「カズマ、豆まきをしましょう!」
私の声に反応して、ソファーに寝ていたカズマが顔をこちらに向ける。
テーブルで紅茶を飲んでいためぐみんとダクネスは不思議そうにしている。
こちらにはそういう文化はないから当然よね。
「ああ……そういや節分みたいなものがあったか」
やれやれといった様子で座り。
「で?」
何か含んだ視線で私を見てくる。
私が言ったことを聞き取れなかったのかしら?
「豆まきをしましょうって言ったのが聞こえなかったのかしら?準備して」
「はあ?なんで俺がしなきゃならないんだよ。勝手にやってろ」
「何よ!せっかく暇そうにしてるから予定を作ってあげようと思ったのに!」
「いらんお世話だ!」
話はそれまでだみたいにソファーに再び寝転がろうとするカズマ。
……天罰を本当にしてやろうかしら。
私がどうやってカズマにその気にさせるか考えていると。
「カズマ、節分ってなんですか?」
めぐみんがカズマに訊ねていた。
「んー、俺の世界の行事の一つで二月三日、つまり今日だな。その日に豆をまいて厄を祓ったり、恵方巻きっていう食べ物を食べて祈願したりする」
「やらないんですか?」
「うーん、豆まきは片付けるのが面倒だからしたくない。恵方巻きぐらいなら作るけど……」
カズマはいつも通りニート気質を働かせて動く気が無さそう。
とはいえ恵方巻きは作ってくれるみたい。
最近はめぐみんの事を気遣ってか、料理をすることが多い。
なんでも私やダクネスにやらせたらとんでもない物ができそうだからとか。
ダクネスはともかく、私までってどういうことかしら。
楽できるからいいけれど。
めぐみんが微笑みながら、
「お願いします、えほうまきを食べてみたいので」
「しょうがねえなあ……海苔がないから、少し違うものになるけど、それでいいなら、今から材料買ってくるけど、どうだ?」
「構いませんよ」
カズマは頭を掻きながら、コートを着始める。
外は雪が降っているから当然だとは思うけど……。
いくらなんでも対応に差がありすぎる気がするんですけど。
「そうだ、カズマ。ついでに頼むのも悪いが、実家に届いた私宛の荷物を取ってきてはくれないか?私のほうで間違えてそっちに送ってしまってな」
「ああ、まあ近く通る予定だし、時間があったらな」
ダクネスもちゃっかり頼んでるし、なら私も!
「どうせ行くなら――」
「酒とかは買わないからな。欲しいなら自分で行け」
最後まで言わせずに切り捨てられた。
「なんでよー!?ダクネスやめぐみんの頼みなら聞くのに、私のだけ断るっておかしくない!?何、天罰くらいたいのかしら!?ねえ!?」
「お前の頼みは面倒か、大変かのどちらかだろ。いいから手を肩から離せ。俺は出かけるんだ」
そんな思い込みの激しいカズマの言葉を聞くつもりはない。
私はそのままぐらぐらとカズマを揺さぶっていると。
「……よし、わかった。一度だけ頼みを聞いてやろう」
「本当かしら!?何がいいかしら……!」
私はカズマの肩から手を離し考え始める。
カズマが私のいう事を聞いてくれるなんて、珍しいことこの上ないわ!
絶対しないような事をお願いしようかしら!
「ただし条件がある」
「ふーん、なによ」
「代わりに今日の夕飯はゼル帝のステーキだ」
「ふざけないで頂戴!誰がそんな条件呑むのよ!いいから頼みを……!」
聞きなさい、と続けようとした時には、カズマは既に何処かに行ってしまっていた。
鬼ね。間違いなく悪魔以上に鬼畜な事を思いつくカズマは厄の塊かもしれないわ。
「ところでアクア、豆まきとはどういうものなんだ?豆で厄払いとはいったい……?」
首を傾げながら私に訊ねてくるダクネス。
これは……チャンスね!
「豆まきは鬼や厄を追い払う為に大豆を投げるのよ。元々色々あって豆で鬼を追い払う話があってね」
「分かったような、分からないような……」
「ま、詳しいことは置いておいて、縁起が悪い場所や人に豆を投げるイベントなのよ。そう、例えばカズマとかに!」
私の話を聞いてダクネスは苦笑いしている。
ここまでは予定どおりね。
「それでダクネス、カズマが帰ってきたら出会いがしらに一緒にやらないかしら?大豆は実は用意してあるのよ。カズマもきっと喜ぶと思うの。片付けも私がするから!」
「……本当か?流石に様子を見たいんだが」
「そうでしょ……あれ、今なんて?」
「いや、今回は私は遠慮しておくと言ったんだ」
おかしい、いつもならここら辺で乗ってきてくれるのに。
これだと少し寂しい感じになっちゃうじゃない。
「ね、ねえ、どうして?楽しいわよ?一緒にやりましょう?」
「すまない、あまり食べ物を投げたくなくてな。風習とは言えども、そういうのはな」
ダクネスは申し訳無さそうに断ってくる。
ま、まあ、めぐみんを誘えば良いだけだものね。
「じゃあめぐみんはどう?」
「私は構いませんが……」
「ダメだ。この時期はあんまり動くと流産する」
席を立とうとしためぐみんを押しとどめて座らせるダクネス。
……………。
「いいもの!そんな風にするなら一人でやってやるわよ!」
豆も準備し、ニートが帰ってくるのを玄関脇の通路で待っている。
これでカズマを祓って私を崇め奉って貰うんだから。
「ただいまー。はぁ……出るんじゃなかったな……」
そうこうしているうちに雪を頭に被ったカズマが帰ってきた。
両手の荷物を置いて、野暮ったく雪を払い始めた。
そのまま居間に向かって歩き出して……。
………今ね!
「鬼はー外!鬼はー外!」
思いっきり豆をカズマにぶちまける。
カズマはぎょっとしたように驚き、こちらを向いた。
ふふ、そうそう、思ったとおりの反応ね!
「いたっ!?おまっ!?ゲホッ!?」
口を開いたと同時に豆が気管に入ったらしく、むせ始める。
「さあ、カズマの中の煩悩や非道さは出て行きなさい!ついでに私の福を受けて私を崇め奉りなさい!鬼は外!福は内!」
立て続けて投げていると、荷物をその場に置いて走り去っていった。
か、勝ったわ!あんなに素直に逃げてくなんて!
私もちゃんと成長しているのね!
達成感に満たされてその場に立ち尽くしていると、
「『バインド』ーッッ!」
「!?」
突然背後からロープで縛られた。
く、あのニート、まだ懲りてなかったのね。
まあ、バインドなんて私の魔法にかかれば……。
「『ブレイクスペル』ッ!……あれ、うそ?『ブレイクスペル』ッ!『ブレイクスペル』ッ!『セイクリッド・ブレイクスペル』ッッ!」
私の魔法が効いていないのか全く解ける様子が無い。
なんでよ!?たかだニートのバインドじゃない!
「困っているようだな、アクア」
いつの間にか目の前には大豆を持ったカズマが立っている。
物凄い下衆い笑みを浮かべてるんですけど!
「う、『ブレイクスペル』ッ!『セイクリッド・ブレイクスペル』ッッ!なんで!?どうしてよ!?」
慌てて解こうとするものの全く何も起きない。
「お前は確かに呪文で拘束されたら解除できるよな。だけど、呪文じゃなかったら?」
「ど、どういうことよ!?さっきバインド使ったじゃない!」
「そうだな。お前を縛り上げるための引き金のためにな」
カズマがそう言いながら指した先を見ると、確かに縛られているものがある。
と、とにかく時間を稼いで抜け出そう。
そうしないと変態なニートに何されるか……!
「か、カズマさん?どうしてこんな事をするのかしら?私の体が目的?」
「さっき自分がしたことを覚えていないとは言わせないぞ」
「何よ、私は親切にもカズマから厄や煩悩を祓ってあげようとしたのよ?褒められてこそ、こんな目に遭わされる理由なんて無いわ!」
もぞもぞしながらカズマに返す。
なんでこんなに器用に縛り上げて、ほかの事に使えばいいのに!
「なあアクア。知ってるか?鬼を追い払った豆って炒ってとても熱くなっていた豆なんだよ」
「か、カズマさん?突然やったことは謝るわ。だから少し待ってちょうだ――」
「『ティンダー』」
突然豆を加熱しだしたカズマさん。
そしてそのまま私のほうに……!
「ちょ、ちょっと!カズマ様、止めて!それ熱い!洒落にならないから!ごめんなさい!ごめんなさい!それ以上ちかあああっ!熱い熱い熱い!?服の中にも入ったあああ!?」
「なんだなんだ!?急に騒いで……ってカズマ、何面白そうな事をしているんだ?!そんな加熱した豆を無理やり仲間に押し付けるなんて、なんて羨ま……ではなく酷いことを!どうせなら私にも!じゃなく、そろそろ止めて私にっ!」
「ダクネス、そんな欲望駄々漏らしにしてないで、早く助けてよ!」
「ちちち、ちがっ!?別に私は欲望のままに発言しているわけでは!?」
「……お前ら落ち着けよ」
「……まったく、酷い目にあったわ……」
あの後、こってり説教されてからロープを解かれた。
これだからカズマさんは……。
「ったく、せっかく酒もついでに買ってきてやったというのに……」
「え……?」
「ほら酒だ。安かったからついでに買ってきてやった」
本当に素直じゃない。
私が言えた事じゃないけど。
「あんがと。……ん?これ私があまり飲まないやつじゃない。クリムゾンビアーみたいのが呑みたかったですけど!」
「いらないなら返せ。俺が飲む」
「別にいらないなんて言ってないわよ」
さっと後ろ手にボトルを隠す。
別な時に飲むために閉まっておくつもり。
「ま、いいけどさ。めぐみーん、帰ったし、そろそろ恵方巻き作るぞー」
カズマはそのまま歩いていってしまう。
「あんな感じなのか、豆まきって」
「違うわよ。もっと広くまくようにするわ」
ダクネスと話しながら居間で待つことにした。
「恵方巻き出来ましたよー」
めぐみんとカズマが皿を運んできた。
海苔の代わりに卵焼きを使うところ、機転が利いているとしか言いようが無い。
何だかんだ料理が上手いのが癪なんだけど。
美味しいのに越したことはないけど。
具材はきゅうりと刺身と何かしらこれ?
私が恵方巻きをまじまじと見ていると。
「本当はこれを恵方を向いて喋らずに願い事を頭に思い浮かべながら、一本丸々食べるんだ。そうするとその願いがかなうって話があるんだけどな」
「そうなんですか。ところでその、恵方って?」
「決め方はあるらしいが俺は知らん。アクア……は知るわけないか」
「何よ!知ってるわ!こっちよ、多分!神である私が言うんだから間違いないわ!」
カズマがこっちを見て、残念そうに皿に目を戻したので、腹が立って恵方を指した。
これで少しは……!
「……本当か?多分とか言っている時点で怪しいぞ。まあこういうのは雰囲気だからな。恵方向こうが向かまいが、無言で食べればそれでよし」
「ちょっと、本当なのにー!」
そう言って全く違う方向を見ながらむつむつと食べ始めるカズマ。
続いてめぐみんやダクネスも違う方向を向きながら食べ始める。
…………。
私も涙目になりながら恵方巻きを手に取る。
私の願い……。
確かに今の生活には満足しているし、楽しい。
でも……。
私は恵方を向いて食べ始める。
どうせなら……。
カズマの来世に出会えたなら、ちゃんと好きと伝えられたら……いいなあ。
何故かアクアルートっぽくなってしまった話を投稿させて頂きました、双碧という者です。何か釈然としないまま書き上げたこの内容でしたが、お楽しみいただけたでしょうか?
どうやらまだ本調子では無いみたいです。本編はまだ進行できそうもないので、とりあえず次はめぐみん視点のバレンタインでも書く予定です。
急にペースが落ちましたが、それでも見守ってくれている皆様、見てくださる皆々様に感謝です!もしよろしければ、マフラーの如く、暖かく、優しく見守って頂ければ幸いです!