おいで、と誘われるままに立ちあがって彼の方へと歩み寄る。
どうしようか、と一瞬悩んでから――――彼の膝の上に横に座る。
私が座るとヨアヒムが左腕をそっと差し出し、背もたれ代わりに私の背中を支えてくれる。
背中を支える腕はそのまま前まで回り、私の肩を掌が包んだ。
優しく繊細に、割れ物を扱うように――――それでいて力強く、ぎゅっと。
私の体を包むように抱いてくる彼の腕の長さ、太さ、大きさ。
私と彼の体格の差を、こうして腕の中に抱かれると否応なく思い知らされる。
見方によってはしっかりと捕まえられて逃げられないとも言える。
だが、そこには不安も無く、恐怖も無く、不快感も無かった。
こうして包み込まれてはっきりと感じるヨアヒムの体の逞しさと熱い体温、そして香り。
衣服越しに触れるその全ての感覚が私の心を芯から解きほぐして――――同時に否応なく火照らせる。
「リオ……」
「ヨアヒム……」
彼の指先が私の顎先をなぞる。
膝の上に乗せた猫を愛でるような仕草でありながら――――私を見つめるその瞳は何処までも熱っぽい。
榛色の瞳の中に見える緑の色が火のように眩しく、それでいて僅かに濡れたように艶めいていて宝石の様だ。
いつもの何処か子供らしさを残した彼の悪戯小僧のような瞳を良く知っている分、その熱さが際立って色っぽく感じた。
そして何より――――そんな真剣な眼が
言葉もなく、視線こそが何よりも雄弁に、彼に求められているということがわかってしまう。
私が彼を好きになって、それだけでもう十分に幸せで。
その上で、彼も私を同じように好きで――――求めてくれているだなんて、そんな都合のいいことがあっていいのか、なんて思ってしまう。
でも、もしそうなら、本当にそうなら……それはどれほど幸せなことなんだろうか。
「リオ、お前は……本当に可愛いな。ただそれだけの事しか言えないのが残念でならない。お前を形容するのにふさわしい言葉が無いということが本当に惜しい」
「ヨアヒム……」
「代わりに何度も言おう。リオ、好きだ。愛している……。オレの可愛い子猫」
「わ、私も……私も好きです。ヨアヒム、貴方の事が大好き……」
顔を覗き込まれる至近距離、息のかかるほどの距離で何度も囁かれる。
好き、大好き、愛してる。そんな語彙もへったくれも無い、感情をそのまま出力しただけの言葉の羅列。
けれど文字に起こせば簡素なそれも――――吐息交じりに、潤んだ瞳で見つめ合って、囁き合えば……なんて、甘いのだろう。
吐息交じりの言葉が耳朶を打って頭が奥まで痺れる。
脊髄反射めいて言われた言葉と同じような愛を囁けば、自分の言った言葉に酔いつぶれそうだ。
いつの間にか、私を抱きかかえるようにしているヨアヒムの腕に力が籠っていた。
割れ物を抱きかかえるように、膝の上で支えるように加減していた彼の力がずっと強くなって――――それこそ抱き
彼の体に自分の体が引き寄せられ密着する。抱きしめられるその圧迫感さえも心地よくて、私は自分から彼の方へと身を寄せた。
ヨアヒムのナイトガウンの襟元にそっと手を当てると、布一枚下の胸板を感じる。
それだけでなく腕や体幹の筋肉の感触が細身ながらも、しっかりと硬い感触がして、その逞しさにドキドキと胸が高鳴る。
……今、私が着ているネグリジェは本来夏に着ることを想定して誂えられた代物だ。
トップスは首の後ろで紐を結んで止めるデザインになっていて、背中や鎖骨回りが大きく開いていて、裾も膝くらいの丈になっている。
生地も風通しが良くなるように薄めに作られていて、光に当てれば少し透けるくらいのものになっている。
どうせだから少し色っぽく見えるものを、とアンネに渡されたものだ。
そして……その露出の多さと生地の薄さ故に、私を抱きしめているヨアヒムの感触が寄り
肩を抱く掌の少しごつごつした感触や、私の背を支える腕の筋肉の隆起を鮮明に感じる。
――――感覚が開いていく。感覚が広がっていく。
自分の体にスキルとして身についている各種の感覚が、私の中で鎌首を擡げる。
視覚が、聴覚が、嗅覚が、味覚が、触覚が、じわじわと水が漏れ出すように鋭敏化していくのを感じる。
「は、ぁ……っ♡」
そして……鋭くなっていく感覚が拾う情報は全て、全て、ヨアヒムの事だ。
目を合わせて見つめ合い、声を囁き合い、互いの香りを嗅いで、腕の中に抱かれて――――全ての感覚がヨアヒムに向けて焦点を合わせてしまう。
個人的に嗅覚がまずかった。
こうして腕の中に包み込まれているとより強く彼の香りを感じてしまう。
男性用の
爽やかさと、甘さと、酸っぱさと、そういうものが混然一体となった何とも形容しがたい香り……それでいて吸い込むのを止められない蠱惑的な香りだった
人の体の臭いを嗅いで良い気持ちになっているなんて、少し変態的じゃないかと頭の片隅で思う。
だがそういう風に思いはしても実際ヨアヒムからいい匂いがして、それにとても昂揚――――いや、
はしたない、と思いながら鼻をひくつかせて息を吸い込むのを止められない。
むしろ自分の中のそういう良識のような物を踏み倒すほどに、胸の奥で
私はすぅ、はぁ、と何度も息を吸っては吐きながら、ヨアヒムの体に自分の頭を擦り付けた。
まさしく彼の言うように、子猫のように。
「リオ、顔を上げて」
既に腕の中に抱かれているだけで頭が蕩けつつある私に、ヨアヒムの声は恐ろしく耳に馴染んだ。
感覚が暴走しつつあるせいだろうか、耳を震わせる声さえも甘く感じる。
ヨアヒムの指がそっと
優しく、それでいて力強い指先に顎を押さえられ、目を逸らせないようにされて見つめ合う。
強引ささえ感じる手つきだったが、優しさや甘さだけでない、そんな彼の一面がほんの僅かに見えて胸の奥がきゅうっ、となる。
「ここに……何が欲しいか、言ってごらん」
ヨアヒムの親指が、私の唇の淵をそっとなぞる。
彼の眼が私の心を焙るような熱さで覗き込んでくる。
有無を言わさない、とばかりのその視線から逃げられない。
キラキラと輝いていた筈の彼の瞳の緑色、その奥に今は別の光が見える。例えるならばそれは――――ギラギラ、と形容するべきか。
紳士の態度の奥に巧妙に隠されていた男としての――――雄としての情動。
それが今、少しずつ湖底から浮上するように発露して、他ならぬ私に向けられているのだ。
――――胸の奥で「きゅぅん♡」と音が鳴る。
その実感が、私が訣別したはずの『俺』の残滓を擦り潰す。その感触が堪らなく自涜的で、背筋が震えるほどに快美だった。
「……キス、して……」
気が付けばそう呟いていた。
自分自身の声のはずなのに、その声は自分のモノとは思えないほどにか細く掠れて、それでいて吐息に濡れていた。
あぁ、心臓が痛い。
砂糖と蜂蜜を塗り込んで火で焙られているように、心臓が甘く熱く、焦げるような心地がする。
私がねだるとヨアヒムが笑った。
すっと瞼を細める、どことなく酷薄ささえ感じる笑み。
その瞳の奥のギラついた輝きが漏れ出して私を射抜いて――――
「ん……っ♡」
人生で二度目のキスはひたすらに甘かった。
二人で一緒に飲んでいたラム酒と干し葡萄の風味が薫る。
唇から伝わる温度、唇を覆う触感が
ちゅう、と少し力を込めて吸いつかれる。
それだけで一瞬、心臓が口から零れるのではと思ってしまった。
ほんの数秒の触れ合いの後、空気が戻る陰圧の音を立ててヨアヒムが離れる。
吸い付かれた唇が、ジンジンと熱を持つ。
息を吐きながらそこに指先で触れると、火照って赤くなっているような気がした。
「もっと、するか?」
ヨアヒムの問いにこくり、と頷く。
うまく言葉を発することができなかった。今は何を口にしようとしても吐息しか出てこない。
……今の私はヨアヒムの目にはどう映っているのだろう?
ただわかるのは、彼がより一層強く私の体をかき抱いて、どこまでも情熱的な眼で私を見つめてくることくらいだ。
「……っ♡」
そして、もう一度唇を触れ合わせられる。
私の唇の輪郭を、唇で確かめるように執拗に……上唇、下唇、とまるで鳥が啄んでいくように何度も何度も。
その度にちゅっ、ちゅっ、と
拡張された私の聴覚の中でそのキスの音が大きく鮮明に響き、恥ずかしさが込み上げる。
その恥ずかしい感覚がくすぐったくて思わず身を捩る。
「深くするぞ」
何度も細かなキスを落とされて、私の唇が赤くなってきたのを見計らうようにヨアヒムがそう囁いてきた。
返事は聞かない、有無は言わせない、と言外にそう主張するような力強い口調。
思考がふやけている私は正直何を言われたのか咄嗟に理解はできなくて――――それでも彼に
そして、ヨアヒムの顔が覆いかぶさるようにして私の上から迫り、唇を奪われる。
奪われる――――そう形容するのが相応しい、強引ささえ感じるキスだった。
密着させたまま何度も唇を音を立てて吸われたかと思うと、その表面を彼の舌先でなぞられた。
口紅をそっと引くかのように濡れた舌先で唇を舐められるのは背筋がゾクゾクと震えるような快感だった。
くすぐったさと疼きを無理矢理植え付けられるようなもどかしさ。
うずうずする唇の疼きが辛抱できなくて、無意識のうちに私は自分の舌を出して自分の唇を舐めようとしてしまった。
……だが、それこそが彼の思うつぼだった。ヨアヒムは私が舌を出すために微かに開いた唇の隙間に潜り込むように、自分の舌を捻じ込んできたのだった。
「ふ、うぅ……っ♡」
顎下に添えられた指で顔を少し傾けさせられる。ヨアヒムの唇が、いや、口が私の唇に齧り付くように深く合わせてくる。
咄嗟の事に動揺して頭が白くなっていた私にそれを拒むことはできなかった。
歯列の奥までヨアヒムの舌が私の口腔に潜り込み――――私の舌が絡め捕られる。
そうなるとキスの経験などない私にできることは無かった。
反射的に引きこもろうとした私の舌がヨアヒムのそれに捕まって、翻弄される。
舌の表面から裏までじっとりと舐めまわされたかと思うと、舌同士を突き合わせて押し潰される。
棒立ちになって震えている舌先を何度も彼の舌が嬲るように叩いて唾液を弾けさせる。
はたまた
「ふぅっ、んふ、ぅっ……ふぁっ……♡」
くちゅくちゅ、ぐちゅぐちゅ、と唾液が跳ねて、絡んで、混ぜ合わされる音がする。
口の中で響くその音が私の頭の中で反響するのがわかる。まるで脳味噌が丸ごと水飴になってしまったような。
ふぅっ、ふぅぅっ、と荒い息の音が聞こえる。……口の中を混ぜ合わせる私たち二人の息だ。
口が塞がっているので口で息を吸うことができない。だから動物のように鼻息を荒くして、懸命に空気を確保するしかなかった。
その荒々しい息遣いが、まるで盛りのついたケモノみたいで、私の胸に血が滲むような倒錯感と陶酔感が走る。
ここまで来るとキスの味は甘いだけではなかった。
既にラム酒と葡萄の味は飛んで、感じるのはお互いの唾液と口腔の味。
絡みついてくるヨアヒムの舌が、私の舌に彼の味を教え込むように唾液を塗り込んでくる。
男の唾液の味は、少し辛くてざらついていて――――それでいて癖になる味がした。
うっすらと目を開けてみれば視界一杯にヨアヒムの顔が広がっている。
触覚だけで……あるいは味覚だけで私の
その拍子に一段と深く舌を差し込まれて、私の視界が潤んで滲む。
――――気持ちよかった。
荒波にさらわれて、溺れてしまうような、激しくて情熱的な口づけ。
唾液を、舌を、口腔を、重ね合わせて、混ぜ合わせて、溶け合わせるような口の先での交合。
力強く抱きしめられながら、口の中を掻きまわされるのがこんなに気持ち良いなんて想像だにしていなかった。
「…………っ、ぷ……、ぷぁ……っ」
口を絡み合わせて、どれだけの時間が経っていたのか。
ヨアヒムの唇が離れたときにはすっかり私は息も絶え絶えになっていた。
離れる瞬間に、舌と舌との間で水飴のような唾液が糸を引いていくのが、たまらなく淫靡だった。
顎と舌が骨抜きにされて、だらしなく開いた私の口から荒い息が漏れていた。
「はぁっ、はぁ……っ♡ はぁぁ……♡」
「リオ……」
私の顔を覗き込むヨアヒムの方はと言えば息一つ切らしていない余裕の表情だった。
だが、その目つきはもういつもの私が知っている彼の悪童めいた稚気のある微笑みではなかった。
自らの唇の周りに残った唾液をぺろりと赤い舌が拭うのが見えた。
長い睫毛に彩られた榛色の瞳は、もう男の情欲を隠してはいない。
真っ直ぐに鋭く、火傷するほどに熱くて、そして酔いそうなほどに甘いその眼差しが言葉もなく告げているのだ――――『
その眼差しが凄絶なほどに色っぽかった。
今の私が『女』として彼を好きになって、本当に良かったと思うほどに
「もっとしてほしいか?」
彼の問いに私は頷くしかなかった。
もっとして、と吐息交じりの声でそう返す。
私のお
******
「もっとして……」
男の腕の中で少女が蕩けた声で返事をする。
水晶の鈴を鳴らすようないつのも涼やかな声も、今は糖蜜に付け込まれたかのように甘く、濡れている。
涼やかなアイスブルーの瞳を泣き出しそうなほどに潤ませ、陶器のように滑らかな頬は林檎よりも赤い。
桜色の唇は何度も吸い付かれて薔薇の花弁のように紅く色づき、透明な唾液が暖炉と蝋燭の灯を照り返して艶めいている。
彼女を膝の上に乗せている青年は背もたれ代わりに彼女の背から肩にかけて回している腕に力を込めた。
力強く抱いて、その矮躯を自らの体で包み込んでやれば、少女は甘える子猫のように身を摺り寄せてくるのだ。
本来なら夏用にと調整された薄手のネグリジェは男に少女の肌と肉の柔らかさをより明瞭に伝えてくる。
人形のように華奢で繊細に見えてその実、山を駆けるカモシカを彷彿とさせる生命力に満ちた瑞々しい少女の体。
膝の上に乗せても違和感のない矮躯は愛らしく、男の庇護欲を掻き立てる。
その癖に抱きしめたときに感じる五体の感触は、紛れもなく幼気な容姿の中に眠る『女』を彷彿とさせる。
すりすり、と少女が男の体に頭を擦り付けてくる。その様はまさに飼い主に甘える子猫のようだ。
だが息を荒くして少女が吸い込んでいるのは男の体臭だ。長いこと密着して微かに汗ばみ始めた男の汗の香りが、紛れもなく少女の官能を刺戟していた。
――――官能。
――――そう、官能である。
男と同じように汗ばみ始めた少女の体からは、本人も意図せずとも男を誘うような甘い香りが匂い立っていた。
ほぅ、と息を零して男を見上げる少女の額には微かに乱れた前髪が汗で張り付いて、なんとも悩ましい表情を形作っていた。
はしたなくも貪欲に、男に甘えて、男を求める『女』の表情。
男はそんな少女の仕草に相好を崩しながらも、自分の内に沸々と立ち上がり始める情欲を感じていた。
乱れた前髪を整えてやる指先は妹を労わる兄のように優しげでさえあったが、少女の首筋やつむじに鼻先を寄せてその香りを堪能する様は盛り始めた動物のようでさえある。
少女を守り慈しみたいという庇護欲と、少女を貪り味わい尽くしたいという獣の欲が男の中でぐるぐると渦を巻いている。
そして男はそれを自覚した上で――――もう遠慮はしなかった。
少女の方も、自分の方も、お互いを求めて、求められ、そのことに抑えきれないほどの幸福を感じているのだから。
傍の机の上にあるラム酒の入ったグラスを手に取って口に含む。
僅かに口を湿らせるように琥珀色の酒を少量飲み下してから――――男は少女の唇に食らいついた。
******
「んんっ、ん……♡ ふぅっ、ふぁっ……はぁっ♡」」
それからのキスはとにかく遠慮がなかった。
さっきのキスで私は息も絶え絶えになっていたが、ヨアヒム的にはあれでも加減していたようだった。
舌を絡ませ合うのは序の口。
捻じ込まれた舌が歯磨きよりも尚、丁寧に執拗に歯列をしゃぶりつくして、歯も歯の隙間までもじっとりと
口蓋の表面や、歯の裏まで舐めしゃぶられて口の中を彼で一杯にされる。
何せ、私とヨアヒムとでは口と舌のサイズ自体に結構な差があるので、捻じ込まれたが本当に大きく感じられるのだ。
まるで口の中を征服されるような感覚だった。
でも、そうして滅茶苦茶にされるのが……嫌ではなかった。
ヨアヒムに求められているということ――――私が好きになった人が、同じように私を好きにでいてくれるということ。
こうして荒々しく
むしろ、歓迎した。
もっともっと乱暴にして貰っても本望とさえ思えた。
私も、彼の事が好きだから――――私にあるものをありったけ彼にくれてやりたいと、そう思ってしまうのだ。
「んん…………っ!!!!」
私の想いが通じたのかはわからない。
思わずくぐもった叫びが漏れたのは、ヨアヒムが私の口を吸い上げたからだ。
深く深く、溶け合うほどに口を絡み合わせた状態で口の中を思いっきり吸われるのは恐ろしく心地よかった。
まるで自分自身という存在が直接吸い上げられて彼に食べられてしまうような錯覚がして背筋がぞくぞくした。
一旦、口を解放されて息を一杯に吸い込むとヨアヒムの匂いがした。
お互いずっと密着して汗ばんでいるからだろうか、少し酸っぱいと感じる汗の香りがする。
普通なら臭いと感じるかもしれないはずのその匂いが、今は本当に良い香りに感じられた。
息を吸い込むごとに頭がバカになっていくような気がした。
頭の中がふやけて桃色に溶けていく感覚がする。
その間もヨアヒムから何度もキスを落とされる。
頬、鼻先、額、瞼、髪、耳、首筋、と顔中頭中キスが雨のように降ってくる。
ちゅ、ちゅ、と肌に吸い付かれるその感触がくすぐったくて嬉しくて――――無意識のうちに顔を彼の方へと上げて唇へのキスをねだっていた。
だってしょうがない。どんなところにキスしてもらうよりも、唇にキスをしてもらうのが一番気持ちいい。
ぐちゃぐちゃに舌を絡ませて唾液を混ぜっかえす一体感を知ってしまったら、少しでも離れている時間が口寂しくて仕方がない。
「ふっ、ふっ、ふぅ……んぅぅっ♡」
背筋にぞくぞくっ、と激しい震えが走る。
キスの感触もあるが、それだけではない。ヨアヒムの指先がそっと私の背中を撫で上げたのだ。
私が着ているネグリジェは少し肌が見えるデザインになっている。その隙間から肩甲骨の間辺りを撫でられた。
そのくすぐったい感覚がうなじの方まで走り抜けて、たまらず私は呻いた。
ただ、くすぐったいだけではなくて――――その指先がどうしようもなく心地よくて。
もうキスを交わし合うだけで私の体すっかり
それをもう彼も見抜いているのだろう。ヨアヒムの手が私の肌の上に伸びてくる。
頭を撫で、髪を梳く。
背筋を撫で上げて、鎖骨をくすぐる。
うなじを指先が押して、耳の後ろを軽く掻かれる。
くすぐったくて、気持ち良くて、痺れるような心地。
触れられる場所が何処も熱をもって火照ってしまう。
スキルの補正を受けて強化されている私の感覚は、ヨアヒムから与えられるその全ての感覚を味わい尽くす。
視覚も、聴覚も、嗅覚も、味覚も、触覚も、全て全てヨアヒムに与えられるものに埋め尽くされる。
自分の好きな人に満たされる。その多幸感に溺れていく。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁぁ…………っ♡」
もう一度口を離されたとき、私はもう既に蕩け切っていた。
息が熱くて、胸が疼く。吐息が濡れて、鼓動が甘い。
もう酸欠になっている頭の中が桃色の靄に犯されきって思考が纏まらない。
ただ私は、心地よさに喘ぎながら縋るものを求めるようにヨアヒムの胸に頭を寄せていた。
「…………っ」
突如走った新しい感触に身を強張らせる。
恐ろしいほどに熱い男の掌、私を気持ちよくしてくれるヨアヒムの手が…私の太腿に添えられていた。
少し短めとはいえ、私のネグリジェの裾は膝下くらいまではある。
それを彼の手が少し捲りあげて――――その上の私の太腿に触れているのだ。
「……リオ」
かつてないほどに真剣な眼でヨアヒムが私の名前を呼んだ。
内容も無いし、疑問形でもないが……その呼びかけは確かに質問だった。「この先に進んでもいいか?」という言外の質問。
彼の掌は私の太腿に触れて、そのまま動いていない。
「…………っ……?」
だが、彼の質問とは関係ない所で、私は小さく息を呑んだ。
彼の膝の上で微かに身じろぎした瞬間――――私の脚に何か硬くて熱い感触が触れたのだ。
なぜ今まで気づかなかったのか不思議なくらい、その箇所は下からヨアヒムの寝巻のズボンを押し上げるほどに大きく、熱い昂りだった。
それを認識した瞬間、私の五感が急速にそれに照準を合わせてそこに宿る脈動を強く強く感じ取ってしまう。
「――――――っっっ♡♡」
それが何なのか理解した途端、下腹の奥に
鉈のような肉厚の刃物で果肉を割り開いたような重くて粘った手応え。
その裂けたところから、どろどろと粘っこくて甘い果汁が溢れだすような感触。
かつてないほどに甘くて重たいその熱感に私は思わず背を丸めた。
「リオ……?」
「ヨアヒム……っ♡」
怪訝な表情をするヨアヒムに、私は心配しないようにと笑って首を振った。
体が内側から罅割れそうなほどの疼きが全身を走り抜けて、どうにかなりそうだった。
私は彼の勃起にズボンの上から手を添えて、小さな声で囁いた。
「ベッドに……連れていって、ください……」