屠殺場へと向かう羊は、死期が近いのを悟って死んだような顔をするらしいわよ?賢いわねぇ?
げらげら。
でもでも可笑しな話よね。別に怪我や病に殺されるんじゃ無く、人の手で殺されるんなら、最後に悪足掻きくらいしたいとは思わないのかしら?
その気になれば殺害者を蹴り飛ばすくらいは出来そうなのにねぇ?
げらげらげらげらげらげらげらげらっ!
「此度の『十二大戦』。
「『
「『
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「『
「以上、十三名の戦争犯罪人。いわゆる十三星座の戦犯を捕らえることが、あなたがたが挑む今回の──第十二回十二大戦のテーマとなります。紳士淑女の戦士達、どうぞご存分に絆を結び、一致団結して臨んでくださいませ。望んでくださいませ。
エヴリバディ・クラップ・ユア・ハンズ!」
◇
『世界地図にも載っていない島』
なんて表記をすれば、夢と冒険が溢れる未知に充ち満ちた島であると、得も言われぬ高揚感に駆られることだろう。降り立った者が学者ならば、お宝や新種の生物を探して、虫眼鏡片手に島中を探索していること間違い無しだ。
しかし、そんな夢に溢れるような話は無く、実際には最近出来たばかりの人工島である。
とある富豪達が道楽で造り上げた海上都市。彼等が己の力を誇示するように、財の限りを尽くされた島。水の都を彷彿させる美しい街並みがあるかと思いきや、密林の秘境を思わせるような原生林、考古学的に価値の有る採掘場、果てには格式高い古代建築。それらの実物や模造品を掻き集めて継ぎ接いだ様は、下手くそなジオラマや不格好なパッチワークのようにも思える。調和なんてなんのその、それぞれ特有の雰囲気や個性でひしめき合い、押し退け合い、殴り合うような島だ。失礼な話だが、品性を感じない。倫理的な観点からしても公には出来ない島だった。
そんな島のある一角、ランドマークとしては充分すぎるほどに役割を果たしている西洋風の城の中に十三人の戦士が集った。
(十二年に一度の十二大戦。況してや記念すべき第十二回目の開催なのに、何故参加者が十三人なんだよ?次回にやれよ)
その様な疑問を懐きたくなるが、「それが今回の特別ルールだから」と運営に切り捨てられてしまえば、押し黙るしかない。
最年少の戦士。『
(そりゃあそうだろ。元々、俺達は互いに殺し合う運命にあると思ってたんだからな。
それが「はい、皆さん仲良くして下さいねー」だろ?んな「はい、そーですか」って切り換えられるかよ。それが出来そうなのは…『申』と…あそこの
ボールルームのど真ん中、三つ並べられた立食会用の丸テーブル。そこに並べられたささやかな料理達。それらに飛び付く一人の戦士が居た。
背丈は寝住と然程変わらないくらい。中肉中背。立食会には少々カジュアル過ぎる出で立ち。嫌にも目立つ猫耳の付いたカンカン帽。
(…
十二大戦の最中、最多で最短に死んだ、最弱の戦士。
◇
十二大戦とは十二支の戦士達による代理戦争である。その栄冠を手にした者は、どんな願いでもたった一つだけ叶えることが出来る。そんな七人の魔法使いが呼び出した七人の使い魔が競い合うような、世界中に散りばめられた七個の宝玉を奪い合うような、貯金箱を満タンにしたら願いが叶うような、そんな夢みたいな殺し合い、寝住からしたら死んでも願い下げだった。
(願い事?知るか、そんなもん。願わくば、今すぐ解放してくれよ)
実際問題、寝住は死にたくないからこそ、全力で、死力を尽くして、戦争回避を試みた。そのために自身の能力を使った。
『
確率世界に干渉し、百通りの選択肢を同時に体験する能力。
ただでさえ百通りまでしか体験出来ない確率世界を、更に百通りに枝分かれさせるような無茶苦茶な能力の使い方をしてまで、寝住は戦争から逃げたかった。肉体と精神に及ぼす悪影響を考慮するならば、実に自殺的な行動。死に物狂いの行動だった。
だからといって、必ずしも成功するとは限らない。百通りまで分岐出来るとは言ったものの、一発勝負のジャンケンをすれば三通りの選択肢しか生まれないように、百通りが百通りの異なる選択を出来るわけでは無い。百歩譲って百通りの選択肢があったとしても、それが自身の理想を叶える形に到着する保証は無い。そうでなければ、中学時代に気になる女子に百回プロポーズをして百回フラれるようなトラウマ物の大惨事にはなっていない。
結局の所、寝住は十二大戦を回避することは出来ずに、屠所の羊の如き歩み(『
あるときは『丑』の戦士に殺され、
あるときは『寅』の戦士に殺され、
あるときは『卯』の戦士に殺され、
あるときは『辰』の戦士に殺され、
あるときは『巳』の戦士に殺され、
あるときは『午』の戦士に殺され、
あるときは『未』の戦士に殺され、
あるときは『申』の戦士に殺され、
あるときは『酉』の戦士に殺され、
あるときは『戌』の戦士に殺され、
あるときは『亥』の戦士に殺され、
あるときは『猫』の戦士に殺された。
そして、百通りの十二大戦を体験して、たった一つだけ残っていた、『自分が生き残ることの出来る選択肢』を手中に収めることが出来たのだ。
しかし、今現在、寝住が目の当たりにしているのは、その百通りの分岐のどれでも無い。新しい分岐点だった。
突拍子も無く、素っ頓狂な分岐だと、寝住も初めは驚いた。本来の十二大戦は『参加者が猛毒の結晶を飲み込んで、それを奪い合うルール』だった。それがどうした事か『戦士が共闘し、戦犯を捕まえるルール』に変わってしまっている。二つの全く違う絵で間違い探しをしているような物だ。
(サイコロを百回転がしたとしても、一から六の目以外出ることは絶対に無い。なのに七とか八とか、本来出るはずの無い目が出ちまってる。そんな状態だ。
『
言うなれば『致命的なバグ』。それでも追求せずには居られなかった。
(十三戦士が殺し合うことなく、どころか協力して、犯罪者を退治するルート──これが奇跡でなくてなんだ?)
◇
「──とりあえず、テメェについて話して貰おうか?『猫』の戦士さんよぉ」
仲間同士の無意味な睨み合いから、会話の取っ掛かりを作り出した者が居た。
「無責任にルールだけ説明してふらっと何処かに行っちまった、審判員だっつー、あのシルクハットのオジサマの言う事が本当なら、今回に限っては俺達十二支……あー……テメェも足せば十三支か、とにかく、俺達は隊列を組まなきゃなんねーんだろ?」
十三人が牽制し合うように距離を取って立つ中、唯一の例外が、今し方声を発したこの男だ。この男ともう一人の男は、この居心地の悪い空間で仲良く隣り合って並んでいる。その二人の顔を瓜二つだった。彼等は血肉を分けた双子だった。
(……
目立ち顔立ち全てが寸分違わずに揃った顔。違いと言えば、精々戦士装束と武装ぐらいしか無いが、寝住は声の主を間違えること無く断定した。
互いに自己紹介すらしてない現状だが、寝住は『
(突如、『運営サイドが用意した』と説明された『猫』の戦士。確かに怪しいし、疑わしい。ただでさえ「戦犯全員を取っ捕まえれば、願いを叶える」って言ってんのに、加えての戦力増強。戦力になるかは別として、余りにも至れり尽くせりだ。それは疑いたくもなる)
仮に寝住が『
「テメェは運営が用意したゲスト。つまり、彼等に一番通じてる人間だ。なぁ、実は運営に何か言い含められてるんじゃねぇの?どうなのよ?なあなあなあなあ?」
「なあなあなあなあ?」
彼等の…もとい弟の言葉を受けて主張を展開していく兄。彼等の判断もあながち間違いでは無い。
本当に『猫』の戦士が『運営サイド』から出頭してきたならば、現状十三人の戦士の中で、最も此度の十二大戦の情報を握っているはずだ。要は、可能な限り情報を引き抜いておきたいのだ。
(膠着状態を打破してくれるのはありがたいけど……、おふざけ半分おもしろ半分で仕切られても……、困るんだよな……)
彼等の性格をある程度理解している寝住でなくても判断出来る。彼等の意地の悪いにやけ面。「とりあえず疑わしいから突っ突いて見よう」と言うような様子だ。
出来れば『申』の戦士・
(何か感付いてやがんのか……?いや、それはない……絶対にない……)
そう信じたい。千載一遇の機会。…むしろ、命懸けで百通りの選択肢を更に百通りに分岐した、文字通りの万死一生の機会。無駄には出来ない。するわけには行かない。
漸く辿り着いた、十二大戦。
それを覆せるとしたら、チャンスはここにしか無い。
一先ずは断罪兄弟の音弧に対する言及が済まなければどうにもならない。一同の視線は中央の彼に注がれる。
対して音弧はパスタを口に含みながら硬直していた。
そして、音弧は断罪兄弟に「しばし待て」とジェスチャーをして、皿をテーブルに置き、グラスのジュースを呷る。
「いやーすまんすまん。何せこちとら三日三晩飲まず食わずだったもんでな。
ほら、良く言うだろ?『腹が減っては戦は出来ぬ』ってさ。これから皆で戦うために、協力するために、脚引っ張らないようにするために、腹拵えしてたのさ」
「はぁ?」
茶化して煽る断罪兄弟に対して、音弧はおちゃらけて答えた。酷く拍子抜けする様だった。
(でもまぁ、張り詰めすぎた糸は切れちまうからな。気力を削ぐと言うのはそれ程悪いことじゃねぇ)
『猫』の戦士・音弧の、こういった『場を和ませる
寝住が見た『百通りの選択肢』…『本来の十二大戦』の中で見た、『猫』の行動は奇妙極まりなかった。
大戦前に殺されたと推定されるのが五通り。
宝石を飲み込んだ後に腹を割いて自害したのが七十三通り。
戦いの途中で死んだのが十九通り。
観測する前に自身が殺されたのが三通り。
つまり百通りの分岐で『猫』は必ずと言って良い程に死んでいる。
反対に言えば、『最も情報の少ない戦士』とも言える。もっとも寝住でさえ殺せるほどに雑魚であることに変わりは無いが…。しかし、現在注意すべきは『戦いの途中で死んだ十九通り』の分岐。驚くべき事に音弧は必ず誰かとチームを組んで行動していた。勿論、他者の願い事を聞くために接触を図った寝住や、他者を利用して戦況を有利に運ぼうとした『未』や『酉』の戦士、大戦を停めるべく行動した砂粒のように、チームを組んだ人物は複数人居ることは居る。
だが、音弧の居るチームだけは、少数に留まらない。多いときには戦士の半数を味方に引き入れていた。
(これが所謂、『招き猫』って奴なのかねぇ。
まぁ、あの時は『卯』の戦士との全面戦争で俺も死んだんだけどね)
音弧にはチームを纏めるために、ブレインでも切り込み隊長でもなく、潤滑剤として働いて貰いたいものだ。無論グリス的な意味で。グリス的な意味でだ。
「それで…今回の『十二大戦』についての情報だな?
正直に言うと……今回の十二大戦は少しばかり
(目下一番の怪しい存在である、お前が言うな)という話ではあるが、音弧自身はそう述べた。
「『十二人の戦士による、しのぎを削る戦い』。それこそが『十二大戦』の根底には存在しているはずだ。はずだった。なのに、俺という『十三人目の戦士』。加えて、『十三星座の戦犯』なんて者まで出てくる始末。これじゃあ『十三大戦』だ。
多分なんだけどね、俺をここに呼び込んだ『捻くれ者』…悪名では『
呆れ混じりに溜息をつく音弧。
「ここまで来るのに運営サイドに殺されかけたし」
さらりと爆弾発言をしていた。
「細かい経緯は省くけど、運営サイドに『海を操れる奴』が居るらしくてさ、溺れ死ぬかと思った。
真意は分からないけど、『十二大戦』の運営陣で内部分裂でも起きてるのかもしれないな。少なくとも、これは正常な『十二大戦』じゃあ無い可能性が高い…」
開いた口が塞がらないとは、この事だろうか、突如として目の前の戦士自身が、歴史ある『十二大戦』を否定しにかかってきている。予想だにしない異常事態であった。
「……あのいかにも無責任そうな審判員──ドゥデキャプルとやらは確かにこう言っていたと思うがね。『生死問わず、十三星座の戦犯をとらえたあかつきには、あなたがた十三戦士、全員の願いごとを叶えてさしあげましょう』──随分な大盤振る舞いではあるものの、それゆえに、まったく信用することが出来ないとは考えていたがね…。その疑惑がより一層濃くなったかね」
凍り付いた場の空気から一番に抜け出したのは、『丑』の戦士・
確かに両名が話したように、たったひとりの優勝者が、たったひとつの願いを叶えるからこその十二大戦である。それがこれまでの不動のルールだった。
毎回変わるという十二大戦のテーマを達成したからと言って、参加者全員の願いが叶えられるとなると、ほぼ本末転倒である。十二大戦の意義が──ひいては、運営サイドの器量が問われることになりかねない。
仮に本大戦のルールが正式な物だとしたら、大盤振る舞いどころか、満額回答もいいところだ。慈善事業である、これでは。
(でも、そういう考えならば腑に落ちる部分もある)
元より、異常とも呼べるこの分岐。ならば十二大戦自体に何か異常事態が発生していてもおかしくは無い。
(仮に今回の自体を起こした運営サイドの異常事態。仮に反対派が居るとして…だったら狙いは何なんだ?何所にある?)
何故、戦士達を共闘させようとする?
何故、戦犯達を捕縛させようとする?
まるで、ミステリーだ。
(もっとも、ここに雁首並べている十三人が、こぞって訳も分からないままに集められているとも限らない──事情を知りながら、黙っている奴も居るかも知れないな…)
例えば、未だに不気味に沈黙を保っている砂粒。彼女は『和平交渉の
例えば、高飛車で声高い筈の『亥』の戦士。彼女は前大戦覇者の家系だ。そのコネクションで何かを知っているかも知れない。
例えば、本来裏で活動していて表に出ることの少ない断罪兄弟。やること成すこと悪行三昧で、戦犯に一人くらい顔見知りがいてもおかしくはない。
例えば、裏稼業で人身売買をしている『戌』の戦士。アンダーグラウンドな仕事に手を染めているなら、そのルートで情報を握っているかも知れない。
もしも、この予想が当たっているなら、思考材料を共有したい。戦士同士の殺し合いが発生しないこの世界軸がイレギュラー中のイレギュラーなのは確かだとしても、寝住にとって生き残りやすいルートなのかは、また別問題なのだ。
確かにこれは正規の十二大戦ではない。謂わば異常な十二大戦。どんな非常事態が発生するか、分かった物では無い。
慎重に行かなければならない。
「…今回は特に時間制限も架されて居ないようだし…時間を使って、もう少し掘り下げないか?
情報でも、意見でも、些細な疑問でもいい。何かあれば遠慮無く、言って欲しい。俺も出来る限り情報や意見を出していくから」
音弧が周囲に呼びかける。司会進行役として、主導権を握りつつある。このまま行けば、自体が好転するかも知れない。
「あーかったりぃ。付き合っちゃらんねー、あたいは好きにやらせてもらうぜえ」
これまでの流れを断ち切るように『寅』の戦士・
「ちょっと待ちなよ
「あ゛ぁん!?」
しかし、唯一、音弧が目聡く彼女を引き留める。この女性陣の中で一番に慎ましい胸を揶揄して、挑発して、無理矢理にでも引き留める。しかし、引き入れるために呼び止めているわけではなかった。
「せめて忠告。『獅子』に遭ったら、全力で逃げろ。
……彼は1対1の状況下では『皆殺しの天才』すら凌駕する」
音弧は彼なりに最優先で伝えるべき情報を最小限にまとめて伝えた。それ故にその言葉は抜き身の刃のように鋭く刺さる。この場に居合わせた数名の戦士に戦慄が走った。
『皆殺しの天才』。寝住自身、別の分岐で幾度となく対峙し、そして数えるのが億劫になるほどに殺された。訳が分からないほどに強すぎて、それらの敗北から何一つ学べやしなかった。
今回のチーム戦というルールにおいて、戦士達の中で最高の戦力を誇る最強のカードと評しても差し支えない、戦士・失井。しかし、あろう事か音弧は「戦力不足」と評価したのだ。それはつまり戦士達全員が戦犯に敗北する可能性を示唆していたのだ。
寝住はチラリと評価を下げられた失井を見やる。内心、冷や汗混じりに。すると皆殺しの天才様は、少しばかり驚いたような顔をしていた。それ以上に音弧と対峙する妬良が剣呑な空気を纏っていた。
「そうかい……ありがたくうけとっておく……よっ!」
「ぎにゃーーーっ!!?」
妬良が音弧の元へと歩み寄ると、そのまま彼女は彼の顔面に爪を立てて、思いっきり引っ掻いた。
仲間同士の仲間割れ。いや仲間になる前段階だから違うか。
(警告…勿論、相手を思っての配慮であることは分かるが…、あの言い回しはいただけない。何せ酔拳使いの戦士・妬良──あいつは失井の旦那と因縁があるんだよ)
だからこそ、『丑』を引き合いに出した『猫』に『寅』は腹を立てた。女性の容姿について陥れたこととの相乗効果で、手まで挙げさせる始末になった。勢い余って殺さなかった事が奇跡に近い。
「ぐるるぅ!上等じゃねぇかよぅ!その『丑』よりも強い『獅子』とやらは、あたいが狩っといてやるよ!」
地面をのたうち回る音弧を見下ろして、妬良はそう告げると、今度こそボールルームを去ってしまった。
「痛…っっ……。やれやれ、随分とやんちゃな仔猫ちゃんだぜ」
自身が『猫』の戦士であることを棚に上げて、音弧は立ち上がる。ヒリヒリと痛む顔の傷を慎重に撫でながら、気を取り直して、議論を再開する。
「さて、誰か発言したい奴はいるかい?俺一人が漫談を繰り広げていたって詰まらないだろ?
一先ず、これからチーム戦をするなら大切なのは相互理解だ。言葉を尽くそう」
◇
「確かに運営の意図は詳細不明だけど、なんであれ僕は、皆と協力したいと思っているよ。ここで会ったのも何かの縁じゃないか」
数拍を置いて発言が出なければ、「とりあえず『獅子』の能力について話そうか」と考えていた矢先の事だった。
流れを止めるように、いや変えるように。声を上げた戦士が居た。『卯』の戦士・
「僕はこういうチャンスをずっと待っていた。みんなと一緒に戦うチャンス──みんなとお友達になるチャンス。生きた人間と生きた友情を築きたいと、僕はずっと期待していたんだ」
憂城の発言には大した情報は含まれては居ない。あるのは但の自己主張、決意表明のような物だった。実に綺麗な言葉だ。彼の内に眠る純真な部分がそう訴えているのだろう。
しかし悲しいかな、その綺麗事を真に受けて、鵜呑みにするような戦士は居ないだろう。如何せん彼の風体は余りにも異様すぎる。それもその筈だ。何せ彼は最強でも最注目でもない戦士ではあったが、最も殺した戦士──最狂の戦士であり、最凶の戦士であった。その殺しっぷりといったら彼の『丑』の戦士・失井に匹敵する殺戮者であった。
しかし、今回は今回。その他に存在する百通りの分岐とは別物であり、ここに居る戦士達には関係の無い話……とも、言い切れない。『
「戦争犯罪人なんて、ただでさえ、許せないしね。そういう悪党を退治するのも、僕達戦士の大切なお仕事でしょ?」
愉快なステップを踏みながら続けられた言葉を聞いても、場は和んだりしない。それどころか警戒し、排除しようと、『未』の戦士・
「僕は『
再び、流れをぶった切るように、憂城が発言した。
「あー……とー……バニーボーイ?質問いいかい?」
「何、猫くん?」
「俺は
「うーん…ちょっと違うかな?
僕は、僕が殺した死体とお友達になることが出来るんだ。あぁ、それと、
戦士の生命線でもある、己の切り札の情報開示。しかも、事細かに捕捉まで入れる親切っぷりだ。
流石に、この言葉に反応を示さないわけにはいかない。その切り札は、この状況下では余りにも有効すぎた。
「このささやかな
『ささやかな』?『それなりに』?それどころではないと、大半の戦士が感じたに違いない。
『
殺した相手を自陣に組み込む。死をも恐れぬ能力。
団体戦では、とことん
打算も計算も感じられない憂城の発言。しかし、寝住にとっては嬉しい誤算であった。今にして思えばチームプレイが出来るのは、音弧と砂粒にコンビで活動する断罪兄弟くらいだと思っていたが、『死体とのコミュニケーション能力』と考えたなら憂城も該当する。もっともあらゆる意味で危なっかしくて背中は預けられやしないが…。
「犯罪者が許せないっていうのは、確かにそうですね!はいはいはい!私も及ばずながら力にならせて欲しいと思いまーす!」
音弧が回し、憂城が呼び水となり、新たな賛同者が現れた。『酉』の戦士・
(気弱だけれど弱くなく、強くは無いが強かに、力は無くとも無力ではなく、賢くないなら小賢しく──だっけ?)
常に周囲を出し抜く事を企む、凡そ見た目からは想像の付かない、知略派戦士である。寝住自身何度裏切られた事か。特に憂城を目の前にして、庭取が寝住を生贄にして逃走したことだけは許されない。
「……そもそもの話なのだがね。此度の十二大戦に真面に取り組む必要はあるのかね?
そこの『猫』の戦士が言っていたでは無いか。『運営関係者に暗殺されそうになった。もしかしたら運営が内部分裂している可能性がある』とね。もしそれが本当で、十二大戦自体が正常に行われていないとしたならば、我々がそれに素直に従う道理はあるのかね?」
しかし、意外なことにその流れに異を唱える者が現れた。先ほどから無口な者が多い中、積極的に発言をしていた『丑』の戦士・失井である。
(ちっ…せっかく出来た流れに水を差すなよ。…だが、待てよ。確かにそういう切り口もあるのか)
寝住は内心悪態を吐く。しかし、直ぐさまそれを取り下げた。
失井の考え方もある意味で正しい。ただでさえ胡散臭かった十二大戦のルールと報酬が、音弧の情報で更に
「いや、それはよしておいたほうが身のためですかのう」
逃走という選択肢に更なる拡大をしようか思案した矢先、直ぐさま棄却する者が現れた。『未』の戦士・必爺である。
「『猫』の戦士が言ったことをお忘れですかな?彼は『海を操る技能を持った者が居る』と言っていましたが、これはつまり『海上ルートは運営サイドの手に落ちている』と考えてた方が良いと思いますのじゃあ」
「ちょっとお爺さん!?それはつまり私達はこの絶海の孤島に閉じ込められてしまっているってことですかぁ!?」
「幸い、空路については活路が在るかも知れませんがのう。しかし、曲がりなりにも、これは十二大戦。それから戦士が逃げるようなことがあれば、それは敵前逃亡ですからのう。そのような事態になれば、運営が直接手を下しにくるやも知れませんわい」
「つまり、この人工島には我々十三戦士と同様に十三戦犯が閉じ込められたまま──と考えていいかね」
「言うならここは、流刑地──監獄島というわけですかのう。ドゥデキャプル氏は、そういう思想の持ち主なのでしょうか、にしても儂等には満足な情報は与えず、其処な猫には結果として情報を与える。随分と情報に落差があるようですのう」
「結局の所、俺達のやることは決まったようなもんだな。この如何にも怪しい十二大戦を放棄できないなら、素直に従うしかない。今回の
「あら、
すると新たに『亥』の戦士・
(いいぞいいぞ。もっと喋ってくれ)
それだけで生存率は上がっていく。段飛ばしに跳ね上がっていくはずだ。
「つまり十三戦士対十三戦犯の対決って形になってるんだね。その人達とお友達になれないかな?」「無理でしょうね。わたくした達と違って、およそアブノーマルでしかない、悪名高い犯罪者達ですわ。先ほど審判員の彼があげた名前を、ひとつくらいは皆さん、お聞きになった事があるのでは無くて?」「無論。我々が追うまでも無く、世界中の捜査機関が常に捜索していると言っても過言でも無いがね」「しかし、『蛇遣い』の戦犯なる者は存じ上げませぬな」「あのっ!『猫』の戦士さんは何か知りませんか?」「お嬢さんの期待に応えられなくて悪いけど、俺が知っている情報は『獅子』の戦犯くらいだね。戦犯になる前の彼を知る機会があってな…」「いやいや、『猫』殿。お主が警鐘を鳴らした『獅子』の情報は実に興味深いですな。是非とも詳しく伺いたいものですわい」「そこは勿論。可能な限りの情報開示をさせて貰うよ。見返りとして他の戦犯について知ってることがあれば教えて欲しいな。さて、まず彼の技能についてなんだけど──」
『丑』『卯』『未』『酉』『亥』『猫』が互いの情報を交換し始める。言葉が湧き立つ。その情報は自然と無言を貫く『子』『辰』『巳』『午』『申』『戌』の戦士達にも共有されていく。それらが判断材料となり、新たな情報が生まれてくるだろう。
とても良い流れだ。素敵な光景に涙が流れそうだ。慈悲もない殺し合いを幾度となく目の当たりにしてきた寝住にとって奇跡的な光景だった。
しかし、気を引き締めなければならない。戦いは始まってすら居ない。油断も予断も許されない。今警戒するべきは会議に参加せずに沈黙を保ったままの後者六名。
『戌』の戦士・
『午』の戦士・
『子』の戦士・寝住については会話に参加する余裕が無いと言った方が正しい。何せ終始眠たそうにしているが、脳回路を、全力で、『
そして、未だに沈黙を保ち、身を一歩引いた姿勢を保ち、静観を保つ、『申』の戦士・砂粒の存在が不気味で仕方が無い。平和主義者で理想主義者である彼女にとって現状は好ましい状況の筈だ。寝住でさえ諸手を挙げて喜びたい心境である。だというのに、彼女は眉をひそめ、独り考え込むように周囲を観察している。もしかしたら彼女はもっと大局的に事態を見ているのか。それこそ他の者が想像の及ばない程に、悉に可能性を吟味して、警戒しているのか。それ故の対応なのか。
「それでは先ほど去ってしまった『寅』の戦士を呼び戻しに行くとしようかね。単独行動はやはり危険だろう。戦犯側に付け入る隙を与えかねない。私が連れ戻そう。丁度、彼女について気になることがあるからね。誰か同行を願えないかね」「はいはいはい!じゃあ私が!これでも私、捜しものは得意な方なんです!」「その前に、自己紹介は終えておいたほうがよくありませんこと?高貴なるわたくしを知らない方はまさか居ないでしょうけれど、全員が有名人と言うわけでも無いでしょう」何周か言葉を回して、最後に『亥』の戦士・異能肉が最初の出発点に話を戻す。それを聞いて「よっ!待ってましたよ!お姉様!」と『猫』の戦士・音弧が祭り囃子に囃し立てる。
ここに戦士達による決起集会が漸く形となった。
「『亥』の戦士──『豊かに殺す』異能肉」
と、彼女は高らかに名乗りを上げた。
「『猫』の戦士──『好奇心で殺す』音弧」
と、彼は続け様に名乗りを上げる。
「なあなあ。そもそもなんで『猫』は十二支に居ねぇんだ?」「それはな弟よ。その昔、起源となった中国に猫は居なかったらしいぜ?だから十二支に選ばれなかったんだってよ」「へえ、物知りだな兄よ」と断罪兄弟は軽口を叩き合い、軽くアイコンタクトを交わす。
「『辰』の戦士──『遊ぶ金欲しさに殺す』断罪兄弟・兄」
「『巳』の戦士──『遊ぶ金欲しさに殺す』断罪兄弟・弟」
双子の戦士は並び立って名乗りを上げた。
「『酉』の戦士──『
「『卯』の戦士──『異常に殺す』憂城」
「『丑』の戦士──『ただ殺す』失井」
「『未』の戦士──『
「『午』の戦士──『無言で殺す』迂々真」
立て続けに四名が名乗りを上げると、それに一拍遅れて、無言を貫いていた巨漢の戦士がとうとう口を開いた。
そして、その様子に渋々といった様子で更に名乗りは続く。
「『戌』の戦士──『噛んで含めるように殺す』怒突」
「『申』の戦士──『平和裏に殺す』砂粒」
この流れには流石に音を上げて、声を上げた。これまでの文字通りの犬猿の仲だった二人が協調を宣言するのは、寝住からしたら初めてのことだった。その事に驚き呆けていると。
「きみは?名乗らないのかね?『子』の戦士。……それともここに来て、そもそも私達との共闘には反対かね?」
と、失井から直接、話を振られた。
それに対して寝住は名乗りを上げた。
敢えて億劫そうに。敢えて眠気を隠そうとはせずに、名乗ろうとした。
如何にもかったるそうに、如何にも気怠げに名乗ろうとした。
その名乗りは。
「『子』の戦士──『うじゃうじゃ殺す』寝住」
ではなく。
「『牡羊』の戦犯──『数えて殺す』フレンド・シープ」
◇
余りにも一瞬の出来事だった。早業だった。見ているだけしか出来なかった。
終始気怠げに船を漕ぐように頭を揺らしていた最年少の戦士は、最初の戦犯だった。
フレンド・シープは腰に下げた直剣を一閃に薙ぎ払う。その剣筋は実に鮮やかに失井の首を刎ねた。鮮血が跳ねた。間違いなく即死だった。
(充分に警戒していたのに。注意を払っていたのに。油断した!侮った!
そもそもの話、大戦の前から俺自身が襲撃を受けていたじゃないか!だったら何故、他の戦士が同様に襲われている可能性を考慮しなかった!無意識に自身が特異な立ち位置にあると、胡座を掻いていた!得意になっていた!
じゃあ、じゃあ、じゃあ!あれはもしかして───)
目の前の現実を、今更、音弧は
先立つ者が無ければ更改出来ない。