ジーノというその男は最近気になる女の子がいた。
気になる、という何とも曖昧な言い方をしているのは胸中に渦巻いているその微妙な感情を言葉にするだけの経験も教養も足りていないからだろう。
彼の実家はミレイン公爵一門が運営する領地の一角にあるごくごく一般的な農村で、彼もそこらの村人と同じように小さいころから日がな一日畑を耕して生活していた。
そんな生活に嫌気が差し、故郷を後にして都会に出てきたのが三年前の事だ。
ただ技能も人脈も展望も資金も無い、無い無い尽くしの上に「自分はこんなところで燻っているような小さな男じゃない」という無駄に肥大化した
村に時たま旅の途中に宿泊する
冒険者の仕事は初心者の内は恐ろしく実入りが少ない上に、そこから這い上がるには相応に鍛錬に時間を割く必要があるし、当然のように才能も根気も必要だ。
普通に働いた方がよっぽど稼げるし、命の危険も無い。
残念なことにジーノにはそういう世知辛い現実に耐え抜くだけの忍耐も無く――――次第に彼は冒険者としての道から
こうして無職になった頃のジーノはそれからの身の振り方を決めかねていた。
両親と喧嘩別れした手前どの面を下げて行けばいいのかわからないので田舎に帰るのは却下。
では都会――――フロラントの街の中で何かしらまともな仕事を見つけるべきなのだが、「すごい男になる」という目的を掲げて出てきた手前、ちっぽけな
十級とはいえ冒険者として少しは鍛えたんだぞ、という自負心もあり、すぐ目に付くようなごく普通の仕事に就くことに無用な抵抗感を覚えていたのである。
とはいえ現実は非情なもので、そうしてふらふらとしている間にも雀の涙ばかりの貯蓄は刻一刻と枯れていく。
このままでは無職を通り越して浮浪者か乞食に身をやつすほかない……という所で彼は無事に就職先を見つけることができた。
パガニーニファミリーという、
彼がマフィアの組織体系に組み込まれたのはそうそう難しい経緯があるわけでもなかった。
困窮しきりだった当時の彼は、路地裏で出くわした怪しい男の何とも怪しい依頼――この包みを所定の場所に届けて欲しい、ただし中身を開けてはいけない――を報酬額に目が眩んでほいほいと受けてしまった。
その後自分が非合法な物品の売り買いの片棒を担いだことやそれが憲兵にバレたら犯罪者としてお縄につく羽目になること――――などを吹き込まれ、庇って貰う条件としてファミリーに取り込まれることになったのだった。
こうしてジーノは無事(?)に冒険者
多少なりとも鍛えた腕っぷしを生かす機会は多かったし、収入も以前に比べれば遥かに改善して田舎にいた頃よりもずっと贅沢ができた。
それに一般人が生きている場所よりも少し奥まった場所にある路地裏の暗がり、
……それとは別に粗相をやらかした時の先輩や上司の容赦ない拳骨や、目の前で度々行われる内部粛清は、彼の仕事に対する姿勢をある程度は変えたということも明記しておこう。
さて、話を戻すとしよう。
ファミリーの下っ端要員とはいえ2年と少し真面目に働いていれば多少の信頼は生まれた。
そんなある日、フロラント市内にあるパガニーニファミリーの本拠に(雑用とはいえ)出入りする機会もでき、彼にとっては雲上人に相当する『ボス』を遠目に伺うことも増えた頃の事だ。
「……?」
最初に彼が感じたのは芳しい香りだった。蕾のようでもあり果実のようでもある、思わず息を吸いこんでその存在を確かめずにはいられない甘酸っぱい香り。
その瞬間に
きらきらと光が尾を引いていくように靡く金色の長い髪と、自分の顎下くらいの高さにある青い薔薇の髪飾りが目に焼き付く。
小さな人影がコツコツと小気味の良い革靴の音を廊下に立て、その度に暗青色の可憐な服に施された白いフリル飾りがひらひらと揺れていた。
「あ、れ……?」
「なにぼさっとしてんだ、早く行くぞ」
「――――あっ!あの、センパイ。今、女の子が……?」
呆けている間に声をかけられる。
はっとしてそっちの方に振り返れば先輩構成員が眉を顰めてこちらを見つめていた。
それを確認してからきょろきょろと辺りを見回しても、先程見止めた少女の姿は何処にもなかった。
ジーノは先ほど自分の目に映ったものを上手く頭の中で処理できないでいた。
ここは仮にもマフィアの本拠である建物の中だ。あんな小さな女の子が入り込むような場所ではないだろう。
それに何より、一直線の廊下だったのに
まるで白昼夢をみていたかのようだ。それとも狐か妖精かに化かされたのか。
ただ、ほんの僅かに残る香りの残滓だけが、それが幻でないことの証だった。
「あぁ、それは多分――――リオさんだな」
「リオさん?」
「めちゃくちゃ隠れるのが上手い人なんだ。オレ達くらいじゃ目の前に立ってても気が付かねぇよ」
「いやいやいや!隠れるのがうまいとかそんなレベルじゃないっすよ、それ。マジっすか?」
「大マジだよ。ボスの愛人兼、用心棒だ。うちのボスがわざわざ外から雇ってるくらいなんだし、オレ達なんかじゃ足元にも及ばねぇんだろうよ」
「こっわー……。……ってか愛人って……今すれちがった感じだと結構小さい子でしたよね。ボスっともしかしてロリk」
「口閉じろ。誰かに聞かれたら殺されるぞ」
「――――っす!!何も言いません!!」
……と、ジーノがリオ・オーガスタという少女について知ることになったのはこのような出来事がきっかけだった。
それから彼はファミリーの本拠に出入りするとき、その近くをぶらつくときに彼女の事を意識するようになった。
勿論会えないことの方が多い。
用心棒にしてボスの愛人とは言え日頃から出入りしているわけではないし、そもそも「目の前にいてもわからない」と言われるくらいに気配を隠すのが達者な人間なのだ。
ごく普通の一般的チンピラであるところのジーノとは立場も能力も全く違う。見つからないのが当然だ。
ただそれでもあの日に脳裏に焼き付いた
そういう日はジーノにとってのラッキーデイだ。そういうことにした。
そうやって偶然出会うことだけでなく、仕事の都合で直接顔を合わせるような時も無いではなかった。
例えばついこの間にも、
……まぁ、打ち合わせの時には妙に緊張してしまい、その事が気恥ずかしくてうまく顔を合わせられなかったのだが。
そんなこんなで近頃の彼の生活は常に頭の片隅にリオの影がちらついていた。
何かをしているとき、何もしていない時でもいつも脳裏に少女のイメージが
夜寝入る直前などは特に、それが意識の面にまで上ってきてもやもやとした気分にさせられた。
リオ・オーガスタはボスの愛人であり、用心棒なのだという。
用心棒だというのはまだわかる。仕事をごく偶に一緒にする度にその実力の程は解らされている。憧れさえ浮かばないほどだ。
だが愛人だというのは一体全体どういうことだ。
ジーノはボスとは直接話したことは無いが見かけることは在る。皺の浮いた顔をしたエルフの老人だ。
想像の中で展開されるその光景は淫猥かつ背徳的で、同時に彼の胸の中に晴れ難い悶々とした感情を植え付けるのだった。
――――ジーノはその晩、一発と言わず二、三発は抜いた。
******
「ジーノ。お前ってそういや童貞か?」
「はぁ!?いや、なんすかいきなり?」
「女と
「えぇー……」
ある日の仕事の合間の休憩時間、路地裏の壁に寄り掛かりながら煙草をふかしていた時のことである。
ジーノは先輩から突然にそのような話を振られて何とも微妙な表情を浮かべた。
女性経験の有り無し、というのは見栄と面子によって生きる『男』という生き物にとっては大層に
女にモテない、或いは女を口説く度胸も無い――――そのように見なされることは男らしさの欠如と見なされ、往々にして嘲りの対象となるのが男性社会の力学だった。
特にジーノが身を置いているような、ヤクザ者の下っ端たち……暴力とハッタリで生きているようなもの達の場所においては何をいわんやという話である。
「……っと……まぁ、無いっすけど」
「ん、そうか。娼館とか行ったことねぇのか」
「なんか気後れするんすよねぇ……。田舎もんにはお姉さん方がちとギラギラして眩しいっすわ」
「なるほどねぇ」
しかしながら、たっぷり数秒の逡巡の後にジーノは正直に答えることにした。
なので、まさかジーノに女性経験がないことが解れば周りに吹聴して評判を貶めるような、そのような厭味ったらしいことはしないだろうと踏んでの事である。
少し以前の……それこそ上京したてか、マフィアに入りたて頃のジーノであれば変な見栄を張って嘘を吐いていたかもしれない。
やや不健全な付き合いではあったがここ数年の間の
そういう面では今も話をしている先輩の、驚くでもなく憐れむでもない自然な態度は彼にとっては有難いものだった。
「ふぅむ、まぁ、そういうこったろうとは思ってたが」
「『そういうこったろう』って……最初から童貞だと思われてたんすね。ちょっとショックっすわ。田舎の方でオレがバリバリにモテモテだった可能性とか、そういうのも考慮してくださいよ」
「いや、お前
「え!?そんなんなってんすか?」
「自覚ねぇのかよ!!…………まぁ、いいや。それでだな。そんなお前にいい話を持ってきた」
「おおぅ、いい話っすか。手荷物をお届けするだけでがっぽり大儲けとか、そんな感じっすかね~」
「ちげぇよ」
ちょっとした自虐ネタはさらりと流した先輩は内緒話をするように少し身をかがめて声を低くした。
ジーノも思わず耳をそばだてる。
「実はな、いい女の子紹介しようと思ってんだけど」
「……マジすか?」
話を聞くところによると、このようなことである。
その先輩を含めてファミリー内の数人の男と関係を持っている女がいる。
構成員だとか系列店の商売女だとかではなく、
その彼女がジーノの話を聞いて
――――つまりは彼の筆おろしをしてやろうという話だ。
それを聞いて思わずジーノはとんだビッチがいたものだ、と呟いたが先輩が語るところによると実際にそんな人物らしい。
男相手に何股もかけており、街の内と外を問わず様々なところに
「その子とんでもないマゾでさぁ。乱交って言ってもオレら数人がかりでその子一人をヤるんだけどな、ありゃ実質輪姦だな。それでめちゃくちゃ喜んでくれるんだからこっちとしても超興奮するんだよなぁ」
「へ、へぇ……」
些かアブノーマルな話題ではあるが、ジーノは思わず先輩の語る体験談に聴き入っていた。
やや女性に気後れする傾向があるとはいえ彼も年頃の男子であり、そうしたことが気になってしまうのは仕方のないことだった。
そうして色々と話を聞いているうちに、なし崩しとしてジーノはその
なお、件の『女の子』の名前を聞きそびれていたのに気付いたのはその日の晩に帰宅してからの事だった。
******
「んで……。その、どういう状況なんすか、これ……?」
そうして計画された
指定されたホテル(当然ながらファミリーの系列)の一室におっとり刀で駆け付けたジーノはその光景に目を白黒させる他になかった。
部屋の真ん中に鎮座しているのは数人同時に寝ても、その上で
その縁に腰かけたり、上に乗ったりと思い思いに過ごしている6人の男性は今回の夜遊びに参加する面子である。それはいい。
だが、彼等に取り囲まれるようにしてベッドの上に転がされている女性、もとい少女の姿。
それが問題だった。
「んっ……、んふ、ぅ……っ♡」
「おう、流石にビックリしたか。準備した甲斐があったな」
「ちげぇねぇ!オレもやられたら面食らうわ」
「ま、俺らは下拵えだけして待ってたからよ。一番槍はジーノのもんだぜ」
「一番槍なだけに
「あっちの
「ちげぇねぇ!」
わっはっは、と笑い合う強面の男達に囲まれた中の、白いシーツの上。
ジーノの視線の先には一人の女の子が横たわっている。
先輩たちのいう所の準備の意味は見ればよく分かった。
その少女は口に轡を噛まされた上で目隠しに眼を覆われ、両の手首と足首を繋ぐような形で縛られていたのである。
百歩譲ってそれは良いとしよう。突っ込みたいところではあるがそれは飲み込むとする。
だが看過できないのは、その少女が非常に見覚えのある人物であることだった。
「あの……その子、ひょっとしてリオさん……ですか?」
「ん?あぁ、そうだぜ。そういえば言ってなかったか」
「リオちゃん、ボスの愛人なのはマジだけどよ、オレらとも偶にこうやって遊んでくれるんだよなぁ。超ありがたいわ!」
「可愛くてえっちなことが大好きな女の子が嫌いな男とかいないんだよなぁ」
「ちげぇねぇ」
マジっすか、と思わず口から漏れた言葉は、ジーノ自身の口から出てきたはずが彼の耳には何処か遠くからの音のように聞こえた。
レンズが焦点を絞るようにその視線と意識はベッドの上に横たわる少女に吸い寄せられている。
目隠しでも目元は隠されているが、あどけなさの残る
造形の要素を取り出すだけであれば他にも当てはまるような人間は多くいるだろう。
それでも一目見て
だがそうした直観的な確信と目の前のものに対する理性的な理解はまた別の話だ。
普段の日常の合間に目にするリオと、今目の前にいるリオとの差異に彼は眩暈がしそうな心地だった。
「んで、そうそう。さっきも言ったけど下準備の方はもう終わってるけど、今日は
「……尻の穴、っすか?」
「おう、こっち見てみ」
怪訝な声を出すジーノに対し、先輩の一人はリオの体をそういう
初めて目にする女性の裸体、それも常日頃から懸想していた少女のそれにうろたえながらも、彼の視線は思わず吸い寄せられた。
リオは両足首を手首と結わえられているため必然的に両の脚を大きくM字に開いた体勢になる。
その真ん中、秘すべき女の園の中心部はしかし、青年の目の前で
いや、口を開いてというのは正確ではないかもしれない。
よくよく見てみれば膣口は何か透明なものに押し広げられている。
それは樹脂で作られた透明なディルドであった。透き通った胴体を持つ疑似的な男根が少女の幼気な姫孔に押し込まれ、内臓の奥までを暴き立てているのであった。
「こっちの前の穴は見ての通り塞いであるから、今日は後ろの穴な」
「えぇ……マジっすか」
「なんだ、嫌か?」
「いやいや、嫌とかそういうのじゃなくて、なんで尻なんすか!?」
「そっちの方が面白いんじゃいかって話になってな」
「そんな理由で!?」
「リオちゃんの発案なんだぜ」
「……マジですか」
ジーノは慄いたような表情で少女を見下ろした。
ひっくり返ったカエルのような無様な体勢ではしたなくも両の脚を広げられたままの少女。
見てみれば桃色の肉を曝け出した膣口の下の菊穴がヒクヒクとその入り口を蠢かせていた。
先輩たちが言う所の下準備は既に終わっているのだろう、放射状に広がる皺の真ん中の穴は呼吸に合わせて微かに開いては閉じてを繰り返している。
充血して仄かに赤らんだ尻の間の肉はローションでじっとりと濡れており、室内の明かりで
誘う――――そう、図らずとも誘われるようであった。
ジーノは鼻先に花のように芳しい香りを捉えていた。
それはリオと初めて出会い、すれ違った時から彼の意識に焼き付いていた香りである。
そして同時にそれをもっと濃く、煮詰めたような香りでもあった。
男を誘う女の香り。発情した雌の匂いだ。
見れば少女の前の穴からは蜜のような愛液が垂れ落ちて会陰に流れていた。
男達の視線に晒される中、雌の果肉が蠕動して透明な竿具を食い締める様が目に見える。
「話したろ?この子、こういうことされて興奮する
「んふうっ♡ お゛っ、ぁっ……♡」
「な?ケツに指突っ込まれてこんな嬉しそうな声出す女の子、早々いねーよ」
「変に気ぃきかせなくても本人が
「ちげぇねぇ」
男の一人が少女の後穴に指を捻じ入れた。
長く節張った男の指が粘液と空気の音を立てて秘めるべき窄まりを貫き、ぬぷり、ぬぷり、と前後する。
出し入れに合わせて肛肉が押し込まれ、或いは腸粘膜が捲れ上がる様がホテルの薄ぼんやりとした照明のもとに晒される。
そのような辱めを受けながら、少女は苦しみ悶えるような――――それでいて確かに喜悦を滲ませた喘ぎを零していた。
男達に囲まれて、縛られて、胎の中を暴かれて、尻の穴を差し出して興奮する――――そんなどうしようもない
以前に先輩から聞いていた話の内容が頭の中にリフレインし、目の前の光景と重なり合ってジーノの本能的な部分を刺戟した。
どくんどくん、と心臓が早鐘を打つ。体に血が巡り、その熱が下腹部に集まってくる感覚がする。
期待とも焦燥ともつかない衝動が彼の胸を突きあげる。
彼の中の常識的な判断がこんな異常な初体験でいいのか、と囁いているが今やそれも風前の灯であった。
ふらふらと興奮に導かれるままベッドへと歩み寄る。誘蛾灯に引かれる羽虫のように。
それを見て先輩たちはニヤニヤ笑いを浮かべて一旦部屋から出ていった。
急かさないから初体験はゆっくりしていけよ、という言葉も彼の耳には壁一枚隔てたように遠く聞こえる。
それよりも耳の内側の血管の脈動の方がずっと大きく響いている。
「……♡」
ベッドの上に残されたリオだけが、轡の下で淫蕩な笑みを浮かべていた。