---藤林響子---
朝、目覚めるとネギ君が隣にいなかった。帰れないのか…消えたのか…不安になる。しかし、
「おはよう、響子♪」
キッチンから笑顔の彼が出て来た。どうしたんだ?
「夏休みだって…仕事が休みだったんだよ~」
あっ!そう言えば、昨日出勤したわよね…バツが悪そうな顔をしている彼。
「で、夏休みの間だけ、朝食を作ろうと思う。あまりレパートリーがないけど…」
食卓へと向かうと、トースト、ベーコンエッグ、珈琲が置いてあった。
「今、サラダを作っているんだ。もう少し待ってな」
「うん♪」
食事…おいしかった。これから毎日、こんなことができるんだ。心が弾む。
「そうそう、これ!」
彼が、私の指に指輪を嵌めた。この指は婚約…
「生徒に訊いたら、プレゼントするなら、指輪って言われて…」
「ありがとう…ネギ君♪」
「もしもの時…形見にしてくれ」
少し寂しそうな彼。そんな彼に抱きつく私。
「消えないで、いなくならないで…お願い…」
彼と口づけを交わらせて、出勤をした。
職場では、仲間に祝福された。
「そうか…彼から指輪か…寿は近いのか?」
真田君に訊かれた。
「まだまだだよ。出逢ってまだそんなでもないし」
「で、指輪か?まぁ、振られないようにしろよ」
「だね♪」
会話が一段落を迎えた頃、インターフォンが鳴った。職場に緊張感が漂う。
「はい。藤林ですか。はい、すぐに向かわせます。おい、幸せ女、第3会議室から呼び出しだ」
「わかったわ。なんだろう?」
呼び出しをされる原因に、身に覚えの無い私は怪訝な気持ちで、会議室へと向かった。
---ネギ---
図書館で調べ物。培養液、成長促進剤を作っていそうな製薬会社にあたりをつけていた。そんな時、情報端末に響子からメールが届いた。なんだろうか?いつもするように、メールを開くと…
『藤林響子は預かった。添付の地図の場所へ、根岸太郎一人で来い!誰にも言うなよ!』
と…何?響子が攫われたのか…急いで添付ファイルを開いて、場所を確認した。そこは九校戦を行っていた場所であった。烈のヤツか?なんで、響子なんだ?
急いで、達也の家に行く。行く途中で、達也に連絡をした。
「達也、バイクを貸してくれ」
「ネギ、どうした?」
「デートだ」
「誰と?」
「言えない」
「どこで?」
「遠くだよ。だから、バイクが…」
通話を切り、届いたメールを達也に送った。直ぐに、
『用意をしておく』
と、達也から返信が来た。達也の家に付くと、ナビ付きのバイクを用意してくれていた。
「それが、あれば、迷子にはならない」
「ありがとう。乗り捨てかもしれないが、借りるぞ!」
「あぁ」
僕はバイクに跨がり、指定された場所へと急いだ。
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九校戦の会場は、静まり返っていた。レセプション会場だった場所へ向かった。荒れ果てた室内。あの時のままだ。違うのは中央部に誰かが椅子に座っていた。身構える僕。戦いたくない相手だった。バトルスーツを着た女性。僕を認識するなり、僕に襲い掛かってきた。それは響子の身体の誰かだった。気流を使い探査をする。響子は…くそぉぉぉぉ~!
涙が零れていく。目の前の響子の身体は、既に死体であった。なのに、生きている様に動いている。心臓は萎み硬くなっており、響子の魂で術式が刻まれ、人形にされていた。
響子だった者の攻撃、カウンターで返せない。響子の死体に傷を付けたく無いから…クソ!なんで、こんな惨いことを…戦闘術で響子だった者の攻撃を受け流していくと、響子だった者は僕から距離を取り、何らかの薬液を首に注入した。その途端、響子だった者の身体が増強されていく。しなやかだった手足は、大木のように太さになり、吸い付くような質感で柔らかかった乳房は、手で引きちぎられて、鉄板のような胸板が現れた。顔だけ響子のまま…死体を冒涜か…許せない。
変貌した響子だった者の動きは、素早く力強いものになっていた。フルカウンターでダメージを受けないようにする。響子を取り戻さないと…相手と同化し、響子の固くなった心臓を奪い取った。体内から術式が消えたことで、響子だった者の動きは止まった。次の瞬間、あの黒いヤツが10体現れた。僕は響子の心臓から術式を取り除き、大切にポケットにしまった。
身も心もボロボロになっていく。響子の心臓を護りながら、同時に10体は無理があった。僕のカウンターの盲点、2発以上同時にカウンター出来無いのだ。同時に攻撃が撃ち込まれ、響子の心臓を護る為のカウンターをする。残りの攻撃は僕の身体を斬り裂いていく。
『賢者様…僕は…愚か者な僕はどうでもいい。だから…響子だけでも救ってください』
もうダメだと思い、賢者様に念を送った。最後の一手…光の粒子状になった僕は自決した。僕が自決したことで極小のブラックホールが発生して、黒い奴らを吸い込んでいく。僕が僕であるのはここまでだった。
---司波深雪---
お兄様とネギ先生の後を追っていく。そして、あのレセプション会場に着いた。そこには…響子さんがいた。心臓を撃ち抜かれて死んでいるように見えたが、その身体は生前の彼女とは思えないほどに変貌していた。
「肉体増強薬を投与されたようだ…」
胸に空いた穴をチェックするお兄様。
「これは…人形にされていたのか…大動脈と大静脈が萎んで硬くなっている…」
私はネギ先生の痕跡を探す。しかし、何も残って…何か光輝く物を見つけ、手に取ると、指輪だった。裏面を見ると『NtK』と彫られている。『凪から響子』と脳裏で、先生のお姉様の声がした。先生と響子さんの形見なのか…手で握りしめ、大切にしまっておく。
外からヘリの音が多数聞こえ、たくさんの軍人さんが現れて、私達は現場から排除された。国軍が現場を封鎖したのだ。
「国絡みの陰謀ってことだ、深雪」
しばらくすると私達は、遅れてきたお兄様の知り合いの軍人さんに保護された。
「特尉、何が遭ったんだ?」
「真田さん…響子さんが人形にされた上、能力増強剤を打たれたようです」
「響子君が?まさか…まだ、職場にいるはずだが…」
真田さんは、職場へ連絡を入れた。
「そうか…帰宅した痕跡は無いんだな?わかった…職場内で拉致されたようだ」
「軍内部にネギの復讐相手がいるってことですね」
「あぁ…」
先生はどこに行ってしまったのだろうか…
---ネギ---
意識が覚醒していく…ここはどこだ?見覚えの無い場所にいた。
「目覚めたか…どうだ、新しい身体は…」
声の主…誰だっけ…う~んっと…そうだ!賢者様だ。新しい身体?
「愚か者か?言ってあっただろ。自殺と人有らざる物は聖域に戻れないと!」
うん?う~ん…そうだ、最後の手段で自決をしたんだ。
「お前は愚かさも大概にしろよ!自殺も自決も同じだぞ!」
そうなんだ…やらかしてしまった…
「まったく…お前ときたら…でだ!お前はもう聖域の戦士はクビだ」
えっ!クビ…ショックだぁ…
「もう聖域とは関係無いからな」
あの世でも捨てられたのか…僕はどこに放置されるのだろうか?
「しょうが無いので、うちで引き取るから♪」
うちって…
「幽玄龍騎士団だよ。お前のセフレも引き取った。人形にされたから、聖域に行けないんだよ」
へ?あの噂で聞く鬼畜な部隊?
「ようこそ、鬼畜の集う部隊へ♪」
賢者様が喜んで僕を迎え入れてくれた。僕、鬼畜じゃ無いんですけど…
「これから、なればいい♪」
地獄でツンツンと責められる方が楽だよ~。
「あぁ、そうかもな。地獄よりもハードだからな」
新しく貰った身体…転生ドラゴンという種族の物だった。響子もそうらしい。
「見た目は、以前と同じ人間形態であるけど、耐性、攻撃力はドラゴン並だ。能力は『癒やし』と『気流』だ。カウンターはもう使えない。同化もだ」
あの2つは聖域で借りた物だものな。
「響子の方は『ヴィジョネイル』、電脳世界へのダイブ能力にしてある。で、立場は、根岸太郎、響子の姉弟で、ネギは一高の教師のままだ。住処は用意してある。もう、消滅の危機に怯えなくていい。思いっきり復讐をしてこいよ♪」
幽玄龍騎士団として関われるので、嬉しそうな賢者様。それに対して、とても不安な僕。次の瞬間、知らない場所にいた。広いリビングのソファに僕と響子がいた。
「ここは?」
響子に訊かれた。
「賢者様の用意してくれた住処…僕達の復讐の拠点だよ」
「復讐…そうだ…職場で何かされて…」
「思い出さないでいい。僕も響子も、人間では無くなったから」
「転生ドラゴン?あれって、夢では無いの?」
「現実だよ。賢者様は嘘をつけない」
「そう…」
二人で住処を探索した。間取り…どこかで知っている間取りなのだが…表に出てみる。見たことのある風景…デジャブか?ふと隣の家に目をやると『司波』って書かれた表札が…はぁ?達也の家の隣?あぁ、同じ建て売りだから、間取りがほぼ同じなのか。なんとなく納得。
隣の家のインターフォンを押した。
「どちら様ですか?」
水波の声。
「隣に越してきた者ですが…」
「ちょっとお待ちください」
ドアの施錠が解除される音がしてドアが開くと、深雪が顔を出した。
「え?ネギ先生?ネギ先生ですか?ねぇ!」
僕のエリ首を掴む恐い形相の深雪。頷く僕。
「生きていたんですね…」
今度は泣いて僕に抱きついてきた。
「なぁ、あれから、どの位経ったんだ?」
「1週間です…」
初七日が終わったから、戻れたのかな。
「達也は?」
「連日、お知り合いの方達と、何かを調べています。ネギ先生はどこにいたのですか?」
深雪を僕達の家に連れ戻った。
「響子さん…」
響子の顔を見て、幽霊でもみたような表情になった深雪。まぁ、死んだのだから、それが正しい表情ではある。
「深雪さん♪」
深雪はポケットから何かを取りだして、響子へ手渡した。
「形見です…」
それは、あの日、響子にプレゼントした指輪だった。
「ありがとう…見つけて置いてくれたんだ…」
指輪を両手で包み込み、涙ぐむ響子。
「で、どういうことですか?先生!」
僕は僕達に起きたことを、深雪に話した。
「だから、僕と響子は、美優や姉さん達と聖域に戻れない。ごめんね、愚か者で…」
「先生…」
深雪が僕に抱きつき、僕の心を宥めてくれる。昔、姉さんがそうしてくれたように…
「今生では僕と響子は姉弟だ。よろしくな、深雪♪」
「はい♪」
---千葉寿和---
達也君から連絡が来た。ネギが戻って来たらしい。そして、軍が隠した事実の内容を、ネギが話したそうだ。あの一高を襲った黒いヤツは軍の装備らしいそうだ。盗まれた訳では無かったようだ。
そして、ドールテイマー、所謂人形遣いの存在。そして、増強剤のこと、様々な事実が俺達にも伝わってきた。早速上司に報告した。
「そうか…国絡みか…警察では、ここまでだ。残念だが…」
国への捜査権は警察には無い。政治家の犯罪は捜査できるが、国策となると無理があった。だから、事件にならなかったのか…国の政策だったから…
「だが、国家反逆罪となれば、別だ!いいか、千葉警部を筆頭に、この国の誰が、どの国と手を組んだのかは、捜査を続けろ。凪君の件は、ここまで、一旦終了する」
上司は『一旦』という言葉を使い、含みをもたした。
「で、九島烈の行方は?」
部下に訊いた。
「公安も探しているようですが、依然潜伏場所がわかりません」
九島烈が関わっているのは、確かだと思う。九校戦のアノ一件以来、消息が掴めないのだから。
「引き続き、頼むぞ。そこが突破口かもしれない」
---千葉エリカ----
久しぶりにアニキが帰宅をした。連日、捜査が手一杯らしく、泊まり込みの日々のようだ。
「なぁ、アニキ。なんで、ネギはアニキのことを、アニキ呼びしていたんだ?」
プールでの一件の時のことを訊いた。
「うん?そうだったか?最近、ネギに会っていないかなら、覚えていないなぁ」
惚けるアニキ。
「何を隠しているんだよ?」
「ネギが気になるのか?」
うっ…耳が熱い…気になる。とっても気になるんだよ~。
「ネギは止めておけ。お前が不幸になる姿は見たく無い」
不幸?何で?
「どういう意味だよ?アニキはネギの何を知っているんだよ?」
「忠告はした。後は、お前の判断にまかせる。じゃ、仕事に行って来るよ」
そう言い残し、アニキは仕事へと出て行った。どういう意味だよ?