衣擦れの音が薄暗い寝室に響き、衣服がシーツの上に落ちる。
そういえばまだ脱いでなかったんだよな、とか、自分は脱いでいたのに人を脱がせてあんなことを……、だとかそんな文句が脳裏に過ぎる。
だけどそんな文句も本当は思ってみただけだ。
今になってようやく私の目の前に晒されたヨアヒムの裸体を見て私は――――思わず喉を鳴らして唾を飲んだ。
基本的に事務仕事ばかりの貴族だというのにいつの間に鍛えているのか、ヨアヒムの体は細身でありながら程よく引き締まった筋肉で覆われていた。
程よく隆起した腕の筋肉、肉の弛みなど見られない胸筋と腹筋。
今まで抱きしめられた時に感じたあの逞しい感触の正体を直接目で見て確かめるのは何とも言えない感慨があった。
ただ、それ以上に目を引くのが――――、
「…………っ……」
「そんなにじろじろ見られても、照れるな」
ヨアヒムはそういう風に言ってくるが、見るなというのは無理な話だった。
胸筋から腹筋へと視線を下ろしていけば当然のように目に入るのは、下腹部だ。
そして私の眼に入ってくるのは下腹部の拳一つ分程度の下、彼の髪の毛の色と同じワインレッドの体毛……その奥から伸びている
――――槍だ。槍が生えている。
突発的に私の頭の中に浮かんできた感想はそれだった。
ペニス、あるいは陰茎。つまりは男性器。
ヨアヒムの股座から屹立するそれは人間の体の一部であるはずなのに、なぜか武器のような威容を湛えているように私には見えたのである。
赤い繁みのような陰毛の中から彼の陰茎は仰角を描いて屹立している。まるで儀仗兵が捧げ持つ典礼用の長物のようだ。
先端部分から竿までは全体的に赤黒い印象を受ける。知識としては知っているが淫水焼け……という奴だろうか。肉色の幹の表面を黒ずみが覆っている様は何だか禍々しささえ感じられた。
パッと見て思わず『槍』という第一印象を抱いたのはその長さが原因だろう。
全体的に細長い……といえば語弊があるか。太さは多分並程度だとは思うのだが、長さの関係で相対的に細長く見えるのだ。
その長い陰茎の先の亀頭部分は特に大きくエラを張っていながらどことなく鋭く見え、槍の穂先を連想させる。
そして、その亀頭の先に小さな穴のように見える鈴口。
そこから透明な粘液が滲みだし、黒ずんだ赤い肉棒をてらてらと輝かせているのが何とも淫猥だった。
「うぅ……」
「――――怖いか?」
「い、いえ」
あまりにも
私が視線を注いでいるのを股間のブツの恐ろしさに慄いているのだと思ったらしいが、私はそれを否定した。
「その……すごく、大きいな、と」
偽らざる本音だった。
私も元男であり、股間には同じように男性器というものを備えていた。
しかし今、私の目の前に屹立している
高々と仰角を描く勃起、使い込まれた黒ずみを見せる表面、力強く伸びる竿の逞しさ……。
元男として、毎日のように自分の陰茎と向き合ってきた人間だからこそ、ヨアヒムに備わっているモノの凄みが解ってしまう。
「そうだな、リオがあんまり可愛いからこんなになってしまったんだ。――――ちゃんと、責任取ってもらうからな」
「う、ぁぅ……」
茶化したような口調でそう言うヨアヒムだが彼の目線は全く笑っていなかった。
焦げ付くような、灼け付くような、ギラついた情欲を滾らせた榛色の瞳で私を見下ろしている。
そしてそれに呼応するように屹立する勃起が僅かにその角度を険しくした。心持ち、一段と怒張が激しくなったような気がする。
隠すことなくこちら叩きつけられる男の欲望と、その証。
それを見せつけられて私は――――
「……っ、は、ぁ……♡」
思わず吐いた息が熱い。
胸の奥が甘く痛んで、桃色の血が流れ出すような感覚。
ヨアヒムが私を女として見てくれて、そして興奮してくれているという事実。
その証拠とも言える陰茎の勃起から目が離せなくなっている。
だって、そうだろう。
先ほどまでの執拗な愛撫で私の体はもういい加減に昂っていた。
いや、いい加減というのは嘘だ。もう待ちきれない、辛抱堪らないというレベルにまで興奮していた。
口の中をぐちゃぐちゃに混ぜ合うようにキスをして、耳や首筋から胸まで舐めしゃぶられ、秘所も濡れそぼるまで弄ばれた。
体の芯から表面まで、火が付いた性感が私の中を駆け巡って焦げるような心地だ。
そしてその中で、下腹の奥が最初から今までずっと疼いている。
熟した果実を割開いて、中の果肉から
心臓の鼓動と共に血が巡る度に、
私の体が女であるということを決定づけている
まるで飢えている最中に美味しい食べ物を見た瞬間、意識せずとも涎が口に溢れるように。
「……ぅっ、はぁ……っ♡」
そして――――息を吸って吐くとなんとも言えない香りが鼻を擽り、肺を満たした。
肌の匂い、汗の臭い。服を脱いだことで覆うものが無くなり、直接空気の中に漂い始めたヨアヒムの香りだ。
さっきから何度も抱きしめられて間近で嗅いできた彼の香りがより一層直接的に鼻に届く。
特に、露になった陰茎から漂う香りは一段と濃厚だった。
生臭いようで青臭いようで、それでいて蒸れて饐えたような臭いがする。
意識的にそれに集中するとつんとした感覚が鼻の奥に抜けていく。
一般的には良いとはとても言えないはずの匂いだが――――私はそれを嗅ぐたびに頭の奥がかっと熱くなるような感覚を覚えていた。
「ヨアヒム……触ってみても、いいですか」
「……あぁ」
私はシーツの上に膝立ちになって彼の下へとにじり寄った。
近寄って確認する彼のペニスは一段と大きく見え、凄まじい迫力を湛えていた。
長大な竿と鋭く上を向いた亀頭に赤黒い表皮。
まじまじとそれに視線を這わせている間も鈴口からはじわじわと先走りの汁が漏れ出ている。
禍々しささえ感じる雄の象徴は見れば見るほどに逞しくて、自分の体の奥が疼くのを感じる。その衝動のまま、そっと肉棒の表面に手を伸ばす。
槍の穂先を彷彿とさせる威容とは裏腹に、私の指先で触れた亀頭の部分は案外柔らかかった。
丁度空気を入れて膨らませたゴム風船みたいなものだろうか。考えてみれば勃起というのは海綿体が充血した状態なのだから正しい比喩かも知れない。
先端から滲みだしている先走りの汁を指の腹で掬い取る。その時に軽く鈴口と裏筋の境辺りを指の腹で擦ってやる。
多めに汁を指先に付ける為でもあったがこれが存外いい刺激になったようで、ヨアヒムの陰茎が手の中でビクンと脈動した。
彼が私の手で気持ちよくなってくれたのだろうか、とそう思うと少し面映ゆい気分だ。
指先に掬った先走りの汁をローションの代わりに先端部全体に塗りたくり、その上から亀頭を撫で回す。
陰茎の先端部分は特に敏感なので乾いた状態で擦ると痛いが、カウパーでもなんでも使って濡らしてからするとぬるぬるしたのが気持ちよくなるのだ。
これで触っても問題ないだろうと確信した私は、遠慮なく彼の陰茎を撫で回した。
亀頭の部分が見た目に反して柔らかいのは先ほども言った通りだ。しかし私の手の中で今もドクンドクン、と血が巡っていきその張りを増していくのがわかる。
表面の弾力はそのままに張りがどんどんと強くなっていくというのは独特の感触だ。
透明な汁に濡れた赤黒い亀頭、その鉤のように張りつめているエラの部分を、痛くならなないように慎重に扱く。
指で小さな輪を作り、エラの裏側から先端の方へと動かして刺激してあげると面白いように肉の幹が跳ねて鈴口から汁が零れだした。
面白いように……というか実際少し面白かった。
陰茎に力が入るのも、先走りが漏れるのもちゃんと気持ちよくなってくれている証拠だからだ。
上目づかいでヨアヒムを見上げると、ぐっと奥歯を噛み締めた様な表情を浮かべているのがわかる。これは痛いわけではなく快感を堪えている表情だ。
その証拠に、かっと瞼を見開いた表情で私を見下ろしているし、先程から無意識なのだろうか刺激を求めるように微かに腰が前後に揺れている。
元男性である私の意見だが……男が女性の愛撫に熱を入れるのは、快感に身をくねらせる女性の姿が見たいからというのもあるが、自分の手で相手を感じさせる満足感を得るためというのも大きい。
だが、女性の立場になって男性の愛撫をするというのもそれに似たような充足感があるというのは新しい発見だった。
――――もっと、気持ちよくなって欲しい。
興味本位と衝動で触り始めた手に熱が籠る。
ヨアヒムが、好きな人が私の手で気持ちよくなってくれているというのがとても嬉しい気分だった。
性感を刺戟されるときの火で焙られるようなそれとは違う、じんわりと胸が温かくなるような暖かさ。
「……っ、リ、リオ……っ」
亀頭を扱いている指の動きを早くしてあげるとヨアヒムが呻いた。
拭うものがないので、先走りのカウパーは今や滴るほどに亀頭表面に纏わりついている。
それを潤滑油にして雁首を擦りたてるとちゅくちゅく、と音が立つ。粘液が私の手の中で泡立つ何とも卑猥な音だ。ぞくぞくする。
少し泡立って白みがかってきた汁を竿の部分まで塗り広げ、ゆっくりとしたストロークで擦り、裏筋を指先でなぞる。
根元から先端までゆっくり撫で上げると、震えるように陰茎全体に力が入るのが何とも可愛らしいとさえ思えた。
赤い繁みのようになっている陰毛の下に手を伸ばし、そこに垂れ下がっている陰嚢に手を添える。
痛くない程度の力を(昔を思い出しながら)込めて、全体を柔らかく揉んであげた。
亀頭を弄るリズムに合わせるようにして刺激すると、ヨアヒムの腰にぐっと力が入るのがわかる。
「…………っ♡」
こうやって彼の陰部を撫で回してわかるのは、その逞しさだ。
私の手が小さいせいもあるのだろうが直に触れて確かめるヨアヒムの陰茎は、やはり長く大きい。文字通り、手に余るほどのサイズだ。
それが私の与える刺激に合わせて跳ねる様は可愛らしくもあるが、同時にその力強さをまざまざと見せつけられる。油断すれば私の手が跳ねのけられそうな勢いなのだ。
活きの良い釣りたての魚のようだ……なんて言ったら怒られるだろうか。
そして、こうして鼻先まで近づいて漂ってくる香りも強烈だった。
私の目の前で脈動し、手の中で力強さを増していく陰茎。その先端の尿道口からとろとろと溢れ出るカウパーの臭いが、私が亀頭を扱くたびに強くなる。
なんだか潮っぽいような、形容しがたい香りだが……
それに下着の中で蒸されていたのだろう、陰毛の饐えたような匂いが混然一体となって私の頭を叩いた。
その香りは鼻の奥を抜けて、私の脳味噌に直接焼き付いてくるような強烈さだった。
敢えて言うならば刺激臭とも呼ぶべきなのだろうが――――これがヨアヒムの体臭だと思うと、嫌な気分にはならなかった。というかなれなかった。
頭の奥が熱くなって、意識がぼうっとしてくるような気分だった。
「リオ、ま、待ってくれ。その辺りで……」
「え?あっ、ご、ごめんなさい……」
ヨアヒムの切羽詰まった声で我に返る。
一体どれくらいの間、彼のペニスを触り続けていたのだろうか。少し恥ずかしくなって顔が赤くなる。
見上げるとヨアヒムは軽く目を瞑って、ゆっくりと息を吐いていた。いつの間にか射精寸前まで追い詰めていたようだった。
――――このまま出されていたのならどうなっていたのだろう?
そんな疑問が頭を過ぎると鼓動が大きく跳ねた。
精液の粘りだとか、色合いだとか、臭いだとか、そういうのは一応覚えている。
ただそれはあくまで自分が男だったときのモノで、言ってしまえば自慰で気持ちよくなった時に出てきて、ちり紙に吐き出して捨てるだけの排せつ物のような扱いだった。
だだ――――
この目の前にそそり立ち、今もビクビクと脈動している彼の逞しい陰茎から、
それはきっと現象としては自分の射精と同じもののはずなのに、自分が好きになった相手が私に向かって放つものなのだと思うと、なんだろう、それはとても――――
「…………」
そんなことを考えながら自分の掌に視線を落とす。
そこには先ほどの手扱きでカウパー汁がべったりとこびりついていた。
指を動かして手の中で遊ばせると、にちゃり、と汚い音を立てて糸を引く。
その半ば白濁した透明な粘液から漂う生臭い香りは、私の手に染みついた彼の陰茎の香りでもあった。
そこに鼻先を寄せて息を吸うとやはり、つんとした香りがして頭がくらくらする。
……試しに舌先で舐めてみれば、しょっぱいような青臭いような、なんとも微妙な味がした。
決して美味しいとは言えない味だ。――――でも、これがヨアヒムの体から出てきたものだと思うと、喉を鳴らして飲み込んでしまった。
「リオ……お前は、その、経験があるのか?」
「そういうわけではないですけど……その、たまたまです。たまたま。」
ヨアヒムから投げ渡されたタオルで(少し名残惜しく感じつつも)掌の汚れを拭き取る。
先程の手扱きは余程熟練していたように見えたのだろうか、彼から疑惑の目で見られるがはぐらかしておく。
私は元男で自分の息子を弄るのに慣れていまして……、などとはカミングアウトする勇気はなかった。
「そうか。……なら、オレが初めてということで間違いはないんだな」
「そうです、ヨアヒムが初めてです。初めての……
そう言って少し恥ずかしいような、あるいはくすぐったいような気持ちになる。
そうだ、
「…………♡」
ヨアヒムの事をじっと見つめ――――彼の頬に手を伸ばした。
艶やかな赤い髪、綺麗に通った鼻筋と榛色の熱っぽい眼差し。
綺麗な造りをした顔だ、と改めて思う。
でも、自分が好きになったのは顔がいいからとか……そういうのではないのだ。
「私が好きになった初めての人です……。だから……
最初に出会った日から今日までずっと、ヨアヒムが見守ってくれていた。その事実が私にはたまらなくうれしかった。
この世界に放り出されたばかりの私の手を引いて、外に連れ出してくれて、色んなものを見せてくれた。あの日の夜、泣き続ける私を抱きしめてくれた。
ヨアヒムになら私を預けられる、心を許せる、甘えられる。
だからいっぱいだきしめてほしい。だからいっぱいキスしてほしい。
だから――――、
「私を、あなたの
そう口にした瞬間、胸の奥で心臓が「きゅうっ♡」、と痛んだ。
甘く切なく疼くような痛み、甘酸っぱい血が胸の内に流れ出るような痛み。
それは自分にとっても決定的な宣言だった。
女として男に抱かれること、それを受け入れること。
それは間違いなくかつての自分……男として生きていたころの自分を否定する行いであり、今と昔の自分の間に明確に一線を引く行為だ。
昔の自分が男だったことを思い出した上で、それを明確に否定する行いを自ら選ぶ。
その感覚は酷く自涜的で、ゆっくりと自分の肉に刃物を突き立てていくような気分がした。
だが、それは今の自分に
そしてその傷口から溢れる血と痛みが、
「……言われるまでもない」
私が頬に添えた手をそっと握り返し、ヨアヒムの眼が私を正面から見据える。
その眼差しに正面から捉えられ、私は胸の奥が甘くざわつくのを感じた。
「リオを、オレの
私の耳朶を熱く囁くような声が叩く。
そこに込められた情欲の熱さが直接脳に響くようで、私の背筋が
そして私達はどちらからともなく口づけを交わした。
お互いの唾液を混ぜ合うような、お互いの口を貪るような、蕩けるようなキスをしながら――――私達はいよいよ
裸で抱き合う私の腹にはこれ以上はないというほどにガチガチに勃起したヨアヒムの陰茎が押し付けられ、
膝立ちになっていた私の内腿には幾筋もの愛液が垂れ落ちてシーツの上に染みを作っていた。