――――子供の頃、動物が好きだった。
きっかけはなんだっただろうか。
確か、自宅に古びた紙書籍の動物図鑑があって、それを読み始めたのが最初だったように思う。
図鑑を手に取って以来、自分はそれを毎日飽きもせずに食い入るように読みふけっていた。
昆虫類、魚類、爬虫類、哺乳類、鳥類。
遠くから近くから様々な角度から撮影された写真に映る多種多様な生き物。
その生態の細やかな解説。生息分布。狩りの手法。子孫の残し方。
最初の図鑑をすっかり読み切って頭に入れてしまうと、それからはネット図書館でも同じような書籍を借りて読んでいた。
植物と昆虫にテーマを絞った写真集だとか。深毎の生態系の変化を専門にした海生生物の本だとか。ネコ科の動物の狩りの映像を集めた資料だとか。
子供の頃、自分はそうやって山ほど動物に関する資料を読んで、見て、漁っていた。
自分は動物というものがとても好きだった。
読めば読むほど理解できるのだが、多くの生き物は最適化された肉体の構造と生態を持っている。
一見してはよくわからないような機能も、環境への適応、餌の収集、種の残し方という観点から見れば理にかなっている。
アリの有する、個ではなく全体が生き残るための真社会構造の生態。
多くの鳥の持つ、ただ飛ぶことに拘った骨格の形成と空気力学に則った翼の構築。
深海魚が発展させた、光もまともな餌もない暗黒の海で生き続けるために進化した異形とも言える構造。
そういう無駄のなさが自分は好きだった。
どんな生き物だって、
生存に必要な機能。その為に組み上げられた肉体と本能。
最適化された生命の在り方に、幼いころの自分は惚れ惚れとした。
――――全ての生物は、生きる為に産まれてきた。
それは小さなころの自分の心の奥底に焼き付いた一つの真実だった。
今は昔、もう思い出せないほどに幼い自分が幾多の生物の在り方から学んだ確信だった。
「■。そろそろお出かけの時間よ」
「あっ!うん、わかった。待ってて、お母さん」
こんこん、ととびらがノックされてお母さんに声をかけられた。
気がつけばもうずっと図鑑を読みふけっていて、出かけるじかんになっていた。
ARモニターのスイッチをパチパチと切ってオフにする。それで待たせるのはちょっともうしわけないけど大事なことだった。
「何読んでたの?」
「哺乳類の図かん。キツネとか、タヌキとか」
「ふぅん、■は動物が好きね。お母さんはよくわかないけど」
「こんどいっしょに見る?」
「この前みたいに虫のじゃなかったら良いけど」
「虫きらい?」
「女の人はね。男の子みたいにあんまりそういうの好きな人はいないのよ」
「そういうもの?」
「そういうものよ」
つらつらと、お母さんと話をしながら歩く。
近くのスーパーでばんごはんの買いものをしてから、公えんにいった。
「あんまり遠くに行っちゃダメよ」
「うん」
言われなくても、公えんはそれほど大きくない。
ビルとビルの間、アパートやマンションがたくさんならんでいるスキマにあるような場所でまいごになるようなことはない。
ベンチにすわっているお母さんがかおを上げたらどこにいても目に入るからだいじょうぶだ。
小さな公えんだったけど、自分にとってはたいせつなあそびばだった。
地面に目をこらすとアリがならんで小さな虫の死体をはこんでいて、それについていけば巣穴が見つかったりした。
石をひっくりかえしたりしたら、ダンゴムシとかムカデとかヤスデとかそういうのが出てくる。ダンゴムシはいいけどムカデとかはかまれないようにしないといけなかった。
秋になると虫のなきごえが大きくなるから、そういうときにはコオロギやスズムシが草むらのどこかにいる。
公えんには木が何本か生えていて、きせつしだいで鳥が巣を作っているのが見える。たいていはスズメとかツバメだと思うけど、ちょっと高いところにいるから自信はなかった。
ただ、森とか林とか、そう言えるほどに木があったわけじゃないからキツネとかタヌキとかは見なかったのがざんねんだった。
でもヘビは一回見たことがあった。びっくりしすぎてどんなヘビかはわからなかったけど。
「お母さん」
小さな公えんをすみずみまで歩きまわって見てまわって、自分はようやく入り口までもどってきた。
手とかひざとかはすなだらけだったりどろだらけだったりしているけど、気分はまんぞくだった。
今日も一日たのしかったから、お母さんといっしょに家にかえってばんごはんにしよう。
おなかもすいてるから今日はたくさんごはんのおかわりをするかもしれない。
今日公えんでみつけたものとか見たものとか、そういう話もたくさんしたかった。
「お母さん?」
そしてもどってきて、声をかけて――――そこでお母さんがいないことに気付いた。
いや、入り口が
自分が立っている場所から先、公園の黄色の土や緑色の草木が、丸ごと
ザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラざザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラ………………、と砂の津波が押し寄せるような音と共に、コンクリートが広がっていく。
小さな草むら、僅かな木々、ありふれたベンチ、そういうものがあっさりと均され、一枚の硬質で乾燥した石くれの下敷きにされていく。
灰色は一瞬で自分の足元も通り過ぎて公園も飲みつくしてしまった。
後に残るのは真っ平な灰色の地面だけだった。
……そういえば、この公園はもう無くなってしまったんだっけ。
今更ながらに思い出して、自分は溜息を吐いた。
もう随分と昔の話。物心ついてしばらく、小学校かそこらくらいの話だった。
よくある地域の開発計画で自分のお気に入りの遊び場はもう灰色の石の下だ。
「……」
自分はそっと地面に手を添えた。
冷たく硬く、ざらりとしたコンクリートの肌触り。
……この下には死体が埋まっている。
草木と虫とささやかな鳥と獣。自分の古く懐かしい友人たち。
見渡してみればそこはもう住宅地ではなかった。
無機質な灰色のビルが等間隔に立ち並び、乾いた風が吹いている――――大人になってからの自分の職場の風景だった。
足元はアスファルトの歩道とコンクリートの車道。空を仰げば鼠色の雲に覆われた曇天から、影も作らないような生温い日差しが降り注いでいた。
その光景は死んだ大地と埋葬された名もない生き物たちの為の墓標のようだった。
生物は生きる為に産まれて、生きている。
私もそうやって犠牲の上で、生きている。
生きている、生きている、生きている――――。
『私』の中で、私自身の命が「生きろ」と囁き続けていた。
******
「―――――――はっ……!!」
いきなり鳴ったアラームで叩き押されたときみたいに唐突で、そのせいで認識が追い付かない。
頭に血が行っていなくて思考が回っていないのに、意識だけが強く覚醒して視界がチカチカする。
その間も心臓が胸の奥で
心筋と血管が引きつるような感覚がして胸が痛い。
激しく脈打つ胸元を抑えるといつもつけっぱなしの手枷がちゃりん、と音を立てた。
その音で急速に思考力が戻ってきて今の自分を再認識する。
細く白く、小さな掌。視界の隅に流れている長い筋の髪。私の体。リオ・オーガスタの体。
湿っぽくて籠る、どことなく甘酸っぱくていやらしい空気が染みついている暗がりの地下牢。私の
そこまで認識して、ようやく私は自分が何で急に起きたのかを振り返れるようになった。
胸の辺りがズキズキと痛い。すっかり良く寝ていた筈なのに。
夢を――――夢を見ていた。確か。そう、小さいころの夢だ。
子供の頃、私は動物が好きで色んな図鑑を読んでいた。
近所の公園は狭かったけどそれでも色んな生き物がいて、自分にとっては大切な遊び場だった。
……それも、もう無くなってしまったけれど。
全てはもう、灰色のコンクリートの下だ。
「うっ……」
その事を思うと、何故か心臓が跳ねる。
肋骨を裏側から強く叩くような、激しい鼓動がする。
なんで、今更。
もう思い出すようなことでもないのに。
忘れたことさえも、忘れていたようなことを。
今になって、どうして……。
「あ……」
ごろり、とベッドの上を転がって真上を仰いだ。
そこにあるのは暗い闇と地下牢の天井。
押し潰してくるような、覆い潰してくるような頭の上の土。
――――私を、
「…………っ!」
それを意識すると一際強く鼓動が脈を打った。
全身が痺れて、震えるほどの力強さ。
錆びついていた車輪がギリギリと音を立てながら動き出して、私という人間の中で何かの機構が回りだす。
「ぅっ……」
じゃり、と首元に揺れる鎖の音がする――――
一度気になり始めたら堪らなかった。ちゃりちゃりと音を立てる金具が、首元に纏わりついている革の感触が
酷く窮屈な思いがする。何だって――――なんだって自分は
鎖が、枷が、首輪が、天井が、地下牢が。
疑問の余地さえなくなってしまうほどに親しんでいた筈のこの光景が……急に狭苦しくて窮屈に見えてきた。邪魔で、目障りだ。
じわり、と肌に汗が滲む感じがする。胸の奥が熱くなっていて灯が付いたような、溶鉱炉に火が入れられたようなイメージが脳裏を過ぎる。
「る、る、る、る、る、る…………っ」
唸り声がどこかで聞こえる。狼か虎でも近くにいるのか。
いいや、違う。これは自分の声だ。
吠え声が喉の奥で潰されて、濁音のような唸りになって響いているのだ。
叫べ、叫べ、と頭の奥で声がする。
胸の内にあるものを全部曝け出して吐くように叫べ、と何かが囁いている。
私を縛り付ける首輪と手枷の鎖がじゃらん、と音を立てる。
此処から動けないままの私を上から押しつぶすように――――
……いやだ。私は死にたくない。
土の下に埋められて、灰色のコンクリートの下敷きにされて。
羽を捥がれた虫のように、翼を毟られた鳥のように、死にたくはない。
私は死にたくない。私は生きていたい。私は生きていたい!私は生きていたい!!
……だから、私は私の生きる邪魔をする者を許してはいけない。
私は私の命を脅かすものを、絶対に、絶対に、絶対に、
――――絶対に、■
「る゛、うっ、ぅ゛っ……!!ううぅぅ゛ぅ゛ぅ――――………………っっ!!!!」
そして私は、私は……その叫び声を必死に喉奥で押し殺した。
それには噴火しそうな火山を素手で押し留めるような途方もない苦痛を伴った。
全身に脂汗が滲む。嘔吐を堪えるように背を丸めて、くぐもった長い呻きを漏らした。
無意識に握り締めていたベッドのシーツがぎちぎちと音を立てながら皺を作る。
胸の奥が、喉の奥が、頭の奥が、目の奥が、灼けつくように痛くて涙が滲むようだった。
――――
――――それだけは本当に駄目だ。
――――それだけはやっちゃいけない。
熱く焼き焦がれるような沸き立つ衝動とは別に、頭の中の嫌になるほど冷静な部分がそう言っている。
だから、
だから、耐えないと
だから、耐えないといけない。
まだだ。まだ大丈夫。まだいける。
まだ私は■■■■を■■■■■■。
まだ私は■■■を■■■■■■■■■。
「すぅ――――……、はぁ――……っ」
こういう時にはそうだ、楽しいことを考えよう。
気楽なことを考えて、気持のよいことだけ考えよう。
辛いことを考えてはいけない。難しいことを考えてはいけない。
快いことを悦ばしいことを考えて、苦しいことを悩ましいことを考えないようにしないと。
私にとって楽しくて気楽で気持ち良くて快いことと言えばやっぱり旦那様のことだ。私はだんなさまのことが好きだ、大好きだ。愛してるずっとそばにいたい。それは本当だ。この気持ちが嘘だったら世の中に本当の事なんて存在しないそれくらい大好き。
旦那様の手と指は少し骨ばっていてそれでいてすらっと長くて綺麗で手を繋ぐとおっきいのがわかって指を絡めてぎゅっとして貰うとそれだけで包み込まれてるような感じがして幸せな気持ちになれる。腕とか胸とかも細いのに意外と筋肉がついていて抱きしめて貰うと逞しくてうっとりとしてしまってずっと抱きしめて貰っていたくなる。
声はギターとかの太い弦を弾いたときみたいに低くて艶のある感じがして聞いているとほっと落ち着く気分になるのに耳元でささやかれるとすごく格好よく聞こえてそのときはむしろドキドキしてしまう。耳の中に息を吹き込まれるようにして何か言われるとくすぐったいのが首筋から脇腹までぞわぁってやってきてでもそれがいやな気分じゃなくてでも何だか恥ずかしくて、もじもじする私の反応を旦那様はすごく色っぽ目で見つめてきてそれにもっと胸がきゅっとなってしまう。
旦那様は眼の色も綺麗だ。
だからセックスするのは大好き。旦那様に求められてるんだって愛されているんだって実感すると胸の奥が甘酸っぱくなって熱くなってドキドキしてもうこれ以外にこれ以上に何もいらないって思う。もっと唇にキスして欲しい頬っぺたにキスして欲しい頭を撫でて髪を撫でて耳元でささやいてうなじと首筋に唇を当てて舌であじわって欲しい。胸も乳首もお腹もお尻もお股も足も腕も全部全部体中旦那様に触ってもらうと疼いて熱くなって幸せになってもっと触って欲しくなって体の奥まで中まで熱くなっちゃう。そうやって愛でて貰って可愛いよ大好きだよ愛してるよって言われるのが本当に幸せ。私で興奮しておちんちんを勃起してもらえるのを見ると嬉しくなる。おまんこにおしりにおちんちんを突っ込んでぐちゃぐちゃに掻き回してもらってザーメンを吐き出すところを見ると自分の体で気持ちよくなってもらったんだって満足してもらったんだって思えてすごく嬉しい。精液がドロドロに濁ってるとそれだけ私で興奮してキンタマで精液ぐつぐつ煮詰めてくれたんだなって思うとすごく嬉しい。それを子宮とかお尻の穴にどばどば中出しされると体が大喜びして頭がバカになってしまうくらい幸せ。これを注いでもらうために産まれて来たんじゃないかなって思ってしまうくらい幸せ。体に顔に掛けて貰うのも好き。青臭くて生臭くて鼻が曲がりそうでそれでもすごくいやらしくて頭の奥が熱くなってきちゃう匂いがする。それをいっぱいかけられると旦那様に汚された感じがして旦那様のマーキングをされた感じがして嬉しくなる。旦那様が気持ちよくなってくれて興奮してもらえるなら愛してくれるなら何だっていい。恥ずかしいことも痛いことも旦那様がしてくれることなら全部最後には気持ち良いことになるんだってわかってるから。鎖と枷とベルトでガチガチに縛ってもらうのも好き。そのまま色んな玩具でめちゃくちゃにされてぐちゃぐちゃにされるのも好き。そうやって縛り付けられて遊ばれていると旦那様のモノになったっていう実感が湧いてきてもっともっと私を物にしてもらいたいっていうふうに思っちゃう。縛って吊りあげて鞭で打って跪かせて放置して痛くして躾けて虐めてお仕置きしてほしい。旦那様の雌奴隷、性処理
私も好きだいすき、愛してる。ずっと一緒がいい。ずっと抱きしめて、ずっと手を繋いで、ずっと……。
「はぁ……っ♡ んぁっ……♡♡」
気が付けば私は自分の乳首を捏ね繰り回していた。もうすっかり勃ち上がっていたそこは指先で弄るとコリコリとしていて自分で触っていても心地よい感触がした。
柔らかく弾むような自分の胸の感触を確かめるように触りながら掌でそっと押しながら回すと、痒いような疼くような感覚が胸先から走ってぴりぴりと気持ち良かった。
鼻にかかったような甘い息が漏れる。お
今もまた履かされている貞操帯、そこから体に突き込まれている張り型の感触がずっと鮮明になって中を抉る。ゴリっと削られる膣肉と腸襞が戦慄いて、果肉を絞られた果実のように汁をどろどろと垂れ流す。
股座が濡れる感触が恥ずかしくて、でもこんな恥ずかしい所を見られたらまた旦那様にお仕置きされちゃうなぁと思うと――――すごく、興奮した。
「ふ、ぅっ……ぁ……♡♡」
吐息が熱い。胸が熱い。お腹が熱い。
全身の骨と神経が熱く火照っているような気分になる。
体中が昂っているのに人恋しくて肌寂しくて、シーツにくるまってベッドに身を横たえた。
「はやく、はやく……」
早く、来て欲しい。
早く、私で遊んで。
早く、私を愛して。
――――早く、私を殺して。
このまま私を閉じ込めて、このまま私を押し込めて。
このまま私を鎖に繋いで、このまま私を牢に入れて。
このまま私を
そうでないと、
そうでないと――――、