※この作品はR-18です。

ねちょ話これくしょん ~艦これ短編集~   作:うみねこ06

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タイトル通りにいちゃこらする、そんなお話


羽黒と同棲3日目のお話

 ただいま、と口に出さずに扉を開ける。ふと、口に出してそう言ったのは果たしていつが最後だろうか、と提督がぼうっと考えた。幼少期は間違いなく口に出していたはずだ。家族がいたのだから。それが、一人暮らしになり、何も言わなくなって久しい。つい二三日前まではそんな風な光景が当たり前のはずであった。

 

 

 「た、ただいま帰りましたっ」

 

 

 提督の思考が、背後からたどたどしく聞こえてきた帰宅の挨拶でかき消された。彼の秘書艦、羽黒の声だ。頬が赤らんでいるのがいじらしい。

 

 

 「昨日も言ったが」にやけそうになるのを抑えながら提督が咳払いした。「ただいま、だけでいいんだぞ」

 

 「う」羽黒が固まる。そのまま、顔を俯かせ、目をそらしながら続けた。「で、ですけど、まだ、慣れないと言いますか」

 

 

 そりゃ、『お邪魔します』からたった数日で『ただいま』とすらすら出てくるようにするのは厳しいか、と提督がほほ笑んだ。それを、彼の良い人は馬鹿にされたと感じたらしい。赤い頬が膨らむ。

 

 

 「ほら、突っ立ってないでさっさと上がろう。やっと荷物の整理ができそうなんだし、時間は大切にしないと。それに、重いだろう? それ」

 

 

 提督が靴を丁寧にそろえながら笑った。羽黒はなおもほっぺたを膨らませていたが、不意にかちゃんと響いた陶器が触れ合う音に意地を張るのを止めたらしい。うぅ、と敗北した恥ずかしさを抑えながら提督に続いて玄関へと上がった。

 

 

 「結局、持ってきたのは食器類と化粧品の類だけか?」

 

 「はい。最低限のお洋服とかはもう運び込みましたし、それとお布団があれば、羽黒は別に」

 

 「……ぬいぐるみやら可愛いクッションやら、他にもいろいろとあった気がするが」

 

 

 ダイニングに併設されたリビングルーム、そのソファの裏のハンガーへと軍服をかけながら提督が尋ねた。脳裏に、昔羽黒の部屋に入ったときに見つけた小物の類が浮かぶ。溢れかえっていたわけではなかったが、人並みにはあったはずだった。フローリングの茶色一辺倒のこの部屋には良いアクセントになるはずだ。

 

 

 「それは、その、姉さんたちの部屋に一旦置いておこうかと……」

 

 

 食器類の入った袋を一旦机に置きながら、羽黒が歯切れ悪そうに答えた。提督がはぁ、と息をついた。

 

 

 「羽黒。遠慮はするな、って言ったはずだけど」提督がもう一つのハンガーをつかみ、ん、と羽黒に手を伸ばしながら言った。

 

 「え、遠慮なんか。ただ、その、やっぱり迷惑かな、と」羽黒が自分の制服、そのジャケットのボタンを留めたり外したりしながら口をもごもご動かした。

 

 「それを遠慮、っていうんだよ。ほら」

 

 

 羽黒がボタンを外し終わったタイミングで、提督が羽黒のジャケットをつかんだ。なされるがままの羽黒を良いことに脱がしてやり、ハンガーにかける。甘い汗の香りに気がひかれそうになるのをこらえつつ、埃を落としながら自分の軍服の隣にかけた。

 

 

 「ですけど」羽黒があわあわと続けた。「その、司令官さんのお部屋には似合わないんじゃないかと」

 

 「まぁな」提督はそこは否定しなかった。ただ、この時ばかりは羽黒を真剣な顔でみつめる。「けどさ。もう、羽黒の部屋でもあるんだからな?」

 

 

 彼の秘書艦が顔を真っ赤にした。初々しいやつめ、と提督が羽黒の頭を撫でた。提督と羽黒が同棲を始めて本日がちょうど、三日目の夜となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羽黒と同棲3日目のお話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府重巡寮が居住不能になって3日が経った。極秘裏に鎮守府に機動変形合体機能を仕込もうとした明石と夕張の失敗が原因である。

 

 

 「うまい事部屋を割り振れたからいいものの」提督が羽黒の持ってきた袋を漁りながらため息をついた。「まさか寮一つ駄目にされるとはな」

 

 「震度4もあれば倒壊する、ですからね」羽黒が食器棚の扉を開けながら、同じくため息を一つ。「荷物取り出すのも命がけでしたし……」

 

 

 要するに、変形合体機構を付けたものの、当然そんな用途想定もしていなかった重巡寮が耐えられるはずもなく、著しい強度低下を招いたというわけである。本人たちに言わせればあくまで施工ミスで設計的には問題なしだそうだが、問答無用で不眠不休の復旧作業にぶち込まれたのは言うまでもない。

 

 提督が肩をこきこきと鳴らしながら、羽黒に食器を渡した。受け取った羽黒が食器棚へとそれを収めていく。茶わん類などがことごとく大きく、提督の物の下へと置いていかなければならないのはご愛敬だ。

 

 

 「ほい、次は大皿、っと」提督が単純作業を繰り返していた手を休めた。「棚、結構いっぱいになってきたな」

 

 「確かに、思ったよりは」羽黒が大皿を置くスペースを探りながら頷いた。「……持ってきすぎですか?」

 

 「さっきっから遠慮するなって言ってるだろう? ほかにもスペースはあるんだし」一旦そこで言葉を切り、ただ、と一呼吸入れてから提督が続けた。「明らかに俺一人じゃ過剰だった棚が埋まると、壮観だなぁと」

 

 

 脳裏には、つい先ほどまでの食器棚がある。一人暮らし、挙句、大抵の食事は間宮か居酒屋鳳翔で事足りてしまうから、食器など増えようわけがない。つまりスカスカだったわけだ。それに寂しさを感じたことなどみじんもなかったが、いざこう全力運転しているさまを見ると、以前が寂しすぎたと言おうか、今がにぎやかで幸せと言おうか。

 

 

 「司令官さん?」羽黒が恐る恐ると言ったように提督を呼んだ。「羽黒、食器棚に変な置き方でもしちゃってますか?」

 

 

 はっとして我に返れば、食器棚のガラス部分、映しているのは自身のにやけ顔であった。何でもない何でもない、と提督が慌てて袋に視線を落とす。我ながら浮かれすぎだ、と吐く息は熱い。

 

 

 「しかし、本当に良かったのか?」照れ隠しに、済んだ話を蒸し返して時間稼ぎするつもりらしい。提督がところどころ調子が外れた声を出した。「確かに俺の部屋を含めないと計算が合わなくなるとは言え、暫く二人暮らしで」

 

 「そ、それは、その」羽黒が頬を赤らませた。「いくら当事者とはいえ、明石さんか夕張ちゃんがテント暮らしになるのはちょっと酷いですし」

 

 「それで我慢して俺の部屋か」

 

 「我慢なんて!」声を張り上げてから、羽黒が口をつぐんだ。目の前で赤くなりつつにやけている提督を発見したからである。やっと揶揄われたことに気づいたらしい。

 

 「……司令官さんの意地悪」羽黒が膨れた。

 

 「口に出してもらえると嬉しいからね」提督が次の食器を渡しながら嘯いた。

 

 

 つまり、全く意外性も何もないが、一応はそういう目的での同居であった。事案発生の当日、提督と作戦参謀大淀、秘書艦羽黒、そして巻き込まれた初期艦吹雪、計四人の執務室事務衆が寝ぼけ眼で必死に臨時部屋割りを考えたところ、どうしても一部屋足りなくなった結果がこれであった。発案吹雪、協賛は大淀である。

 

 趣旨を理解した瞬間茹で上がった羽黒に代わり、いやいや男女相部屋なんて、と常識論を行使した提督であったが多勢に無勢であった。お二人が付き合ってるの周知ですしに始まり、別に同棲して不味い事実は何もないことを列挙されてはどうしようもない。大淀と吹雪が無茶振りしてでも寝たいように、提督だって睡魔に襲われては他にアイデアなど出ようはずもない。しまいには、どこからか引っ張り出された妙高にさえ、眠そうな声で「何も問題ないと思いますよ」とお墨付けを与えられてしまっては処置なしであった。

 

 

 「どれ、これで終わりかな」

 

 

 提督が袋の中から箸やらスプーンやらがまとめられたものを取り出し、袋を逆さにして揺さぶった。落ちてくるものが何もないのを確認してから、羽黒に箸類を渡す。

 

 

 「何とか食器棚に納まりましたね」羽黒が、パズルのように食器が組み合わされた棚を見てほぅ、と息をついた。「やっぱり、ちょっとバランスが悪いですけど」

 

 「いっそ、今度休みを調整して新しいのを買いに行くか」提督が頭を掻きながら言った。「思い入れないやつをおんなじ種類でそろえてやれば、少しは整理しやすくなるだろう?」

 

 「そうですね」羽黒が名案だという風に頷いた。提督に向けて微笑みを向ける。「それなら同棲が長引いても問題――」

 

 

 羽黒がほほ笑んだまま固まった。提督がため息を一つ。みるみる真っ赤になっていく自爆した秘書艦を見れば、そりゃため息の一つや二つは出てくる。

 

 

 「ま、まぁ、先のことは置いておこう!」うん、と提督が手をパチンと叩いた。びく、と羽黒が飛び跳ねた。「羽黒、それさっさと仕舞ってしまおう。お茶かコーヒーか、どっちが良い?」

 

 「こ、コーヒーでっ」羽黒が妙に高い声で言った。

 

 

 提督がカップ二つを持ってそそくさと羽黒を離れ、電気ケトルへと向かった。ふたを開け、水満たしながら、どうにも意識するとだめだな、と自嘲する。結局、今までだって四六時中執務室で顔を合わせているわけだし、世話したり世話されたりするのは慣れているはずなんだが、同棲の二文字には何か目に見えない力があるらしい。具体的には、ケトルのお湯が沸くまでぼけぇと虚空を眺めてしまう程度の力が。

 

 取り繕う様にインスタントをカップに一掬いし――羽黒に濃淡の好みを聞かなくなって暫くになる――お湯を注ぐ。黒々とした液体が一瞬で誕生した。時折間宮で開催される、緑茶紅茶コーヒーどれが一番おいしいでしょう選手権で鹿島あたりが淹れてくれるものに比べれば劣ること著しい香りなのだが、このくらいの苦々しさが今はなぜかとても恋しかった。

 

 

 「羽黒―。コーヒーできた……何かあったか?」

 

 

 両手にカップを持ち、食器棚に向け歩き出そうとした提督が急停止した。箸を仕舞い、そろそろテーブルについていてもおかしくないはずの羽黒が、食器棚の前で立ち尽くし、引き出しの中を見ているのを発見したからだった。

 

 

 「うぇっ!? い、いえ、なんでも」

 

 

 羽黒が提督に振り向いて、大慌てで顔の前で手をふりふり、何ともないというジェスチャーをする。その様子があんまりにも怪しくて、提督がコーヒーカップを机に置くと、つかつかと羽黒に歩み寄った。

 

 

 「……何ともないようだが」

 

 

 提督が首を傾げた。引き出しの中は、箸やスプーンを収納するスペースである。以前からそうであったし、羽黒が自分の物を入れ終わった今もそれは変わらないし、どこもおかしくなんてない。

 

 

 「そ、そうですっ」羽黒がぶんぶんと頷いた。「何にもおかしいところなんてないですっ! はいっ!」

 

 「羽黒」

 

 「な、なんでしょうか?」

 

 「反応があんまりにも怪しすぎる。それで話題そらせる奴は絶無だと思うぞ」

 

 

 はぐっ、と羽黒が固まった。顔が徐々に赤らんでいくが、引き出しを見て一体なぜそうなるのか、とんと検討がつかず不思議を通り越して不気味につま先を浸している感じさえあった。

 

 

 「……えぇと、ですね」

 

 「おう」

 

 「笑いません?」

 

 「笑わない笑わない」

 

 「あの、本当に大したことじゃないんですけど」

 

 

 羽黒が提督から顔をそらしながら続けた。顔は、先ほどよりも赤みを増している。

 

 

 「その、司令官さんの箸とおんなじスペースに、羽黒のを入れたんです」

 

 「うん」

 

 「そうしたら、あの、先っぽが司令官さんのと当たりまして」

 

 「うん?」

 

 「その、ですね。これ、司令官さんと、か、間接キスなのかな、とか思って、ぼうっとしちゃいまして、あの……」

 

 

 どんどんと言葉尻が空気中に散っていき、最後には羽黒が真っ赤になって俯いた。提督がぼりぼりと頭を掻いた。先ほど苦みを摂取したはずなのに、口の中が甘ったるかったし、何より不快ではないことが提督の口元を引くつかせた。見つめあうことすらせず、時間の感覚がなくなるまで立ち尽くした二人を現実に連れ戻すことができたのは、先ほど点けておいた風呂の追い炊き機能のアナウンス音のみである。

 

 

 「お。お風呂!」羽黒がびくりとしてから大きな声を出した。「お風呂先にいただいてきます!」

 

 「お、おう」同じく寿命を少し減らしてから、提督が過剰なまでに頷いて見せた。「あ、羽黒、コーヒーはどうする?」

 

 「頂きますっ!」

 

 

 羽黒がカップを両手でつかむと、こくこくと一気に飲み干した。提督が自身のカップに口を漬ける。なるほど、火傷など心配せずに嚥下できる温度である。であれば、彼の同棲相手は作戦行動中の重巡洋艦のような速さで風呂場へすっ飛んで行ってしまっていた。

 

 

 「あー」

 

 

 提督が椅子に座り込んだ。木製のそれが、みしという音を立てて彼を迎え入れた。コーヒーをごくごくと飲みながら頭を抱える。まずは顔から気持ち悪いにやけ顔を消し去らねば気が済まなかったのだ。

 

 コーヒーカップが空になり、お代わりを今度は慎重に飲み下しながら、提督がようやく落ち着いたのか背もたれに寄りかかった。遠くで聞こえる、シャワーの水音が気分を覚ませてくれる。

 

 まさか、自分がここまでのぼせ上っているとは考えもしていなかったようである。まぁ、いとしい人と一緒なのだから嫌な気分にだけはなるまいと踏んでいたものの、現実はそれを遥かに超越してしまっていた。執務室の延長線上、などとのんきに構えてしまっていた自身が今となっては浅はかというか。

 

 カップをカチャカチャと弄りながら、今まで覚えなどない所帯じみた幸せというやつを受け流す。この場に羽黒か鏡が居なくてよかった、というのはうそ偽らざる提督の本音である。

 

 そんな、白い目で見られそうな挙動を取りやめたのは、いったい何分経った後のことやら。不意に目に入った羽黒のカップを見て、洗わなきゃなぁ、と提督が立ち上がった。そういえば、いつの間にかシャワーの音が消えていた。

 

 

 「あ、あの! 司令官さんっ!」

 

 

 羽黒が自分を呼ぶ声に気づいたのは、カップをシンク内の洗い桶に羽黒が言うところの『うるかす』ために突っ込んだ時であった。なにやら先ほどまでとは別の方向で切羽詰まった声であった。何事かあったのは確実である。慌ててキッチンを出て、脱衣所へと向かい――

 

 

 「羽黒」

 

 「はいぃ」

 

 「何してんの」

 

 

 なんだなんだ、と急行した司令官が廊下で見たものはと言えば、器用に開き戸から頭だけ出した羽黒の姿であった。肌が水を弾き、しとどに濡れた黒髪からは、水滴がぽたりぽたりと滴っている。

 

 

 「その、バスタオルが……」

 

 「ん、タオルならそこに――あっ」

 

 

 そこまで言って、やっと提督も合点がいった。そういえば、昨日洗ったバスタオル、寝室で部屋干ししたままだと。なお、替えも寝室の収納スペースと化したベッドの下にある。昨日とおとといは、そんな収納スペースの分散を口を酸っぱく提督が主張していたからこんなことにはならなかったが、中途半端に慣れてきたことと、大慌てで風呂場に駆け込んだことが原因の凡ミスであった。

 

 

 「取ってきて頂けますか?」

 

 

 申し訳なさそうに言う羽黒が、言い終わったすぐにくしゅんとくしゃみをした。そら、まだ冬なんだから、濡れたままでは湯冷めされてしまう。

 

 

 「す、すまん! 今すぐとってくる!」

 

 「お、お願いします……」

 

 

 羽黒の言葉が終わる前に、どたどたと提督が寝室に駆けていった。と言ってもそう距離があるわけでもない。すぐに転がり込むように寝室の入り口に突入する。記憶通り、乾かされていた菫色のバスタオルが目に入る。妙高型の色だからと、羽黒が愛用している色だ。とはいえ、今の提督にとって、菫色とは目標識別のための可視光線に過ぎない。飛びつくように近づくと、大慌てで洗濯ばさみを外し、来た道を引き返えしはじめた。

 

 

 「持ってきたぞ!」

 

 「あ、ありがとうございます……」

 

 

 廊下に戻れば、扉から出ていた頭は引っ込み、扉の向こうから恐縮そうな感謝の声が飛んでくるのみであった。どうやら、寒さに耐えかねて少しでも暖かい脱衣所に籠ったようである。急いでよかった、と提督がため息を一つ。そして、そのまま。

 

 

 「待たせてすまんかった。ほら。バスタオ――あ」

 

 「……あぅ」

 

 

 いつもの調子で扉を思い切り開き、笑顔のまま固まっている全裸の羽黒を確認した。白っぽい肌が、湯あたりしたのかほのかに赤く染まっている。おまけに、当たり前だが、大切なところ(バイタルパート)が一切隠れていない。肌寒かったのか胴に巻かれた二本の腕、その更に上の二つのふくらみその先端は、中くらいに尖ってしまっていた。ぴちゃん、と羽黒から水滴が滴り、提督がようやく我に返った。

 

 

 「す、すまん」

 

 

 努めて焦りを見せないように扉を閉める。一緒にバスタオルを渡していれば、ということにすら気づいていない様であった。一瞬見惚れてしまったことに心底動揺していた。

 

 

 「い、いえ、別に気にしてないです……その、何度も見られてますから」

 

 

 言われてしまえばその通りで、裸を見るどころか、何度もまぐわっているのだから、恥じらいはともかく今更済まないも済むもないはずであった。実際、普段であれば、羽黒の裸体を見たって、少なくとも混乱することだけはあり得ないはずである。やはり、提督が舞い上がっているのは確実であった。先ほどからペースが崩されっぱなしだ。

 

 

 「あー」何とか気を取り直そうと提督が一息入れてから口を開いた。残念ながら、効果はなかったようである。「その、だな」

 

 「司令官さん?」

 

 「バスタオルだけここに置いておくから、あとは自分で取っておくれ……」

 

 

 つまり、提督なりにあれこれ考えた結論であった。いまさら改めて裸を見るのは気後れするし、かといってバスタオルは必要だ。というところで思いついた妙案である。

 

 

 「それじゃ、俺はテレビでも見て待ってるから。それじゃ置いとくからな。それじゃあ」

 

 「あ、あの、司令官さん、別にそこまで――」

 

 

 後ろ髪引く羽黒の声を文字通り振り切り、提督が茶の間へと大股で撤収した。がちゃん、と廊下に繋がる扉を閉める。はぁー、と大きく息をついたのは、何も気疲れのせいだけではなかった。代わりに新鮮で清涼な空気を取り込まないと、いつまでも羽黒の裸が頭から離れそうになかった。

 

 宣言通りテレビをつけて、音量を上げる。いつも見ているニュースチャンネルではなく、今や減衰の一途をたどるバラエティ番組があるチャンネルに替えた。箸にも棒にもかからないような話題で無理やり笑いを取ろうとしている番組がやっている。これ幸いと音量を上げ、頭を冷やしにかかった。お陰様で、先ほど閉めた扉があくまで、提督は羽黒がこちらに向かっていることに一切気づいていなかった。

 

 

 「あれ、早いな」

 

 

 扉がぎぃと開く音がして、提督が気づかれぬように深呼吸した。口に出した言葉も、すべて遅滞戦術のための方便に過ぎなかった。平静は取り戻しかけていたものの、まだまだ油断するべきではなかったのだ。だから、ことさらゆっくりと、微笑みを顔に張り付かせながら提督はゆっくりと振り向き――硬直した。

 

 

 「……羽黒さんや」

 

 「はい」

 

 「なんで、置いといたバスタオルをそのまま持って茶の間まで?」

 

 

 羽黒が、しとどに濡れた躰はそのままに茶の間まで来ていた。火照った体はまだ湯気を発し朱に染まり、頬はその倍するほどに赤かった。バスタオルを前に持っているから、先ほどに比べれば最低限の場所は隠せていたが、程度問題には他ならない。

 

 

 「その」羽黒が俯きながら言った。けれども、提督は羽黒と付き合いが長かった。その顔が、羽黒には珍しく悪戯っぽく微笑んでいるのに気づかない彼ではない。「さっき見られちゃいましたし、お詫びに司令官さんに拭いてもらうのもありかなぁ、って」

 

 

 絶句した提督が羽黒を見つめた。口を二三度あけしめしてから、やっと声帯の震わし方を思い出した様子である。

 

 

 「恥ずかしがり屋にしては」提督が、ため息と一緒に声を出した。「随分と大胆だな」

 

 「恥ずかしいですよ、とっても」

 

 

 羽黒がほほ笑みは変えずに応じた。減らず口、と言いたいところだが、真っ赤な頬を見てしまうと嘘には思えない。それに、提督は羽黒との付き合いが長かった。

 

 

 「でも」羽黒がバスタオルに皴を作りながら続けた。「司令官さんが見てくれるんなら、嬉しいんです」

 

 

 その言葉が引き金だった。提督が無造作に立ち上がると羽黒に近づき、バスタオルと奪う様にして取った。羽黒の抵抗は一切なく、双丘が見下ろした提督を迎える。不意に、羽黒の背後に水滴が滴ったのが見えた

 

 

 「行儀がなってないな」提督が一瞬にして牙を覗かせ始めた本能の隙間を縫って口を開いた。「ひとんちで」

 

 「はい」羽黒がくすっと笑った。「でも、私の家でもありますから」

 

 「こいつめ」

 

 

 提督が羽黒の頭にバスタオルを置き、くしゃくしゃと拭いた。きゃあ、と嬌声があがる。艶やかな髪から水分を吸い取り、タオルが徐々に温く湿っていった。

 

 

 「このくらいか?」

 

 「はい――そんな不安そうに訊かなくても大丈夫ですよ?」

 

 「男女問わず、髪の扱いなんかしたことないからな」

 

 「……皆さんに会う前に寝ぐせ指摘するの大変なんですから、せめてご自分の髪には慣れてくださーい」

 

 

 む、と提督の頬が膨らんだが、言葉が出てこない。羽黒がふふと笑った。こういう時、癪に障った提督が何をするか、全く忘れているらしかった。

 

 

 「あっ」

 

 「こら、動くな」提督がいやに冷静な声でそっとささやいた。「耳を拭くんだから」

 

 

 羽黒が熱を帯びた瞳でこくこくと頷くのを見て、提督が手の動きを再開した。さっと耳の裏を水滴をふき取り、人差し指にタオルを纏わせて、外耳のあたりを軽く拭く。悩まし気な息の音が提督の耳朶を打ち、悩まし気な息そのものが提督に枝垂れかかってきた。

 

 

 「司令官さん」

 

 

 顎から口のあたりに移ったところで、熱っぽい声が聞こえてきた。提督としても望むところである。くい、と顔を上向かせてやれば、真っ赤な頬が迫ってきていた。むろん、拒否する理由はどこにもない。

 

 

 「ん」

 

 「ちゅ、ん」

 

 

 唇を合わせるだけの、ほとんどまま事に近い接吻だった。舌をねじ込み、口腔を吸い付くし、歯列を舐め、と口での交合いはひとしきりし合ってきたはずの二人には、本来不足といっても良いぐらいの軽いキスである。だが、どういうわけか、そのまま事のようなそれが、たまらなく愛おしかった。本当に舞い上がるにもほどがあるな、と脳の片隅に追い込まれている冷静な部分が失笑した。

 

 

 「ん、ふぅ!」

 

 

 羽黒が鼻息を荒くし、非難がましく提督を見つめた。首筋を拭いていたタオルを動かし、背筋をなぞったからである。背中を拭いているだけだ、という言い訳を籠めて、きょとんと小首をかしげて見せる。頬が少し膨らんだ。

 

 

 「ん、ふぅ、ちゅ、くすぐ、あっ、や」

 

 

 そのまま腰まで丁寧に背中を拭いていく。いつしか頬のふくらみが消えて、くすぐったさに身悶えする瞳だけが提督の視線を一身に集めていた。シャンプーと、羽黒の吐息と、それからもちろん羽黒そのものの香りがごく至近距離から提督を満たしていく。正直、これ以上堪えられる気がまったくしない。そして、それは羽黒もまた同じだったようで。

 

 

 「司令官さん」

 

 

 唾液に湿った薄桃色の唇が、蠱惑的に動きながら目の前の牡を呼んだ。纏わりつくような熱気が耳朶を打つ。二人には距離が生まれたはずなのに、提督にはそれが全く感じ取れない。

 

 

 「前、拭いてもらわないと、その、くっついたら、司令官さんが濡れちゃいます」

 

 

 そう言ってから、恥ずかし気な笑みが提督の視界に一杯になった。そんな笑みをされてしまうと、普段の捻くれた根性など、一瞬でまっすぐに調整されてしまう。

 

 

 「そうだな」

 

 

 いじわるなど言い出せず、四文字しか口に出せなかったのがそのよい証拠だ。それを見透かしたのか、羽黒がくすと笑う。提督にできる反撃はと言えば、せいぜい、羽黒が言ったようにしてやることだけだ。

 

 

 「ぁう」

 

 

 腰からタオルを前に回し、羽黒の腹をまさぐる。筋肉質だが柔らかいそこは提督のお気に入りで、時々頬をこすりつけて遊んでいるから、労う様に入念に。もちろん、臍の周りも忘れずに。

 

 

 「ん、ふ、ぁ」

 

 「羽黒、腕上げて」

 

 「……ん」

 

 

 そのままわき腹を拭きながら、腋に手を入れる。二の腕から腋にかけても提督の好みだった。中破してきたとき、それなりに目のやり場に困ったことが何度もある。ここも労う様に念入りに。二の腕の柔らかさが手にこびりついて離れないのは、きっと水滴一粒見逃さないように拭いたからだ。

 

 

 「腕、降ろしていいぞ」

 

 

 顔にかかる吐息を堪能しながら提督が腕からは手を離した。羽黒の瞳が提督を見つめていた。焦燥感に染まっている。改めて訊ねる必要などなかった。

 

 

 「んっ」

 

 

 タオルが羽黒の乳房をやんわりと包んだ。美乳、そう呼んで何ら差し支えのない羽黒の双丘が、タオル越しに露になる。下手に何も纏っていないよりもはるかに雄弁に羽黒の体型を語るそこの頂に、何故か突起があるのはご愛敬。

 

 

 「ん、あっ、あん」

 

 

 ふき取る、というよりは、タオルを当てて水分を吸い取る、といった手の動きだったが、それだけでも期待に膨らんだ羽黒の胸は文字通り敏感に感じ取ったようであった。悩ましい声と息吹が、もろもろの雑音を押しのけて提督の耳に入ってくる。

 

 

 「やんっ」

 

 

 それだけでもそうだったのだから、ひときわ大きな声があがればなおさらであった。羽黒の頬が真っ赤に膨れる。提督にしては珍しく意図していない動きだったのだが、布越しに羽黒の乳首を弾いてしまったのだった。

 

 

 「……すまん?」

 

 「……なんで否定形何ですか」ふくれっ面のまま羽黒は言ったが、それにしてはやけに楽し気な声だった。「いじわる」

 

 「わかったよ」

 

 

 提督がほほ笑むと、羽黒が胸をちょっとだけ前に出す。親指が、明らかに水気をふき取るのとは別の意図で以て動き出した。

 

 

 「あん、あぅ、ふっ、んっ」

 

 

 ゆっくり、ゆっくりと親指で乳首をこね回す。布越しでも、突起の硬度が増していくのが良く分かった。

 

 

 「司令官さんっ、まっ、だ、胸の他の、んんっ、とこ、ろっも、濡れた、まま、ですっ、よ? あんっ!」

 

 

 たまらず飛び込んできた羽黒のおねだりに、この時ばかりは反射神経を研ぎ澄ませた提督が応じた。今度は拭いとるような動きで乳房全体を包み込む。もちろん、硬く感じている蕾も忘れずに、親指の腹から手のひらにかけて転がし続けると、羽黒の鳴き声が一段と大きくなった。

 

 

 「しれ、んむ、んぅっ! んちゅ、ちゅ」

 

 

 再び羽黒と唇を重ねる。今度も唇を合わせるだけのものだ。羽黒が快感を紛らわせるように唇に何度も吸い付いてくる。餌やりをする親鳥の、と一瞬茶化すような考えが浮かんだが、自身もそれで満足している以上は藪蛇だなとどこかへ押しやった。そのまま、ぴちゃり、と水音がなるまで、発情しきった秘書艦の接吻を甘受する。

 

 

 「……ぁぅ」

 

 

 水音がしたのは、羽黒が一瞬顔を離した瞬間であった。真っ赤なまま固まる羽黒をしり目に、もう一度、ぴちゃり、と音がする。

 

 

 「すまんすまん、まだ下の方を拭いてなかったな」提督が誰にでもわかるくらいとぼけた声で言った。「濡れてるだろう。拭くよ」

 

 「ぉ、お願いします」

 

 

 か細い声で了承を得て、提督がバスタオルを下にずらしながらしゃがむ。乳首と擦れたのだろう。ひゃうん、と甲高い声と共に、乳房が再び露になる。乳首が真っ赤に腫れ上がっていたが、今はぐっとこらえて下半身に集中する。

 

 提督と羽黒の背丈だと、提督がしゃがめばちょうどよい位置に濡れそぼった秘裂が見える。思わずまじまじと見つめてしまうと、ぴちゃん、と水滴が零れ落ちた。淫裂がひくつく。羽黒の荒い息遣いが聞こえてきた。表情はすぐに察しが付く。

 

 

 「ぁ、ふぅ」

 

 

 まずは右太ももにタオルを回し、水分をふき取る。足先まで念入りに。終わったら、お次は左太ももから同じように。拭き方はともかく、拭くスピードが速くなっていることに、提督の劣情が如実に表れていた。お次は。

 

 

 「あんっ!」

 

 

 臀部にタオルをあて、擦るように拭く。力は込めていないはずだが、尻肉が面白いように歪むのがわかった。ぴちゃり、ぴちゃりと水滴が落ちていく。急いで拭かなければならない。

 

 

 「ん、あっ! っあん、んんっ!」

 

 

 尻房のちょうど中間にタオルを滑り込ませる。羽黒の腰がびくりと動き、提督が無理やり押さえつけた。そのまま、秘部と並んで羽黒にとって最も恥ずかしいところを拭いていく。

 

 

 「ふぅーっ! ふぅーっ!」

 

 

 窪みに指がかかるたび、腰が暴れるのを抑える必要があった。今度はここでもしてあげようか、と思いつつ、今日のところはぐっとこらえる。何しろ目の前では肉芽が屹立し、秘裂がぴくりぴくりと痙攣しており、そのたびにどこに含んでいたのやら、水滴が水音を立てて落下しているのである。

 

 

 「羽黒。ここも拭くよ」

 

 

 臀部からタオルを離し、提督が上を向いて尋ねた。手で口を押えた良い人が、真っ赤な顔で息を荒げ、こくこくと小さく、けれども素早く頷いていた。提督が、股の間にバスタオルを差し込んだ。

 

 

 「ひゅあんっ!」

 

 

 くちゅり、という音共に羽黒が跳ねた。手に巻いたバスタオルが、今までの比ではなく濡れてゆく。くちゅりくちゅり、と軽く指先を左右に振っただけで粘着質な音と湿り気、温もり、それから声が提督を包んでいった。そのことにすさまじいまでの満足感を抱きながら、提督がゆっくりと、けれども確実に、手を手前に引いてゆく。タオルが肉芽をひっかいた。

 

 

 「んっ! ふぅっ!?」

 

 

 ぴしゃ、と軽く潮が吹いて床の木目を叩き、そこと秘部を濡らす。ああ、と提督がもう一度拭こうとして、タオルがもはやその役目を全うできない程度に濡れていることに気づいた。いや、厳密に言えば、そうなってしまったのは提督が手に巻いていた部分だけで、面積の大きい他の部分に替えてやればまだまだふき取れるだろう。しかし、提督にその気はない。手先に巻かれた濃菫の布はもはや我慢などできそうになかったし、その温もりを一身に感じる提督だってそれに違いはなかったからだ。

 

 

 「お望み通り、拭き終わったぞ」

 

 

 立ち上がって羽黒にそう告げると、返ってきたのは言葉ではなく、抱擁と唇、それから舌だった。ねじ込むように提督の口を割ったそれが、行き先を失った熱量を発散するように提督の口腔内を暴れまわった。提督は、それを絡ませてなんとか鎮める他にやりようなどなかった。

 

 

 「んじゅ、じゅる、れろ、ぷぁっ! はぁっ!」

 

 

 やっと羽黒が口を離す。唇がお互いの唾液でべとべとだった。

 

 

 「気が済んだ、なんて言うなよ?」

 

 

 提督が羽黒の背中に腕を回した。逃げられないように、という意図は結果論で言えばあまりにも浅はかだった。羽黒の方こそ、提督を抱きしめて離さない。

 

 

 「司令官さん」濡れに濡れた唇がふるふると震えていた。「ごめんなさいっ、私、もう」

 

 「遠慮するな、これで何回目だ?」

 

 

 提督が辛うじて笑みを作り上げる。羽黒が、切羽詰まった中でもほほ笑んだ。手が、提督のワイシャツへと伸びる。

 

 

 「羽黒?」

 

 「いい加減、私だけ裸で、恥ずかしいですから」

 

 「裸でここまで来たのはそっちのくせに」

 

 

 提督の文句は、羽黒の口づけで立ち消えと相成った。いそいそと提督のワイシャツを脱がせていく羽黒のなすがままにされる。そのままワイシャツが椅子の上へと投げ出され、インナーもその後を追った。真っ赤な手がベルトを外し、ズボンを脱がせ、パンツをおっかなびっくりと脱がせていく。

 

 

 「あんっ、ふふっ」

 

 

 提督の物が羽黒の下腹部に当たった。その熱さに驚いたのか、柔らかな腹がびくりと一瞬引っ込んだ。綺麗に清めたはずのそこが、提督のカウパーで汚されていき、得も言われぬ快感が提督を駆け巡った。

 

 

 「しれいかんさん、もういっかい――ちゅ」

 

 

 羽黒が三度提督の唇に吸い付いてきた。先ほどまでと違うのは、その右手が提督の物へと伸び、その左手が提督の乳首へと伸びて、くりくりと刺激してきたことだ。特に逸物は、きめ細やかな腹の皮膚と温かい羽黒の手に囲まれて、もう挿入しているような快感に襲われる。

 

 

 「ちゅぁ、あっ、ひんっ、やぁっ! だめ、くりくり、だめっ!」

 

 

 お返しに、提督の腕も羽黒の急所へ伸びていった。乳首をくりくりと転がし、先ほどは中途半端で取りやめた肉芽から秘裂にかけてを何度も何度も擦る。そのたびに羽黒が跳ね、腹が提督のカリ首をこすった。

 

 

 「む、ぅっ! おかえ、んんっ、し、ぁ、ですっ! ちゅぅ! れろ」

 

 

 羽黒が提督のもう片方の乳首に吸い付いてきたのは、そんな風にもてあそばれてからすぐであった。口内の温かさと、熱い吐息が直接提督に襲い掛かった。と、同時に、股間を撫でる羽黒の手もスピードが上がる。提督はまだ声を我慢しているつもりだったが、羽黒が嬉しそうに微笑んでいるところを見ると、どうも努力の甲斐はなかったらしい。

 

 

 「れろ、んじゅっ!? ぁ、耳、やぁんっ!」

 

 「お返しだお返し」

 

 

 提督の言葉がすべてだった。提督の胸元に吸い付いたせいで目の前に差し出されていた、汗ばみ赤ばんだ耳を提督が食んだのだった。と、同時に、羽黒の乳首と肉芽をつまみ上げる。羽黒が一瞬大声で喘ぎ、すぐに体に力を入れて堪えた。つまり、熱い吐息に乳首をやられた挙句、口はそこを強くつまみ、陰茎は快感を感じるぎりぎりの力強さで握られた、というわけだ。

 

 

 「羽黒」提督が耳元でささやき、羽黒がぶるぶるとふるえた。「すまんがちょっと動くぞ」

 

 

 真っ赤な耳がこくこくと震えた。提督が強引にソファの前に羽黒を動かし、押し倒す。上等な革がそれを苦も無く受け止め、羽黒の躰が沈み込んだ。羽黒の脚が、どちらが動かしたのだかM字に曲がり、もはや水滴と言わず水の筋を流し始めた秘所と、先端を尖らせ汗からか湯気を上げる乳房がさらけ出される。が、提督の視線はもはやそれを一瞥したのみで、すぐに自らの体を滑り込ませ、羽黒の顔に唇を近づけた。すぐさま、唇同士がくっつきあい、舌がその間で暴れまわる。

 

 

 「んじゅ、ぢゅる、れろ、ぷあっ!」

 

 「羽黒」

 

 

 挿入るぞ、その確認はそこで途切れた。羽黒はこくこくと頷き続けていたし、それに何より、秘部にあてがった陰茎がするりと奥まで至ってしまったからである。

 

 

 「くふぁぅっ!?」

 

 

 羽黒が衝撃に耐えかねたのか甘い吐息をまき散らしたので、提督にとっては二重で我慢が必要になった。羽黒と目が合う。蕩け切った瞳がにっこりと微笑んでいる。

 

 

 「羽黒、も、動きます、からっ」何も動いていないにもかかわらず、陰茎と膣、その痙攣だけで感じているらしい羽黒が、それに耐えながら言葉を紡いだ。「一緒に、しま、しょう? ね? ふぁ、あんっ! あうっ!?」

 

 

 それが最後の引き金であった。提督の腰が本能のままに前後する。羽黒もご同様で、提督よりは動きが小さいものの、しっかりと腰が動いていた。理性の方は理性の方で、羽黒とひっつくことに使われてしまい全く身動きが取れていない。

 

 

 「んちゅ、れろ、じゅ、んんっ!」

 

 

 口でも交合いながら、右手は羽黒の乳首を揉み、左手は肉芽を嬲る。羽黒はと言えば、提督に与えられる快感に身をよじりながら、乳首に手を這わせていた。

 

 

 「ん、ふぅ、ふゃうっ!」

 

 「く、締まる」

 

 「ら、ってぇ、あんっ!!」

 

 

 提督が羽黒の肉芽を弾けば、膣がこれでもかと収縮して提督自身を追い込んでいく。

 

 

 「ぅあ、ふか、深いっ! 深いぃっ!」

 

 

 羽黒が提督の乳首を転がせば、快感で勢い余った提督が自身を羽黒の奥深くへ叩きつけ、羽黒がびくびくと痙攣した。

 

 

 「司令官さんっ! しれいかんさんっ!」

 

 「羽黒、顔、前に」

 

 「んっ、は、いっ! ん、ちゅ、むぅっ!」

 

 

お互いに一挙手一投足がお互いを追い詰め、それがまたどうしようもなく心地よい。何度目かもわからず舌を絡ませあえば、何もかもが溶けてしまうような感覚に陥る。いや、目の前からは愛おしい温もりが全身を包んでくるのだから、溶けてはいないのか? 快感のはざまで、提督が取り留めもなくそんなことを考える。

 

提督の雑念は、膣がうねる様にして提督に絡みつき、羽黒の舌と手の動きが提督にしかわからない程度に遅くなり、的確な攻めでもなくなったことで消え去った。楽しい時間は終わりにすべきらしかった。

 

 

 「そろそろ」口での長い交歓を終え、提督がうめくように口を動かした。「限界だな」

 

 「は、ひゃうっ! わた、あっ! はぐ、うぅっ!」

 

 「わか、ってるから、無理するな」提督が笑った。意地の笑みだ。「さっきから、かかってるからな」

 

 

 羽黒がいやいやと頭を振った。先ほどから、もはや一突きするたび羽黒が潮を撒いているのだった。お互い限界である。

 

 

 「イくぞ。中で、いいか?」

 

 「はいっ!」羽黒が間髪入れずに応じる。それから、頬に快感以外の要素から朱色を追加して、できる精いっぱいでほほ笑んだ。「しれいかんさん、大好き、ですよ」

 

 

 その言葉が合図であった。提督の腰がずっと押し込まれ、羽黒がひゃうんっと啼く。いつの間にか、脚が提督の背中に回っている。

 

 

 「そらっ」

 

 

 提督が乳首と肉芽をつまみ上げた。一緒に、陰茎を一番奥へねじ込んだ。

 

 

 「あ! きひゃう! くるっ! イああああああああっ!!」

 

 

 悲鳴のような喘ぎ声の中、潮が勢いよく提督に叩きつけられ、陰茎がぎゅぅっと締め付けられる。たまらず、提督が迸りを解き放った。どくり、どくりと精が羽黒に注ぎ込まれていく。ぷし、と吹き出し続けていた潮が、いつしかちょろろ、と勢いの弱いものに変わっていた。

 

 

 「見、見ないで……」

 

 

 荒い息を懸命に鎮めながら、羽黒が懇願してきた。見ないよ、と返し、唇に口づける。目をきゅっとつむり、提督の唇を吸いつつ、羽黒の表情がゆっくりと弛緩していくのを眺め見る。決して、こちらを見る方が楽しいという本音だけは漏らさない。

 

 精を吐き出し、もろもろ我慢していたものを解放し、体が弛緩しきり、そのまま数分、口づけあったままソファに沈む。先に再起動したのは提督であった。羽黒の唇をひと舐めし、陰茎を引き抜く。様々な体液由来のねっちょりとした糸が二人を結び、やがて耐えきれず切れた。そのまま、のっそりと立ち上がる。色々と酷い惨状は、徐々に脳みそが認識し始めた。とりあえず、タオルが要る。そこの菫色の奴は洗わなきゃいけないから、それ以外で。

 

 

 「し、しれいかんさん」舌足らずな声が提督を呼んだ。「羽黒も、羽黒もお手伝いを……」

 

 「いや、このありさまじゃあな」

 

 

 精も根も尽き果てたようにソファに沈む羽黒は置いておいて、とりあえず寝室から一枚バスタオルを持ってくる。先ほどまでとは違う手つきで、手早く羽黒の全身を拭くと、抱えるように持ち上げて、そのままベッドに寝かしつけた。

 

 

 「司令官さん」

 

 

 掛け布団を掛けたころには、羽黒はすっかり息を整えていた。申し訳なさが顔中に出ていた。

 

 

 「気にするなよ」

 

 「気にしますっ! わた、私から誘って、あ、あんな風に――」

 

 

 汚して、とでも続けたかったか。自身の痴態を思い出したらしい羽黒が真っ赤になって押し黙った。はぁ、と提督がため息を一つ。羽黒に軽く口づける。

 

 

 「ん、ちゅ」

 

 「ま、今日は色々慣れてなかったってことで」提督が羽黒の頭を撫でた。「初めての、なんだ、同棲なんだ。迷惑かけてかけられてくらいがきっとちょうど良いさ」

 

 「で、ですけどっ!」

 

 

 羽黒がなおも何か言いたそうに提督を見つめる。提督は、ただ羽黒の頭をなでるだけであった。

 

 

 「それでも思うところがあるんならさ」提督が言った。「まだ三日目なんだから。その、先は、長いだろうしな」

 

 

 平静を装ったはずのその声に、羽黒が真っ赤な顔できょとんとした後、すぐさまふっと吹き出した。なにおう、と提督。ごめんなさい、ごめんなさい、と羽黒。

 

 

 「そうですよね」羽黒が真っ赤な顔でほほ笑んだ。「先は長いですもんね」

 

 

 そうだよ、と不貞腐れながら提督が羽黒の頭を撫で続けた。時計がかちりと音を立てる。長針と短針が真上を向いてそろっていた。4日目の朝が近づいている。全く、自分が言った通りではないかと、気づけば求めてきていた羽黒に応じて顔を近づけながら、提督が苦く笑う。先はまだまだ長いのだ。

 

 

 

 

 

 ◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

 「とか思ってたら3日で直し切りやがったあいつら」

 

 「あ、あははは……」

 

 

 本日はお日柄も良い同棲6日目の夜。明石工廠脅威の技術力に提督が頭を抱え、羽黒がどうしたものかと苦笑いしていた。

 

 まぁ、提督の発言がすべてである。重巡寮は機能を復旧し、明石と夕張は倒れるように寝床で惰眠をむさぼっているのだった。すでに、気が早い一部の艦娘は荷物を寮に運び入れてさえいる。

 

 

 「で、でも、基本的には素晴らしいことですし……」

 

 「マッチポンプもいいところだがな」

 

 

 食器棚から慣れた様子で取り出したカップへとお湯を注ぎ、インスタントコーヒーを作りながらフォローする羽黒を一蹴し、提督が天井を仰いだ。視界の隅には、数日前より格段と整理された食器棚がちらちらと映っている。

 

 

 「明日には全員、もとの部屋に戻るって?」

 

 「はい。那智姉さんだけ、軽空母寮にもうちょっと居たいって言ってますけど……」

 

 「禁酒。それは呑めるなら許すって伝えてくれ」

 

 「もう言っておきました。重巡寮に戻るそうです。

 

 「重畳、重畳。これで、あと戻ってないのは――」

 

 

 提督がそこまで言って固まった。羽黒が、自室から持ち込んだぬいぐるみを抱きしめつつ、ぎこちなく口を動かした。

 

 

 「私、だけですね……」

 

 「ん、そうだな……」

 

 

 沈黙がダイニングを支配し、ただただコーヒーを啜る音だけが辺りに満ちた。羽黒がそわそわと動いていたが、こちらも口を開け閉めしてなにやら言い出すとっかかりを見つけようとしている提督は気づいていないようである。

 

 

 「ぁ」

 

 「ん、あぁ」

 

 

 気づけばカップの中身は綺麗に消え去っている。不思議そうにカップを見つめ、次に互いに見つめあって、どちらからともなく笑いだす。

 

 

 「お風呂、先にいただいてきますね」

 

 「おぅ」

 

 

 今は結論を急ぐこともないか、と提督が苦笑する。お互い、一週間未満の同棲で、それなりに助け合うことにも慣れたのだ。もともと意図しない形だったのだから、真似事と言うか練習だと思えばそれで良しではないか。風呂から出てきたら、そう伝えよう、と決意する。そうして、決意しきったところで、重巡寮復旧というイレギュラーのせいで、またぞろバスタオルを脱衣所に用意していなかったことにようやっと気づいた。

 

 

 「あ、やべ」

 

 

 慣れているとは何だったのか。とはいえ、今度は対策済み。洗い終わったバスタオルは提督のと羽黒のとに分け、寝室の棚、その一番取りやすい場所に配置済みだ。さっと菫色の布を取った提督が、今日は悠々と脱衣所に向かう。風呂に入っている間に、脱衣所にかけておく作戦だ。

 

 

 「羽黒ー、バスタオル忘れてるぞ」

 

 

けれども。もう風呂に入ったか、という続きの言葉は出なかった。なにせ、

 

 

「わっひゃう!?」

 

 

という悲鳴が脱衣所の扉越しに聞こえてきたのだから。

 

 

「……どうかしたか? あ、脱いでる途中だったか」

 

「い、いえっ! 違いますっ! まだ脱いでもないですし、ともかく違うんですっ!」

 

 

なにやら様子がおかしい羽黒にデジャブを感じつつ、まだ脱いでいないんならと提督が扉を開けた。果たして、宣言通り衣服をきちっと身にまとったままの羽黒がそこにいた。脱衣所併設の洗面台の前でなにやら慌てている。

 

 

 「なにかおかしなところでも――いや、無いな」デジャブを感じるどころか、一心同体と化しつつ提督が呟いた。

 

「そ、そうですっ」羽黒がぶんぶんと頷いた。「もう直しちゃいましたし、何にもおかしいところなんてないですっ! はいっ!」

 

 「羽黒」

 

 「な、なんでしょうか?」

 

 「反応が前回と同じだ。今度はどうしたのさ」

 

 

 はぐっ、と羽黒が固まった。真っ赤な顔がギギギと俯く。小さな声がぼそぼそとし始めた。

 

 

 「……えぇと、ですね」

 

 「おう」

 

 「また、とか言いません?」

 

 「言わない言わない」

 

 「あの、本当に大したことじゃないんですけど」

 

 

 羽黒が提督から顔をそらしながら続けた。顔は、先ほどよりも赤みを増している。

 

 

 「その、コップに歯ブラシ立ててたじゃないですか」

 

 「うん」

 

 「そうしたら、あの、今は直したんですが、入ったときは、その、私のブラシが司令官さんのと当たってまして」

 

 「……あぁ」

 

 「その、ですね。これ、司令官さんと、か、間接キスなのかな、とか思って、ぼうっとしちゃいまして、あの……」

 

 

 羽黒がしどろもどろしていた。真っ赤な頬は、本心から言っているという明白な証明だ。提督が上を見上げ、ため息をつき、羽黒がまだ真っ赤になっているのを認めると、一気に距離を詰めた。そのまま、提督の動きにきょとんとして対応できない羽黒をしり目に抱きしめる。

 

 

 「し、司令官さん?」

 

 「さっきの話だけどさ」提督が羽黒をぎゅっと抱きしめながら言った。「まだ、羽黒にも、この部屋に慣れる余地があると思うんだよ、うん」

 

 「は、はぁ」

 

 「だからさ」

 

 

 提督が羽黒の顔をじっと見つめた。告白ならもう済ましているのに、我ながらこんなことになんて初心な、と思い、いや、よくよく考えればこれは初めてだったのか、と思い直した。そのまま続ける。

 

 

 「もうしばらく、一緒に暮らさないか? 羽黒が慣れてくれるまで」

 

 

 羽黒の顔から視線をそらさないのは、提督なりのゲン担ぎでもあり、また確信があったからだ。そして、現実は、彼に柔らかな微笑みを見せてこう応えた。

 

 

 「はいっ。羽黒で良いなら喜んでっ」

 

 

 洗面台の上、コップの中で、羽黒の菫色の歯ブラシがからんと音を立てて、もう一度提督のそれに触れ合った。




これに味を占めた提督は、明石工廠と組んで特殊風呂の開発に取り組むのでした。めでたしめでたし。


というわけで、羽黒とのいちゃねちょシリーズ二つ目です。エロは少なめですが思ったよりも早く書き上げられました……
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