※この作品はR-18です。

The Unlimited Horizon   作:白臼

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※時系列が唐突に現代編になっていますが、特別編ということで気にしないで下さい。


バレンタイン特別編 チョコレートモンスター(※)

 

 

 バレンタイン、あるいはバレンタインデー。

 軍の士気低下を危惧した時の教皇は兵士に結婚禁止令を言い渡したが、後に聖人として祀られるバレンティヌス司教はこれに反対して彼らのための結婚式を執り行ったという。

 死後、バレンティヌスは恋人たちの守護聖人として列聖され、彼にちなんだ祭日であるバレンタインデーでは恋人たちがお互いに贈り物を贈り合うのが習わしである。

 

 ――――――しかしながら何の因果か、現代においては何故かバレンタインデーは女性が男性にその想いを告げるがためにチョコレートを贈与する祭典と化していた。

 何故女性から限定なのか?何故チョコレート限定なのか?

 問いに答えるものは、製菓会社の陰謀だと声高に叫ぶのだろう。

 

 だが、今この時においてはそのような批判も弾劾も無粋。

 定着した風習ならば、起源を問うたところで元の道に戻る道理も無し。

 つまりせっかくの祭日、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿保なら踊らにゃ損損………という次第である。

 まぁ、世の中には祭日に参加したくても(チョコレートを)参加できない(貰うあてのない)紳士諸兄(非モテ男子)もおられるのだろうがそれはさておき――――――である。

 

 何はともあれ、此処オリエス大陸も時は2月。

 甘いお菓子に甘い想いを込める、乙女と淑女の季節である。

 

 

******

 

 

 「はいどうぞ、ノーマさんバレンタインデーの贈り物です」なーんて言いながら、可愛らしく頬を染めてチョコを贈ってきたリオちゃんに鼻の下を伸ばして、何の躊躇いもなく中身を口に放り込んだ私は実に愚かだった。

 今日は2月13日、バレンタインデーにはまだ一日あるのだが「明日は忙しくて時間が無いのでどうしても………」などと言われたからには受け取らないという選択肢はなかったのである。

 あの時の恥じらいで少し頬っぺたを赤くしてもじもじしながら包みを渡してきたリオちゃんは胸キュンものの可愛らしさだった。いやぁ、眼福眼福。

 おまけに「後で感想聞かせてくださいね」なんて言われたからには是が非でも食わねばならなかった。そうでなければ女が廃るというか。

 

 

 ――――――まぁ、それで一服盛られていたら世話がないのだけど。

 

 

 「ありがとう。早速貰うわね」なんて言って一口チョコをパクリと口に入れてかみ砕いた瞬間、中からドロリと濃厚な味が広がって、次の瞬間には私の意識は真っ暗になっていった(チョコは美味しかった)。

 それで、意識を取り戻した私はいつの間にやらベッドの上に仰向けにされて、裸に剥かれて――――――リオちゃんに食べられていた。性的な意味で。

 

 意識がはっきりした瞬間、最初に視界に入ってきたのは見知った天井。それと目線を下に向けたときに入ってきた小さな頭と金色の髪のつむじだった。

 ほわほわして考えがはっきりしない頭のまま状況を整理しようとしていると、胸からピリリと痺れるような快感が襲ってきて思わず声を上げてしまった。

 

 そこで私の目が覚めたことに気付いた私に一服盛って押し倒していた張本人――――――つまりリオちゃんは、こちらを一瞥してからそのまま愛撫を続行した。

 乳房の表面全体を撫で擦るような繊細な掌と指先。じわじわと胸の中で溜まってきた快感の果実を乳首に据えた指で摘むように、摘ままれる。

 きゅうっ、と胸の先っぽを痛みを感じる一歩手前くらいにまで引っ張られる。痛みに近いその気持ちよさが癖になってしまいそうだ。

 

 指だけでなく、リオちゃんは口でも乳首を責め立ててくる。

 唇で咥えて吸って、舌で舐めて突いて、歯で噛んで擦る。

 お母さんからおっぱいを貰う赤ちゃんを一瞬連想したけど、脳内で即座にそのイメージは却下された。こんないやらしい乳首の吸い方をする赤ちゃんは嫌だ。

 

 とにかく執拗でねちっこくて、それでいて気持ち良い胸の愛撫を受けて私は目が覚めてから一、二回はイったと思う。

 私の意識が覚醒するまでにどうやら下ごしらえ(・・・・・)は済んでいたらしく、私はなすすべなく鳴かされる羽目になった。

 

 胸にしゃぶりつくのを一通り終えたリオちゃんが顔を上げて、口元の唾液をグイっと手の甲で拭く。

 その仕草はどことなく動物染みて見えた。というか、実際リオちゃんの眼が据わっていた。

 端的に言うとオオカミさんみたいな目つきだった。

 

 女の子らしからぬ、情欲と性欲で血走った眼を見ても私は「あー、これはたべられちゃうわー」とか暢気なことを考えていた。

 今の自分の状態には覚えがある。酒に酔った時特有の胡乱な状態である。つまり、さっきリオちゃんが私にくれたチョコレートにはお酒が入っていたのだろう。

 私がお酒に弱いということは彼女は百も承知だろうに、それでも敢えて酒入りのチョコレートを贈ってきたということは最初から計画的な犯行だったということだ。

 

 なんということだ。しかるべきところに駆け込んだら強姦罪で起訴できるんじゃないだろうか。

 でも許す。リオちゃん可愛いし。

 

 そのギラついた目でリオちゃんが私に覆いかぶさってきて、強引にキスをしてくる。娼館の一部のお客さんみたいな、がっついたキス。

 なんで彼女がそんなになっているのかはわからないけれど、私の体は沁みついた技術を披露するように勝手にその唇を受け入れていた。

 はぁはぁ、と荒い息を交わしながらのディープキス。

 私は私の口の中を貪るような彼女の唇と舌に対して迎え入れるようにして舌を絡めていった。余裕のない彼女のそれを宥めるようなキスをしてあげる。

 

 キスをしながらリオちゃんの頬を撫でる。

 ぷにぷにですべすべの肌が触れていて心地よかった。

 

 しばらくキスをしていると少し彼女の険が取れたようで、キスの粗っぽさが少し収まってきた。

 ぷはっ、と息を吐いて口を離すと私達の口と口との間に唾液が糸を引いては千切れていくのが見えた。何かエッチだ。

 

 ベッドの上に横たわる私の頭の横に手をついて、こちらを見下ろすような体勢のリオちゃんは何かを考え込んでいるような、そんな複雑な表情をしていた。

 何を考えているのかは聞かないでおこうと思う。今はあんまり言葉で何かを言うような雰囲気では無さそうだと思ったからだ。

 代わりに私は視界の上から垂れてくる彼女の髪の毛を撫でるように指で梳いた。絹糸の様にサラサラで、少し癖っ毛の私からすれば嫉妬さえ覚えないくらいに綺麗な髪だ。

 

 私が髪の毛を撫でていると、リオちゃんは何か考えが纏まったのか――――――何処からともなく黒っぽいものを取り出してきた(本当にどこから出したんだろう)。

 彼女の手の中にあるものは………何と言うべきか、黒い粉末を無理矢理固めたような、あるいは水分が抜けきって干からびた寒天のような、そんな感じの質感の不揃いな形状の黒い固形物だった。

 ただ何となく害のありそうなものには見えなかった。彼女が手に持っているそれからはなんとなく食欲をそそるような香りがしていたからだ。

 どこかで嗅いだことのあるような香りだけど、なんだっけ?お菓子だったかな?

 

 そしてリオちゃんはその怪しい黒い物体を、齧って口の中で咀嚼し始めた。

 あ、よかったちゃんと食べられるものみたいだ。

 

 だが、そのままそれを飲み込まずに彼女が顔を近づけてきたのにはちょっと面食らった。

 びっくりする暇もなく、彼女が食べていたそれを口移しされる。

 それ(・・)は彼女の口の中で咀嚼されていたこともあって既に原形をとどめていないようで――――――いや、それ以前に体温でドロッと溶けていたようだ。

 

 そこでようやく気付いた。

 チョコレートだ、これ。

 

 ただ、私が知っているチョコレートよりは随分苦かった。

 砂糖と牛乳を控えめにしたブラックチョコというのがあるけれど、あれよりもずっと甘みが少なくて苦みが強い。

 ひょっとするとチョコレートの原料の一種なのかもしれない。ここからお好みで調整してください、みたいな。

 個人的にはもう少し砂糖と牛乳を入れたい。

 

 いや、訂正。それには及ばないかもしれない。

 口移しで口内に流されてくるチョコ(?)はリオちゃんの唾液の味が混ざって、ちょっと甘い味がした。

 リオちゃんの唾液は何だか薄めた蜂蜜みたいな、あるいはリンゴジュースみたいなほのかに甘くて優しい感じがする。

 その味が苦みの強い代わりに香り高いチョコと混ざって何とも言えない味になっている。

 

 それから私達は深くキスを交わし合いながら、一緒に口の中でチョコを捏ね繰り回した。

 固形のチョコを噛めば、入ってきた舌が歯ブラシみたいに中身をこそげ取って持っていく。

 体温で溶けていくチョコを口の中に含んで唾液と絡ませ合っては、また相手の口の中に移す。

 舌の上にドロドロのチョコを載せたまま、深く絡め合ってキスをする。口の中で睦み合う一体感が心地よくて舌先から痺れるよう。

 元はどっちがどっちかわからないくらいに互いの唾液で甘くなったチョコレートを啜り合った。

 

 その間も唇だけでなく、肌と肌も絡ませ合った。

 指を一本一本重ね合わせるように手を握り合うと唇に劣らぬ深い一体感が生まれて胸の奥が安らいだ気持ちになる。

 二月の時期だけど私達の肌の上には汗が浮いていた。汗ばんだ肌を擦り合わせるように抱きしめ合うと、すっかり固くなっていた乳首が体で擦れ合ってその快感に夢中になってしまう。

 

 私はリオちゃんの脚と脚との間に自分の太腿を差し入れた。股の間を割るように足を上にあげていっても彼女は抵抗せずに受け入れてくれた。そして彼女も同じように私の脚の間に太腿を伸ばしてくる。

 まるで組み木をあわせるように互いの脚と脚を絡ませて、太腿でお互いの股間を擦り合う。

 クリトリスが擦られる感触、陰唇が丸ごと擦られる感覚が股の間から立ち上ってきて思わず喘いでしまう。

 その喘ぎ声も、チョコレートを絡ませ合うキスの中に消えていく。

 

 口と口、手と手、肌と肌、脚と脚を絡ませ合う、濃厚な抱擁。

 お互いの体が溶けていくような甘やかな快感が染み出してきて、頭の中が蕩けていくようだった。

 

 長くて甘ったるいキスが終わって口を離すと、お互いの口元にチョコレートがついて汚れていた。

 互いにそれを舐め合うように舌で拭いとる。

 私も彼女も、吐息から甘いチョコレートの香りがした。

 

 ふぅ、はぁ、とリオちゃんが荒い息を吐いている。

 陶器みたいに白くてすべすべした肌を赤く上気させた彼女は、子供らしい見た目ながらも妙に艶めかしかった。

 冬の空のような青い瞳が潤んだまま、私の顔を見つめている。ただ、その瞳は――――――なんというのかどことなく、剣呑な光がまだ宿っていた。

 ちょうど、飢えている山猫みたいな感じに。

 

 しばらく私を見詰めていたリオちゃんだけど――――――意を決したように、私の両足に直接手を掛けた。

 私は逆らわずに迎え入れるように足を開いてあげる。

 クンニかな?手マンかな?とその後の事を予想していたけれど、彼女のやったことはそのどれでもなかった。

 

 ――――――なんとおもむろにチョコレートを手に取って、私の中に突っ込み始めたのである。

 

 これは予想外にも予想外だった。

 抗議の声を上げるが、それは無視された。半分酩酊状態で声に覇気がなかったのが原因かもしれない。

 でも実はちょっと面白いことをしているな、という思いもあるにはあった。

 不揃いな固形物が中の襞を掻き分けて捩じり込まれていくゴツゴツとした異物感は新鮮だったし、食べ物で遊んでいるという背徳感がこれまたゾクゾクした。

 酔っている影響で少し頭がバカになっていたのかもしれない。うん、そういうことにしておこう。

 

 形だけの抗議を上げる私の中に何欠片かのチョコを突っ込んだリオちゃんは、私の片方の脚首をひっつかんでそのままぐいっと上に上げさせた。

 片足だけ上げておマンコを曝け出されるような恥ずかしい恰好だ。

 そしてリオちゃんは荒い息を吐きながら、彼女のおマンコを私のそれに押し当ててきた。

 

 女の子と女の子の性器を正面から押し付け合って擦り合わせる、俗にいう貝合わせという体勢。

 私達のそこ(・・)はさっきまでのキスと愛撫でいい感じに潤っていた。

 押し付け合うと内側からぐちゅっ、と淫らな汁が溢れ出る。それを泡立てるように擦りつけ合うとお互いが絡み合う箇所からぬちゃぬちゃと音が立った。

 

 ビンビンに立ち上がっているクリトリスの感触を感じる。男の人のペニスみたいにそれを積極的に擦りつけてくるリオちゃんに対して、私も同じようにこちらからお股を擦りつけてあげる。

 お互いの豆がぶつかり合ってクキクキと何度も折れたりよじれたりするたびに甲高い快感が弾けてお腹の奥がきゅんとする。

 

 膣の中をぎゅうっ、と締め付けるとお腹の中に詰め込まれていたチョコレートが潰れて蕩けていく感触があった。

 ペースト状になったチョコが私の中から溢れ出てくる愛液と混ざり合って、外へと漏れ出ていくのがわかる。

 そしてそれがぐちゃぐちゃと擦れ合う私達の股の間で撹拌されていき、甘い香りが匂い立った。

 自分の体臭は自分ではわからないけれど、他人――――――リオちゃんのモノならよくわかるもので、彼女の甘酸っぱい果実のような、あるいは早熟の花のような香りとチョコレートの甘い香りが混ざり合って私を包み込んでいくようだった。

 

 激しく股間を私にぶつけてきたリオちゃんがやがて、一瞬呻くような声を出して、びくびくと体を震わせた。どうやら一度絶頂したらしい。

 そして彼女は、今度は私の足を放り出したかと思うと私の腰ごと腕で掴みあげて、口を股間に押し付けてきたのだ。

 ずじゅうぅっ、と音を立て私の中身(・・・・)が吸い取られる感覚。リオちゃんは私の愛液とカクテルされたチョコレートを思いっきり啜りあげたのだ。

 

 あぁ、なるほどこれがしたかったのかー、と暢気なことを頭の隅で考えている私だが、その強烈な吸引、自分自身が(・・・・・)食べられて(・・・・・)しまうという未体験の感覚は一気に私の性感を焚き付けた。

 さらに、リオちゃんが私に残ったチョコを食いつくすように、中に舌を差し込んで舐めしゃぶったり、陰唇全体に唇を押し付けて吸いあげたりするものなのだからたまらない。

 私は腰をがっしり彼女に抑え込まれたまま、その快感を逃がす余地もなく、ベッドのシーツを握り締めながら絶頂した。

 

 絶頂した拍子に、何かが股の間でしぶく感覚があった。これは少し潮を吹いたかもしれない………。

 でもリオちゃんはそれさえも全く気にした風もなく、ちゅうちゅうと音を立てて私の股座全体を吸い上げていて――――――あぁ、もうちょっと待って!今イったばっかりなんだけど!

 

 それから私が解放されたのはもう二回ほど追加でイかされてからだった。

 そのせいでちょっと腰が抜けそうになっている私だけど、おかげで酔いは少し抜けてきた感じがあった。

 私を玩具みたいに、あるいは食べ物みたいに扱った張本人は、はぁはぁと息を吐きながら軽い賢者タイムのご様子だった。

 

 だが、これこそが好機と言えよう。

 私はその隙に彼女の腕を掴んでシーツの上に引きずり倒し、先程自分がやられたようにリオちゃんを美味しくいただくのであった。

 

 

******

 

 

 「………何というか、ちょっと申し訳なかったです。すみませんでした。」

 「うん、まぁ………謝ってくれても、くれなくてもいいんだけどね。」

 

 私はあんまり気にしてないから、とそうあっけらかんとした態度を見せているのはノーマ・マイルズである。

 彼女はやや乱れた癖毛のショートヘアを撫でつけながら、ベッドの上で身を起こしていた。

 

 彼女の視線の先にいるのは近くの椅子に腰かけているリオ・オーガスタだった。

 ノーマを襲った張本人であり、隣の部屋に住んでいる金糸の髪を持つ少女は机に肘をつきながら少々くたびれたかのように額を手で押さえていた。

 

 「ほら、お酒を盛って寝込みを襲うとかリオちゃん時々やるでしょう?私達が最初にした(・・)時だってそうだったし………。」

 「それだけ聞いていると私は本当にとんだ強姦魔ですね………いや、事実そうなんですけど。それよりも私が後悔しているのはですね、」

 

 そう言って彼女は一旦言葉を区切った。

 はぁ、と心底自己嫌悪しているような重苦しい溜息を吐く。

 

 「こう、サカりのついた野郎みたいに荒っぽくなってしまったのが駄目なんですよ。ほら、私も体は女性の身の上ですから、レイプされる苦しみはちゃんとわかってますしね?なので、自分が強引に相手を押し倒すときには相手にもちゃんと気持ちよくなってもらわないといけないと思っているんですよ。」

 「うん、なるほど。そもそも強姦をしないという発想はないと。」

 「………すみません、オナニーでもして発散できればよかったんですけどね。」

 

 やや呆れたような声音のノーマに対して、リオはバツが悪そうに視線を逸らした。代わりに彼女の視線の先にあるのはテーブルの上に載せられたコンロと鍋だった。

 リオがいつも旅先で重用している魔石式の簡易コンロに掛けられている鍋からは、コトコトと何かが煮えるような音と、食欲をそそるような甘い香りがしている。

 

 中を覗き込んでみればわかるがそれは濃い茶色をしたとろみのある液体――――――つまりはホットチョコレートだった。

 先ほどまで二人が情事の間に食べさせ合ったチョコレートにミルクと砂糖を混ぜて、高温で溶かしている最中なのであった。

 

 「――――――私、チョコレートを狩りに行ってたんですよ。」

 

 唐突にそんなことをリオは口にした。

 チョコレートを狩りに、とノーマはリオの発言を反芻した。

 反芻したもののその言葉の意味はさっぱり彼女の頭の中で像を結ばなかった。疑問符が頭の上に飛ぶ。

 

 チョコレートという菓子が基本的にカカオという木の実を材料にしているということは学のないノーマも知っている。

 狩る、というのは果物狩りの様に木の実を捥いで回る様を言い表したものなのだろうか?それにしてはリオのニュアンスは些か物騒なものを漂わせていた。

 

 「こう………この時期になると『チョコレートモンスター』というのが出没するんですよ。」

 「えっ、何それ怖い。チョコに手足が生えて襲い掛かってきたりするの?」

 「そういうの(・・・・・)もいるところにはいるんですけど、私が狩ってきたのは既存の魔物が(・・・・・・)チョコレート(・・・・・・)になっている(・・・・・・)タイプですね。」

 

 困惑した様子のノーマに対してリオは詳しい説明を始めた。

 

 この時期――――――二月初めから中旬にかけて、野外(フィールド)にしばしば『チョコレートモンスター』と呼ばれる特殊な魔物が出現するようになる。

 この魔物は既存の魔物と同じ姿形や能力、生態をしていながら、全身がチョコレートで構成されているという何かの冗談のような魔物である。

 この時期になると現れる、とは言ってもチョコレートモンスターの出現数は少ないため、目撃情報があると冒険者はこぞって狩りに乗り出すのだ。

 

 しかし、チョコレートモンスターにはもう一つ、いや二つの特徴がある。

 一つは個体として高い戦闘能力を持っていること、そしてもう一つは通常同じ地域ではほとんど見られないような魔物がチョコレートモンスターになっているということである。

 つまり、不用意に実力の足りない者が手を出すと単純に高い能力で歯が立たない他、未知の行動や特殊能力に動揺して取り逃がす――――――最悪返り討ちに合うこともあるということなのである。

 

 ――――――という風にリオはノーマに対して解説したが、この話には裏がある。

 

 つまりチョコレートモンスターとはこの世界がゲームだった頃に用意された季節限定のボーナスキャラなのである。

 チョコレートモンスターを討伐すると、『ココアブラッド』、『ショコラボーン』、『カカオハート』といった希少かつこの時期に需要の多い素材が手に入ったため、多くのプレイヤーがチョコ狩りのためにフィールドをうろついたものである。

 なおボーナスキャラという名目でありながら、あまり見ない魔物であるということと個体レベルの高さから苦戦させられる相手でもあった、という事実もそのころから変わりなかった。

 

 「私が今回討伐したチョコレートモンスターのベースになっていたのは『ティンダロスハウンド』という魔物でした。」

 

 ティンダロスハウンド――――――この魔物はやはりフロラントの近郊、というよりはセプテモールの国内に生息する魔物ではない。一部の特殊なダンジョン内でのみ出現する魔物であり、そもそもフィールドに出てくることさえないものである。

 この魔物の最大の特徴は『時空の鋭角』という特殊な能力による瞬間移動である。素の状態で保有している高い隠密行動能力とこの特殊能力による奇襲攻撃がこの魔物の最大の持ち味であった。

 さらに高い個体レベルから繰り出される強烈な噛みつき攻撃と、一度狙った獲物は絶対に逃がさないという執念深い習性もまた脅威であった。

 

 気配を殺して完全な死角――――――背後からでも足元からでも前触れなく出現し、必殺の牙で食い殺し、殺し損ねたものも息の根を止めるまで追跡を止めない、恐ろしい魔物。

 リオが出現場所の情報を入手して向かった時には、既に一ダース半ほどの冒険者が『時空の猟犬(ティンダロスハウンド)』の餌になっていた。

 

 「そ、それでどうなったの?」

 

 魔物の恐ろしさを懇切丁寧に説明するリオの話を聞いているうちに次第に前のめりになっていたノーマ。

 話の続きを促す彼女の脳裏には、背後から音もなく這い寄り乱杭歯の顎で今にも自分に襲い掛かってくる恐ろしい怪物の姿が描かれていた。

 その様子をどこか微笑ましい様子で見ながらリオは何ということもないように言った。

 

 「別に、普通に殺して普通に解体しましたよ――――――久しぶりに歯ごたえのある獲物でしたが。」

 

 確かにティンダロスハウンドは凶悪な魔物である。隠密能力、瞬間移動能力、咬合力、追跡能力、いずれも脅威だ。

 だが、絶対に対処できない脅威というわけでもない。

 

 隠密能力を看破するだけの高い知覚能力を持って探り当て、瞬間移動の瞬間を全神経を集中して察知して、巨大な顎による噛みつきを回避し、逃げ隠れもせず真っ向から仕留める。

 やったことと言えばそれくらいだ。

 言葉にすればそれくらい単純な話であった。

 

 「あぁ、そう、単純な話でしたけど――――――楽しかったなぁ………。」

 

 リオはくっくっ、と喉の奥で忍び笑いを漏らした。

その脳裏に浮かぶのは久しぶりに充実した、『狩り』の興奮だった。

 

 食い散らかされた冒険者達の死体が散乱する森の中で自分ただ一人。木々の影とその隙間から、確かに突き刺さるような敵意と殺意を放つ魔物の視線を感じる。

 次の瞬間、突如としてその気配が消え、感じるのは空気の乱れと――――――どことなく甘ったるいチョコレート(・・・・・・)の香り(・・・)。

 思考が回るよりも早く身を翻せば、先刻まで自分がいた空間を抉り取るように噛み合わされる人間を一呑みするかのような巨大な顎。

 躱した瞬間に番えていた矢をその狼のような胴体に叩き込めば、つんざくような咆哮が響き渡り、ココア色の血液が吹き出て地面を濡らす………。

 

 呵責なき魔物の敵意と殺意に身を晒し、それを躱しながら、その命を狩り取る(・・・・・・)という戦いの興奮。

 ティンダロスハウンドの馬力であれば、一度食いつかれればリオの筋力と耐久力では跳ねのけることも耐えることも難しいであろうという事実。危険が猶の事、興奮を掻き立てた。

 熟練のプレイヤーであるリオをして容易くはなかった相手――――――それ故に久方ぶりに血の滾る狩りであった。

 

 「それで――――――まぁ、無事に狩りは終わったんですけど昂ってしまいましてね。帰ってくる前にオナニーもしたのですけど、それでも収まらずにムラムラしてまして………。」

 「で、私に一服盛って今に至ると。」

 「えぇ、そういうことです。………すいませんでした、今はもう大丈夫です………。」

 「………はぁ。」

 

 話を聞き終えてノーマは嘆息した。これはリオに対する呆れもあるが、同時に魔物の話を聞いて感じていた恐ろしさを誤魔化すためのものでもあった。

 基本的にノーマはフロラントの街で生まれ育ってそのまま外に出ることもなく娼婦として暮らしている。街の外の話はこうして人づてに聞くばかりである。

 魔物というのもこうして話にしか聞いたことは無いが、それ故に一層彼女の脳裏では想像力豊かに魔物の恐ろしさが膨れ上がっていた。

 丁度、幽霊の話を聞いて夜眠れなくなる少女のように――――――と、このような例えは成人の女性にはふさわしくはないかもしれないが。

 

 「リオちゃんに怪我がなくてよかったわね。」

 「避けることに専念していましたからね。………………それで、これが今回の戦利品です。」

 

 そう言ってリオは火にかけていた小鍋の取っ手を持って傾けて、二つのマグカップに注いだ。そのうちの一つをノーマに手渡した。その中には湯気を立てる香り高いホットチョコレートがなみなみと注がれていた。

 既にチョコレートモンスター(ティンダロスハウンド)の主要な部位は売り払っていたが、その中から『ココアブラッド』は手元に置いて残していた。

 チョコレートモンスターに流れるココアの血液が外気に触れて固まったもの、それがリオが持っていた黒ずんだチョコレートの正体だった。

 それは今こうして牛乳と砂糖と一緒に熱せられて温かいホットチョコレートになっていた。

 

 「………ん、時刻も零時過ぎてますね。ハッピーバレンタイン。」

 

 リオは左手首の端末を操作して、日付が既に2月14日に移行していることを確認した。

 ノーマはくすっ、と小さな笑みを漏らしてからマグカップを掲げ同じく「ハッピーバレンタイン」と呟いた。

 

 「リオちゃんは14日は何か予定あるの?私はお仕事。ちょうどお店でもバレンタインフェアやるのよね。お客さんにチョコレート配ったりするのよ、有料で。」

 「それって配布とは言いませんよね………。私は知り合いにチョコレートを配りに行きますよ。うーん、急な狩りに出たんで手造りを用意する暇がなかったのが心残りですね………。………まぁ、いいか。今から適当に湯煎して型に入れときましょう。」

 

 情事の後の女の汗と体液の香りに満ちた部屋に、チョコレートの甘く、豊かな香りが広がっていった。

 雑談を躱しながら、女子(?)二名の夜はこうして更けていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (あれ、そういえばさらっと流したけど、私が飲んでるこれって要は魔物の血?)

 

 マグカップの中身に視線を落としながら、ノーマは悩ましい表情を作る。

 しかし、もう一口それを口に含んでから「まぁ、別にいいか」と思考の端へと追いやった。

 

 甘くておいしいものは正義なのである。特に女性にとっては。

 (なお、カロリーと虫歯については考えないものとする。)

 

 

 

 




『バレンタインイベント』
オンラインゲームである『UH』にも季節ごとのイベントは存在した。バレンタインもその一つ。
一月下旬〜二月始めごろからフィールドにはボーナスキャラとして『チョコレートモンスター』が出没し始め専用の素材をドロップしたり、北の方の海ではチョコレートでできた島が浮上したり、南の方の国では神の化身にチョコレートを捧げる祭りが繰り広げられたり。
お気に入りのNPCにチョコレートを贈ったり、あるいは逆に貰ったりなんていうのもできた模様。
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