――――ぬちゅり、と粘った音がした。
とろみのある液体に濡れた、肌と肌が擦れ合う音。
「ぁっ、あっ、んふ、ぅっ……♡」
触れられる部分がくすぐったくて身を捩る。
耐えかねて思わず吐息が鼻にかかり、悩ましい喘ぎになる。
皮膚の一枚下を糸のように細い電気が流れるような、そんな感覚。
ぞわぞわ、と背筋にまで駆けるその感覚にうなじの毛が逆立つ。
「はっ、あぁっ……っ♡ ぁっ、んんっ」
ぞくぞく、とくすぐったさが首筋まで上ってきた瞬間を見計らったように――――そこに口づけを落とされた。
ちゅ、ちゅ、とわざとらしく立てられる唇の音。敏感になった肌に吸い付く熱い触感。
さながらうなじに熱湯で出来た刃を差し込まれたかのよう。
熱く濡れた、鋭い感覚に脳を貫かれる。
「……くすぐったいか?」
「はぁ、っぅ……♡」
問われた言葉に、こくこくと頷いた。満足に口もきけやしない。
言葉をしゃべろうとすると、肺から嬌声が溢れ出そうで怖かった。
「……くすぐったいっていうのは……それだけ敏感だっていうことだし、それだけ気持ちよくなれるっていうことだからな。息を吐いて、リラックスして、その感覚に集中しろ……」
囁いてくる声が脳に響く。言葉の意味を上手く咀嚼できないままに、頭に直接刻み込まれるよう。
言葉と共に吐息が耳朶に吹き込まれると堪らなくゾクゾクした。声と吐息だけで首筋を撫で上げられたようにくすぐったい震えが走る。
「はっ、んんっ、ん゛……っ♡♡」
そのまま、耳朶を直接口に含まれる。
温かく熱く、湿って濡れた口腔に呑まれていく。
わざとらしくくちゅくちゅ、と音を立てて耳をしゃぶられ、耳穴を穿つように舌を差し込まれて舐めまわされる。
まるで耳を通して脳を直接舐められるような感覚に、私は体を戦慄かせた。
――――くすぐったい。くすぐったい。
体が震えて、身を捩る。そのくすぐったい感覚が耐えがたい。
背筋に首筋に、
「――――気持ちいいか?」
「…………っ」
私の耳を舐り終えた彼が、また耳元で囁く。
吹き込まれる吐息が耳から脳へと抜ける。
その声が何とも艶っぽくて、私の頭をぐわんぐわんと揺さぶる。
――――くすぐったいだけ、気持よくなんてない。
そう口にしようとして、それでも口は動かなかった。
酸欠に喘ぐ魚のようにぱくぱくと口を開閉して、返事にならない濡れた吐息を零すことしかできなかった。
「大丈夫だ」
「……っっ♡♡」
まともな返事を寄こさない私に、しかし彼は大して頓着は示さなかった。
今の私が気持ちよかろうが、気持よくなかろうが、それでもやることは変わらないという――――それだけの事。
ねっとりと香油に濡れた肌を、彼の大きな掌が撫でまわす。
紅潮した白磁の肌が、蝋燭の灯に艶めきながら男の手の中で揉みしだかれて形を変える様は眼福とも言えるだろう――――それが他ならぬ自分のものでなければ。
私の胸の、その乳房の肉を食むように彼の指が蠢いて、その度にぞくぞくとした感覚が私を蝕む。
油でてらついた私の肌を舐めるように撫でまわしながら、ヨアヒムが囁いた。
「時間ならある、幾らでも」
******
お前をオレのモノにする、とヨアヒムに宣言された私は、屋敷の地下牢に監禁されている。
この地下牢は元々、ヨアヒムの父親――――既に
ヨアヒムが地位を継いだと同時に使われなくなり、予備の物置程度のつもりで残しておいたのだが、本人もこのような形で再利用することになるとは思わなかっただろう。
「長らく放置していたからな。急ごしらえで使えるようにはしたが……まだまだこれからも整備をしないといけないだろう」
色々と
長らく放置されていたため埃を被って錆びついているが、彼が言う『整備』が終わり次第、それらが私に向かって振るわれるのは想像に難くなかった。
ただそこに積まれているのを認識するだけで嫌な方への想像を刺戟する器具の山。
それらが他ならぬ自分に向けられることを考えると、恐ろしさで鼓動が早まった。指先が痺れて、冷や汗が出る。
そんな私を尻目にヨアヒムはどことなくぎこちなくて、それでいて皮肉気な笑いを浮かべた。
「安心しろ、痛いようにはしない――――少なくとも、今日は」
******
それからややあって、私は今ヨアヒムの膝の上に乗せられながら体をまさぐられていた。
しかしそれもただ膝の上に乗せられているというだけでは勿論なかった。
身じろぎすると胎の奥深くに突き刺さっている剛直が、ゴリゴリと私の中を抉る。
敏感な部分の肉を按摩棒で強引に擦られるような痛み交じりの感覚。
しかし痛み交じりとはいえ、そこには確実に心地よさに近いものがあるのも事実だった。
硬い肉を揉み解されるのに近い、鈍痛とそこに伴い一拍遅れてやってくる解放感のような。
これが純粋な快感へと変わる日も遠くないのだろうかと思うと、空恐ろしかった。
「ふ、うっ、ぅんん……っ♡」
……私はヨアヒムの膝の上に乗せられながら、彼のペニスを挿入されていた。所謂、背面座位というやつだろうか。
この体位はされる側になってみるとかなりキツいものがある。
足枷も嵌められたままなので脚を左右に開けない。その状態で強引にペニスを捻じ込まれるのは凄まじい圧迫感だった。
両足を閉じていることで狭くなった膣洞を、潤滑油代わりの香油の助けを借りて彼の硬い竿が貫いてきた時には肉を抉られて割かれるような感触に悶絶した。
その上で、背後から抱きしめられる。膝の上に乗って彼の逞しい胸板に背中を預けながら、体を包み込まれるようにぎゅっと優しく抱きしめられる。
無理矢理に剛直を捻じ込まれた私の体を労わるような優しい抱擁。息の詰まる拡張感が解けていくのを感じる。
体の外から中から好きな人に満たされて、幸福感のあまり頭が変になりそうだ。
「……っ♡ …………っ♡♡」
このままこの幸福感に酔って、溺れてしまえば楽なのかもしれない。
愛して、愛されて、甘えて、甘やかされて。普通の恋人同士ならそれでよかっただろう。私も本当はそうなりたかった。
でも、今の私達の関係はどうしようもなく掛け違ってしまっている。
このまま素直にヨアヒムの手に墜ちて、純粋に彼のモノになってしまうのは間違っている、と私の頭の中で警鐘が響いていた。
それがどれだけ甘美で魅力的でも、思う存分に幸福に溺れるのは躊躇われた。
……あぁ、でも。それでもこうやって彼の腕の中に抱きしめられて、彼を中に受け入れて、愛されて、それが幸福なのは本当なのに。何もかも手放しで幸せになれれば楽なのに。
幸せで、気持ち良くて、愛しくて。それでもそれを拒まなくてはいけなくて――――。
頭がおかしくなりそうだった。
頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「あぁ……っ、あっ、あぁぁ……っっ♡♡」
滅裂になっていく思考を脳味噌から吐き出したくて、嗚咽が漏れる。優しく抱きしめられながら悶えて、体を捩る。
そしてその度にぢゃりん、ぢゃりん、と耳に触る金属の音が響く。私に嵌められた枷の、鎖の音だ。
革の手枷とそれを繋ぐ鎖はやや細く、筋力をそれほど鍛えていない私でも全力を出せば何とか千切れそうなくらいではあった。
ただし、それは普段通りの力を出せればという条件付きだ
私の首に嵌められている首輪は『虜囚の首輪』というマジックアイテムの一種であり、装備させられた対象の筋力を著しく低下させる効果がある。
確か元々はゲーム時代のNPC専用アイテムだったはずである。囚人などを護送するイベントなどで見た覚えがある代物だった。
まさかこの世界が現実になったことでプレイヤーである私にそれが使われる機会が現れるとは思いもしなかったが。
何はともあれ、今の私は腕にも足にもまともに力が入らない有様で、鎖を千切るどころかヨアヒムの手を跳ねのけるのも完全に不可能な有様だった。
……もっとも、腕に力が入っていても跳ねのけられたかは怪しいのだが。
「ふうっ……っ゛!!」
一際鋭い刺激に背筋がぎくん、と跳ねた。
その拍子にまた
私を背後から抱きしめるヨアヒムの手が私の胸元をまさぐっていた。
その指先が胸の先に移り、啄むような手つきで乳首を摘まみ上げたのだ。
びぃん、と幾筋もの電気が弾けるような感覚。肋骨を痺れさせる刺激が私の肺からくぐもった声を絞り出す。
「ほら見ろ、リオ。こんなに乳首が勃ってる」
ヨアヒムが耳に息を吹き込むように囁いてくる。
彼の声が脳を震わせるのを感じながら、潤む視界を僅かに見下ろす。
陶磁器のような白くきめ細かい肌と柔らかく張りのある肉で形作られた乳房はまるでミルクプリンの様。
ならばその先端に赤くしこり立っている乳首はトッピングのサクランボだろうか。
小ぶりながらも綺麗な椀上の胸の上につん、と勃上がった乳首は可愛らしさといやらしさが同居して、我が体のことながら思わず目を見張った。
――――そしてその上をヨアヒムの手が覆って揉みしだく。
私の小さな胸を彼の長い指と大きな手が一息に収めてしまう様は、白い新雪の大地を重機が蹂躙する光景にも似ていた。
細くしなやかで、それでいて筋張っていて武骨な男の指が――――私の肌に指を立てて、肉を耕すように揉む。
その動きの大きさとは裏腹に与えられる刺戟は繊細で、優しささえ感じられた。
予め塗り広げられた香油のお陰で、肌と指が擦れ合う痛みはない。肌を絶えず舌で舐められるようなくすぐったさだけがあった。
ぬちゅり、ぬちゅり、と音を立てて濡れ光る胸の肉がヨアヒムの手に愛撫される。
そのくすぐったさが、むずむずとした感触が胸の中に溜まっていき――――その瞬間を見計らったように、指先に胸の先端を摘ままれる。
溜まっていたむず痒い感触に一気に火がつけられたような感覚。
それは胸先を発火点にしながら私の体の中に火花を散らして飛び火していった。
「あっ、っく……っ!!ぅ…………っ♡♡」
「……ほら、な」
何が、ほら、だ。
ヨアヒムに向かって悪態の一つも吐きたいが、私の喉は喘ぎ声を抑え込むのに忙しかった。
気が付けば口は顎から力が抜けたように半開きで、熱い息を吐くだけのものになっていた。
……口の端に濡れたような感触がある。気が付けば涎が垂れていたようだ。あぁ、嫌になる。
「んんっ、んふっ……♡」
私がその事を気にしたのを知ってか知らずか、ヨアヒムが私の顎を手で掴んで斜め後ろを向かせてくる。
少し不自由な体勢での強引なキス。それでも不自由であれ、強引であれ、彼とのキスが幸せなことには変わりなかった。
口先から体が蕩けだすような多幸感。こんな状況でも、それだけは条件反射のように私の心を溶かして満たしてしまう。
「んふぅ、ふぅっ、ぁっ、ぁっ゛、あっ……♡♡」
キスで口を塞がれている間にも、彼の手は私の胸を弄繰り回す。
今度は彼の指先が、男根で自慰をするときのように乳首を激しく扱きたてた。
ちゅくちゅくちゅく……、と香油が泡立つような音がする。
くすぐったさが臨界を超えて熱感になる。その熱感が間断ない刺激に高まり続けて胸先に集中する。
バチバチと電流に焼かれるようなイメージが脳裏に走って私は啼いた。
「あっ、あっ、ぁぁっ……んんっ、んぁっ……!! あ゛っ……♡♡」
ばぢんっ!!と派手に電流が弾けたような気がした。
その瞬間、目の裏が真っ白になって脳が焼ける。
前後左右と自分の体の所在が分からなくなって、意識が飛んだ。
壊れかけの回線を無理矢理つなぐように、ブツ切れになりそうな自分を拾い集めて戻ってくるのにしばらくの時間を要した。
荒い息を吐きながら、焦げ付いた自意識を何とか復旧させる。
未だにチカチカと明滅する視界の中映っているのは、ゆっくりと私の胸を撫でさすっているヨアヒムの手だった。
「気持ち良くイけたな。……可愛かったぞ」
「う、ぅ……っ♡」
焼け付いている脳味噌に、可愛かった、という言葉だけが届いて擦り込まれる。
本当はこのままではいけないと理性はそう言っているのに、別の部分では感情がヨアヒムに褒められて嬉しがっている。
もっと可愛いと言って欲しい、もっと可愛がって欲しい――――そんな甘えたことを思っている自分の恋心が、今はどうにも腹立たしい。
「
私の下腹にそっと手を添えて、ヨアヒムが囁きかけてくる。
その手が否応なく私に、そこに埋め込まれた彼のペニスを意識させる。
彼の指が触れた部分に香油のてらてらした光沢が塗り広げられる。
触れられた下腹に血が集まり、熱が広がって肌が火照るような気がした。
正確には気のせいではないのだろう。
今、彼が私の肌を愛撫するのに使っている香油は『ヒートオイル』という錬金術で作られたアイテムの一種である。
肌に塗り広げると体表の温度を引き上げ血行を促進する効果が有る代物で、冷え性の婦人方には好評の品らしい。
……と、そのようにメリィの工房で聞いた覚えがある。
特に今使われているのはリラックス効果のあるアロマ配合の高級品だ。
それを塗り込められた私の体からは花蜜のように甘く優しい香りが立ち、知らずのうちに緊張が体から抜けていく。
そして、それは不要な力が抜けて愛撫を受け入れやすくなっているということでもある。
特に血行が促進された結果、性感帯にも血が巡って敏感になりやすくなっていた。
「んくっ、ぅっ、ふっ……♡♡」
下腹を中心に広がるむず痒い感覚と火照る熱感にたまらず、彼の膝の上でもじもじと腰を揺すらせる。
その度に私の体の奥に食い込んでいるヨアヒムの太くて硬いモノがゴリゴリと肉にめり込むのを感じた。
内臓を下から押し上げる強烈な圧迫感と拡張感。そして――――それだけでは終わらない、隠せない充足感と多幸感。
胸先を撫でる手、首筋や耳を舐る唇と舌。その感触に身悶えしながら、きゅうきゅう、と無意識のうちに
その度に感じる肉の棒の形と逞しさを脳裏に刻み込んでしまう。
竿の長さと脈動する血管。硬度を増す幹と張り出した竿……。
私の体で、ヨアヒムが気持ちよさを感じている……感じてくれている、その証拠。
「リオ……」
「あっ♡♡ ん、ゃっ、ぁっ♡♡」
背後からしなだれかかるように、上から押しつぶすかのようにヨアヒムが私を抱きしめてくる。
密着してくる腕、厚い胸板。寄せられる頬と熱い吐息。それはまるで小さな羽虫を絡め捕る
食べられるかのように彼の中に包み込まれて――――それで、くすぐったさとは違う桃色の甘美な痺れが
かしゃん、と鎖が鳴る音がする。私の手枷と足枷が立てる音だ。
私の体を抱きしめるヨアヒムの手が、私の股間に伸びてきたのだ。
反射的に抵抗しようとしても、後ろ手に縛られたままの私の腕には何もできはしなかった。
両足を閉じようとしても太腿と太腿の間の小さな逆三角形の隙間に彼の指がするりと滑り込んでしまった。
むしろ脚に力を入れた途端、膣に思わず力が入り、中で剛直がゴリっと肉を抉り身悶える羽目になった。
「……っ!!んんっ、んっ゛、ぁっ、ぁっ、あぅっ、んふ、ぅ…………っっ♡♡」
くちゅくちゅくちゅくちゅ……っ、と絶え間なく音が立つ。
ヨアヒムの指が私の陰核を捉えて、早く細かく震わせる音だ。
香油を塗られて急速に火照る性感帯に与えられるその刺激は毒が強すぎた。
敏感な部分に与えられる、精密で繊細で、それでいて容赦のない嬲るような指捌き。
潤滑油のお陰で擦りたてられる部分に痛みはない。ただ純粋な快感だけがあった。
陰核の気持ちよさは股座から膨らんで、熱いマグマが立ち上ってくるような――――男性だった頃から馴染みがある陰茎を扱きたてるときのような快感だ。
だが、そうして湧きあがってくる快感が、膣の中に飛び火してくる。
快感の熱が爆発するよりも早く火がついて、下腹部を内側から焼き焦がしていくような、そんな感覚。
それが堪らなくなって私は喘ぎながら体をくねらせた。
灼けて明滅する意識が、じゃりん、と私の無力を象徴するような鎖の音を聞く。
藻掻く体は温かくて大きな彼の体と、無骨で硬い枷に阻まれて逃げられない。
自分の中に溜め込まれていく、焼き焦がされるような快感の熱を逃がせない。
ぐちゅうううっ、と湿ったものから液体を絞り出されるような音が聞こえた。
どこかで漏水しているのだろうか、なんて馬鹿な考えが頭を過ぎる。
そんなわけはない。それは私の愛液が滴る音だ。反射的に膣が締まり、中の肉棒に果肉を抉られて汁を絞り出されていた。
ギチギチに広げられた陰唇から滴り落ちた女汁が、私の股の間を濡らすのを感じた。
粗相をしたようで、その感触が不快で恥ずかしい。
「――――――ん゛っっっっ、んぃぅっ………………っっ!!!!」
快感が、爆ぜる。
さながら赤熱した剣で股座から脳天まで一気に串刺しにされたかのような灼熱感。
立ち上ってきた熱が局部を胎を、内臓を脳を焼きながら私の中で暴れ回る。
毛穴が開いてどっと汗が流れるのを感じる。沸騰して吹きこぼれる熱湯のよう。
神経が焦げ付いて四肢が暴れて、がちんっ、と勢いよく鎖を鳴らした。不自由な足の先にまで力が入ってぴん、と筋肉が張りつめる。
「――――か、は、ぁ゛っっ……!!!!あ゛っっっっ……♡♡」
喉の奥から嗚咽が絞り出される。絞め殺される小鳥じみた掠れた声で喘ぐ。
その間もヨアヒムは私をきつく抱きかかえたまま、緩い愛撫を続けている。
更にはあまつさえゆっくりと体を揺さぶってまでいた。
赤子の揺り篭を揺らすような優しさを感じる、ゆったりとした律動。
だが、その動きは彼の陰茎で深々と貫かれている私の胎の奥を直接揺さぶるものに他ならなかった。
くちゅっ……、くちゅ……っ、と秘めやかな粘着音が接合部から、いや、私の体の奥から響いている。
迎えさせられた絶頂感が少しずつ冷めていき、それでも最後まで落ち着かせてはもらえない。
優しく、ゆっくりと膣奥を撹拌するヨアヒムによって私の体の中の熱が消えることのないように調節される。
そして、私にはそれに抗う術はない。
「……もう一度、イってみるか」
「ぅっ……♡♡♡」
ちゅ、と首輪を避けるよううなじに口付けられながら囁かれる。
どう答えようとも私に拒否する権利はない。
また、香油を塗りたくられた体が彼の手で愛撫され、性感に火がつけられる。
次の絶頂もまたそう遠くないだろう。
……ただ、私が鎖と枷で縛り付けられていなくても、その愛撫を拒めたかどうかは正直わからない。
――それがどのような状況であれ、ヨアヒムに愛されることを私が幸せだと思っているのは紛れもない事実なのだから……。
******
――――ちりんちりん、と何処かで涼やかな音がする。
鈴の音……呼び鈴の音だ。
「……ちっ……」
「よあ、ひむ……?」
その音を聞いて、ドロドロに溶けていた意識が浮上してくる。
全身が蜜壺に漬け込まれて煮込まれたように、甘くて熱い。
思考も体も蕩け切っている。前後の脈絡が解らない。
潤んでぼやけた目を開けると、ヨアヒムの顔が真っ先に目に入った。
彼の横顔を眺めると、ただそれだけで胸の奥が陽だまりのように温かく安らぐのを感じる。
頬に髪に、彼の掌を感じる。幼子を愛おしむようにヨアヒムの手が私を撫でている。
その心地よい感触に思わず微睡んでしまいそうだった。
「リオ、起きたか」
「あの、わたし……」
私が目覚めたことに気付いたヨアヒムが目を細めて綻ぶような笑顔を浮かべる。
その笑みの甘さにときめく自分を感じながら、頭にかかっている微睡むような靄を追い払って状況を確認する。
どうやら私は何度も何度もヨアヒムに弄ばれるうちに完全に意識が飛んでしまったようだった。
ベッドの上に横たえられ、ヨアヒムが添い寝していたようだ。
……そして勿論、枷は外されていない。首輪も鎖も当然そのまま。
「今、なにか、音が……」
「あぁ、そうだな……くそっ、時間か」
先ほど聞こえてきた鈴のような音について口にすると、ヨアヒムは露骨に機嫌が悪そうな顔になった。
どういうことだろう、と頭の中で疑問符を捻っていたが答えはすぐに分かった。
しばらくするとコツコツという音が地下に鳴り響く。ややあって暗がりの向こうからランタンの朧げな明かりが鉄格子の向こうに現れる。
そして、明かりの中心にある人影を見て――――私は驚くと同時に、深く納得を覚えたのだった。
「テオドラさん……」
そこに現れたのは伯爵家のメイド長であるテオドラその人だった。
呆れるほどにいつもと変わらないひっ詰めた黒髪と、何を考えているのかよくわからない眼鏡の奥の無表情な黒い瞳。
彼女は私をちらり、と一瞥した後いつもと全く変わらない平坦な声でヨアヒムに話しかけた。
「伯爵様、業務のお時間となっております」
「……もう少し、伸ばせないか」
「本日は運輸組合の方々との昼食会の予定となっております。お召し替えと移動の時間などを考慮すれば、あまり余裕はないと言わざるをえませんね」
「………………」
「予定をこの段階で破棄されるとなりますと伯爵様の信用問題にかかわりますし、あるいは埋め合わせのためにまた別に業務を増やさざるを――――」
「わかった、行く。行けばいいんだろう、行けば」
そう悪態を吐くヨアヒムの言い草は、さながら冬場にベッドから出るのを嫌がる子供のようだった。
そして、「行く」と口にしながら、私から離れるのをものすごく名残惜しそうにしているのが一層子供らしかった。
「……行って来ればいいじゃないですか」
「…………」
「大丈夫ですよ。私は何処にも行きませんから」
「………………」
正確には行けないだけなんですけどね、と皮肉を込めて私はそう言った。
首輪に掛けられた鎖をわざとらしくぢゃりん、と鳴らす。
ヨアヒムはしばらく険しい表情をして黙り込んだ後、そっと私の頭を撫でてから額に一度口づけを残して立ち上がった。
「……すぐに戻る」
そう言って彼は着替えもそこそこに鉄格子の扉を開けて出て行ってしまった。
振り返ることはしなかった。振り返ってしまえば、そこでまた離れると決めた決意が鈍ってしまうことをわかっているのだろう。
「――――馬鹿なヤツ」
かつんかつん、と二人分の足跡が遠ざかっていく音を聞きながら、私は一人ベッドでそう独り言ちた。
まるで、ではなくて本当に子供だ。籠に入れておいた虫が自分が目を離した隙にどこかに逃げ出してないか、そんな心配でやることが手につかない――――そんな子供じみた心配をしている。
手枷足枷、首輪に牢屋。ここまでしても私が何処かに行くのが不安で不安で仕方がないのだろう。
「…………あぁ、でも……」
それでも、叶うなら片時も離れたくないという彼の気持ちはやっぱりわかる。
今の私だってそうだ。ベッドから離れていった彼の体温が、どれだけ名残惜しかったことか。
行って来ればいい、と言おうとした時どれほど口に出すのに抵抗があったことか。
――――本当はずっと触れ合っていたい、その気持ちは私達は同じだった。
「……はぁ、」
鬱々とした気分が胸の奥からじわじわと湧き出してくる。
それを吐いて捨てるように溜息を吐いて、ベッドにごろんと転がった。
じゃらん、と鳴る鎖の音と不自由を強いる枷が煩わしい。
しばらく何も考えたくなくなって、私は眼を閉じた。
ずっと中を埋めていた熱を失くした私の胎が、寂しがるようにじくじくと燻火のような熱を孕んでいた。