり実際に見るなりしなければ無理、かと」

 

 言いよどんだ響と未来に代わり翼がはっきりと告げる。

 ただしその顔は若干恥じらいを浮かべてはいたが。

 

「ま、そうだよね。あ~……じゃ、こうしよう。今、俺の両手に何もないよね?」

 

 そう言ってシキは両手を開いて三人へ見せる。

 そこにはたしかに何もない。

 

「はい、何もないです」

「次、この格好のどこにも物を隠せる場所はないよね?」

 

 Tシャツと短パンであり、ポケットのようなものはない。

 それを確かめて三人は静かに頷いた。

 

「それじゃ、三人して枕付近に座ってくれるかい?」

 

 シキが何を考えてるのか今一つ分からないまま、響達は言われるままにベッドの枕近くへ揃って座る。

 それを見てからシキは彼女達へ背を向ける形でベッドへと腰をかけた。

 やがて三人はある匂いを感じ取る。それはこの部屋に微かに残る匂いと同じだが、やや濃い匂いだった。

 

「あれ、この匂いって……」

「この部屋の匂い、だね」

「か、要さん? その、一体何を?」

「……簡単に言えば勃起させてる」

 

 間違いなくその瞬間三つの赤い花が咲いた。

 だが、それがどうしてかは彼女達には分かったのだ。

 何も匂いを出せる物がないにも関わらず、部屋に染み付いた匂いの濃い物を出せる事でシキは自分の言葉が事実だと証明してみせたのだから。

 

「気持ち悪いかもしれないけど、これで生命のスープへの興味もなくなったでしょ?」

 

 声に若干の申し訳なさを滲ませつつ、シキはそう告げてため息を吐いた。

 

「俺は、いわば本当は居てはいけない存在なんだと思うんだよ。たしかに俺の存在が助けた命はあるけど、それはたまたま上手く転がった結果だ。下手をしたら、もっと酷い結果になった可能性だってあった」

 

 そう言うシキの脳裏に浮かんでいるのは、あのガリィ達と奏達の最初で最後の激突。

 あの時、彼が動くのが少しでも遅れていればどちらかに死者が出ていた。

 しかも、その可能性が高いのは装者側である。

 

「それに、君達はこんな物に頼らずにシェム・ハにも打ち勝った。こっちよりも圧倒的に厳しい状況で、だ。それでもこれに興味を持つのか?」

「そのっ、マリアさん達はまだリンカーを使わないといけないので」

「……そういう事か。いくら改良したリンカーと言っても体に無害とは言えないもんな」

「は、はい……」

 

 そうやって話してる内に匂いが薄れていくのを感じ、響達はシキの体にどういう事が起きてるかを想像して赤面していた。

 

「一応こっちにも生命のスープを加工してリンカーみたいにした物があるにはあるけど……」

「そんな物があるんですか?」

「まぁ。実は俺達と出会う前のマリア達はそれを使っていたんだよ。残念ながら適合係数は上がらないけど」

「そうなんですか……」

「奏もリンカーがいらなくなるまで結構時間かかったからなぁ。ただ、摂取方法を変えた後は早かったけど」

 

 まさに要らない情報であった。

 三人はそれを聞いて疑問符を浮かべるも、即座に気付いて真っ赤になったのだ。

 

(こ、これって、もしかしてエッチな事だよね?)

(せ、摂取方法を変えたって、つまり最初の頃は奏さん、生命のスープが精液って知らないで飲んでたって事……かな?)

(男女の仲になり、まぐわうようになったと、そういう事か……)

 

 背後で赤くなっている三人の乙女に気付く事なく、シキは立ち上がった。

 もう既に勃起は収まっていて、響達へ向き直っても問題ないと言えたためである。

 

「何かいい方法はないかウェルさんへ聞いてみるよ。あの人はこういう事が得意な人だし、新しい事をやるのが大好きだからさ」

「「「お、お願いします」」」

 

 立ち上がったシキとベッドに座ったままの響達。

 当然その視界の高さが異なるため、シキには若干気恥ずかしそうにする三人としか映らないものも、響達には彼の股間が丁度目線の高さとなった。

 

(((いい匂いがする……)))

 

 あまり見てはいけないはずの場所を凝視するようにして、三人は一度だけ鼻を動かす。

 

「「「っ!? し、失礼します!」」」

「へ? ああ、うん。おやすみ」

「「「おやすみなさい!」」」

 

 その匂いに思わずため息を吐いてから、我に返ってシキの部屋を後にする。

 慌ただしく部屋を出て行く三人を見送り、シキは不思議そうに首を傾げた。

 

「どうしたんだ? ちゃんと元に戻ってたはずだけど……?」

 

 神の力を得た事により、かつてよりも強力になった自身の能力。

 その残り香さえもそうだと言う事に、この時のシキはまだ気付いていなかったのだ。

 

 そしてこの日の夜、響達三人はある意味初めての行為を行ってしまう。

 

――ああっ……ダメなのにぃ……。ここ、触っちゃダメなのに……っ!

――んっ……か、体が熱い……っ。あの匂いが……頭を離れてくれない……っ!

――あぁ……私は、どうしてしまったんだ? 何故、何故こんなにもあの人の、要さんの事を考えてしまう?

 

 この時程響と未来は自分達が別々の部屋で良かったと思った事はなく、翼に限れば見事にこの世界の自分と同じ流れを踏みつつあった。

 

 三人が生まれて初めての経験をしている頃、とある場所に謎のノイズ反応が出現していた。

 しかも、今回は初めて三秒ではなく五秒間反応が確認される事となる。

 

――あとすこし……。あとすこしで……。

 

 地の底から響くような、不気味な声を放つ黒い影。

 それはノイズ反応が消えると同時に霧散するようにその場から消え失せるのだった……。




以前のXD編ではシキは神の力など無縁の状態でした。
ですが、今回は色々強化されていますので、まぁこうなりました。

……まぁエロ作品なので少しは、ね?(苦笑
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。