※この作品はR-18です。

【二次創作】十三大戦【頑張って書いた】   作:セイントス

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『獅子の子落とし』って言うじゃなぁい?
 獅子は我が子を谷底に叩き落として、そこから這い上がってきた強い子供のみを育てるって話よ。
 昨今のエリート思考の教育ママさんと同じ発想ね。子供に対するドメスティックバイオレンスよ。児童相談所行きの案件よ?

 げらげら。

 でも分かるわ~。うんうん、分かる分かる。
 だって、他人を陥れるのはとっても愉しいものね♪


 げらげらげらげらげらげらげらげらっ!




第二戦『獅子は生まれて三日にして虎を食う気あり』

(ぐるるう。なーんか気に入らねえんだよなあ)

 『寅』の戦士・妬良は独りぼやいていた。フラフラと揺れて動く千鳥足は心なしか重たく、猫背に丸めた背中は肩を落としているようにも見えた。

 得も言われぬ哀愁を漂わせながら、妬良は潮風が優しく肌を撫でる海岸線を進んでいく。目的らしい目的は欠片ほども無く、強いて挙げるならば、戦士達が集うあの城から遠く離れたかったと言うのが理由だ。

 元々、妬良という戦士は己の感覚を重視するタイプだ。もっと言えば直情的であり、理屈も理念も、ついでに言えば理論も理性も持ち合わせてはいない。

 古城のボールルームから一足先に一人退出したのだって、小難しい話が苦手で、到底聞く気になんてなれなかったからだし、何よりも(なーんか、気に食わねぇ)と思ったからだ。

 これがもし、気分の一つでも良くて、興が乗れば、意気揚々と協同戦線を張っていた事だろう。そのモチベーションにこそ問題であるわけなのだが。

(あの天才さまは、あたいのことなんか、ぜんぜん覚えてねえみたいだしよお──けっ!のっけからやる気なんてゴリゴリ削られちまったよ)

 この酔いどれは戦う気なんて──厳密にはこの十二大戦のルールに従う気なんて、欠片ほども残っていない。何せ彼女だけは他の十二人の戦士達とは違う部分にモチベーションを見出しているせいだ。

 唯一、彼女だけが『どうしても叶えたい願いがあった』からではなく、『どうしても逢いたい人が居た』からこそ、十二大戦に馳せ参じたのだ。

 ここまで言えば、既に分かっているだろう。妬良が逢いたかったのは『皆殺しの天才』、『丑』の戦士・失井である。つまりあのボールルームで彼と念願の邂逅を果たした以上、妬良の願いは達成されてしまっている。

(いや、ぜんぜんされていない──むしろ、顔を合わせたことで、あたいの目的はたっせいできなくなっちまった……あたいの『願い』は。ぐるるう)

 

 

 少しばかり昔話をさせて貰おう。

 

 その昔、清廉かつ利発的な少女が居た。その少女は武を志す拳法家のタマゴであった。しかし、社会の荒波に揉まれ、彼女はやさぐれた。ある日、そんな彼女の目の前に一人の剣術家が現れた。

 彼女は問いました。「どうしたら正しい事が出来るのですか?」と。

 彼は答えました。「まず正しい事をしようと考えるだろう。次に正しい事をする。以上だ」と。

 その日から彼女はやさぐれる事を、ふて腐れる事をやめて、正しい事を正しく出来るようにしようと心に決めた。

 

 

 妬良と失井の二人の物語である。

 構図と字面を追えば、何ともラブロマンスの香りが漂う気がしないでも無い。不良少女と鈍感系委員長のカップリングと考えるならば、思いの外マッチングの相性も悪くは無い。

 しかし、ラブコメルートを期待しているところを大変に申し訳ないが、そのルートを探し当てられそうな『子』の戦士・寝住が既に戦死している以上、その可能性は永遠に訪れはしない。甘ったるく甘酸っぱい青春時代を思い出すような情景を見ることは叶わないだろう。

 

 そもそも妬良にとって、失井と逢うことは『願い』ではあるが、『逢って、如何したいのか』が重要であった。

 

 

 愛の告白?

 

 

 感謝の言葉?

 

 

 まるで違う。

 

 

 妬良は失井との殺し合いを望んでいた。

 

 

 彼女は彼との決闘を望んでいた。妬良は失井と出会ったあの日から、失井と肩を並べるべく、或いは超えるべく努力と研鑽を重ねて来た。

 だというのに、今回の十二大戦はルール上で戦士チームでの共闘を求められる。これでは彼と戦えないでは無いか。妬良はガックリと肩を落とした。

 

 

 ここだけの話。妬良にとって、失井との決闘を決意したのは、あのボールルームで失井と出会った直後の事である。

 妬良がボールルームで失井を見つけ、彼と視線を交わした。僅か数秒間。その後、失井は妬良に興味を示さずに周囲の観察に戻ってしまった。要は妬良の事など眼中に無かったのだ。

 妬良にとって、失井は自身の人生観を変えるほどに重要な出会いを果たした『運命の人』と呼んで差し支えない相手である。だというのに、無視とは余りにも酷いではないか。

 つまり妬良は腹を立てたのだ。自身を、自身との出会いを、まるで何事も無かったかのように処理された事に、酷く腹を立てたのだ。

 だからこその対抗心と言うべきか。彼女は失井に自分を視界に入れさせるために、決闘という手段を選んだ。

 

 

 ここだけの話。失井は妬良の存在を気にはしていた。彼は彼女との出会いをしっかりと覚えていた。

 失井にとって、妬良との出会いは価値観を明確化するほどに重要な出会いを果たした『運命の人』と呼んで差し支えない相手である。しかし、あの時の『運命の人』と妬良が同一人物であることに、失井は気が付いていなかった。せいぜい面影があると、気掛かりになる程度だった。

 失井が妬良から視線を外したのだって、ボールルームで彼女と出くわした際に、彼女が失井に敵意を懐いていなかったからこそ、警戒を解いたのだ。そこにそれ以上の、或いはそれ以下の意味は含まれていない。

 だからこそ、失井は彼女を呼び戻そうと、行動しようとした時、志願したのだ。改めて共闘となった今こそ、当初気掛かりだった疑問もまとめて確認しようと。話しかけようとしたのだ。

 

 

 もしも、失井が『運命の人』と妬良を誤認せずに、同一人物と認識できていれば、事態はもっと好転していたことだろう。妬良だって、自身の成長を自覚する切っ掛けさえあれば、無理に決闘という手段に出なくても、どうにかなっただろう。しかし、喜ばしくも悲しい事に、それは難しい事だ。

 何せ妬良は失井と出会ったあの日から努力を積み重ね、見間違える(・・・・・)程に…いや、見違える(・・・・)程に成長し、変化していたのだ。それこそ、天才の彼が気が付けぬほどに。

 

 

 随分と間抜け(・・・)な話だとは思わないか。

 

 

 そんな間抜けの辿る道はただ一つだけだろう。

 

 

◇

 

 

 妬良は不意に立ち止まり、海を眺める。絶海の孤島。太平洋のど真ん中にあり、世界のどの国の海域にも属さない、手付かずの自然。美しい空の青と海の青が広がり、時折押し寄せる白波が細い線となって、真っ新なキャンパスに筆を走らせる。その姿形に同じ物は無く、どこまでも永遠に変わっていく。耳を澄ませば、ざぁざぁと波が砂浜に押し寄せる音が聞こえてくる。足元には、きめ細かい硝子のように美しい砂浜が広がり、一度踏み締めればギュムギュムと粒が擦れる音を鳴らして、足の裏にその感触が伝わった。

「…海……海ねえ」

 ここに来た理由がバカンスであれば、せいぜい羽を伸ばして、このオーシャンビューを堪能したいものだ。頭数が揃っているならばビーチバレーも捨てがたい。

 そこで何を思ったのか、妬良は上に着ていたライダージャケットを脱ぎ捨て、近くの適当な大岩に掛ける。すると妬良の姿は丁度水着を着ているようにも見えた。虎柄ビキニは中々に攻めたデザインと言えたが、着替えなんて無いのだから仕方は無い。

 

 そして彼女は海へと向かっていく。

 

 波打ち際の水に濡れるかどうかの瀬戸際で、妬良は一度足を止める。少しだけ、呼吸を整えて、先ずは一歩、海へと足を踏み入れる。待っていたかのように波が押し寄せて、妬良のブーツの先を濡らした。そこから更に一歩、更に一歩、と踏み出して、水位は足先、足の甲、踝、脛へと上がってくる。

(流石に…襲って来ねえみてえだな)

 『猫』の戦士・音弧はたしか、『海を操る技能を持った奴に襲われた』と言っていた。だったら、その人物は海をテリトリーとしているはずだ。だからだろうか、妬良が海岸を彷徨っている理由があるとすれば、そこだ。

「帰るとしたら…やっぱり、そいつをどうにかしねえとな」

 頭で考えて行動するタイプではない妬良にしては、随分と冷静な判断だ。

 十二大戦を放棄するならば、早速帰る算段の一つでも立てる必要がある。流石にこの離島から別の島まで泳いで渡る気にはなれない。船なりイカダなりを用意して帰るしか無いだろう。

 仮に、自力で航海をして、この島を脱出出来るかと聞かれたら、水や食糧の関係を考慮しても不可能に近い話ではある。

 しかし、海を占領している者を排除しなければ、島を出ることすら叶わないという点は、正に正鵠を射ていた。

 

(…あれ?そもそもなんであたいはあのスケベの言葉を真に受けているんだ?)

 ふと、妬良はここで前提条件に立ち返る。これらの情報は元々『猫』の戦士からもたらされた物だ。果たして、これは正しい情報なのだろうか。

 そもそもアイツは運営が用意した特殊な戦士で有るが故に、何かしらの後ろ暗い事情の一つでもあるかも知れない。案外内通者と言う可能性もあるのではないだろうか。

「ぐるるぅっ!?何だかモヤってくるぜ」

 考えれば考える程に深みに嵌まる。元々彼女は考えて行動するタイプの戦士では無いのだ。いつもならば、腹一杯に大酒をカッ食らって、頭の中をぐるぐると掻き交ぜるように酔わせて、細かい物事は放棄して、ただ純粋に目の前の物を見て、直感で決めて、勘で動く。それこそ本来の彼女の戦闘スタイルだ。

 現在、彼女は自身の持ち味を生かせていない。何せ今日の彼女はまだ一滴も酒を味わってはいないのだ。

「あぁっ!!やめだやめだっ!第一に何であたいは無い頭を必死こいて絞ってんだい!こんな時は自棄酒でも飲んでパーッとしたいねえ!パーッとっ!!」

 五分ほど海に浸かりながら自問自答を繰り返した末に、とうとう妬良は思考を放棄した。鬱屈とした気分は酒を飲んで忘れるに限る。

 しかし彼女の手荷物──そもそも身一つでこの戦場に訪れたため──にアルコール類は入っていない。どこかで酒を調達する必要がある。島の中にコンビニエンスストアやマーケットでも有ればいいのだが、生憎と戦場として作られたこの島に民間人がいるとは思えない。酒を提供するバーやパブや居酒屋やビアガーデンの存在も望み薄だろう。あるとすれば…。

「あぁーっ……しまったぁ。城の中かぁ…」

 あのボールルームにはささやかながら食事が用意されていた。並べられたドリンクはすべてソフトドリンクで、アルコール類は見当たらず、妬良は酷く落胆したのを覚えている。しかし今にして想えば、厨房に料理酒くらいはあったかも知れない。

 かといって、今更あの城に戻って、他の戦士と出会すのは少しばかり気不味い。

(取り敢えず、適当に島の中をぶらついて探すか…)

 計画と言うには余りにも大雑把な予定を決めて、ライダージャケットに袖を通し終えた所で…。

 

 

「海水浴はもうよろしいのですかな?お嬢さん」

 

 

 声を掛けられた。しかし、妬良には聞き覚えの無い声だった。そもそも、声どころか顔すらロクに覚えられない妬良であったが、そんなことは大した問題では無い。

 何故なら、この島に居るのは十三戦士と──

 

 

「『蟹』の戦犯──『紳士的に殺す』サー・カンサー」

 

 

 ──十三戦犯だけだ。

 

 

◇

 

 

 その紳士──『蟹』の戦犯・サー・カンサーは何の前振りも無く現れた。

 まるで買い物帰りの街角でバッタリと出会した近所のお爺さんのように、まるで毎日通っているトレーニングジムですれ違った同僚のように、目の前に現れた。あまりも自然に、日常に溶け込むかのように、物腰柔らかに、親しみを込めるかのように、声を掛けてきた。

「いやはや…『蟹』の戦犯なだけに海まで足を運んでは見ましたが、やはり日差しが強いですね」

 真夏の太陽の様にジリジリと照りつける日差しに耐えかねたのか、サー・カンサーは手にしたステッキ傘を日傘の代わりに広げて差す。その割りには涼しい顔をしており、汗も大してかいてはいないようだった。

 

(十三星座の戦犯──だっけ?今回の大戦のターゲット…獲物役)

 相手を見据え、妬良にしては意外な程に冷静に断定する。丁度酒が入って居らず、幾分か意識がハッキリとしていて、理性があるためか、妬良は自身の状況の悪さを理解する。素面で在るが故に、理解してしまう。

 仕方なしにと。或いは苦し紛れにか。妬良は砂浜に四つん這いになる。牙を剥きだし、爪を立てて、身構える。手足を用いた四足歩行による獣擊戦は、彼女の戦闘スタイルであった。

「おやおや、その構えは今までに見たことも聞いたこともありませんね?

 その様相もあって、正に虎の如し。確かにその構えならば、体の正中線も一直線に隠れてしまうので、理に適っておりますな。お嬢さん、それは一体何所の流派ですかな?」

 対して彼は妬良の戦闘スタイルを興味深く観察していた。観察と言うよりは鑑賞と言った方が適していて、その顔に感心の念が強く含まれていた。

(…なんだ?…このじーさん。これじゃあまるで…)

 確かに目の前に居る戦犯は相当に修羅場を潜ってきた傑物であると直感で分かる。しかし、当の相手に敵意が無い。戦う気が無い。妬良は目の前に居る戦犯が、不戦の姿勢を示し続けることに、少なからず困惑していた。

 

「……あぁ、失礼。『敵意を向けられているのに、何故抵抗する素振りを見せないのか?』と疑問に思っているご様子ですね。

 貴女は悪くありませんよ。それは戦士としては極めて真っ当で、理に適った対応と判断です。

 しかし、ぼくは『戦わない事に全力を費やす』ことこそが、ぼく自身の戦い方ですので」

 十二大戦は既に始まっている。しかし、妬良はその事を知らない。何よりも『戦うつもりの無い相手を殺すことは出来ない』という、戦士としての常識と良識が、野生の勘を邪魔する。

 野生の勘と表したが、妬良という戦士は酔拳使いであり、酒を飲み、酔うことでその強さを発揮する。いいかげんで、やる気なんて到底見受けられない彼女は、これでもそこそこに思慮深い女である。その思慮深さが迷いを生み、遅れを生み、弱さを生む。だからこそ、彼女はその弱さを、酔わせて、弱らせて、『酔った勢いで』殺すのだ。

 彼女は酒に溺れる、弱い女だ。しかし、酒に溺れてなければ、か弱い女でもあるのだ。

 

「戦うつもりがあろうと、無かろうと、関係ない話だと思うけどねえ。知ってるか知らねーか知らねーけど、今、あんたら、あたい達の獲物になってんだぜ?第十二回十二大戦の内容は『十三戦犯狩り』なんだからよう」

「これはこれは親切にありがとうございます。しかし、ならば、何故すぐに襲って来ないのですかな?ここに戦犯が一人いると言うのに」

「ぐるるう。……目的を言え。あたいに──あたい達に何の用だ?」

 酒さえ無ければ、冴えていれば、妬良は考えてしまうのだ。現在の戦況を。相手の挙動、言動を。そして目の前に立つこの『戦わない事を是とする戦犯』が臆すること無く立ち続ける理由を。

(そもそも、あたいはこのじーさんを殺して良いのかよ?十三戦士と十三戦犯──戦わなくちゃいけない理由があるのかよ?)

 だからこそ対話が成立してしまう。

 

「……ぼくはね、戦争が嫌いなんですよ」

 戦犯の口から漏れた第一声は強く本音が出ていた。

「ぼくはね、戦争が嫌いなんですよ。戦争の為に集められた資金も資源も人材も環境も時間も、結局、仁義なき殺し合いに費やされていく。夥しい量の命を削り合い、漸く戦争が終結して得られる戦果と成果は、僅かに自国を潤すだけだ。それすら数年、数十年で貪り尽くして、新たな戦火を生む。それだけの人財があるならば、もっと有意義に使うべきだ。人を救うために使うべきだ」

 開いた口が塞がらない。目の前の戦犯は、戦犯でありながら、実に真面目に真っ当に、自身の言葉を言い放つ。平和を謳う。綺麗な理想を掲げる。何処かの『平和主義者』のように。

「これでもぼくは戦犯になる前には戦士として、『戦争交渉人』を生業にしていました。数多くの戦争を停戦に、更に完全な平和を目指して、橋渡し役を担っていたものです」

「……へぇ…その平和の使者様とやらが、何でまた戦犯に?」

 気が付けば妬良は話を遮るどころか、更に先を促していた。妬良にとって、彼の言葉は聞くに値する内容に思えた。何せ、酒に溺れる前の、か弱かった頃の、彼女が常々考えていた、懐いていた疑問に関する話だったからだ。

 

 様々な理由を掲げて互いを殺し合う。『どうして人間同士が戦わなくてはならないのか』。隣に居た仲間が一発の弾丸でアッサリ死んだ。『命の価値とは、どれくらいなのか』。苦労して救った国は馬鹿な新政府の圧政で滅んだ。『人間は生きるに足る生物なのか』。戦えば戦うほどに戦火は広がりを見せていく。むしろ戦争を活性化させるために利用された。『人間が絶滅したら地球は救えるんじゃないのか』。あの頃の妬良は苦しんでいた。一つ、また一つ戦争を終えれば自分の掲げた正義が価値観が理想が倫理が良識が悲鳴を上げ、矛盾し、歪んでいった。結局、妬良は答を見つけることが出来ずに、放棄して、酒に逃げるしか出来なかったのだ。

 

 しかし、目の前の紳士はそれに立ち向かった。妬良には出来ないことをした。敵でありながら、戦犯でありながら、尊敬に値する行いに思えた。

「『内通罪』ですよ。完全な和解を追求しての交渉が、両国から『二重スパイではないか』と有らぬ疑いを掛けられましてね。まぁ、全くの潔白、全くの冤罪とも言えませんがね。実際、法に触れるギリギリの所まで手掛けていた物ですから、弁明の余地も無く、功績を剥奪され、世界中から追われる身となりました。

 しかしね、おかしいとは思いませんか?英雄だと持て囃される戦士達だって、視点を変えれば大量殺人を繰り広げる殺戮者だ。『人殺し』という犯罪者だ。我々戦犯と何処が違うのか?『勝てば官軍』?『負ければ賊軍』?但単に『勝敗』のみで線引きをしたとでも言うのか?本質は何も変わらないというのに──同じ罪人だと言うのに。

 要は押し付けているだけだ。戦士が英雄として褒め称える陰で、その分の割を食わされた被害者こそが戦犯だ。戦争犯罪者だ。英雄になれなかった者達だ。

 戦争があるから戦士が生まれる。戦争があるから戦災が生まれる。それらが生まれるからこそ戦犯が生まれるのだ。実に不毛で理不尽では無いか。ぼくを含め戦犯達は、戦争さえ無ければ戦犯になることも無かった」

 サー・カンサーが言葉を重ねる毎に、次第に熱を帯びていく。吐き出される言霊は力強く、物腰柔らかなままの老人のそれでは無かった。

「だからね。ぼく達は戦争を止めに……いや、なくしに(・・・・)来たんだ。日蔭に追い遣られた戦犯達で、徒党を組んで、悪党を成して、この十二大戦を台無しにしてやろうと思っている」

 だからこそ、彼の言葉が本気であると解った。

 

(…十二大戦を…台無しに?)

 妬良には、十二大戦を阻止する行為が戦争を止める行為に発展するのか、まるで理解できない。しかし、当初に繰り出した尋問の答えについての返答を含むことだけは理解した。

(つまり、あのスケベが予想していた『内部分裂』じゃあ無くて、『外部からの侵略』だったって訳だ)

 十二大戦の運営が提示した『戦犯達を捕らえれば、全員の願いを叶える』という異常なまでの報酬は、謂わば『十二大戦』のしきたりを守るための緊急処置とも考えられる。それなりに伝統を持つこの十二大戦が狙われたとなれば、かの運営委員会やその上に立つ有力者が黙っているはずは無い。外敵の排除のために。どうにかこうにかして、十三戦士を十三戦犯にぶつけたいと思うはずだ。なるほど得心がいった。

 しかし、この十三戦犯達が喧嘩をふっかけてきたからこそ、この度の十二大戦が『共闘ルール』に変更されたのかと思うと、少しばかり腹が立った。

 

 

 腹いせに目の前の傍迷惑な犯罪者を殺したくなってくる。

 

 怒りのままに、怒りによって、怒りに酔って。

 

 目の前の戦犯に飛び掛かろうとして。

 

 咄嗟に後ろに跳ねた。

 

 

 先程まで妬良が居た場所に、何かが飛来した。まるで流星でも堕ちてきたかのように、頭上から、垂直に。

 何かは地面に着陸すると盛大に砂柱を立て、派手に砂ぼこりを舞わせた。

 

「……ありゃ?外しちまった」

 着弾点と呼ぶに相応しい小さなクレーターの中央から、拍子抜けしたのような、或いは驚き感心したような声がした。

「あー…駄目だ。随分と体が鈍っちまってるみてぇだな」

 飄々(ひょうひょう)とした口調で軽口を溢す、新たな乱入者。

「──ともあれ、名乗りくらいはちゃんとやっとかねえとなぁ」

 もっとも、そいつは同じネコ科であっても、猫(ねこ)では無く、虎(とら)でも無く、況してや豹(ひょう)でも無い。

 

「『獅子』の戦犯──『統(す)べて殺す』ダンディ・ライオン」

 

 軍服姿の大柄な戦犯がこの場に現れた。さながら獲物を狩る肉食獣のように、不敵な笑みで。

 

 

◇

 

 

「…彼女と対面してから約五分。流石ですね、キング」

「おいおい、サー・カンサー。いきなり戦士の前に姿を見せるなんて、随分と危なっかしい真似をしてくれるなあ。うっかり死んじまったら、どうするつもりだったんだよ?」

「彼女のお相手を担えそうなのが、ぼくしか居ませんでしたからね。老体だからと後方でのうのうと構えているわけにもいきませんよ」

「第一に、この場所はドクターとミーの担当じゃねえか。わざわざ、正反対のポイントに待機してた俺を呼び出すんじゃねえよ」

「『蟹』の星座の次は『獅子』の星座がやってくると、順番で決まっていますからね。実際、きみならこの場に来るのも余裕だったはずです。

 後、理由についてですが…、彼女達からは急遽プランの変更を求められましてね。若い子のお願い事に答えるのも年寄りの甲斐性でしょう?」

「それは暗に俺も年寄り側だって言ってるのか?」

「年功序列で見たらそうでしょう?」

「違いねえ」

 世間話でもしているかの様に気安く、言葉を交わす戦犯二人。獅子の様な大柄な戦犯は愉快そうに笑みを溢した。豪快な笑みを苦笑するかの様に噛み殺し、目の前の妬良を抜かりなく見据えていた。

(…しまった。これが狙いか)

 サー・カンサーの戦闘意欲の無さに油断しないように警戒はしていた。こちらの隙を突かれないように、不意打ちを許さないように身構えていた。

 しかし、サー・カンサーの狙いは時間稼ぎだったのだ。『戦わない事に全力を費やすことこそ自身の戦い方』と宣っていたが、確かに間違いでは無かった。自身は戦わない事だけは本当だった。

 いや、そんなことは些末な問題だ。それ以上に…。

(あいつ、一体全体どこから現れやがったんだ?)

 妬良が最初の一撃を回避できたのは偶然に近い。普段の酒に酔った、野生の勘が研ぎ澄まされた、万全の彼女であれば問題なく捌ける奇襲であった。

 しかし、素面の彼女がその奇襲に気が付いたのは、偶然に近く、砂浜にチラリと映った小さな黒点のような影が見えたお陰だ。それが無ければ回避できたかさえ怪しい、それほどに現在の彼女は調子が悪かった。

(まさか空から振ってきたとでも言うのかよ?)

 戦犯二人を警戒しながら、改めて周囲を見る。妬良とサー・カンサーが居た海岸線にはやはり、頭上から飛び降りることが出来そうな高台の様な物は存在しない。せいぜい少し離れた場所に見える防風林くらいなものだ。

(確か、あのスケベが言ってたことが本当なら…あれが…)

 

 

『せめて忠告。『獅子』に遭ったら、全力で逃げろ。

 ……彼は1対1の状況下では『皆殺しの天才』すら凌駕する』

 

 

 『猫』の戦士・音弧曰く『獅子』の戦犯・ダンディ・ライオンは、十三戦士の最高戦力と呼ぶに相応しい『丑』の戦士・失井と同等。或いはそれ以上のスペックを秘めていると注意してきた。

 しかし、妬良にとっては不幸なことに逆効果だった。

(じょーとーだ!今ここであたいがブッ殺してやるよ!)

 元々、彼女は失井と会うために──延いては死合うために、この島にやってきたのだ。だと言うのに、共闘のルールで失井との戦いをお預けされてしまったのだ。あんまりではないか。

 せめて、彼の皆殺しの天才と同等とまで評したこいつを殺せば幾分か気は晴れるだろうか。

 

 

「『寅』の戦士──『酔った勢いで殺す』妬良」

 

 

 砂地という不安定な足場を全力で蹴る。常人よりも遙かに速い速度で、一速、二速、四速と加速する。

 

 

 

 

「跪(ひざまず)け」

 

 

 

 

 たったの五文字。ただそれを聞いた瞬間に、妬良は地面に伏せていた。丁度、目の前に居る王──百獣の王(ライオン)に頭を垂れているかのようだった。

(なっ!?体が…)

 再び立ち上がろうと、起き上がろうと妬良は四肢に力を込める。しかし、真上から全体を押し潰すような圧力がかかり、腕一本動かすのも億劫な程だ。まるで、獅子の咆哮に身を竦ませる小動物の様では無いか。

「ったく。キングである俺に牙を剥くたぁ随分と躾のなってねえ小娘だ……なっ!」

「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁっ!!?」

 ダンディ・ライオンは悠然と歩み寄り、地面に縫いつけられたかのように身動きできない妬良の腕を、ごく自然に掴み挙げると、一息に捻り上げる。肩からゴキリと音が鳴った。

「関節を外したぐらいでそんなに喚くな…よっと!」

 続け様に妬良の両肩を外す。その激痛に妬良は悲鳴を上げることしか出来なかった。

「さて、終わったぜ。サー・カンサー」

「ご苦労さまです。キング」

 一仕事終えたかのように溜息を一つこぼして、ダンディ・ライオンは戦闘の終了を告げた。そこに血を流すような凄惨な戦いは無かった。それ以上に凄惨な光景しか無かった。そもそも戦いすら起きてはいない。理不尽で一方的な蹂躙と呼ぶのも憚(はばか)られる。流れ作業と表現するのが一番相応しいと言えるほどの手際で、妬良を制圧してしまった。

「にしても、何でまた生け捕りを所望したんだ?俺達の時代は殺せる内に殺してしまうのがモットーだったろ?」

「ぼくにも彼女達と同じように少々気掛かりな点がありましてね。所謂保険という奴ですよ」

「まぁ、参謀殿が良きに計らってくれるってんなら、素直に従うさ。それで?本来ここに居るはずのドクターとミーの奴はどこで遊んでやがんだよ」

「まだ、メイと共に城の中に。まぁ、用事が済み次第、キングの本来の待機ポイントのカバーに入って貰いますよ」

 会話は既に別の内容へと進んでいた。未だ目の前に居る、死んでは居ない妬良のことなど乱雑に置かれた手荷物程度の認識しかしていなかった。

「ぐるるう」

 悔しい。文字通りの砂を噛む様な思いだ。結局の所、妬良は何も出来ていないのだ。自身が望んだことも、臨んだことも。なにもかも一蹴に片付けられてしまった。

 

 

「…おや?」

 突然電子音が鳴り響く。何事かと思えば、どうやらサー・カンサーの携帯電話に着信があったようだ。こんな絶海の孤島という秘境中の秘境、況してや人一人住んでいないような島にまさか電波が届くとは思いもよらなかったが、戦犯達が事前に用意した物だろうか。

「…あなたですか。どうしましたか?……えぇ…わかりました。少々お待ちを」

 電話の主と一言二言言葉を交わし、サー・カンサーは携帯電話を操作した。

《はぁい、紳士(ムッシュー)。それとキングもご機嫌よう。私、伏線ちゃん。今あなたの後ろに居るの。………嘘だけどねっ!!げらげらげらげらげらげらげらげら!

 つーか、私、今は『蛇遣い』の戦犯・ホール・ディ・サーペンタだったわ。うっかりしてたわ。げらげらげらげら!

 それよりも報告よ報告。リポートよ。やっと全エリアの監視カメラと集音マイクの同期が終わったわ♪事前に現地入りして島中に地雷と一緒に設置に回ってくれたヘブンちゃんとキングとあの巨乳には感謝感激雨霰時雨五月雨乱れ突き夕立総立ちスタンディングオベーションって奴ね♪これで島中の隅から隅まで、すっと、まるっと、お見通しよん♪あっ、なんだったら今から実況する?私、実はやってみたかったのよ、メインパーソナリティーみたいな奴?『紳士淑女の皆様、(レディース)大変長らく(エーンド)お待たせ致しました(ジェントルメーン)!』とか格好良く決めてみたりしちゃったりしてさぁあ?げらげらげらげら!!》

 壮絶あるいは躁舌とでも言うべきか。携帯電話の向こうから耳を塞ぎたくなるような、新たな戦犯の、おぞましい、金切り声にも似た笑い声が迸った。

「報告ありがとうサーペンタ。では切ってもいいですか?」

《まさかのスルー!?私に対するリアクションは何処へ行っちゃったのよう!?もっと弄ってよう!あっちこっちもっち思う存分弄ってよう!!げらげらげらげら!!》

「あんま遊んでんじゃねえよ、このイカレ女」

《げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらっ!!

 マジでゴメン、メンゴメンゴ。じゃあ今から真面目な話するわ。

 潜伏してたフレンド・シープがたった今、『丑』を屠殺(・・)したわよ。不意打ちからの首チョンパ!!いやー、本当に鮮やかな手際、あの娘あんなに可愛い顔しておいてマジでエゲツないわー。『牡羊』の戦犯だけど、元深窓の令嬢だから、粛々とした草食系な淑女(レディ)かと思いきや、むしろ粛清的なガッツリ肉食系だったわー!げらげら!

 とにかく!大手柄には間違いないわね!何せ相手はあの『皆殺しの天才』様よ!あれに勝てそうなカードってキングと暗殺者くらいのものだったじゃない?きゃー!誉めたげてっ!拍手喝采に、思う存分誉めたげてっ!お祝いにお洋服をプレゼントするといいわよ!でも彼女、服には並々ならぬ拘りがあるから一週回って布切れあげた方がもっと喜ぶわよ!》

 

 思わず顰めっ面をしてしまいたくなるほどに鬱陶しい、言葉の機関銃が乱射されていく。その内容にサー・カンサーは満足そうに口角を上げ、ダンディ・ライオンはうんざりとした様子で口をへの字に曲げる。そして、妬良は呆けていた。自身が負傷していることを忘れるほどに。

(失井が…死んだ?)

 妬良は信じられない物を見るような目で、目の前の対話──通話を聞いていた。あの失井がまさか殺されるなんて、想像すら出来ないのだ。しかし、その妬良の思いを汲み取るものは何処にも居ない。

《しっかしねー…げら…あの『皆殺しの天才』様の…げらげら…し…死に顔といったらっ…げっ…げっ………げらげらげらげらげらげらげらげら!!なんつー間抜け面こさえてんのよっ!思わず私、大大大爆笑だったわ!!はっはーっ!!サイコーっ!これだから止められないんだわーっ!!!げらげらげらげらげらげらげらげらっ!!!》

 そんな妬良の心情を余所に、電話越しの女は愉快に笑い声を上げていた。その笑い声を聞く度に、妬良は心の奥に沸々と煮え滾るものを感じた。普段浴びるように酒を飲み、酒類を問わず度数を問わず限度を知らずに詰め込んできていた彼女の腸(はらわた)。まるで酒で満たされたそれに、火をくべたかのように、全身が燃え上がった。

「ぐる…ぐるるうっ!ぐるるぁぁぁっ!!!」

 妬良は突如立ち上がった。ダンディ・ライオンが使っていると思われる謎の力は依然として消えてはいないし、加えて動きを封じるように彼自身も妬良の上に乗り、重石となっている。

 それすらも全て撥ね除けて、妬良は起き上がった。火事場の馬鹿力に押し負け、ダンディ・ライオンは「うおっ!?」と驚いた声を上げて、蹈鞴を踏んでいた。

「ぐるるぁぁぁっ!!?」

 脱出の機会を得た妬良は一直線に駆ける。両腕を封じられて、動くのはたった二本の足、武器は牙のみ。それだけを携えて、彼女は目前のサー・カンサーに飛び掛かった。

 

「平伏(ひれふ)せ」

 

 しかし、一手遅れながらもダンディ・ライオンは妬良を再度取り押さえた。妬良の頭蓋を砂地に叩き落とすかのようにかけられた負荷は、手負いの虎を統べてねじ伏せていた。

《げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!!ぶ・ざ・ま・っ!!

 同じ手に捕まるなんて、学習能力どうなってんの?オツムも無いし、チチも無い、てんで救いようの無いペチャパイガールねっ!げらげらげらげら!》

 妬良の決死の特攻の拍子にサー・カンサーの手のひらから取りこぼした携帯電話が砂に埋もれる。眼前のスピーカーからは、死の報告をした忌々しい(ペチャパイって言いやがった)女が愉快そうに笑っていた。

《あー…そっかそっか。忘れてたわ-。あんたそう言えば、あの『皆殺しの天才』様と深い因縁があるんだっけ?何々?何があったの?殺されたの?誰を?家族?友達?それとも恋人?んなわけないわよねえ?だって、あなたの家族はご健在みたいだし、あなた自身、浮いた話も聞こえないし?そもそもそんなガサツで飲んだくれな貧乳女に貰い手なんて居るのかしらね?

 ところで話を戻すけど、あなたと彼って実は面識あるんでしょ?確か…三年前。…ビンゴ!三年前の戦争で一緒の陣営になった記録が残ってたわね!あぁ、いいのいいの、別に隠さなくても分かってるから。調べた結果だから。じゃあさじゃあさ、因縁があるとしたら、その時になんかあったって事よね?何?手柄を横取りでもされたの?》

「…こ…」

《……こ?》

「殺すっ!?」

 

《……げっ…》

 

《……げっ…》

 

《げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらっ!!こ、殺すっ!?誰がっ!?誰をっ!?げらげらげらげらげらげらげらげら!!

 もしかして、あなたが失井を?もう死んじゃってるのに?

 それとも、あなたがサー・カンサーを?彼はあなたに何もしてないわよ?

 やっぱり、あなたがダンディ・ライオンを?あなたING現在進行形でボロクソのボロ雑巾にされてんじゃない!!

 そうじゃないなら、失井を殺したフレンド・シープを?今のあなたには、もう無理じゃないかしらね-?》

「テメエをだよ…このイカレ女」

《げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらっ!!

 なんで私よ?私、あなたにはなにもしてないわよ?怨まれる筋合いなんて欠片も無いわねぇ?むしろ失井の凶報を速報した私に感謝するべきじゃ無いかしら?「ありがとうございます」はちゃんといえまちゅかぁ?

 それとも何かしら?ペチャパイガールって言ったの気にしてるの?コンプレックスだった?それだけで殺すとかちょっとばかりバイオレンス過ぎない!?まぁ、安心しなさいよ。何せ私の方がツルペタガールよ。五十歩百歩の団栗の背比べな話だけど気にしちゃあ負けよ。結婚?あぁ、私はいいのいいの。性格最悪なのは十分承知だしね。納得ずくだしね。あーでも処女はやだなー。死ぬまでに一度くらいは男に抱かれてみたいかなー。どうせ抱かれるなら……って何言わせんのよっ!いやん!ばかん!バカンスでアバンチュール!げらげらげらげらげらげらげらげらっ!!》

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!!」

 

 声が癪に障る。

 

 話し方が癪に障る。

 

 笑い声が癪に障る。

 

 何もかもが癪に障る。

 

 そして何よりも────

 

 何よりも───

 

 なんだ?

 

(どうして怒りが治まらない)

 

 妬良の腹の底から、拭い落とせぬほどにどす黒く、焼けるほどに熱い激情が、止め処なく溢れて全身を満たしていく。

 しかし、体がついていかない。拘束を振り切るほどの力は残って居らず、藻掻くことしか出来ない。第一に、怒りの矛先を向けるべき筈の女はそこには居ない。目の前には今も不快な音声を掻き鳴らす、喧しい通信機があるだけだ。

 

《うんうん!さっきよりも殺気な素直な感情ね♪げらげらげらげらげらげらげらげらっ!壊れかけのオルゴールみたいに、殺意をヘビーローテーションしてんじゃないわよ!だいたい!初めっから素直にしてりゃあ良かったじゃないの!あの失井と接点持ちたかったんなら声の一つでも掛けりゃ良かったじゃないの!あのボールルームで!十二大戦が始まる前に!デートでも、デットオアアライブでも誘えば良かったじゃないの!?そんなんだから先に逝かれちゃうのよ!!げらげらげらげら!》

 

「ぐるるぁぁぁっ!!!」

 

 

 

《はーっ!!笑った笑った!折角だからちゃんと自己紹介してあげるわ。

 

 『蛇遣い』の戦犯──『手を汚さずに殺す』ホール・ディ・サーペンタ

 

 それではご機嫌よう!もう二度と会うことはないでしょうね。

 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらっ!!》

 

 

 

 無残にも妬良は何も出来ないままに捕らえられた。

 現在、彼女の生死は不明である。

 

 

◇

 

 

 

 

 

 

《…………あっ!言い忘れたんだけど。

 フレンド・シープね、戦士チームに捕まっちゃったわよ。生け捕りよ生け捕り。

 残念無念、彼の執念に観念って感じかしらねー?

 げらげらげらげら!》

 

 

 

 

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