※この作品はR-18です。

【二次創作】十三大戦【頑張って書いた】   作:セイントス

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『一筋の矢は折るべし十筋の矢は折り難し』って言うじゃなぁい?

 ここまでの戦況は実に順調♪快調♪大絶頂♪
 何しろスタートダッシュで戦士三人を屠ったものね♪

 げらげら。

 ……でも、ここからが正念場よ?現在、生存している戦士は十人。束になって懸かられたら、戦犯なんて一溜まりも無いわぁ。
 まあ、一人は既に戦犯の手の中にあるわけだし、初志貫徹して、一本一本正確に、慎重にへし折っていけば、何も問題は無いわよね?

 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらっ!





第四戦『嚆矢(こうし)』

 時間を少しだけ遡る。

 双子の戦士の片割れ、『辰』の戦士──断罪兄弟・兄が死ぬ寸前の話だ。

 

 

 一人の男が佇んでいた。和装姿の男性。黒髪の短髪。精悍な顔付きに顔を二分せんばかり大きく目立つ切り傷跡を持つ男であった。

 男は大きく息を吸い、気を整えると、背に負った矢筒から一本の長い矢を抜き取る。左手に携えた長弓に宛てがい、射撃の構えを取る。

 

 

 足踏み──胴造り──弓構え──打起し──引分け──。

 

 

 自然と早鐘を打つ心の鼓動を静寂の中に沈め、意識を深く、深くに沈める。のめり込む。雑念を排し、意識するのは己と的の二つのみ。

 

 

 会──離れ──残心──。

 

 

 弓道に於ける基礎中の基礎技術である射法八節に則り、淀みなく放たれた一筋の矢。指先が離れ、弦の弾む音を響かせて、矢が飛び出していく。白羽の矢が空気を切り裂いて、先へと進めば、その音が自然と大きく、己に響く。音も次第に遠くなり、やがては聞こえなくなる。

 しかし、尚も矢は遙か遠くへと飛んでいく。その先に在る、的に目掛けて一直線の軌道を描く。かくして矢は、想像を絶する超長距離をものの数十秒で駆け抜けて、最終的にその先に居た一人の戦士を射貫いた。

 

 

「『射手』の戦犯──『狙い澄まして殺す』ウンスン・サジタリ」

 

 

 ウンスン・サジタリは戦犯としての名乗りを静かに呟いて、一度構えを解いた。

「未(ま)だ未(ま)だ未熟でござる。もっと鍛錬を積まねばならぬな…」

 そう言って、小さく肩を落とし、溜息を吐いた。そのように彼は謙虚にも己を戒めているが、彼の技量は達人の域に足を踏み入れている。

 何せ、彼が狙った的は、ここより何キロも離れた場所の戦士の首だ。念の為、補足の為に言っておくと、弓道に於ける射手と的の距離は、近的で約三十メートル、遠的で約六十メートルだ。そのような文字通り桁外れの距離を、木々の隙間や細く暗い路地裏などの、非常に狙撃難易度の高い射線を貫いて、的を射たのだ。『矢張り』『離れ技』と呼ぶ他無い。

 そもそも彼が的を外したのは、彼に非が在るからでは無く、的が勝手に動いたのが原因だ。本来、彼の有志である『双子』の戦犯──ダブル・マインドが道を塞ぎ、『水瓶』の戦犯──マペット・ボトルが武器を奪い、虚を突いた所を──彼が射止める三方挟撃による作戦だった。その必勝法により、『辰』と『巳』の戦士──断罪兄弟は手も足も出ず、天を飛ぶことも、地を這うことも出来ずに死ぬはずだったのだ。それが予期せぬ乱入者の手により、的が予期せぬ動きをしたに過ぎない。

 気を取り直して、再び矢を手にして構える。今し方仕留め損ねた戦士──断罪兄弟の片割れを殺すために、意識を集中させる。再び弦の鳴る音がした。

 

 

「…誰ぞ?」

 突如、茂みの方から物音がした。まだ、他の戦士が行動を開始したという連絡は受けていないが、射法に没頭している最中を狙われては一溜まりも無い。

 満足に果たせぬ残心を幾何か名残惜しんで、ウンスン・サジタリは草むらを警戒した。

 

 

「…うぅ…」

 草むらから姿を見せたのは小柄な少女だった。華奢な体を羊毛の様に柔らかい衣服で包み、頭には可愛らしく白いスカーフを髪飾りにしている。真っ白な長髪は邪魔にならないように丁寧に三つ編みされていた。

「シープ(・・・)殿っ!?」

 彼女は『牡羊』の戦犯──フレンド・シープだった。そうだ、『子』の戦士──寝住と、『丑』の戦士──失井を、瞬く間に『数えて殺し』戦士陣営を阿鼻叫喚の渦に陥れた、あのフレンド・シープである。

 しかし、彼女は更なる追加点を欲張り、更にもう一人戦士を殺そうとしたが、これに失敗。敢え無く戦士達に捕らえられたと『蛇遣い』の戦犯──ホール・ディ・サーペンタから通達を受けていた。

 恐らく彼女の命は無いだろうと思って居たが、まさか生きているとは思いもしなかった。しかも、手負いだ。彼女は肩から血を流し、それ以上に胸部周辺が血濡れに染まり、口からは血反吐が溢れている。既に虫の息に近かった。慌てて駆け寄ると、彼は彼女の肩を支えた。

 

「しっかりっ!!」

「ご…ごめんなさい…私…」

 血で汚れた彼女の手のひらが、彼の袖を握り──

 

 

 

 

 

「貴方達を裏切ることになったわ」

 

「は?」

 

 

 

 一瞬、思考が追いつかなかった。

 

 突如としてウンスン・サジタリは地面に叩きつけられた。予想だにしない不意打ちだったこともそうだが、彼女の細い腕から繰り出されたとは思えない膂力の強さには碌な抵抗さえ出来なかった。

 

「凄いなぁ…あんなにあっさりと捕まえちゃった。流石は僕のお友達(・・・)だね」

 

 関節を極められ、うつ伏せのまま身動きさえ取れなくなったウンスン・サジタリの頭上の方から声が聞こえた。顔を上げて、視線を向けると彼が居た。

 

「『卯』の戦士──『異常に殺す』憂城」

 

 ウサ耳カチューシャ・蝶ネクタイ・サスペンダー・ホットパンツ・お尻に付いた巨大な毛玉・ハイヒール・両手の大鉈。それ以外は殆ど全裸に等しい戦士装束。外見的特徴をずらりと列挙してみたが、余りにも異様で異常な出で立ち。そんな姿が狂気を滲み出していて、如何にもな具合に異彩と異質を放っていて、それ故に反対に正常に見えてしまうほどだ。

 そんな彼は嬉しそうに笑っていた。虫取りをしていた子供がはしゃぐように楽しそうな声色だった。余りにも純真無垢で、それ故に残酷で、それ故に無慈悲だった。

 

「それじゃあ…きみもお友達(・・・)にしてあげるね」

 

 そう言って憂城はウンスン・サジタリを断頭台にかけるように、その首を切り落とした。

 

 

◇

 

 

 遙か彼方、島の反対側にてウンスン・サジタリが首を刎ねられた頃、『巳』の戦士──断罪兄弟・弟は石垣を背に地ベタに座り込んでいた。余程大慌てで走り回っていたせいだろう。激しく呼吸を乱しており、肩で息をしていた。

 これは少々不適切な対応と言わざるを得ない。此度の十二大戦のバトルフィールドとして設定されたこの島の中は、謂わば戦犯達のテリトリーだ。どういう経緯かは詳細不明だが、彼等は戦士以上にこの島を熟知し、入念な計画を現在進行形で進めている。万が一にも、ここが戦犯の警戒網の中であれば、直ぐにでも捕捉され、追っ手を差し向けられてしまうことだろう。

 実のところ、このエリアを担当していたのは『双子』の戦犯──ダブル・マインドであったのだが、この二卵性双生児のうち巨体を持つ弟を『猫』の戦士──音弧が殺し、その痛みとショックで小柄な姉は絶賛気絶中である。そのため偶然ではあるが、このエリアは僅かな時間、完全な空白地になっていた。

 

「くそっ!くそっ!くそぉっ!?何なんだよマジでっ!!」

 断罪弟は必死に呼吸を整えながらも、悪態を吐かずにはいられなかった。

「あいつら──俺の兄貴を……」

 断罪弟が平静を保てていない最大の理由がそこにあった、彼の生涯最高の相棒である『辰』の戦士──断罪兄弟・兄が戦犯の卑劣な罠により、命を落とした事が原因だ。

 戦士である以上、戦いの末に命を落とすのは極当たり前の事だ。此度の参戦者の中で最高齢を誇る『未』の戦士──必爺の様に、老後を迎えられる程に長生き出来る戦士の方が例外なのだ。だから、ここで彼の身内が殉職することも、ありふれた戦場の一幕でしかない。

 無論、断罪兄弟だって充分に理解している。欲望のままに、気の向くままに、戦士としてこれまで好き勝手に生きてきたのだ。好き勝手に死んでしまうのも仕方ない。かと言って納得できるかと聞かれたら、そんなことは無い。今までのように、これからも断罪兄弟は好き勝手にしていたかった。

 しかし、一人ではそれも出来ないではないか。二人でなければ意味が無いではないか。

「なんで生き残っちまってんだよ!」

 いっそのこと、あの時一緒に死んでしまうのも有りだったのでは無いか。

 

 

「だからって、今から自害でもする気かい?それとも仇討ちと称して無謀極まりない特攻でも仕掛ける?今こうして悪態を吐いて騒いでるのも、実は「誰か自分を殺してくれ」って言う意思表示のつもりか?

 だったら辞めときな。事故死や戦死はともかく、自殺はいけない。体験談から言わせて貰うけど、あれは一番シンドイ死に方だ」

 突如、頭上から声がした。断罪弟が上を見上げると、音弧が石垣の上に立ち、しゃがんでこちらを覗き込んでいた。石垣の上に、突如として振動を感知する形で『地の善導』が認識していた事から、屋根伝いにここまで跳んできたのだと理解は出来たが、ここに着く寸前までその存在に気が付かなかった事には驚いた。今になって、どれくらい自身が取り乱していたのかを断罪弟は改めて自覚することになった。

「……なんでテメエがここに居るんだよ」

「なんで…って、そりゃあ助けにさ。この十二大戦は、団体戦でありチーム戦だ。皆で足並み揃えなければ、勝てる勝負も勝てないだろう?もっとも、俺は俺一人だろうと負けないだけなら絶対的な自信があるけどな」

「へぇ…大層な自信だな」

「何せ『死(し)が無(な)い』戦士だからな。死なないだけなら、俺の右に出る者は居ないさ。無論、左だろうが上だろうが下だろうが居ないだろうけどな。まぁ、斜め上を行くくらいなら出来るかもしれないな」

「死が、無い?」

「そうそう。これでも昔は『不死身の怪物』とか言う忌み名まで呼ばれていたからな」

 そう言いながら、音弧は石垣の上からひょいと飛び降りて断罪弟の前に立つ。

 改めて彼の姿を見て、違和感を覚える。彼の姿は綺麗だったのだ。容姿端麗だとかの話では無く、ダブル・マインドの姉にやられたはずのクロスボウの矢の傷も、ウンスン・サジタリに撃ち抜かれたはずの胸部の傷も、きれいさっぱり消え失せている。

(……不死身……不死身ねぇ。一瞬、超再生みないな能力かとも思ったが、返り血や衣服の損傷まで元通りってのは変だ。実のところは、別の手法で不死身に見せかけているってところか?)

 例えば、目の前の男は実は幻術の類で、本体は別に居る──などと、断罪弟は適当な考察をしていた。しかし、それは的外れな考察であり、音弧の能力は正真正銘の不死身である。

「でも、情け無い話だよ。折角の不死身だってのに、それで人の命を救えるかって聞かれたら、また別問題。ここまで三人の味方がやられた。ったく、自分の無能さが心底嫌になる」

 頭に乗せたネコ耳のカンカン帽を取って、頭をガリガリと掻きながら、彼はバツが悪そうに言葉を紡ぐ。

「俺の到着があと少し、もしも交戦を始める前に間に合っていれば、きみの兄弟は死ななくても済んだかも知れない。そもそも、あのボールルームの時点でフレンド・シープの存在を察知できていれば、『丑』の旦那が殺されることも無かったかも知れないし、きみ達が我先にと逃げ出す必要も無かったかも知れない。たらればの話だけど、本当に不甲斐ないよ」

 音弧は目に見えて落ち込んでいた。

 彼にとって、あの場に居合わせた戦士十二名は初対面の他人でしかない。それでも仲間となった以上、仲間が命落とす事に抵抗を感じる。何より、死んでも痛くも痒くも無い(実際、死んだらめちゃくちゃ痛いし、辛いけど)音弧ではなく、何故他の戦士が死んでしまうのか。自分こそ真っ先に死ぬべき存在であるだろうとさえ考えている。

 

 だって、死んだとしても死なないから。

 

 

『生死半々(シュレディンガー)』

 

 『死を無視する無死にする』呪いの力。死の原因である『死因』に纏わる因果関係を遡行し、それら全てを回避した現実へと帰結させる事象変化能力とでも言えば分かりやすいだろうか。

 この『死の運命をねじ曲げる』という理不尽極まりない異能は、実際に不条理な結果をもたらしている。

 音弧は、自身をウンスン・サジタリの遠隔攻撃により射殺されたと見せかけ、その後死因を回避し、油断したダブル・マインドを背後から奇襲する事で、見事に仕留めてみせた事もそうだが──その他にも憂城を助けていた。

 ボールルームの一幕。寝住に擬態したフレンド・シープは失井を殺し、次に憂城を標的にした。その局面で音弧は咄嗟に自身を身代わりにして、憂城への致命傷を肩代わりして守った。比喩無しに死守した。それだけは飽き足らず、なんとフレンド・シープを捕獲してしまったのだ。音弧にとってフレンド・シープの一撃は死球(デッドボール)であり、一死(ワンアウト)であったが──彼にとっては無死(ノーアウト)であり、妙技(ファインプレー)であった。

 

「でも…それでも、俺はきみを助けるのには間に合った。それだけは本当に嬉しく思っているよ」

 

 もしも「此度の十二対戦に音弧が居なければ」と想像するだけでゾッとする。現在より、もっと状況は悪くなっていた事だろう。

 今頃憂城は死に、目の前の断罪弟もこの世には居なかったかもしれない。連鎖的にもう一人か、二人は死んで居てもおかしくは無かった。 

 

 

「ひとまず移動しよう。出来れば、他の戦士とも合流したい」

 そう言って音弧は断罪弟へと手を差し伸べる。

 とにかく、現在の二人だけの状況は拙い。いくら音弧が『不死身の戦士』だといっても、最強だというわけではない。あくまでも『し(死)がな(無)い戦士』なだけなのだ。例えば、ロープ等を用いて身柄を拘束されてしまえば、それだけで抵抗の術は簡単に奪われてしまう。そうなったら事実上詰んだ状態であるし、そもそも不死身の肉体なんて肉壁程度しか使い道はない。肉壁が本領を発揮出来るのは、やはり守るべき仲間が居てこそだ。死守するべき人が居てこそだ。

 幸運を呼び寄せて、悪運を祓い、人に手を差し伸べ、仲間にするのは、招き猫たる音弧の仕事だ。

 

 

「……合流……して、どうするんだよ?」

「……どうするって。合流して、皆で、この対戦を生き抜くんだよ」

「戦士達と、仲良し小好しで戦犯共をぶっ殺して……それでどうすんだよ?」

 

 

 仮に戦犯を全て捕らえたとしても、断罪弟が十二対戦を生き長らえたとしても、それは彼にとって意味の無い事に有りつつあった。

 

 

 何故なら、彼は大切な兄を失ってしまったのだから。

 

 

 

 ふと想像して震え上がる。

 

 

 

 二人で共同で過ごしていた高級マンションの一室。もう帰ってもあそこに兄は居ない。

 

 二人で使ってたキングサイズのベッド。これからあそこに寝るのは弟たった一人だ。

 

 二人での仕事。これからは全部弟一人だ。分担なんて出来ない。面倒だ。

 

 そういえば飯は一人分でよくなるのか。放っておいたら、飯なんて粗末なジャンクフードやインスタント食品に頼りがちな兄のため、それなりに健康に気を使って手の込んだ料理を作っていた。戦士は体が資本だし、栄養は寿命に直結する。兄には自愛して貰いたいと思っていた。しかし、そんなことに気を揉む必要さえなくなった。味気ないな。

 

 ペットの世話をしているときの兄の苦情が聞けなくなるのか。リビングに蛇やイグアナを放し飼いにするなと言われなくて済むのは非常に清々するが、部屋の中は静かになるだろう。

 

 

 

 これからは一人だ。ずっと一人だ。たった一人だ。

 

 

 

 耐えられるのか。生きていけるのか。

 

 

 

 一週間は平気だろう。一ヶ月でも問題ない。一年ならばペット達が支えになってくれるかも知れない。でも十年過ぎたら。二十年経たら。果たして同じように耐えられるだろうか。忘却の彼方に捨て去って、弟は一人生きられるだろうか。それとも消えた兄の影を追い続けるだろうか。

 

 

 

 断罪弟は出来ないと直感した。

 

 断罪兄が首を射貫かれて死んでから僅か数分。未だに現実として受け入れがたい。現実逃避したくなる。思わず自身の肩を抱いた。体の中心部分に巨大な空洞が生まれたかのような感覚に襲われ、地に足が着かなくなる。元々蛇に手足なんて無いが、とてももどかしい。

 

 

 

 端的に言って、断罪弟のやる気は失せていた。兄を失い、支えを失った。弟のピンチに颯爽と駆け付ける、『天の抑留』で天を駆るスーパーヒーローはもうどこにも居ないのだ。

「なんだよ弟、俺様がさっきので本当に死んだと思ったのかよ?」

 と有らぬ期待をし、ついつい空を見上げてしまう。しかし、空に彼の尊兄は居ない。

 

 

 

 空の遙か彼方には一機の戦闘機が飛来しているのみだった。

 

 

◇

 

 

 『卯』の戦士──憂城の眼下には今し方殺したばかりの『射手』の戦犯──ウンスン・サジタリの死体があった。

 

 

「終わりましたかのう?」

 憂城が後ろを振り返ると、茂みの中から二人の戦士が姿を見せた。一人は小柄で老練な戦士、『未』の戦士──必爺。もう一人は大柄で寡黙な戦士、『午』の戦士──迂々真であった。

「ええ、終わりましたわ。終わりましたとも、お爺さん」

 必爺の呼び掛けに答えたのはフレンド・シープだった。

「すっかり彼もお友達(・・・)にされてしまいましたわぁ」

「めへへぇ。同胞と再び同胞になれたのですから、ここは喜んではいかがですかのう」

「めえめえ。誠に余計なお世話ですわ。いっそ殺せ」

「既に殺されているではありませんかのう?」

「うるさいわ、ジジイ」

 『未』と『牡羊』の羊繋がりの仲間であるというのに、どうやら二人の仲は悪いらしい。元々が戦士と戦犯であり、袂を分かっているのだから当然と言えば当然の話だ。

「ねぇねぇねぇねぇ!牡羊ちゃん牡羊ちゃん!早く早くっ!!」

 このまま二人の口喧嘩でも始まるかと思いきや、そこに赤と黒の眼球を爛々と輝かせた憂城が割り込む。フレンド・シープは無邪気に笑う憂城を一睨みした後、諦めたように溜息一つ漏らして、立ち上がった。

「はぁ……わかりました、わかりましたわよ。やれば良いのでしょう。ほら、貴方(・・)もさっさと立ちなさい」

 フレンド・シープがウンスン・サジタリの生首を持ちあげながら、呼び掛ける。誰にかと言えばウンスン・サジタリにだ。

 おかしな話だ。ウンスン・サジタリはついさっき死んだ。目の前の憂城によって殺された。いや、憂城に殺されたからこその話であった。

 憂城の戦士としての特殊技能は『死体作り(ネクロマンチスト)』である。これは、彼が殺した相手を自身の配下に招き入れる技能だ。死を死とも思わない悍(おぞ)ましい技能だ。

 

 次の瞬間、ウンスン・サジタリの死体が立ち上がった。首無しのデュラハンのように活動──否、死んでいるのだから死動と言うべきか。とにかく動いたのだ。

 

 ウンスン・サジタリは憂城に殺された事によって死体(おともだち)に、『歩く死体(ウォーキング・デッド)』に成り果ててしまった。

「……背高過ぎ。やっぱり座って」

 ちょうど頭一つ分身長差のあるフレンド・シープがウンスン・サジタリに指示する。頭一つ切り落とされているのだから、同じ背丈と言えなくも無いが、彼女が用があるのは彼の首の切断面の方だった。彼は彼女の要求を聞き入れて、その場に正座した。その背中が少し落ち込んだように猫背なのは、きっと気のせいだ。

 フレンド・シープは彼の生首を元有った場所に乗せると、どこからか取り出した裁縫道具で切断箇所をあろう事か縫い始めた。縫合手術のつもりだろうか、そんなはずは無い、首を刎ね飛ばされた人間の首を繋ぎ直した所で蘇るはずも無い。そんな事が可能な凄腕の名医など世界を探しても居ないだろう。しかし、フレンド・シープは別に手術しているわけでは無い。ただ単に、死体を修繕しているだけだ。

 

「……終わりましたわよ」

 

 フレンド・シープが正座したウンスン・サジタリの前から退くと、改めて戦士達と対面させた。憂城に新たなお友達と対面させたのだ。

 

「な……何が起こった?」

 

 目を開き、口を開いたのはウンスン・サジタリだった。たった今死に、『歩く死体(ウォーキング・デッド)』になり、成れの果てになった筈の射手だった。死人が口を利いたのだ。

「はぁ……やっぱり成功してしまいますのね。おめでとうございます」

 この事態を招いた当の本人であるフレンド・シープもどこからか諦めたように嘆息して、ウンスン・サジタリを迎え入れていた。

「シープ殿。説明願えるか?」

 ウンスン・サジタリの身に起きた不可解極まりない現象。余りにも不気味だ。彼は横にいる彼女に思わず問うた。

「別に。お洋服を仕立て直して、着せ直しただけですわ」

 彼女は彼の質問にアッサリと答えた。実につまらなそうに。とても不愉快そうに。

 

 

 目の前の現象の絡繰りには言うまでも無く、『牡羊』の戦犯──フレンド・シープの特殊技能が深く関係している。

 彼女の技能は『催眠術』であり、「百数えればどんな相手でも眠らせる事が可能」な技能である。どんな相手でもとは、例え自身であろうとも、死体であろうともだ。

 実は彼女が寝住に擬態したトリックは、この『催眠術』によるものである。彼女は『自身に自己催眠』と『対象の死体に死期催眠』を同時にかける事で、『自身と他人を入れ替える』という裏技が使えた。

 実際、この技術には細かい制約があったりするが、ここは割愛させていただく。今現在重要な点は『死体にも催眠術は有効』だという情報であり、フレンド・シープとウンスン・サジタリの身に起きている現象は、それの応用だった。

 

 

 目の前のフレンド・シープ。実は既に死人であり、『歩く死体(ウォーキング・デッド)』であり、憂城のお友達だった。

 

 

 ボールルームでの一幕。音弧の反則染みたファインプレーによって捕縛されたフレンド・シープは、憂城に殺されてしまった。当初、音弧や砂粒は生け捕りにして情報を抜き取る事を希望していたが、皆が揉めているどさくさに紛れて憂城が殺してまったのだ。それを制止するものは居なかった。それもその筈だ、何せ相手は凶悪極まりない戦争犯罪者である。

 

 

 フレンド・シープは本来、慈愛に溢れた少女だった。裕福な家庭に生まれ、ノブレス・オブリージュの精神を培い、戦場ボランティアへと志願していた。ある時、森林限界よりも遙か高所の戦場で彼女は暖かい衣服を提供していた。しかし、現地に持ち込んだ材料が底を尽き、彼女は救いの手を差し伸べる事が出来なくなった。無論、後方支援のボランティアなのだから衣服以外にも様々な貢献は出来た。しかし、彼女が衣服を提供出来ないが為に、寒さに脅かされて、凍傷や低体温症になる兵士を見て、心が痛んだ。どんなに身を焦がすように、焦ろうとも状況は好転しない。森林限界という極端な戦場故に物資輸送には限度がある。森林限界故に鳥獣の類いはおらず、代替品は見つからない。

 ある日だ。凍傷によって冷たくなった──凍死した敵軍の捕虜を見て、魔が差した。

「衣服に出来無いかしらん?」

 彼女は充分な教養がある故に、かつて『羅生門』という書籍で老婆が死人の毛髪を奪って、鬘(かつら)を作り、売り捌こうとしている場面を思い出した。人間だって獣の一部だ、髪の毛だって衣服に出来る。流石に品質は既製品には劣るかもしれないが。

 決断した彼女の行動は早かった。彼女は死体から、まるで羊の毛を刈るように毛髪を奪い、牛革で鞣(なめ)し革を作るように生皮を加工した。筋繊維を編み直し、内臓を張り直し、血管を縫い直した。死体一体を分解仕切った頃には、数着の衣服が出来上がっていた。

 人の血肉で出来上がった衣服だとはつゆ知らず、提供された兵士達は喜んでそれで寒さを凌いだ。そもそも可憐な少女が愛情込めて、丹精に作った贈り物だ。並の男が断れるような代物では無かった。

 味を占めた……とはまた違うが、彼女は喜んだ。彼女の手で、また一人命を救う手助けが出来たのだ。嬉しくないはずが無い。

 彼女は邁進した。盲進した。日夜日夜、皆のために衣服を作り続けた。死体だけでは足りずに、死にかけの人間だって手にかけた。衣服を手がけた。気がつけば彼女は人殺しに成り果てていた。『捕虜虐待の罪』と言う名の烙印を押されていた。

 

 

 そんな悪鬼ならば殺されても仕方が無いだろうか。しかし、発端が慈愛であり善意であると言う事が痛ましい。とにかく、彼女は憂城に殺されて『死体作り(ネクロマンチスト)』の支配下に置かれようとしていた。

 フレンド・シープは戦犯として、目標を完遂していない以上、脱落している場合では無かった。『歩く死体(ウォーキング・デッド)』になりかけた彼女は、咄嗟に自身に死期催眠をかけたのだ。

 

 やろうとしていること自体は、彼女が寝住に成りすましていた技術の応用だ。実はこの入れ替わりのトリックを使用する際、フレンド・シープは寝住のフリをするために、死んだ寝住もまたフレンド・シープのフリをする必要があった。それはつまり、互いのお洋服を交換しているようなものだ。

 死んだ寝住がフレンド・シープと言うお洋服を着せられている状態ならば、それを自身に適用することが出来るのでは無いだろうか。

 

 つまるところ、フレンド・シープは自分をお洋服に仕立て直して、自分に着せ直したのだ。

 

 今まで自分をお洋服にしたことは無かったが、今ここでやらなければ確実に死ぬ。一か八かの賭けだった。結果として、彼女は賭に勝った。着付けは成功し、それが気付けになった。まさか正気に返るどころか、生気が返るとは思いもしなかったが、彼女の技能の新発見だった。

 

 だが、そこで奇妙な事が起きた。確かにフレンド・シープは生き返ったフリを出来るようになったが、『死体作り(ネクロマンチスト)』の支配下からは抜け出せなくなってしまったのだ。

 そもそも、フレンド・シープの認識が違っていたのだ。確かにフレンド・シープの『催眠術』は着付けを気付けにして、死者に生者のフリをさせることが出来るが、死んだ彼女が死んだままに自身の着付けを行えたのは、『死体作り(ネクロマンチスト)』の補助があって、初めて成立する異常事態なのだ。

 

 自我があり、自意識があるのに、自身の意思が尊重されない。一応、口が利けるのはありがたいが、反面憂城の前では利口(・・)にしなければならなくなった。

 

 

 無論、利口にしなければならないのは、同様の立場に落ちてしまったウンスン・サジタリもであった。

 

 

「……?どうした?」

 突如、先程まで沈黙を保ったままだった迂々真が憂城に話しかけた。一方の憂城はジッと、空を見つめていた。

「飛行機だ」

 憂城が手にした大鉈で空を指し示す。すると遠方に、小さな飛行物体が移動していた。

「あれは、戦闘機ですかのう」

「恐らく」

 やはり一定水準を卓越した戦士達であるが故か、そもそも旅客機や民間機も通らなそうな絶海の孤島に来る飛行機自体が限られているせいか、必爺と迂々真もあの飛行物体が攻撃性を秘めた代物であると判を押した。

「誰が持ってきたんだろう?」

 と憂城が疑問を口にすれば──

「恐らく、マインドの姉殿の所有物でござるな」

 とウンスン・サジタリがアッサリと白状した。

 ハッと我に返る。彼は今なんと言ったか。貴重な情報を、大切な仲間の情報を手放しで差し出した。正義感溢れる彼にあるまじき不義であった。

「……別に貴方が悪い訳じゃ無いわ。強いて言うなら、相手と状況が悪いのよん」

 驚いた様子のウンスン・サジタリに対し、フレンド・シープは慰めの言葉を贈る。送りながらも、その愛くるしい顔は苦虫をかみつぶしたように歪めていた。

 彼女は思う。

(どうしてこんなことになってしまったのかしらん)

 自身の能力と彼の能力をよく知っているからこそ、次の展開が読めてしまっていた。

 

 

「……あの飛行機、ボクのお友達の方に向かってるね。とっても、とっても、邪魔だなぁ。

 ねぇ。あれ、堕としてよ」

「では、拙者が」

 

 

 憂城の願いに淀みなく応えたのは、あろう事かウンスン・サジタリだった。

 彼は大きく息を吸い、気を整えると、射撃の構えを取る。しかし不気味な事に、左手に弓を、右手に矢を持ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 足踏み──胴造り──弓構え──打起し──引分け──。

 

 

 

 

 

 自然と早鐘を打つ心の鼓動を静寂の中に沈め、意識を深く、深くに沈める。既に死人となり、心臓の動きさえ止めているはずだったのに、その事実が嘘のように、自身の生を感じる。その生さえも静に変えて、のめり込む。雑念を排し、意識したのは己と的の二つのみだった。

 

 

 

 

 

 会──離れ──残心──。

 

 

 

 

 

 弓道に於ける基礎中の基礎技術である射法八節に則り、放たれた型。指先が離れ、聞こえるはずの無い弦の弾む音を響かせて、見えもしない矢が飛び出していく。不可視の矢が空気を切り裂いて、先へと進めば、その無音が自然と大きく、己に響く。音も次第に遠くなり、やがては聞こえなくなる。

 しかし、尚も矢は遙か遠くへと飛んでいく。その先に在る、標的目掛けて一直線の軌道を描く。

 

 

 名人曰く、『弓』を用いて鳥を射るのは『射の射』である。その先にある境地こそ、「的を撃たずに落とす」『不射の射』である。

 

 

 奇しくも、ウンスン・サジタリはその境地に到達していた。

 

 

 理屈や理論さえ突き抜けた、『射貫く』と言う概念だけが取り残された一矢は、遙か先の小さな姿しか見えない戦闘機を撃ち抜いていた。

 その事実にウンスン・サジタリは呆然としていた。

 

 

「わぁっ!!凄い凄いっ!素晴らしい腕だね!そんなきみとお友達になれて、ぼくとっても幸せだな。きみと彼女の力があれば、今まで居なかった新しいお友達に出会うことが出来るよ。本当にありがとう!

 ああ!!いいこと思いついた!ねぇねぇ、皆の力で皆をぼくのお友達にするっていうのはどうかな?だってだって戦犯皆がお友達になってくれたなら、これまで犯した犯罪も無罪放免だよ?だって死人は法で裁けないんだもん。それがいいよ!きみたちは世界から指名手配される必要もなくなるんだよ!ぼくはお友達が増えるし、いいこと尽くめだ」

 ウンスン・サジタリの射撃を見た憂城は興奮したように捲し立てる。彼の発言も大概問題があるが、それを窘めるような人物は居ない。必爺は蓄えた髭を撫でながら何喰わぬ顔で眺めたままだし、迂々真は若干身を引いている。死体の二体に至っては論外だ。

 

(こ……こんな事があっていいのか?)

 

 ウンスン・サジタリは自身の行いに衝撃を隠せずに居た。

 

(拙者は……拙者は、戦争を無くすために来たのに。その為に、この身を投じたのに)

 

 彼は戦争犯罪者の身でありながらも、正義感に溢れる男である。

 軍事産業コンツェルンの社員だった彼は、社内に横行する不正行為に義憤を覚えていた。水増しされ横領された資金、蓄積データの改竄、横暴なやり方での市場への排出。それらを彼は正義の名の下に、あろう事か大々的に公開した。確かに不正こそ撲滅できたが、流出した企業秘密と秘匿技術を競争相手に奪われて、結果として会社に多大な損害を出すだけには飽き足らず、世界規模で戦争の火種をばらまいた。彼の正義感が如何に正当性のある誠実なものだったとしても、対応は正統ではなく、正答ではなかったのだ。実を結ぶべくもなかった。

 

 彼の人生は狙ったように事が運ばない。恐らく、愚直な彼は愚か者だからなのだろう。

 丁度『名人伝』にて、『不射の射』を体得した紀昌が『愚者の風貌』で現世に戻ったのと同じように、ウンスン・サジタリもまた愚者だった。

 

 

 戦争に翻弄された憐れな愚者だった。

 

 

◇

 

 

「……な、何が起きたんだ?」

 断罪弟は空を見て驚愕していた。

 ありのままに起こったことを説明するならば、追撃の為に放たれた戦闘機(恐らく、ダブル・マインドの姉が戦犯になる原因となった盗品の空母──それに格納されていたものだろよ)が、いきなり大爆発を起こして、墜落した。何が起こったのか彼にはさっぱり分からなかった。と言うよりも、ここまでが急展開に継ぐ急展開なものばかりだから、理解がまるで追い着かない。

 

 

「たぁーーまやぁーーー。

 かぁーーぎやぁーーー。

 ねぇーーこやぁーーー」

 

 

 その爆発を見て、正面に居た音弧が声を上げた。(なんなんだよネコヤって)まるで花火大会に参加しているような気軽さと気楽さであった。

「……きっと、俺のお友達が上手いことやってくれたんだろうな。差し詰め、反撃の狼煙……いや、鏑矢(かぶらや)ってところだな」

 そう言いながら、手に持ったままにしていたカンカン帽を被り直すと、改めて断罪弟に声をかけた。

「戦ってどうする?勝ってどうする?って、さっききみは聞いてきたけど……そうだな、俺としては皆が生き残ってくれたら──特に可愛い女の子達が生き残ってくれたら言うことは無いね。あぁ、これを機にお茶にでも誘えるならもっと嬉しいかな?」

 突然音弧が訳も分からないことを宣い始める。

「戦う理由なんて、それこそ人それぞれだろうさ。メジャーどころとしては強くなりたいとか、金が欲しいとか、死にたくないとかそんなんだろうよ。

 要は理由なんて何だって良いけど、少しでも「死んでる場合じゃない」って思うならさ、今は立ち上がってくれないかな?」

 そして、再び手を差し伸べてきた。

「見ての通り、俺達戦士チームも動き始めている。上手くいけばこのまま巻き返せる見込みだって十分にある。よかったら、改めて力を貸してくれ。せめて兄弟の仇討ちだと思って、協力してくれないかな?」

 

 

 断罪弟は考える。そもそも、十二大戦に参加した理由はなんだったか。確かに、兄弟で殺し合う事になると言う事実を知って少なからず抵抗感を覚えた。それでも、兄弟ならではの殺し合わずに済む抜け道があるのでは無いかと時折考えていたし、最悪全てをなげうってでも干支十二家から離反するという手段だってあった。寧ろこれまで行ってきた数々の悪行も、一部は本家から勘当されるのを期待してと言う側面が有ったことも否定はできない。

 でも、もしそれが叶わず、やむなく殺し合う事になったら断罪弟はどうしたかっただろうか。

(そういえば……兄貴を供養してねぇや)

 彼は可愛いがっているペットの爬虫類が死んだとき、供養として食すようにしていた。丁度、古い習わしにある『骨食み』などと呼ばれる行為に近く、自らの血肉にする事で繋がりを保つ意味合いが強い。それは断罪兄弟が宗教家の家系に生まれた名残だろう。断罪弟自身、その行いには自然の摂理のようなものを感じたからこそ、どこか惹かれるものがあり、だからこそそれを真似ていた。

 別に断罪兄をペットと同様に丸焼きにして食べたいとか考えているわけでは無い。食人嗜好(カニバリズム)なんて持ち合わせてはいないし、成人男性丸々一人食い尽くすなど狂人過ぎる。でも、まあ、骨食みくらいはしても良いだろうか。

 

 だが、それはまた別の話だ。断罪弟がしたいと考える──しなければならない供養。それは兄を自ら手厚く葬り、かつ、仇の一つくらいとっておくべきだと考えた。

「そうだなぁ……おめおめ生き残っちまったからなぁ。ここで何もしないでのうのうと死んじまうなんて、兄貴に叱られちまう」

 そう言って断罪弟は重たい腰を上げた。

 

 

「とりあえず、弔い合戦くらいはしてやんねえとな」

 

 

 そう言って断罪弟は音弧の手を握り返した。

 

 

「『巳』の戦士──『遊ぶ金欲しさに殺す』断罪兄弟・弟

 

 

 ……って一人で名乗っても、どうにも締まらねえな。やっぱり兄が居てこその兄弟。兄が先にあってこその兄弟ですな」と彼は苦笑交じりに改めて戦うことを決めた。

 

 

「『猫』の戦士──『好奇心で殺す』音弧!

 ありがとう、とても心強いよ。一緒に頑張ろうな!」

 

 

 そう言って彼は交わされた手を強く握り返した。

 

 

「つーかよぅ、十二大戦に優勝すれば『どんな願いでもたったひとつだけ叶えることが出来る』んだよな。だったら、それを使って兄貴を生き返らせて貰えば良いじゃねえか!考えてみりゃ、やることはシンプルじゃねえか!んだよ!『葬式しなきゃな……』とか、しみったれた事を考えちまったよ!」

 断罪弟は先程までとは打って変わって、溌剌とした様子で声を上げた。

「それはそれは……美しい兄弟愛だな。

 でも良いの?きみは『遊ぶ金欲しさに殺し』てるんだろ?お兄さんを見殺し(・・・)にすれば、遊ぶ金が手に入るぞ?」

「テメエ馬鹿だなぁ。人の命はどんなに金を積んでも手に入らねえっての。死んだ奴なら尚更だぜ?

 つまり、俺が兄貴を生き返らせるのはどんな大金よりも価値があるってことじゃねえか!」

「……よかった。もし、そこで御兄弟を見棄てるような薄情者だったら、個人的に見棄ててたわ」

「ひでえ奴だ」

 

 

 三名の戦士が死に、三名の戦犯が死んで、ようやくスタート地点に立った。

 これより戦士達の反抗戦と、戦犯達の犯行戦が、激化の一途を辿る。

 

 

 十三大戦対十三大戦──

 

 

 果たして勝つのはどちらの陣営か。

 

 

 

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