第一話 夜半(※)
パンッ、パンッ、パンッ、と乾いた音が響く。
肉と肉とを打ち付け合う白打音。軽く早く、それでいて重たい柏手の音。
ただそれは手と手とを打ち合わせているそれではなくーー男と女の、腰と腰とをぶつけ合う
「はぁっ、ぁっ♡ あぁ……っ!」
その音の合間を縫うように濡れた声が暗い部屋に響く。
私の声だ。喉奥から絞り出されるような、苦しみ悶えるようなーーそれでいて喜悦を隠しきれていない女の声をあげている。
鈴を鳴らすような少女の声色が快楽に蕩けて発情した女のそれになるのはなんと心躍ることだろう。
彼もそう思ってくれると良いのだが。
「ねぇっ♡ もっと、もっとしてっ♡ もっとれいぷするみたいにしてっ、もっと激しく犯して……っ♡」
「……っ!えぇ、ご要望の通りにっ……」
肩越しに振り返って、私の体に腰を打ちつける彼に
せっくすの熱で蕩けた頭が出力する言葉は我がことながら浅ましく、いやらしい。
だが、それでも今夜はそういうセックスがしたい気分だった。
肌が粟立って、一枚下の肉が疼くような、どうしようもない
端的に言って
そんな気分の夜だった。
「ふ、うぅんっ♡♡」
パンッ!!と一際強い力で私の腰に彼のーーラストルの腰が打ちつけられる。
今の体位は
男性の逞しく、骨ばった腰が私の細い下半身に何度も何度もぶつけられるのは、大きさと立場の差を教え込まれるようでゾクゾクした。
このまま平手で尻をぶったりしてくれるともっと最高なのだが……ラストルは優しい性格だ、そこまでは望まない。
今も無理を言って付き合わせている自覚はある。
それでも彼のそそり立ったペニスが私の中を差し貫いてくる感覚はとても甘美なものだった。
充血して拳骨のように膨らんだ亀頭が狭隘な膣肉を掻き分けて、体の中心をーー子宮を抉り抜く。
私の膣は体そのものに合わせてこぢんまりとした作りだし、真ん中のあたりで少しくびれるように狭くなっている構造で……その小さく狭い穴を太くて大きく、硬くて力強い雄の肉で掘削されるのは、自我が直接削れるような悦楽を伴った。
外部からのものを押し返してしまいそうなほどに狭くキツく縮こまっている膣肉、それが力づくで打ち込まれる彼のペニスの逞しさに屈服し、愛液を涙のように流しながら道を開ける。
じゅぶっ、じゅぶっ、と溢れんばかりの花蜜の音が自分の内側から聞こえてくるのは堪らなく恥ずかしく、それ故に背筋がゾクゾクした。
「んぅうぅぅーー……っ♡♡」
ぐりゅりゅっ、という凄絶な手応えと共に子宮口が亀頭に潰されるのを感じた。
胎の奥から体の芯が溶け落ちるような快楽が全身に響き渡り、私は猫のように背を反らして鳴いた。
後ろからの体勢だからか雄マラがいつもよりも一段と深く突き刺さる感じがする。
子宮をペニスに叩かれ、嬲られて感じる快楽は自分という人間の、魂の核にまで刃物を突き立てられてぐっちゃ、ぐっちゃ、と攪拌されるような破滅的な味わいがする。
暴力的で強引で、雄の証を雌の体に刻み込まれるような感覚。
毒杯を煽って胸が爛れるような危険で甘い
それが今の私にはたまらなく心地よかった。
「ふぅっ、ふっ、くっ……!」
シーツを握りしめながら、背後に視線を流すと真剣な表情で抽送を繰り返すラストルの姿が見える。
普段から柔和で紳士的な彼が、音が立つほどに激しく私に腰を打ちつけていると思うと興奮してしまう。
額に汗して歯を食いしばり、懸命に私を喜ばせようとしてくれる姿に胸がきゅうっと絞られるようにときめくのを感じた。
……本当は彼はその性格もあって、ゆったりと肌の温度を確かめ合うような優しいセックスが一番性に合っているのだが、今夜は激しくして欲しいと、乱暴に抱いて欲しいと頼み込んだのは私の方だった。
付き合わせてしまって悪いなとは思いながらも、私はそうやって彼が私に向けて打ち込む陰茎の感触に耽溺した。
私の膣がぎゅうっと力強く彼のモノを締め付けてその逞しさと硬さを堪能した。
むしゃぶりつくように、貪るように。
「ふぅ、はぁ、っ……!っ、くぅ……!!」
「んぅ、んっ♡ んぁ、っ、あぁっ……♡♡」
やがて、一際彼の腰の動きが激しくなり始めた。
私の骨盤の上辺りをラストルの両手がガシッと掴み、パンパンパンパンッ!と矢継ぎ早に腰が送り出されて音を立てる。
たとえ心優しく紳士的なラストルであっても絶頂寸前の腰使いはまさしく自らの射精欲を煽るための自分本位なそれで、男の陰茎を扱くための性処理穴に自分の体が使われているという妄想は酷く私を興奮させてくれた。
「うっ、くっ……!!」
「……っ♡ んっ……♡♡」
ラストルは一度低く呻いたかと思うと、私の中の奥の奥までその先端を捩じ込みーーその昂りを解き放った。
びゅうっ、びゅううぅぅぅっ……、と胎の中に彼の精液が迸るような勢いで流し込まれていくのがわかる。
待ち焦がれていた雄の
温かく、それでいて濃厚でギトついている白濁した金玉
汁。男の性欲の対象として私の体が使われた証と思うと子宮が喜びに打ち震える様だった。
そんなところにまともな神経は通っていないだろうと言われても、そんなことはないと反論してしまいそうなくらいには私は自身の女の宮が精子の感触を味わうのを感じていた。
「リオさん……、あの、ちょっと……」
「だいじょうぶ……動かないでくださいね……」
射精感を最後まで心地よく味わうようにラストルが幾度か私の中で前後し、ややあってからゆっくりと引き抜いていく。
栓の代わりになっていたペニスが抜けていくことで注がれていた精液がごぼり、と音を立てて溢れ出ていく。
私の中を満たしていた熱くて硬いものが無くなっていって胎が寂しさを感じる。開いた膣口に感じる外気がひんやりとしているようだ。
そのせいだろうか、私は這った姿勢のままベッドの上で身を翻して、膝をついて息をついているラストルにしなだれかかった。
「んぁっ……。ふふ……♡♡」
もたれかかるというよりは這い寄るという感じだろうか。
私はついさっきまで自分の体に入っていた彼のおちんちんを手に取り、彼の制止を無視して口に含んだ。
あれほど強く硬く勃起していた肉棒は今や力を使い果たしたようにふにゃりと萎びている。
しかし口の中であやすように転がしてやればまだ先ほどの余韻かのように芯にほのかな力強さを感じる。
舌をにゅるり、と
雄の種汁は青臭くて苦味があり、潮っぽい味がした。その上に塗された甘酸っぱい私の愛液と相まって混沌とした味わいだ。
吸い込んだ息に感じる両者が入り混じった香りは鼻腔の裏が火照るような、いやらしい香りがした。
口の中で先端と竿をしゃぶり、舌先で鈴口を探ってやりながら尿道の中を吸い上げて精子の残滓を啜れば、硬さの名残は少しづつ力を取り戻していく。
炭に残った熱にに枯葉と空気を送って火をつけるように、お掃除フェラをしながら彼のおちんちんを奮い立たせてやる。
「リオ、さん……僕は……」
「改めて謝っておきますね……ラストルさん、私まだ……収まりがつかないんです」
啜った精子の雫が唇の端にこびりついている。
それを直に舌でべろりと舐め取りながら、私は彼に上目遣いでおねだりをした。
「だから……もっと、もっと激しくしてほしいです♡ ラストルさんの強くてかっこいい、このおちんちんで私のこといーっぱい泣かせてほしいです……♡」
「あー……うん、善処するよ。僕にできる範囲で……」
ラストルが苦笑を浮かべる。
今夜の私はかなり飢えていた。一晩付き合わされる覚悟を決めたのだろう彼の表情はどこか達観したものだった。
激しく乱暴に、焼きつくように……というのは彼の趣味ではないのもあるだろう。
自分の今日の気分に付き合わせていることに若干の申し訳なさを感じつつーー私は自ら股をくつろげて、激しいセックスをねだった。
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「……ところで、なんですけど。どうして今日はそういう感じに……?」
「んー……あぁー……そうですねぇ」
それからしばらくして。
私にしこたま吐き出したーー訂正、私がしこたま
股間のブツはすでに萎びきっており、煽ってやっても弄ってやっても臨戦体制を維持することはできなくなっていた。項垂れた傷病兵のような無惨さである。
まぁ、仕方がないかと思った私は
酒を飲み下している私の背中にラストルからの質問が投げかけられる。当然の問いだった。
「昼間、うたた寝をしている間に……昔のことを少し夢にみまして」
「昔の、こと」
「そうですね、昔のことです。私のーー初恋のことでした」
「リオさんの……初恋」
「えぇ」
振り返って答えると彼の視線は宿屋の天井に蟠るゆらゆらとした虚空の暗闇に向けられているようだった。疲れのせいか随分とぼんやりとしている様様子だ。
私はぐいっともう一度グラスの中身を口に含んだ。ラム酒にジンジャーエールを適当に混ぜて割った即席のカクテル。
甘くて辛い、透き通った濃い琥珀色の味を舌で転がしながら、私はそのことを思い返していた。
昔のこと、初恋のこと。つまりそれは、ヨアヒムのことだった。
5年前の春。私がこの世界で出会って好きになって、多くの
脳裏に蘇る髪と夕暮れの赤。太い弦を弾くような温かみのある声と榛色の瞳。握った掌の大きさ、抱きしめた腕と胸の感触。幾度も交わした唇と睦言の甘さ……。
「……」
そんなことを昼寝の間に夢に見て……私は酷く、乱暴に、誰かに抱かれたくなってしまった。
無意識のうちに首筋を指先でなぞる。肌がそこにない首輪のことを思って疼くような気がした。
思い出すのは毒と蜜で身も心も煮られるような、熱く甘ったるい地下室の日々でのこと。
暴力的で冒涜的で、すれ違って傷つけあって、その上でお互いが望んだ愛欲の檻……。
あの日々のことを思い返すと、なんだか無性に体が疼くのだった。被虐趣味的な、心も体もぐずぐずに蕩かされるような倒錯的なセックスを覚えさせられたせいだろう。
「まぁ、その、ごめんなさい。ラストルさんには無茶言って付き合わせてしまいましたね」
「いえ……大丈夫です……このくらいなんてことは……」
「……少し飲みますか?」
「是非……」
口では大丈夫と言いつつも、ぼんやりとした視線で虚空を眺めながらぐったりと横になっている姿は全然大丈夫そうに見えなかった。体は正直だなグヘヘ……ってやかましいわ。
飲み差しの杯を彼に手渡しながら、私はタオルを取り出して少し汗を拭く。
情事の後の体は火照っていて、卓上の蝋燭の灯りの中で白い肌が赤く色づいているのは自分の体のことながら艶かしいと思った。
ラストルは本来ゆっくりと優しく、互いの体を労るようなセックスが好きだ。
抱き合ってキスをして、言葉を交わしながら体温を確かめるように体を摩り合い、そして交じり合う。
SMじみた、上下関係を叩き込むような背徳的で倒錯的な
……そうは言っても実のところ、私が完全に満足したわけではない。いいところ
本当は首輪や手枷や足枷を付けて鎖や縄で縛り付けて拘束して身動きできない体を一方的に嬲って滅茶苦茶にしてほしいし、土下座させて崇拝と屈服の口上を述べさせた上でちんぽをしゃぶらせてから喉に精液を吐き捨てるようにイラマチオしてほしいし、涙と脂汗が出るまで浣腸を我慢させて排泄させてから尻の穴を指や道具で掘り返して性器として躾けてほしいし、乳首やクリトリスに紐や鎖などの道具をくくりつけて引っ張り回して痛めつけて欲しいし、鞭や平手で尻を叩きながら私のことを淫乱だの変態だのと詰って言葉で責めてほしいし、前の穴も後ろの穴も粘膜が赤く爛れるまで
この辺は、まぁ、妥協した。最小限のムラつきは解消したのでよしとしよう。
その手のプレイをしたくなった時の相手はガーノンかネーロさんあたりが適任なのだが……何分今は
いや、ラストルには本当に迷惑かけたな。
「リオさんは……」
「ん?なんでしょう」
「その、初恋の方のことは……今は、どう思ってられるんでしょうか……?」
「…………」
私にそう問いかける彼の表情はいまだに茫漠の海を彷徨っている様だった。
疲労に加えてアルコールも摂取したからかもしれない。その横顔はいつもの柔和で紳士的な面持ちが消えて少し幼な気にさえ見える。
その上で私は彼の質問の答えを考えて首を捻る。
ヨアヒムのことを……今の私はどう思っているんだろうか?
「……大切な思い出です。そして、大事な宝物です」
率直に言えばそうなった。
大切……そういう形容が正しいだろう。
その上で、思い出で、宝物だ。
つまり、
「それはそれはお互いに酷いことをして、仲違いをして、泣きながら別れましたけどね。そういうのもひっくるめて……私には愛おしい記憶です」
「……」
私はもう一度、そっと自分の首筋を撫でた。あの地下室で彼に巻かれた首輪の感触をそっと脳裏に思い起こせば、ゾクゾクとした震えが背筋に走って、股座が濡れる感覚がする。
それと同時に胸の奥がひだまりのように温かく、そして切なく震えるのもわかる。
互いに掛け違っていたボタンを無理矢理に引き剥がして血を吹いた
その上に記憶の指先をそっと這わせればその痛みも蘇るが……それこそが私と彼が愛し合った確かな証なのだと思うと、少し嬉しく思えてしまうのだった。
「どんな結末に終わったとしても、人を好きになるのは悪いことではないんです。私はそう思います」
間違いを犯した。後悔もある。
それでも悪くはなかった。好きでいてよかった。
今の私が当時のことを思い返して思うのは、そんなところだった。
そう、今でも胸の奥の方から取り出して掌の上で眺める宝石のような……宝物のような記憶。それが私の初恋だった。
それが私にとってのヨアヒムだった。
「今も……その方のことは、好きなんですか……」
「んー……妬いてますか?ラストルさん?」
「いえ……そういうわけでは……」
ベッドの上に寝ている彼ににじり寄る。感覚スキルを使って細かく状態を見るとどうにもうとうととし始めている様だった。
そのせいだろう、普段よりもなんだかナイーブな発言が多いのは。
そんな彼の様子が少し可愛く見えて、私はシーツをかけてあげた。
実は第二ラウンドと洒落込みたい気分だったりもするのだが、さすがの私も鬼ではないのでここは自粛することに決めた。
「好きですよ。多分、今でもね」
「リオさん……僕は……貴女が……」
布団を被せてやるとラストルの瞼は急激に下がってきた。
眠気に覆われている彼の頭を撫でてあげると、何かを言いかけながらラストルはやがて眠りに落ちていった。
……そう、ヨアヒムのことは今でも好きだ。多分。
多分というのは、彼との思い出のことを大切に思っているのは事実だがーーもし今、彼と再会したらどういう感情を抱くのか、自分で自分の反応が予測できないからだ。
記憶の中にいる彼のことを今でも愛おしく思っているということは、今もまだ好きという判定で本当にいいのだろうか?
今、遠くは離れていても同じ世界に生きているであろう現在の彼がどうなっているのか知らないで……もしももう一度出会えたらどんな気持ちになるのか予想もつかないで好きと言って良いのだろうか?
ただまぁ、もう一回セックスはしてみたいなぁと思う。
体が感じる快楽はきっと、心よりもずっと雄弁に真実を語るだろう。
「ま、今はあなたのこともちゃんと好きですよ。ラストルさん」
眠りに落ちて寝息を立て始めた彼の首筋にそっと指を這わせながら、そう声をかける。
喉仏の隆起が見える男性的な首。その皮膚の一枚下の動脈の拍動を感じて……そこに力を込めるようなことを私はしなかった。
好きだけど殺したくなる、殺したいけど好きーーーー。そんな私の中の最も強い感情が圧着されて圧縮されたような、あの時ヨアヒムに感じていたような焼け付くような衝動ではない。
けれどラストルの紳士的で心優しいあり方に触れると、ほっと心が和らいで私もまた優しい気持ちになれるのが、私は好きだった。
『好き』にもいろんな形があって感じ方があるのだと思う。
私はそういう一つ一つの自分の心の在り方を大切にしたかった。
「おやすみなさい」
喉笛を引き裂く代わりに、そっと額に口付けしてから私は晩酌の続きに勤しむことにした。
私たちの滞在している旅籠の一室、蝋燭の灯りが届く範囲の外は重く深い闇が横たわっている。
窓の外は夜闇だけでなく厚い雨雲が空を遮って月明かりと星明かりをも隠しているのだ。
しとしと、と雨だれが建物の屋根と壁を打つ微かな音があたりに響いている。
それに耳を済ませながら静かにグラスを傾ける。
ここはフロラントの街から馬車で2日ほどの宿場町だ。
喉を温かく湿らせる酒精の熱を感じながら、私は今回の旅に至るまでの経緯を思い返していたーーーー。
帰ってまいりました。