「これと、これいただけますか?」
「まいど!」
私はダクネスとアクアと街に買い物に来ている。
カズマはあの悪魔と話があって出かけている。
少し歩いたりするのが大変けれども、どうしてもしておきたい。
店のオジサンから買った物をダクネスに渡す。
「……なあ、めぐみん。何で今日はここまでして買い物に来たんだ?旅行の日も近いし、休んでいたほうが……」
心配そうにしながらも、しっかり見守ってくれているダクネス。
「そろそろカズマの世界のナントカって言う日が近いので、チョコを作りたいんですよ」
「ああ!バレンタインね!」
アクアが私の声を聞いて、お酒を棚に戻してこちらに来る。
「好きな人や、お世話になっている人、友達などにチョコを送ったりする日ね!」
ダクネスに得意げに話し出すアクア。
…………。
「え、えっと、カズマから聞いた話と少し違うのですが……」
私の戸惑うような声アクアがに振り向く。
「なになに、カズマさんは何て言ったの?」
「確か、男性は女性からチョコを貰ったら、一月後に、三倍に値する品を差し出さなければならないとか、貰えなければ後ろ指差される悪魔のイベント、とか言っていましたね」
私がそう話すと。
「相変わらず捻くれてるわねぇ……。いい?バレンタインって言うのは、義理チョコとか友チョコとか、本命チョコみたいなものがあって、それぞれ渡す相手や、意味が違うの。義理チョコは異性に義理で渡すヤツね。たいして高くないし、ついでだったりお礼の意味が強いわ。友チョコは友達同士ね。これは手作りとかも含めて幅が広いの。そして本命。これは手作り派と、高い市販の物を買う派がいるわ。これは意中の人にあげるものだから当然ね」
アクアが説明口調で語ってくれている。
「ま、男は区別がつかないことが多かったりするんだけど。正直本命以外はあまりお返しを期待してないし、友チョコにいたっては同ランクが普通よ」
「そうなんですか。色々あるんですね」
という事を考えると、もう少し材料を買い足したほうがいいのかもしれない。
「あ、いいこと思いついたから買い物してくるわ!先帰ってていいからね!」
私が少し考えている間にアクアが走り去っていく。
「ダクネス、もう少し買いたい物があるので付き合ってもらってもいいですか?」
「構わないが……大丈夫か?辛くなったら言ってくれればなんとかする」
「ええ、大丈夫ですよ。それでは行きましょうか」
「それじゃあ、今日もちょっと出かけてくるからな。めぐみん、あんまり無理するなよ?多分昼外で食べるから」
「わかってますよ。いってらっしゃい」
バレンタイン当日。
カズマは旅行の準備に奔走してくれているらしい。
なんだかんだで心配性といいますか。
私が微笑みかけながら見送ると、カズマは少し照れたように頭を掻きながら出て行く。
「さて、私もチョコ作ってしまいますか」
私は台所に向かい材料を取り出していく。
アクアは何やら部屋に篭って何かを作っているみたいで、朝食後直に二階に行ってしまった。
「私も手伝うぞ。簡単なことなら任せてくれ」
「大丈夫ですよ。好きなことをしててください」
ダクネスが手伝おうと入ってきたが、お断りする。
正直、ダクネスが料理出来るようになるには一年以上かかりそう。
今は余力がないので、手間は増やしたくない。
「……わかった。でも、困ったりしたらいってくれ」
そういいダクネスは台所から出て行く。
………ふう。
今回作るつもりなのはショコラムースとチョコトリュフ、そしてガトーショコラ。
前に雑誌に載っていて、見た目が可愛く、美味しそうだったから。
卵を割って、卵黄と卵白に分けてボウルに入れる。
まず卵黄のほうを泡立てようと砂糖を加えて混ぜる。
…………。
お、思ったより疲れますね……。
泡立てるぐらいなら、ダクネスでも間違えないでしょうし……。
一旦ボウルを置いて、居間に向かうとダクネスは寂しそうに鎧を磨いている。
「ダクネス、申し訳ないのですが、手伝ってはくれませんか?」
「そうか。私は何をすればいいんだ?」
「少し混ぜたり泡立てて欲しいものがありまして」
台所に向かってダクネスにボウルを手渡す。
「まずはこれを混ぜてください。混ぜるだけですからね?」
「う、うむ」
ダクネスに念を押して、私はチョコとバターを取り出し、湯せんで溶かし始める。
「どうです?いい感じになってきましたか?」
「いい感じというのがどういうのか分からないのだが……」
困ったようにこちらを見てくるダクネス。
私はチラリとそちらを確認し。
「大丈夫そうですね。では今度はこっちのボウルを泡立ててください」
ダクネスからボウルを受け取って、卵白の入ったボウルを手渡す。
「これはなんだ……?」
ダクネスは不思議そうに卵白を見つめながら泡立て始める。
「卵白ですよ」
私は軽く返答をしながら、受け取ったボウルに溶かしたチョコとバターを入れて混ぜる。
「めぐみん、どうなればいいんだ?」
「ホイップクリームみたいになればいいんですよ」
「本当にそうなるのか、これは……」
ダクネスは半信半疑なのか、かき混ぜながら渋い顔をしている。
その間に小麦粉をふるったり、卵黄をといておいたり、生クリームを火にかけたりする。
「ところでダクネスは将来の予定とかありますか?」
混ぜたりしていて、手持ち無沙汰になったので訊ねてみる。
「ああ、そうだな……しばらくはめぐみんとカズマ、お前達と一緒に暮らすぞ」
少し遠い目をしながら。
「だが、まあ私もいい歳だからな。父がそろそろ結婚も考えて欲しい、と言っていてな。カズマがめぐみんと結婚したのもあって、どうしたものかと決めあぐねていたんだ」
またダクネスは、困ったような性癖を発動して、変な相手とくっ付こうとするのだろうか。
それはそれで困るけれども。
私の表情を見てかダクネスは、ふふ、と笑い。
「何、仮に結婚するにしても、相手は性癖で選ばないから安心してくれ。正直カズマ以上に私の性癖を的確につける男はまずいないだろうからな。絶対に満足できないに決まっている」
ダクネスのその自信満々に言う姿は、何と言うか、清々しい。
結婚した後も、何かとダクネスとカズマは些細なことで言い合いしていたりする。
やり取りも聞いていて面白いには面白いのだが。
思わず私は苦笑いをこぼしてしまう。
「まあだからこそ、無難に以前のあの次男坊とでもなるのかもしれないな。それならこちらに戻って来やすくもなる」
「いいんですか、それで」
「ああ。私は今まで本当に自由にさせてもらってきたからな。貴族として親孝行として、それぐらいはすべきだとは思った。まあするなら、の話だが」
ダクネスは苦笑いしながら、当面はそれもないだろうけどな、と呟いている。
「そんなことより、めぐみん。まずはお腹の子を第一に考えてくれ。あと、できたぞ。こんな感じでいいのか?」
「あ、はい。それで大丈夫です。ではこっちの火を見ていてもらってもいいですか?沸騰しそうになったら言ってください」
かける言葉を考えている内に出来上がったらしく、ボウルを差し出してくるダクネス。
とりあえず受け取り、先の工程に進む。
最初に混ぜてもらったボウルにメレンゲを少し加え、軽く混ぜてから、小麦粉をふるう。
「め、めぐみん、泡が出始めたんだが……」
「まだ沸いてませんよ。吹き出そうになったらで大丈夫です」
でもそろそろ沸いてしまう。
私は急いで残りのメレンゲを追加し、混ぜ合わせる。
「ダクネス、火を止めてください!」
「えっ、あ!」
吹き零れそうになっていたのを慌てて止めるダクネス。
私は一旦ボウルを置いて、そちらに行く。
急いで生クリームを、刻んだチョコが入ったボウルと、卵黄が入ったボウルに注ぐ。
「ダクネスはこっちのチョコの入ったほうを混ぜてください」
そう言って私もボウルの中身を混ぜ始める。
「ど、どうなれば完成なんだ?」
「とりあえず色が均等になるまで混ぜてください」
チョコを細かくしたものを溶かしながら答える。
大体これぐらいで……と。
型に注ぎこみオーブンに入れて、と。
「一応こっちも出来上がったが」
「冷めるまでたまに混ぜてください。あんまり混ぜないでくださいね」
「む、難しいな」
私はそのまま放置していたボウルのところに戻り、型に流し込む。
あとは空気を抜いて……。
オーブン待ちなので、ダクネスの様子を見に行く。
「どうです、そっちは」
「固まってしまったのだが……わ、私が何か間違えてしまったのか……?」
「それで大丈夫ですよ」
顔を青ざめさせているダクネスにそう告げ、スプーンですくい取っていく。
「結構な数だな」
「これぐらいは必要ですから」
ボウルの中身がなくなったので、冷蔵する。
「一つ味見しますか?」
「……私が食べてもいいのか?」
「手伝ってくれてますし」
「では一つ……ふむ、甘すぎず、美味しいな」
一つ掴んで口にしたダクネスは、微笑みながらそう言う。
「これは冷やして形を整えれば完成ですね。あと混ぜてもらったりはないので、戻っていて大丈夫ですよ」
「そうか。なかなか楽しかった。今度私にも教えてはくれないか?」
「料理がある程度できるようになったら、ですね」
「むう……善処する」
そうして完成した物をラッピングして、と。
出来上がり。
三人は喜んでくれるだろうか。
「カズマ、これをあげます」
夕刻、帰ってきて居間で寛いでいるカズマに、包装したチョコを渡す。
「……?ありがとう」
不思議そうにしながらカズマは受け取り。
「中を見てもいいか?」
「ええ、構いませんよ」
袋の紐を解いて、中を見て。
「これ……チョコ、か?」
「前にカズマが言っていた、バレンタインとか言う日なので、作りました」
「いやまあ、金はあるけど……え?作った?これをか?」
慌てたように口を開いて固まるカズマ。
勘違いした内容は分かったけれども。
「はい。作りました。ですので、お返しは気にしなくていいですよ」
微笑みながらそう告げる。
………期待してないわけでは、ないですけど。
何だかんだ覚えていて、渡してくれますし。
カズマはそれを聞いて驚いたような、気まずいような微妙な表情を浮かべている。
「なんです?手作りでは不満でしたか?」
「そうじゃない!そうじゃないが!……いや、まあ。ちょっと驚いたのと、こういうの貰うの初めてだから、どう対応していいか分からなくて…」
カズマはそう言って赤くなる。
変なところで初心なんですよね、カズマは。
そういうところが可愛かったりしますが。
「いいから素直に受け取って食べてください」
「……わかった」
袋から取り出したのは、ムース。
保存のことを考えたのでしょうか。
一応スプーンも入れておいて正解でした。
それに気付いたのか、スプーンも取り出し、一口。
「……うまいな、これ」
一口、また一口と手を動かしていくカズマ。
こう、自分が作ったものを美味しいと言って、好きな人に食べてもらえるのは、至福ですね。
ムースも半分ほど無くなった頃に、ダクネスが居間に入ってきた。
「カズマ、めぐみん。なんだ。その。私もチョコを買ってな。良かったら貰ってくれ」
「ありがとうございます。ダクネス、私からもこれを」
ダクネスからチョコの箱を受け取りながら、袋を渡す。
カズマはちらりとこちらを見た後、おずおずと受け取っている。
「ダクネス、これ、前に見ていた良い所のではありませんか!」
「日頃、色々世話になってるからな。少しばかりのお礼の気持ちだ。めぐみんのも負けてないぞ」
ダクネスは少し照れたようにはにかみながら、私の作ったトリュフを口に含む。
カズマは大げさに息を吐き。
「手作りじゃないのか。安心したぞ」
「カズマ、料理は今勉強中だ。来年には手作りを渡してやるから、覚悟しろ」
「勘弁してください。死にたくない」
「……私だって成長しているんだ。時期に食わせてやる」
口げんかを始めたダクネスとカズマ。
この二人はいつも通りですね。
「カズマー!いるんでしょー!返事しなさい!この私が直々にチョコをあげるんだから感謝なさい!」
居間の外から、アクアの声が響いてくる。
「なんだアクア。騒々しい」
「いいから!ほら!」
入ってきたアクアが持ってきていたのは……え?
等身大のアクアがチョコで出来た像と、恐らく冬将軍のチョコの像。
「恐れ多くも麗しい私の像と変形変身機能付き冬将軍の像よ!」
クオリティはとんでもないけれど、食べれるのだろうか。
私達が固まる中、アクアが変形機能と変身機能を見せびらかしている。
とても凄いけれど。
「こんな感じに抜刀したり、鎧が変わったり出来るのよ。私のは指のところから水を出したり出来るわ。大体時価にして一千万エリスは下らないわ!」
「……仕組みは良く分かったが、食えるのか、これ」
「……え、えっと」
しどろもどろになりだすアクア。
カズマは冬将軍の鎧の部分に噛り付き。
「硬ってえ!?なんだこれは!?チョコの硬さじゃねえ!」
アクアを睨みつけるカズマ。
「え、えっと。形を維持するために、ちょっと……ね?」
「ね?じゃねーよ!チョコとしてどうなんだよ!しかもまずいし!」
「あー、あの魔物のあれな部分を固めるために使ったからかしら」
「……よーし、分かった。お前と冬将軍の像は俺の鬱憤晴らしに使わしてもらうわ。夏には解けそうだしな」
「やめなさいよ!感謝して欲しいぐらいなんですけど!」
「要らないでかくて置き場所に困る、食えないもの貰って喜ぶやつが何処にいる!」
「私の像が要らないなんて罰当たりよ!」
カズマとアクアが取っ組み合いを始める傍らで。
「これ凄いな……」
ダクネスが像を見入っていた。
その後、泣かされたアクアにチョコを渡し、食事を済ませ。
カズマの部屋に。
「入っていいですか」
少し間があり。
「……いいぞー」
扉を開けて部屋の中に入る。
「めぐみん、どうしたんだ?」
「いえ、今日は一緒に寝たいな、と思いまして」
私の言葉に、カズマは少し目を逸らしながら。
「そ、そうか」
我慢、させてますよね、やっぱり。
私が布団に移動し横になると、カズマも隣に横になった。
温かく、心地よく、安心する。
「……もう少ししたら」
「え?」
「……いいですよ?」
「……めぐみん。そういう事はなるべく言わないで欲しいんだけど」
横になったまま抱きしめられる。
何か当たっている感触はありますが。
…………。
「……でも今はまだダメです」
「……ですよね」
残念そうなカズマの声を聞き、ふふ、と笑う。
どうしてこうも楽しいのでしょうか。
「……子供、楽しみですね」
「そうだな。大変だろうけどな」
そうして眠りにつくまで、私はカズマと他愛も無い、将来の話をした。
次話……ではなく番外編を投稿させて頂きました、双碧という者です。お待たせして申し訳ありません。今回の内容はお楽しみいただけたでしょうか。
ご覧いただいている皆様、お待ちいただいている皆様に感謝です!そして大変身勝手ながら、次話投稿の目処が全く立っていません。こんな状態でも、もしよろしければ、人をダメにするクッションの如く、優しく、温かく、柔らかく見守って頂ければ幸いです!