現実世界にいないから仕方ないけど、リメンバを絡ませるのは難しい……
「――んっ……」
水嶋清衣は目を覚ます。
ぼやけた意識が少しずつ鮮明になり、滲んだ視界が開けていく。
「ここ、は」
そこは、公衆便所の個室内だった。
便座に腰かけた状態で、清衣は意識を取り戻したのだ。
いったいどうして、などと問うまでもない。
路上で果てたまま気を失った清衣を晶が運んできたのだろうと、そう清衣は結論付ける。
「……」
今、清衣は一人だった。
個室の中には晶やリメンバの姿はない。
恐らくは、清衣で遊ぶための仕込みをしているのだろう。
その証拠に、清衣の衣服は未だ奪われたままだ。
文字通り、一糸まとわぬ姿。
この状態では外に出ることも叶わない。
執行を待つ囚人のように、清衣はじっと二人を待つ。
「お疲れさん、もう帰っていいぞ」
案の定姿を見せた晶は、清衣と同じ個室に入るなりそう口にした。
「帰るって、私の服は……」
「あぁ、やっぱり必要?」
「……当然でしょう」
逃げられないために裸のままにしていたのではないのかと、清衣は苛立ちを隠せない様子で反論した。
「返してほしいんなら、それなりの態度ってのがあるよなぁ?」
あまりにも予想通りの反応に、清衣は胸中で嘆息する。
恐怖や怒りが、その瞬間だけだが和らぐのを感じた。
「なにが望みなの」
どうせ拒否権などないのだ。
晶が満足するまで付き合えば、少なくとも今日は家に帰れるのだから。
「単純だよ、売ってやる」
タダで返すのも癪だしな、と。
晶はそう言って、片手を広げて見せた。
「大サービスで五万。アタシは優しいからなぁ」
「相変わらず晶ちゃんってば鬼畜ですねぇ。そんな所が大好きです!」
そもそも清衣の衣服なのにどうして晶に金を払うのか、という言葉が喉までせり上がった。
だが、清衣はできるだけ晶の機嫌を損ねないように言葉を選ぶ。
「残念だけど、払えないわ」
財布は清衣のバッグの中だ。
廃倉庫で晶に没収されている以上、今の清衣は一文無しである。
「大丈夫だって、ここでバイトさせてやるからさ」
コンコンと、晶は個室の壁を軽くノックする。
清衣が目をやると、壁には不自然に空いた穴が広がっていた。
「さっき客を呼んできたから、そろそろ来る頃だ」
清衣の背中を、一筋の冷や汗が流れ落ちた。
経験はなくとも、多少の知識はある。
人気のない公衆便所の個室に、不自然に空いた穴。
大きさはちょうど、人が口を大きく開けたくらい。
性交渉による金策。
正解はどこまでも単純で、悪質だった。
「お、一人目が来たな」
開いた穴から、丸めた紙幣が差し込まれてきた。
晶はそれを受け取ると、清衣の頭を乱雑に掴む。
「清衣ちゃん、お仕事の時間だよぉ?」
可愛らしい、作った甲高い声。
だが声色とは裏腹に、その内心は隠しきれない悪意に満ちている。
「ヒッ……」
思わず、引きつった声が清衣の喉から漏れ出た。
穴から飛び出してきたのは、大きく膨張した男性の肉棒だ。
初めて実物を見た清衣は、思わず距離を取ろうと後ずさる。
だが、狭い個室では逃げられるはずもない。
一歩下がっただけで背中が壁に触れ、逃げ場がないことを無情にも宣告していた。
「しょうがないなぁ、あきらっきーが手伝ってあげる☆」
「や、やめ……」
震える清衣の両肩を、晶の両手が抑え込む。
怯え切った体に力が入るはずもなく、操り人形のように清衣の体は晶に誘導された。
「うっ……!」
腕力で固定された清衣の頭部が、ゆっくりと男の肉棒へと迫っていく。
鼻先にまで近づけられたことで、むせ返りそうな悪臭が清衣の鼻を刺激した。
「お家に帰りたいんだろ?」
「ううぅ……」
清衣の耳元で、晶が囁く。
必死に肉棒から目を背けながら、恐る恐るといった様子で清衣の手が肉棒へ触れた。
たどたどしい手つきで、しかし懸命に清衣は肉棒を刺激する。
ドクドクと脈打つ肉棒の感覚に鳥肌を立てながら、早く終わってくれと願って。
「そうじゃねえよ、グズ」
「──っ!」
だが、晶は清衣へ全力で蹴りを入れる。
死角からの衝撃に清衣の体が大きく軋み、汚れた地面へ倒れ伏した。
「お客さんはな、お前のココを期待してんだよ」
晶は乱暴に、痛みに支配され力の抜けた清衣を無理やり起こす。
清衣の首を掴むと、そのまま穴へと清衣の口を密着させる。
「歯ぁ立てんなよ?」
痛みと動揺、その他多くの情報に混乱する清衣の脳内。
だが、すぐにその動揺は収まった。
「む、ぐぅっ……!」
壁に生えた肉棒を、清衣の口が包み込む。
口内を埋め尽くす感触と臭い、そして生理的嫌悪感。
口を塞がれたことによる圧迫も相まって、清衣の目尻に大粒の涙が零れだした。
肉棒は機械で処理するように、清衣の口を使用する。
激しく前後する肉棒から逃れようとするも、清衣の頭は晶がしっかりと固定していた。
「――ご、ぶ、がはぁ……!」
酸素を求める清衣の喉に、放たれた精液が注がれる。
同時に肉棒が抜き取られ、晶の拘束も解かれる。
「げほ、うぇ、うぅ……」
清衣は反射的に振り向き、便器に向けて胃と口内の内容物を吐き出す。
苦し気に咳き込む清衣に、晶は残酷な現実を突きつけた。
「今ので五千円。あと四万五千円だ」
眩暈がしそうだった。
今の行為を、あと九回も?
強靭だった清衣の心が、この瞬間折れた。
「む、むり、許して、許してください……」
清衣はボロボロと涙を流す。
恥も外聞もなく晶に縋り付き、懇願する。
「――あぁ、最っ高……」
そんな清衣を見下ろしながら、晶は至高の悦楽を感じていた。
「あれ、晶ちゃん、ちょっと?!」
煩いリメンバをバッグに収納し、晶は清衣と向き合う。
蒼井晶はこれを見るために生きてきたのだと、愉悦に顔を歪めながら。
「お願いするには、ちょっと頭が高くないかなぁ。清衣ちゃぁん?」
膝立ちで縋り付く清衣の顔面を、晶は靴を履いたままの足で踏みにじる。
靴底に付着していた汚れや土が清衣の顔を汚す。
だが、清衣は意にも介さず懇願を繰り返すだけだ。
「おねがい、お願いします、ゆる、許して……!」
晶の足に縋り、うわ言のように救済を求め続ける清衣。
その姿に、もはや反抗心など欠片も残ってはいなかった。
「なんでも、なんでもするから、それだけは……」
そんな無様な清衣を、晶は優しく抱きしめた。
耳元で、悪魔の囁きを響かせながら。
「なんでもする、ね」
「え、は、はい?」
頬に涙の跡を残しながら、清衣の表情はキョトンとしたものに変化する。
晶の不穏な囁きの意図を、疲弊した精神が把握できていないのだ。
「──むぐッ」
清衣の口に、異物が押し込まれる。
それは開口具と呼ばれるものだった。
強制的に清衣の口は大きく開かれ、閉じることを許されない。
通常の開口具なら唇のみを開くが、責め具として開発されたコレは上下の歯も同様に押し広げて固定する。
「なんでもやるって、言ったよなぁ?」
「ぐ、がッ……!」
叩きつけるように、清衣の頭は先程と同じように壁の穴へと密着させられる。
これから起こる光景を想像し、清衣は錯乱したかのように暴れだした。
「“なんでも”だろぉ? じゃあ大人しく九回繰り返せよ」
背後から抑え込まれている清衣は、十全に体を動かすことができない。
女の細腕でも、そんな状態の人間を固定することは容易だった。
「────!」
声にならない叫びが、清衣の喉を震わせる。
これから九度、地獄は繰り返されるのだ。
「はい、お疲れ様っ」
束になった紙幣を手元で弄び、晶は地べたに倒れ伏す清衣を一瞥する。
清衣の顔は涙と鼻水、そして多量の精液で汚れていた。
晶の声にも、清衣は反応を返さない。
ただ静かにすすり泣く声だけが、清衣に意識があることを証明している。
「服、ここに置いとくわ。明日も呼び出すから、逃げんじゃねえぞ?」
そう言い残し、晶は去っていく。
個室には清衣一人が残された。
悪夢はひとまず終わり、清衣はようやく日常に帰ることを許される。
だが清衣はしばらく動くこともなく、静かに泣き続けた。
明日も、明後日も、晶が飽きるまで、この地獄が続くのだ。
そんな漆黒の未来を見通し、清衣はただ絶望するしかなかった。