「カズマ、少しいいですか?」
結婚式から一ヶ月近く経ち冬本番。
雪も降り積もり、危険なクエストしか残っていないので、屋敷に引きこもって毎日暖炉の前で黙々と試作品を作っている。
色々と試しているものの、あまり上手くいかない。
いっその事、娯楽品の開発にシフトしようかなどと考え始めていた最中に、めぐみんに話しかけられた。
「どうしためぐみん。爆裂散歩なら雪が弱まってから付き合うからな」
伸びをしながら振り向くと、少し拗ねたような表情をしていた。
「……違いますよ。それにダクネスに頼んでもう行ってきましたし」
ちらりとめぐみんの後ろを見ると、ダクネスが結んだ三つ編みについていた雪を払っていた。
じゃあなんだろう。
俺が首を傾げて考えていると、めぐみんはため息を吐きながら、
「新婚旅行、皆で行きませんか?すぐではなくていいので」
「そういえばそうだよな。予定ぐらい立てておくか」
今日の作業を終わりにしてソファーに座ると、めぐみんも隣に座ってくる。
アクアがみかんを口に放り込みながら、
「相変わらずイチャイチャしてるわね……そういうのは他所でやってくれない?それより旅行に行くならアルカンレティアに――」
「行くつもりはないぞ。まあ、でもドリスあたりは見て周ってもいいか。前はあまりゆっくりもできなかったしな」
「それもいいかもしれないが……王都を訪れてみるのはどうだ?」
ダクネスが鎧を磨きながらちらりとこちらを見てくる。
「うーん……行ってみたい気はするけど、多分俺はもう入れないんじゃないか?魔王を討伐して魔王軍の残党も壊滅させたというのに、王都での褒賞もなければ、出向いてさえ来てくれないぐらいだからな。よほど嫌われてなきゃこうはならないだろ」
「それはまあ、そうなんだろうが……」
納得はしていないが想像でもついたのか、微妙な顔になっていくダクネス。
「別に王都には行かなくていいですよ。行く場合にはどうしてもダクネスの名前を借りなければなりませんし。それは新婚旅行とは違うと思いますから」
「そうだな。とはいえ、全く知らない場所に行く気にはならないしな……今まで行ったことのある街を観光目的で周るか?毎回急いで通り過ぎていたりでろくに見れてなかったからな」
「ゆっくりするには丁度よさそうですね」
俺の提案にめぐみんが微笑みながら同意してくる。
それに乗っかってかアクアが口を開き、
「それじゃあアルカンレティアに……!」
「行かないって言ってるだろ?近くに行っても通り過ぎるからな?」
「なんでよー!」
俺がにべも無く却下するとアクアがみかんの皮を投げつけてくる。
受け止めそのままゴミ箱に投げ入れているとダクネスが、
「それで、行くとしたら何時にするんだ?」
「そうだな……冬の間は行くつもりはないし、春か秋かな。夏は暑いから動き回りたくない」
「では、早いならこの冬終わったらですか?」
めぐみんの言葉にダクネスが申し訳ないような顔をして、
「すまない、実は今年の春先は忙しくてな。旅行するには時間が無いかもしれない」
そういえば最近は自室でも事務処理をしているのを見かける。
「じゃあ、秋になるのかしら!」
「ま、それぐらいに合わせてみるか……ところで餅って知ってるか?」
アクアは、ああ、と頷くが、めぐみんとダクネスが首を傾げる。
「もち米はどうやらあるみたいだし、作ってみようかと思ったんだが」
「いいわね!ついでにコタツも作ってしまいましょうよ!温める方法さえ完成すればどうとでもできるじゃない!」
おおはしゃぎしているアクアを脇にめぐみんが聞いてくる。
「えっと……カズマ、餅やコタツって何ですか?」
「餅っていうのは俺の世界にある食べ物で、炊いたもち米を潰して固めた物で、煮たり焼いたりして食べるんだ。コタツは暖房器具の一種で、机に布をはさんで中を暖める、一度入ると出たくなくなる魔法のアイテムだ。そうだな……餅は材料さえあれば作れるから今日やってしまうか?」
午前中だから夕食までには余裕で間に合うだろう。
「じゃあカズマはキネとウス作りなさいよ!私はつける物買ってきたりしてくるわ!」
「あっ、おい!待てって!」
バッと立ち上がり走り去っていったアクア。
声をかけたものの返事は返ってこなかった。
「……材料は全て買ってあるし、道具も揃えてあるから、米炊いて作るだけなんだがな」
「まあ、いいではありませんか。それより具体的にはどう作るんですか?」
「まずは普通にもち米を普通のお米のように炊いて……その後は見せたほうが早いから炊き上がってからな」
めぐみんは立ち上がり、
「分かりました。それでは炊いてきますね。それでもち米は何処にありますか?」
「いつも食料を入れている場所の手前のほうに置いてあるぞ」
「そうですか。ついでに昼食も作ってくるので机の上を片付けておいてくださいね」
そう言って台所へと向かっていく。
俺はダクネスに机の上を頼み、居間の脇の物置から木で作った臼と杵を引っ張り出してきた。
ダクネスは作業を終えたらしく、こちらに近づいてくる。
「カズマ、それが使う道具なのか?思ったよりも大きいな」
しげしげと杵を持ちながら不思議そうにするダクネス。
「しかしどうやって使うのだ?これはハンマーとも桑ともつかぬ形をしているが……」
「それは杵だな。こっちの臼っていうのに炊いたもち米を入れて、その杵で潰したり、ついたり……まあ叩く感じになるか。これが結構時間がかかるし、力仕事になるんだよ」
「ふむ、ならば私の出番だな」
「ただ馬鹿力で叩き潰せばいいって訳じゃないからな。打ち込んで臼や杵を壊すなよ」
「一体お前は私を何だと思っているのだ!?私だってそれぐらいはちゃんと力の加減はする!」
「お前はアクアとゼル帝の小屋を作るときに破壊しかしていない前科があるだろ」
アクアに戦力外通知されるという事は余程だろう。
ダクネスはその時のことを思い出したのか悔しそうにしながら、
「ぐっ……だが、やってみなければ――」
「それ、現状一つしかないから。ダクネスはそうだな……合いの手で餅に水をつける役をやってもらおうか」
「……どういうことだ?」
ダクネスは不満そうに訊ねてくる。
「餅をつくときは、つく合間に水をつけた手で餅を少しこねるんだ。その程度なら馬鹿力しか出せない不器用なお前でも出来るだろ?」
「バ…バカにするのも大概にしろっ!私だって……!私だって……」
特に何か器用にできる事が思いつかなかったのか、どんどん尻すぼみになっていく。
「……コホン。それよりどのような風に、どんなテンポでやるんだ?ちょっとやってみせてくれ」
「まあいいけど……」
とりあえず臼に対して杵を振ってやると、
「どのタイミングでやるんだ?まさか今の合間とは言うまいな?」
「今の合間でだよ」
「それでは手を打たれてしまうではないか!?皆、そんなうらやま……いや、苦行をしないとできないのか!?」
顔を少し赤らめながらそんな事をいうダクネス。
………。
「今、羨ましいと言いかけただろ」
「言ってない」
ダクネスはふいとそっぽを向きながら言い張る。
「……それだけ手際よくやればいいだけだ。手をあまり打たれるようだったら、アクアに代わってもらうからな」
「どうして打たれる前提なんだ。確かに打たれてみたいとは思うが……それに代わる相手がアクアか?」
「アクアはあれでも器用だからな。誰かさんとは違って」
俺が皮肉って言うと、ダクネスは涙目で、
「なんださっきから!?まだ一ヶ月前のことを根に持っているのか!?」
「別に俺はそこまでねちっこくないぞ。ただあれ以来少しダクネスに対して苛立ちを感じているだけで」
実際めぐみんに止められたので、ダクネスに対して何も仕返せていない。
なので事あるたびに腹いせのつもりで突っ掛かっている。
ダクネスはなんとも微妙な顔をしながら口を開く。
「それを根にもっていると言うと思うのだが……そろそろ許してはくれないか?」
しょうがねえなぁ……
「気も納まったからな。悪かったよ」
ほっと息を吐くダクネス。
「カズマ、お前の悪態は少々度が過ぎているというか、よくもまあここまで的確に嫌なところをついてくるな」
さも呆れたように呟いてくる。
「何か言いたそうだな」
「どうしてそこまで嫌なことは的確にできる癖に、して欲しいことは尽くできないんだろうなと思ってな」
「お前、俺が地味に気にしている事を言いやがったな!?前言撤回だ!表でろ!とっちめてやる!」
俺が立ち上がり威嚇してやると、ダクネスも対面に立つ。
「いいだろう。ここ最近やられっぱなしで殴りたかったんだ。丁度いい、仕返しさせてもらう」
「ほーほー、短気でガサツで不器用なお嬢様に一体何ができるんでしょうねー?数瞬で片が付いて泣きを見るのはお前だぞ?」
ブチ切れたのか、脈絡も無く殴りかかってくるダクネス。
俺は大きく下がって両手を突き出す。
「ぶっ殺してやる!今度という今度はっ!」
不死王の手を警戒してか、腕を押さえようとしてきたダクネスに、
「『フリーズ』ッ!」
「ひゃああああああっ!??」
首筋にフリーズが炸裂して飛び上がるダクネス。
「続いて――」
「何するつもりなんですか?」
「うおっ?!」
何時からいたのか、めぐみんにぐいと腕を掴まれつんのめる。
「全く、目を離すとすぐこれですから……別にじゃれ合うのは構いませんが、もう少し落ち着いてください」
「「別にじゃれ合っていた訳では……」」
「言い訳はいいですから、料理を運ぶの手伝ってください。アクアが帰ってきたら食べますよ」
準備が終わり、間も無くアクアが居間に入ってきた。
「ただいまー!色々買ってきたから感謝しなさい!あ、お昼できてるのね!」
席に着き食べ始めるアクア。
皆も苦笑いしながら食べ始める。
「アクア、お前が買ってこなくてもあったんだけどな。というかそれはなんだ」
アクアが持ってきた袋からはみ出ているビンを指しながら言う。
「何って、見れば分かるでしょ?バカなの?ネロイドのシャワシャワとかお酒とかよ」
「んなことは聞いてねーよ!それだけの飲料を何処に置くつもりだよって話だ!」
「冬場だし、私の部屋に置いておくつもりよ。すぐに飲めるしね!」
凍ってビンが割れたりするのが手に取るように分かる。
とはいえ他にしまっておく場所も無いから放っておくか。
俺が哀れんだ目で見てやると、
「何?どうしたの?なんで急にそんな目で私を見るの?」
俺はアクアを無視して食事を口に運んだ。
皆食事も終わり、片付け始める。
「そういえばめぐみん、どれぐらいの量炊いてくれたんだ?」
「大体四人で食べる三食分ぐらいです。どれくらい必要なものか分からなかったので」
「今回は試しだからな。そんなものでいいだろ」
実際、俺もどれぐらいが妥当な量かは知らないし。
アクアが、買ってきた味付け用の調味料やらを手で弄くりながら、
「どれくらいでできるのかしら?」
「そうですね、あと一時間もかからないかと思います。ちょっと片付けついでに見てきますね」
台所に向かうめぐみんに俺も食器を持って後をついて行く。
「どうしたのですか?」
「できていたらそのまま作り始めてしまおうかと思ってな。確か熱いうちに処理しないと上手くできなかったはずだから」
思い出しながら告げると、
「わかりました。できていたら教えますね」
お米が炊き上がっていたので、居間で下処理として、もち米を軽く全部を潰す作業をしている。
「カズマさん、まだー?早くつきたいんですけど」
「いいから黙ってろ!初めてやるから結構神経使うんだよ!」
地道に臼に入ったもち米を杵で飛び出さないように潰している。
アクアは暇そうにしているが、残りの二人は面白そうに見ている。
「糊も確かこんな風に作りましたね。それとはどう違うんでしょうか?」
「アクアが言うには饅頭より弾力があって、食べ応えのある食べ物になるらしいぞ。楽しみだな」
そんな会話を聞きながら、何とか餅つきができそうな状態にまで仕上げた。
「……ふう。おし、餅つきできるぞ」
俺の言葉と同時にアクアが杵を持ち、ダクネスは教えた合いの手の位置に移動した。
ずいぶんとやる気満々だな。
「ダクネス、さっさと作っちゃうわよ!」
「任せてくれ」
「えいっ!」
「痛いっ!」
開始直後に手を打たれるダクネス。
「……ダクネス、最初から打たれるのはどうかと思うの」
「わざとだろ」
俺とアクアが呆れたように見つめると、
「わざとじゃない……次からしっかりやるからそんな目で見ないでくれ」
手の甲をさすりながらいそいそと次をやろうと構えている。
「それじゃ、改めて……えいっ!」
今度は普通に餅つきを始めた。
たまにダクネスがわざとらしく頬を染めながら手を打たれるが。
その様子を脇でめぐみんと見ている。
「餅つきはこういう風にするんですか。確かに楽しそうですね」
「やってみるか?」
「見ているだけで十分ですよ。疲れそうですし」
伸びをしながら立ち上がるめぐみん。
「何をするんだ?」
「いえ、少し飲み物でも持ってこようかと思いまして」
「あ、それじゃ買ってきたお酒取ってきてくれないかしら!」
めぐみんはその言葉を受け苦笑いしながら台所の方に向かっていく。
アクアが杵を下ろし、俺に渡してくる。
「疲れたのか?」
「違うわよ。流石に飽きたわ。あとは完成したら声掛けてくれないかしら。ゼル帝と戯れてるから」
そう言って暖炉の前で眠っていたゼル帝にちょっかいを掛け始めるアクア。
どうせ仕上げは俺がするつもりだったからいいのだが。
ダクネスに目を向けると手をさすりながら息を荒くしている。
「……ダクネス。やるぞ、テンポ良くやるから手を打たれるなよ」
「分かった。私は打たれても構わないから思い切りやってくれ」
「出来上がるのが遅くなるから止めろ」
案の定打ち始めるとダクネスが手を打たれ始めた。
そこでダクネスには戻ってきためぐみんに代わってもらって、淡々と餅をつく。
しばらく続けているとお米の粒が無くなってきたので一口味見する。
少し知っている触感や味とは違うが悪くはないだろう。
「めぐみん、とりあえずこれで完成だ」
「そうですか。それでは皿とか持ってきますね」
水の入ったお椀を持って走っていくめぐみん。
その間に食べきれないだろう分の餅をちぎって取り出し、ケースに入れ片栗粉をまぶす。
「何しているんだ?」
先程まで雑誌を読んでいたダクネスが聞いてくる。
「保存した時にくっついたりしないように粉を振っているだけだ」
何処かで聞いた覚えがある知識程度だが。
「そうか。しかし見た目は大分饅頭みたいだな」
「似て非なるものだけどな。喉詰まらせやすいから食べるときは気をつけろよ」
会話しながらとりあえず保存分の処理を終わらせる。
丁度めぐみんも戻ってきたので、試食するために机に並べた。
「うまいな、これは」
「そうですね。味付けのどれとも合うとは思いませんでした」
皆、用意した調味料につけながら餅を食べている。
海苔が無かったのが残念だったが、大抵のものが用意できている。
醤油や餡子はあるのでそこ関連は勿論。
きな粉は大豆はあったので自作だ。
網の上で焼いたりもしている。
「いいわねー!こう、お酒が飲みたくなるような料理って!」
「どんな料理でもお前は飲みたがるだろ」
アクアに突っ込みを入れつつ、俺も醤油をつけて焼いた餅を口に運ぶ。
久しぶりに食べるその味に少し感動を覚える。
懐かしいというか、何というか。
「やっぱり旨いな、これ」
今度は雑煮も作ろう。
そう考えながら餅を頬張っていると、隣でアクアがむせ始めた。
「だ、大丈夫ですか!?」
めぐみんが慌ててアクアの背中を叩き出す。
「ゲホッ、ゴホッ、あ、ありがとうめぐみん。危うく餅で窒息しそうだったわ!」
「なんで餅を知ってるお前が真っ先に喉詰まらせてるんだよ?」
十分気をつけているかと思ったのに。
「知ってるから詰まらせたのよ。油断してたからね!」
「それはこっちのセリフだ!自分で言うんじゃねえ!」
女神が餅で窒息死って笑い話にすらならないだろ。
まあ、駄女神だから仕方ないのかもしれないが。
「それにしても、案外食べられないものだな、餅は。結構食べたつもりなのにまだこんなに……」
ダクネスが皿を置きながら告げる。
改めて見ると確かに半分以上残っている。
保存にまわせばいいかと考えていると、
「分かったわ!それじゃ残っている分皆に配ってくるわ!」
アクアがささっと残っている餅をまとめていく。
「あ、おい!保存すればいいだけで、配る必要はないから!」
「なによ、けちくさいわね。これだけあるわけだし少しぐらい御裾分けしてもいいじゃない!」
容器に詰めながらアクアが珍しくそんなことを言ってくる。
周りに配るなんて普段しない事をやるときは……
「……アクア、また何かやらかしたのか?」
「違うわよ!買い物行った時に約束してきたから行かなきゃならないの!」
どうやらいつも通りだったようだ。
「アクア、暗くなる前に帰ってくるんですよ」
めぐみんの言葉にアクアが頷いて居間から出て行く。
片付けも一通り終わり居間の暖炉の前で寛いでいると、
「カズマ、カズマ」
めぐみんが声を掛けてきた。
「どうした?」
「えっと……実はですね……」
俺が聞き返すといつに無く挙動不審に歯切れが悪い様子のめぐみん。
なんだろう。
今多少のことならば大抵なんとかできるが。
「きて、ないんです」
………?何が?
俺が首を捻っている脇でダクネスがおろおろし始めた。
「めめ、めぐみん。い、いつからきてないんだ?」
「二ヶ月ぐらい前から……なはずです。先月の段階では偶然なかったかと思ったのですが……」
めぐみんは顔を真っ赤にしながらダクネスに返している。
え……!?
「お、おま、お前、めぐみん、まさか……!」
俺も遅れて思い当たり声が震えてしまう。
「……ええ、確定ではありませんが身篭ったと思います」
自分のお腹をさすりながらそんな事を言うめぐみん。
ま、まさかこんなに早く……!?
「め、めぐみん、どうしてそんな大事な事を最初に言わなかったんだ!?旅行どころの話ではないだろう!」
「アクアに聞かれたりしたら、面倒なことになりそうでしたから。それに……旅行には行きたいですし」
「となると次の春じゃないと旅行は無理じゃないか!」
ダクネスが困ったように怒っている。
その様子をみて、ようやく動悸が収まってきた。
「めぐみん、流石に旅行は諦めるしかないんじゃ……」
どう考えてもここ最近に行ける気はしない。
「いえ、春先ならぎりぎり大丈夫ですよ。まあダクネス次第になるかなとは思いますが」
言い張るめぐみんに渋い顔を浮かべるダクネス。
「あんまり無茶振りしてやるなよ……ダクネス、無理はしなくていいからな?」
「いや……わかった。なるべく善処してみよう」
男前な事をいうダクネス。
二段階で提案するところ、こうなることは分かって言っていたのでは……
俺がちらりとめぐみんを見ると目を逸らし、
「ありがとうございます。では詳しい予定を組まなければいけませんね」
そんな事を言いながら雑誌を取り出す。
「それでは行く場所など検討しましょうか」
しばらく三人で話し合った後、とりあえずドリスと紅魔の里には行くことになった。
「余裕があったら他の場所も周りたいですけどね」
満足そうに雑誌をしまうめぐみん。
「それより、子供がお腹の中にいるときのテレポートってどうなるんだ?」
「あまり推奨されていませんよ。どうしてもするならば一人か二人でという形にはなっています」
それは紅魔の里には行かないほうがいいのでは……
そう俺が口を開こうとすると、表情から察したのか、
「最初の子は紅魔の里で産みたいんです。だめですか?」
しおらしく頼んでくるめぐみん。
その気持ちは尊重したいが……
「そもそも家がないだろ?宿もないんだし、どうするんだよ。一日だけならまだしも……」
「ゆんゆんに頼んでついて来てもらいます。それで大体解決しますよね?」
それはそうなんだが。
どうしてもそこまでしてそうしたいのかが見えてこない。
道中には上位のモンスターもいる。
危険の方が大きいはずだ。
「……めぐみん。私にはそれほどまでして行こうとする理由が分からないのだが……」
ダクネスもそう思ったらしく、めぐみんに訊ねている。
「お腹の子供のためですよ。私とカズマの間にできる子供がどうなるか分かりませんから。念のため紅魔族ローブはちゃんと準備しなければいけませんし」
あまり考えていなかったが、そういえばそうか。
子供が紅魔族となるのか、普通の人間になるかは分からない。
ハーフだったとしても、魔力がボンッとならないとは限らないわけで。
ダクネスも納得したようで、相変わらず渋い顔をしているが、
「ならば、尚更のこと行かなければならないな」
頷きながらソファーに寄りかかり、大きく息を吐く。
「でも何で最初にそう言わなかったんだ?」
それなら是が非でも行くというのに。
「目的にしたくは無かったのですよ。元々行くにしても観光を主にしたいと思っていましたから」
「わかったよ。でも最悪すぐに戻ってもらうからな?」
「承知の上です。……ところで名前どうします?」
めぐみんは顔を赤く染めて俺のほうを見ながら聞いてくる。
「ま、まだ早いんじゃないか?もう少し確実にそうだと分かってからでも……」
俺はうろたえながらめぐみんに返す。
正直まだ子供云々という事実を受け止めきれていない。
その様子を見てめぐみんがクスクス笑いながら。
「そうですね。でも考えて置いてくださいね?あっという間でしょうから」
「お、おう」
「そういえばアクアが遅いな。もう暗くなっているというのに……」
ダクネスが外を見ながら呟く。
めぐみんも少し心配なのか困ったような顔をして。
「カズマ、見に行ってはくれませんか?私は夕飯作りますので」
しょうがねえなあ……
「夕飯は軽くでいいからな。それじゃ行ってくるわ」
とりあえずギルドに来てみたものの、アクアの姿は見つからない。
配りに行くと言っていたから考えられる場所はそんなに多くないはずだが……
と、そんな中リーンが珍しく一人でギルド内にいて、話しかけてきた。
「あれ、カズマじゃん。どうしたの?」
「いや、アクアを探してるんだけど……」
「ああー……実はちょっと騒動があってね。なんだっけ、モチとか言ったっけ。美味しかったんだけど、それを喉に詰まらせちゃう人が続出しちゃって。アクアさんがそれで、ね?」
困ったように笑いながらリーンがそう告げる。
つまり説明不足が原因で未だ帰れる状況に無いと。
おそらく指導だけで済むとは思うが……。
俺がため息を吐くと、
「ま、気をつけて食べなかったほうも悪かったとは思うよ、私は。ウチのパーティの男三人も詰まらせて、今グロッキー状態だし」
「分かった。ありがとうな」
しばらく待っていると、奥のほうからとぼとぼと歩いて出てくるアクアを見つけた。
「おーい、アクア」
俺が声を掛けるとアクアはこちらに気付き、泣きながら駆け寄ってきた。
帰り道、落ち着いたアクアに聞く限り、治療の手伝いをさせられた上で指導されたらしい。
まあ、いつも何かやらかすこいつにしてはマシな方か。
そのまま屋敷へと帰り、夕食後、めぐみんとダクネスに報告する。
「でも大したことじゃなくて良かったですよ」
ホッと息を吐くめぐみんとダクネス。
「まったくだな。俺は前みたいにもっと大事をやらかしたかと」
俺の言葉に苦笑いを浮かべる二人。
「皆、最近私の扱いがぞんざいじゃないかしら!?ねえ、私はいつも迷惑なんてかけてないわよ!?今回だって配る時はちゃんと考えてくださいねって言われただけだし!だけだし!」
涙目で抗議してくるアクア。
「はいはい、ご苦労さん。次からは気をつけろよ」
と言っても無駄なんだろうけどな。
アクアは俺の感情の篭っていない返事を聞き掴みかかってくる。
「そうです、アクア。この冬が終わったら旅行に行きますよ」
「この二ー……めぐみん、今なんて?」
何かを俺に言いかけてその途中で固まるアクア。
「旅行、今年の春に行きますよ」
「え!?本当!?カズマさん本当なの!?」
さっきまでの怒った様子を一転させ聞いてきた。
「ああ、本当だよ。少なからずドリスと紅魔の里には行く」
ぶっきらぼうに返すと少し神妙な面持で、
「あの……ドリスは私、泊まれないと思うから……アルカンレティアに行って泊まっていても」
そのアクアの発言にダクネスがハッとした表情になり、
「ならば私もアクアに付き添おう!アクア一人では大変「そんなこと無いわよ。私の可愛い信者達の集まる街だもの」
ダクネスの発言の途中で言葉を挟むアクア。
ダクネスは俺とめぐみんに見つめられ、咳払いして続ける。
「コホン……何より夫婦水入らずの時間を邪魔したくは「部屋は各個で取る予定だからあまり関係ないな」
面白そうなので俺も横から口を挟んでみると、ダクネスが顔を赤くして、
「うう……最後まで話ぐらい聞いてくれ。私としてはドリスもいいがアルカ「アクアとダクネスはアルカンレティアに先に行っていて貰ってもいいんですよ」
流石に涙目になっているダクネスだが……
「なあ、めぐみん。それはどういうことだ?」
確かにアクアはその方がいいだろうが、ダクネスを行かせてもろくな事にはならなさそうだ。
俺の考えを読んだのか、めぐみんが微笑みながら、
「これは旅行ですよ?道中でなければ自由行動でいいでしょう。それに私達は一月もドリスに居るつもりなんですから。それこそダクネスが戻りたくなったらテレポートで送ってもらえばいいだけですし」
それもそうか。
何かあっても自己責任なら、俺の知ったことではない。
「ダクネスの返事次第で予約するかどうか決まるからな」
「……うむ」
翌日ダクネスが満面の笑みで戻ってきたので、金にものを言わせて宿の予約を一月分取った。
第十話目を投稿させて頂きました、双碧と言う者です。時間があっという間に過ぎていくと感じながら書き上げた内容でしたが、お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただいている皆様に申し訳ないのですが、次回投稿は多少遅れると思います。もしよろしければ羽毛布団の如く、優しく、温かく見守って頂ければ幸いです!