私の両親はギャンブルに強かった。二人が知り合ったのはとある雀荘で、気が合ったからそのまま結婚。その後兄貴が産まれ、私が産まれた。二人のギャンブル好きは私達が産まれた後も変わらず、逆にエスカレートしていった。負けて失うものが大きくなったから、それこそギャンブルだって…。
二人が通う賭場のレートも次第に高くなって、一度負ければ即破滅の所まで行ったけど、二人が負けることは無かった。でもやっぱり私は怖かった。怖かったけど、何も言えなかった。私はギャンブルという土俵に上がっていない。だから何も言う資格は無いんだって…。
そんな私を見てか、兄貴は両親に勝負を挑んだ。俺が勝ったらもうギャンブルはしないで、って。14歳の時だ。私は6歳。その勝負は麻雀。私も勇気を振り絞って卓に着いた。兄貴はお前はやめろって言ったけど、私は引き下がらなかった。ここで引き下がったら、永遠に私はギャンブルの土俵に上がれないって思ったから。
その勝負は…父と母は金を、私たちは肉体を賭けた。金を持たない私達に賭けれるものなど、体しか無かった。負けたら両腕、両足、目、耳を失い、以後五体満足で生活など出来なくなる。それでも受けた。その時父と母は、そんな私達を見て、一瞬だけ微笑んでいたように見えた。
天が味方をしたのか。いや…あれは父と母が私達の手に仕込んだのだろう。結果は私達の圧勝だった。私たちは傷一つなく大金を手にした。父と母はきっと、ギャンブルの本質である『破滅』を求めていたのだと思う。自分の子になら…殺されていい。だから私達の手に役満手を仕込んだ。
二日後、父と母は死んだ。家を焼いての焼身自殺。その後私達はおじさんに拾われた。父や母とおじさんは昔からの知り合いで、彼らは死ぬ前、おじさんに私達のことを頼んだそうだ。
その激動の中…兄貴は必死で私を守ってくれていた。想ってくれていた。嫌いなわけがない。でも『お兄ちゃん』って言うのはなんだか照れくさい。言っては…みたいんだけど。
◆
最終戦。麻雀部の残り資金は4000万。この時点でもう私の目標はほぼ達成されている。少なくともこの麻雀部は、以前までのような脱衣麻雀を運営していくことなど出来ない。もしかしたら健全な部活動に切り替えるかもしれない。
でも、それでも…最終戦はきっちりこなさないとね。
座順
愛花→部長→副部長→私
東一局 親 愛花 ドラ {⑨}
部長の表情は、泣いているのか笑っているのかよくわからないものだった。息も荒い。いける、いける、と呪文のようにブツブツと呟いていた。
序盤から中盤にかけては、愛花さんと副部長の鳴きあい合戦だった。愛花さんは{発}と{白}を鳴いて大三元を臭わせていたし、副部長は役牌を叩き、さらにドラの{⑨}を大明カンしていて、どっちもデンジャラスだった。だけどその荒波の中に部長はリーチで飛び込んだ。
「ロ…ロン!……一発だ!!しかも高め!!8000…8000だ!さ・・・さぁ…脱げ!早く……早く!」
南家 部長 手牌
{八八八②②12356789} ロン {4}
リーチ 一発 一気通貫 40符4飜 8000
振り込んだのは愛花さん。3枚のペナルティなので、彼女は眼鏡を除くすべての服を脱いだ。しかし彼女は意外にも堂々としていた。これも私の模倣とでも言うのだろうか。ニヒルに笑ってもみせていた。
「『たかだか』服を脱がした程度で随分と盛り上がっていますが…追い詰められているのはあなた達であることをお忘れなく」
彼女からは考えられない一言だった。
「追い詰められている?は…!こっちは2500だ…あと2500だけ削れば勝ちなんだ…。それを忘れていないか?」
「私にはまだ眼鏡一つ残っていますし…私の場合は4500必要ですね…。この4500点を削ることがいかに困難か……苦行か……試練か……ふふっ」
挑発まで…。この娘の性格がまるで違う。まるで私を見ているようだった。こんなにも人はマネれるもんなのかな。
「はい……5200です。後二千万ですね」
東二局は序盤の内に愛花さんが副部長から直撃を奪った。脱いでからますます勢いが増したようだ。
「な……何をやっているんだこの馬鹿!」
副部長は黙って俯いているだけだった。それにしてもこの副部長だけは雰囲気が違う。部長のように一喜一憂などせず、ただ淡々と打っている。まるで勝負のことなどどうでもいいように。
その副部長は、東三局の中盤にリーチをかけた。親リーでなかなか危険。彼にやる気があるにしても無いにしても、どの道私たちはこれ以上のダメージを受けてはいけない。錯乱状態に近い部長の方はともかく…まだこの副部長は死んでない。
西家 愛花 河
{東一28西二}
{三1南三8九}
{②六}
チー {横756}
「このあたりか…」
私は手牌から{3}を抜き打って愛花さんに差し込んだ。差し込みは成就し、1000点で局は流れた。
西家 愛花 手牌
{三四五③④⑤45北北} チー {横756} ロン {3}
三色のみ 30符1飜 1000
オーラス 親 私 ドラ {③}
東家 私 配牌
{三四七①②③③⑦245西白中}
開幕でドラ二丁。止めは私かな?と思っていたら3巡目に愛花さんからリーチが入った。部長も役牌の{発}を叩いて最後の悪あがきをしている印象だったけど、流れは愛花さんにあると思った。私は手を崩し、最後の局を愛花さんに託した。
「ロ……ロン……」
「!?」
副部長を除く部室内の部員はその和了に騒然となった。和了形は{発}のみの1000点。しかもそれを副部長から和了ったのだ。この脱衣麻雀の最後は、あまりにもあっけないものとなった。
「も……もう……だめだ……限界だった……何もかも……」
残り2000万だった『部長』は、愛花さんのリーチで殺されると思ったのだろう。彼は残り2000万で妥協した。つまり彼は…はなからギャンブルの土俵に上がっていなかったのだ。その結果がこれ。惨めなものだった。
六回戦終了
愛花 23200(-8000)
部長 35000
副部長 17800
私 24000
「終わりましたね」
麻雀部サイドは私の声に誰ひとり反応しなかった。
「ええ」
私の声に応えたのは愛花さんだった。そして彼女は付け加えるように言った。
「茶番は終わりです」
来た。
「ある程度…。予想はしていたけど…どうするつもり?勝負はもう終わっちゃったわよ?」
「ちょっとその前に…麻雀部の…誰でもいいわ。『アタシ』の服…返してちょうだい。お金は全部払うから。2億くらい?とにかく早く。寒いから」
部員は言われた通り彼女に服を返した。返す前に「本当にいいのですか?」と彼女に聞いている辺り、彼女と麻雀部のつながりは無いように見えた。
「どういうこと?愛花さん」
「あなたも服返してもらったら?これから警察がこの部屋に入ってくるだろうから。返してもらった方が良いわよ?」
「質問の答えになってないわ」
「アタシにとってはね、勝負の結果なんてどうでもよかったの。麻雀部が勝とうが負けようが…どっちでもね。ただちょっと打ちたかっただけだし。ちなみにこれから来る警察が逮捕するのは麻雀部じゃないわ。こんな小悪党に興味ないし。逮捕するのはそこのおじさんよ」
「ふーん。知っていたんだ。おじさんのこと…」
「お爺ちゃんが捕まえたい相手ナンバー1だもん」
「全てはおじさんを誘い出すため…か……なるほどなるほど。で、あなたは警視庁総監の孫娘…と」
「そういうことよ。ふふっ」
となるとこの娘はそういう娘か…。『調べさせておいて』良かった。てことはなんでおじさんではなく『アイツ』がおじさんの変装をしてここに来たかの理由もわかった。
「愛花さん」
「何?大好きなおじさんが捕まっちゃ嫌?」
「仮にさ…そこの老けたおっさんがあなたの逮捕したい暴力団の組長じゃなかったらどうなるのかな?」
「は?何を言っているの?」
「いやたぶんね。これから来る警察が逮捕する相手は彼じゃないと思うのよ。全裸の女の子と複数の男子。逮捕されるのは麻雀部の部員じゃないかな?」
「言っていることがわからないわ」
「だ・か・ら、そこにいるのはおじさんじゃないのよ。私のお兄……兄貴よ!変装してるの」
「え?」
おじさんだった男はマスクを取ってその若々しい素顔を晒した。
「まあ…そういうことです。なんかごめんね。騙しちゃって。そこの部長さんに対しても」
兄貴がようやく口を開いた。ぺこぺこと頭を下げて。
ちなみに兄貴の職業は警察官。警察手帳を彼女たちに見せた。
「そ…そんな…」
「確かにそうね。とんだ茶番だったわ。じゃあお金返すから私の服も返して」
私は卓に奪った金を全て叩きつけ、それから自分で服を取りに行った。部員たちは固まっていて動かなかったからだ。愛花さんも固まっていた。
なんか違和感…。
◆
その日は兄貴と一緒に帰った。
「来てたんなら、助けてくれてもよかったじゃない」
「おじさんに言われててさ。『アイツは勝負したがってる』って。邪魔しちゃ悪いじゃん」
まぁ、そりゃそうだけど…。
「でも私の裸、見た…」
「前は見てない。背中だけ…」
「それでも見た!」
私は兄貴の足を踏みつけた。二度三度踏みつけてやった。
「イタっ!悪かった、悪かったからやめてくれ」
それでも…来てくれた。
―――私の、最高のお兄ちゃん
「何か言ったか?」
「何も言ってないわよ!」
大好き。
◆
目覚めが悪い…。何か嫌な夢を見た気がする。股の方になにか嫌な感じがして、さわってみたらやっぱり濡れていた。やっぱり裸で寝るものじゃないな。転校初日…新規一転するべき日だってんのに、嫌な一日の始まりだ。
◆
兄貴の仕事の都合で私は転校…七月から新しい学校に通うことになった。名門とはいかないまでも麻雀部があるそうでうれしかった。入ろう。転校前の高校に麻雀部は無かったし。
◆
その麻雀部は部屋が男子と女子に分かれていて、私は女子の方の部室のドアをノックした。「入って」って言われたから、入った。
そこには四人ほど部員がいて、一番奥にいるのは部長さんかな?だけどあの娘………
―――夢の中で会った、ような……
おしまい