新たな出会い、新たな装者
「これで終わりだね」
「だな。ホントにすげぇよ、この感じ」
最後のノイズをあっさり片付け、私とクリスちゃんは笑みを見せ合った。この任務へ出る前に私達はシキさんから生命のスープを飲ませてもらったんだ。何でも奏さん達へシキさんが説明と説得をしてくれたみたいで、絶対に一日一度が限度を守る事を条件に納得してもらったんだって。クリスちゃんは、いつの間にかシキさんから直接原液を飲ませてもらう約束をしてたらしい。でも、どうして私は未だにコップに注がれたやつなのに、クリスちゃんは生成したてをもらえるんだろう? でも、そのおかげで私はセミエクスドライブみたいな状態で戦えた。いやぁ、やっぱり自由に飛べるっていいね。飛行型と戦いやすいし列車から落ちる心配もないから。
「もう増援はない、かな?」
「分かんねえな。ま、気を抜き過ぎないようにしてようぜ。にしてもよ」
「何?」
「どうしてお前だけそんなに効力が違うんだ? あたしや両翼だってギア自体は普段と変わんねーのに」
クリスちゃんの疑問は私も思った。でも、実はこれについて了子さんから答えをもらっている。私はギアを待機状態から展開してる訳じゃない。奏さんのガングニールが一部砕けて私に刺さり、それが体と融合してギアを纏えるようになった。そのせいか、私は生命のスープが誰よりも強く作用するんだって。しかも、フォニックゲインを束ねる事が出来るおかげか、私の意思でフォニックゲインを利用してギアだけじゃなく攻撃力や防御力とかを爆裂強化出来るんだよね。
「んー、了子さんが言うには私が融合症例だからだって。シキさんのスープとの相性が一番いいって言われたよ。一切の無駄なく使えるみたい」
「へぇ、でも見てる感じそうらしいな。あの時の姿に近いしな、それ」
「うん、すごく戦いやすいよ! それにクリスちゃんもいつもより調子良いみたいだね」
「おう、おかげさまでな。とりあえず博士達のとこまで戻るぞ」
「うんっ!」
二人で列車の奥に移動したウェル博士とあおいさんのいる場所へ向かう。この分ならツヴァイウィングのライブ、間に合いそう。未来達と会場で会えるかな。でも、この任務はすごく大事だから気が抜けない。あのソロモンの杖を移送するんだ。もうデュランダルの時みたいにはならないようにしないと。
「二人共、無事で良かった。ノイズはもう?」
「ああ、あたしら二人で全部やっつけた」
「本当ですか? かなりの数がいたと思いましたが……」
「はい、たしかに結構多かったですけど、もう安心してください」
「そうですか。やはりこのソロモンの杖に呼び寄せられているのでしょうか……」
「うーん……私はそういう難しい事は分かりませんけど、何かデュランダルの時に似てるしそうかもです」
「そうですか」
「それで、おっさんは何て?」
「このまま警戒を怠らず護衛に専念して欲しいそうよ。岩国基地はもうすぐだから」
あおいさんの言葉に頷き、私とクリスちゃんはそのまま列車の中で時間を潰した。この後、特にノイズの襲撃もなく博士は無事移送先の基地へ到着。私とクリスちゃんはそれを見届けてライブ会場へ向かう事になってたんだけど、またもノイズ出現。でも、それもすぐに鎮圧して今度こそお仕事完了。でも、ウェル博士は行方不明になっちゃって、しかもソロモンの杖も奪われたみたい。それをクリスちゃんがすごく気にしてたけど、何があってもへいき、へっちゃら。だって、今の私達はあのルナアタックの頃からは別物ってぐらいギアを使いこなせてるもん。今は移動のヘリの中でクリスちゃんの気持ちを明るくすべく会話中。当然話題はこの後のライブ。
「楽しみだね、ライブ」
「ま、まぁ両翼も気合入ってたしな。いいライブになるんじゃねえか?」
「もー、素直に楽しみって言えばいいのにぃ」
「んなっ!? このバカっ! 勝手に人の気持ちを代弁すんじゃねえっ! てか、そんな事思ってねえからなっ!」
顔を赤くしてるクリスちゃんが可愛くて、私は頭をがくがく揺らされながら笑みを返す。もうこんな感じでクリスちゃんとも自然にやり取り出来る。それが嬉しいな。と、そこで視界の隅に映ったモニター映像を見て思わずクリスちゃんを押しのけた。そこには逆光のフリューゲルを歌うツヴァイウィングが映し出されてた。
「ああっ! もう始まっちゃった!」
「おい! このバカ、人を押しのけて言う事がそれか!」
「だってぇ……」
「ったく。我慢してろ。そのうち生で見られるんだからよ」
「ううっ……」
モニターの先には綺麗な衣装に身を包んで歌い踊る奏さんと翼さんの姿。たしか聞いた話だとこの後、マリアさんって人がソロで歌って、その後三人で新曲を披露するって段取りだったはず。あー、楽しみだなぁ。ツヴァイウィングって、今まで誰ともコラボしなかったんだよね。奏さんと翼さんに理由を聞いたら、この二人の間に入れる存在も入ろうとする存在もいないからって言われた。聞いてナルホドって思っちゃったんだよねぇ。
「それにしても、今日の二人はやけに色っぽいな」
「あ、うん。私もそう思った。今日の二人、すごく艶っぽいもん。大人の女性って感じだよねぇ」
「ま、コラボ相手が大人っぽいからだろうな。メイクも普段より濃い目だし」
「……クリスちゃん、もしかして結構ツヴァイウィングのファン?」
「ち、ちげーよ! ただそうじゃねえかなって思っただけだ!」
「うんうん、そういう事にしておくね。あっ、そろそろ終わるよ」
クリスちゃんがまた頭を揺らしてきそうになったので、慌ててモニターを指さす。そこではツヴァイウィングが揃って手を振って歓声に応えていた。クリスちゃんもその後の流れを覚えているのかモニターへ意識を向けている。そしてその時は来た。現れた女性は、ツヴァイウィングに負けない程の力強さを持った歌声を披露してくれたのだ。
「うわぁ……」
「こりゃあすげえな。両翼に負けてねえ」
「うん、私ファンになっちゃったよ。近い内にCD買わないと……って、もうお金ないんだった……」
「……しょうがねえな。金渡してやるから買ってこい。で、あたしが聞いた後で貸してやる」
「ほんとっ?! ありがとクリスちゃんっ! 大好きっ!」
「だぁっ! 一々くっつくんじゃねえ!」
クリスちゃんにくっつきながら私は視線をモニターへ向ける。マリアさんの歌はとても熱くて迫力があった。でも、どこか辛そうにも聞こえる。その理由を私が知るのはマリアさんとツヴァイウィングのコラボ曲の後だった……。
私は目の前の光景を信じたくなかった。呼び出されたノイズは、予想していたどのケースよりも迅速且つ正確に排除されたのだ。そう、他ならぬツヴァイウィングの二人によって。中継している映像をどうやら向こうの人間が遮断ないし切断したようだ。そのため、彼女達はギアを纏い、同じガングニール同士で戦っている間に残る剣がノイズを蹴散らし、そして今やその切っ先さえこちらへ向けられている。それだけで気圧されるものがあるが、私は退く訳にはいかないっ!
「まさかソロモンの杖が奪われてるとはね」
「うん、驚きはした。けど、それだけ」
「ま、そういう事さ。行くよ翼っ!」
「両翼の羽ばたき、括目して見よっ!」
繰り出される槍と剣。それを必死で捌く。槍の突きをマントで払い、剣の煌めきをアームドギアで受け流して。聞いてはいた。ある程度知ってもいた。それでもあのドリンクを飲んだ私なら、そうどこかで思っていた。でも、現実は違った。何故? どうして? 昔の私とは違うのに。セレナに助けられるしかなかった頃とは違うはずなのにっ! どうしてっ! 私は押されているっ!?
「「もらったっ!」」
「しまった!?」
両翼の息の合った一撃を辛うじてアームドギアで受け止め、大きく後退させられる。体勢を崩しそうになるけれど、意地で何とか踏みとどまった。でも、今ので分かった。私では、ううん私だけではこの二人を相手に出来ない。かといってここにはいない調や切歌を頼るのは論外。……ふふっ、ならばアレを使うしかないわね。
「貴方達の羽ばたき、たしかに見せてもらった。次は私の歌を聞いてもらおう。全てを絶やす歌をっ!」
「っ!? 絶唱か!」
「奏、どうするの?」
「へっ、ならソロよりデュエットの方が迫力あるって教えてやろうか!」
その言葉に私は心臓が止まるかと思った。まさか二人で絶唱を使うと言うの? あのドリンクを使っている私でさえ不安が残るというのに。そこで思い出す事があった。あのドリンクの基を生成出来る人物は日本にいて、その身柄は目の前の二人も属する機関が保護している事を。つまり、この二人も私と同じ物を飲んでいる可能性がある?!
―――デュエットなら、こっちもそうしていいかな?
会場に響き渡る声に全員の顔色が変わる。そう、やっぱりそうなのね。どこかで分かっていたけど、結局こうなってしまって申し訳なさと情けなさを感じる。でも、これで負けはない。いえ、むしろ勝ちが見えた。そう思って私は声のした方へ視線を動かす。
「ごめんね、姉さん。マムが中々許可をくれなくて」
「いいのよ。それと、ありがとうセレナ」
そこにはアガートラームを纏った最愛の妹がいた。あの日、ネフィリムを相手に絶唱を使ったセレナ。でもセレナは、ドクターが研究用に手に入れていたドリンクの原液を秘密裏に飲まされていた。そのおかげで絶唱を負荷なく使え、私やマムさえも助け出せた。けれど、安全性が確認されていない物を使った事をマムがドクターへ激しく責めていたのを覚えている。守るべき妹に守られた、私にとっては悔しさを感じる思い出。それにセレナが優しい事を利用し、得体のしれない物を与えていたドクターは許せない。だけど、それがなければセレナと二度と会えなくなっていたと思えば受け入れよう。漆黒のギアの私の隣へ純白のギアのセレナが降り立つ。それにツヴァイウィングが身構えた。そうでしょうね。だってセレナはリンカーなしでギアを使える存在。それがドリンクを飲んでいるのなら、これで条件は五分。でも、私達は姉妹。なら、その分遥かに向こうに勝るっ!
「姉妹の歌、聞かせてあげましょう」
「悪いけど、ここで止まる事は出来ないの。ごめんなさい」
「ふんっ、それはこっちも同じだよ」
「ええ、飛び立ったばかりで羽を休める訳にはいかない」
同時に口ずさまれるフレーズ。それが見事なカルテットとなってこの場に響く。その綺麗で切ない旋律が、やがてとても大きな力となってこの場に吹き荒れるのだ。負けられない。負けたくない。彼女達に恨みはないけど、この世界のために私は、私達は悪となると決めたのだからっ! すると、ツヴァイウィングが突然その場から離れた。直後そこへ刺さる刃の数々。これは……。
「そこまでデスっ!」
「マリア、セレナもそれは待って!」
「切歌!? 調まで!」
「ふふっ、やっぱり来てたんだ」
私とセレナを守るように現れた二人の姿に驚きつつ、妹の言葉に内心で苦笑する。きっとマムもどこかでこれを予想してたでしょうね。だからセレナの援護を遅らせたのかもしれない。そう思いつつ、私は確認すべき事を問いかけた。
「二人共、ドリンクは?」
「大丈夫」
「デスっ!」
と、その時ふわりとドリンクと似た匂いが漂った。でも、これはそれよりも強い気がする。どういう事? そう思いながら鼻を少しだけ動かす。見ればセレナも同じ事をしていた。そして、揃って切歌と調へ視線を向ける。この子達から強く漂っていたのだ。だけど、二人が飲んだだろうものは私達と同じはず。一体どういう事……?
「二人共、聞きたい事は分かるけど後で」
「アタシ達もかなり驚きでしたっ!」
「だって姉さん。とりあえず今は四人で乗り切ろう。これで完全に有利になったし」
「そうね。なら、私とセレナで槍を、二人は剣を頼むわ」
頷き合い弾かれるように三人が動く。私も手にしたアームドギアへ力を込め、若干顔を歪めた天羽奏へセレナと共に迫った。視界の隅では、何と切歌と調が風鳴翼を相手に互角以上の戦いをしていた。これで勝てる。今度こそ本当にそう思った。空から聞き覚えのない声がするまでは……。
「奏さん、翼さん、そろそろ移動を」
「はいよ」
「分かりました」
部屋の外から聞こえる緒川さんの声。それに二人は平然と返事をする。うん、女優もいけるんじゃないかな。何せ今の二人は事後なのだ。俺のライブ衣装でしたいとの注文を、二人は難色を示しつつ受け入れてくれたためである。つまり、二人は子宮に俺の精液を蓄えたまま大観衆の前でライブを行うのだ。今も顔が赤いのは、俺との行為だけが理由ではないはず。楽屋から遠ざかる緒川さんの足音。それを聞いて俺は二人を抱き締める。
「じゃ、気を付けて」
「分かってるよ。シキの子種、一滴も落とさないから」
「うん、これで栓をしておく」
そう言って翼が取り出したのは粘着テープだった。まさか……。
「さすがにステージへ零したら問題になるからね。しっかりガードしておくのさ」
「要さんの大事な子種だもの。出来る事ならいつもこうしたいぐらい」
「……妊娠確率上げるために?」
俺の問いかけに二人はしっかりと頷いた。そう、色々ある条件の一つはそれ。流れ出る精子を極力なくし、出来るだけ膣内へ留める事。こうする事で吸収されない精子を確保させるらしい。後は何度も出して吸収させ切るとかもあった気がする。とりあえず、本気で二人は妊娠したいらしい。
「嬉しいけど、アーティスト活動は?」
「休業するさ。二人とも妊娠ならそれでよし。片方ならツヴァイウィングとしての活動はそもそも出来ないからね」
「そう。そして、片方ならより妊活し易いもの」
うっとりしながらお腹を撫でる翼。奏もどこか熱っぽくお腹を撫でる。ああ、いかん。そんな光景を見せられたらチンポが元気になってしまう。でも、それを二人は嬉しそうに見つめる。だけど、もう吐き出す時間はない。それを分かってるからか奏は悔しそうに、翼は悲しそうにしながら楽屋を出て行った。その背を見送り、俺もライブを観るために移動しようと楽屋を出た。
「ん?」
廊下に出た俺は、こそこそと動く二人の少女を見つけた。おかしいな。ここは関係者以外立ち入り禁止なのに。そう思いつつ、迷子になったのかもと考えてその背へ近付いた。
「し、調ぇ……こっちで合ってるですか?」
「多分大丈夫のはず」
「いや、観客席は反対だよ?」
声を掛けると漫画みたいにビクンと震え、二人の女の子はこちらを向いた。あー、脅かしちゃったかな? このまま警備員とか呼ばれると俺が不味い事になるので、すぐにリカバリーするべく両手を横に動かした。
「違う違う。怪しい者じゃないよ。俺も今からライブを観るために移動してたとこなんだ」
「そう……」
「デスか」
「もし良かったら案内するよ? どうする?」
良かった。警戒はされてるけど、一応話を聞いてくれるみたいだ。でも、何でこの二人はこんなにこそこそしてるんだろうか。もしかしてチケット無しで潜入したとか? ……有り得ないとも言い切れないなぁ。そう思って二人の会話へ耳を澄ませる。
「どうするデスか? このままじゃいざって時に間に合わないデス」
「ここをやり過ごしてもタイミングが掴みにくいかも」
「マムはマリアの援護はセレナだけでいいって言ってたデスけど……」
「うん、念には念を入れておくべき」
どうやらお姉さんがマリアのファンなのかな。で、おそらく援護は応援かな。チケットが一枚しか手に入らなかったけど、妹二人も見たくてこんな事しちゃったと。で、タイミングというのはきっとマリアの出番か。仕方ない。生で見るのは諦めよう。二人には悪いけど、楽屋のモニターで我慢出来ない訳でもないし。今も二人で内緒話してる可愛い少女達へ最大限出来る事を、だ。
「ね、モニターで良かったら一緒にライブ観る?」
「「えっ?」」
「俺、実は出演者の関係者なんだ。だから楽屋で見れるんだよ。どうかな?」
「……切ちゃん、どうする?」
「モニターでもライブを観れるなら何とかなるかもデス」
「じゃあ……」
「デスね」
よく分からないけど、どうやら話はまとまりそうだ。部外者を楽屋に入れた事を後で咎められるかもしれないけど、その時は俺が頭を下げればいいだけだし。こうして俺は二人の可愛いお客さんを連れて楽屋へ戻った。この時、俺はある事を失念していたのだ。そこは二人との情事による匂いが充満していた事を。そして、何故か彼女達が俺と出会ってからしきりに鼻を動かしていた事を……。