はぁ、と息が零れ出る。
蒸気のようにどこまでも熱く、濡れて、空気の中に白くたなびくよう。
体の内側に熱が絶えることなく昂っている様は自分が蒸気機関にでもなってしまったかのようだ。
「ぁっ、ぁ、ぁぁ……っ」
自分でもわかる。わかってしまうほどに私の声は官能に濡れていた。
体内にこもった熱を吐き出してしまいたくて息を吐こうとすると、どうしようもなくその吐息が上ずるのだ。
ぴくん、と私の体が自分の意思から外れて無意識の内に跳ね、それが鼻にかかった甘い声を漏らさせる。
誰一人として人がいない、たった一本の蝋燭しか照らすもののない地下牢に響く声は自分で聞いていても羞恥を煽られるものだった。
肌にもじっとりとした汗が浮かんでは、その匂いを大きな檻とベッドのシーツに振りまいている。
汗臭い、というのは本能的に不快感を煽ると思うのだが……どことなく甘酸っぱく感じるその香りは悪いものではないような気がした。
吸い込むとじくじくと肺が内側から暑くなるような錯覚を感じる。
四六時中、この地下牢で淫らな行為で汗を絞られているせいかもしれない。
自分の体臭が性感と紐づけられつつあるというのは危険な兆候だった。
このままでは日常生活で少し汗をかくだけで発情してしまうような変態になってしまうかもしれない……。
「んっ……♡」
そんな危惧が頭を過ったと同時に背筋に淡い桃色の痺れが走った。
悪くない、などと一瞬思ってしまったのだ。こともあろうに。
何せ、そうやって自分が作り替えられていってしまっているのはヨアヒムの成果だ。
愛している人に自分の体を弄くり回されて、嗜好を植え付けられて……躾けられて、調教されて。
そうして彼専用の自分になる。彼のための自分になる。
そんな考えが怖気が走るほどに魅力的だという思考が、脳裏をかすめるのである。
それはいけないことだ、と自分の理性が咎める一方で――――それの何がいけないのだ、と首を傾げる自分がいるのがわかる。
私はヨアヒムを愛していて、
ヨアヒムは私を愛していて、
それ以外に何が不満なのか?
それ以上に何が必要なのか?
そんな囁きがどこかで聞こえてくる。
いけない兆候だ。自分で自分を見失いつつある。心を強く持たなくてはいけない。
24時間こうやって地下に押し込められて、セックス以外に何もないような生活をしているせいで考え方がおかしくなっているだけだ。そうに違いない。
そう思わなくては、流されてしまう。
「んっ、んっ……っく……♡」
今も――――今現在も、そうだ。
ヨアヒムが不在の状態でも絶えず責め嬲られているようにされてしまっている。
私は貞操帯というものを履かされていた。
ショーツのような形状をした鍵付きの革ベルトのようなものを巻きつけられて、隠部に触れる事ができない。
さらには貞操帯に固定される形で張り型を挿入されているのだからたまったものでは無かった。
――――それも前後二本だ。
「く、ふ、ぅっ♡」
体の奥からじくじくと湧き上がってくる快感に耐えかねて私は身をよじった。
それに合わせてじゃらじゃら、と今や親しい友人のようにさえ感じる鎖が音を鳴らす。
前の膣穴、後ろの肛門に捻じ込まれた無機質な棒がお腹の中をごりっ、と削る。
その瞬間に目の裏に白い閃光のようなものが走るが――――それは決定的な一線を超えさせてくれない、まだ弱い部類の衝撃でしか無かった。
膣に差し込まれた人工の男根は胎を割り開いてじくじくとした疼きを植えつけてくる。
後ろの穴に挿入された数珠を押しかためたような淫具が肛門に絶え間ない違和感と痒みに似た奇妙な感覚を与えてくる。
だが、それでもそれらはあくまでそこに固定されているだけだ。
その硬さと表面にある凸凹の味を教え込むように、粘膜を掻き毟ってくるようなことはない。
つまり、決定的な刺激に欠けている。
「はぁー……、ぁっ、ぁぁ……」
それがどこまでももどかしい。
激しく燃え上がらない、埋火のような熱感が消えることなく体の中から私を炙っている。
少しでも空気に体を触れさせて冷ましたい。そんな本能から私は何度もごろごろと寝返りを打っていた。
そうやって体勢を変える度に内臓を張り型がわずかに抉り、私はまた鼻にかかった甘ったるい声を漏らしてしまうのだった。
「ふっ、ぅ、んくっ♡」
口の中が物寂しい。
気付かないうちに溜まっていた唾液を飲み下すと、こくん、と自分の喉が鳴るのがわかる。
何かを口に含んでいたくて、舌に触れる何かが欲しくて、唇が疼いていた。
原因はわかっている。
毎朝(外の時間もわからないので本当に朝かどうかはわからないが)行われる口奉仕で、最近は前に張り型を入れて後ろには浣腸をされている。
それが常態化しているせいで――――前後の孔に刺激があるのに口に何かを咥えていないというのがどうしようもなく寂しいのだ。
もう既にここまで自分が
だがそれもじりじりと思考を焦がし続ける官能の中に埋もれて消える。
絶えず体を焼く、それでいて激しく燃え上がることのない性感がノイズのように私の正常な思考を黒く塗りつぶしていく。
「はっ、は、ぁっ、ぁっ……♡」
もどかしい。
ひたすらにもどかしい。
頑丈で分厚い貞操体の上から指を這わせても刺激は一向にその下へは届かない。
ただ指先がかりかりと空しい音を立てるばかりだった。
汗ばんでいる太腿を擦り合わせるとほんの少しだけ、火花が散るような小さな快感が弾ける。
だがそれは極限の乾燥状態で口に含んだ露の一滴のように、一層自分の渇きを引き立てるような効果しかなかった。
飢えと渇きに突き動かされるように、私は腰をくねらせていた。
腰を回したり、捻ったりするとそれに合わせて内臓が捩れて――――こりっ、と埋め込まれた張り型と中で擦れ合うのだ。
粘膜と襞に無機質な張り型の硬さが食い込んで、僅かながらに掻き毟られる。
その感覚が飢えと渇きをほんの少しだけ癒してくれるような気がした。
膣が偽物の男根をきゅ、きゅ、と食い締める。襞と襞に絡んだ愛液を混ぜ返すように激しくほしいと強請るように。
肉の柔らかさを持たない亀頭は子宮頚部にほんの少し当たるくらいの深さに留められていて、そんな
私の体は生殖器の最奥――――子宮までヨアヒムの手で暴かれて、開発されてしまっていた。
胎の奥までぐちゃぐちゃに擦り潰されて溶かされて蕩かされるあの快感を想起した下腹が、あまりに足りなさすぎる今の刺激に不平不満と雌汁をだらだらと吹き零している。
前の張り型を咥え込めば咥え込むほど、後ろの孔も同時に締め付けてしまう。
排泄の孔を絶えず割開かれて、そこに異物を押し込められているのは総毛立つほどの違和感がある。
だが、肛門にきゅっと力が入って、括約筋に固い感触が食い込む度に――――ぞわぞわと背筋を怪しい恍惚が駆け抜けるのだ。
閉ざされているべきところを無理矢理開かれ、出すべきところに強引に
腹の奥にまで食い込んでいる棒を吐き出そうとして直腸が蠢いているのがわかる。だが貞操体で戒められているため当然それはできない。
だから
暗い地下牢に荒い息が響き、その合間にくちくち、と控えめな粘音がする。
へこへこと僅かな快感を求めて腰を振る私の姿は傍から見ればひどく滑稽だろう。
そしてそんな無様を
「はぁ゛、ぁっ、ぁ゛っ、ぉぁぁ……っ♡」
ちゃりちゃり、と手枷の音を鳴らしながら両手で自分の胸元をまさぐる。
鎖で繋がれているため多少の不自由は在るが、それでも自らの胸を弄るくらいの余裕はあった。
貞操帯を履かされている以上、自分の手で刺激できる性器はもうここくらいしかなかった。
無意識のうちに何度も触っていた乳房と乳首は既に肌を赤らめさせてじんじんと疼痛を発している。
「んくっ♡」
触りすぎてとっくに敏感になり果てているそこに指を這わせると反射的に声が漏れてしまう。
それを喉奥で押し殺した喘ぎは我が事ながら酷く婀娜っぽい。
両手で抱くように胸元をまさぐればそこから染み出してくる痺れのような気持ち良さが肺から空気を絞り出す。
膨らんだマシュマロのような乳房を指で揉み込み、吸い付くような手触りの肌を掌で堪能する。
とっくに痛いほど立ち上っている乳首を摘まみ上げるとピリピリする快感が全身を震わせる。
神経を介して体中に内側から電気が走るよう。
そしてそれが
不完全燃焼を続けていた女の宮が、待ち望んでいた火をくべられて悦びの
「ぁっ、ぅ、きもち、いぃ……っ♡」
喘ぎながら、敢えて気持ち良い、と口に出す。
言葉にすることで「今やっているこれは気持ち良いことなのだ」、「今自分は気持ち良いのだ」と自身の脳に刷り込むことで快感が後押しされる。
これは一種の自己催眠、自己暗示のような物だろう。
ただそのようなものにも縋りたくなるくらいに、私の快感に対する飢餓感は深刻だった。
乳房を揉みしだいて、乳首を捏ね繰り回し、その快さで多少はしのげる。
だがそれは種火になってより一層強い快感への欲求を生じさせるものでもある。
膣と肛門が、子宮と直腸が、より激しい官能を求めてまるで灼けるようだ。腰の奥が溶鉱炉のように熱く、溶けている。
酷く重くて怠いのにそれを根本的に解消する術がない。痒い部分が確かにあるのに何処に爪を立てればそれに届くのかわからない、そんなもどかしさが募る。
「はふっ、ぅっ、んぅぅ……♡♡」
太くて熱くて生臭くも芳しい、そんなものを咥えたくて口が寂しい。
それを埋め合わせるために私は枕の端を口に咥えていた。自分の指でも良かったのかもしれないが、そっちは胸を弄るのにかかりきりで手が離せない。
布の塊は薄っぺらで冷たく、求めているモノとはあまりに違いすぎたがそれでも侘しさを誤魔化す程度にはなった。
きりきりと噛み締めた歯の痕を布地に付けながら、私は押し殺した声で喘いだ。
枕に歯を立てて、胸を自分で揉んで、腰をくねらせて……そうやってあれもこれもとやっているうちに私はいつの間にやらベッドの上で四つん這いになっていた。
動物のように尻を突き出して、かくかくと空中に腰を振る様はどうしようもなく滑稽だ。
――――まるで盛りのついた獣が、交尾をねだっているような。
頭の隅に残った客観的な意識がそんな言葉を並べて、その淫靡さとどうしようもなさに官能に茹だった頭が一際熱く燃える。
本当に、
私は発情して、盛って、
つつ、と太腿の内を革帯の端から漏れ出た淫猥な汁が伝う。切なく喘ぐ膣肉から染み出した前の孔の愛液と――――穴からモノをひり出したくて仕方のない後ろの孔の腸汁だ。
貞操帯の内側にぬるついた感触が広がって、それが股座から滴る様は粗相をしているようで、頭が茹るほどに恥ずかしい。
「よぁ、ひぅ……っ♡ ぁんなひゃぁ……♡♡」
今にもこの硬くて無機質な棒切れを抜き取って、彼の熱い肉の棒で掻き回されたらどれほど気持ち良いだろう。
疼きに疼いた膣粘膜を槍のようなペニスで搔き毟って滅茶苦茶にして欲しい。
きゅんきゅん♡と咽び泣いている子宮と子宮口が何も言えなくなるまで亀頭を突き込んで抉り抜いて欲しい。
大きな掌でがっしりと私の腰を捕まえて、パンパンと音が立つほど力強く逞しい腰遣いで打ち付けて欲しい。
奥の奥まで陰茎を捻じ込んでぐずぐずに蕩けた下腹にたっぷりと熱い精液を流し込んで欲しい。
ぎゅっと抱きしめて欲しい。頭を撫でて欲しい。キスして欲しい。体に触れて欲しい。冷たく詰って欲しい。優しい言葉を掛けて欲しい。愛して欲しい。求めて欲しい。貴方が欲しい。
欲しい、欲しい、欲しい…………。
「んっ♡ んっ、んくっ、ふっ……♡♡」
妄想が爆ぜる。
脳が内側から炎上するような熱い感覚と共に、目の裏が赤く染まって絶頂する。
ぶるるっ、と背筋を震わせながら全身の骨が焼け付くような快感を余すところなく摂取する。
ようやく得られた強い官能を貪るように味わって、そこで体が一旦の満足を得たのを自覚した。
総身の骨が赤く灼けついているような熱さを覚えながら、ぐったりとベッドの上に身を横たえる。
噛み締めていた枕にはくっきりと歯形が残り、べったりと涎の痕が付いていた。
「はぁ……っ♡ はぁっ、はぁぁ……っ♡」
吐き出す息も相変わらず濡れたように湿って蒸気のように熱い。
見上げた天井の暗闇を胡乱な頭で見つめながら、私は心臓がどくどくと血を全身に巡らせる音を感じていた。
何とか今は落ち着いた。だが、それでも近いうちにまたぶり返してくるのは眼に見えている。
……というかもう既に新しく疼き始めている。
革の拘束具で突き込まれたまま固定されている張り型は絶えず前と後ろの粘膜を刺戟している。それこそ絶頂しようがしまいがお構いなしに。
一度達して敏感になった粘膜がきゅっきゅっ、と反射的に硬い異物を食い締めて新しい快感を勝手に求め始める。
下腹の奥、子宮は先程の絶頂でも未だに消化しきれない疼きを灯したまま、じくじくとその官能を訴えている。
気が付けば、また私は腰を揺らし始めていた。
「……っ♡」
こくん、と唾を飲む。
今の私は酷くいやらしい
頬を赤く染めて、焦点の合わない眼を暗闇に彷徨わせながら――――満たされない性欲に追い立てられているような、物欲しそうな顔。
最近になって牢に持ち込まれた姿見があるが、それを覗く勇気はなかった。
自分が今どんな
――――早く、早く、早く……。
絶頂の余韻と、それさえも種火にしてまた燃え上がってくる官能に震えながら、私は心の中で何度も呟いていた。
早く、
そうでないと、そうでないと……本当に、おかしくなってしまいそうだった。
いや、本当はもうおかしくなってしまっているのだろうか。そんなことを、考えてしまう。
「あっ……」
そして――――そんな私の祈りが届いたのか(実際はただの偶然だろうが)、何処か彼方の方でがちゃん、と何かの機構が働いて戸の開く音が聞こえた。
この地下牢で響く音と言えば限られている、私の喘ぎ声と粘膜と粘液を混ぜ返す音と鎖が擦れる音、後は蝋燭の火が弾ける音と……ここに誰かが下りてくるときの扉の音と足音くらいなものだ。
私の予想の通り、扉の音が響くと同時にかつん、かつん、と革靴が煉瓦の階段を踏みしめる音が聞こえてくる。
長い長い螺旋状の階段から反響してくぐもった音が地下まで届く。
それを聞きながら私は
――――もうすぐ。
――――もうすぐ、会える。
――――もうすぐ、
そう思えば胸が高鳴らないわけにはいかなかった。
胸の奥がきゅん♡と恋しい相手を待ちわびて切なく打ち震える。
これから始まる熱くて甘くて、淫らで爛れた時間を待ち望んで、私という人間が芯から悦んでいた。
尻尾でもあれば私はそれをぶんぶんと千切れんばかりに振りたくっていただろう。
「ヨアヒム……♡」
口にしたその名前が砂糖菓子のように甘く感じた。
私は一歩、一歩と近づいてくるその足音を聞きながら、
たらたら、と股の間に恥ずかしい汁を垂れ流しながら。