※この作品はR-18です。

The Unlimited Horizon   作:白臼

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第二十二話 温泉に行こう 前(※)

 

 

 銀色の小さなフォークを手に取ると、置かれていた皿と触れ合ってかちっ、という音がした。食器はどれも手入れが行き届いていて清潔だ。

 私はフォークをケーキに突き立ててその生地を掬い取る。密度の高い生地の重たい感触が手に伝わってくる。

 ケーキはカカオを練り込んで作られた黒いチョコレートケーキだ。口に含むと濃厚な味が口の中に広がった。スイーツとして甘みを残しつつもカカオの苦みを前面に押し出した大人の味である。

 ケーキの上に粉雪のように塗してあるのは白糖と粉ミルクのようだ。口に含むと感じられる砂糖の甘みとミルクの香りがアクセントになり、ケーキ本体のビターチョコレートの味を引き立ててくれる。

 

 ケーキを咀嚼して飲み込んだ後は、一旦フォークを置いてコーヒーに口を付ける。

 窓から差す午後の日差しに揺れるコーヒーの湯気、その香りを楽しんでからカップを傾けた。

 濃厚な味のケーキに負けないガツンと濃い目の苦いコーヒーである。それでいて酸味は控えめで雑味もなく、とても飲みやすく仕上がっている辺りバリスタの腕前が窺い知れるというもの。

 口の中のケーキをコーヒーで流してさっぱりとした気持ちで、再度ケーキを食べる。今度は口内に微かに残ったコーヒーの香りとケーキの味が混じり合いまた別の顔を見せてくれる。

 

 「美味美味(うまうま)。」

 

 本日は午後三時前。

 私、リオ・オーガスタは贔屓の喫茶店でアンニュイな午後のティータイムを楽しんでいた。

 この喫茶店は街中の路地の奥まったところにあり中々人目につかない、所謂隠れ家的な店なのだが、出すメニューの質が高く密かに人気なのである。

 ちなみに夜になるとバーとしても運営しているのでそちらにもちょくちょく足を運ぶ。

 

 自分では決して作れないだろう高品質(ハイクォリティ)なケーキとコーヒーに舌鼓を打つ。

 私が作る料理はどうにも雑で、切る、煮る、焼くといった豪快な調理で終わりがちだ。

 つい数日前まで地下都市に潜っていた分、こういった繊細な菓子類が非常においしく感じられた。

 質が高い分、お値段も相応に高いが惜しくはない。今はダンジョンでの収入があって懐が温かいのだ。

 

 ケーキを食べ終えてから、コーヒーのお代わりを注文する。

 そして――――――店員に断りを入れてから私はテーブルの上に布を敷いて、ガラガラと素材(・・)を並べ始めた。

 素材の主なラインナップは木材と鳥類の羽、それと魔物の骨や石、金属片の類である。

 

 やることはそう大したことではない。矢を作成するだけだ。

 ゲーム時代から変わらないことだが、大抵の職業(ジョブ)には自身の装備品をある程度作成したり、修理するためのスキルが備わっている。私なら射手(シューター)として弓のメンテナンスや矢玉の作成を行うことができる。

 ………とはいっても装備品専門の生産職である鍛冶師(ブラックスミス)に比べれば能力は劣る。例えば私は自分の愛弓である『ウィンドランナー』が破損したら自力で修理できない。

 矢に関しても自分で作るより専門家が作ったものを買ってきても良いのだ。

 それでも自分で矢を作るのは、一本一本自分の手に馴染むように微調整ができることと………後は純粋に暇つぶしになるからである。

 

 ゲーム時代ならこうして空いた時間に他のプレイヤーとチャットしたり、外部のネットにつないで動画サイトを巡ったりなんかもできたのだが現在ではそうもいかない。

 そんなわけで暇つぶしにこうして矢の制作をしているうちに私もすっかり作業に手慣れてしまった感がある。

 元々ルーチンワークや細かい作業に没頭しやすい性質なのもある。私は黙々と短刀(ナイフ)で木から矢軸を削り出し、矢羽や鏃を埋め込んでいった。

 

 「………………。」

 

 こういう作業は家でやれ、と非難する人もいるだろう。

 私も普段はそうしている。だが、美味いコーヒーを飲みながら作業したいときにはこうやって喫茶店でやっている。

 普通の店なら当然難色を示されるが、私はこの店の常連でありかつ、オーナーとは知り合いなので大目に見て貰っている。

 とはいえ多少の罪悪感はあるので、私の席は店の一番奥まったところにあるあまり人目につかない席だ。作業で出たゴミも全部自分で持ち帰るようにしている。

 

 

 

 「………………。」

 

 コーヒーに時折口を付けつつ、黙々と、あくまで黙々と作業を続ける。

 その間私の耳に届く音は手元で素材をナイフで削る音、店の調理場で湯が沸く音やオーブンに火が入る音、他の客のテーブルの上で皿とカップ、あるいはフォークやスプーンが擦れ合う音………。

 

 出来上がった矢がテーブルの片隅に積みあがり始めた頃、ふと顔を上げて窓から差す日の傾き具合を確認する。

 ふむ、と袖を捲って端末を起動。現在の時刻を確かめると丁度いいころの時間になっていた。

 加工途中の差材と出来上がった矢を片付けてから店員を呼んで会計を済ませる。

 

 「お会計1560ルシになります。」

 

 店員は何食わぬ顔で頼(・)ん(・)で(・)も(・)い(・)な(・)い(・)の(・)に(・)領収書を発行してくれた。

 私はそれに特に何も言わず支払いを済ませて店を出る。

 そして狭い路地裏を表通りに向けて歩き出しながら、先程受け取った領収書をひっくり返して裏を確認した。

 

 「ふーん………。まぁ、良いですけどね。」

 

 そこに書いてあるのは簡単な数字と記号だ。そうとうに簡略化されているので一見では意味を読み取りづらいが、それは日付と場所を示している暗号だ。

 ………これは喫茶店のオーナーからの秘密の連絡だった。わざわざこんな手の込んだことをしなくても普通に手紙を出せばいいのに、と思ったりもするが、一応理解はする。

 相手にも立場があるので誰かに勝手にみられるリスクを冒して部屋の郵便ポストに手紙入れて置くようなことはしたくないのだ。

 

 どうせまたぞろ仕事の依頼だろう。

 色々と援助してもらっている関係なので、よほどの無茶ぶりでない限りは引き受けてあげるとしよう。

 そう思いながら、端末のアイテムボックスに領収書を突っ込んだ。

 

 路地裏を抜けると表通りに入る。

 石畳で舗装された小綺麗な道で、人々が通る歩道と馬車が通るための車道が存在していた。

 経済都市であるフロラントは他の街からの商人も多いのでこうして多数の馬車が通りを行き交う。そうでなくとも街自体がそれなりに広いということもあり、街中の移動手段として馬や馬車を使う人もいる。

 

 今も目の前を非常に大きな四頭立ての馬車が通り過ぎていった。

 あれは市内の特定箇所を巡りながら有料で人々を載せる馬車のサービス………つまりはバスだった。他にもタクシーのような事業をしている馬車もあるようだ。

 

 ちなみに私はバスやタクシーの世話になったことは無い。

 目的地が遠かったりした場合、建物の屋根を走っていくからだ。

 これは身体能力に自信のある人間にはあまり珍しくない移動方法で、時々屋根の上で同じことをしている人に出くわすこともある。

 時々子供が真似をして怪我をする事例が報告されているが、よいこは真似をしてはいけません。

 

 通りを歩いて交差点の角で足を止める。

 私がいる場所は大時計が正面に据えられた建物の前である。

 この建物は一種のランドマークとして認知されており、視界を巡らせると誰かを待っていると思われる人が周囲にちらほらと見受けられた。

 

 まぁ、私も今日は待ち合わせなのだが。

 

 「………………。」

 

 特にすることもないので大時計をぼーっと見上げながら時間を潰す。

 余談だがこの世界では時計というものは高級品だ。精密なからくり仕掛けの物を職人が一個一個手作業で作っているのだからさもありなん、という話だが。

 なので一般の人は時間を確認するときに町中に備え付けられているこのような大きな時計が定期的に鳴らす時報を頼りにしている。

 他には降霊術師(シャーマン)が呼び出す月精霊(ルナスピリット)が正確な体内時計を持っているという話だが………流石にそれを時計代わりに使う人間はいないだろう。

 

 色々と言ったが、つまるところこの世界の人間の時間に関する感覚は大雑把(おおらか)なのだ。

 なので、時計機能が付いている端末を使用する我々プレイヤーとそれ以外では時間に関して話が通じないことがしばしばある。

 時計を見て分単位で時間を確認する習慣がないので仕方のないことなのだが。

 

 私がそんなことを考えていると、大時計がごぉん、ごぉん、と低く鈍い音を奏で始めた。丁度五時を知らせる鐘の音である。

 鐘の音を聞きながら周囲をそれとなく観察してまだ待ち人が来ていないのを確認する。

 五時に来てくれ、といったらその前後三十分くらいは様子を見た方が良いだろう。時間を知らせる鐘が鳴った後に出発する人間もいる。

 

 地球ではそうもいかなかったのだけど、と昔を懐かしみながら待つことしばらく。

 私の気配探知の範囲内に馴染みのある気配が引っ掛かった。

 

 「来ましたか。」

 「ぬっ!?……………あぁ、リ、リオ殿か………驚かさないでもらいたい。」

 

 てくてくと近づいて無造作に声を掛けたら盛大に驚かれた。

 これがダンジョン内だったら抜刀していたかもしれない、というほどの剣幕でこちらに振り返ったのはキムロだった。

 別に驚かすつもりはなかったのだが、悪いことをしてしまったかもしれない。

 

 「あぁ、申し訳ありません。街中でも気配を消すのが癖になっていまして………。」

 

 キムロが大きな声を出したので周囲から何かあったのかという視線が飛んでくる。

 気配探知スキルの熟練度(レベル)がなまじ高いせいでそういった視線が全部わかってしまうのでちょっといたたまれない。

 特に私はこの通りの超美少女(圧倒的自我自賛)なので注目度が高い。

 このままだとジロジロと見られ続けるのは必至だろう。

 

 ――――――なのでこちらに向いた視線を全て逸らす。

 

 やりかたは簡単。

 ポケットの中の小銭を取り出して、指で弾いて高速で投擲。

 どこか遠くの方で硬貨が石畳に弾かれて甲高い音を立て、周囲の人々の注目は一気にそちらに寄せられる。『小銭が地面に落ちる音』は大抵の人の注意を引ける。

 その瞬間の隙をついて隠形を発動。キムロの陰に隠れる。以上である。

 

 「妙に手慣れているな………。」

 「簡単ですが便利なテクニックですよ。」

 

 気配探知で他人の意識が何処に向いているのかを理解していれば、そこの死角に入り込んで隠形の効果を更に上げることができる。

 一度自分が注意を引いてしまうとそこから逃れるのは困難だが、その時は一瞬でも相手の注意を反らせばまた意識の死角に潜り込むのは難しいことではない。

 これは魔物狩りでも対人戦闘でも有効な技術(テクニック)なので私は多用している。

 

 現に今も、小銭の音に周囲を引かれた人々は顔の向きを戻した瞬間、さっきまで視界に捉えていた女の子(わたし)がいなくなっているのに気付いてキツネにつままれたような顔をしていた。

 ちなみにキムロが意識を私に向けることができているのは単純に私が彼の手を握っているからだ。

 

 「………ところでリオ殿………。」

 「なんですか?」

 「今日はその………少し、雰囲気が違うのだな。」

 

 彼の片手を握りながら上目遣いに見上げると、彼は少々どもりながら指摘してきた。

 はっはっは、愛いやつめ。

 

 「………どうです、似合います?」

 

 スカートの裾を見せるように摘まんで優雅にターンして見せる。

 彼は少し顔を赤くしながらコクコクと首振り人形のように首肯した。

 うーん、ここは気の利いた誉め言葉の一つも欲しいところ。

ラストル辺りなら流れるような自然さで紳士的なセリフを言ってくれるのだが………此処にいない男性(ひと)の事を引き合いに出すのは無粋か。

 

 私の上着はいつものフリルジャケットだが、その下はいつもと違う装いである。

 今日着ているのはお馴染みのブラウスとスカートではなくワンピースだ。全体は黒地で仕立ててあるが、襟や裾の辺りは白い布が使われておりジャケットと揃えても違和感のないデザインになっている。

 足元は革靴ではなくミュール、手からは手袋を外している。

 それと髪も後頭部の辺りで結って詰めている。いつも靡かせていた髪をまとめたので首筋周りを風が抜けていく感じがする。

 

 意識の向き方を感じるとキムロの注意は丁度その首周りにいっているようだ。

 確かに女性が髪型を変えることで普段とのギャップにドギマギすることはある。男性は特にそうである。私にも(・・・)覚えがある(・・・・・)ので理解(・・・・)がある(・・・)。

 

 ちなみに当の彼自身はダンジョン内とほとんど変わらない姿だった。

 休日のはずなのに鎧で帯刀しているというのは如何なものか。しかも今日はデートだというのに。

 

 「で、でえと(・・・)とな?」

 「逢瀬とか、逢引とか………そう言った方がわかりやすいでしょうか?」

 

 私がそう言うと彼はまた少し顔を赤くした。

 以前、肝を据えたかと思ったのだが純情気質は相変わらずらしい。

 まぁ、これも彼の味か。

 

 「さて、いつまで駄弁っていてもなんですし………早いところ行きましょうか?」

 「………うむ、そうだな。」

 

 私は笑いかけて改めて手を握る。

 そうすると彼は数瞬間を置くと、口角を上げて微かに微笑み手を握り返してきた。

 うん、少々ぎこちないが合格点としよう。

 

 「そう言えば、リオ殿………。」

 「何でしょう?」

 「拙者は今日何処に行くのか聞かされていないのだが………。」

 「おっと、そういえばそうでしたね。」

 

 手を握ったまま彼を先導しつつ、質問に振り返った。

 今日は以前にも約束したように二人でダンジョン探索の打ち上げ会をする予定だ。

 ただ、私は手紙を出して待ち合わせの日時を指定しただけで具体的にどこに行くのかは秘密にしていた。

 

 「何………この街、というかこの国のちょっとした名物ですよ。」

 

 笑いながら私はそう言って夕暮れ時の街を歩いていった。

 

 

******

 

 

 さて、水には軟水と硬水の二種類があるのをご存じだろうか。

 カルシウムやマグネシウムの含有量が低いのが軟水、高いのが硬水だ。

 基本的に飲料水や生活用水として適しているのは軟水とされている。

 硬水は中に含まれているカルシウムやマグネシウムのせいで口当たりが重たくなるし、肌に触れたときに傷つきやすかったり、水垢が出やすかったりする(硬水にも良いところはあるのだがここでは割愛する)。

 

 我々(プレイヤー)の今は遥か遠い故郷である日本は軟水が多く出やすい土地柄であり、それに根差した文化が地味に多かったりする。

 風呂の文化などもそうだろう。中世の欧州に風呂に入るという文化がほとんどなかったのは土地の水が硬水だったのであまり入浴に適さなかったため………という話だ。

 

 さて――――――地球でいう所の中世欧州をモチーフにしているこのオリエス大陸北西部はそんなところまでご丁寧に参考にしていた。

 つまり、『風呂に入る』という文化がある国がこの地域では少ない。せいぜいサウナである。

 

 ゲーム時代は風味付け(フレーバー)程度でしかなかったそんな設定も、この世界が現実になったことで死活問題と化した。

 大多数のプレイヤーは日本人であり、日本人の魂には風呂とは湯船につかって温まるものであるという概念が焼き付けられている。

 結果として――――――この世界で生きるにあたって多くのプレイヤーは『風呂に入る』という文化を持つ国に安住の地を求めた。

 

 そしてオリエス大陸北西部において数少ない風呂文化を持つ国こそ――――――私が現在暮らしているセプテモールという国なのである。

 

 「つきましたよ。ここが目的地です。」

 「おぉ………。」

 

 そんなこんなでしばらく歩いてちょうど日が西の地平線に沈んだ頃、私達は目的地に到着した。

 周囲に大きな建造物があまり見られないフロラントの街の郊外。

 そこに突如として出現したのはこの街、この国、この地域の文化様式からいきなり隔絶された建物だった。

 

 それは漆喰を塗られた白い壁で周囲を囲み、多数の瓦で屋根を覆う、木造の平屋建ての大きな建物だった。

 障子紙を張られたスライド式の玄関扉の上には湯気をモチーフにした模様が描かれた布が垂れさがり、玄関脇には火を灯した石の灯篭(ランタン)が置かれている。

 

 

 つまり――――――和風建築の温泉宿である。

 

 

 「これが音に聞く『和風』………というものか。」

 「初めてですか?」

 「左様。」

 

 いかにも侍です、と言わんばかりのキムロだがこうした和風の建物に足を踏み入れるのは初めてらしい。

 そういえば彼が刀を使っているのはそれが初めて人から貰った思い入れのある武器であるからで………その背景にある日本文化などは全く知らないのだ。

 ………うん、まぁ、そういうこともあるよね。

 

 気を取り直して玄関の障子戸を開けて中に入ることにする。

 予約をしていたものであることを告げて仲居さんに奥に案内してもらう。

 仲居さんはしっかりと着物を着こなした見事な立ち振る舞いであり、純木造の内装は品よく整っていた。

 

 この温泉宿のオーナーは勿論の事プレイヤーであり、商連の関係者だ。

 郷愁に駆られたプレイヤーをターゲットにしたのであろう、この純和風の宿は一部の隙も無い見事な作りだった。現地の人々(ネイティブ)が模倣したタイプの和風建築ではこうはいくまい。

 

 私はなんだか久しぶりの里帰りのような、温かくも昂揚とした気持ちを覚えていた。

 ちなみにキムロは玄関先で靴を脱ぐように言われて戸惑ったり、廊下をきょろきょろ見回したりしながら歩いたりと完全にお上りさんと化していた。

 

 「こちら、リオ様のお部屋になります。御用の際は机の上の呼び鈴を鳴らしてください。」

 「ありがとうございます。」

 「では、ごゆっくりどうぞ。」

 

 仲居さんから鍵を受け取りつつ、予約を入れていた部屋に入る。

 畳に座布団、襖に障子。何もかもが懐かしい。

 すぅ、と息を吸い込むと藺草(いぐさ)の香りと………温泉の香りが肺を満たした。

 からからから、と戸を滑らせて縁側に出ると庭と――――――庭を見渡すことができる位置に風呂が備え付けてあった。

 石を組んで作られた浴槽にかけ流しのお湯が流れる微かな音がこだましている。

 

 「いやぁ、いいですねぇ。………………いいですねぇ。」

 「う、うむ。そうか。」

 

 私が縁側に立って感慨に耽っている間、キムロは相変わらず挙動不審だった。

 荷物を部屋の隅に置いてから手持ち無沙汰のようにうろうろとしている。

 話を聞くと、何でも座る椅子を探している、とのことだ。私は少し笑って座布団に座ればよいと言った。

 彼は座布団に座ると「クッションを床に直接敷いて座るのだな」と発言した。

 その反応が何だか面白くて私は思わずくすくす、と笑ってしまった。

 

 「さぁて、せっかく温泉宿に来たんですからお風呂に入りませんとね。」

 「うむ、左様か。ではリオ殿が先に入ってくれ。拙者は………」

 「何言ってるんですか?」

 

 私は思わず呆れてしまった。

 男女が温泉宿に二人きり、個室に風呂付き、水入らず――――――となればやることは一つに決まっているではないか!

 

 「当然一緒に入るに決まっているでしょう。」

 「一緒………お主と、拙者が?」

 「勿論です!」

 

 私がそう自信満々に言い切ると、彼は犬が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

 

 

******

 

 

 「あぁ゛~、いいですね~………。私の故郷には『温泉は命の洗濯』という言葉があるのですが、こうしていい風呂に来るたびにそのことを実感します。」

 「………『命の選択』………………?」

 「……………洗う方の、洗濯ですよ?」

 「むっ?あぁ、なるほど。そういうことか………なるほどそれなら納得だ………。」

 

 一緒の風呂に入りながら他愛のない雑談に耽る。

 石造りの浴槽の上には雨除けのために屋根が付けられているが、壁のないかなり開放的な作りになっている。

 涼しい夜風が吹き、湯面に波紋を立てては抜けていく。

 庭に備え付けられている鹿威(ししおど)しが立てるカコン、という音が残響と共に夜に消えていく。

 

 庭の反対側に目を向ければ塀の向こうに街明かりが見える。電灯などとは違う、ゆらゆらと揺れる松明の火が朧気な光で家々を照らしていた。

 魔法式の街灯などはまだまだ燃費も悪く、維持が面倒なのでこの宿があるような郊外には使われていない。

 現代の地球人である私から見ればまだまだ頼りない夜の明かりだが、それはそれで嫌いではなかった。夜空を見上げれば星が見えるなんて、知識では知っていても体験したことはなかったのだから。

 

 「拙者の故郷では身を清めるのは水浴びか、濡れた布で体を拭うくらいだったのだが………こうして、湯に全身を浸すというのも、存外悪くないものだ………。」

 「でしょう?この国は比較的火山が多いので、比例して温泉が多く湧くのですよ。」

 「なるほど、な………。………………っ………。」

 

 浴槽の縁に背中を預けて浸かるキムロ。時々息を詰まらせる素振りを見せながらも、目を閉じてリラックスしているようだ。

 横目でちらり、と彼の顔色を確認する。顔色は結構赤い。

 風呂に長く入り慣れていない人間はのぼせる危険があるのでちょっと注意しておきたいところだ。

 

 でも、まだしばらくは大丈夫だろう。

 私は彼の熱い胸板に背中を預けながら、浮かべた盆の上に入っているお酒に手を伸ばした。

 お猪口に注いだ程よく温まった日本酒を口に含む。お米の甘みを抽出して余計なものを削いだような味と香りを堪能する。

 お酒単体で完結したこの味は、これだけで肴も不要なほどだ。

 

 「キムロさんはやっぱり、しばらくこの街に滞在されるのですか?」

 「………うむ、そうだな………。この街には良い鍛冶師もいる………。何より紹介してもらった冒険者道場………あそこでは何かと学ぶことが多いのでな。」

 「なるほど、それはよかったです………。んっ、ふぅ………………っ♡」

 

 話している最中、少し身じろぎした拍子に中(・)が擦れて声が出てしまった。ぞくっ、と甘い痺れが背筋を昇ってくる。

 ただそれ以上は不用意に動くことはせず、じんわりとした快感が体に広がるのを甘受する。

 温泉の温かさと混じり合って体が内側から温かくなる感覚を堪能する。

 さらに何食わぬ顔でもう一杯お酒を飲むと胃の腑からも熱が体に染み渡る。

 

 「それで………結局、刀はきちんと直ったんですか?」

 「あぁ、鍛冶師が多く拠点を持つ通り………確か『工房街』だったか。そこで直してもらえたのだが、そのときに性能も………………うっ、くっ………………!!」

 「ぁん………っ♡ もう、キムロさん我慢できなくなったんですか………?」

 「もう、と言われても、この体勢は些か………………っ!!」

 

 私が腰かけているもの――――――つまりはキムロの腰ががくん、と揺れてその振動が私の中(・)に伝わってくる。

 中(・)に入っている肉棒がその勢いで軽く子宮口を突き上げてきた。

 それに少し驚いた私は、我慢の足りない彼にお仕置きをするように目一杯の力で中(・)を締めあげた。

 私にそうされると彼は「うぅ………っ」と呻いて宙を仰いだ。

 ただ、射精を促すように上下に扱いたりはしない。あくまで圧迫するだけだ。

 それでも相当に心地よいのであろうことは彼の表情を見てわかる通りだ。

 

 もうお分かりいただけるだろう。今の我々は………………つまりは背面座位の体勢である。

 一緒に風呂に入って裸の付き合い………としゃれこんでいたのだが、湯船の中に揺れる彼の愚息(ムスコ)を視姦していたらムラムラしてきたので、強引に押し切ってヤることにした。

 おかげで裸の付き合いが裸の突き合いにランクアップしてしまった。

 

 ただ、せっかくの風呂をゆっくり楽しみたいという気持ちもあるので、私は彼の膝の上に座って下の口に彼のモノを咥え込みながら、ゆったりと入浴を満喫していた。

 一方のキムロは時々「あー、」だの「うー、」だのと唸って快感を紛らわそうとしている。

 唸っているだけでは誤魔化しがきかなくなってきたのだろうか、キムロが腕を私の体に回して後ろから抱きしめてくる。

 

 「リオ殿………その、申し訳ないのだが、拙者はそろそろ………っ」

 「んぅ………辛抱が効きませんねー………。せめて三十分くらいはゆっくりしていきましょうよ。」

 「さ、三十分?このままで?」

 「そうですよー。」

 

 私がそう言うとキムロは眉間に皺を寄せてまた唸り始めた。

 狼人(リカント)のセックスは概ね互いの性欲をぶつけ合うような荒々しいものであることが多い。

 こういう感じにゆっくり温め合うようなスローなセックスは苦手なのだろう。

 

 ………まぁ、私もその辺はわかっている。わかっていて焦らしているのだが。

 

 私を抱きしめるキムロの腕が、湯船の中で私の体をまさぐる。

 胸の腹の腰の、私の体の感触を確かめるような、繊細でそれでいてどこかねちっこい手つきだ。

 胸元に添えられた大きい手がやわやわ、と私の乳房を揉み、指が乳首をくるくると弄ってくる。掌が脇腹をゆったりと撫でまわし、下腹部や太腿に滑っていく。

 その感触が優しくも淫猥で、私は湯につかりながら熱のこもった溜息を洩らした。

 私の膣(なか)に入っている彼の肉棒が時折ビクビクと跳ねる。その様子から彼の昂りが手に取るように分かる。

 

 逞しい男の腕と胸板に挟まれて、すっぽりと腕の中に納まるように抱きしめられていると陶然とした幸福感に体が満たされる。

 体の外と内、男女の肌と肉を重ね合わせるだけの原始的な悦びを長くゆったりと味わう。

 

 「えぇと、リオ殿。三十分、とは言うが………今どのくらい経ったのだ………。」

 「んー………♡ 今十分くらいですねー………。あと二十分お願いします。」

 「うぐぅ………。」

 

 私からそう告げられた彼はどこか悲壮な表情を浮かべた。キープしていたお菓子を目の前で他人に食べられているのを指を咥えて見ていることしかできない子供のような表情だ。

 その間も彼の腕は私の体を愛撫し続けているし、今度はさらに首筋にキスされた。

 うなじに浮いた汗を吸い取るように、ちゅっ、ちゅっ、と何度も口づけされる。

 なるべく平静を装う私だが、それがくすぐったくて心地よくてつい身を捩ってしまう。

 

 身を捩るとさらに胎内でガチガチに硬くなっている勃起の存在をまざまざと感じる。

 キムロは本人も無意識なのか、ゆさゆさと腰を揺さぶっておりその度に湯船の表面が微かに波立った。

 まるでむずがる子供みたいだなぁ、と私は暢気なことを思った。

 

 「………キムロさん、出したいですか………?」

 

 私がそう言うと背後でキムロはコクコクと頷いた。

 私の体を抱きしめる腕にぎゅっと力が入る。

 ここは以前(・・)みたいに私を強引に押し倒してくれてもいいのだが――――――本人としてはその辺りはNGなのだろう。律儀な男である。

 

 私はふふっ、と笑いを零してからもう一度お酒を口に含んだ。

 そしてそれを飲み込まずに―――――――口に溜めたまま、背後に首を捩じって振り向いた。

 酒を口に溜めたまま「あーん」と口を開けたままの私を見て、キムロも察してくれたようだった。

 彼の口がしゃぶりつくように私の口に重ねられる。

 

 ――――――じゅぞっ。じゅるるっ、じゅずるるる………っ。

 

 口の中に溜めた酒が吸い上げられていく。液体を啜る品のない音が夜の湯殿に響く。

 一息に私の酒を飲みほしたキムロだが、そのまま口を離すことは無く、むしろより一層熱心に私の口を吸う。

 私の口の中に彼の舌が捻じ込まれる。微かに残った酒気を舐め取るように、舌が私の口の中をしゃぶっていく。

 貪られるような荒々しいキスはまるで口の中から痺れるような心地よさだ。

 

 やがてキムロが満足したように口を離したころには、膣(なか)の肉棒はまさに熱した鉄の杭のようになっていた。

 下腹を擦ると逞しい存在感に思わずうっとりしてしまう。自分の体の中を思いっきりくつろげるそれをもう少しだけ長く感じていたいが………彼の方はそろそろ限界のようだった。

 私はせめて巻き込まれないようにお酒を載せた盆を向こうに押しやりながら、キムロの方を振り向いて頷いた。

 

 そのサインだけで十分に伝わったのだろう、彼は私の腰に両手を添えて――――――そのまま軽く持ち上げた。

 

 「ひゃぅん………っ♡」

 

 その拍子に膣内がざりりっ、と削られる。大きくエラを張った雁首が返しのように膣襞を引っ掛けて掻き抉った。

 そしてそのまま彼の手で腰が軽く浮かされて――――――勢いのままに引き戻される。

 ずぐん、と音が立つように肉杭の先端に子宮口を串刺しにされる。

 痛みはない、疼くような甘さが痺れるように背筋を昇るだけだ。

 今まで入れっぱなしだった分、私の中はすっかり解れてしまっていた。

 

 「あぁ………っ♡ あぁっ、ぁんっ♡ んん………………っ」

 

 湯船の中に座り込んだままという不自由な体勢ではうまく腰が動かし辛いせいだろう、キムロは私の腰を掴んで上下に揺さぶることで抽送していた。

 私の体が揺すられるたびに、湯船にじゃぶっ、じゃぶっ、と大きな波が立つ。

 そんな事は気にも留めず、キムロは一心不乱である。「ふーっ、ふーっ」と鼻息も荒く愚息を扱くことに専念している。

 私は湯の中に倒れ込まないように彼の膝に手をついて体を支えた。

 

 (いまのわたし、オナホみたい………………っ♡)

 

 キムロに腰をがっしりと掴まれて上下に腰を動かされる。彼自身にその気はないのだろうが、図らずもまるで自分が彼のペニスを扱くために使われる道具のように思えてしまってぞくぞくする。

 雄(おとこ)が性欲を吐き出して処理するための性玩具(なまオナホ)………………そんな屈辱的なフレーズが脳裏に過ぎると、被虐感でぶるぶると背筋が震えてしまった。

 

 「んぁっ♡ あっ、んは………………ぁっ♡」

 

 胎内で何度も肉棒が行き来するぐちゃっ、くちゃっ、という粘着音がする。

 そのリズムに合わせるようにうまく膣を締め付けると背後でキムロが呻いた。私自身ももちろん気持ちいい。

 ペニスが出ていくときには、敢えてそれに逆らうように締めると雁に胎内を引っ掻かれる。逆に入ってくるときには緩めることで、奥の奥まで膣が抉りぬかれる。

 

 ざばっ、ざばっ、とお湯が撹拌される音が響く。

 抽送の合間に、膣内にお湯が染み込んできて体の内が熱に満たされていく。

 お湯と愛液を混ぜ合わせる杵のように、肉棒が私を中からぐちゃぐちゃに掻きまわしていくのがとても気持ちいい。

 キムロは眉間に皺を寄せながら、赤い顔で汗を額に浮かべながら一心不乱に私の膣で肉竿を扱いていった。

 

 「はうっ、く、ぅぅ………………!!」

 

 突然キムロが私の体を揺するのをやめた。

 代わりに私の腰をより強くつかんで、彼の腰に押し付けてくる。

 子宮口を強く圧迫される。大事なところが男の硬い肉棒に下からグリグリと潰されて、 その奥から甘ったるくてヒリヒリするような快感が染み出してくる。

 お腹の奥から絞り出される気持ちよさに私が悶えているところに――――――精液がぶちまけられた。

 

 子宮頚部を貫通するような勢いで、子宮にどぶどぶと吐き出されていく雄の体液。

 下腹の奥にじんわりと感じるその熱を楽しみながら、私は快感に背を反らせた。足先まで力が入ってぐーっと脚が伸びる。

 雌(わたし)の体が求めているものをたっぷりと流し込まれて、下腹の奥がきゅん、と甘く疼く。

 絶頂まではいかなかったが、心地よいことに変わりはない。

 

 「はっ、はぁ、はぁっ………」

 

 キムロはなおも私の腰を掴んだまま、荒い息を吐いている。

 やがて彼のペニスは精液を吐き出し終えたが、芯の部分にはまだ少し硬さが残っているようだ。

 この分ならまだまだ今夜は楽しめそうである。

 

 「すっきりしました?キムロさん………♡」

 「う、うむ………………。」

 「続きは………晩御飯の後に………いいですよね?」

 「う、うむ………………。」

 「………………大丈夫ですか?」

 「う、うぅ………………。」

 「………。」

 

 大丈夫ではないようだった。

 ちょっと後ろを振り向いてみると、キムロは真っ赤な顔をしたまま目を回していた。

 どう見てものぼせです、本当にありがとうございました。

 

 「………なんだか締まりませんねぇ。」

 

 私はそう呟くと彼の腕を解いて立ち上がった。その拍子に彼のペニスがずるん、と抜けていってしまい一抹の寂しさを感じる。

 できればもう少し楽しんでいたかったが、仕方のないことである。

 確かのぼせたときには熱ダメージ軽減の水薬(ポーション)をぶっかければ楽になったはずである。

 

 私はキムロを湯船の中から引っ張り上げ、担いで風呂場を横断するのだった。

 

 

 

 




『鍛冶師(ブラックスミス)』
プレイヤーが選択できる職業。生産系三職の一つであり、装備品が専門。
装備品ならなんでも対象になるため『鍛冶師(ブラックスミス)』という名のイメージに反して作れるものの範囲は広い。
木で杖を作るにせよ、布で服を作るにせよ、革でベルトを作るにせよ、金銀玉石で指輪を作るにせよ、装備品であるならば鍛冶師の領分である。ただし、どのような素材でどのような装備品を作れるかに関しては当人の熟練度がかかってくるため、必然的に各々自身の専門分野に特化していく。
鍛冶師に限った話ではないが、貴重で強力な素材程『加工難易度』が高いため加工できる者が限られてくる。武器を作るときだけでなく、武器が破損した場合もそうした専門家に依頼することになるため、強力な武器を使う冒険者は優秀な鍛冶師と懇意にしていることが多い。
(まだ未登場だが)リオの弓と衣服を制作・修復できる専門家はフロラントに拠点を構えているので、そのこともリオがこの街で暮らしている大きな理由の一つとなっている。
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