「にゃっはははははっ!!リオちゃん超久しぶりーっ!!会えてうれしいにゃーっ、元気してたかにゃーっ!?」
「あー、はい。見ての通り元気ですよ。……っていうか私としては二日と経ってないんですけどね。」
「んにゃっ!!話は聞いたけど本当につい昨日きたばっかなのにゃ?いやー、悪いにゃー。あたしこっち来て七年になるしにゃー」
時間がずれていると話もずれるにゃー、と私の前でけらけらと楽しげに笑う女性が一人。
肩甲骨くらいの長さまである茶色に近い赤紫の髪を持つ
「……メリィは変わりませんね。本当に七年も経ってるんですか?」
「んんー、変わらない、か…………。実はその辺の話をすると、ながーい話になるんだにゃー」
そう言って彼女――――私のゲーム時代からの友人であり、
さて、現在我々がいる場所はイルマートの街の領主、ヨアヒム・クラートフ伯爵の屋敷の中庭。時は午後三時、つまりはアフタヌーンティーのお時間である。
私、リオ・オーガスタはこの街に住むプレイヤーであり良く知る友人であるメリィとのお茶会に興じていた。
発端はそもそも昨日――私がこの世界にやってきた日の夜に、私とメリィが知人であると知ったヨアヒムが連絡を取っておくと言ったことだ。
彼は言質の通り、翌朝には手紙を直接メリィの下に送り――何と彼女はその日の午後に屋敷に訪ねてきたのである
別にそこまで急かなくても良かったのでは……と思ったが、「だってリオちゃんに会いたかったんだしにゃ」なんてとてもいい笑顔で言われては仕方がなかった。
人の好意には何かと強く出れない私なのであった。
「さて……ちょいと質問してみるけど、リオちゃんはこの世界についてどう思うにゃ?」
「どうって……ちょっと漠然としすぎてませんか、その質問。」
「ふむ、なら言い方を変えるにゃ。この世界は本当に
「…………。」
手元の紅茶に砂糖とジャムをドバドバとぶち込みながらメリィが尋ねてくる。
彼女の表情は、さながら不思議の国の何某という童話に出てくる変な猫を彷彿とさせるにやにやとした笑いであった。
彼女の質問の意味を考える。この世界がゲームなのかどうか。
……答えはわからない。見当もつかない。
第一、昨日ここに来たばかりの私は情報がさっぱり足りていない。
なのでシンプルに感想だけ伝えることにした。
「――――ゲームだと言って流すには
「んむ、その通りにゃ。この世界は『UH』から直接つながっている――――
そう言って彼女は紅茶のカップを傾けて、その香りを一嗅ぎしてから中身を啜った。
私も同じようにカップを手に取って紅茶を一口含む。
微かに香る柑橘系の香り、口内に残る渋みを味わいながら飲み下す。
「例えば今こうしてあたし達が飲んでいる紅茶――これはゲームだった頃には味わえなかったものだにゃ」
「確かに、今こうして食事をして、それを味わってお腹が膨れるというのが既に信じがたいものがあります」
「あたしはもう慣れちゃった感があるけどにゃー。……ま、こうして味覚、嗅覚、消化器官――――ゲームだった頃に規制されていた、あるいは存在していなかったはずのものが補完されているというのが重要な要素にゃ」
砂糖とジャムの入れすぎでシロップみたいになっているであろう紅茶と一緒に、クリームを塗りたくったスコーンを摘まみながらメリィが語る。
この世界はゲームが基本になっているが、ゲームの頃になかった要素が
例えば嗅覚、味覚、といった感覚はその代表的なものだ。
他にもメリィは幾つも例を挙げて解説してくれる。
例えばゲームだった頃の金銭のやり取りは、取引と同時に所持金の欄に表示される数字が目減りするだけだったが、この世界では実際に現金でのやり取りを行う必要がある。
彼女に言われてメニューを起動して所持金欄を選択すると、指定した金額分の硬貨がザラザラと落ちてきた。
「あと、リオちゃんも知っての通りあたしの専門分野は錬金術にゃ。それで錬金術の分野もかなりの
硬貨を一掴み、所持金欄に押し込んで戻しながら彼女の話に耳を傾ける。
かつては選択した素材を一定の分量選んで合成させて、といった一連の動作は選択肢を選べば
「例えばHP回復用の
「そういうのを全部手作業で?」
「うんにゃ。でも、なんとも不思議なことに最初にやったとき……始めてやるはずのそういう作業もまるで
つまり、現実になった後もゲーム時代に培った
それに関しては私も覚えがある。
昨日、自分が弓を手に取ったときのこと。
「確かリオちゃんは
「……確かに」
私は彼女の言葉に頷いた。
イヌ科の動物のような嗅覚を獲得して匂いを辿ることができる、とゲーム内では解説されているスキルだ。
ただし実際のゲームの上では嗅覚が再現されていなかった関係で漂っている臭いや、残っている香り……と位置付けられる『目では見えない情報』を表示するスキルという扱いだった。
それが現実になった今、本当に非常に鋭敏な嗅覚として再現されているのだ。
しかもこれはパッシブスキルの類なので、特に意識していないと勝手に発動してしまう。
逆に言えば意識をしていれば発動しないでいられるということなのだが――――これは慣れるのに骨が折れそうである。
「ついでに探知系の上位複合スキルで『獣の六感』っていうのがあるんですけどで、試しに少し使ってみたら頭がパンクしそうになりました。やったことはないんですけど、ヤバい薬をキめたらあぁなるんじゃないですかね」
「参考までにどんな気分だったかにゃ?」
「こう……全身の皮膚が目と舌と鼻と鼓膜になったような……」
『獣の六感』はあらゆる感覚を研ぎ澄まして強力な探知能力を得る……というスキルで、ゲーム時代も良くお世話になったスキルだ。
こいつを今朝、目が覚めたころに試しに使ってみたらひどい目に遭った。
全身の皮膚の感覚が異様に研ぎ澄まされ、着ている服の手触りから部屋の中の空気の流れまでがくっきりと克明に浮かび上がった。さらにそれに部屋の中の空気の味やら匂いやらまでが入り混じり始め、カーペットの繊維まで拡大できそうな程に鮮明な上に真後ろまで見えそうなほどに広い視界から入ってくる視覚情報が頭に入り込んでくる。
無数の情報がコンクリートミキサーで掻きまわされてぶちまけられ、サイケデリックで極彩色の光景を描き始めたのはスキルを使い始めてわずか数秒。
朝っぱらから吐き気を催すような気分になった私はそのまま気絶するようにベッドに倒れ込んで二度寝に耽った。
「なるほど、それは大変そうにゃ」
「他人事みたいに言っていますが……貴方から変な匂いがするのも良くわかりますよ」
「に゛ゃ゛ー゛っ゛!?」
私が指摘するとメリィはビーン、と耳をおっ立てて奇怪な叫びを上げ、ふんがふんが、と自分の着ている白衣の袖や襟元を嗅ぎまわった。
「そんなに変な匂いするっ!?」
「なんというか……青物を擦り潰したような匂いとか、アルコールっぽい匂いとか、焦げっぽい匂いとか……」
具体的に言うと、多種多様な薬品類をごちゃまぜにしたような、かなりカオスな匂いである。混沌としていて個々は判別できないが……イメージとしては、水彩画用のパレットを洗う際に今まで使っていた絵の具が混じり合って生まれる変な色合いの水みたいな感じだ。
私がそう言うと彼女は「に゛ぃ゛や゛ぁ゛ー゛っ゛」と悲鳴を上げながら何か香水のようなものを全身に振りまいた。
……すると混沌とした匂いが多少はマシになった。
「これでどうかにゃっ?」
「まぁ、いいんじゃないでしょうか。自分の生活臭って自分じゃ気づきませんからね。そういうこともありますよ。……ところでそれなんです?」
「これ?匂いを消す効果のある――その名も『無香香水』にゃ。うちの
そう言ってメリィが目の前で振った小さな瓶の中で透明な液体がちゃぷちゃぷと揺れる。
なるほど、現実になったこの世界では匂いに関する道具も需要が存在しているのだな。
「えほん、えほんっ。さて、話を戻すけど――――この世界ではゲームだった頃の仕様が現実に即したものに変化しているということがわかってもらえたと思うにゃ」
「えぇ、そうですね」
わざとらしく咳払いをしてメリィが話を逸らす、もとい話を戻す。
「それで、実はゲーム時代のものと仕様がほとんど変わっていないものがこの世界には幾つかあるにゃ。例えば――――私達、プレイヤーの体とか」
「体が?」
「私達の体はゲーム時代のアバターから変化しない――――つまり、老化もしないし成長もしない」
「…………」
神妙な表情でそう口にしたメリィに対して、私は二の句が継げずにいる。
そして無遠慮ながら、彼女の顔をよく観察する。
……彼女の容姿は変わらない。本当に――――
「……マジですか」
「うんマジ。アンチエイジングとかそんなチャチなもんじゃない。本物の不老」
不死とはいかないけどね、と言ってメリィは笑う。
その彼女の口調からはいつもの猫口調が消えて、目元には抑えきれない笑みの相があった。
……これはかなり
そして彼女の解説が始まる。
私達プレイヤーの肉体は設定されたアバターの基本造形から変化しない。その為、我々の肉体は時間的な変化を成長も老化も含めて拒絶する。
大きな怪我を負っても傷跡という形でそれが残ることもない。暴食でも拒食でも体重・体形に変化はなし。髪の毛の長さすら変わらないという徹底ぶりである。
さらには、妊娠や出産(ついでに生理)も存在していないらしい。
「まぁね、妊娠とかに関しては体形の変化ということでアバターに弾かれるのかなって思う。でも流石に生理までないのはちょっとおかしいんじゃないかなって私は疑問に思ってるのよ。一応仮説として、プロゲステロンの分泌停止なら生理がないことに理屈は通る。じゃあエストロゲンはどうなんだろう?エストロゲンがあったら二次性徴が発現するからこれも多分アバターに弾かれる。でもプロゲステロン低下症とかエストロゲン低下症とかの特有の症状が出ないのは絶対おかしいと私は思う。特にエストロゲンは低下すると骨粗鬆症になるでしょ?わかる?私達の体は変化しないはずなのに真っ当な代謝が行われている人体と同じように、いや、それ以上に健康体なんだよ。逆にホルモンが働いているのに肉体に変化がないとしたらこれもこれで明らかにおかしい!これには絶対何か既存の科学の範疇にない原理が…………」
「ストップ!!ストップ!!落ち着け落ち着け!!」
テーブルの向こうから身を乗り出すようにして熱弁を振るうメリィ。
蒼い目の奥にギラギラした光を覗かせながら恐ろしい早口でまくし立てる姿はまさに
あぁ、こいつこういう感じだったなぁ、と懐かしい気分になりながら彼女を宥めすかす。
彼女はどかん、と席に腰を下ろしてからぐいぃ、と豪快に紅茶を飲み干して息を整えた。
「うん、つまり、えっと、あたしが何が言いたいかって言うと……プレイヤーの体の原理には謎がいっぱいって、そういうことが言いたいんだにゃ」
「ふーん……そういうのはメリィも研究してるんですか?」
「いやぁ、あたしは片手間でやってるくらいなもんにゃ。多分、専門的な調査なら『シャンブルス』辺りがやってるんじゃにかと思うにゃー」
「あいつらかぁ……」
シャンブルス。その名を出した瞬間、私たち二人の間に苦笑が漏れる。
ゲーム時代から伏魔殿、マッドサイエンティストの流刑地、地獄の釜、などと呼称されていた生産職のメッカだ。
ひたすらに狭く深く、ゲーム内で出来ることと作れるものの限界に挑戦していたあの狂ったギルドなら、現実になったこの世界を誰よりも満喫してその理を解き明かすだろう。
ただその結果として何らかの
あそこから流出したアイテム一つでダンジョンが一つ閉鎖され、運営が出張る騒ぎになったのは記憶に新しい。
「ま、今のあたしが言えるのは、こうして太ることも気にせずにお菓子を食べられるってことかにゃー」
「ふーむ、なるほど……」
メリィはにかっ、とまさしく猫のような笑みを浮かべてからクッキーにジャムをたっぷりと付けて頬張り、バリバリとかみ砕いた。
うんまいにゃー、と頬を綻ばせて食べる様は作った人間が見れば感無量だろう。見ているだけのこっちも思わず和む表情だ。
……昨日の食卓での私を見ていた使用人たちやヨアヒムも似たような気分だったのだろうか。何か恥ずかしいな。
昨晩の事を思い出して、少し誰かに意地悪いことをしたくなった私はプレーンスコーンを食みながらメリィに爆弾を投下することにした。
「――――で、外見上はいつまでも歳を取らないといっても、
「にゃが…………っ!!??」
私がそう言うと、メリィは喉を締められるような呻き声を上げて仰け反った。
顔を真っ赤にさせて「……っ!!……………っっ!!」と無言で空を掻き毟るようなジェスチャーをしてから、入れなおした紅茶を煽るように飲み込み――――案の定その熱さでむせ返ってのたうち回った。
「そっ、そっ、それ言うっ!?それは言っちゃあ駄目でしょうっ!?」
「確か私の知ってるあなたが二十七で、それからこっちに来て七年ってことは三十四で合ってますよね…………。あっ、ということは来年で四捨五入して四十……」
「ぐっ、ぐぅぉああぁぁっっっ!!!!」
おっと刺激が強すぎたようだ。
頭を抱えながら地面の上をゴロゴロと転げまわる様は、さながらカーペットの上の埃を取る
「大丈夫ですかアラサー女子(仮)、あるいはアラフォー女子(ギリ)」
「ぐあぁぁあっ!!!!それっ、それを言ったら
猫語尾を彼方に投げ捨てて、メリィではなく
彼女のその言葉に
「了くんとかネカマのロリコンじゃんっ!!前々から思ってたけど何その過剰に気合い入れまくった美少女アバターっ!!ガチすぎて引くわっ!!」
「
「引くわー、娘に憑依合体している父親ですわー。これは圧倒的に引くわー。」
「趣味100パーセントで作った歩く性癖みたいなもんだし、その程度で恥ずかしがるんなら最初から――――――あー駄目だ、この体で
「……じゃあ、ちょっと聞いてみるけど――――っていうか最初から突っ込みたかったんだけど……イメチェンした?」
「………………したっていうか、させられたっていうか…………」
なんとも言えない据わった眼ででじぃっ、とこちらを見つめてくる美鈴の目から顔を逸らす。
……まぁ、確かにな。以前の
基本はピンクのジャンパースカート。スカートの裾は膝下までの長さで、内側に緩めのパニエを履いて全体的にふわっとしたシルエットにしている。足には白いタイツで靴もピンク。
上着にはジャンパースカートと合わせたデザインのボレロを羽織っている。なお、スカートも上着も全面フリルとレース塗れである。
髪型は側頭部から一房ずつ後ろに回して結って後頭部で留める……所謂お嬢様結びとかハーフアップとか言われるやつだ。留めるのには淡いブルーのリボンを使っている。
更には腰まで流している髪の毛自体にも手を加えられてウェーブがかかり、ふんわりとボリュームが増えている。
……自分で自分の姿を見下ろして溜息を吐く。
「笑いたけりゃ笑ってくれ」
「んんー……了くんの趣味じゃないよねそれ。了くんだったら絶対もっと青……っていうか寒色系で固めるし。でも似合ってるー。なんか悔しいけどすごい可愛い」
「……ここのメイドさんたちに玩具にされてな……」
「あぁ……」
椅子の上で膝を組んで、肘掛に頬杖をつく。あまり女の子らしくない座り方だが、今の自分は
俺が遠い目をしていると、それで美鈴もなんとなく事情を把握してくれたようだ。
思い出すのは今日の今朝方、二度寝を敢行して暢気にいびきをかいていた自分の安息が姦しいノックと共に破られてからの、嵐のような時間である。
ノックで目が覚めた俺の部屋に飛び込んできたのは専属のメイドであるアンネ――――だけでなく雪崩を打って入ってくるメイドたちの集団だった。
その非現実的な光景に夢と現の境界線も定まらぬまま、俺はメイドたちのご奉仕責めにあったのである。
野獣の如く鼻息荒く目を血走らせ、奉仕欲を滾らせたメイドたちは疾風のようにモーニングティーを俺に飲ませ、迅雷のように朝食のセットを部屋に運び込み、烈火のように俺に朝食を食わせた。
あまりのその勢いに脳がさっそく思考停止してされるがままになっていたが、朝食のコンソメスープを「あーん」されたのは恥辱の至りだ。
トイレと歯磨きはせめて自分でやるから、と猛抗議したら引き下がってくれたのだが――――その間に更なる侵略がその準備を終えていたのである。
歯磨きを終えたと思ったら寝巻を剥がされて裸に剥かれ、昨晩アンネにやられたように全身を拭われ、さらにくまなく採寸された。
なんでも昨晩アンネが図ったスリーサイズだけでは飽き足らず、全身計測して服を仕立てることを決定したらしい。
決めたのは誰だ。責任者出てこい。
そしていよいよ始まったのが恐怖の着せ替え人形タイム。
屋敷中ひっくり返してかき集めた女性用―――――というか女の子用の衣服が怒涛のように客間に運び込まれ、哀れ私はメイドたちのおもちゃにされたのである。
以下、その際のやり取りの抜粋。
「身長はー、ふむふむ、145.3㎝?あらやだ可愛い。でも小さいけどまるっきり幼児体型じゃないのねー。腰はちゃんとくびれてるわ」
「バストは?これならBくらいかしら?寄せてあげれば谷間くらいできるんじゃない?」
「あーもうどうしようっ。フリフリも似合うけどちょっと背伸びした感じのドレスも似合うわよっ。下着にコルセットとかーっ、ビスチェとかーっ、腰回り細く見せるタイプの下着付けてーっ……」
「俄然やる気が湧いてきたわね……。従妹様の残された服はもう着られないとのお達しだから好きなように仕立て直してもいいのよね?……っしゃぁっ!!」
「元々着てたのはこのジャケット?寒色系……収縮色に合わせて肩回りのシルエットが細く見えるように仕立ててるけど白のフリルを裾と袖周りに使って柔らかい感じも出してるという所かしら、っていうか生地は何かしら初めての手触り」
「そもそも今日のお召し物はどうしましょうか。私は普段着ておられるものの逆を張って暖色系で行きたいと思うのですけれど」
「ううん、どうしましょう。私もパステルカラーで行きたいけど髪と瞳の色が淡い感じだから下手を打つと全体がぼんやりした感じになっちゃうわね。でも敢えてそこに挑戦してこそって感じがあるわね。燃えて来たわっ、とりあえずこれとこれとこれと…………っ」
「わぁあ……昨日も思ったけど髪の毛が本当にきれいね……。手の中でするするっ、て……。私、この髪に櫛入れるだけのお仕事がしたい……」
「ヘアアレンジのし甲斐があるわねー。あぁ、でもカットするのは抵抗があるわ。こんなに綺麗だとロングのままにしていた方が絶対にいいもの」
「ねぇねぇ、お顔をちゃんと見せていただいてもいいかしらっ。あぁ、お肌はぴちぴちで頬っぺたがぷにぷにで顎のラインがすっと細くてお目々もぱっちりで睫毛もばっしりで……っ、なんて芸術的な……っ」
「あんまり濃すぎるメイクは良くないわね……あんまりアダルト路線に行き過ぎると可愛らしさが薄れるわ。この『あぁ、絶対この子将来超美人になるわ』という感覚を見るものに与えるこの……この想像力を掻き立てる花の蕾のような愛らしさを損なわずに……」
「参考までにリオちゃんは普段どんなメイクをして…………えっ?やったことがない?」
「キィィエェェェェェェッッッ!!!!」
「あぁっ、アンネが叫びながらヘドバンし始めたわっ!!誰か止めてっ!!」
……結局着せ替えだけで午前が丸ごと潰れた。
正午になって昼食ということで解放されたときには俺は疲労困憊になっていた。しかもこれで満足したわけではないようでメイドさんたちは更なるアイデアをコソコソと相談しながらきゃあきゃあと言い合っていた。
あと、アンネ辺りは張り切って今回の茶会の準備をし、同伴もする気満々だったようだが、今回はプレイヤーの間でしかできない話があるということで下がってもらった。気概は買うが、ちょっと疲れる。
女性ってなんでこう、人や物を飾るのが好きなんだろうな。(一応)男性の俺にはさっぱりわからん。
「でも女の人達に囲まれてちやほやされてたんでしょ?ある種のハーレムじゃん、おめでとう。そういうのって男の人の夢なんでしょ?」
「こういうのは求めてないっ!」
バシバシとテーブルを掌でビンタしながらから吐き捨てる。
ヤケ食い気味にクッキーを口に放り込んでバリボリと噛み砕く。ほんのりとバターが薫る甘さ控えめの焼き菓子、甘いのがお好みの方はセルフサービスでジャムをどうぞ……そんな感じの塩梅のクッキーだ。自分には丁度良い。
咀嚼してからすっきりとした紅茶を口内を洗い流すように飲み込んで、ささくれた心を慰める俺であった。
「まぁ、でもさー。そもそもの話として女の子のアバター作んなかったらよかったって話だし。結局は了くんの自業自得ってことになるんだよねー」
「前にも言ったと思うんだけど、どうせほぼ毎日見る顔なんだからさ……目に入れても痛くないくらいに可愛いのにした方がいい、って思わないか?」
「理屈は通ってるけどねー。……最初にゲームでリオちゃんが了くんだってわかったときの衝撃たるや……」
椅子に座った美鈴がくっくっくっ、と忍び笑いを零す。
どうせ、
――――美鈴は元々大学時代のバイト先での知り合いだ。それから住んでいるところが近所だったという縁から偶にプライベートでも顔を合わせるようになった。俺が一人暮らしを機に引っ越してからは少々疎遠になったがそれでも付き合いは続いていた。
ちなみに、美鈴が『UH』を始めたのは俺の紹介だ。元々出不精な美鈴は在宅での仕事を始めた頃から更に出不精が加速していて、自宅で空いた時間を使って遊べるゲームを探していたのだった。
俺は紹介しただけで、ゲーム内で再会したのは本当にただの偶然だ。
しかしながら、それ以来
「てかさ、美鈴の方こそゲームの中でくらいなんか少しは変えようと思わないのか?」
「えっ、変わってるでしょ。
「あぁ、そうだな。でも髪型とか身長とか、服装まで含めて大学時代の頃とほとんど変わってないだろう。あと
「引きこもり違いますー、在宅ワーカーですー。こっちでは
むすっ、と不機嫌な表情で美鈴が言う。
「私の名前は
「すみませんでした
「
怒気を滲ませながら
それにつられて俺も同じように笑う。あぁ、おかしい。
「なんていうか……このやりとりも本当に久しぶり、具体的には七年ぶりよねー。」
「俺は確か七日ぶりだったと思うよ」
「こうやって一通りバカみたいな話してると――――本当に了くんとまた会えたんだなー、なんて、そう思えるわね」
「……なんだ、寂しかったのか?」
俺が挑発するようにそう言うと、
「まさか!了くんがこっちに来たら男を完璧に捨てる羽目になった気分はどうだ、って言ってからかってやる気満々だったわっ!」
そう宣う彼女の表情は、実に俺の知っている彼女らしい猫みたいに奔放な笑みだった。
そのらしさに安心した――――なんて素直に口にするのは癪だったので、「どうせそんなこったろうと思ったよ」と憎まれ口を叩き、紅茶を一杯口に含むのだった。
入りきらなかったのでお茶会はもう少しだけ続くんじゃ
次の次くらいにはエロシーンがちょっといける(予定)