私は香澄真昼。
四ツ星学園に通う中学生で、アイドルとして頑張っているわ。
今はゆめやあこ、ゆず先輩と一緒にS4としても活動していて、日々アイカツしているの。
お姉ちゃんのような…ううん、お姉ちゃんを遥か越えるような輝きを持つアイドルを目指しているし、今はそのお姉ちゃんから引き継いだブランド『Romance Kiss』と共にアイドル界で輝くために頑張っているわ。
最近ではアイドルの他に、モデルとしても活動しているから、女子からの人気も高いのよ。…自分で言うのもちょっと変な話だけど…
でも最近は、男性の熱狂的なファンも増えて来ていると感じている。正直なところ、私はゆめやあこみたいに正統派のアイドルという感じではないから、男性からの人気はそんなに無いのかなってずっと思っていたんだけど… だけど何故自分が男性から支持を受けているのか。
その理由をしっかり理解出来るようになった。
もちろん男性からも人気があるのは嬉しいし、アイドルとして異性からも同性からも人気があるのは凄くいいこと。
そう、男性から人気があるのは全く悪くない。
私が問題にしてるのはその理由。
それはあまり認めたくはないけれど、認めざるを得なかった。
◆
「みんな、おはよう」(たゆんっ)
「…今日も真昼のおっぱいは大きいですわねえ…やっぱりわたくしたちの中でも一番の爆乳じゃありませんの?」
今日もあこのその一言から始まる。そしてそのあと決まってあこは羨望の眼差しで私(と私の胸)を見る。というより睨む。まあ最近ではいつものこと、毎朝の恒例の光景になっている。今更この光景にああだこうだとツッコミを入れる人すらいないのだ。
…っていうか無意識のうちに胸を揺らしていたみたいでちょっと恥ずかしい。
「ちょ、ちょっとやめてよあこ!毎日毎日私の胸をイジらないで……私、胸が大きいのはあまり好きじゃないの…」
「え~、私は真昼ちゃんが羨ましいなあ…それだけ大きかったら毎日楽しいよねえ。私ももうちょっとおっぱいが大きかったらなあ」
「ゆ、ゆめまで…別に楽しくないわ…可愛い下着はなかなか見つからないし運動もし辛いし……って言うか私から見たらゆめやあこの胸だって立派に見えるわ…二人とも十分大きいわよ」
「まぁだそんな事言いますの?それだけ大きなおっぱいを持ってるなら誇っていいと思いますわよ? ほら、最近はモデルがグラビアに進出したりもしてますし、道なんていくらでもありますわ!確かにわたくしやゆめ、ローラも結構大きい方ですけれど…真昼はそれを上回る大きさですもの」
「うんうん、そうだよ!大きいことはいいことだ!だよ真昼ちゃん!それを生かさなくちゃ勿体ないよ!」
「…そう…なのかな…」
「そうだよ!」
「そうですわよ!」
「そ…そこでいきなりハモらなくても…」
「私の周りでも、真昼ちゃんにグラビアをやって欲しいって人結構いるよ?真昼ちゃんは絶対グラビア映えするし、今グラビア始めたらきっとすごいと思うんだけどなあ」
「ローラだって水着グラビアやってますし、真昼が水着グラビアなんてやったらもう皆さん大騒ぎですわよ?『あの香澄真昼が脱いだ!』って一大センセーショナルになりますわ!」
「…いやいやなんなのその限定的なセンセーショナル…」
そう、その理由というのは私の胸。
自分で言うのも嫌なくらい恥ずかしいけれど、私は胸が大きい。大きすぎるのだ。
どのくらい大きいかと言うと、うーん、バスケットボールを二個詰め込んだ感じ、と言えば大体伝わるかな…
この前バストサイズを測ったら……98cmもあったの……
あこは「もう少しで100の大台ですわ!爆乳アイドルの誕生ですわー!!」だなんて大騒ぎして興奮していたけど、私は「また大きくなっちゃった…」と愕然とするほか無かった。
グラビアアイドルとしても活動しているローラからも「私のライバルね!面白いじゃない!」なんていきなり一方的にライバル宣言されるし、正直いいことなんて殆ど無い。
ちなみにローラによるとグラビアのカメラマンからはゆめの胸は『太陽のようなおっぱい』、あこの胸は『にゃんこのような気まぐれおっぱい』、そして私の胸は『高貴なるエロ爆乳』とか『香澄家の最胸兵器』、『海王星のたわわな果実』とか呼ばれてるらしい。うん、全然嬉しくない。
まあそんな風に揶揄されるほどの大きさだから、私の胸はとにかく揺れる。
揺れて揺れて揺れて、たまに跳ねて、また揺れまくる。
だから、ステージ上のダンスとかはみんなの目線が気になるのよね。
あとは揺れると凄く痛い。
僅かな動きでも結構揺れるから激しい振り付けだと動きが固くなりがちなの。自意識過剰と言われたらそれまでなんだけど…ああ、私の揺れる胸を見ないで、っていつも思っちゃう。…アイドルとしてはちょっとどうかと自分でも思うけど。
あとは…そうね、『にゃんこのような気まぐれおっぱい』ことあこは毎朝挨拶代わりと称して私の胸を背後から揉みしだいて来るのも悩みの種ね。あこってそんなに胸好きだったっけ?ってくらい私の胸への執着が凄いの。そうなったら誰かが止めてくれるまでずっと揉んだままなのよね…
やめてって言っても多分やめてくれないだろうし。
そして何よりモデル活動に支障が出て来ている…私はこれが一番辛いかもしれない。
胸が大きいと似合う服がなかったり、胸が目立って衣装が目立たなくなってしまう事があるから、巨乳の女の子はモデルに向かない、なんて事は昔からずっと言われてる。
今はサラシでなんとか対応してるけど、それでもこの大きすぎる胸を完全に潰しきる事は出来ない。
私はアイドルとしてもモデルとしてもまだまだ道半ば。言い方を変えればまだ未熟ですらないの。
だから、自分の活動を制限する障害はちょっとでも少ない方がいい。
そう言った数々の理由で私はその大きすぎる胸をあまり快く思ってはいない。
それどころか強いコンプレックスを抱いているくらい。
あこ達は羨ましいとか誇っていいと言ってくれてはいるけど…正直今の自分には無くて良いものだと思ってる。
◆
「はぁ…朝から疲れた…」
グーッと伸びをする。
あこの対応で疲れたのもあるけど胸が大きいととにかく肩が凝る。…私まだ中学2年生よ?
「おはよう真昼ちゃん。フフフ、朝から大変だね」
「ああ、おはよう小春……全く、あこの私の胸への執着にも困るわよ…」
「あこちゃん、真昼ちゃんのおっぱい好きだもんね。ほら、真昼ちゃんのおっぱい大きいからあこちゃん羨ましいのかも」
あこがあんな感じになってる今、ちゃんと私の話を聞いてくれるのは小春くらいしかいないかもしれない。
小春と話していると、なんだかちょっと心が安らぐ。
ちなみに件のカメラマンによると小春は『地味ながらも存在感のあるおっぱい』だそうだ。…なんとなく分かる気がする。
「羨ましい…ねえ…私にはあんまり見た目に差はないように見えるけど」
「あこちゃんにしか分からない何かがきっとあるんだよ、真昼ちゃんのおっぱいには。私も真昼ちゃんのおっぱい凄いなあって思うもん。暖かそうだなあって感じ」
「…………そう(恥ずかしくなってきた)」
前言撤回。安らげなかった。むしろ恥ずかしい褒め言葉をいただいてしまった。
小春はたまにこういう事を恥ずかしげもなく、サラッと言っちゃう。
小春はこういう所があるのだ…
どうか赤くなった顔を小春に見られてませんように。
私はそう祈って顔を伏せた。
◆
今日は本当に雲一つ無い良い天気だった。
明日もきっと快晴なんだろう、窓をすり抜けてオレンジ色の夕陽の輝きがレッスン場を染めていた。
私はレッスン場にある全身鏡をジッと見ていた。自分でこんな事を言うのもアレだけど顔は悪くない。アイドルとして、モデルとして活動しているのだから見た目を磨かないといけない。
そんな私の胸元には有り得ないくらい突起した胸。
「はあ…今日も私の胸は大きいわね…さすがだわ…」
私は足元を覆い尽くす大きなおっぱいを見下ろして皮肉を溜め息混じりに呟いた。
鏡を通して自分を見てみても、やっぱり大きいな、と感じる。
私の胸はそんな溜め息一つという小さな動きでたゆんっとイヤらしく揺れる。
その揺れを見てまた溜め息を吐く。するとまた胸が揺れる。するとその揺れを見て……これ以上やると延々リピートになってキリが無くなっちゃう。やめようやめよう。
溜め息を吐いたところで胸が小さくなるわけなんて無い事は自分が一番よくわかっているけど…そうでもしないと自分の気持ちが落ち着かないのだ。
「はあ……やっぱりこの胸じゃモデル活動に支障が出るわね…サラシを着けているとは言えそろそろ限界だろうし…確かに昔は胸が大きくなって欲しいとは思ってはいたけど…これほどまでに大きくなるなんて思わなかった…」
周りのアイドルと見比べて見ても、やはり私の胸はかなり大きい。下手すると、香澄夜空…私のお姉ちゃんよりも大きい可能性がある。
だからこそ余計に恥ずかしいのだ。
別に水着を着ているわけでも、常に露出度の高い格好をしているわけでもない。
それなのに私の胸は目立ってしまう。
その胸の突っ張り加減は、まるで漫画のキャラクターみたいだ。
そんな風に鏡に映る自分を見て、ずっと胸の事を考えていたら、ふと降りてきた一つの不安。その不安が私を締め付ける。
「…ここまで大きいとみんなから気持ち悪いと思われてないのかな…あこやゆめはああ言ってはいたし男性ファンも増えてるけど…やっぱり少し不安…」
私のこの胸はファンのみんなからどう思われているのだろうか。私はアイドルやモデルだから、ビジュアルで好きになってもらう事もあるけど、そういう人は私の胸の事も愛してくれているのだろうか。
「…だけどそんな事をみんなに大々的に聞くのは流石に変よね…そんな事したらあこからまたやっかみ受けそうだし」
『この期に及んでまだそんな事仰るつもりですのーっ!? そんな生意気おっぱいはわたくしが揉みしだいてやりますわーっ!フシャーッ!』
『イヤーッ!やめてあこーっ!私の胸を揉まないでー!』
「……ダメね……こうなる未来しか見えないわ」
あこがまた烈火の如く勢いで私の胸を揉みまくる様を想像したら頭痛がしてきた…可能ならそんな目には遭いたくない…
「…よし、私の胸をどう思ってるか、今度ファンの人に聞いてみよう」
そんな発想に辿り着く自分に驚いた。
いまだかつてそんな事をファンに問うアイドルなんていただろうか。
我ながら突飛というか、課程を全部すっ飛ばしたような考えだなと思う。
こんな事を直接誰かに聞くのは恥ずかしいを通り越して非常識だとは思うけど。
こうでもしないと、ファンの人が私の胸をどう思っているかなんてわからない。
鏡の前で軽く踊ってみる。私の動きに合わせてぶるんぶるん跳ねまくる胸。今ここには私しかいないし、自分からやり始めた事なのに私の頬は羞恥で染まる。もちろん大きな胸で踊るアイドルは他にもいる。でも私は自分がそうなっている事に未だに慣れきっていないのだ。その光景を客観的に見てしまった私は、思わず胸を押さえてレッスン場の床にへたり込んでしまう。
そんな私の大きな胸を本当に好きになれるだろうか。
みんな私の胸を好きでいてくれているだろうか。
私が通う四ツ星学園の女性アイドルは胸が大きければ大きいほどいいとされている。それはもちろん、S4も例外ではない。実際に先代S4だった先輩方(お姉ちゃんや現役S4であるゆず先輩含む)も胸が大きい。現役アイドルではない先生たちも、私の周りも胸が大きい子ばかり。
その四ツ星学園から見たら私はとても逸材とも言うべき存在なのかもしれない。だけど私はその胸があまり好きではない。
私は時折、そのギャップに悩んでしまう。私は本当にここにいていいのだろうか、と。
「はあ…ダメだわ…これ以上ここで腐ってても仕方ない。こんな所を誰かに見られたら恥ずかしいし格好悪いしね。…それにこれじゃお姉ちゃんを越えることなんてとても出来ない」
へたり込んでいた体勢から立ち上がって背伸びをする。
「…帰ろう」
部屋に戻ろうとすると、鏡に映った自分の姿と胸がチラッと目に入る。
「……自分の胸を…誇っていい、か…」
あこの言葉を思い出して、私は大きな胸を優しく撫でながらそう呟いた。
◆
建物を染める眩しい夕陽。はっきりそれとわかるほどのオレンジ色。私の眼鏡のレンズにもその光が反射しているだろうか。いつもならそれを感慨深く、ゆっくりと眺める所だけど、私にはそれをゆっくり眺める暇なんて無かった。
「ああ、早く帰らないと…ゆめちゃんが待ってるのに…」
一刻も早く帰って、ゆめちゃんとの約束を守らなきゃ。それにしても、まさかゆず先輩があんな事になって……リリィ先輩があんな事をしてしまうなんて…
二人の様子をずっと見てたら目が離せなくなって、遅くなっちゃった。もうすぐ陽が沈んじゃう。
ゆめちゃん怒ってるかな…せっかく一緒に『霧矢あおいのおっぱいアイドル大図鑑~星宮いちごで9時間スペシャル』を見ようって誘ってくれたのに…早く帰らなきゃ… 帰りを急ぐそんな私の目にレッスン場に座り込む人影が目に入った。
あれは…
「……真昼ちゃん…だよね?」
後ろ姿でもわかる。あれは真昼ちゃんだ。
やっぱり真昼ちゃんはオーラが凄い。
夜空先輩の妹さんなだけあって、美の追求に妥協を許さないし、いつか夜空先輩を越えてやろうという熱さも兼ね備えている。志が高くて、でも優しさも持ち合わせている女の子。
そして真昼ちゃんといえば、何よりその迫力のあるおっぱい。
最初に真昼ちゃんに会った時はあまりのおっぱいの大きさにビックリしたっけ。
今見かけた真昼ちゃんは後ろ姿だったけど、真昼ちゃんのおっぱいは後ろからでも十分その存在を確認出来る。真昼ちゃんは自分のおっぱいはあまり好きじゃないみたいだけど、やっぱり私…ううん、みんなからしてみたら憧れの対象なのだ。
だけど、こんな時間にレッスン場で何をしてるんだろう。
そう思って真昼ちゃんに話しかけよう…とした時、真昼ちゃんの横顔が微かに見えた。
真昼ちゃんは少し憂いがあるというか、何かを思いつめていそうな顔をしていた。
その顔は儚く美しい、だけど見てるこっちも悲しくなってしまいそう、そんな表情だった。
「真昼ちゃん…落ち込んでる…?」
真昼ちゃんの目線は真昼ちゃん本人の胸に行っていて、さっきからしきりに溜め息を吐いていた。
真昼ちゃん、やっぱり自分のおっぱい好きじゃないのかな…ずっと悩んでいたもんね…
私に…真昼ちゃんのためにしてあげられる事は何かないだろうか…たとえ真昼ちゃんにしてあげられる事があったとしても小さな小さな、本当に小さな事だろうけど、どんな些細な事でもいいから真昼ちゃんの力になってあげたい。
私はそんな事を思いながら、真昼ちゃんをずっと見ていた。