※この作品はR-18です。

【二次創作】十三大戦【頑張って書いた】   作:セイントス

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『山羊には前から近づくな。馬には後ろから近づくな。愚か者にはどの角度からも近づくな』って言うじゃなぁい?

 え?それ諺じゃなくてユダヤの格言じゃないかって?
 いいのよ、そんなの。要は教訓が含まれていれば十分でしょう?


 げらげら。


 けれど、これじゃあ愚か者は一生ボッチのままね。だって、だーれも近づいて来なくなっちゃうんだもの。

 それが嫌なら、精々賢くなりなさいな。


 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらっ!!




第六戦『山羊に羊を宛がう』

「なんだぁ?こりゃあ?」

 防衛拠点にしていた古城へと無事生還を果たした『断罪兄弟救出班』こと音弧と断罪弟。しかし城の中へと足を運ぶと、その劇的なビフォーアフターに驚愕せざる得なかった。

「なんという事でしょう。あの豪華絢爛荘厳華麗で魔王の根城の如き重苦しい空気を放っていた西洋風の古城は、新たに開けられた無数の窓と通路より爽やかな風と暖かな陽の光が差し込んでいます。そしてなんと言ってもこの広さ。この部屋同士を隔てる壁を取り払う大胆なリフォームには「子供達が自由に遊び、他者との間に壁を作らない様に」との、匠の心優しい配慮がうかがえます」

「いや、んなわけねえだろ。見るからに廃墟じゃねえか」

 音弧の渾身のボケを断罪弟が軽くあしらい、歩みを先に進める。一先ずは開始位置であったボールルームを目指すことにした。

 

「どう?敵ないし味方の気配はある?」

「いや、どこにも感じねえ。恐らくこの城ん中は既にもぬけの殻じゃねえのかね?」

「うーん……血の匂いはそれ程感じないし、少なくとも大量出血の跡もなさそうだな」

 

 結論から言うとボールルームへ行くことは出来なかった。

 

 恐らく、この場が戦場になったのだろう。壁や床の至る所に異能肉の所持する二丁機関銃からばらまかれたと思われる弾痕が前衛芸術のように紋様を描き、通路の所々には庭取が『鵜の目鷹の目』を行使し内部に招き入れたと思われる鳥達の羽が散らばっている。肝心のボールルームに至っては誰が犯人かは不明だが、フロア全体が崩落し、そのまま下の階層を押し潰していた。

 廃墟の中を二人は慎重に探索していく。その際、重宝したのが断罪弟の特殊能力『地の善導』であった。振動を感知する第六感は、城内を歩きながらにしてこの場には音弧と断罪弟の二人以外に敵味方誰一人として存在しない事を看破していた。──とは言え、ジッと静かにしていれば、或いは断罪兄の所持する『天の抑留』のように空でも飛べば、振動は感知出来ない訳だから、安易に気を抜いていい訳では無い。実際にその弱点を突かれて、先程は危うく『狙い澄まして殺される』ところだったのだから尚更だ。

(にしてもだなあ……『子』の戦士と失井の旦那の仏さんが無くなっているってのが気掛かりだ)

 崩落したボールルームを捜索して気が付いた事と言えば、『子』の戦士──寝住と『丑』の戦士──失井の亡骸が見つからない事だろう。この戦いの傷跡を察するに待機組にそれらの死体を運び出す余裕は無かったと予想できる。

(砂粒のお姉さんは死んだ二人に心を痛めているようだったし、案外直ぐに外に出て埋めてきたのか?でも、丁寧に保存して遺族に返す方が彼女らしい気もするんだよなあ)

 実際には二体の死体目当てに戦犯達が襲撃してきたのだが、音弧には知るよしも無い話だ。況してや死体の再利用など、『卯』の戦士──憂城のような芸当が可能な人物が戦犯側に居るとは思いもしない。

「……ん?……おっ!?いいもん見っけ!」

 瓦礫の山をひっくり返すと、その中に面白い物を見つけた。暴動鎮圧等でよく使われるポリカーボネート製のライオットシールドだった。流石に機関銃の斉射を凌ぎきるような強度は無いだろうが、何かしらの使い道があるかも知れない。音弧はそれを手に入れるべく、瓦礫を退かし始めた。

 今更の話になるが、音弧が腰に帯刀している二振りの刀剣──直剣と西洋式片刃刀(サーベル)。言うまでも無く寝住と失井がそれぞれ手にしていた武装である。死人から遺品を頂戴するなど盗掘家や追い剥ぎの様で、由緒正しき戦士にあるまじきアンモラルな行いではあるが(使える物はなんでも使うべきでしょ)と考える音弧に気にした様子は無い。

 今にして思えば、音弧の判断は正しかったとも言える。もし、音弧がこの二振りの刀剣を放置していたならば、もれなく戦犯の娘達の手に渡っていた事だろう。それを結果的には、未然に防ぐ行為となっていた。万が一に『丑の娘』が西洋式片刃刀(サーベル)『牛蒡剣(ごぼうけん)』を手にしていたならば、状況は更に悪い物に傾いていたことは言うまでも無い。

「今度こそ弟くんの武器の代替品に……」

 因みに『水瓶』の戦犯の手によって、断罪弟が背負っている火炎放射器『人影』は相も変わらず中身が空で使い物にならないままだ。彼も丸腰では流石に心許ないだろうからと失井の遺品である西洋式片刃(サーベル)『牛蒡剣』を貸し出そうとしたところ、真っ青な顔で拒否されてしまった。

 確かに使い慣れた得物以外を手に取る気になれないのは理解できる。しかし、徒手空拳の心得が無いのなら、何かしらの武器を持つ方が生存率は上がるのでは無いだろうか。そう思っての行為だ。

「よい……しょっと!!わぁ、なんと立派な盾……うわぁっ!?」

 音弧が瓦礫に埋まった盾を大きなカブでも引き抜くかのように引っ張り出すと、その損傷具合を確認し──たかと思うと咄嗟に盾を地面に投げ捨てた。

(う……腕が…)

 投げ捨てた盾を改めて確認すると持ち手の部分に、人間の千切れた腕がそのまま残っていた。白い肌、細い指先、骨格具合は女性らしい印象を受けた。

(こんなライオットシールドを使っている戦士は居なかったはず。──であれば十中八九戦犯の装備か──ならこの人は異能のお姉様に蜂の巣にでもされてしまったのか?)

 

「ん?オイ、それ……」

 音弧の悲鳴を聞きつけてか、断罪弟が傍へと歩み寄る。そして足下に落ちた盾と千切れた腕を訝しげに睨んだ。徐にしゃがみ込み、断罪弟はその不気味な人肉を掴み挙げようとすると、掴んだ拍子にグズグズと崩れ落ちた。

「……間違いねえな。ルック・ミーの奴だ」

「ルック・ミー?『牡牛』の戦犯とかいう奴?」

「あぁ」

 そう言って断罪弟は今度は盾の方を持ち上げて観察し始める。

「あの女の能力な、『想像認信(イマジナリーチャイルド)』つってクローン人間を一瞬で造る能力なんだよ。──オイ、この盾のここの部分、ちょっと掴んでみろよ?」

「……?──あんぎゃぁぁぁぁっ!?」

 音弧が断罪弟に言われるがままに盾の縁を掴む。次の瞬間、接触部分から電擊が流れる。思わず音弧が悲鳴を上げた。

「な、なにをするかーーっ!?」

「悪ぃ悪ぃ!──んでな。そのクローンが死ぬと丁度こんな感じのグロい肉塊に変わるんだよ。昔、焼いたから知ってる。

 でもって、俺が向こうで拾った注射器の欠片とこのスタンガン付シールド。恐らくは、ドクター・フィニッシュとアイアン・メイだ」

 ルック・ミー、アイアン・メイ、ドクター・フィニッシュ。以上三名と断罪弟は面識があったからこそ、この場に現れたのが彼彼女達だと判断できた。やはり戦犯と知り合いと言うだけあり、その情報力は凄まじい。これだけの小さな痕跡で下手人の正体を突き止めてしまった。

「もしかして、その戦犯達に庭取ちゃんや砂粒のお姉さんや異能のお姉様は殺されちまったってのか?」

「知るかよ、んなことまで。…ただまぁ、アイアン・メイは脱走兵だし、ドクター・フィニッシュはただの藪医者だ。真面な戦力がルック・ミーだけだと考えると、一人や二人損害が出るにしても、全滅の可能性は低いんじゃねえの?」

「そうだと良いんだけど……」

 

 その後も彼等は城内を細かく探索していく。すると、先程の盾にしがみついていた肉塊と同様の物が他にも三つ。合わせて四つ見つかった。それ以外の死体は無かった。

「にしても……全員女性?」

「能力(イマジナリーチャイルド)で造った子供は親の戦闘力を引き継ぐって話だが、流石に性別云々までは知らん。でも変だな……」

「何が?」

「子供の数だよ。確か俺らを除いた男性メンバーは『卯』『未』『午』『戌』の四人なんだよな?まぁ子供の内一人は『乙女の娘』だが、少なくとも『卯』と『未』と『午』は直ぐに別行動に移ったんだろ?

 だとすれば、一人は『戌の娘』で大方確定だとして──残りの二人は誰の子だ?」

「そりゃあ戦士側女性陣三名の内の誰かじゃないの?」

「いいや、違う。『想像認信(イマジナリーチャイルド)』は相手が異性……男じゃねえと使えなかった筈だ」

「ほうほう、女性同士(レズビアン)は子供が作れないと……。じゃあ、ドクター・フィニッシュじゃあないか?」

「残念ながら、そいつも女だ」

「マジか、女医さんか。テンション上がるわ」

「テメエの性癖なんて心底興味ねえわ」

「確かに他人の趣味嗜好なんて意中の相手でもなきゃあ得しないよな。……閑話休題、他にも戦犯が居たとか?」

「つーと……ダンディ・ライオンか、サー・カンサーか?後は性別不明の『蠍』、そして『水瓶』と『射手』のいづれかか……」

「じゃあ、五人の戦犯にクローン人間が四人の合計九人がこの城に大挙として押し寄せてきたっていうのかい?下手すりゃ生け捕りにされてどこか別の場所に攫われちゃったんじゃ……ん?あれ?」

 突然、音弧が近くにあるドロドロに融けた肉塊を漁り出す。すると、その中から何かを引きずり出した。

「これは……」

「どーした?」

「見ろよコレ。角だ」

 彼が取り出したのは細く鋭い漆黒の角だった。その角を見て、断罪弟はどこか既視感を感じた。

「十三星座の中で角の生えている動物っていったら、既にこちら側の『牡羊』と、術者の『牡牛』。後は『山羊』くらいだけど、さっきの話の流れだと山羊座(そいつ)は女なんだよな?だとしたらこの娘は『戦犯の娘』じゃあない。

 ……もしかして、この娘、『丑』の旦那のクローン?」

 そこまで来て、ある可能性に辿り着く。

「なぁ……その『想像認信(イマジナリーチャイルド)』って、もしかして死体にも有効なんじゃないか?

 もしそうだとしたら、戦士戦犯を含めた男性陣十人以上が『戦犯の娘』として襲ってくるんじゃないか?いいやそれだけじゃ無く、同じ親(サンプル)から次女三女を産むだけで頭数は増やせるんじゃないのか?そんな鼠算に増えられたら、こちらに勝ち目なんて無いんじゃ……」

 

 

「いや、流石にそれはねえよ」

 

 

 そこまで聞いて断罪弟は音弧が提示した可能性を斬り捨てた。

「俺にゃあ、そこまでルック・ミーがポコシャカとクローンを造りまくるとは思えねえんだよな」

「その心は?」

「この肉塊が根拠だよ。奴等なんでここにクローンの残骸を棄てていったと思う?」

「そりゃあ……クローンの制御にリソースを使いすぎるから、タスク管理の為に一部能力を解除した……とかか?」

「それだったら、せめて見つかりにくい所に移動してから解除すりゃあいいだろう。その方が証拠が残らねえ。

 だから、能力のオンオフが出来るって言うよりは、どちらかって言うと、別の理由があるのかも知れねえな」

「別の理由って何さ?」

「知るかよ、んなことまで。本人に聞いた方が早いんじゃねえの?」

 真面目に考察していたかと思えば、半ばで放棄して探索へと断罪弟は戻っていく。元々、行き当たりばったりで物事を進める断罪兄弟は深く考え込むことはしない。下手な考え休むに似たりと言うように、考えるよりもその場のノリと勢いで取捨選択する決断の早さが、相手にこちらの手を読ませない柔軟さを生んでいる。

 今までの音弧との現状把握だって、一応は手元の情報を判断材料として考えてはいるが、その内半分くらいは思い付きで話している。

 反面大雑把な考えのまま口にする物だから、肝心なところで纏まらない。しっかりと締めるところを締めないものだから、どうしても粗が目立つ。

(……もし弟くんの考えが正しくて、この場に残骸を残した理由──クローンの耐久度か、時間制限か、或いは人数制限か。兎に角、何かしらが許容量を超えれば自壊するってのは安心要素だな。──もし、その予想が間違いで、これがブラフで、現実には無制限なら。今頃ルック・ミーとやらは大家族を作って、一個師団を形成し、一国一城を築き上げてんだろうし──彼の考えは真に近そうだ。だからと言って、油断できる話じゃあ無い。欠点や制限がなんであろうと、戦闘の直前或いは最中にクローンを創り出してしまえば、分身は新鮮そのもの。消耗は限界まで軽減出来る。敵の戦力が増えた事実自体も変わらない。

 それを現実の物とするべく、戦犯の狙ったのが『男の体(生死を問わない)』とだとして──つまり『女の戦士』は不要。かと言って捨て置く理由は無いから、戦犯的には直ぐにでも殺すだろう。って事はこの場で死体が発見できない以上、彼女達は上手く逃げ出し……いやいや、待て待て、『寅』の戦士(ペチャパイガール)の件がある。本当に女が不要なら、彼女だってその場で直ぐに処分されてたはずだ。つまり、別口で何かしらの利用方法があるのか?)

 敵の能力から戦術と方針を探ってみる。随分と拡大解釈が目立つが、今はこれ位でいいだろう。状況は常に最悪のケースを視野に入れるべきだ。

「ともかく、ここで得られる情報は無さそうだ。このまま待ってても、戦士達が戻って来るとは考えにくい。

 一先ず、俺達は俺達で動こう。出来れば待機組かチームラビッツのどちらかには合流しときたいな。希望としては前者」

 

 正直な所、戦士二人だけと言う現状も十分に危険域だ。自分達──特に断罪弟の身の安全を確保する事と、反撃の体勢を整え直す為にも、合流は早めにしたい。

 待機組との合流を希望するのだって、マクロな視覚で戦況を調べることが出来る庭取が居るためであり、決して女の子が多いからとかそんなふしだらな理由では無い。

(ええ、全くもって御座いませんとも)

 とにかく、庭取の協力を得てチームラビッツを探した方が迅速に動けるだろう。

「他の奴等を捜すのなんて、兄貴が居りゃあ一発だってのにな……。兄貴……」

 同時に、同様の芸当が可能な断罪兄の脱落が手痛く思える。彼の『天の抑留』で高高度にまで飛翔し、ホークアイならぬドラゴンアイを使えば、島の全貌を見れた筈だった。

「ほら!シャキッとしなよ。その兄貴を取り戻す──或いは弔う為の戦いだろう」

 断罪弟は十二大戦の優勝賞品である願望成就の権利で『金銭』を求めていたが、その願いを曲げて『兄の蘇生』に使用すると決めたらしい。戦士の名乗りにあるように『遊ぶ金欲しさに殺す』彼にしてはとんだ気まぐれ、或いは意外なエゴ(死者蘇生なんて倫理的にどうなんだろ?)ではある。しかし、死者の命など幾ら大枚はたいても買い戻すことは不可能な訳だから、少々歪曲的な物の見方にはなるが天文学的数値の金銭よりも遙かに価値があると表現してもいいのかも知れない。

(それは同時に、弟くんが兄にそれ同等の価値を見出していると認めてるわけだけども……。素直に「お兄ちゃんに会いたいよぅ」とでも言えばまだ可愛げもあると言うのに、面倒くさい弟くんだな。まぁ、だからこそ放っておけないんだけどさ)

 音弧はトレードマークのカンカン帽を静かに被り直しながら、そんな健気な彼を見ていた。

 

 

◇

 

 

 何度も繰り返して来た話だが、この人工島は世界の有力者達が自身の財を惜しみなく投じて、蒐集し、寄せ集めた、継ぎ接ぎの島である。

 歴史的価値のある建造物や、希少性の高い砂を敷き詰めた海岸線、世界的に美しいと評される街並み。その他にも珍しい生き物の暮らす原生林や、芸術性に富んだ天然鍾乳洞、伝統ある由緒正しき教会など、エトセトラ──エトセトラ──。島の成り立ちこそ冒涜的かつ背徳的ではあるが、それらは有識者がみれば紛う事なき宝の山である。

 しかし、この島には比喩表現抜きの『宝の山』が存在する。

 

 

 それがこの鉱山洞窟だった。

 

 

 この鉱山は、金・銀・銅・鉄・亜鉛などのメジャーな鉱石が採掘出来る、今でも現役の鉱山だった。しかし、その採掘場周辺で大規模な山火事が発生したことから、可燃性有毒ガスの存在が危惧され、その高価な鉱石を掘り尽くす前に閉山となった。その数年後有力者の目にとまり、こうしてこの島の一部となったのだ。

 この島に移植するにあたり、地形一帯を岩盤ごと掘り起こした拍子に、充満していた有毒ガスが抜けて、すっかりと安全地帯に変化したのは皮肉と言わざる得ない。

 今では、この島のちょっとした『へそくり金』扱いを受けており、その活躍の機会を今か今かと待ち続けていた。

 

 

「謂わば大それた資金洗浄と言う奴ですかのう。確かに労力と危険性(リスク)を呑み込んで、この穴蔵から財宝を掘り出すのには、骨が折れますわい。加えて、ただの原鉱の状態であれば、盗人風情には石ころも同然。優れた鋳造技術・冶金技術、並びにそれらを振るうための各種設備が無ければ、折角の宝も持ち腐れるだけですからなぁ」

 『未』の戦士──必爺はそのように、この手の加えられた未着手の鉱山を評した。(はて、この鉱山への投資額と見込み収益はどうなっておるのですかのう)と、商人の性分で算盤を弾きたくもなるが、ここが敵地であると改めて気を引き締めた。

 

 『手の加えられた未着手の鉱山』と言う矛盾だらけの鉱山は、現在戦犯側の仮拠点の一つとして改修されているらしい。利口になった戦犯の『歩く死体(おともだち)』が白状した。

 

 

 

 こちらの初手。反撃の一手が功を奏し、『牡羊』と『射手』を自陣に組み込むことに成功したチームラビッツは、次の行動の為に待機組と連絡を取ろうとした。しかし、砂粒から預かり受けた通信機(トランシーバー)は通信距離が足りないせいなのか、ウンともスンとも役に立たない。

 万が一には必爺が庭取に伝書鳩を飛ばすようにも伝えていたが、彼女は彼等には思いもよらない手法で現状を伝達してきた。

 

《キンキュー!キンキューソクホー!テッキシューライシューライ!ワ…ワ…ワレワレハ、シロヲホーキス!》

 

 必爺達の目の前に現れたのは『鳩』ではなく『九官鳥』だった。

 スズメ目ムクドリ科に分類されるこの鳥は森林地帯であれば比較的広域に生息分布し、小規模の群れを形成し生活している。ペットなどの飼育目的で乱獲される事もしばしばだが、その最大の特徴は人の声をヒアリングし、同じ言葉を発声する事だ。余談だが、これは『ラウド・コール』と呼ばれる仲間内でのコミュニケーションに利用される特殊な鳴き声を発する習性を人語に転用しているのだとか。

 

 古城にて戦犯達の襲撃を受けた後、直ぐさま待機組はチームラビッツへの連絡をはかった。そこで、この島の構成要素である原生林の中にいた一羽を庭取は仲間にし、直ぐに必爺の元へと向かわせたのだ。

(『鵜の目鷹の目』──鳥との意思疎通を図る能力。よもや斯様な使い方も出来るとは思いもよりませんでしたわい。さながら『糸電話』……いや『伝言ゲーム』ですかのう)

 九官鳥が鳴き声で真似ると言うのは割と有名な話である。中には九官鳥の覚えた言葉が事件の証拠になった事例さえある。

 それを通信手段に選ぶとは恐れいった。

 

 閑話休題。

 

 待機組から伝えられた情報は、到底無視できぬ代物だった。

 『牡牛』の戦犯──ルック・ミーの『想像認信(イマジナリーチャイルド)』。生死を問わず男性であるならば、遺伝子を交配し、新たな戦士を作る力。かつて、憂城の『死体作り(ネクロマンチスト)』を受けて、戦士と戦犯の戦いを将棋とチェスに例えたが、これでは将棋と将棋、或いはそれよりも旗色は悪い。一応、弱点こそあるらしいが、砂粒と怒突の見解では放置出来る物では無いとの判断だ。彼女達の言い分を聞けば、知略に長ける必爺でさえも納得せざる得なかった程だ。

 そこで彼等は合流を一時中断。チームラビッツと待機組に別れたまま、彼等は敵の拠点を虱潰しに押さえる必要が出てきた。

 敵の拠点は大小合わせれば両手の指では足りない程に量がある。中には兵糧や装備なども備蓄しているらしい。これらを使用不可にするのは、敵の勢いを削ぐ上で必要な作戦だった。

 

 

「これが三個目の拠点ですからのう。そろそろ敵も何かしらの手を打ってきてもおかしくはありませんのう。……なあ?」

 必爺は隣に居る味方に声をかける。『午』の戦士──迂々真は静かに頷いた。『午』と『未』──身長差90cmの超デコボココンビである。

 チームラビッツの主軸たる『卯』の戦士──憂城は、現在退路の確保役として、『歩く死体(おともだち)』共々隠れ家の出入り口を固めて貰っている。と言うのも、この狭い空間に戦士三名に死体二つの大所帯で乗り込むには少々手狭だったからだ。

(『卯』の戦士ならば、死体と言う名の仲間がおります故、敵との遭遇戦で早々に後れを取ることはまず無いでしょうな。あの戦犯から聞き出した敵の兵科構成を鑑みるに、ロングレンジでの攻撃を有する者は『射手』の彼の者のみ。遠的を狙う者が居ないならば、確実に接近戦に縺れ込むはず。最悪窮地に陥ったときは、この儂の秘策も授けてますからなあ)

 以上の点から、外に居る憂城についてはこれっぽっちも心配していない。一人取り残されているのは少しばかり可哀想──憂城視点ではの話──ではあるが、それはいい。

 それ以上に必爺達は危険な役割を担っているからだ。

(こんな洞窟、外から埋めてしまえば──楽なのですがのう)

 敵の拠点に入り込むと言うことは、高い確率で敵と遭遇することになる。更には敵のアジトと言うだけあって、凶悪な迎撃装置が備わっているはずだ。実の所、至る所に罠が仕掛けられており、解除するのも一苦労だ。

 何故このような面倒なことをしているのか。爆弾使いである必爺なら──強力無比な投擲手榴弾『醜怪送り』を使えば、この程度の穴蔵を簡単に破壊できる。その方が手っ取り早く各拠点を巡回できる。その方が効率的だ。

 

 しかし、それは出来ない。何故ならば、この作戦は『寅』の戦士──妬良の救出も兼ねているからだ。

 

 我の強い戦士の面々の中でも、一際足並みが合わずに一人先行し、あまつさえ捕縛され、何処かへ拉致されてしまった彼女。それがこの局面で足を引っ張る羽目になった。戦士皆で協力して、戦犯を捕まえる楽な大戦の筈が、既に三名も命を落としている。それに一名──一命追加されるのも時間の問題と来ている。

 必爺としては敵の手に落ち、既に生存確率が絶望的な閾値にまで低下している彼女の事など見捨ててしまってもいいとも思える。──が、しかし、実に腹立たしい。何よりも犯罪人風情に、こうも見事に手玉に取られているのは癪であった。

 

 だからこそ、砂粒の申し出である『妬良の捜索』にも首を縦に振った。ここは一つ、あの酔いどれた小娘を助け出して見せて、戦犯共にあっと言わせてやりたいものだ。

 

 ついでに砂粒に恩の一つでも売れるなら儲けものである。

 

 

◇

 

 

 戦争犯罪人相手に先手先手を打たれ続けて来た現状。チームラビッツが精力的に反抗戦を開始し、日和見していた砂粒もこの大戦を終戦に導くべく活動を始めた。

 

 しかし、未だに現状に流されるがままになっている戦士が、まだ一人だけ存在する。

 

 

 最も日和見をしているのは──他ならぬ十三戦士随一のディフェンダーであった。

 

 

 此度の十二対戦に定められたルールに従い、率先して動き出したのは憂城・必爺・庭取・異能肉・音弧の五名。一度は裏切りを画策したものの、戦犯に一泡吹かせると決めた断罪弟。気乗り薄故に、敢えて戦いに消極的な姿勢を見せていた怒突。状況に追い付けていなかったものの、漸く自らの意思を貫くと決めた砂粒。仲間との不和故に単独行動し、あまつさえ捕らえられた妬良でさえ、彼等には『自身なりの判断基準』と言うものがあった。

 しかし、迂々真にはそれが無い。今はこうしてチームラビッツに属しているものの、自身の選択ではなく、状況に流されるがままにアタッカーグループに配属されただけなのだ。

 

 

『せめて忠告。『獅子』に遭ったら、全力で逃げろ。

 ……彼は1対1の状況下では『皆殺しの天才』すら凌駕する』

 

(……あの言葉を無視していたならば。今頃、俺がこうなっていただろうか?)

 先を行く御老体──必爺の背を追いながら、迂々真は既に潰えた可能性分岐に思いを馳せていた。

 

 

 彼がボールルームに最後まで留まったのは、単に音弧の忠告を重く危惧した為だった。そうでなければ、あの妬良の様に彼自身もチームを抜けて、単独での戦闘も視野に入れていた。

 それが『皆殺しの天才』よりも恐ろしい相手が敵に潜んでいるとなれば話は別だ。ただでさえ迂々真も失井を相手取って(正直なところ戦いたく無いが)勝利を収める事が出来るのか怪しい。『獅子』が失井以上の存在だと言うのなら、益々警戒する必要がある。となれば、いかにも情報を握っているらしい音弧から必要な話を聞いて、損は無い。その話によると、『獅子』の戦犯──ダンディ・ライオンは『決闘』という対戦形式において無類の強さを発揮することが判明した。

 その後庭取の報告により、妬良がダンディ・ライオンに敗北したと聞けば、より一層恐怖に震え上がった。

 

 そんな居竦んでいた所にあのフレンド・シープの奇襲だ。実際、あれのせいで十三戦士の誇るべき最高戦力が大した戦力にもならずに脱落したのだから目も当てられない。あれだけで一生涯分の驚愕を使い果たしたので無いかと思ってしまうほどだった。

 大戦が始まってから一時間も経過していないと言うのに死亡者と言うスコアは次々と刻まれていく。この時には既に、迂々真はどれが最善手なのか分からなくなってしまっていた。

 

 

『よろしければ儂等と共に行動しませんかな?矢張り、彼の『死体作り(ネクロマンチスト)』を最大限に活かすにはどうしてもサポート役の存在が必須。確かに儂は知恵こそ回るものの──しかし、生憎と、骨と皮ばかりの老人では力不足で心許ない。貴方の様な屈強な戦士が傍にいてくれたならば、これ程に心強いことはありませぬ。……どうか儂等に力添えをお願い出来ませんかのう?』

 

 

 かつて第九回十二対戦にて優勝をもぎ取って見せた彼の御仁は、その盛期をとうの昔に過ぎているにも関わらず、中々どうして侮れない。海千山千──主に血の海と死体の山な訳だが──と修羅場を潜り抜けてきた経験と知識に裏打ちされ、培ってきた、戦況を読む『勝負勘』が鋭い。本人が自負したように策を労する事が非常に上手かった。

 手早く第一方針を決めて、素早く反撃に移ったことは、戦況をイーブンにまで巻き返した大金星と言っても差し支えない。

 

(……が、しかし、この作戦は余りにも危険だ)

 

 敵のアジトにたった二人で乗り込む。これが無謀でなくて何だと言うのか。

 

(それに……もしかしら、彼奴(あいつ)が居るかもしれない……だろ)

 

 『虎穴入らずば虎児を得ず』──。

 妬良を救出するためには、確かに危険な巣穴へと入らなければならないかもしれない。しかし、この穴には敵が──具体的にはあの『獅子』が居るかもしれない。

(もしそうなったら──詰みでは無いか?)

 音弧が提示した『獅子』の戦犯──ダンディ・ライオンへの対策は、「とにかく複数人で戦うこと。数の暴力でゴリ押しすること」だそうだ。しかし、二人では数の暴力とは呼びにくい。憂城を頭数に足して漸くといったところだ。

 (願わくば誰も居ませんように)と、おっかなびっくりと奥へと進むと、そこは開けたスペースになっていた。

 

 

「コソコソしてないで、いいかげんに出て来たらどうなの?いい歳した大人がダサいよ?」

 

 

 そこには戦犯が一人待ち構えていた。

 

 

「こんにちは可愛らしいお嬢さん。……お名前を聞いても、よろしいですかのう?」

 

 

 その呼び声に身を強張らせること一拍。意を決して、二人の戦士は静かに姿を晒す。

 そして、必爺が彼女──戦犯に名を尋 ねた。

 

 

 

 

「『山羊』の戦犯──『病的に殺す』ゴー・トゥ・ヘブン」

 

 

 

 

 たった、一言だけ。彼女は静かに答えた。

 

 

◇

 

 

「『未』の戦士──『騙して殺す』必爺」

「『午』の戦士──『無言で殺す』迂々真」

 

 

 挨拶代わりに名乗りを返してはみたものの、二人は直ぐさま目の前の戦犯を捕まえようとはしなかった。

 何故か?──と言うのも。戦犯を名乗る少女は凡そ戦う者の出で立ちでは無かった。むしろ、立ち姿ですらなかった。

 色白と言うよりも蒼白と呼ぶべき肌の色。肌質や髪質も随分と荒れている彼女は、『患者』と呼ぶに相応しい姿で車椅子に鎮座している。その車椅子は山羊の角やそこから想起させる悪魔──バフォメットを意識したデザインこそあしらわれているが──だからといって、恐ろしい印象はこれといって受けない。

 

 

「ああ、少し待ってくれると嬉しい……。私、今はお薬の時間だから」

 

 

 とうの昔に現役を退いた必爺にとって、世界に名を馳せる十三星座の戦争犯罪人達は、誰一人として聞き覚えの無い者達だ。それこそ奇跡的に『蟹』の戦犯──サー・カンサーが同じ時代を生きた戦士だったために、その名を知る程度の情報しか持ち合わせてはいなかった。

 今にして思うと、必爺が憂城の配下の死体二つから聞き出した敵の情報と言えば、各々方の得意とする得物と戦法のみで、どの法に触れたことで戦犯に堕ちたかなど考えても見なかった。

 相手のプロファイルの補完は行動パターンや戦術の先読みにも使えることを考えると、必爺の行動はいささか功を急ぎすぎたかも知れない。だからこそ、この局面で、この戦犯と出会した。

 

 だが、戦士の目の前で悠々と夥しい種類の薬を飲んでいるゴー・トゥ・ヘブンは、正に病人のそれだ。とてもではないが、戦える人間には見えなかった。

 彼女が薬を飲む様を、見る人が観れば、それは最後の晩餐にも見えるかも知れない。だってそうだろう。この後、彼女は戦って死ぬか、或いは捕まって殺されるかの、実質二択と言う名の一択──死へと繋がる道しか無い。

 しかし、考え得る限り最悪のパターンですかのう、と必爺は内心冷や汗を流した。

 

 

「動かないで」

 弱々しく見える少女が強い語気で機を制する。それにより、先んじて動き出そうとしていた迂々真は身を強張らせて、微かに息を吞んだ。

 

 

「こっちに来たら…… ドカン! ……だよ」

 

 

 処方箋の中から取りだした物は薬──では無い。それを遙かに凌ぐ劇薬だった。

 彼女が手にしたモーメンタリタイプのリモコンスイッチ。そのスイッチは恐らくだが──火薬へと繋がっている。

 

 単刀直入に言って、この洞窟の自爆スイッチだった。

 

 

 

 

「──なる程、我々を巻き添えにして自爆……心中する気ですかな?」

 なるべく。温和に。柔和に話し掛ける。相手を刺激しないように。(ここに来て、何故このような説得を──飛び降り自殺を敢行する女史を引き留めるような真似をしているのですかのう。こういうのはどちらかと言えば平和主義者の彼女か、好色家の彼の方が『らしい』のではありませぬかな)とは思っていても、自身の命が一緒に掛かっているともなれば手は抜けないのが悲しいところだ。

「……そう。私達は悪だから…悪人だから…悪のアジトには自爆装置は必須だと思う……ってドクター・フィニッシュは言ってた。私があらかじめ仕掛けておいた地雷をまとめて爆破すれば、こんな穴蔵、簡単に崩落出来る」

「これはこれは大きく出ましたなぁ。……しかし、それではあなたも巻き添えになってしまうのでは?」

「そうだね……。でも、私一人の命で戦士を二人殺せたなら、お釣りが来る」

「『お釣り』と言いますか……」

 戦況は未だ表面上ではイーブンを保っている。しかし、妬良が敵の手中にあることや、ルック・ミーがクローン戦士を作っていることを加味すれば、現状はまだまだ戦犯側に優位性が多く見られる。

(なのに、その優勢を放棄して、このような相討ち覚悟の自爆上等な戦い方を選ぶには余りにも時期尚早ですな。破れかぶれになるには早過ぎる。通常であれば、最後の最後にとっておく手段ではないですかのう?

 しかし、死なば諸共な戦術を選ぶにしても、なにゆえ目の前の犯罪者は起爆装置を直ぐに押さないのか?我々がこの場まで押し入った段階で爆破してしまうべきではありませぬかな。それを何故、目の前でこれ見よがしにチラつかせているのか。

 ……もしや、我々を生き埋めにする以外にも目的があるやもしれませんのう。ともすれば……彼女の言動は狂言(ブラフ)の線も考えるべきか?)

 彼女が本気で自爆スイッチを押すにせよ、実際には押さないにせよ、直ぐに強行採決を取る様子は見られない──ならば、少々揺さぶってみるか?

「……死ぬのが怖くはありませんかな?」

「………」

「儂も老い先短い老人の身ではありますがのう。それでも死ぬのは嫌なものですじゃあ。愛する家族も、可愛い孫も居ることですしな。いいや、そうでなくとも、死にたくないと思うのは自然な事ではありませぬかな?」

「三文芝居の説得。今時、古典にしか出てこないよ、そんなダサいの。

 ……でも、ここで自殺を止めたからどうなるって言うの?百歩譲って、死ぬのが怖くて、オメオメ投降して──それでどうなるの?私は、私達『戦争犯罪人』は捕まれば、処刑される。──だったら──せめて、仲間だけでも生き延びる可能性が上がる方に懸けるのは、それほどおかしな事じゃ無いでしょ?」

「随分とまあ健気な行いですなあ。

 しかし、分かりませぬな。そもそも何故貴方はこの戦争に──十二大戦に参加したのですかな?

 確かに戦争よりも業の深い犯罪者だからこそ声が掛かったのでしょうが……。儂の見立てでは、貴方自身は凡そ戦いに耐えられるような屈強さを持ち合わせてはおりませなんだ。であれば、ここで出張らずに、他の戦犯に委ねて、貴方は身を潜めるべきではなかったのですかな?」

「戦士だからとか、戦犯だからとか、強いからとか、弱いからとか、健康だからとか、そうでないからとか、関係ない。問題はそこじゃ無い。私はサー・カンサーの語った理想に乗っかったの。私が自分の手で選んだんだ」

(理想(・・)と来ましたか……)

 憂城によって死体になり、『歩く死体(おともだち)』になった戦犯が居たというのに、彼等の行動理念を蔑ろにしていたツケが今ここで回ってきた。

 むしろ意外だったのだ。身勝手極まりない犯罪者の集団が個々まで意思統一を果たしていて、その目的のために統率の取れた動きをしているという事実が。それでいて、仲間のためなら自らの命をも問わないという思いっ切りの良さが──吹っ切れ過ぎた思いっ切りの良さまで持ち合わせているのだからたちが悪い。

(これもあの交渉上手が間に入り、仲を取り持っているともなれば──納得出来てしまうのですがのう)

 さて、彼女の──延いては戦犯の理想とやらについて少しばかり掘り下げてみようかと思案した矢先に、対話に割り込む声があった。

 

 

「馬鹿な真似はよせ」

 隣で沈黙を保っていた迂々真が口を開いたのだ。良い声の持ち主として密かに知れ渡っている彼が、その巨大な体に相応しい静かな声でそう言った。

「……それはあんたが『午』の戦士だから、馬(・)のお株を盗られて困るからって話?」

「違う。……そうでは無く、命を投げ打ってでも何かを成し遂げるのは立派な事かも知れないが、投げ捨ててまで果たそうとするのは愚かな事だ……と言う話だ。

 君たちが掲げた理想の事など、俺には理解出来ないかもしれないが、その理想の為に死ぬ事に価値などあるのか?

 何をするにしても。何をしたにしても。それで死んでしまったなら、そこで終わりではないか」

 迂々真の悲壮感を漂わせる声には、彼自身の実体験が背景にあるのだろうか。その訴えは確かに言葉の重みを感じてしまう。

 必爺には知るよしも無い話だが、迂々真が今の肉体を──鉄壁の防御術『鐙(あぶみ)』を──得たのは、極端な話であるが、負けたくないからだし、死にたくないからだった。要は生き延びるために必至だったのだ。その為に、イリーガルな肉体改造をも自らに施したし、常人では到底耐えることの叶わないトレーニングでさえこなしてきた。

「あーあ。そういうこと言うんだ?」

「何?」

「何と言うかさぁ、あんた達ってズルいよね。自分のこうしたいって思える望みがあって、それを叶えるだけの環境があって、それでいて実行に移せる立場があって。全部揃っていて、明確になっていてさ。

 確かにあんた達が言うように私達は犯罪者だよ?周りから見れば、真っ黒も真っ黒な有罪判決なんだろうけど、全部が全部悪しき側面だけじゃ無い。

 例えばフレンド・シープなんて、倫理的問題があるって理由で戦犯になったけど、あの極限状態の中で捕虜達の命をつなぎ止めたのだって事実。

 例えばルック・ミーなんて、人攫いとは言うけど、その過程全てに於いて人を殺した事は無い。

 例えばダブル・マインドなんて、生き別れた姉弟に会いたかっただけ。

 例えばサー・カンサーなんて、国々の疑心暗鬼に裏切られただけ。

 例えばダンディ・ライオンなんて、彼が国を転覆させなければ民衆は圧政に潰れて多くの無実な人々が命を落としていた。

 例えばアイアン・メイなんて、戦いたくないから逃げ続けただけ。

 例えばスカル・ピョンなんて、その生き方以外に選択肢が無かっただけ。

 例えばウンスン・サジタリなんて、軽率ではあったけど正義を貫いただけ。

 例えばドクター・フィニッシュなんて、自身の技量を磨くためには必要な事だったし、実際にその医療技術で……違法医療だったけど……もっと多くの命が救われた。

 まぁ、バロン・スーとかマペット・ボトルなんかは個人的には共感できないけど、あれはあれで境遇の不遇があったわけだし、私だって似たようなものだから、出来れば皆の力になりたい。

 私は戦えないから選べる選択肢は少ないけれど、下手をすれば『双子』の戦犯の名乗りである『選択の余地』すら無いかもしれないけれど、私はその一択を覚悟を決めて選ぶよ」

 

 

 そう言いながら、彼女は手にしたスイッチを目の前に掲げる。

「いかん!?止めなさいっ!!」

 柔和な好々爺の必爺が慌てた形相でゴー・トゥ・ヘブンを取り押さえにかかる。それに追従するように迂々真も動き出した。

 

 

 

 

「……それにさぁ、よく言うじゃない──」

 

 

 

 

──『馬鹿な真似をする(act the goat)』ってね。

 

 

 

 

 そう言って、ゴー・トゥ・ヘブンは躊躇うこと無く、起爆スイッチを押した。

 

 

 

◇

 

 

 ゴー・トゥ・ヘブンは生まれる前から戦争の凄惨さを良く知っていた。と言うのも、彼女は生まれるよりも前、より具体的には産道を通過するより前の胎児だった頃に母親が対人地雷の被害に遭った。母親は死に、自身も生死の境をさまよい天涯孤独の身となった彼女は先天的とも後天的とも言い難い恐怖心を植え付けられ、戦争に──あるいは地雷の埋まっていた地面に──怯えて過ごした。その後も人攫いに遭い、自身の体を商品として売り捌かれながら、世界を転々と渡り歩いてきたが、世界は愚かな程に戦争に溢れていて、その度に自分のような割を食う人間がいるのかと思うと、激しい憤怒と嫌悪感を抱いた。

 

 積もりに積もった戦争に対する忌避感と敵対心。そんな彼女に掲げる信条があるとすれば、『戦争なんて無くなってしまえばいい』の一言で済まされる。

 

 

 ──ぜんぶ吹っ飛べ。バラバラになれ。人間なんていないほうがいい。

 

 

 確かに彼女は病弱だ。患者であり、弱者だ。

 

 しかし、彼女は他の戦士の誰よりも、他の戦犯の誰よりも、戦争を嫌い、戦争を憎しみ、戦争を壊したくてしょうが無かった。

 

 だから、自分が死ぬ事になろうとも、この計画は最後まで遂行せねばならない。それで自分の願いが叶うなら、命なんて惜しくない。

 

 

 

 そもそも、ここでゴー・トゥ・ヘブンが死のうとも、全ては予定調和だ。

 死ぬのが早いか、あるいは遅いかの違いしか無い。

 

 

 

 

 

 

 しかし、その僅かな『時間稼ぎ』は確かに効果覿面だった。

 

 自分の身をスケープゴートよろしく生け贄に捧げて、必爺と迂々真をまとめて生き埋めにしただけではなく──

 

 ──先程までここで補給をしていた戦犯達を体良く脱出する時間稼ぎまでして見せたのだ。

 

 

「『魚』の戦犯──『生かして殺す』ドクター・フィニッシュ」

「『牡牛』の戦犯──『誓って殺す』ルック・ミー」

「『乙女』の戦犯──『仕えて殺す』アイアン・メイ」

『『子』の娘──『命尽きるまで殺す』子失』

『『丑』の娘──『命尽きるまで殺す』子失』

『『乙女』の娘──『命尽きるまで殺す』子失』

 

 

 補給を受けていた戦犯の大軍が次に矛先を向けたのは、当然直ぐ近くに居る戦士達だった。

 

 

「……ねぇ、僕のお友達になってよ」

 

 

 近くに居たのは『卯』の戦士──憂城の居るチームラビッツだった。

 

 

「『卯』の戦士──『異常に殺す』憂城」

「『牡羊』の戦犯──『数えて殺す』フレンド・シープ」

「『射手』の戦犯──『狙い澄まして殺す』ウンスン・サジタリ」

 

 

 局所的なスコアは3─6。まさかのダブルスコアである。

 

 

 

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