ひょい、と体を持ち上げられる。
膝裏に手をあてがわれて、背中にもう片方の腕を支えられて抱きかかえられる。
俗に言う、お姫様抱っこという体勢だ。
その名称を意識すると頭の奥がかぁっ、と熱くなる。
嬉しいような、恥ずかしいような、そんな感覚。
ただ足が地面に着かないのは、突然だったこともあって驚きと共に戸惑いも覚える。
というわけで私は咄嗟に目の前のものにしがみつくことになった――――ヨアヒムの服の胸元に。
彼が着ているナイトガウンの胸元が、私が握り締めるとともに微かにはだける。
その隙間から見える男らしい胸板と素肌の色が目に入って、私は小さく喉の奥で唾を飲んだ。
そんな私を見下ろすようにしてヨアヒムが笑みを浮かべている。
ふわりと柔らかく綻ぶような口元と対照的なギラついた熱情を隠そうともしないその視線。
抱きかかえられながらそれを見返す私は、全身に
あぁ、
下腹に痛みにも似た熱感が生まれて、血が巡る度に
その感触がもどかしくて、私はヨアヒムの腕の中で身じろぎした。
やがて私を抱えたヨアヒムはベッドのすぐ横までやってきた。
彼のベッドも私の部屋にあるのと同じように天蓋付きのものだが、パッと見たところもう一回りか二回り程度はサイズが大きい。
……それこそ二人以上の人間が上でバタバタと暴れても何の問題もない程度には。
垂れ下がるカーテンに頭が引っ掛からないように少し頭を下げて潜り、天蓋の中に入る。
体を受け止めたベッドのシーツはふんわりと柔らかく、とっても良い香りがした。
「……?」
しかし、横たえられたシーツに何か違和感のようなものを感じた私は、首だけ起こして周囲を眺めた。
天蓋を支える柱が暖炉の明かりで影を作り、黒い直線を白いベッドの上に描いている。
そしてベッドの上に何か細かな紙片のようなものが散らばっているのが見えたのだ。
私が手近なそれを何片か手に取って眺めてみるとそれはどうやら花弁のようだった。
すぅ、はぁ、と息を吸い込んでみると甘ったるい香りがする。
たくさんの果実を火にかけて煮詰めて作ったジャムか、あるいは香水。その原液を薄めずに結晶化させたような濃密さ。
ショッキングピンクのどぎつい色は警戒感を煽るが、それ以上に何とも蠱惑的な香りだった。
だが、香りではなくその色合いで花の正体、ひいては香りの正体もわかってしまった。
それに気づいた私が視線を向けると、ヨアヒムは笑みを浮かべた。
いつもの彼らしい、悪戯好きな少年を彷彿とさせる微笑みだった。
「ヨアヒム、これ……ひょっとして『アマレの花』ですか?」
「そうだ、良く知っているな」
「……えぇ、知ってはいますけど……まさか、アロマキャンドルの材料も」
「あぁ、蝋燭にもそれを仕込んである。いい香りだろう」
「…………確かに、確かにそうですけど……」
掌からショッキングピンクの花弁をベッドの上に散らすように捨てて、私は深呼吸してから溜息を吐いた。
植物系の素材である『アマレの花』。比較的手に入りやすい材料だが、何よりこの花は『魅了』の状態異常を引き起こす薬の主だった材料として知られている。
ゲーム時代はあくまでそうした薬物の素材でしかなかったが、現実化した今では異性を惹きつける効果があるとして香水によく使われるとはメリイに聞いた話である。
ただ、香水などの材料として使うのは幾つかの原料と混ぜるのが前提であり、それ単体で使用すると即席の
それをよりによってヨアヒムはアロマキャンドルに混ぜて炊きまくり、こうしてベッドの上に大盤振る舞いするようにぶちまけているのである。
「……短絡的かと思うか?」
ヨアヒムの声が響く。
彼はベッドの四隅の柱の留め具を外し、カーテンを引いた。
上から垂れさがる幕が下りて、ベッドの上が薄い影に包まれる。
「それでも、リオとの初めての夜だからな。初めてのものは特別な思い出になるようにしたい。そうは思わないか?」
「確かに……私もそう思います。でも……」
薄暗がりに包まれても私の視覚はそれに急速に順応する。
その視界の中でヨアヒムが熱っぽく私を見つめている。
アマレの花弁を手の中から散らすようにベッドの上に撒いて――――私はその代わりに枕に顔を埋めた。
「わざわざこんなものを用意しなくたって、ヨアヒムの香りの方がずっと好きですよ、私は……」
すぅ、はぁ、と息を吸っては吐く。
私が横たわるベッドに置かれている清潔感のある白い枕。それに顔を寄せて息を吸い込むと、少しつんとした香りが鼻をつく。
そう、ここはヨアヒム個人の寝室であり、そうなればここは毎晩ヨアヒムが寝ているベッドというわけだ。
必然的に寝具一式に彼の香りが染みついているというのが、少し息を吸い込むだけでわかってしまう。
私が顔を寄せた枕から彼の髪の匂いがする。
整髪料や香水とは違う彼自身の、ヨアヒム自身から染み出した
饐えたような酸っぱいような、一般的には良いとは言えない香りのはずなのに――――私自身にはそれが堪らなく中毒性のある芳香だった。
柔らかく私を受け止める枕の生地、それに鼻先を寄せて息を吸う。
「…………ん……っ、はぁ……っ♡♡」
はしたない、変態的だ。そんな風に頭の隅のどこかで咎めるような声がする。
だが、その声を無視して息を吸い込むと胸がドキドキした。
魅了効果があるアマレの花よりも……いや、むしろそれと合わせた相乗効果で私の頭が蕩けていく。
思考がピンク色の靄に飲まれるような感覚。どんな酒を飲んでも体験したことのない、心地よい酩酊感に落ちていく。
「リオ、こっちを向いてくれ」
ヨアヒムに声をかけられる
ふわふわとした私の頭に、彼の声は恐ろしく馴染む。スポンジに沁み込む水のように。
横たわったまま声がした方へと顔を向けると――――どん、と頭のすぐ横に彼の手が付かれる音がした。
顔をあげれば、私の真上に覆いかぶさるようにしてヨアヒムが私の顔を覗き込んでいる。
幕の向こうから透ける暖炉の橙色の明かり、その中に浮かび上がる彼の黒々としたシルエットが私の視界一杯に広がる。
その中に見える彼の榛色の瞳は私を射抜くように鋭く、或いは焦がすように情熱的だった。
ともすれば押し倒されているようなこの体勢。ベッドと彼の体の間に挟まれて、もう逃げる場所がないということを知らしめられる状態。
もう逃げられないということ。
もう後戻りはきかないということ。
その事実を意識すると――――痛いほどに胸が高鳴った。
「ヨアヒム……」
私は自分の頭の横、私をベッドに縫い付けるように突かれた彼の腕に自分の手をそっと這わせた。
複雑なことを考えるような思考力は既に飛んでいる。出てきたのはシンプルに頭に浮かんだ台詞だった。
「その……優しく、してください……」
「……約束はできない」
……台詞の
私を見つめるヨアヒムの眼がすぅっ、と細くなる。その奥にじりじりと燃える情欲の火を灯したまま。
「そんな可愛いことを言われたら……逆に、もっと激しくしたくなるだろう……?」
「……っ……♡」
囁くように静かで、それでいて炉から吹き上がる蒸気のように熱い呟きだった。
その吐息交じりの声が耳朶を打って
少し怖いくらいに強引で、隠そうともしない男の情欲に晒されて――――そのことが一層、私の中の熱を煽る。
「優しくはできないかもしれないが……それでも、忘れられない夜にはなるさ」
ヨアヒムはそう言った後、私に口づけを堕とした。
******
夜も更けた屋敷の一室。
伯爵の私室でもあるその部屋には早摘みの果実を煮込んだような、爽やかさと甘ったるさを混ぜ合わせたアロマキャンドルの芳香が漂っている。
そして蝋燭と暖炉の火が部屋に投げかける橙色に揺らめく明かりが、天幕を下ろされたベッドの上で睦み合う男女の姿を影絵のように浮かび上がらせていた。
「ふっ、んんっ……、んふぅ…………ぁっ♡♡」
半透明のカーテンで明かりを遮られた薄暗いベッドに少女のくぐもった嬌声が響く。
鼻にかかった甘い喘ぎ声を上げる少女の唇は男の唇によって抑え込まれていた。
息もつかせないほどの激しいキス。それだけなら二人がベッドに入る前にもあった。
だが、今そうしているように、ベッドの上に押し倒されるような状態でされるキスはまた違った
「んっ、んっ……♡ んぅ、ぁ……っ♡」
彼女の片手は、恋人同士がするように指と指を絡ませ合って男に握り込まれている。
そして同時にベッドのシーツに縫い付けるかのように力強く押さえつけられていた。
男の大きな掌に捕まえられた少女の幼気な指が微かに蠢く。それは自分を縫い留める掌から逃れようとするような動きでもあり、同時に愛おしい男の手の感触をもっと感じようとするようなそれでもあった。
少女の体格に対して男のそれは一回りは大きい。
男が覆いかぶされば、少女の小さな体はすっぽりと隠れてしまう。
故に身をかがめて少女の唇に濃厚な口付けを交わす男の姿は、ともすれば捉えた兎に食らいつく狼にも見えた。
「はぁっ、っぅ……っ♡ んぅ、ぁ……♡」
ぐちゅぐちゅ、と大概の唾液を絡ませ合う淫猥な深い口づけ。
真上から組み伏せられている関係上、必然的に重力に従い男の唾液が少女の口腔に流し込まれる。
こくこく、と餌を与えられる雛鳥のように男の唾液を嚥下して少女の喉が可愛らしく動く。
やがて二人の唇が離れたとき、少女は荒い息を吐いて呆けた表情で天井と男の顔を見上げていた。
口の端からは零れた唾液が透明な小川のように流れ、頬を伝って枕に染みを作る
「何もしなくていい……ただ、安心してオレに体を預けてくれ」
耳元で男が囁く。
わざと耳の穴に息を吹き込むように囁かれるその声は少女の脳を直接揺らすようだった。
潤んだ瞳でこくり、と少女が頷くと――――男は何も言わずに、目の前にある白くて形のよい耳を口に含んだ。
「あっ、ゃっ……♡」
微かな驚きと共に少女が身じろぎするが、それを予期していたように男は空いた手でそっと彼女の細い顎を押さえた。
男の前に耳と白い首筋を晒すように、軽く首を傾けた状態を強制される。
お互いに繋いでいるもう片方の手もシーツが沈むほどに力を込められる。逃がさないという男の意志が明確に少女を縫い留める。
多少手荒かもしれないという意識は男にはあったが、これで
これまでの反応で、むしろ強引に迫った方が少女が悦ぶというのを察していたからである。
「は、はぅっ……んんっ……♡」
男の口に耳朶を含まれた少女はか細い声を上げて悶えた。
くちゅ、くちゅ、と耳を舐められるとその湿った音が頭の中に反響する。
まるで聴覚野に直接舌を突き込まれて脳をしゃぶられているかのような。
くすぐったさにも似ているが――――それよりもずっと、背筋が戦慄く未体験の感覚。
あるいはコリコリと耳たぶを甘噛みされ、耳の後ろをなぞるように舌先を這わされる。
「ひゃぁぅ……っ♡」と情けない声が漏れるのが恥ずかしくて、咄嗟に口元を塞ごうとするが、それは男によって阻まれる。
少女はうるうるした瞳で男の意地悪に抗議するが……男ならば誰でも同じようにしただろう。
何せ頬を赤く染めて少女が鳴らす嬌声は何とも堪らなく愛らしかったのだから。その口を塞ぐなどというのは無粋な話であった。
「あっ♡ あぁっ、ゃっ♡ やっ、ぁ゛――――っ♡♡」
男の舌と唇。その二つが少女の上で踊って嬌声を奏でさせる。
耳を散々に嬲った後は、白い肌と金の髪の境が作るうなじに口づける。
音を鳴らしてキスを何度も降らし、舌先でなぞりあげれば少女は甲高い喘ぎを漏らしながら見悶えた。
自分の下でいやいやをするようなそんな愛らしい抵抗に対して、男は優し気な笑みさえ浮かべた。
そして優しく笑いながら軽く自分の体重をかけるようにして少女の幼気な矮躯をベッドの上に押し潰す。
息苦しくはならないように、しかして自分からは逃げられないようにという絶妙な圧迫感。
少女はもじもじと身を揺すらせるようにして男に抗うが、その様子は何処か婀娜っぽい。
少なくとも頬を赤く染めて上目遣いに男を見上げるその仕草からは、本気で嫌がっているようには見えなかった。
やがて男の口先が下り、少女の細く白い首筋に触れる。
静脈の青さも透けて見えそうなほどに白いその肌も、今は茹で上がったかのように赤く色づいている。
そしてうっすらとかいた汗で微かに濡れているのが何とも艶やかだった。
獲物にトドメを刺す獣のように、男は少女の細い首筋に噛みついた。
大した強さではない、柔肌にほんの僅かな歯の痕が付く程度の戯れのような甘噛み。
だが、そうして食いつかれた当の少女は全身をぎゅうっ、と強張らせて未知の感覚に身を震わせた。
自分が組み伏せられて、まるで狩りの獲物になって食べられてしまっているかのような――――被征服感。
誰かのモノにされる、という屈服感はまるで毒の蜜のように少女の脳を貫いて内側から焼いていく。
「――――――…………っっっ♡♡」
うなじにもそうしたように男は何度も少女の白い首筋に何度も口づけを落とし、擽るように舌先で舐め上げた。
首筋とうなじから何とも言えない芳香が漂う。
少女の甘酸っぱい汗と髪の香り、男がマーキングでもしたかのように塗り込めた唾液の香り。
そしてついでに自らがベッドの上に散らした『アマレの花』の香り。
すぅっ、と深呼吸のように息を吸うと男の肺をそれらが混ざり合った芳しい匂いが満たし、内に溢れる情欲に一層の火を付けた。
だが、そこで彼は焦るようなことはしない。
既に股座の雄は熱感さえ感じるほどに猛っているが、それを欲望のままに叩きつけるような不作法は紳士として恥ずべき行いである。
重要なのはいかにして今夜の二人の営みを心地よく完遂するかであり、そのためには下ごしらえが欠かせない。
(それに……)
男はベッドの上に組み伏せた少女を熱のこもった眼で見下ろした。
黄金と白金を混ぜ合わせたような艶やかな長い髪が、ピンクの花弁を散らした白いシーツの上に散らばっている。
額と頬の上で髪が汗ばんだ肌に張り付いているのは何とも艶めかしいものだった。
陶磁器のように白い肌を赤く染めているのは羞恥か、或いは官能か、はたまたその両方か。
桜色の唇は嬌声とも吐息ともつかない微かな濡れた声を零し、何かを求めるように緩くその口を開いていた。
髪と同色の長い睫毛に縁どられたつぶらな瞳は涙を零しそうなほどに熱く潤んでいる。
そして時折、その揺れ動く瞳が幾度か男を上目遣いで男を見上げては恥ずかしがるように逸らすのが何とも愛らしい様だった。
(可愛らしい……)
心の中で男はそう呟いた。
この少女の愛らしい姿をもっと見たい、と頭の奥で
その為には勢いに任せてがっつくような真似は不適当だ。
まだまだ夜は長い。この少女を愛でるのに時間はたっぷりある。
そう思いながら、男は彼女の首の後ろに手を伸ばした。
******
するり、と首の後ろで何かが形を崩した。
頭が胡乱になりつつあることもあって理解するのが遅れたが、それはネグリジェを留めている紐だった。
ずり落ちないように寝巻を留めていたそれが解かれたということ――――その意味を理解して、私は自分の頬がさっと赤くなるのを感じた。
「リオ、」
脱がすぞ、と囁かれる。
ヨアヒムの声は今やすっかり私の脳を溶かす機能を持っていた。
耳の穴に息を吹き込むようにそう囁かれると、私は背筋をぶるりと震わせながらこくり、と反射的に頷いてしまうのだ。
脱がす、とはいっても実際には胸の辺りまではだけられただけだった。
お互いの体が相当に密着しているのだから仕方ないとも言えるが。
……ただ、その窮屈さが私は嫌ではなかった。ヨアヒムの厚い胸板や熱い体温が押し付けられて、ベッドとの間に挟まれて力強く抱きしめられているような気持ちになる。
身を捩らせてもしっかりと縫い留められるように押さえつけられるのは……それだけ求められているのだ、と体に刻み付けられるようで……少し、嬉しかった。
「可愛くて綺麗な下着だ……とてもよく似合っている」
単純な言葉でも、褒められるとそれだけで胸の奥が温かい気持ちになってしまう。
はだけさせられた胸元にしている下着は、青をベースに藍色のレースを使った落ち着いた色合いのものだ。
色々と悩んだ挙句に勝負下着に選んだのは結局、自分の好きな色の下着だった。
それが……似合っている、と言われたのが嬉しくて心臓がきゅうっと高鳴った。
そっと、割れ物を扱うような繊細な手つきでヨアヒムの手が私の胸をなぞる。
私が今着ているブラは肩紐のないデザインで、その関係でカップの面積が普通のモノよりも小さめだ。
彼の指先は、そのブラの生地に包まれていない私の胸の肌の上をゆっくりと撫でていく。
「……っ……」
少し覗いている素肌の部分を、或いはブラの上からの胸を、彼の指が幾度もなぞるように撫でる。
まるで……いや、実際に、私の胸の感触を確かめるような慎重で細やかな愛撫。
品定めされているのか、それとも下ごしらえされているのだろうか。
どちらにせよ――――私が感じているのは
「ヨア、ヒム……」
思わず声が漏れる。その声は自分で自分のモノとは思えない程に弱々しくか細い声だった。
私が視線を向けると、彼はにやり、ととても悪い笑顔を浮かべた。わかった上でやっているという、確信犯の笑みだ。
「してほしいことがあったら……ちゃんと口で言わないとな」
「んぁ……ぁっ……♡」
そう言うとヨアヒムは露になった私の鎖骨回りにキスをしてきた。
ちゅ、ちゅっ、とまるで鳥が囀るような音を立てて肌に吸い付かれる。
普段人に見せないような、ましてや触られるようなことのない場所にそうやって何度もキスをされるのは……何ともくすぐったくて、それでいて恥ずかしく、心地よい感触がした。
耳元や首筋でそうされたように、デコルテを執拗にヨアヒムの唇と舌先で存分に嬲られ、愛でられる。
だが、それだけでは足りない。散々に高められた私の中の熱がもっと強い刺激を、もっと決定的な刺激を求めて疼いていた。
胸元をはだけられた時、頭の片隅のどこかで触れられることを期待していたそこから意識が離せない。
「はぅっ、うぅぅ…………っ♡」
ちゅうっ、と一際強く吸い付かれる。少し視線を向ければ鎖骨の下の胸元、吸いつかれた皮膚が充血して赤い唇のマークになっていた。
それを見て満足げに微笑んだヨアヒムは、鎖骨から更に下って私の胸にも唇で触れ始めた。
ブラジャー越しの布一枚隔てた感触でも、に触れられているのは驚くほどに官能的だった。
もう片方の胸も彼の手でゆっくりと優しく愛撫されている。
丁寧なその手つきは胸の中のしこりを解されるようなじんわりと広がる心地よさがある。
だが――――、
「――――っく」
揉まれた拍子にブラジャーのカップが少しずれ、内側で少し擦れる。
その瞬間、胸の先端から電流のような痺れが走る。私はその衝撃に思わず背を反らせて哭いた。
ほんの少しだけブラジャーの内側の柔らかい部分と擦れただけ。ただのそれだけで我知らずに声が出てしまうほどの鋭い感覚が走ったのである。
「少し、意地悪しすぎたかな……」
悪びれた風もなくそう言いながら、ヨアヒムはカップとカップの間にあるホックを指先で外した。
フロントホックのブラジャーがその締め付けを解かれ、はらりと落ちる。
剥き出しにされた私の胸、そこにヨアヒムの熱い視線が注がれるのを感じて顔が熱くなる。
私は自分の体の造形に自信を持っているが――――それでも恥じらいというものはある。
「可愛い乳首だな……。さっきからずっと、触ってほしそうにしていたのは解っていた」
反射的に腕で胸を隠そうとするが彼の腕と体が邪魔でそれもできない。
息がかかるほどの距離でヨアヒムに自分の体を品評されるのはたまらなく恥ずかしかった。
たまらず顔をそむけてしまったが、視線を下に向けなくても自分の胸元がどうなっているのかはわかる。
先ほどからジンジンと疼いて仕方ない私の乳首は、彼がそう言ったように、触れられるのを待ちわびるようにピンと高く勃ち上っているのだろう。
それをまじまじと見られているのだと思うと顔から火が出そうな心地だった。
「大丈夫だ。心配するな、サクランボのように可憐で愛らしい……食べてしまいたいくらいに」
ふぅっ、とヨアヒムに胸の先端へ息を吹きかけられる。
その微かな刺激だけで体がひくんっ、と強張るのを感じた。
恐ろしく感度が高くなっている。そこへの刺激だけで全身が震えるほどに。
「…………っ……」
ヨアヒムの指先が露になった胸の表面の肌を撫でる。
脇から上がってくるように乳房の横を撫で上げ頭頂部へ至り……そして先端に触れることなく指が離れていく。
私の胸の測量でもしているかのような執拗ささえ感じるその手つき。
触れられる心地よさと、最も敏感な場所に触れてもらえないもどかしさが蓄積していって息が詰まるようだ。
「優しくはできないかもしれないが……いいか?」
くるくると指先を回すような動きで彼の指が先端部の周辺だけをなぞる。
乳輪に与えられる微かな刺激が何処までもじれったい。早く早く、と脳裏で快感を求める本能の声が響いている。
ありったけ焦らされた乳首が、内側から発火しそうなほどに疼いている。
私は泣き出しそうな心地でこくこく、と彼に向って頷いた。
「なら……いただきます」
そう言ってヨアヒムが私の乳首を口に含んだ。
そしてカリっ、と彼の歯がそこを噛み締めた瞬間、私は背筋を逸らして声にならない声を上げた。
「――――――――――――…………っっ!!!!」