数日後。
一度決心したならば行動は早い方がいい。
この心が揺らがないうちに私は行動する事にした。
ちょうど今日はステージの予定がある。
そのステージが終わったあとにファンの人に聞こう。誰でも構わない。とにかく私のファンなら誰でも。
ドキドキが止まらないけど、一度決めたからにはやるしかない。
だけどその前に、ステージでファンのみんなを楽しませるのが私の、アイドルとしての役目。
なんだけど、いくら瓦を割ってもなんだか落ち着かない。
どうにもステージまで心が及ばないのだ。どうしてもステージより、ステージが終わったあと、その先のことを考えてしまう。
そんなのいけない事だとはもちろんわかっている。
だけど、今の状態では100%のパフォーマンスは出来ない。
と、一人ああでもないこうでもないとブツブツ考えていると、私の耳に入ったのは楽屋のドアをコンコンとノックする音。
しまった、自分の世界に入りすぎてノックの音が聞こえてなかったのかな。
「はーい、開いてますよー」
申し訳なかったなと思いながらしっかり返事をすると、ガチャリとドアが開いた。
「…おはよう、真昼ちゃん」
「小春!」
そこにいたのは私のお気に入りのスイーツショップの箱を持った小春だった。
でも小春が一人で私の楽屋に来るのは珍しい。
でも小春の表情はいつもの天使のような可愛らしい笑顔ではなく、どことなく不安げ。
「どうしたの小春?小春が一人で私の楽屋に来るなんて珍しいじゃない」
「うん、真昼ちゃんの様子が気になっちゃって」
「私の様子?」
すると、小春は少し困ったような表情を浮かべて口を開いた。
「なんだか最近、真昼ちゃんに元気が無いって言うか…笑顔が少ないなって思ってたから……ゆめちゃんたちやファンのみんなも最近元気がないねって心配してるんだよ?」
「笑顔が…少ない…?私に…?」
小春の言葉にドキッとする。
笑顔が少ない?…どういうことだろう。
「この前、真昼ちゃんが一人でレッスン場にいるのを見ちゃったんだ…なんだかずっと考え事をしてるみたいというか…話しかけようって思ったんだけど、話しかけられるような雰囲気じゃなかったから…ごめんね、黙って見てて」
…ああ、この前のアレ小春に見られちゃってたんだ…
小春どう思ったかな…正直キツいと思われたかな…
「あの時、本当は声のひとつでもかけてあげなきゃダメだったのに…」
小春はまったく悪くない。悪いのは勝手に拗らせてみんなを困らせた私だ。
自分の悩みばかり優先で笑うことをしなかった私はアイドルとしてもモデルとしてもダメだ…それで小春たちやファンのみんなにも余計な心配をかけているのなら、なお良くない。
私は…バカだ。
「ぁぁぁぁああーっ!もう!」
「…真昼ちゃん?」
「ダメだダメだ私!」
そう言いながら私は自分の頬をピシャリと叩いて気合いを入れ直す。
その動きに合わせて胸もぶるんぶるん揺れまくる。
私がいきなり始めた行動に小春は先程ほどではないけど、少し困惑した表情を浮かべる。
「…ごめん、小春!でももう大丈夫! 私、最近ちょっといっぱいいっぱいになってて…でも難しく考えすぎてたかも」
「…真昼ちゃん!」
そうだ。
最近は少し眉間にしわを寄せすぎていたみたいだ。
こんな怖い顔でステージに立ってもみんなが喜ぶわけない。
確かに今日は大事な日だ。私の胸がどう思われているかがわかるかもしれない。
でもそれだけを考えてステージを疎かにしてしまったら私はアイドル失格だ。
私はただファンのみんなに私のステージを見て、幸せになってもらいたいだけなんだ。
…それなのに、アイドルとして何が大事なのかを危うく忘れてしまうところだった。
「…良かった。真昼ちゃん、いつもの真昼ちゃんに戻った。やっぱり真昼ちゃんには笑顔がよく似合ってる!」
「そう真っ正面から言われるとちょっと照れちゃうんだけどな……でも小春…ありがとう。私ちょっと頭が固くなってた」
「ううん、私別に何もしてないよ?ただ、いつもの真昼ちゃんが見たかっただけだから」
小春…小春はこんな私にも本当に優しいなあ…
本当に天使かなんかなのかなこの子は…
「ところでステージまでまだもう少し時間あるよね?真昼ちゃんの好きなショップのチョコマフィン買ってきたんだ!一緒に食べよう?」
「うん、ありがとう、小春!」
今回は完全に小春に救われちゃったわ。
…今はとりあえずステージに集中しよう。
みんなに楽しんでもらう事、そして私が楽しむ事だけを考えていればそれでいいんだ。
私の悩みなんてそのあとでいい。
そうすればきっと、口の中で溶けるチョコマフィンみたいに甘いステージをみんなに届ける事が出来ると思うから。
◆
「みんな、今日はありがとう!」
無事にステージも成功させた私は、いつも以上に満足感に包まれていた。
私を見て、私のステージを見て、あんなに笑顔になってくれるのは何回ステージを重ねても嬉しい。
まあだからこそ、私が踊る度に一緒に踊る大きな胸も気になるわけだけど。
今日も客席から「デケえ」とか「香澄真昼の爆乳たまんねえ」って声が聞こえたけど、それくらいの声援はもう慣れてしまった。
私を応援してくれている事には変わりはないわけだし、悪意が無いのはわかる。
さて、無事にステージもやり終えた。
ならこの後やる事はコレだけだ。
さっきの声援みたいなのもあるわけだし、みんながみんな私の胸を気持ち悪いと思っているわけでは無いと思う。
だけどやっぱりまだ不安なのだ。
私はみんなに愛される香澄真昼でいたいから。
……なんかお姉ちゃんみたいな事言ってるわ、私…
◆
夕方4時。
私は恥を忍んでライブに来ていたファンの男性を一人、無理矢理とっ捕まえて、楽屋に連れ込んだ。
…これだけ聞くと、なんだかただの誘拐犯みたい。
ただ自分で決めた事とは言え、いざ行動に移すとなんだかいけない事をしているみたいで変な気持ちにはなるんだけど。
その証拠に楽屋に連れ込まれた男性は明らかに緊張していた。そりゃそうよね、応援しているアイドルにいきなり楽屋に連れ込まれたんだもの。
この男性には少し悪い事をしてしまったみたいだけど仕方ないの。
私は男性ファンのみんながこの胸をどう思っているのか…それがどうしても知りたかったのだ。
「えっと、ごめんなさい…いきなりこんな所に連れ込んで……実は貴方に少し聞きたい事があるの………ああ、別に難しい話じゃないからそんなに心配しないで。私の質問にちょっと答えてくれるだけでいいの」
あこやゆめの言うことが正しいなら、男性はみんな大きな胸が好きなハズ。
私からこれを聞くのは少し気が引けるけれど、これを聞かない事には話が進まない。
もしかしたら、この胸に対するコンプレックスを乗り越える引き金になるかもしれない。
自分の胸を好きになれるかもしれない。
そんな淡い期待もちょっと抱いて。
そんな私の言葉を聞いたファンの男性はさらにわかりやすく緊張してしまった。
私は拳をギュッと強く握って、でもちょっと俯く様な仕草を取って男性に聞いた。
「……あの……私の胸……気持ち悪くない…ですか?」
とうとう聞いてしまった。とうとう最大級の爆弾を投げ入れてしまった。こうなったらもう後には引けない。
しかもその際図らずも胸を寄せてしまうポーズを取ってしまった。
…仕方ないじゃない!胸が大きいのが悪いのよ!
私から爆弾を投げ込まれた男性は衝撃のあまり赤面したまま固まっていたように見えた。
それもそうよね、こんな質問、普通に生活していたらまずされる事なんてない。
何もかもいきなりで本当に申し訳ない。
私が逆の立場ならいきなり何言ってるんだと空手チョップをお見舞いしてるところだ。
顔を赤くして口をパクパクしている男性を見て私、よくこんな事聞いたな…という感情がふつふつと湧き上がってきた。
「ああ、えっと、ごめんなさい、いきなりおかしな事を聞いちゃって……実は私、この胸にちょっとコンプレックスを持っていて…男性が大きな胸が好きだというのは知ってはいるんだけど……あまり大きすぎるのはどうなのかなって…」
こんな事、本来なら男性に話すというだけでも恥ずかしいのだけど…私は決めたの。
自分で決意したことは曲げない、曲げたくない。
これも全部、自分のコンプレックスを乗り越えるためなんだ。
「私の周りにも胸が大きい人はいるんだけど…イマイチ感覚が分からなくて……ファンのみんな…特に男性ファンが私の胸をどう思っているかが心配になって…あの…自分の胸がどう見られているのか不安で」
すると私の言葉を聞いた男性は何を呟きだした。
だけどあまりの小声すぎて、何を言ってるかがわからない。
「ご、ごめんなさい…何を言ってるか聞こえないからもう一回いいかしら」
抑えが効かなくなったのか男性はいきなり結構な大声で「俺は真昼ちゃんの大きすぎるおっぱいが大好きです!!!」と叫び出した。
「えっ」
予想外の展開に私は呆然としてしまった。
確かに質問したのは私の方だけど、1を100で返すようなテンションの上がりっぷりにちょっとビックリしてしまったのだ。
あまりに凄まじい大声だったので、廊下まで声が漏れてやしないだろうか…
一方の男性も「…しまった!」とでも思ったのか、すぐに口を手で塞ぐ。
しかしそんな事をしても今となってはすべて後の祭、なんとも言えない沈黙が楽屋を支配してしまった。
ああ、マズい。この空気はダメなパターンのヤツだ…
このままだと余りに気まずい。
しかし元はと言えばこの空気を作り出した原因は私。アイドルとしてこのままファンに恥をかかせるわけには行かない。
「…わ、私のこの胸が好きなんだ……うん、そう言ってくれてちょっと安心したかも…な、なんだかちょっと嬉しいかも…ありがとう…」
私に出来る精一杯のフォローと照れ隠し。
ちょっと…いや、かなり恥ずかしい。
こんな真っ正面からおっぱいが好きと言われる事も、自分でこんな事言ってしまう事自体も。
私の顔が耳まで赤くなっていくのが自分でわかるよう。
だけど、少し安心もした。
こんな大き過ぎとも言える私の胸の事を堂々と好きだと言ってくれた事は素直に嬉しかったのだ。
「あの…なんで私の胸がそんなに好きなの…?胸の大きな子なら他にもいると思うんだけど…ほら、あことかリリィ先輩とか」
私がそう尋ねると、男性は『真昼ちゃんのおっぱいだから好きなんだ』と先程よりは抑え目な声量で叫んだ後、まるで壊れたラジオみたいに早口で私の胸の好きなところをまくし立て始めた。
『柔らかそう』
『ステージ上でおっぱいがたぷんたぷん揺れるのがたまらない』
『揉みたい』
『なんならおっぱいに顔を埋めたい』
『海王星のたわわな果実が好き』
『グラビアをやって欲しい』
……わ、わかった、わかったわ…
…うん、改めて言葉にして聞くと、なんというか恥ずかしくて仕方ない…なんだか聞かなくてもいい事を聞いてしまったかもしれない。
っていうかなに?『海王星のたわわな果実』って浸透してるの…?
男性の私の胸…おっぱいに対する熱い想いを聞いたところで今更恥ずかしさと少しの罪悪感が湧いて来てしまった。
…でも今更そんな事言っても、思ってももう遅い。
ファンに幸せになってもらいたいってさっき言ったばかりじゃないか私。
…よし、香澄真昼、勇気を出せ。
「ファンの人がそんなに私の胸…おっぱいを好きと知って正直ちょっと嬉しいわ…だけど、いきなりおかしな事を聞いてしまったのは私の方だし迷惑もかけちゃったから……ねえ、何か私にしてほしい事とかある?」
ああ、男性はまた慌て出してしまった。
そんなの別に無いですって身振り手振りのアクションを取ってる。
罪滅ぼし、というほど大層のものを気取ってるわけではないけれど、この男性がして欲しい事があるなら、出来るだけ叶えてあげたかったの。
ファンの願いを叶えてあげるのもアイドルでしょ?
だからここは一歩も退かず、強引に攻めてみる!
「ううん、遠慮しないで。迷惑をかけてしまったお詫びだから。そうしないと私の気が済まないの」
私に詰め寄られたファンの男性の目線は、明らかにその大きく実った私のおっぱいに行っていた。
イヤらしく思うよりちょっと微笑ましくなった。
そんなに私のおっぱいが好きなんだなって思うと、もうすでにファンの人を幸せには出来ていたのかな、私。
それにしても視線が胸に行っていると女性は気付くってよく言われてるけど、アレって本当だったんだ。
…すると、ファンの男性はどこか観念したように、「そこまで言うなら…」と絞り出すように『アイドル香澄真昼にして欲しいこと』を『アイドル香澄真昼』にお願いを始めた。
◆
真昼は凄いですわね。
ステージの雰囲気が一気に真昼色になるのがはっきりわかりますわ。
それに今日の真昼のステージ、気のせいかいつもよりもイキイキして見えましたし、ダンスのキレも良かったですわ。
近頃は何か思い詰めたような表情も多かったですし、ずっと心配はしていたんですけれど…きっと吹っ切れたのですわね。まあそれなら何よりですわ。
「あら、これは…」
わたくしの目にふと入ったのは真昼のポスター。
ポスターの中の真昼はポーズを決めてキラキラしてますわ。
「…やっぱりデカいですわね…」
ポスターの中でもやっぱりおっぱいが激しく自己主張をしてますわね。
いつも近くで見てはいますけど、改めてじっくり見るとやっぱり真昼のおっぱいは大きくて…形も良くて…まさに極上の爆乳ですわね。
…こんな事本人の前ではなかなか言いづらいですけど…理想ですわ。
でも真昼本人はそのおっぱいに強いコンプレックスを抱いてますのよね……確かに最初に会った時はここまで大きくは無かったような気がしますけど。
わたくしが真昼のおっぱいを毎日毎日ああやってイジってるのはちょっとでも真昼に自分のおっぱいに自信を持って欲しいから。
まあ、その度に真昼には怒られたりしてますけど、真昼が自分のおっぱいを好きになってくれるまで諦めませんわ!
「はあ、わたくしのおっぱいももうちょっとでいいから育ってもらっても構いませんのに…」
しかし、真昼を見たあと自分のおっぱいを見るとちょっと悲しくなりますわ。
真昼は十分大きいと言ってくれましたし、わたくしも真昼の前では『結構ある』と意地を張ってしまいましたが、本音を言えばもっと大きくなりたい。大きくしたい。
95cmだけではまだまだまだまだ物足りませんわ!
「はあ…わたくしももっと頑張らないと…真昼の98cmには遠く届きませんわね…帰ったらおっぱいが成長するアイカツのメニューをさらに増やさねば…!」
おっぱいの大きさを競い合うのも立派なアイカツだと思いますわ。
真昼がそれをよしとするかは正直微妙な所ですが、たとえ真昼が嫌がっても、わたくしは真昼のおっぱいを越えて見せますわ!
いつか、必ず!