――――――落ちて行く墜ちて行く堕ちて行く落ちていく墜ちていく堕ちていくおちていく
――――――墜ちて行く堕ちて行く落ちていく墜ちていく堕ちていくおちていく
――――――堕ちて行く落ちていく墜ちていく堕ちていくおちていく
――――――落ちていく墜ちていく堕ちていくおちていく
――――――墜ちていく堕ちていくおちていく
――――――堕ちていくおちていく
――――――おちていく
――――――おちてい
――――――おちて
――――――おち
―――――お
―――――
薄暗い仄昏い僅冥い万象の万障たる晩暁の有無に掛かる罹る係る係る濃霧の様に要にして仕手にして既にげにして知れぬsireneのサイレンの試練に連に仁連に連なるものなる鳴るもの成るとなれば慣れれば生るだろう牢の楼の廊の呪う鈍い老いの追いの甥に追い縋るならばバラバラの騾馬に薔薇を原で払え祓え掃え給えば賜え得ると得ると心得る縷々と流浪す瑠璃色に炉にくべられるKubera箆にHeraの栄光なりしHerclesのレスポンス一オンスの御崇の煤ありて座りて立天の陸天の六天の天皇の能の能の
言祝ぎ言祝ぎあなめでたやあなめでたや!Neuronの神髄は真髄は茂茂と絡み合う網の網からなる大網が直列ならざる並列いやさ量子が如く曖昧模糊たる実在と非実在の
In the beginning, the Word already existed.
The Word was with God, and the Word was God.
(The Gospel according to John 1-1)
black out…
count over…
******
「う、ぅ…………。」
呻き。呻き声。
多分それは自分の声だ。
ひどく体が気怠い。全身をミキサーにかけてドロドロに溶かされた後のような、暴力的なまでの倦怠感。
泥状になるまで撹拌された意識が像を結んで、自分が自分の自意識を取り戻すのに酷く時間がかかった。
まるで二日酔いの後のようだ。自分の体のはずなのに動かすのに苦労する。まるで体と脳を繋ぐ部分が破損して復旧工事の途中のような、そんな感じだ。
「………うぅ………。」
頑張って――――――とにかく頑張って瞼を開く。
あぁ、なんて気分の悪さだ。今夜は特に夢見が悪かったような気がする。それがどんな夢だったのかは思い出せないけれど、とにかく奇妙で奇怪な、そんな夢だった。
そして
「―――――――――はぁ?」
がばっ、と思わず跳ね起きる。頭の中の気怠さなどは一瞬で吹き飛んでいた。
辺りを見回す。自分のすぐ傍には茶色い樹皮の木、寝転んでいた場所は雑草が茂る地面の上、周りをまばらに囲んでいるのは蔦と葉で作られた繁みと凡庸な木々。
………どうみても森の中である。
「なんで………。」
疑問が頭の中で錯綜する。
自分は寝ていた。自宅で寝たら自宅のベッドで目を覚ますはずだ。
だが、この森は何処からどう見ても自分の部屋ではない。
ならどういうことだ?誰かが自分の寝ている隙に拉致して森に放り出した?目的は?どう考えても意味が分からない。
いや、まて。何か大事なことを見落としてないか、俺。
「あー………あ、あれ………………?」
声を出す――――――自分が想定していた音より高くて細い、ソプラノだった。
手を翳す――――――そこにあったのは黒い手袋を嵌めた、華奢な少女の掌だった。
つまり――――――葉月了ではなく、リオ・オーガスタの体がそこにあった。
いや、そこにあった、というのは正しい表現ではない。
『俺』がリオだった。
「え、えっと………どういうことなんでしょう。」
俺………じゃない『私』のこの体はVRゲーム『The Unlimited Horizon』のアバターだ。そのこと自体に問題はない。慣れ親しんだ、もう一つの自分の体だとさえ言える。
だが、寝て起きていきなりこの体というのはわけがわからない。
普通VRゲーム端末はプレイヤーが睡眠状態に入ると脳波を感知して、端末自体がスリープ状態に入り、長時間にわたって再入力がないとシャットダウンされる。
VR空間に入り込みすぎて自分の現実の肉体を忘れて餓死したりしないようにするための
なので――――――VRゲーム中に寝落ちして、そのままゲーム内空間で目を覚ますというのはあり得ないことなのだ。
「そうだ、ここは………。」
自分が眠る、いや
確かそう………自分の
森の中でちまちまと素材である薬草の類を回収し終えて、さて帰ろうかという所で――――――何があったんだったか。
確か――――――ノイズ、のようなものに周囲が包まれて――――――そこからどこかに落ちていくようなおちていくような――――――。
駄目だ、うまく思い出せない。
頭を振って思考を何とか整理しようとする。
その時、ふわりと視界の端に金色の髪の毛が舞って芳しい花のような香りが――――――
「待て、それはおかしい………。」
香り、匂い。それはVR空間では
自分の長い髪を一房引っ掴んで顔の前に寄せる。そして少し息を吸い込んでみる。
………いいにおいがするな。
「いや、そうなんだけど、そうなんじゃなくて………。」
自分の体臭、というか髪の匂いにときめいてどうするんだ自分………。
あぁ、でも
そういうの意識するの初めてだし………。
――――――気を取り直そう。
まず、VR空間で嗅覚が発生するというのは異常事態だ。
なぜなら嗅覚と味覚はどのようなVRソフトであっても制限がかけられている。これは国際法上で定められている制限だ。
詳しい話は知らないが、嗅覚や味覚を自由に作って人間の脳に直接叩き込むタイプのVR空間用ウイルスのようなものが開発されたことがきっかけになったとか………そういう話だ。
「苦っ。」
髪の毛に雑草が一枚くっついていたので、試しに口に放り込んでみると案の定青臭くて苦かった。
ぺっ、と唾液と共に吐き出す。
………嗅覚と味覚が作用している。
これはもう、完全に異常事態だ。
ゲームのアップデートか?それにしたって国際法に反するようなことを運営がするはずもないだろうが………。
――――――運営?
「そうだ。」
簡単に確かめる方法がある。そう、端末からメニュー画面を見ればいいのだ。
これがアップデート(それはないだろうが)あるいは何らかのバグ(現状これが可能性が高い)であるならば、プレイヤーに対して何らかのお知らせが運営から入っているはずだ。
それを確認するために私は自分の左手首の腕時計型の端末を起動してメニューを表示させて――――――
――――――背筋が凍った。
「………………はぁ………?」
本日二度目の間抜けな声が漏れる。
いや、今回ばかりは勘弁してもらいたい。
これは、こればっかりは本当にぞっとしたのだ。
――――――メニュー画面が死んでいる。
『メッセージ』、『チャット』、『フレンドリスト』、『ステータス』――――――そして何より『ログアウト』。それらの項目が死んだように灰色になっていた。
微妙に震える指先で目の前に表示される画面にタップしてみても、干渉を拒絶するような音が虚空に響くばかりだった。
ただ、生きている項目も残っている。『プロフィール』、『アイテムボックス』、『装備』、『財布』、『マップ』――――――あと、時計機能がおまけで――――――。
「え、あ、あれ?」
メッセージが確認できない、ログアウトもできないとそれだけで軽く恐慌していた私だが、更に目を疑うものが時計欄にあった。
時間がおかしいのだ。
「2131年………?」
おかしい。今年は2121年のはずだ。
えーと。
大学を22歳で卒業して『UH』をその年にプレイし始めて現在4年目だからそのはずだ。
2095年生まれで26歳だから今年は2121年のはず。
単純な足し算だ。間違えていないはず。
なら………………なんだ、この表記は?
なんで時計は勝手に十年進んでいる?
これも、バグの一種か?
俺、いや『私』は何かとんでもないことに巻き込まれているんじゃないか?
「………………………っ。」
靴の中が渇く。ごくり、と唾を飲み込む。その時に喉が動く感触がいやに
額に不快感を覚えて、袖で拭った――――――冷や汗をかいている。
どっ、どっ、と耳の奥で何かが音を立てている。それは間違いなく―――――――――自分の血管の脈動だった。
脈動。
思わず胸に手を当てる。
服の下にある、柔らかくも張りのある感触に頓着する余裕はなかった。
ただ私の意識は――――――自分が手を当てた胸の奥、どくん、どくん、と逸るような音を立てている心臓の鼓動に注がれていた。
そして否が応でも理解させられる。
この体は――――――生きている。
「あぁ、くそ………っ。勘弁してくださいよ………。」
呻くような声が出る。思い出すのはVRゲーム黎明期の都市伝説だ。
曰く、「ゲームの中に閉じ込められた人間は生死をかけたデスゲームに巻き込まれる」、「VRゲームの世界は実は此処とは別の時空に存在する本物の異世界」、「いつかゲームの中のAIが自我に目覚め、
ただ、現在の自分にとっては笑い話では済まされなかった。
認めたくない。
認めたくないし、そんなのどう考えても非現実的なのだが――――――多分、私は
………多分。おそらく。メイビー。
「一世紀くらい前のラノベとかウェブ小説じゃないんですから………。」
こういうときはある種のテンプレとか、そういうのがあるんだったか?
正直よくわからない。その手の
「………………っ。」
混乱している。正直言えば困惑しているのだが、完全に見知らぬ世界ではないというだけでまだマシと考えよう。
幸い此処は私が慣れ親しんだ『The Unlimited Horizon』の世界。そして今の私は工場職員の『葉月了』ではなく――――――冒険者の『リオ・オーガスタ』なのだ。
背中に手を回し、そこに引っかけていた弓を手に取った。
私の愛弓、『ウィンドウォーカー』。その
アステライト神鉄製の青い空のようなリムと、掌にしっくりくるその手触りと重みを感じていると――――――少し、心が落ち着いてくる。
「………………よし。」
すぅ、はぁ、と何度か意識して息を吸っては吐いてを行い、気を落ち着かせる。
そうすると、多少は周囲に目を向ける余裕も生まれてくる。
私が今いる場所は何の変哲もないただの森の中だ。街からは歩いて数分。魔物もそれほど多いわけではないし、強いわけでもない。
だが、それ以上に私の関心を引いたのは――――――その鮮やかさだった。
茶褐色の樹皮を見せる木。薄い緑色の足元の雑草。その間に見える濃い茶色の土。
灰色とも茶色とも見える蔦と濃い緑色の雑多な葉。木陰が作る陰影と空から注ぐ木漏れ日のほのかな橙色。
息を吸い込めば――――――どう形容するべきなのだろうか。青い草と、土と空気の香りと味が、鼻と喉を通り過ぎていくのを感じた。
木々に囲まれた中で息を吸い込むと『香りと味がする』という事実は初めて知った。
思い返してみれば『現実で』これほどの木々を見たのは、子供の頃にいった自然保護公園くらいなものではなかっただろうか………。
「すごいですね………。」
思わず感嘆の声が口から洩れる。
木々の隙間から、僅かに風が吹いて私の髪を撫でるように抜けていく。
自分の髪を撫でつけながらその風を見送っていく。その感触さえも何だか胸に響くものがあった。
そうだ、生きているのだ。
この体も、この自然も――――――この世界も。
その事実が、その当たり前の事実が――――――今はとても尊いものに思えた。
「………………………………。」
私はしばし呆けたようにその場に立ち尽くしていた。
体感ではどれぐらいのものだっただろうか、それなりに長い時間だったように思う。
だが実際には短かったのかもしれない。
どちらにせよ、私にはあまり関係なかった。
私はただただ、この世界には当たり前に存在する森の風景に心を打たれていた。
そして―――――――――
「―――――――――――――――っ!?」
突然、背筋に何か電流のようなものが走った。
電気を流されたように背中がびくん、と跳ねる。
一体何なのか、と私の意識が驚愕するよりも早く、
さながらそれが
あたかもこれが
がさがさがさっ、と何かが藪を掻き分けるような音が聞こえる。
何かは生き物だ、それも二足歩行の。
それが一体、こちらに向かって来ている。
人か、魔物か?
なんにせよ待ち構えて――――――そう思った瞬間には、私の右手が背中の矢筒から矢を一本引き抜いて弓に番えていた。
「………………。」
ゲームだったときはどこか俯瞰的に
自分になにがどんな風にできるのか、早いうちに把握しておかないといけないようだ。
そして私はぎりり、と矢を引き絞りながら謎の闖入者を出迎えて―――――――――