※この作品はR-18です。

The Unlimited Horizon   作:白臼

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第二話 無限の地平

 仮想現実(VR)という技術が確立して以来、その技術の進歩は日進月歩の勢いだった。

 二十世紀初頭ではゴーグル上のモニターを利用して臨場感あふれる映像や音響を楽しめるという程度の技術だったが、その有用性から様々な分野の応用と研究が始まったのだ。

 

 医療の分野では仮想現実(VR)上の映像と現場の医療ロボットをリンクすることで医師がどこにいても手術を執刀できるようになった。

 軍事の分野では無人機の精密誘導のために仮想現実(VR)モニターが採用され、その操作精度を向上させた。

 功罪相半ばするのは科学技術発展の常。

VR技術もそれに漏れず社会的、倫理的に様々な議論を巻き起こしながら独自の進化を遂げていった。

 

 やがて視覚、聴覚のみならず触覚、嗅覚、味覚にまで作用するVR端末が開発された。諸事情から味覚と嗅覚に干渉する技術は法律によって禁止されたが、触覚をVR上で再現する技術は普及した。

 数年のうちにそれらの技術が民間転用され始め、当然のようにゲーム用のVR端末もまた販売されるようになった。

 

 『実際に手で触れて感じ取れる世界』という最新技術による没入感は今までのゲームとは一線を画したものとなり、ゲームの開発会社は新たなるゲーム開発に躍起になっていった。

 そんなゲームの戦国時代ともいわれた時期にも一応の落ち着きが見られるようになったころにリリースされたタイトルがMMORPG『The Unlimited Horizon』だった。

 

 『The Unlimited Horizon』――――――通称『UH』あるいは『アンホラ』――――――はファンタジー世界を題材とした、言ってしまえばよくあるタイプのRPGだった。

 ただそれが他のゲームと一線を画していたのはその圧倒的な自由度の高さだった。

 初期状態からのアバター設定のバリエーションの豊富さはもちろんのこと、自分で好きな外装の武器を制作するといったことも可能。

 プレイスタイルもフィールドをめぐりダンジョンを攻略する典型的な冒険者から他のプレイヤーの依頼を受けてアイテムを制作する生産者、大規模なギルドを運営する経営者など多種多様。

 『ファンタジー世界でやってみたいと思うことは全てできる』と評されるその懐の深さがこのゲーム最大の魅力であった。

 

 このゲームの奥深さを支える最大の要因の一つが『熟練度』というシステムであると言われている。

 ただこの『熟練度』というものは有志が発見した隠しパラメータのようなものであり呼称自体も非公式なものだが、このゲームを語るにあたっては外せない要素としてプレイヤー達には認識されていた。

 

 まず、当時の『自由度の高いRPG』によくあったこととしてプレイヤーが選べる『職業』が多岐に渡ったことが挙げられる。

 ものによっては、実に数百に及ぶ職業の中から数種類を組み合わせることで自在にキャラメイクを行うというシステムで人気を博したというゲームもある。

 ただ『UH』の開発陣はそうした流れにあえて敢えて逆行する道を選んだのか、ゲーム内に実装された職業は全種類をひっくるめて20種類に満たなかった。

 ただし、一つの職業で習得できる『技能(スキル)』の数が多かったのである。そして『熟練度』がここにかかってくる。

 

 『熟練度』とは『同じ技能(スキル)を何度も使っていると性能が上がる』という、言ってみればただそれだけのシステムである。

 例えば斬撃攻撃を行う際に炎属性を付与する『火炎斬』というスキルがある。このスキルを何度も繰り返し使うと炎による追加ダメージが発生するようになり、さらい使い続けるとダメージ量が増えるだけでなくより強力なスキルを習得したりすることができる。

 だが『UH』の熟練度システムはそこだけでは終わらない。あるスキルが発展した別のスキルは、発展元のスキルの熟練度に絶えず影響を受ける。つまり『基礎を鍛えることで応用もまた鍛えられる』という現象をゲーム上で再現しているのである。

 逆も然りで発展先のスキルを鍛えることで発展元のスキルが強化されることもまた確認されている。

 

 さらに、スキルは一度に多数発動させるとそれぞれが影響しあって効果が複合するように設定されている。

 例えば先ほどの『火炎斬』と斬撃を飛ばすスキルである『飛燕斬』を同時に使用すると、『飛ぶ炎の斬撃』を放つことができるようになるのである。

 

 熟練度の蓄積によるスキルの強化、スキルの組み合わせによる新しい技。

 これらの要素はゲームプレイヤーたちのやる気を大いに刺激し、数多のプレイヤーが自身のプレイスタイルを追求していった。

 ゲーム上でプレイヤーが取得できる『職業』は主職業(メインジョブ)と副職業(サブジョブ)の二つが存在しているが、熱心なプレイヤーたちはその組み合わせにも創意工夫を重ねていった。

 何せ、ある種鉄板といえるような職業同士でも、何故組み合わせたのか理解できない奇矯な職業同士でも、スキルの組み合わせと熟練度の積み重ねさえあれば実戦に耐えうるというのがこのゲームの肝である。

 さらに言えばプレイヤーがどのスキルを好んで使用するかによって同じ職業同士でも全く違うプレイスタイルになることさえもあった

 

 あるプレイヤーは『戦士(ウォリアー)』と『騎士(ナイト)』を組み合わせ、圧倒的な攻撃力と防御力で敵を正面から打倒していった。

 あるプレイヤーは『僧侶(プリースト)』と『錬金術師(アルケミスト)』を組み合わせて魔法と薬による治癒に特化した。

 あるプレイヤーは『吟遊詩人(バード)』と『降霊術師(シャーマン)』を組み合わせて呼び出した霊を歌で補助しつつ戦わせたが、同じ組み合わせのプレイヤーは歌える霊を呼び出すことで合唱団を形成した。

 あるプレイヤーは『格闘家(グラップラー)』と『射手(シューター)』を組み合わせ、敵の懐に飛び込んで銃撃を行う戦術を確立した。

 あるプレイヤーは『射手(シューター)』と『斥候(スカウト)』を組み合わせ、両者が共通して習得できる『投擲』というスキルに着目し「俺はメジャーリーガーになる」と言い始めた。

 あるプレイヤーは『工匠(クラフトマン)』と『工匠(クラフトマン)』を組み合わせ、大迷宮の建造に着手したが、建造中に自分が道に迷って頓挫した。

 

 このようにしてあらゆるプレイヤーが自分のスタイルを模索し、自分の道を究めていった。

 というよりは究めざるを得なかったというべきかもしれない。

 どんな人間にも無意識のうちに好む選択肢というものがあり、その行動を裏から決定づけているものだ。

 このゲームの熟練度というシステムは各々のプレイヤーの好むプレイの方向性を際立たせていき、必然的にそれぞれを自身の専門分野へと特化させていったのである。

 

 インターネット上の掲示板サイトや有志による攻略サイトでは日夜多種多様な議論が交わされ、その熱気と熱意に興味をもった人々がゲームをプレイするという循環が生まれ、『The Unlimited Horizon』は人気タイトルとして一躍著名になっていったのである。

 

 

 

******

 

 

 というのが昔の話。

 ゲームが遊戯(ゲーム)であり、仮想現実(バーチャルリアル)が仮想(バーチャル)だった頃の話である。

 

 『The Unlimited Horizon』の世界は現実(リアル)として動き始め、プレイヤー達はこの世界で生きることを余儀なくされた。

 そんな事件から既に十五年が経過していた。

 

 

 

 




『VRの五感に対する制限』
五感干渉を応用した特殊な拷問プログラムといった非人道的なものや、五感を刺激することで異常な感覚を得る電子ドラッグといった危険な用途を制限するための法律が各国で制定された。
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