翌朝、日差しを浴びて目覚める。
続いて自分の身体の上に柔らかさを感じる。
目を開き胸元を見ると、普段俺よりも先に起きることが多いめぐみんの寝顔があった。
とりあえず起こそうと俺はめぐみんの肩に触れる。
熱っ!?えっ……魔力…?ローブは着てるし……
目を擦り視界を鮮明にしてめぐみんの顔をよく見ると、苦しそうな表情で荒い呼吸をしたまま寝ている。
それで悟る。
めぐみんは風邪を引いたのだろう。
それも高熱が出るような。
俺は慌ててハンカチを取り出し、クリエイト・ウォーターで濡らしてめぐみんの額に当てる。
そのひんやりとした感触で起きたのか、
「あ……おはようございます……カズマが私より早いなんて珍しいですね…」
「まだ横になってろ。大分熱いぞ、大丈夫なのか?」
上体を起こそうとするめぐみんを押しとどめ、具合を聞く。
「大丈夫ですよ……少しだるくて寒気がして頭が痛いくらいですから……起きて爆裂散歩に……の前にお風呂に……」
布団を退けて出てきためぐみんは、汗でローブが張り付いており、見るからに具合が悪そうだ。
俺は有無を言わさず背中におぶった。
「朝からセクハラですか……?カズマは全く……昨日はあれほどしてあげたというのに……」
「ちがわい!お前の部屋に運ぶんだよ!風呂も駄目だ!タオルで身体を拭け!嫌なら俺が拭くからな!今日の予定は全部キャンセルだ!」
「クエストじゃないんですから、大丈夫ですよ……?心配性ですね……それに今日の食事は私が……」
「食事作るのぐらい変わってやるから休んでろ!」
反論してくるめぐみんだが、その言葉には力が無く、それどころか運ばれることに抵抗もせず、ただ俺の肩に頭を預けている。
「カズマ!朝っぱらからうるさいぞ!ってうわあああ!?何故めぐみんを負ぶっているんだ!?」
ダクネスが寝巻き姿で自室から出てきて、俺達を見るなり頬を真っ赤にしながら挙動不審になる。
もじもじしてるところを見ると変な想像でもしているのだろう。
「何を想像しているか知らんが、こいつが風邪引いたみたいで、無理しそうだったから部屋まで運んでいただけだぞ」
「なんだそうなのか。確かに具合が悪そうだが……熱っ!めぐみん、凄い熱じゃないか!?無理せずさっさと部屋に行け!カズマ、私は色々準備してくる!アクアも起こして手伝わせるぞ!」
「お前、今日から領主の仕事に行くって……!って聞いちゃいないか……」
俺の声も聞かず走り去っていくダクネス。
なんか嫌な予感しかしないんだが……
めぐみんも少し身の危険を感じたのか、
「すみません……今日一日近くで見守っていてくれませんか?ダクネスとアクアが何をしてくるか分からないので……大人しく寝ますから」
俺は頷きめぐみんを部屋まで運び終えベッドに寝かせた。
それと同時にバンと扉が開き、騒がしいのが入ってくる。
「めぐみん!?風邪引いたって本当なの!?あ!見るからに顔が赤いじゃない!それに汗もそんなにかいちゃって!私が拭いてあげるわ!」
「あ、アクア?大丈夫ですから……それくらい自分で……」
アクアが近づき手をわきわきさせているのを、めぐみんは布団を上げ身を隠しながらやんわりと断ろうとしている。
「遠慮しなくていいのよ!あ、カズマいたのね。さっさと出て行きなさい」
めぐみんの脇に控えている俺にようやく気付いたかと思えば、追い出そうとしてきた。
だが俺は今めぐみんから見守るように言われている。
「お構いなく」
「はあ?聞こえなかったのクズニート?今からめぐみんの身体を拭くから出て行ってって言っているのよ?ほら、分かったらさっさと出て行って!ほら早く!」
「お構いなく」
そう告げるとアクアが残念なものを見るような目で見てきた。
「ちょっ、カズマ!?アクアを説得してくださいよ!わざわざ今セクハラしようとしなくていいでしょう!?」
めぐみんが慌てたようにいうんじゃ仕方ない。
「話も聞かないアクアなんかに頼むとどうなるか分からないから自分でするってさ」
「目の前にいるのに代弁は必要ないでしょう!?」
違ったか。
「め、めぐみん、だだだ、代弁って、わわわ、私のことそう思ってたのかしら……?」
しまったという風にめぐみんが口元を押さえる。
アクアがその様子をみてプルプルと震えだし、
「せっかく役立とうと思ったのにー!めぐみんのばかああああああっ!」 泣き叫びながら走って部屋を出て行く。
めぐみんは半眼でこちらを睨みながら、
「私にも非がありますが……カズマ、分かっていますよね?」
「悪かったよ。後で一緒に謝るから許してくれ」
はあとため息を吐くめぐみん。
「とりあえず汗を拭いてしまいますので、向こう向いていてください」
「はいはい」
俺がめぐみんがいる方と反対側を向くと布擦れの音が聞こえる。
……なんか無言が気まずいな。
そう思い口を開こうとしたら、
「お、お前達は何をやっているんだ?」
入り口に何か色々持ったダクネスが突っ立っていた。
「身体拭いてるんですよ」
「拭き終わるのを待ってるんだ」
俺とめぐみんはダクネスにそう告げる。
「アクアが泣きながら走って行ったかと思えば……カズマ、お前まで判断能力が下がってどうする?」
ダクネスはめぐみんの方に近づいていくと、拭くのを手伝い始めたようだ。
しかし全く心外な、ちゃんと考えての行動だというのに。
「ほら、早く着替えろ。色々効果がありそうなものを持ってきた。カズマは朝ごはんを作ってきてくれ」
「そうですね。あっさりしたものなら食べれそうですからそういうのをお願いします」
そう言われたので俺は台所に向かい、料理を始めた。
料理が完成してもダクネスとめぐみんが降りてくる気配が無かったので、とりあえずめぐみん分の料理を持って二階に向かう。
すると白い下着姿のめぐみんが、ふらつきながらも慌てて俺に駆け寄ってきて、背後に隠れる。
「カズマ!助けてくださいっ!」
「え、えっと寝てるんじゃなかったのか?というか、その、そんな刺激的な格好だと、風邪が余計に悪化するんじゃないか?」
聞いても怯えた様に小刻みに震えていて、声が届いてないようだ。
「だだだ、ダクネスがっ!私にうううううぅ……!」
一体ダクネスに何をされたというのか……
「カズマか。朝食が出来たのだな。ところでめぐみんは……そこか。ダメだろう?私はあれで良くなると聞いたんだ。それにさっきやろうとしたものは私がよく風邪を引いたときにやっていたことだ」
ダクネスが現れた瞬間にめぐみんがぎゅっとしがみ付く力を強める。
「えっと、ダクネス。確認までに聞くが、一体何をしようとしたんだ?」
「うむ。まずはこの液体の薬なんだが、腸から直接吸収させると効果的と書いてあったから、スポイトのようなものを使ってやろうとしたんだが……抵抗されてしまってな。結局少量しか入ってないと思う。それで仕方が無いから汗を大量にかかせる為にこの鎧を着せようとしたところで逃げられてしまって……」
……これは酷い。何が酷いって、薬自体恐らく風邪に効果が無い奴だろう、あの表示じゃ。
めぐみんの目から何かが零れて…って泣いてる!?
「ダクネス、酷かもしれないが言わせて貰う」
「なんだ」
不機嫌そうにしながら言葉を待つダクネス。
「まずお前のやっていることは全て逆効果だ。その上めぐみんにトラウマまで植えつけたぞ?世間知らずもいい加減にしろよ?大体最初のその薬自体風邪には効果が無いと思うぞ。それに病気用の薬もあるだろ?なんでそっちじゃないんだ?」
「うぐっ……めぐみん、すまない……病気用のポーションはその、売り切れていることが多くて、その……代わりに貰ったものだから使えるかと……」
つまりよく読まずに使ったわけだ。
俺がラベルを見ると、単なる栄養剤だった。
「ダクネスは朝食食べて領主の仕事でも手伝って来い。正直役にたたないことが証明されてしまったからな」
告げると、がっくりと肩を落としながら食卓へと歩いていくダクネス。
「あ、ありがとうございます……朝食はそれですね……あ…」
ダクネスが諦めてくれたからか、めぐみんが安堵の表情を浮かべた。
そのまま部屋に向かって歩こうとして、足をもつれさせ壁に手をつき何とか転ばずに済んではいるが……。
俺は持っていた盆を近くに置き、めぐみんの身体に触れると朝起きて直に触ったときよりも熱くなっている。
「めぐみん、運んでやるから掴まれ」
「いえ、でも……」
「あんまり抵抗すると俺もダクネスと似たような事をせざるをえなくなるが、どうする?」
「わかりました……ってお姫様抱っこですか!?恥ずかしいんですが!」
めぐみんは軽く胸の辺りを叩いてきたが、諦めたようでそのまま運ばれる。
とりあえず再びベッドに寝かせ、めぐみん用の朝食を運んでくる。
戻ってくるとめぐみんはローブを着てベッドでゆっくりしていた。
「食べれそうか?」
「はい。あ、自分で食べれるんで、そのまま渡してください……なんでそこまで残念そうな顔をするんですか?」
めぐみんにしぶしぶ盆ごと渡す。
あーんで食べさせたりって、そういや一度もしてないからやってみたかったのだが……
落ち込みながらも部屋を見回すと、ダクネスが色々しようとした道具がそこら辺に落ちている。
「……めぐみん、災難だったな。よく見たら効果無さそうなものばかりじゃないか」
いくつかのポーションや何に使うか分からないロープ、挙句の果てには明らかにやばそうな物が入った袋まである。
ダクネス……めぐみんを殺す気ではなかったんだよな……?
これは確かに逃げ出したくもなる。
「本当ですよ……それに、ああ……」
ちまちま口にご飯を運びながら、思い出したのか青ざめるめぐみん。
「大丈夫か?」
「大丈夫です……それと多分風邪引いたのは昨日の爆裂魔法で体力を削りすぎたのが原因ですから……」
めぐみんは自分を責めるように言う。
「なら、やらせた俺も同罪だ。いいから休め。何かあったら言ってくれれば出来る限りするから」
めぐみんにそう告げながらめぐみんの部屋を立ち去ろうとする。
「あ、カズマ」
「なんだ?」
振り向くとめぐみんがいい笑顔で、
「ありがとうございます、大好きですよ」
何唐突にいっちゃってるのでしょうか、この娘は!不意打ちにもほどがあるだろ!
急激に顔面の温度が上昇していくのを感じながら、そっぽを向いて、
「俺もだ、だからさっさと治して爆裂散歩に行くぞ?じゃ!」
俺はそれだけ言うと朝食をとりに行くためにそそくさと立ち去った。
ダクネスは既に領主の仕事を手伝いに行ったようで見かけられない。
そのまま一人で朝食を食べていた。
……一人で食事なんていつ以来だろう。
何となく寂しい感じがしてしまう。
アクアはなんか見つからないし……
何とか食べ終え、さて今日はどうしたものかと考えていたところに、
「ひゃあああああああっ!?」
二階からめぐみんの悲鳴が聞こえてきた。
駆け足でめぐみんの部屋まで行き扉を開ける。
そこにはアクアがめぐみんの身体を押さえつけていた。
めぐみんは水で満たされた水槽のような容器の中に、全裸で入れられている。
朝っぱらからありがとうございます……!ではなく!
「カズマ!?あっ!鍵閉めるの忘れてたわ!ごめんめぐみん、今すぐ痛い目に遭わせて追い払うから!カズマ、今すぐ記憶ごと飛ばしてあげるから覚悟なさい!」
アクアが拳を光らせながら近づいてくるが、
「馬鹿かアクアは!何で水の中にめぐみん入れてるんだよ!?風邪が悪化するだろーが!」
俺がそう叫ぶと急にアクアはおろおろしだした。
「えっ……でも触れたら熱そうで、とても暑そうで苦しそうだったから……なんで私は怒られてるのかしら?」
「お前が馬鹿だからだよ!さっさとタオル用意しろ!これ以上体力消費させてどうする!こじらせでもしたらお前の大切にしている酒全部使ってめぐみんの病食用にしてやるからな!」
「分かったわよ!分かったから、そんなことはしないでよ!?」
涙目でタオルを取りに走り去っていくアクア。
その間に部屋に入る。
俺は顔を青くしているめぐみんを水の中から引っ張り出し、とりあえず近くにあった布を巻きつけてやる。
めぐみんは見るからに鳥肌が立っており、寒そうに小刻みに震えている。
「『クリエイト・ウォーター』!『ティンダー』!……白湯だけど、とりあえず飲んであったまれ」
近くにあった食器にお湯を作りめぐみんに渡す。
「……すみません……ふう……うう…」
めぐみんはちびちび口にお湯を含んでいるが、どう考えても温まるだけの量を飲めていない。
「なあ、水を運べるような容器ってあるか?」
「ふう……確か……そこに入ってたはずです……」
ダクネスが持ってきたものの中に丁度良さそうなものがあった。
蓋があり、丸く湯たんぽのような形状をしているものだ。
この部屋でこれを空の状態でどう使うつもりだったかは知らないが……
俺は蓋を開け、アクアが水を張っていた容器から水を汲む。
「『ティンダー』!『ティンダー』!『ティンダー』!」
こんなもんでいいだろう。
触ってみると少し熱いぐらいになっている。
「ほら、これでも触って身体を温めろ」
「ありがとうございます……」
めぐみんに容器を渡すと暖かそうにしている。
「カズマ!タオル持ってきたわよ!めぐみん――」
「身体なら自分で拭きますので……アクアは飲みに行くなりして大丈夫ですよ…?」
アクアが部屋に戻ってきて何かを言おうとしたのをめぐみんに遮られる。
「なんて健気なの……!大丈夫、仲間が調子悪いのにそんなことしないわ!」
アクアの言葉に顔を引きつらせるめぐみん。
空気読めよ、この駄女神は……
「おいアクア」
「何?さっさと出て行きなさいよニート、めぐみんが寒そうでしょ!」
「お前、役に立たないどころか悪化しかねないから構わないで欲しいって言われてるのが分からないのか?」
「はあ?クズマさんならいざ知らず、癒しの効果のある私がそんな風に言われるわけがないじゃない!ねえ!ねえ……なんでめぐみんは私から目を逸らすのかしら?えっと、そう思っているのかしら?ね、ねえ目を逸らしてないで答えて欲しいんですけど!」
めぐみんは目を逸らしたままぼそりと呟く。
「アクアのせいで寒気が増しました……これ以上悪化したくないので一人にしてください……」
「だそうだ」
アクアはそれを聞いて泣きながら屋敷を飛び出していった。
めぐみんに寝付くまで近くに居て欲しいと言われ、取り留めのない話をしていた。
「そういや色々騒がしかったから忘れていたが、まだ昼前なんだよな」
「本当ですね。はあ……まさかここまで熱が上がって気持ち悪くなるなんて思いもしませんでしたよ……」
めぐみんはベッドで横向きになってこっちを見ながらため息を吐く。
「お腹減ってたりは?」
「食欲がないです……カズマにも色々予定があったのに拘束してしまってすみません……」
「気にするな。別に全部すぐじゃなくていいやつだし」
でもまあここの所出かけない日が少なかったから、たまには丁度いいかもしれないな。
そんな事を考えていると玄関が叩かれる音が聞こえたような気がした。
「すまないめぐみん。誰か来たかもしれないから出てくるわ」
「わかりました」
玄関の扉を開けるとゆんゆんとこめっこがいた。
「あ、カズマさん。めぐみんと遊びにこめっこちゃんと来たのですが……入っても大丈夫ですか?」
「おにいちゃん、お姉ちゃんに会いにきました!」
「ああ……あ、でもめぐみんはちょっと風邪引いちゃって寝てるけど……」
俺の言葉を受け、ゆんゆんは心配した表情をし、
「ええっ!?大丈夫なんですか?やっぱり昨日のが……?」
かなり察しがいいようだ、流石紅魔族。
「お見舞いしたいけど……」
「いいぞ。こめっこも一緒に行くか?」
「いく」
部屋に戻るとめぐみんはベッドで上体を起こし座っていた。
「カズマ、遅いでは……おや、ゆんゆんとこめっこではないですか。ゆんゆんは何ですか?今の私は具合が悪いのでさっさと帰ってください」
「ねえ、せっかく友達がお見舞いに来たのにめぐみん、それは酷くない!?」
涙目で返すゆんゆん。
「頼んでもいないですし。それよりこめっこまで連れてくるなんて本当になんですか?」
めぐみんはゆんゆんを問い詰めるように聞き、ゆんゆんはオロオロとし始める。
「えっと実は……こめっこちゃんが……」
ゆんゆんがこめっこの方を見て固まる。
「こめっこ……またバニルを喚んだのですか……」
店のエプロンを付けたバニルが、また落書きのような魔方陣の上で固まっていた。
その手には商品と思しきポーションが握られている。
がっくりしたようにバニルは肩を落とし、こめっこに向き合う。
「主よ、仕事中に気安くポンポン喚ぶものではないと……!一体何回目であるか……」
ため息混じりにこめっこに目線を合わせて説教を始めるバニル。
こめっこは何処吹く風で懐から梨をとりだした。
「いけにえの、なしです」
食べたそうに喉を鳴らしながら、バニルにそっと手渡した。
「わがつかいま、バニルにめいず。お姉ちゃんが風邪を引いたのでなおして下さい」
「主よ、我輩は悪魔であり、そういったことは出来ぬのだ……だが、後日というならば治すポーションを当店の店主であるウィズに頼めば用意は出来る。……とりあえず契約を結ばねばならんが……」
バニルは俺達をちらりとみる。
「目ビームを見せてください……そのまえにおねえちゃんとはなします」
こめっこはバニルを放ったままめぐみんに近づいていく。
バニルはどうしたものかと梨を片手に固まっている。
というかこめっこ大物過ぎるだろ。
「バニル……お前も大変だな」
「全くである。地獄の公爵である我輩がここまで翻弄される相手などそうそう居らぬわ。……ところで小僧、このポーションはいらぬか?返品予定の商品ではあるのだが……」
こんな状況でも物を売ろうとするバニルも大概だけどな……
「どんなものなんだ?」
「このポーションは飲むと一時的に自分のステータスを大幅に上げてくれるのだ。強敵などに挑む際に持っていると心強い商品であるな」
「毎度お馴染みの欠点は?」
「上がった分のステータスが効果時間が切れた瞬間に半永久的に低下する。その上効果時間も短く、強い状態は一瞬、人にしか効果がないため罠としても使えないという、手遅れ店主ウィズが何を思って仕入れたかも分からぬ一品である……お一つ――」
「いらないって言うの分かってるよな?それよりあの魔王の娘はどうしたんだ?」
丁度バニルがいるので聞いてしまおうと思い尋ねる。
「ん?貴様にレベルを下げられた不憫な娘か。フハハハハハ!あやつは当店から城と領地を有り金全額でお買い上げなさり、怯えながら一人で城の中過ごして居るであろう!到底心配は要らぬ故、安心するがよい!」
任せた俺も俺だが、大分酷いことするなぁ……
「バニル、いけにえはそれではだめですか?」
いつから戻っていたのか、バニルの手の中の梨を凝視しながら聞いてくるこめっこ。
バニルは梨を八分の一程を手で切り取り口に含み、
「……食うか?」
残りをこめっこへ返した。
「うん」
受け取り梨をほおばりだすこめっこ。
「カズマカズマ、ちょっといいですか?」
ゆんゆんと話をしていためぐみんに呼ばれる。
ゆんゆんは顔を赤くしているが……
「なんだ?」
「私達、結婚式いつにします?」
「ぶっ!?」
めぐみんの言葉があまりに唐突過ぎて思わず噴き出す。
「めめ、めぐみん?熱で頭やられたか?確かに書類上の手続きは今日やろうかみたいな話はしてたけどさ……」
「え、ええっ!めぐみんの嘘じゃないの!?あの後そのまま……!?」
俺の言葉にゆんゆんが顔を真っ赤にしてうろたえている。
めぐみんはゆんゆんの様子を見て鼻で笑いながら。
「フッ……そうですね、ゴールインです。結婚式には呼んであげますよ?……カズマ、どうせですし式は冬の間にしてしまいましょうか?」
「俺は別にそれでも構わないが……」
ちらりとゆんゆんを見ると、明らかに涙目になっている。
めぐみんはニコッとゆんゆんに笑いかけながら、いつぞやのごとく、
「私達、どっちかが結婚しても、ずっと友達だよね!」
「わ、わああああああん!まためぐみんに負けた、きゃっ!?」
「きゃあ!いきなり何よ!ってゆんゆんじゃない。どしたの?」
ゆんゆんがなにやら話をしているこめっことバニルの脇を通り過ぎ。
泣きながら走り去っていこうとしたところで、アクアにぶつかった様で部屋の前で転んでいた。
「め、めぐみんのお見舞いに来て今帰るところです!うわああああん!」
アクアに言い訳しながら、すぐに立ち上がり走り去っていくゆんゆん。
「何だったのかしら……それよりカズマお昼……」
アクアは首を捻りながら部屋に入ってこようとしてはたと気付く。
「木っ端悪魔!この女神たる私の屋敷で何をしよう……って……つも…り…」
アクアはバニルが先に目に入って威嚇し始めたのだろうが、こめっこが睨み付けているのに気付いたのか尻すぼみになっていく。
「フハハハハハハ!忌々しきトイレの女神よ、いいところに来た!主よ、所望の目ビームを見せようではないか!」
その様子を見て、こめっこと話していたバニルが、アクアに向き合いながらそんな事を言う。
「ほんと!?バニル、ほんと!?」
「こ、こめっこちゃん、どういうことかし……」
バニルとこめっこの会話にうろたえるアクア。
俺達も呆然と会話を聞いている。
「『バニル式目ビーム』!」
「リ、『リフレクト』――ッッ!」
突然バニルが目からビームを出したのと同時にアクアが跳ね返し、
「うおっ!?あぶねっ!?」
自動回避のおかげで俺はかろうじて当たらなかったが、丁度光線が頭のあった所を通り過ぎていた。
「ぐおおおおおおっ!?目がっ、目があああああっ!?」
「あはははは!馬鹿なんですか?自爆する技で私を不意打ちするなんて!プークスクス!木っ端悪魔らしいんですけど!公爵なんてお飾りよね!クスクス、プークスクス!」
あまり痛そうでもなくお決まりの文句を叫ぶバニルと、その様子をみて調子に乗るアクア。
何やってんだこいつらは。
「バニル、大丈夫?」
こめっこが心配そうにバニルに声をかけると、やはりふざけていただけなのか、すっと普段の様子に戻る。
「主よ、何も問題はない。これで契約は完了であるな。さて、世紀の決着をつけようでは無いか!芸とトイレの洗浄にしか能がない女神よ!」
「ほーん、さっき自爆していたよわっちい悪魔がいい度胸ね!いいわ!跡形もなく消してあげるわ!」
「お前らいい加減にしろ!病人がいるんだ、喧嘩なら他所でやれ!」
あの状態を収めてから、バニルには病気治療のポーションの発注を頼み、帰ってもらった。
ポーションは今日発注しても、早くて三日後にしか用意できないらしい。
昼を準備して皆に食べさせ、アクアにはこめっこを家まで送り届けてもらっている。
また当然といえば当然だが、めぐみんの熱は上がってしまった。
今は疲れたのかぐっすりと眠っているが、やはり顔色は一向に良くならない。
バニルからは『そのネタ種族の身体を思うのなら、ポーションが届くまで貴様以外部屋にいれぬのが吉である。商品ご購入の予約特典である』とか言われたので、そうさせてもらった。
看病という体でめぐみんの部屋にずっといる免罪符を貰ったようなものだ。
俺はちょくちょく額に乗せている濡れ布を交換して……気付くと日が沈みかけていた。
「あ、おはようございます……」
目が覚めためぐみんをまだ寝ているように止める。
「すまないめぐみん。俺がちゃんと見てないせいで風邪を悪化させてしまって……」
「いいんですよ……それに私が寝ている間ずっと看ていてくれたんでしょう?」
めぐみんは微笑みながらそう告げてくる。
う、可愛いな、寝てる間少しだけなら悪戯してしまっても構わないかな、なんて一瞬考えて、身体に少し触れてしまったなんて言えない!
「……こう、本格的に重い風邪というのは初めてかもしれませんね……」
「気にしなくてもいいぞ。三日後には完治してるだろうし」
「……どういうことです?」
「バニルにポーションをお願いしてな。それが手に入るのが三日後だからだよ」
めぐみんは納得したように頷くと天井を見つめる。
「……カズマ、手を握ってくれますか?」
布団から片手を伸ばしてきたので無言で握る。
その手は熱が篭っており、少し熱い。
「ふふ……こうしていると紅魔の里に帰った時を思い出します……あの時もカズマはさりげなく私の事を気遣ってくれましたし……」
「そんなこともあったかな……」
俺は恥ずかしくなり適当に誤魔化す。
「色々空回りしやすいですし、何馬鹿なことやっているんだというのは相変わらずですが……」
「風邪が治ったら酷いことしてやろうか?」
俺の冗談にクスクス笑いながらめぐみんは続ける。
「明日、入籍用の書類取ってきてはくれませんか?私の風邪が治ったら一緒に出しに行きましょう」
「……わかったよ。だけど条件がある。俺が出て行ったら部屋に鍵をかけて誰も入れるなよ?」
「どうしてですか?」
めぐみんは理由が分からないからか、不思議そうに首を傾げている。
「バニルにポーションのおまけで見通してもらった。俺以外を入れるとめぐみんが酷い目に遭うらしいから……」
めぐみんは今日の事を思い出したのか引きつった笑みを浮かべている。
とりわけ酷かったから当たり前か。
「それは……そうですね。分かりました」
「そいじゃ夕飯でも作ってくるからゆっくり休んでいてくれ」
そうして三日間、ダクネスが扉を壊して入ってこようとしたり、アクアがベランダから侵入しようとしたりと騒がしかったが、無事に三日目の朝、めぐみんにポーションを飲ませることができた。
昼食後めぐみんと共に書類を出しに、ついでに買い物も任されているが、街へ来ていた。
めぐみんとは手を繋いで歩いている。
「めぐみん、そのいいんだな、俺で?」
「あれほど色々しておいて何を今更……こんな時にヘタレないでください」
この会話も屋敷から出て何回目だろう。
俺がヘタレて似たような事を聞くたびにうんざりしたような顔でたしなめてくる。
「全く……ここまで私が貴方が好きだと、カズマがいいと言っているというのに一体何が不安なんですか!それともあれですか!新手のお断りの方法ですか!?もしそうなら私にも考えがありますよ!」
「悪かった!悪かったから、めぐみん!俺も大好きだから!病み上がりの癖にあんまり激しく動きまわるな!」
めぐみんは頬を膨らませたままだが、俺の言葉を聞き手を引くのを止める。
「ふう……なあ、本当に式とかどうする?」
俺が話題を変えるとめぐみんは機嫌を直してくれたようで微笑みながら、
「そうですね……結婚式の司祭はアクアにやってもらいましょう。その後のパーティーなどはダクネスに言ってダスティネス家の庭を借りて盛大に行うんです。ギルドの皆さんも呼んで賑やかにですね」
「アクアなんかに司祭頼んだら雰囲気とか全部ぶち壊れると思うけどな」
めぐみんは想像してか微妙な表情を一瞬浮かべるが。
「でも絶対に忘れられない、他の人が絶対に味わえない、いい結婚式になると思いますよ?」
屈託もなく笑いながら告げてくる。
色々言いたいことがあった気がしたが、その顔を見ると無粋な事を言う気も失せてくる。
やっぱり好きなんだろうな……こう素直に笑う笑顔も含め。
「……そうかもな。まあまずは帰ったら結婚することを言わなきゃダメだろうけどな。詳しい内容はそれからだろ」
「そうですね。アクアはどういう反応するでしょうか」
「さあな?」
俺とめぐみんは未来を思い描きながら書類を出しに行き、今日の夕飯の材料を見て回った。
明けましておめでとうございます。第八話投稿させて頂きました、双碧というものです。今年もよろしくお願い致します。今年の出だしの割りに、若干タイトル詐欺な気がする内容ですが、お楽しみいただけたでしょうか?閲覧して頂いている皆々様に感謝です!もしよろしければ今後も日の出の太陽の如く、暖かく、優しく見守って頂けると幸いです。