「し、司令官さん、入ります」
「ああ、待ちかねたぞ」
彼女を迎え入れた若い男性の声とは対照的に、弱々しい声で入室を求めた少女は、見たところ扉の前まで持っていた羞恥を忘れたらしかった。まぁ、それも仕方ないか、と『司令官』なる大仰な肩書で呼ばれた青年は肩をすくめた。これを発注したはずの彼自身、初めてこの部屋に踏み入れた時はたじろいてしまったのだ。それが他人ならばさもありなん、である。
「どうだ羽黒。見事なものだろう。明石と夕張の合作だそうだ」
言いながら、見事という表現が果たして適当かどうか、提督自身も疑問に思っていた。
一応、浴室を模した努力の跡が見られるその部屋は、けれどもそんな労力を徒労と嘲笑う程度には異様だった。百歩譲って、バスタブを水族館でよく使われそうな素材で作ることで透過率を上げていることは、まぁあり得なくはないとしよう。だが、だとしても、そのサイズが通常よりもかなり大きく、挙句内部に金属のパイプやら電線やらが見え隠れしていては、これを普通と言いはるのは無理な話だった。近代的な浴室っぽさを醸し出す床材のお陰で、バスタブ以外は思ったよりも浴室っぽくはあるのだが、それが中央に鎮座する物体をより目立たせてしまっているのだから、潔いほどに無意味である。
「あ、あのっ。ここが、新型船渠の試験室で良いんですよね?」
けれども、羽黒としてはそれよりも優先して疑問に思わねばならないことが有ったらしい。引きつった笑みを司令官に向けた彼女は、控えめに言ってさほど面白くもない冗談を言われたようであった。
「ああ、その通りだ」提督は簡単に認めた。「それとも、何か不具合があるかね?」
「い、いえ、別に。ただ、ちょっと想像と違ったので」
「試作型だからな。制式採用された暁には、羽黒もよく見るああいった外観になる予定だ。それとも、これでは不服かな?」提督が意地の悪い微笑を浮かべた。
「そんなことはないです。ただ、これだと、その、は、裸が、見られちゃう、から」
青年の態度と、自らが口にした内容で、置き去りにしてきた羞恥が蘇ったのか、羽黒の顔が真っ赤になった。自身を取り巻くバスタオルを握る手が震えているのが、提督にはすぐ分かった。いや、そのことは羽黒に「新型船渠の試験は、必ず全裸で行う必要がある」と伝えた時からわかっていた。
「今さらだろう、それは。そのために羽黒を指名したんだし」だから、彼は事も無げにそう言い放った。あぅ、と羽黒が鳴き声のようなうめき声を挙げる。恐らく、彼女が試験実施を伝えられた時、一緒に説明されたケッコンカッコカリシステムの適用を受けた艦娘でなければならない事情を思い出しているんだろう、と彼は当たりをつけた。
「それは、そうですけど」
一度ならず青年と肌を重ねた少女は、けれどもいつも以上の歯切れ悪さを改善できなかった。それとこれとは別問題です、という羽黒の困ったような怒ったような視線に、青年はおどけたように肩をすくめてみせる。はぁ、と諦めたようなため息が、彼女が折れた合図だった。
「わかりました。それじゃあ、入ります――」
「羽黒。バスタオル、忘れてるぞ」
「うぅ」
諦念を隠そうともしない少女は、自分に投げかけられた言葉に対して彼女の良い人をジト目で睨んだが、それだけであった。小刻みに震える手が、バスタオルを徐ろに脱ぎ進めていく。その拍子に、桜色の突起が、蠱惑的に揺れた。
「あ、あんまり、見ないでください……」
バスタオルを脱ぎ去った羽黒が、ふいと顔を背けた。だから青年は、羽黒が男心というものに未だ無理解であることをこれ以上無く了解した。上気した肌、均衡の取れた体つき、恥じ入ってあさっての方を向く顔、そして可能な限り恥ずかしいところを隠そうと足掻く腕と、到底彼女の意図通りになっては居ないそれらの部位。ここまでされて、襲わない雄が居るほうが不思議である。
「ん、すまんすまん」しかし、青年はそうしなかった。何とも贅沢なことに、見慣れていたからというのもある。だが、それ以上に、彼は我慢する道を選ぶことにしていたのだった。何せ、お楽しみはこれからなのだから。
「それじゃあ、は、入りますね」
それっきり提督が沈黙したのを見て、自身を急かしているのだと理解した羽黒は、おっかなびっくりバスタブへと足を踏み入れた。当然、無色透明に近いとはいえバスタブはバスタブだから、入る際に足を上げなければならない。努力もむなしく、臀部やその割れ目の真中にあるものが見られているということを察して、羽黒の頬がまた赤くなるのが提督にも分かった。少女に気付かれぬように顔をゆるめ、若干鼻歌交じりで、足元のボタンを踏む。
「あの、こ、こんな感じで良いんでしょうか――って、司令官さん? それは?」
バスタブ周りのメカメカしさからは拍子抜けするほどのスムーズな動作であったから、羽黒がいつの間にやら提督の周りに出現した機械群に気づいたのは、おっかなびっくり湯の中に身体を沈めてからであった。恥ずかしそうに提督の方を向いたはずの顔が、困惑に塗り固められている。
「これか? ドックの制御コンソールだよ」気持ち、秘密基地を披露するような顔で青年が答えた。いや、実際のところ秘密基地そのものなのだから、まったくおかしな話では無いのだが、若干羽黒の顔が引きつったのは気のせいだと信じたい。
「で、どうだ? 湯加減の方は」
「あ、はい。丁度いいお湯加減です。でも、これ、お水じゃ無いですよね? なんか、ちょっと粘り気もありますし」
「不快か?」
「い、いえ。ただちょっと気になって」
「うん。なら良かった」青年は満面の笑みだった。「何、ちょっとした特殊配合を施した水だよ。ボディソープ効果その他諸々の諸成分を持つ薬品を溶かしてるんだが、身体には一切の害がない奴。理論上はただのちょっと粘ついた水だから、飲み干したって何の悪影響も無い。不味いらしいからオススメはしないけどね。何なら、毒味しようか?」
「い、いえ、結構ですっ!」
羽黒が慌てたように言った。大方、湯船に直接口をつけて啜られる光景でも想像したのだろう。あぁ、羽黒汁美味しそうだったのになぁ、と悔しかったので提督はしょげかえるふりをした。ち、違うんです、別に飲まれるのが嫌ってわけじゃ、と羽黒が焦りから自分の言ってることの恥ずかしさに気づかないまま弁明を始めた。それを確認してから、青年はコンソールのボタンを気付かれぬよう、そっと押した。
『全身スキャンを開始します』
「ひゃっ!? ゆ、夕張ちゃん!?」
羽黒が素っ頓狂な声を上げた。彼女もよく知る鎮守府の一員にして、最近は明石とつるんでよく工廠に居る軽巡娘の声が、突然試験室に響いたのだから当然である。おまけに、ただでさえも動揺を誘うその声は、何やらよくわからないことを口走っているのだ。
「安心しろ。ここに夕張は居ないよ。まぁ、何だ。施設に金をかけすぎて合成音声用の予算が底をつきてな。是が非でも機械音声を欲していた夕張にナレーションもさせてみただけだ」提督が、羽黒の後半部分の疑問を無視して答えた。
「いえ、あの、それはそれで良いんですが、全身スキャンって一体? 何か、変な光があたってますし……」
羽黒が困惑げに自身の体を見た。つられるのを装って、青年もコンソール側だけはクリアになっているバスタブ越しに羽黒の身体を眺める。言ってから、自身の体を見られる口実を作ってしまったことに俯く羽黒に、赤っぽい光が余すこと無く当てられていく。
「何、大したことじゃない」青年が笑った。「新型ドックは割とデリケートだからな。全裸でないといけないのはもちろんだし、加えて汚れも排除しなきゃならないんだ。例えば垢とか、汗とか」
青年が何気なく挙げた2つの例に、羽黒の顔が真っ赤になった。どうした羽黒、と提督が間抜けた顔を作った。
「だ、だって、試験を行う前に、トレーニングルームで汗掻いてこいって司令官さんが言ったんじゃないですか! それに、お風呂だって昨日の夜に頂いたのが最後ですし……」
「案ずるな。センサーのテストと、洗浄の試験も兼ねているから、手違いじゃないよ」
『スキャニング終了。基準以上の汚れを認む。これより、洗浄作業に入ります』
提督の言葉に、羽黒が何かを抗議しようとしたその瞬間、ビープ音と共に機械音声がそう告げた。かぁ、と羽黒の身体が真っ赤になる。可愛い奴め、と青年は、その汚れの基準レベルとやらが清潔な部屋で一日中何もせず過ごしてもアウトであることを告げないことにした。
「うっし、それじゃあ次は洗浄作業だな」
「え、ええと、洗浄って、その」
「大層なことじゃない。ただ、機械がスポンジで軽く洗ってくれるだけだ」
言うやいなや、バスタブの底から稼動音を奏でながら、何やら機械がせり出した。思わず羽黒がのけぞると、その背中がスポンジに受け止められる。稼働良好、と提督が頭のなかで呟いた。
「腕を上げてくれ。くまなく洗浄しなきゃいかんから」
「む、無理ですっ! こ、これ、何か私の、お、おっぱいとか狙ってるみたいですしっ。 それに、恥ずかしい、ですから、あっち、向いててくださいっ」
羽黒が自身の身体を庇うようにぎゅっと腕で抱き、縮こまった。なんというか、嗜虐心を擽る格好である。
「いや、それは構わないが」嬲るように視姦してやりたい衝動を努めて抑えつつ、青年は言われた通りそっぽを向いた。「早く言うとおりにしないと、もっと恥ずかしい目に合うぞ?」
「ど、どういう『対象を洗浄に適切な姿勢に調整します』へぅっ!? ひぁっ!?」
「言わんこっちゃない」青年がニヤリとした。例え視界に収まっておらずとも、羽黒の悲鳴が、背後から機械アームに腕を鷲掴みにされたものだとすぐ察せたからだった。
「だめ、来ないで……見ないでぇっ」つかつかと自身に歩み寄ってくる青年に、羽黒がふるふると首を振った。
「そうは言っても正常動作を確認しないとな」コンソールにある平常運転ランプの存在を無視しながら提督がほざいた。「うん。拘束は完璧に動作してるな。真正面からだとよく分かるよ」
「やぁっ!」
羽黒が震えた。あるいは浴槽に張られた液体が単なるお湯ならば、その微力な抵抗は水面を攪乱して光の進行を歪ませ、青年を落胆せしめたかもしれない。しかし、現状でそのような行為は、彼の脳内チェックリストにある液体の透明度合い維持という項目に満点をつけるのと、その獣欲を掻き立てる程度にしか効果は無かった。
「ん、どうした? 乳首が勃っているみたいだが」
「あぅ」
青年の指摘に、羽黒がまた鳴いた。まじまじと見られる桜色の突起が、その言葉にまた一回り大きくなったような気がした。
「何、恥ずかしがることはない」青年はどこまでも朗らかだった。「洗浄箇所にはそこも含まれてるからな。寧ろ、勃ってくれなきゃ困る」
「そんな、こと、言ったってぇっ」
羽黒が涙声で言った。恥ずかしさに相当参っているらしい。羽黒との付き合いも長い青年は、こういう時の対処法をよく知っていた。畳み掛ければいいのだ。
「というわけで。クリトリスの方も確認しよう」
『太もも部の動作を開始します』
機械が反応したのは、提督の言葉を羽黒が理解し、青ざめるはるか前だった。完全な戦術的奇襲である。悲鳴とともに、無理やり股を開かされる羽黒をみつつ、あとで座学かなと青年はぼんやり思った。
「うん。洗いやすい格好になったな」
提督の言葉に、羽黒の顔が逸らされた。ぴったりと閉じたピンク色の筋がふるふると震えている。
『洗浄シークエンス、開始します』
青年の視姦は、夕張の声がそう告げるまで続いた。羽黒がビクリと震えるが、抗議やら何やらの反応を見せる暇もなかった。既に準備万端であったスポンジ等々が、すぐに襲いかかったからである。
「ひぅあっ!?」
作れと命じた人間が相当せっかちだったのか、あるいはどうせそれ以前の視姦時間が長いだろうと予期していたのか、焦らしも情緒も有ったものじゃない勢いで、スポンジたちがお目当ての物に貪りついた。双丘の頂きと割れ目の突起物が、低反発ウレタンを彷彿させる柔らかさのスポンジに埋もれた。ローションの効果で滑りやすくなってはいたものの、当然垢擦り用であるから、相応の抵抗は有ったはずである。
「こ、これっ。こりぇっ!?」
「塩梅はどうだい?」
「ざ、らざら、してっ! 感じ、ちゃうっ!」
羽黒の反応は、提督の理解を肯定していた。本人は気づいていないようだが、足の爪先がぴんと伸ばされ、所在なさげに動かされているのが提督には丸見えだった。そして、恐らくその程度の動きでさえ、スポンジとの摩擦は羽黒の脳髄に快感を焼き付けているはずである。
「ん、何か辛そうだな」提督がとぼけた。「それじゃあ、早めに終わらせようか」
「な、何言って」羽黒は小刻みに体を震わせたままだった。
「そら、まさかスポンジ当てただけじゃ洗浄にならんだろう」さも当然といった口調だったが、提督の顔は内心を隠すことを放棄していた。
「も、もしかして、これ、動ひぅあぁっ!?」
高速回転し始めたスポンジは、何がしかを口に出そうとしていた羽黒の努力を一瞬で洗い流してしまった。無論、本来の任務は体の汚れを洗うことなのだから、それで動きが止まるわけがない。
「だめぇっ! とめてぇっ!」
羽黒が足掻き――そのことが、寧ろ摩擦を大きくしたようである。明石工廠製のスポンジと液体は、なるほどオーダーメイドらしい精緻さを持って設計されていただけはあり、引っかからず、さりとて滑り過ぎはせずという絶妙な感覚を維持し続けていた。
「おねがっ、これっ! つよ、ぉっ!?」
「んー。とは言ってもなー」青年が、羽黒から目を離さずコンソールのボタンを押した。「きちんと洗浄が終わらなきゃ、次の段階に進めないし」
『第二段階開始します』
「あんっ!」
唐突に、三箇所の突起に吸い付いくスポンジが強く狭まった。痛みがないのが幸いなのか災いなのか、ともかく今までと少し毛色の違う快感に、羽黒が軽く仰け反った。その隙を、機械が見逃すわけがなかった。
「ふぁっ!? や、脇の下は、ひゃぅんっ! お、おしりも、おむねも、や、やめ、やぁっ!」
機械の動作は完璧だった。ぬるりとそれらの箇所に滑り込んだ、こちらは見た目通常のスポンジたちは、羽黒の珠肌の上で蠢き始めたのだった。無論、あくまで体を洗うための動きである。その過程で、脇の下がくすぐられたり、尻房や乳房が揉みしだかれるような現象が発生しても、致し方ないことだと青年は考えていた。
「し、司令官さん、とめ、てぇっ!」羽黒が瞳に涙をためた。
「止めたら試験にならないだろう」提督はにべもなかった。「それとも、何か止める理由たる状況でも発生したかな? 痛いとか?」
彼女の司令官の言葉に、羽黒が一瞬戸惑った。どうやら、嘘でも『痛い』と言ってしまおうかと迷ったらしい。こんな状況でも迷う程度で済ませるあたり、羽黒のことを柔軟性が足りんと叱るべきか素直でいい子と褒め称えるべきか、実に悩ましかった。無論、虚偽申告は重大な問題であるから、上官としてはそのように行動するつもりだったが。
「そんなことはないよな」何事かを口に出そうと決心したらしい羽黒だったが、それを待っていたとしか思えない青年によって制された。提督が何を言わんとしているのか、羽黒の瞳にうっすらと困惑の色が浮かぶのを待ってから、彼は続けた。
「股の間。そんなに気持ちよさそうだもの」
「ま、股になに、か……」
羽黒の視線が、提督から自身の下腹部よりちょっと下へと下がり、そのまま固まった。透明なスポンジ越しに、何やら黄色い液体が、自身の秘所から出ているのに気づいたのだった。
「う、嘘、私、漏らしてなんかっ!?」
羽黒が全身を真っ赤にした。突如として襲いかかってきた強大な羞恥が、快感も困惑も何もかを吹き飛ばしてしまったようである。何とかして股間を隠そうとして体を暴れさせ、けれども奮闘むなしく機械によって全ての動きが吸収されてしまう様に、青年の口角があがった。
「うん、羽黒は漏らしてなんか無いよ」たっぷりとそれを楽しんでから、青年が優しくそう伝えた。「言ったろう、浴槽に張ってあるのは特殊な水だって。その効果の一つに、ある種の体液を黄色に着色するって効果があるんだよ」
「あ、ある種のって、まさか」羽黒は何かを勘付いたらしく、更に真っ赤になった。
「うん、愛液」青年は想像を裏切らなかった。「あ、安心していいよ。液体は常に循環させられてろ過フィルターを通るから上がる頃には愛液まみれ、なんてことにはならないし、着色も一定時間で消えるから」
青年の言葉通り、羽黒の股から滴るように流れ落ちた黄色くなった愛液は、比重が絶妙に計算されているのか暫くバスタブの底に水たまりのような物を作った後、外側から薄れて消えていった。冷静に眺めてさえ居れば、薄れ消え行く直前に、黄色い液体がバスタブに開いた開口部へと流れる素振りが観察できたはずである。なるほど、呆れるほどの執念で出来上がった装置である。尤も。
「いやぁっ! 何でっ、ひゃぅっ、何で無くっ、ならぁっ、ないのっ!?」
後から後から供給されれば、黄色い水たまりが消えるわけも無かった。一応、ある程度で均衡を保った広さに落ち着いたものの、隠し通せる面積ではない。
「ぽちっと」暫く顔を真っ赤にして、羞恥と快感からか淫猥に踊り続けた羽黒を視姦して、提督は徐ろに手元のコンソールを操作した。かちゃり、というわざとらしい音とともに羽黒の手枷が外れた。これ幸い、と手が股間を慌てて覆い隠す。
「はぁっ、はぅ、んっ、はぁっ」
羽黒が安堵の表情とともに呼吸を整えようとした。当然、胸の刺激が残っているため意図した通りの結果とはならなかったが、秘所を擦っていたスポンジが全くの無抵抗のまま押しのけられたため、この部屋に入って初めての余裕が見て取れた。熱い息を吐きながら、身体が本人の意志で弛緩する。当然、提督がまた何やらボタンをいじっていることなど、気付けるわけもない。
「しまった」青年が上げたわざとらしい声に、人心地つけたという非性的な快感から惚けた瞳が彼を向いた。「まだ機能があったのに、すっかり稼働させるのを忘れていた」
「あ、あの、んっ、もし、かして、また、最初から、ぁっ、とか?」もはや少々の喘ぎ声を抑えることもできなくなった羽黒が、心なしか顔を青くしながら訊ねた。
「ああいや、そんなに重大な機能じゃないからそれは無い」羽黒の表情が再び寛いだものになったのを確認しつつ、提督は続けた。「あ、そうか。今から作動させればいいんだな。えい」
「ひゃっ」
提督が何かを操作した途端、羽黒の目の前に透明な板のようなものが出現した。SFとかによく出てくる、空間に突如出てくるモニターである。秘密基地なんだからと夕張と明石が組み込んだシロモノだった。流石にオーバーテクノロジーすぎる気もするが、艦娘なんて存在に比べればまだ現実的であるから仕方がない。という説明は、未だ提督がこのギミックだけで予算の半分近くが消し飛んだことに気付かないくらいには、その実在に対する説得力を有していた。
「それ、スイッチオーン」
それはともかく、モニターなんだから映像が映って然るべきである。そう言わんばかりに、青年はもうひとつのボタンを押し込んだ。プチン、という起動音とともに、一瞬だけ砂嵐が吹き荒れるという、工廠要員の極めて無駄な遊び心が羽黒の目の前で展開された後、その瞳に映ったのは、怯えたように目の前を見る自分の姿だった。
「ふぇ!? これ、私!?」
「うんうん、撮影状態は良好だな。よしよし」
提督が勝手に頷いていたが、良いわけがなかった。ワンテンポ遅れて、ひゃあという悲鳴が上がり、身体が更に縮こまった。既に提督には見られているんだから今更と言えなくもないのだが、やはりモニターを介して実際に自分が見るという行為は羞恥心を煽るらしい。画面右上に表示されている録画中マークも、それを助長していた。
「んん、愛液の出が良くなったみたいだな」青年が、今気づいたように言った。半分嘘だが、半分は本当だった。確かに先ほど来の「洗浄」で、尿漏れのような愛液の流れはずっと生じ続けていたが、モニターに裸の自分が浮かんでからは、それが気持ち勢いをましたように見えていた。
「そ、そんなことないですっ」
だから、羽黒が思わずそう口走った瞬間、青年の顔が邪悪に歪んだ。少なくとも、羽黒が即座に墓穴をほったことを理解する程度には楽しそうだった。
「そうか」提督は、ここに至る一切の経緯さえ知らなければ無垢な朗らかささえ感じる笑顔で、優しげに呟いた。「じゃあ、確かめてみよう」
うぃーんと、わざとらしさしか感じられない動作音と共に、画面がズームアップされた。そんなさなかに合っても潤いを増し続けている羽黒の秘部が、とても鮮明な映像となって画面に現れた。
「ぁっ、やっ、ゃぅ」
「おやおや、これじゃあ漏らしてるみたいだな。手で抑えても止まらないのか」
「ちがっ、ぁっ、だめっ、ちがぅっ!」
ふるふると、よく手入れされた髪の毛が左右に振れた。けれども、羽黒の声は、そんな弱々しい動きにも及ばないほど力がなかった。視線は、本人の意に反して画面に釘付けにされている。秘部を抑え、縮こまった身体から黄色い液体が垂れ、水たまりを作っている情景は、どう見ても青年が言った通りのものであった。
「おさ、ぁぅ、まって、くださいぃっ」悲鳴、というには勢いも大きさも足らない声が漏れた。
「俺としては、収まってほしくないんだが」提督は最後まで白々しかった。「止めて欲しいか?」
「っ! お願い、しますっ!」
うるうるとした視線が青年を向いた。いい加減、嗜虐心どころか保護欲まで刺激される瞳を見ているんだから手加減しても良さそうなものだが、そうする気は一切起きていない。彼の方は彼の方で色々と限界のようであった。
「じゃあ、抑えるのを手伝ってあげよう」羽黒が再度固まった。無論、そうなれば浴槽に手を突っ込みやすくなることなど、言わなくても良い事である。
「ひゃんっ!?」
「おー、熱いしぬるぬるだな。例の液体だけじゃ、ここまではならないはずなんだが、追加検査が必要かな?」
青年としては、最大限羽黒を盛り上げてやろうとした演技だったが、残念ながら観客の方は気付く余裕も無いようだった。
「あ、あぁ」
「どうした?」
「だめ、やぁ、手、離してぇ」
涙目がふるふると左右に振れた。びくびくという振動が、手を伝って提督に伝わる。わざとらしく、彼は視線をバスタブの底へと移した。
「ありゃま、残念ながら助けにはならなかったみたいだな。さっきよりも水たまりが広がってるよ」
「いやぁっ!?」
見れば、ぽたり、ぽたりと言った黄色い液体の流れは、ついにつぅと連続して流れる水の流れへと変わっていた。当然、供給量が増えたのだから、ただでさえ処理のおっついていなかったろ過装置で足りるわけがない。水たまりが、一回りも二回りも大きくなっていた。
「こんな、のぉ」ぐすん、と羽黒が鼻をすすり始めた。そろそろ、精神的に限界らしい。
「さて」青年が手を引き上げた。泣きじゃくる羽黒というのも、なかなか見ていて楽しいが、今回の目的はあくまでも悦ばせることなのだ。
「少々機器の説明に時間を使いすぎたな。洗浄を再開しよう」
「へ、ひゃうっ!?」
ういーんと、機械音が再び満ちた。両腕が再び絡め取られると同時に、羽黒の口が大きく開かれ、吐息が漏れだす。そのような大げさにも思える性感の表明は、別に刺激を強くしたからということが原因では無い。単に、忘れていた機械による無機的な性感が蘇り、相当な刺激となって襲ってきたのだった。そもそも、単純に刺激を強くするだけでは、機械群の愛撫から身を捩らせて逃げ惑う羽黒を長く楽しむ事はできないのだから当然である。それに、今度は追加のギミックまであるのだ。苛め過ぎは良くない。
『壷洗いを開始します』
「はぁ、つ、ぼっ?」
わけがわからない、というのを隠そうともしない羽黒の瞳が青年を見たが、彼の視線はバスタブから動かなかった。結論から言えば、羽黒は提督の視線の持つ意味に気づく必要さえ無かった。何せ、言うが早いかバスタブの一部がパカリと開き、どう見てもバイブという名称以外思い浮かばないような形状の物体がせり出してきたのだから。
「ぇ、うそ、や、ふぁああっ!?」
ローション効果のある湯と、羽黒の愛液。どちらがより潤滑剤として大きな役割を果たしたのかはわからなかったが、わかったところで大した問題ではなかった。ともかく、何らかのヌルヌルとした液体によって、スポンジを自称する張り型は、一切の抵抗なく羽黒の膣に滑り込んでしまったのだから。
「あ、ふっ、ん、ぅっ」
わざわざ羽黒に最適な大きさを追求して作られたそれは、秘部の最奥部をコツンと突いた。バイブとしての機能を維持しつつ、きちんとスポンジとしても働けることを目指して開発されたそれは形ほど硬くはなかったから、「息が漏れる」程度の嬌声で一応済んでいるようである。もちろん、それで終わるわけがないのだが。
「ん、ちゃんと入ったかな?」
「ひぅっ!」
いつの間にやら湯船に再び入れられていた青年の手が、バイブの根本を掴み、ぐいぐいと羽黒に押し付けた。拘束具が許す範囲で羽黒の太ももが閉じられ、黄色い液体がぴゅっとほとばしり、自称スポンジに掛かる。
「ちゃんと撮れないじゃないか。我慢しなきゃ」提督がニヤついた。
「撮、る?」
さんざん体中を弄られていたためか、膣が何かに満たされる感覚に囚われっぱなしだった視線が、恐る恐るといったふうに前を向いた。無意識にだが、青年が何をしたいのかわかったようである。無論、動きながら、そういえばさっきの空間モニターってどうなってたっけ、くらいの思考はできていたが。
「やぁ、苦労して高い素材にした甲斐があったよ」提督が口笛を吹いた。「これで、中までしっかり見れるな」
当然のごとく透明だったスポンジは、物体として存在を微かに主張する程度のくすみを除き、全く透明に近かった。故に、向こう側の風景が丸分かりなのは、言うまでもないことだった。
「そんなにじっくり見たことはなかったけど、なかなかに面白いな」
「ぁ、み、見ないでぇ……」
言っている最中にも、黄色の液体は止めどなく溢れだし、スポンジ越しに見える肉壁を気持ち黄色く染め上げていた。びくびくと、羽黒の震えが大きくなる。そろそろ、虐めるのも限界に近かった。
「動かすぞ」青年の宣言した瞬間、羽黒に考えさせる暇を与えず、バイブが震えだした。ピストン運動も同時に始まる。一応、分けて使えるのだが、無理だと判断したらしい。
「ひぁっ! あぅっ! ゃんっ!」
スポンジらしいザラザラが膣中を縦横無尽に動き回り、羽黒の目の前で火花が散った。そういえば、羽黒のことを軽く程度もイカせていないということに青年が気づいたのは、やっとこの時であった。たら、と冷や汗が出る。羽黒の拒絶反応のせいでやっている感覚は一切なかったが、図らずとも酷く壮大な焦らしプレイをしてしまっていたらしい。流石に身体的・精神的不都合が発生するなどということはあり得ないだろうが、失神くらいなら十分に起こりうる。
「あ、も、ダメぇっ! 見ないでっ! 見ちゃやだっ! イク、イッちゃいますぅっ!」
自分でも気付かぬうちに腰を振りながら、羽黒が叫んだ。新型船渠はといえば、相も変わらず無駄な予算と技術が投入された意図に反していない。青年が羽黒に見とれ、緊急停止ボタンやら何やらを押さなかったことを、至極まっとうにプレイの一環と理解し、バイブのピストン運動を早めた。同時に、各急所に押し付けられたスポンジの動きも加速する。羽黒に耐えられるはずがなかった。
「や、ああああああああっ!」
可能な限り体を縮こまらせ、目を瞑りながら羽黒が果てた。ビクビク、と身体が激しく痙攣する。達した瞬間緩まった尿道から、潮が吹き出したらしい。ぴゅう、と勢いよく黄色い筋が湯船に現れ、水たまりを作った。はぁ、と吐かれた羽黒の息が相まって、漏らしたようにしか見えない。
「あ、ぅ。しれ、かんさ、見ない、でぇ」羽黒が、ふやけたような顔で青年を見た。
彼は何も答えなかった。その必要性を感じていなかったわけではない。彼自身の好みとしても、何か言葉責めをしたかった。だが、限界なのはどちらも同じことだった。
「あぐぅっ!?」羽黒が目を見開いた。イッたのを見計らい、自動的に動きを停止したはずの機械群がまた動き出したのだった。当然、青年が操作しなければ起こりえない動きである。
「も、だめっ! イったのっ! もうイッたんですっ! 無理っ! ムリぃッ!」
「羽黒」
青年は、羽黒の顔に手をやった。性感に震えるそこを、まずは丁寧に撫でる。ついで、頬に手をやる。そこもまた、丁寧になでた。羽黒の顔が、あらゆる快感でごっちゃになった。撫でさすりながら、彼のほうをに向ける。上目に、羽黒の瞳が提督を見据えていた。口が、もごもごと小さく動かされていた。
「舐めてくれないか?」青年本人はとても冷静な声を出したつもりだった。ぼろん、と既に大きくなっていた肉棒を取り出す。
「……はい」
逡巡の間ではなかった。単に、歓喜で声が出なかっただけのようであった。でなければ、言ってからすぐ、躊躇なく口に含みはしない。
「ちゅ、れろ」
つかの間、自身に加えられている性感を忘れたように、羽黒がペニスを頬張った。いや、正確に言えば、軽く口に加え、味わう程度になめているだけだったから、言うほど積極的な口淫ではなかった。だが、息を荒らげた少女が、ただひたすらに自身のものを舐め続けるという行為は、青年に暗い官能を感じさせてやまない。
「良いぞ、羽黒」
褒めながら、労うように頬に手をやり、撫でる。弾力のある頬は、とても熱かった。逸物を咥えたまま、羽黒が上目に見つめてきた。自然と口角が上がる。リモコン式のコンソールを、気付かれぬようにそっと操作した。
「んふぅっ!? んんっ!」
機械の動きが強まった。相当深く突かれているらしい。振動が、羽黒の熱い口腔を伝って青年にも分かった。ちら、と浴槽内を見やると、足が暴れ、張り型を押し込まれるたびに飛び上がり、黄色い液体を漏らす様がありありとわかった。流石に奉仕する余裕もなくなりつつあるらしい。舌が止まった。
「羽黒。舐めるの、止まってる」
ただ肉棒を口に含んでいるだけというのも、嬌声が上がるたびに吐息があたってなかなかに良いものだったが、青年はそれで満足しなかった。頬を弄って不満を伝える。羽黒の顔が左右にふられた。頬肉に亀頭があたり、素晴らしい心地だった。
「羽黒」
青年の声は、こういう状況でさえなければとても優しく聞こえる声音であった。けれども、羽黒にはそれがなおさら強制を感じるものに聞こえたようである。一瞬だけ逡巡したように青年を見つめてから、舌の動きが復活した。
もちろん、無理やりさせているんだからまともな物に成るはずがない。歯を当てていないだけでもよほどの努力を感じるが、さりとてその程度のフェラであった。必死に動かされるだけで、時折止まってしまう舌の動きは、純粋な性感で言えば微々たるものだった。だが、青年は不意に羽黒の頬を、良くやったと言わんばかりに撫で上げた。嘘ではなかった。どんな技巧よりも、一心不乱の拙さの方が良い場合もある。そういうことだった。
「美味しいかい?」
青年の問いかけに、羽黒の頭が上下に振れた。愚息が予期しないところに当たり、へんな息が漏れる。羽黒が、快感に蕩けた顔に、嬉しそうなほほ笑みを浮かべた。かと思うと、青年が何事かを口にしかける前に、肉棒が羽黒に引き寄せられるような力を受けた。吸われているのだ。
「ぢゅ、ぢゅる、ぢゅぅ」
変わらず、決して上手くはない吸い付きだった。時折苦しくなったのか、吸い付くどころか吐息がかかったのだから、より悪くなったと表現しても良かった。しかし、物事を絶対的に見るのならば、限界に近かった青年に一線を越えさせるには十分な量の快感だった。
「羽黒っ。出すぞっ」
羽黒が嬉しそうに頷いた。機械が齎す暴力的な性感に屈しないよう、ペニスに必死に吸い付いている。それは、青年が滾る劣情に逆らわず、機械の動きを更に強くしてからも同じことであった。
「零すなよ」
懇願するように青年を見た羽黒の瞳を、命令口調で拒絶した青年は、一瞬だけ思案してから、助けてやろうと続けた。その言葉に、羽黒が反応を示す前に、青年は羽黒の頬にあった手を、その側頭部へと添えた。同時に、空いていたもう片方の手も、反対側のこめかみの当たりへと持っていく。
青年がにわかに腰を動かし始めると、羽黒が必死にそれへと合わせてきた。舌、頬、唾液の熱さが、男性器を介して快感へと変換され、青年の頭へとしきりに電気信号を発した。けれども、青年にとってより重要だったのは、羽黒が時折漏らした、安心しきったような吐息であった。張り詰めたものを解放する最後のきっかけは、それだった。
「ん、んふぅっ!?」
青年が羽黒の口内を白く染め上げたのは、次の瞬間であった。特に前兆もなかったそれに、羽黒が一瞬だけ目を大きくした。無論、大したことのない衝撃だったが、先程から強い責めを受け続けていた羽黒にとって、緊張を途切らせるのには十分だった。
「んぃっ! んんんんんんんんんんんっ!」
羽黒がイッたのは、青年の迸りが治まり始めた辺だった。がくがくと身体が揺れ、湯船に波紋を作った。ぴゅう、と脱力した股間から黄色い筋が飛び出た。また噴いてしまったらしい。
「ん、ぷぁっ、んくっ、はっ、ぁ」
幾らなんでもイッた直後に粘ついたものが口内にあって、その上異物まで咥えているのはまずかろうと、青年が肉棒を引き抜いた。一瞬だけ、それを名残惜しそうに一瞥した羽黒は、まず残った愛しい物を楽しむことにしたらしい。舌でそれをいじくりながら、こくんと可愛らしい音を立てて飲み込んだ。はぁ、という吐息が艶かしい。
「羽黒。まだ、残ってるぞ?」
そんな様子をこっそりと録画しながら、青年が腰を突き出した。溜まっていたものが解放され、先程よりも小さくなったそこは、白いもので汚れたままだった。
「はい」
熱に浮かされたように返事をした羽黒は、何の躊躇いもなくそこを再び口を近づけた。含みはせず、舌が伸ばされた。
浴室に、水が出したのではない水音が満ちた。それこそ宝石を扱うような繊細さで、羽黒が肉棒に舌を這わせた。汚れを舐め取り、吸い付き、洗い清める。たっぷり数分かけて行われた清掃作業で、青年のものはすっかり綺麗になった。羽黒の唾液で妖しくてかり、再び先ほどの大きさを取り戻した先端に液体が見え隠れするのを除けば、だが。
「ダメじゃないか」青年がゆっくりと言った。本人は興奮を押し隠そうと努力しているつもりらしかった。「また収まらなくなってしまった。どう責任をとってくれるんだ?」
「あ、えと」羽黒が、刹那の間だけ素に戻ったような声を出した。けれども、目の前にあった青年の表情と、何より自身の下半身が送り付けてくる感覚が、すぐにその頭のなかを蹂躙していく。
「は、羽黒が、お、おまんこでっ! しょ、処理、します」
「よろしい」青年がコンソールを操作した。本来ならば、この段階で「え、なんだって?」と聞き返し、マイクを付きだして録音し、散々に言葉責めするという行程表をインプットされていた新型船渠は、不満そうに再確認の音を出した。が、残念ながら、粘ついた情熱で作り上げられたその機械は、青年の理性だけはその制御下に置いていない。
「ぅあ、っあ」
羽黒の身体が持ち上げられ、浴槽を飛び出した。同時にバスタブが若干沈み、丁度青年の腰の当たりに羽黒の秘部が向けられた。正直、どう言い繕ってももはや「船渠」が必要とする機能ではない。書類をほじくり出した鎮守府経理担当の大淀が、不明な使い方をされた予算の内訳を知って目下工廠に怒鳴りこんでいるという伏線くらい不要な設備だった。
しかし、羽黒も青年もそのことを何とも思わなかった。いや、何かを思おうという気さえ無かった。滑稽な鷹揚さで自身の槍を掴むと、羽黒に添える。羽黒の腰が浮かび上がった。青年の視界の隅で、羽黒の足が、つま先までピンと伸びていた。亀頭は、既にピンク色の筋の中へと滑り込みつつあった。
「挿れるぞ」ほとんど事後承諾であった。が、当人の表情は真剣そのものである。
「はい」
羽黒の快感に支配されていない部分がはにかんだ。けれども、他の部分とごっちゃになったそれは、普段なら印象に残ったであろう純真さよりも、寧ろ妖艶さを強調するような表情を描き出した。青年が、腰を押しつけた。
「ふぁああああああああっ!?」
バイブと提督の指で解きほぐされていた羽黒の膣は、何の抵抗もなく彼のペニスを受け入れた。勢い良く突き入れられたそれが、秘所の最奥を小突き、羽黒が性感と安心感から鳴いた。ぷしゅ、と愛液が溢れだし、湯船の一部を黄色に染める。
「動かすぞ」
暫くの間、羽黒が歓喜の吐息を漏らすのを見てから、彼がゆっくりと腰を前後に動かし始めた。すぐに、青年の瞳は、肉棒が抜かれるたび体を弛緩させながら物欲しそうにこちらを見て、突きこまれるたび鳴きながら身を縮こまらせる羽黒の像によって制圧された。自然、スピードが上がる。
「あっ、あぁっ、しれい、かん、さん、のがっ! 奥、お、っくぅ!」
ギシギシと、羽黒を拘束するアームが音を立てた。ピストンに合わせて動いているように見え、そのくせ実は不定期な運動な上に微妙に上下左右にも動くそれは、羽黒の肉襞に提督のものを予期しない形で引っ掛けさせ、更なる反応を呼び出している。
「動きづらいな。もう少し力を緩めないと。吸い付きがきつすぎるよ」
「や、ぁっ! わた、そんなに、えっちじゃっ!?」羽黒がイヤイヤと首を左右に振った
「機械に犯されて感じていたのに?」提督がついに建前を放棄した。が、羽黒はそれに気付く様子もなく、ただ羞恥から顔を背けた。
「何処を向いてるんだよ」
演技のように見せかけた青年の怒気が羽黒に向けられた。一瞬、膣が締まる。青年の口角が上がった。手を、先ほどまでよりは乱暴に羽黒の両頬へと当てて、強引に自分の方へと向かせた。
「で、何でそんなに乱れてるんだ?」青年が、腰を大きく動かしながら、聞き取りづらい発音で訊ねた。
「みだ、れて、なんかっ!」羽黒は、ろくに聞かないうちから聞き取れたようだった。
「言おうか」青年が懇願した。
羽黒は、視線を少し泳がせてから、熱い瞳を青年へと向けた。可愛らしい唇が、刹那の間小さく開き、すぐに閉じられ、また開いてから、声帯が震えた。
「ば、バイブでっ、ずっと、ズンズンって! 突かれてたから、し、れいかんさんのっ! 欲しくてっ!」
「それで?」徐々にきつくなる感触をろくに味わいもせず腰を動かし続けながら、青年が続きを促した。
「がまん、してたからっ! しれいかんさんの、熱くてっ! 凄いのぉっ!」
「羽黒」
青年が、乱暴に手を動かした。柔らかな羽黒の頬が、青年の掌に張り付き、ぐにゅぐにゅと形を変えられた。少女の口から熱い吐息が漏れだした。舌足らずな声が続く。
「しれいかんさん」
「どうした?」
「もっと、欲しい、ですっ!」羽黒がにこりと微笑んだ。正直、卑怯だと青年は思った。無自覚にここまで誘惑されては、たまったものでない。
「ふにゃあっ!? いきな、ぁっ!」
瞬時にして、羽黒の表情から余裕の色が消え失せた。ぱん、ぱん、と提督の腰が少女のそこを叩きつける音が、腐っても浴室という性質上音の響きやすい室内の反響した。
「やんっ! だめっ! だめぇっ! あっ、もうイキますっ! イッちゃいますぅっ!」
「ああ、イけ。イッていいぞ」満足気に頷いていた青年の顔が、言い終わる前に曇った。羽黒が首を左右に振っているのが目に入ったからだった。
「やだぁ」震える手を精一杯に動かし、拘束の中辛うじて青年の袖を掴みながら、羽黒が駄々っ子のようにした。膣も、青年を離そうとしていない。「一緒がいいっ! 一緒がいいんですんむっ!?」
ほとんど衝動的に、青年が羽黒の口に吸い付いた。舌をねじ込む。羽黒は驚いたようだったが、青年の舌はすぐに羽黒の舌によって丁重にもてなされた。そのまま腰のスピードを早める。
「ぢゅ、んっ! ちゅ、る、ぢゅう、んっ! んんっ!? んんんっ!! ぷはぁっ!」
青年の唾液を飲み下しながら、羽黒が首を振り続けた。その動きは、これで満足と言わんばかりに青年が離れてからも止まらない。むしろ、スパートが掛かるたびにより大きくなっていく。もちろん、それで雄の動きが止まるわけがない。二人の間に架かった銀の橋が、羽黒の荒い息によって崩れ落ちた。身体が徐々に縮こまり、膣も同じようになった。
「羽黒。しっかりイけよ」
「やぁっ! やだっ! いやぁっ!」
青年は、優しい笑顔を作ろうと無意味な努力だけを重ねながら、羽黒の腰を的確に打ち据えていった。傍から見れば強姦魔のそれのようだったが、嗜虐と被虐に双方が酔っているので、実際問題そう違いはなかった。より正確に言えば、被虐を感じている側が、先に臨界点を越した。
「イくっ! イキますぅっ! ふぁああああああああああああっ!」
刹那、羽黒がガクガクと震えた。嬌声とともに搾り出されていた甘い吐息が一瞬だけ止まり、深く温かいそれに代わった。淫汁がよりいっそう溢れて、浴槽へこぼれ落ち、黄色に染まった。
「っぐす」絶頂の波が収まってからも暫く青年に支えられていた羽黒が鼻をすすり上げた。「やぁって、言ったのに」
「止まらなかった」青年が悪びれずに言った。演技というより、どうしようもなかった事実の伝達であった。
「司令官さんの、けだもの」
羽黒がふいと顔を背けた。青年の愚息が否応なく反応する。羽黒が驚いた顔をするより前に、強い締め付けが応答した。
「あ、あの」
「一緒がいいんだろう?」いつの間にか、羽黒は抱きとめられるというよりかは抱きしめられると表現したほうがいい状態にされていた。
羽黒の視線がちらちらと青年を仰ぎ見た。顔が再び赤くなっていく。時間が経つにつれ、ただでさえも強かった吸い付きが更に強まった。
「……はい」
それに合わせて、自らもおずおずと青年を抱きしめながら、羽黒がつぶやくように、しかしはっきりと答えた。視線は、青年を見据えている。
「また、気持よくしてくださいっ」
少し回復したとはいえ、散々嬲られた身体では、囁くように言う他無かった。言われた側から見れば、これ以上ない殺し文句の完成である。けれども青年は、普段の羽黒ならば絶対に言わないだろう言葉を捉えて、誂って遊ぼうとはしなかった。何せ、完成しきった誘惑だった。
「ふやぁんっ!」
徐ろに突き込むと、羽黒の膣は熱したナイフでバターを切ったかの如く、子宮への道を彼に示した。それでいて、こつんと最奥に亀頭が触れたその瞬間、全体がわざわざと衰えることのない締め付けを提供してくる。我慢していたのも加味すれば、相当な快感だった。思わず、羽黒を強く抱きしめる。
「あ――」
息が触れ合うまで顔が近づき、赤らんだ羽黒が目の前にあった。
「ちゅ、む、んふっ、んっ」
ほとんど同時に唇に吸い付いた。舌を絡まながら腰を打ち付けると、口内が震えた。蠱惑的な悦楽が、それを伝った。
「ぷはぁっ! ん、はぁっ! あっ! しれ、さんっ!」
すぐに快感を追い求める勢いが呼吸に必要な量を超過し、唇が外されると、羽黒が切なそうに見つめてきていた。「あのっ、これ、外っ、てっ!」
「ダメだ」青年は、わずかに残る理性を使って辛くも言い切った。まぁ、絶対に誤った使い方であることは否めないが。「試験なんだから音をあげたら――」
「違う、のっ!」羽黒が青年の胸に顔を埋めた。力の限り抱きついてきたいた。上目に青年を見上げている。潤んだ瞳が、じっと見つめていた。
「機械、じゃなくてっ! 直に、抱きつきたいのっ!」
返事はなかった。する余力がないらしかった。ボタン操作を間違いながら、青年が羽黒の脚部の拘束を解いた。滑りやすくなった柔肌が青年の腰に巻き付いたのと、青年に掛かる重さが倍増したのは、ほぼ同時だった。
「あ、んっ、しれいかん、さんっ」
喜色満面に、羽黒が呼んだ。血液が止まるんじゃないかと思えるくらい、身体が締め付けられる。辛抱たまらなかった。
「ひゅわああああっ!!?」
ずん、と大きく、素早く突き上げると、羽黒が喉首を逸らした。跳び上げる羽黒を懸命に押さえつけながら、二撃、三撃と繰り返す。
「ふか、ああっ! しきゅ、押し付け、ぇえっ!?」
刺激的な快感が全身を震わせるたび、温かい羽黒の肌が青年の身体の上で踊った。甘い吐息が鼻孔を擽る。ただでさえも機械の補助はなくなってしまっていたし、青年は青年で凄まじい快感に襲われていたから、若干ふらついたのは致し方ないことだった。カチ
「……あ?」
「ふぇ?」
つま先に生じた謎の感覚に動きを止める青年に、不思議そうな羽黒の上目遣いが向けられた。刹那の間、己を包む愛しく熱いものの存在を忘れ、その謎の感覚に思いを馳せたようである。もちろん、快感に惚けていたその脳みそは、平素の回転など期待できようはずがない。
「え、何、おし、おしりっ!? や、きゃ、あ、ぁ」
そういえば、ニ穴責め用機構をすぐさま押せるよう、そのあたりにボタンを設けさせていたことを青年が思い出したのと、羽黒の尻穴に団子状の棒が押し付けられたのは、ほぼ同時の事だった。どうやら、そろそろ存在を忘れられつつある機械が、最後の足掻きを見せたいようである。
「あ、あの、だめ、これ、別のところ、です、よ?」
若干顔を青ざめさせながら、上目遣いのまま羽黒がふるふると首を横に振った。先端がアナルに入り込んで居るのか、あっあっと小さく喘ぎながらの抗議だった。
「しれ、かん、さん、やっ、あの、これ、ぬめって、やわくて、だめ、あの、やめて、ねっ?」
一向に反応を見せない青年に、羽黒が必死に呼びかけていた。しかし、安全に配慮した柔軟な素材を、たっぷりのローションを用いた上で使用すると説明を受けていたことを思い出していた提督にとって、それは無視して問題ないことだと理解されたようである。
「やああああああああっ!?」
謳い文句に誇張表現は無かった。羽黒の菊門に充てがわれていた極細アナルビーズは、ものの数秒で全て飲み込まれてしまった。初心者用ということで、太くも長くもないそれだったが、全身が敏感になりすぎている羽黒にとっては何の慰めにもならなかった。
「あ、あー、おひ、おひりぃ、だめっ、これぇっ」
尻穴を深く穿たれた羽黒が、蕩けきった顔を青年に向けた。抗議しているつもりらしいが、その表情は、自身が受け止めている悦楽を青年に伝えるだけである。ここまで嗜虐心を擽る表情をされては、たまったものではない。
「羽黒、動かすぞ」
「へ、うにゃあっ!?」
言い切る前に青年が動き始めた。先ほどまでの深い一撃を、何の前触れもなく再開する。先程よりも締まりの良くなった膣は、けれども青年を迎えるに当たって一切の手抜かりがなかった。ビーズが菊門を擦るたび訪れる、突発的な食付きが良いアクセントである。
「だめだめだめだめぇっ! おしり、だめっ! ひぁあっ!? ふる、おし、震えっ!?」
ダメ押しとばかりにバイブ機能がオンになると、膣越しに振動が伝わってきた。とは言え、至って軽い刺激なのだが、今の羽黒には全身を揺らされているに等しい物がある。
「あふぁっ!? ふやぁっ!? おかひ、おかひくなるっ! おかひくなっちゃうっ!」
あらゆる刺激に身体を震わせながら、羽黒が膣を締めた。青年の動きに容赦は一欠片もなかった。羽黒の外と中から送られてくるありとあらゆる物が快感に変えられていく点では、彼もまた羽黒と同じ状態だった。
「羽黒」青年が羽黒を確かに支えた。
「はひっ」
喘ぎ声のせいなのか、はたまた別の要因なのか、ともかく羽黒が声を弾ませた。「くらさいっ! もっと、おかひくしてくださいっ!」
羽黒の哀願を受け止めたのか、それとも自身の本能がためか、ともかく青年がラストスパートに入った。膣を、そして本人は認めたがらないが、腸を満たす存在が、それに合わせてきつく締め付けられる。絶頂の兆しだった。
「しれ、んむっ、ふっ、ちゅ」
殆ど同時に唇を求め合い、そのまま快感の渦へと巻き込まれた。目の前で上も下も吸い付いてくる健気な少女を相手にしては、他のすべてのことなど思考の埒外に置かれた。当然、アナルビーズに仕込まれた、羽黒の絶頂を検知する無駄なセンサーのことも、である。
「んふぅっ!?」
突然羽黒が目を見開いた。青年も、妙な感触がするのに気付く。瞳を動かして確認すると、新型船渠の最後の悪あがきであった。羽黒のきれいな脇に、ブラシが展開していた。最後まで使いそこねていたくすぐり機能の面目躍如だった。
「ひゃ、ひゃわ、ああっ!?」
今の羽黒には、くすぐったさも性感も一緒くただった。青年を包むものが激しく縮む。突発的な刺激の多さに離れてしまってた羽黒の唇から、惚けきった息が飛び出て、青年の首筋をくすぐった。それが合図であった。
「羽黒、出すぞっ!」
羽黒の柔らかな肢体を締め付けると、あ、と羽黒が喜色ばんだ声をあげた。うつろな目が、確かに青年を見つめていた。
「くらはいっ! しれいかんさんの、いっぱい、いぃーっぱい、くださいっ!」
逡巡も思考も、青年に残るはずがなかった。
「あ、ああっ! ああああああああああっ!!」
嬌声とも歓声ともつかない叫び声が青年の耳に性感とは別の心地よさを伝えると同時に、びくん、と肉棒が更に締め付けられた。出された衝撃で、羽黒も堰が切れたらしい。尿道に残ったものまで全てを搾り取られる感覚がした。
「あ、あぁ、おしりっ、抜けて、るぅ」
羽黒が脱力したままボソリと呟いたのと、新たな水音がしたのは同時だった。股間に熱いものがかかった。どうやら、役目を終えたビーズが抜かれた衝撃で、最後の最後に本当に漏らしてしまったらしい。
「あ、だめ、止まって、くださいぃ」
「いいよ、別に」青年は快楽によるものか羞恥によるものかわからない涙を浮かべる羽黒の頭をなでた。「気持ちいいんだろう?」
「はい」顔を赤らめつつも、羽黒は言いよどむこと無く肯定した。そのまま浴槽を黄色くしてから、ぶるっと一震えすると提督の手に頭を押し付けて鳴き声をあげた。「ずっと、こうやって一緒がいいです」
「それは出来ないな」
青年が微笑を浮かべながら言うと、羽黒が今にも泣き出しそうな顔を作った。これで素なんだから敵わないな、と彼は思った。
「ほら」
「あっ」
提督がボタンを操作すると、羽黒がついに機械から解放された。そのまま抱っこし、自分へと身を委ねてくる幸福感を堪能しながら、いつの間にやら出現していたベッドのようなところへと連れて行く。ゆっくりと寝かせてから、自分も横になる。
「こっちの方が楽だろう?」
「……はい」
ころん、と羽黒が提督の側を向いた。身体を密着させてくる。ほんわかと身体が暖かくなり、これはいらないな、と青年はついに掛け布団を出現させるボタンを押さないまま、コンソールを脇へとやった。そのまま、一足先に目を瞑ってしまった羽黒を追うように、自らも目を閉じ――
「提督? お休みのところ、ちょっとよろしいでしょうか? よろしいですよね? 来なさい」
*** *** ***
「さて、何か申し開きはありますか? 御三方」
大昔、イメクラごっこ用と意気込んで青年が買い揃えたコンクリート打ちっぱなし風の壁紙及び絨毯と、鉄格子の窓とが装備された提督執務室に、コンクリート等よりよほど冷たい音が反響した。笑顔いっぱいの大淀の声である。2つの寒さによる協奏曲は、少なくとも正座する提督、明石、夕張の三名をガタガタと震わせる程度には酷寒だった。
「な、何の話かな~大淀。わた、私、デイリーの装備改修任務こなさないとなんだけどな~」
同じ笑顔な筈なのに対照的な明石が、滝のような冷や汗とともに言った。刹那、ひっと悲鳴が上がる。大淀の笑顔がより素晴らしい物に変わったのだった。
「改修。改修ですか。それはまた、御精が出ますね」ずい、と大淀が明石に顔を近づけた。明石の輪郭がぶれ始めた。「ですが、その前に、言うことが、ありますよね?」
「あ、あのっ! 大淀ちゃん!」
意を決したような声がかかったのは、なんか妖艶さすら感じるような仕草で大淀が明石の顎に手を伸ばした瞬間だった。バスタオル羽織っただけで居るから寒いのだろうということに大淀の中ではなっている羽黒であった。
「ほ、ほら、あの特殊風呂……じゃなかった、と、特別?新型?船渠だって、全く無意味なわけじゃ、無かったわけですし、その」
勢いと、何やら瞳を光らせて自分を見つめる三馬鹿に対する同情からまくし立てるように口を開いた羽黒だったが、すぐに尻すぼみになってしまった。いよいよ室温は氷点下へ近づきつつあったのだった。
「ええ、素晴らしい成果ですよ、あの船渠は」大淀が朗らかに言った。「特に、バケツを用いなくても入渠時間が圧縮可能になるところなんか本当に素晴らしいと思います」
「そ、そうだよー大淀」夕張が身も心も震えながら大淀の言葉に乗っかった。「わ、我が工廠自慢の最新作で」
「でも、値段は?」
「えっ」
「使用資源量は? お高いんでしょう?」大淀が手帳を開いた。
「あ、いやそれは、ちょっと今は具体的な数字があれしてあれだからそれで」
「おやぁ、こんなところに何か謎の数字がありますね。何でも燃料1000、弾薬1000、鋼材50000、ボーキサイト10000。バケツが200個に、開発資材が1000、ネジが50個、バーナーが1000個。及び、ドック拡張枠一つに加え、家具職人さんが10単位時間分働いた分の賃金とのことです。で、新型船渠とやらの開発に、どれだけ資源を消費したんでしたっけ?」
「あの、その、本当に申し訳ありませんでした」
青年が土下座した。見事なものだった。他ニ名も直ちに追随する。圧倒的保身力である。
「良いんですよ、謝罪なんて」しかし、大淀に効果はないらしい。あわあわと慌てる羽黒を尻目に、手帳と鉛筆を執務机に放り投げた。その鉛筆に、なぜだか亀裂が走っており、丁度その中央部にセロハンテープらしきものが巻かれていることは、きっと気付かないほうが幸福な案件である。
「ただ、資源の浪費で狂った訓練スケジュールを調整する必要は、もうどうしようもなく、一切の変更が効かないレベルで発生しちゃうんですけれども」
「失礼します。妙高、香取、神通、初風、以上四名入室許可願います」
いいタイミングで、こちらも朗らかな声が聞こえた。大淀以外の四名が驚いたようにドアを見つめた。妙高の声だった。
「あ、いや、今は」
「許可します。どうぞ」
「お、大淀?」
「何か?」
「い、いいえ」
越権行為だったが、提督が押し黙ったんだから合法である。扉が気持ち強めに開かれた。ひっ、と三人から悲鳴が上がる。大淀に似たり寄ったりな笑顔を浮かべる妙高と、苦笑いする神通と香取、呆れ顔の初風の四人がそこに居た。
「あの、あの、あの」
「お三方には、これから緊急の訓練プログラムをこなしてもらいます」妙高が朗らかに言った。初風が思わず震えている。「明石と夕張にはこれから練習艦隊に入ってもらって、砲雷撃戦・対空戦闘・対潜水艦戦闘・夜戦のセットを合計10回ほど。提督は、その指揮を休憩なしで執りつつ、その他の全般的な状況にも対処する訓練です」
今度は声も出なかった。要するに、朝から晩まで訓練を10日連続である。提督に至っては、恐らく睡眠時間すら存在しないはずである。休憩なしで、なのだから。
「あ、あはははは妙高冗談はよそう、なっ、なっ?」
「これが冗談を言っている顔に見えますか?」繰り返すがすっごい笑顔である。
「お、おねえちゃん?」羽黒が引きつった笑みを浮かべた。「べ、別にそこまでする必要は無いよ? それにほら、お姉ちゃんたち教官役だって、そんなにぶっ続けじゃすぐに赤疲労しちゃうよ?」
「よ、よく言った羽黒!」
おお、と三人が歓声を上げる。そりゃそうだ。幾ら懲罰的な訓練と言っても、そんなにぶっ続けでは教官だって疲弊してしまう。そうなれば、平常の訓練業務に支障をきたしてしまう。これでは、何のための懲罰やら分からないではないか! だからこそ、こんな無茶な訓練は止め――
「大淀大淀大淀! 今日から10日連続夜戦訓練ってホント!?」
勝利の道筋が見えてきていたような気がしていた三人が固まった。夜戦バカ、もとい、夜戦忍者こと川内の登場であった。
「ええ、思う存分やってください」目を爛々と輝かせる川内に、大淀が若干引きつつもそう言った。とは言え、笑みは崩れない。資源を食う夜戦演習の報告書を眺めて物憂げにため息をつく普段の姿と違うのだけは確かだった。
「やったぁああ! 最近、謎の資源節約令が出てたからろくに演習できてなかったんだー!」万歳しながら川内が言った。要するに、提督たちの自業自得である。「それじゃ私、今から寝てくるね! 神通、夜になったらちゃんと交代ね! 私一人でやるから、きちんと休んでよ!?」
「はいはい、わかってますよ姉さん」
「あ、おい、川内、ちょっと止まれ!」
対照的にため息を吐いた神通をよそに、川内は風の様に去っていった。伸ばした提督の手も声も、全く届かなかったようである。代わりに、冷たい感触に握りしめられる。妙高だった。
「では提督、明石、夕張。行きましょうか」
「ま、待ってくれ妙高。後生、後生だからぁっ!」
鼻歌交じりの妙高に先導された、これから10日ほど旗艦には絶対に逆らわないことに決めたらしい香取・神通・初風の三人に、三馬鹿は情けない格好で引きずられていった。バタム、と扉が閉まるまで、たっぷり悲鳴と懇願の叫び声を上げてから、完全防音設計の扉はピシャリとそれらをシャットアウトした。後に残されたのは、こちらはこちらで仕事が山積みの大淀と、所在なさげに彼女を見つめる羽黒のみである。
「あ、羽黒さん。今日はもうあがっちゃって大丈夫ですよ?」
完全にグロ画像と化した資源量の報告書を憂鬱そうに眺めながら大淀が言った。「というか、今日は本当に災難でした。あれはこちらが責任持って処分しますから、どうかご心配なさらず」
「は、はぁ」
そんな気の抜けた応答をしてから、羽黒が止まった。一向に動く気配のない本日の被害者を、大淀が訝しげに見つめた。
「羽黒さん?」
「え、ひゃ、なんでもない、何でもないですからっ! そ、それじゃあお言葉に甘えて上がっちゃいます!」
「? はい、お疲れ様でした。あ、普通の入渠ドック、優先使用権回してますから、良かったらどうぞー」
「あ、ありがとうございます」
言い切ってから、羽黒は努めて平静を装いつつドアを閉めた。はぁ、と深くため息が出る。まさか、「ちょっと勿体無い……」なんて思ってしまったとは、口が裂けても言えない恥ずかしい話である。
「うぅ、司令官さんのせいだ」
羽黒は口を尖らせてそんな事を言ったが、すぐに苦笑する。いずれにせよ、自分がアブノーマルの扉を敲いていることを認めているのに気づいたのだった。
「やっぱり、もう一度位なら良いかな」
あはは、と羽黒は顔を赤らめ力なく笑い、いそいそと入渠ドックの方へと歩き出した。なんだかんだで青年には逆らえないなぁ、と思っている。尤も、だからって例の新型船渠の助命嘆願を行う気も起きなかった。妙高姉さんにはもっと逆らえないな。漏れ伝わってくる青年の悲鳴を聞くに、どうしてもそう思ってしまう羽黒であった。