タイトル回収は後編になります
「なあ、バニル。この世界にはインキュバスとかはいないのか?」
俺は試作品をバニルに手渡し、品質を確認してもらっている。
バニルは新しく作ったフィギュアを始めとした娯楽品などを手にとって眺めて、ふうむ、などと言いながら。
「いることにはいるが、小僧。貴様が思っているようなものではないぞ?そもそも悪魔に性別は無いと知っておろう?」
「いやまあ、サキュバスがいるぐらいだから、の軽いノリだったから気にしなくていいんだけど」
期待していなかったわけでは無いが、まあ俺に都合よく出来てるわけでもないしな。
俺は少し気落ちしながら、席を立ち店の中を見ようとし。
「だが、サキュバスでも貴様が考えていることぐらいなら実行可能だぞ」
「その話詳しく」
「何、サキュバスのスキルは対象に好きな夢を見せるものである。実力があるサキュバスならば、その程度のこと可能である」
「つまり……」
いや、別にめぐみんとの夜枷に飽きたとかそういう事ではないのだが。
俺としてはとても満足している。
むしろ、結構献身的で驚いているぐらいなのだが。
そう、少しの好奇心というか。
バニルが手に持っていた試作品をテーブルに置き椅子に座る。
「おっと、貴様がいくら直接言った所で取り合ってはくれないであろう」
「……だよなぁ」
一瞬夢が膨らんだ気がしたが、よく考えればそうだ。
サキュバスからすればばれる可能性もあり、非常に好ましくないことぐらい分かっている。
「………ふむ。むっつり小僧よ、貴様があの狂犬女神をなるべくサキュバス達から一時的に遠ざける、というなら我輩が直々に交渉してやってもかわまぬ」
………?
バニルはあまり乗り気では無さそうな口調で。
「疑問に思うのも仕方あるまい。ここ最近貴様らが遠出のみならずあまり戦闘にさえ出ないせいで、昼夜お構い無しにあの忌々しい女神が街の中うろちょろするもので我輩も辟易しておるのだ。とりわけサキュバス達には堪らないらしくてな、よく相談を受けるのだ。そして店舗の位置を引っ越すという話も上がってな」
「あー……まあ子供も生まれたからなぁ……」
紅魔の里から帰ってきてからというもの、殆どクエストを受けては来なかった。
来れなかったというのが正しいところだろう。
散歩がてら爆裂魔法を撃ちに行ったりぐらいならしたけれども。
正直ここまで育児に手がかかるなんて思いもしなかったわけで。
最近は離乳食を食べてくれるようになったから余裕も出てきたけれども。
めぐみんは気丈に振舞っているが、連日寝不足で昼間寝ていることもしばしば。
ダクネスもダクネスで領主としての仕事を請け負ったりしていなかったり、屋敷にいる間は育児の手伝いをしてくれ、めぐみんの睡眠時間を確保してくれて……。
何も特に出来ないアクアは、俺がならクエスト一緒に行くかと誘ったら、カズマさんと二人でクエストには絶対行きたくない、と抜かし。
そういやあんまり見かけていないな……。
「貴様にも思い当たる節はあるようだな。我輩とて面倒ごとは御免なのである。出来ないことを契約させるつもりはない。さて小僧よ、どうする」
「請け負いたいのは山々なんだが、遠ざけると言ったって、具体的に何をすればいいんだ?正直あいつの行動なんて制御しきる自身ないんだが」
「鬼畜で通っている貴様ならば大体検討はついておるであろう?」
バニルは多少口元を笑ったように歪めながら、こちらを見てくるが……。
これ、やったら流石に酷い、よなぁ……。
「まあせいぜい悩むといい。我輩はいつでも大歓迎であるからな。それとこれらは全て入荷させてもらおう。それぞれこの程度の値段で如何か?」
バニルはフハハハと笑いながら話を打ち切り、鑑定額を示してきた。
紙面の額もかなりのものになっている。
「いいのか?」
「無論。いや、中々に技巧を凝らされていた品々であった。娯楽品とのこともありそれでも売れるであろう」
お金を受け取り店を去る俺を、バニルは笑いながら見送っていた。
そのまま俺が街の中を歩いているとぶらついているアクアを見かけた。
見た様子、お店を見て周って欲しいものを買っている感じか。
ちょっと興味が湧いて隠密を使用しアクアの後をつけることにした。
仮に何かをするにしても、情報収集は大事だしな。
春という事もあり、通りの賑わいも一入。
そう思って歩いていると、アクアが何人かの冒険者を捕まえてお喋りを始めた。
内容を聞くために盗聴のスキルを発動する。
『――でさー、ちょっと前に悪戯しかけたときも、カズマさん凄い表情と声で驚くのよ!ヒョエエエエエ!とか』
『アハハハ!魔王とタイマンはった英雄でもその程度で驚くのか』
アイツ………無駄に上手い声真似までしやがって。
アクアが何か手にひらひらしているものを持っているのが見えた。
ちょっと気になって千里眼を使用し……。
……おい。
何で俺の名義で買い物してんだよ。
というか、結構な額になってんじゃねーか。
一時でも良心を持った俺が間違ってた。
最近大きくやらかしたり調子にのったりしなかったから色々大目に見ていたが。
『あ、でもこれ聞かれたら、アクアさんやばいんじゃないの?』
『だいじょーぶよ!あんな臆病ニートなんて私にかかればちょちょいの……」
「アクア、ちょちょいの、なんだ?」
後をつけるのを止めて俺が無表情でそのまま近づいていくと、アクアは表情を引きつらせて笑う。
話を聞いていた冒険者達も気まずそうに目を逸らしているけれど。
「あ、あはは、違うの、そう!違うのよ?皆カズマさんが遠い存在みたいに思わないように、そう!イメージコントロールよ!」
「それをいうなら印象操作な」
イメージコントロールだと自分の思考を変化させる方法だ。
「で、ちょちょいの?」
「えと……その……」
「印象操作なんだよな?ちょちょいの、の後に何を続けるといい印象を持たれるんだろうな?」
俺が無表情のまま問い詰めると、どんどん顔から冷や汗を垂らすアクア。
そのまままごついているアクアを尻目に。
「………はぁ」
俺は踵を返してその場を立ち去る。
決めた。
実行しても構わないだろ。
「え……え?カズマさん?カズマさーん?」
困惑したアクアの声が背後から響いてきた。
ウィズの店の中に入ると、先客が来ていた。
困り顔のサキュバスが奥でバニルと話し合っている。
「そろそろ来る頃だと思っていたぞ、小僧」
バニルがこちらをちらりとも見ずに声をかけてくるあたり、見通されていたみたいだが。
「さっきの返答だけど、成功するか分からないから実行後で構わないか?」
「ふむ、こちらとしてもその方が良さそうであるな。店舗の位置はこっちでいいのだな?」
「はい…あの…」
不安そうに俺とバニルを交互に見つめるサキュバス。
「心配しないでください、何とかしますから」
俺が優しく彼女に話しかけると、少しホッとしたように息を吐き出す。
「一応貴様にも紹介しておこう。こちらが経営主である。そして、既に言ったが、この小僧があの女神の飼い主である。で、ここからが交渉なのであるが、こっちの小僧は対価として、仲間のアークウィザードと夢を共有して自分の思い通りに色々したい、というものであるが、どうであろうか?」
バニルの発言に深く考え込み始めるサキュバス。
サキュバスとしても色々思うところがあるのだろう。
俺だってそもそもバニルが可能だと言ったからそれに乗っかっているだけだしな。
「……出来なくはありませんが、下準備が必要で、やってもらうこともあるんです。夢を思い通りに操りたい方が夢魔の秘薬を飲んでもらうことや、二人とも近くで寝てもらうこと。あとは維持するために通常よりも多めに精気を頂く必要性があることや、それに伴うリスクも――」
「つまりその下準備さえ出来ていれば、可能なんですね?」
正直、リスクに関してはそれほど危惧していない。
というか、基本的に死なないようには加減してくれるだろうし。
なんだかんだ運がいい俺には関係が無さそうだし。
「一応できますが、夢魔の秘薬なんて私達が持っている訳無いですし」
「そうであろうな」
サキュバスが困り顔でそんな風にいうが……。
「ところでその、夢魔の秘薬っていうのは?」
「我輩から説明しよう。夢魔の秘薬というのは、いわゆるサキュバスの淫夢に対抗するべくして作り上げられたポーションである。効果としては寝る事前に飲んでおくことでサキュバスに取られてしまう夢の主導権を握り返せる、という代物でな。サキュバスに見せられている状態ならば、夢を自在に操れる。ついで健全な夢として見ている分には精気も吸われぬといった具合である」
なるほど、いわゆる対サキュバス用のポーション、というわけか。
「だが、大抵結界を張っておけばなんてことは無い相手であるし、そもそも調合に費やす材料が高価であり、調合自体の難易度も高いため、作っても売れず、労力とコストに見合わぬ故、売られていることもまずあるまい」
「つまり作る必要があると?」
「左様。だがウィズならば製法は知っておる。材料調達さえ済ませれば作ってやらんことも無い。無論金は取らせてもらうがな」
まあ、金に関しては問題は無い。
それより問題となるのは、材料調達の方だな。
「……といった事であるから、双方良ければこのまま契約で構わぬか?」
バニルの言葉にお互い頷き書面に書き記す。
「よし。ではまず小僧の計画次第であるな。成功後、ウィズが戻り次第材料について貴様に伝えよう」
「分かった。とりあえず、明日辺り実行する予定だけれど……一体期間としてはどれくらいあればいいんだ」
「およそ一週間であるな」
なら問題はなさそうだな。
「じゃあ、これ貰っていくよ。いくらだ?」
近くにあったテレポートのスクロールの巻物を手に取り、バニルに尋ねる。
「七万二千エリスである」
「相変わらず高いな……」
「使い方であるが使用前に登録地点を設定し、そこから半径一キロの範囲でしか効果は発動しない。一回限りの代物である上、開いた時点で発動してしまうというトンでも商品である」
ふむ、今の状況ならば問題は無いようだ。
俺は頷いてその金額を支払い。
「それじゃ、準備もあるしそろそろ帰るわ」
「まいどあり!」
ギルドなどに寄ったりし必要なものを買い揃え、下準備を終え屋敷に戻り。
翌日。
隠密を使用し居間の近くに張り込んでいる。
テーブルの上には『開けるな』と張り紙をしたお洒落な小箱を用意してある。
中には昨日購入したテレポートのスクロールが入っている。
開けると同時に広がり、発動する寸法だ。
ちなみにテレポート先は下水道の中に設定してある。
簡単に出れないように大きめの檻を用意し、一応食料も配置してある。
しばらくそこに閉じ込めておくつもりだから当然といえば当然だが。
水の浄化もでき、一石二鳥だろう。
そういったわけでアクアが開けてくれるだろうと踏んでわざわざこんな手の込んだことをしているのだけれど。
「これ何かしら?」
「さあ……?カズマの作成途中の何か、じゃないか?」
居間に入ってきたアクアとダクネス。
興味津々といった様子のアクア。
「開けてみちゃう?」
「止めておいたほうがいいんじゃないか?張り紙までしてあるんだ、きっととても怒られるというか……」
おいダクネス、こういったときに限って常識的なこと言うんじゃねぇ!
「うーん、それもそうね……最近カズマさん妙に優しいし……ちょっと怖いのよね……」
アクアがきょろきょろと周りを見回しながらそんなことを呟く。
「でもまあ、ちょっとだけ、ちょっとだけなら……」
「私は止めたぞ?どうなっても知らないからな……?」
「ちょっ、ちょっと!そんな不安を煽るようなことを言わないでよ!開けにくくなるじゃない!」
呆れ顔で去っていくダクネスに、焦ったように返すアクア。
アクアは不安が増したからか、おっかなびっくりと言った様子で箱を眺めて、たまにつついたりしている。
そして蓋に手をかけ開けようとして……
「ふぁ……おはようございます……」
めぐみんが入ってきて大きく跳ね上がるアクア。
「な、なんだ。めぐみんじゃない。驚かさないでよ……おはよう!」
めぐみんがそんな挙動不審のアクアを見て。
「……それを開けるのはアクアの為にならないと思いますよ?」
……今日に限ってなんで皆勘が鋭いんだよ。
まあ確かに開けたら酷いことになる予定だ。
めぐみんはそれだけ言って台所の方に移動していった。
「……やっぱり開けないほうがいいのかしら……?」
とうとう触らずに考え始めるアクア。
……仕掛ける場所を間違えたか……?
少し後悔しながら次の策を練っていると。
「ううん、気になるからやっぱり開けちゃいましょう!まずかったら謝ればいいものね!」
自分を勇気付けるようにそう呟いたアクアは箱に手をかけ。
「さてさて、中身は……!?」
無事転送されましたとさ。
ちょうどダクネスもめぐみんも居間にはいなかったし。
……任務完了と。
さてと、後は自然を装って……
「おはよう!おや?俺が作っていた途中の小箱が空いてるぞ?」
「やっぱりカズマの悪戯でしたか」
「うおわっ!?」
俺が小箱の近くまで行って口を開いた瞬間に、背後からめぐみんにそんなことを言われた。
「全く意図が分かり易過ぎるんですよ。まあ何があったかなんて野暮なことは聞きませんけど」
「いや別にそういうことじゃあ断じてないんだけど」
「はいはい、分かりました。それではそろそろ朝食できるんで準備してください」
大きく欠伸をしながらめぐみんは俺の相手をせずに再び台所へ。
えっと……。
とりあえずめぐみんを手伝って食事を運び。
「あれ、アクアの分はいいのか?」
ダクネスがそんなことをめぐみんに訊ねているが。
「まあ、戻ってきたらでいいでしょう。それより冷めないうちに食べちゃいますよ」
なんというか、まあめぐみんはそこまで気を配るほど余裕は無いのだろう。
とはいえ、ちょっとアクアが不憫にも思えてきた。
とりあえずウィズの店に出向き、バニルに報告をする。
「といったかんじで一応しばらくアクアは下水にいると思うんだけど」
正直天界への戻り方とか知らないから、もしかしたら出れるのかもしれない。
まあ、アイツはそういうのも忘れてたりしそうだから何ともいえないけどな。
バニルは愉快そうに笑いながら。
「確認させてもらったぞ。ウィズが戻るまでしばらくネタ種族の娘と戯れるがいい」
「一応確認したいんだが、ウィズはどうしてるんだ?」
「あやつは我輩の命令で材料調達にでておる。人に会わなければ余計な物を買うなどという致命的なポンコツ振りを発揮はせんであろうからな」
「そんなにひどいのか?」
「うむ。貴様から仕入れて売って出ておる収益分と同等の赤字を作ってくれるわ。いくら商才が無いといえども最近は日を追うごとに悪化しおって、これほどとは我輩とて思わなかったわ」
フハハハと笑いながらも、その口角は全く笑っていないバニル。
いくらウィズがわざとそんなことをしているわけでは無いことぐらい分かっているのだが、正直バニルが気の毒でならない。
「まあ、何というか相変わらず大変だな、バニルも」
「フハハハハ!ならば幾つか商品を買っていくといい!」
「それは断る」
なんだかんだ言って逞しい商魂を持っているバニルだからこそウィズの相手を務められるのだろう。
それこそバニルでなければこの店潰れてそうだし。
再度店内を見てそう思う。
というか、俺が入荷した商品の売り上げ全部赤字って、アクアでもあるまいしどうやったらなるんだか……
やりようは思いついてしまうのがちょっと怖いところでもあるが。
「そうであるな……ひとつ予言をくれてやろう」
唐突にバニルがそんなことを言い出す。
珍しいな、バニルが何の対価も無しに予言をくれるとは。
「何、ここで貴様に死なれると後々厄介であるからな」
「………」
何さらっと死の予言してくれてんの?
「材料採集に行く際は、必ず何があろうとネタ種族の娘と、再燃し始め悶々としている変態娘を連れて行くことである。さもなくば分かっておろう?」
「言いたいことは分かっ……ん?再燃が何だって?」
フハハハハと笑い商品整理に戻るバニル。
「……まあいいや。ところでアクアは必要ないのか?」
「今回に関しては駄犬女神がいたところで何も変わりはせぬ。ただ我輩が多少見通し難くなるだけに過ぎぬわ」
鼻で笑ってバニルは棚の配置を弄りだす。
「まあ、なんだ。邪魔したな」
それから一週間ほど足しげくウィズの店に通いながら、サキュバスの店がどうなっているかも確認した。
アクアが居ないこともあってか移転作業は物凄く順調に進んだらしく、胸を撫で下ろした。
ほとんど家の中でだらけているというわけでもなく、ちょくちょく育児を手伝ったりなんだり……
我が子が可愛いというやつか。
ダクネスには意外そうにされているが、まあいい。
そんな感じで居間でごろごろしていると。
「カズマぁぁああ!出てらっしゃい!女神が直々に成敗してくれるわ!」
玄関が思い切り開く音と共に、大声で喚く奴が入ってきた。
折角寝かしつけたところなのに、うるせえなぁ……
仕方が無いので、とりあえず出向かいに行く。
もちろん潜伏スキルを使用してだが。
「なんですか、騒々しいですよ。赤ちゃんも居るんですから、大声出さないでください」
二階からめぐみんが起きてきたのか、寝ぼけ眼を擦ってアクアを諌める。
「丁度いいわ!めぐみん聞いて!カズマったら私を下水道に一週間近く閉じ込めてなんかくれちゃって、出るのに一苦労したのよ!女神である私をそんな場所によ!?これは仕返しを手伝ってくれるわよね!?」
おいこら、人が聞いて無いからって調子に乗りやがって、自分がしたこと覚えてないのかこいつは。
アクアの生意気な意見を聞き、めぐみんは。
「……後にしてください、何だかんださっき寝たばかりなので……おやすみなさい」
それだけ告げてまた部屋に戻っていく。
「……なによ、久しぶりに戻ってこれたというのに、もうちょっと何かあってもいいじゃない」
お望みとあらば。
ちょっとした足止め用の泥沼魔法の結界を置いて、と。
「『罠設置』」
「!クソニート、そこに居るのね!」
俺の声に反応して、殴りかかる姿勢でこちらに駆け寄ってくるアクア。
俺が設置した罠を見事踏み抜き。
「!?こんなの私の抵抗りょむうぅ!?」
一瞬転んだ隙に逃さず口にテープを張り。
「『バインド』!」
そのまま縛り上げ、正座させた状態で居間に引き摺っていく。
「……さて、なんで俺がこんなことをしているか分かるな?」
「んむう!!んーーー!んむー!」
激しく何かを言おうとしているが、正直口塞いでるから分からない。
というか質問ぐらいには答えて欲しいが。
「な、なんだか楽しそうなことをしているな……」
ダクネスが居間に入ってきてソファーに座りながら呟く。
というか帰ってきて開口一番がそれか。
「いつもの性癖はいい。とりあえずこれからアクアに説教するつもりなんだが、邪魔するなよ?」
俺はアクアの口に貼ったテープに手をかけ。
「ん、わかった」
「ぷはぁっ……!ちょっと!怒っているの私だし、説教も私がカズマにするつもりなんですけど!セ――」
「アクア、これなんだかわかるか?」
アクアが呪文を使用しかけたところに紙を叩きつける。
「カズマが買った物のレシートでしょ?」
「そうだな。名義もそうなってるよな」
「それがどう――」
「これ、何処で見つけたと思う?」
俺が言葉を遮ってにこやかにアクアに聞くと。
「カズマの部屋でしょ?」
「お前の部屋だよ?それにどうしてお前の部屋にレシートに書いてある商品と同じものと、レシートがあるんだろうな?」
「えっと、そうなのよ、そう!ちょっとお金手持ちになかったから少し借りたのよ!ちゃんと返すつもりよ!」
ほう、返すつもりで数百万と使い込むか。
「分かった。じゃあ次な。つまり俺の通帳、お前が弄ったんだよな?当然これも返すつもりだったんだよな?」
「ええ!勿論!」
「数十億と使い込んでるみたいだが、あるんだよな?返せる見込みは」
「いやまてカズマ、その、それはつまり先日調べるように言われた……」
ダクネスが俺の言葉に反応してか、納得が言ったような表情になる。
「え、なに?どういうこと?」
「お前が当てにしてるのは、俺の講座から引っ張り出して貸し付けたやつが返ってくることだよな?」
「そ、そうだけど、どうして知ってるの?」
困惑するアクアを他所に更に似顔絵を提示する。
「そいつはこいつだよな」
「え、ええ」
「国外逃亡してるぞ」
「え……?いやいやそんなことあるはず無いじゃない!」
現実を受け入れがたいのか、喚くなんちゃら様。
ダクネスが申し訳無さそうに、
「いや、その、アクアには悪いんだが、その、本当なんだ。有名な詐欺師でなかなか捕まらなかったのだが、その、もう出国してしまったという噂が」
そう言われたアクアは絶句し、俺はついでに顔を耳元に近づけ小声で。
「追加で言うなら、俺の評判も下げて、なおかつサキュバス達を追い掛け回して営業妨害していることも知ってる。当然これらも場合によっては裁判沙汰だ。で、お前に所持金がないことも知ってる。俺もその気になればそういったしょ――」
「あああああああああああ!」
「うっせえ!」
「痛あっ!」
急に大声を出され耳が痛み、とりあえずアクアの頭をぶん殴る。
「いいか、借りたってお前は言ったよな?だったらキッチリ耳揃えて返せよ?とりあえず下水の浄化の仕事なら安定していい収益になる。それが嫌だって言うなら、宴会芸でも、身体売るでもして稼いでこい!分かったか、駄目ニート女神!」
「ちょっと!女神に対してそれは無いんじゃないかしら!確かに私もちょっとは悪いところはあったわ。でもそこまですることじゃあ――」
「お前ふざけんなよ!こっちが譲歩してこれぐらいで勘弁してやろうって言ってんだ!それをちょっと悪いところだと!?俺の数十億勝手に使い、その上俺の評判を落とし、営業妨害しておきながら何だ、その言い草は!もう分かった、容赦しないぞ俺は!」
「ほーん、私とやりあうってつもり?完全に女神の力を使いこなせる私にせいぜい一般人のニート風情が何ができるというの?ダクネスも手伝って!」
「……みたいなプレイも……!?な、なんだアクア!?」
唐突に振られたダクネスが頬を赤らめたまま困惑している。
「だから、カズマに制裁下すから手伝って!ね!」
「いや、その」
「アクアに手を貸さなかったら、お前がしたいと思っているプレイに一つぐらい協力してやってもいいぞ」
「!?それは本当か!?」
「ちょっと、ダクネス!?」
「フハハハハハ!小僧はいるか!ウィズが帰ったので伝言を――」
「あーーっ!出たわね、このポンコツ悪魔!今日こそ成敗してくれるわ!」
突如居間に振って湧いたかのように現れたバニルに、さっきまでの流れを無視して突っ込んでいこうとするアクア。
だが、縛られていることを忘れたらしく、思いっきり頭から床に突っ込む。
「ブワハハハハハ!縛られていることも忘れ突っ込んでこようとしてくる貴様こそ、ポンコツの名に相応しいぞ!ブワハハハハ!」
「いい加減にしてください」
騒ぎすぎたのか、居間の入り口には物凄い笑顔のめぐみんが、恐らく爆裂魔法を完成させた状態で立っていた。
「うるさすぎて、赤ちゃん起きちゃったんですよ?今すぐ全員外に出てください。皆、爆裂魔法で何処まで吹っ飛ばせるのか実験してあげますから」
バニル以外さぁっと顔を青ざめさせる。
「いや、その、だな……アクアが大金使った上で……」
「関係ないです。それともこの一室ごと吹き飛ばされたいですか?」
俺が説明しようと口を開くと早々に切って捨てられた。
相当お怒りのようだ。
「めぐみん、その、少し落ち着いてくれ、な?ここで爆裂魔法なんて使ったらそれこそ赤ちゃんが起きてしまうだろう?」
ダクネスの言葉に渋々と言った様子で頷く。
「カズマ」
「は、はいっ!」
「テレポートをお願いします。紅魔の里に」
「今すぐするから睨むな!」
とりあえずめぐみんに爆裂魔法を放たせ、帰ってきて居間に座り込む。
なお、めぐみんは『これ以上騒いだら、マナタイト使って勧告無しで吹き飛ばしますからね』と言って二階に眠りに行った。
「いやはや、久方ぶりにこれほど強烈な悪感情を頂いた。誠に美味であった」
満足そうに呟くバニルと、疲れ果てている俺達。
「とりあえずアクア。働いて返してくれれば問題ない。仮にそれでアクアが借金負ったとしても、それはアクアが責任持って自分で返せよ」
「分かったわよ……そんなことよりも」
アクアがキッとバニルを睨みながら。
「一体何の用なのよ?」
「ウィズからの『依頼』でな、むっつり小僧に話があっただけである」
バニルはそれだけ言うと、紙切れを俺に渡してきた。
「なになに……何これ」
アクアが覗き込んできて首を傾げている。
「その材料を集めてきてくれれば『報酬』を出す、と言っていたな。個別交渉であるから、ギルドの討伐クエストと被っていても構わぬ。ではな」
バニルはそれだけ言って屋敷から出て行った。
ここで言う『依頼』は恐らく俺の、で、報酬は俺が頼んでいたもの、なのだろう。
「一体ウィズは何を作る気なのかしら……」
書いてあるのはどれも難易度が高いような採取物だ。
ネギガモの葱、安楽少女の木の実、ドラゴンゾンビーの双翼、一撃熊の肝、リッチーの爪……。
その上確か賞金首に分類されていたはずの触手モンスターの粘液も含まれている。
内容を見て目を輝かせるダクネスと、不安そうにするアクア。
「とりあえずめぐみんにも話してやってみるか」
俺はやる気が無さそうに、意気揚々と立ち上がった!
時間は昼過ぎ、紅魔の里から少し離れた森の中にて。
「じゃあ手筈通りに行くぞ」
俺の言葉に頷く三人。
狙うはとりあえず一撃熊の肝である。
めぐみんにも話を付け、子供は実家で預かってもらってある。
久しぶりの戦闘という事もあり、万全を期しているつもりだ。
ダクネスが引きつけ、俺が異常状態にし、そのままダクネスに切り捨ててもらうつもりだ。
めぐみんには周囲に他の魔物が来た場合やどうしようもなくなった場合に撃ってもらうようにお願いしてある。
できる限り奇襲して一撃、といきたいところだったが、そう簡単に許してくれる様子でもなく。
仕方が無いので正攻法で攻める。
「久しぶりで血が騒ぐな!」
ダクネスがそんなふうにはしゃぎながら一撃熊へ駆けていく。
俺もその後に続こうとして、すばやく上がった熊の右手が見えた。
「ダクネス!」
「分かってる!」
切りかかろうとしていた剣を上段に構えなおし受けの姿勢を取るダクネス。
瞬間けたたましく響く不快になりそうな金属音。
熊の爪が剣を撫でた音だろう。
流石というべきか、一撃熊の攻撃をダクネスは微動だにせず受けきっている。
だが、この状態では俺が一撃入れて状態異常には出来そうにも無い。
ならば……!
「『バインド』ッ!」
ダクネスの背後からワイヤーを飛ばして捕獲してからだ!
「え、ちょっ、カズマ!?」
が、一撃熊と一緒に巻き込まれてダクネスまで縛られてしまった。
一瞬巻き込まれにいったように見えたのは多分気のせいじゃないだろ。
「な、なあ、カズマ、これが言っていたプレイの一つなのか!?確かに私はこういうのも悪くないとは思うのだが、それならばもう少しきつく縛り上げるか、前に言っていたユウシテッセン、だったか?そういうのが――」
「だーもう、熊にトドメさすから黙ってろ!」
はぁはぁしている変態に一喝し、熊の頭に剣で一突きする。
「あーあ、この状態じゃ直接肝を取り出せないし、何してくれてんだよ、お前」
縛られても暴れられるのを危惧して少し時間を長めにしたというのに、これじゃあ移動が難しいだろ。
「いや違う。カズマ。お前が縛ったんだ。そもそも作戦にバインドを使うなんて聞いてなかったぞ!もしわかっていればもう少し色々……」
「そういうのは一人のときにやってろ!これじゃあすぐに帰れないだろ!アクア、ちょっと来い!」
このままテレポートで一旦アクセルに帰るという選択肢も無くは無いが、折角だから安楽少女の木の実を入手して、アルカンレティアに飛ばしてもらい、夜にドラゴンゾンビーと戦闘し、ついでドリスに泊まって、翌日ネギガモと賞金首といけるとベストなのだが。
まあ理想論でしかないからあれだが、流石に一体確保してその都度帰るとかは、効率悪すぎるし。
なるべく外に出ていたくないというのもあるけども。
そう思いながら怒鳴りつけると。
「いや、いける」
縛られたまま立ち上がるダクネス。
「お前どんな身体してるんだよ?」
……いや、まあ。
怪力だって分かってはいたけれども。
熊を縛るつもりだったからか、ダクネスの足は自由だったし。
「それはお前が――」
「じゃれあっているところすみませんが、早く移動した方が良さそうです」
顔を紅く染めながら何か言おうとしているダクネスを遮り、めぐみんが険しい表情で言ってきた。
「……みたいだな」
めぐみんの指す方向から敵感知にビンビン来てる。
たぶん音や匂いで寄ってきてるのだろう。
「ねえねえカズマ、ダクネスのバインドを解けばいいの?」
「もういい!さっさと逃げるぞ!」
「ちょっと!呼んでおきながら何よ、その言い草!」
アクアと口喧嘩しながら紅魔の里まで走るはめになった。
どうせだからと、解体は紅魔の店で頼み、肝だけ渡してくれるようにお願いした。
ついでにアルカンレティアまでのテレポートも依頼済みだ。
そのため今は周辺の森を探索中である。
「……今度は殺したりしませんよね?」
めぐみんが半眼でこちらを見ながら言ってくる。
「だから、前にも説明しただろ?全部演技だったって」
「今度はそうでは無いかもしれないですよ?」
「いやいや、そんなことはないだろ」
俺がそう言うと不満そうな表情で口を開く。
「モンスターであっても無闇な殺生はいけないと思うなんて抜かしていたのは誰でしたっけ」
「採集だから仕方ないだろ?」
「木の実なら殺す必要までは無いはずです」
「あー、はいはい、分かったよ。出来たら殺さないから、それでいいんだろ?」
いくら言ったところでこうなっためぐみんは引かないだろうし、面倒になって目を合わせずに返答する。
「約束ですよ?倒したりしたら後で酷いですからね?」
……バニル、本当にダクネスとめぐみん連れて行く意味あるんだろうな?
内心疑問に思いながらも、とりあえず従って今度は安楽少女を探しに行く。
森の中ということもあり見通しはあまりよくない。
正直パーティで行動するより、隠密スキルを使用して俺だけで狩って来たほうが速いし安全だったのではないかと考えもする。
「お?」
色々考えている内に目的の相手が視界に入る。
俺の視界の先には以前見たことのある安楽少女のように、座っている少女らしき姿が、木の裏に見て取れる。
見た感じ木の実もなっているようだし、隠密を使って俺だけでささっと回収すれば面倒なことにはならないだろう。
小型のナイフを取り出し駆け出そうとして。
「待ってください」
めぐみんに、ぐい、と引っ張られつんのめる。
「なんだよ、殺しはしないから放してくれないか?」
「そうじゃありません、気付いているとは思うのですが一応ですね……あの安楽少女の近くに敵がいますので、一人で行くのは危ないかと」
言われて見れば確かにありはするのだが、目視で確認できない。
少し遠くにあったのでそれほど危惧していなかったのだが。
「そんなにやばいのか?」
俺が単純に疑問に思って聞き返す。
するとダクネスが口を開き。
「巣に掛かったら恐らく即死、だけではすまないだろう」
「巣?」
「気付いていなかったのか?大毒蜘蛛の巣の特徴がそのすぐ先にあるだろう?」
ダクネスが指差した先には何も無い空間が広がっている。
正確には他の場所と違い、地面が露出している、だけなのだが。
首を傾げる俺にダクネスはため息を吐きながら。
「巣で待ち構えている大毒蜘蛛に関しては討伐は諦め、避けて通るのが定石なのだが……そうだな。見たほうが早いだろう」
そう言うとそこら辺にある少し大きめの石をその場所へ放り投げるダクネス。
石がその空間の上に入った瞬間、何かに粘着したが如く動きを止めた。
「……まあ、あの範囲はああして大毒蜘蛛の糸が張り巡らされている。あの糸に関しては私の大剣でも切れるかどうか……それに」
ダクネスの言葉が切れたと同時に石が急に上に引っ張り上げられ見えなくなった、と同時に細かい砂が降ってきた。
「掛かったものを即座に捕食してしまうからな。基本助からないし、蘇生も不可能だ」
まあ、私も見るのは初めてだが、と、見上げながら呟くダクネス。
「……行くなよ?」
「安心しろ、少し前なら気付いた段階で特攻していただろうが、今はやることがあるからな」
「おお、そうか。それは安心し……お前今何つった?」
いい笑顔で言われて流しそうになったが、聞き捨てならないことを言われた気が。
「いいから早く行ってきてー?もうこんな森の中嫌なんですけど。さっさと可愛い信者達がいるアルカンレティアに戯れに行きたいんですけど」
「いや、まさかドラゴンゾンビーや他のを蹴散らすためではなく上空のモンスターに爆裂魔法を放つ形になるとは思いも寄りませんでした」
俺達はドリスの宿で鍋をつつきながら一息ついている。
めぐみんの言葉に頷くようにダクネスが。
「正直私も焦ったぞ。アクアが居ない状況でよくその手に踏み切れたと思う」
「ただの苦し紛れだったけどな。そのまま落下してドラゴンゾンビーに直撃するなんて誰が思うか。お陰で翼も取れたわけだが」
正直その後ダクネスが素早く翼を刈り取り、そのまま逃げられていなければ全滅していてもおかしくなかった状況だった。
というか、夜間に上空から来るなんて思いもしないわけだったし、咄嗟にそっちに指示できた自分を褒めたいくらいだ。
「私がいればもっと楽になったわよ?」
「はあ?ごねてアルカンレティアに居るって残った奴が何を言ってるんだよ」
「何よ、私が居ないことで私の素晴らしさについてよく分かったんじゃないかしら?」
「お前が居たところで今回はただ突っ立ってるだけだろ?」
「聞き捨てならないわね。回復魔法に補助魔法とトドメだって神聖魔法でさせるのよ?」
俺の言葉に腰を浮かせるアクア。
俺も同じように席を立ち上がろうとし。
「まあまあ、過ぎたことだし、な?それよりも明日の触手モンスターのことをだな……」
ダクネスが宥めてアクアを座らせたので、鍋を見てふと気付く。
「なあ、この肉なんだ?」
元々入ってなかった肉が鍋の中に入り込んでいたので尋ねる。
「ネギガモの肉です」
「は?」
メニューの中には無かったような……
「帰り道で見つけたので、絞めて持ってきたんです」
「おまっ、何してんだよ」
いや、ありがたいといえばありがたいのだが。
しれっとした表情で食べ続けているめぐみんを見て呆れながら呟く。
本当に明日で完全に終了しそうだ。
むしろここまで順調だと心配になってくる。
大抵こういう時って、何かしらの障害が発生するものだが……。
俺の内心とは裏腹に時は過ぎていった。
「いやあああああああああ!こっちこないでえええええぇ!」
アクアが泣き叫びながら巨大な触手モンスターに追われている。
デコイを使っているはずのダクネスは呆然と立ち尽くしている。
「アクアー、そのまま追われ続けてくれー!その間に採集しちまうからさー!何なら絡まれて粘液まみれになっても構わないぞー!」
「ちょっとふざけないでちょうだい!というか清らかなる女神の私に付いた粘液も浄化されて違う物質になるわよ!だからさっさと助けてー!」
逃げ回りながら俺に啖呵を切るアクア。
あの様子ならまだまだ問題は無さそうだな。
「………普段の行いが悪いから私には来ないのだろうか……」
最早剣を下ろして、虚空を見つめ始めたダクネス。
いや、普段の行いは関係ないだろ。
俺は触手の通った後に残った粘液をビン詰めにする。
思ったより匂いがいい。
どちらかと言うとお香とかアロマに使われそうな匂いを出している。
ネチャネチャするから直接触れたくは無いが。
……思ったより採れないな。
「カ、カズマ、もう撃っていいですか?」
「駄目に決まってんだろ?どう見てもまだまだ足りないだろ?」
俺の背後で触手に杖を構えて不安そうにしながらそんなことを言うめぐみん。
「というか、らしくないぞ?なんでそんなに怯えているんだ?」
「べ、別に怯えてなんていませんよ?ただ、あまりにも気持ち悪いというか、アレが視界に入ったり、近づくだけでぞわぞわするといいますか……」
まあ、気持ちは分からないでもないが。
確かに見た感じヤバそうだし、あんなのに追い回されるのは俺もごめんだ。
「なら手伝ってくれるか?その方が早く終わるだろ?」
「ううぅ、本来ならその粘液も嫌なのですが……仕方ありませんね……」
めぐみんは渋々ビンを俺から受け取り詰め始める。
……と、アクアがこっちに向かって走ってきやがった。
そそくさと立ち去るめぐみん。
「どうして私しか狙われないの!?さっきまでのことは謝るからカズマさんなんとかしてーーーー!」
「こっちくんじゃねー!回収終わるまで一人で逃げ回ってろって言っただろ!」
「だって!だって!なんかこいつ攻撃してくるわけでもなく追いかけてくるし!様子も必死すぎて怖いし!私の呪文も攻撃も効きそうにないし!」
アクアは半泣きでそんなことを言う。
「邪神の一種とかなんとか言われてたし、お前女神だからそれで交配相手とかなんとかと思われてるんじゃねーの?」
「こんなのが相手とかいやあああああ!」
ダクネスのすぐ傍を駆け抜けるが、ダクネスを気にする素振りさえ見せず、触手は俺達を追ってくる。
とりあえずめぐみんがしっかり粘液を回収し終わるまで逃げ続ければ……!
「ぴうっ!?」
変な声が隣から聞こえたと思ったら、粘液に足を取られたのかアクアが顔面からすっ転んでいた。
すぐその先には触手モンスターが減速しながらアクアに近づいている。
「痛たたたた……!?カズマさん、ちょっとこれやばいと思うの!絶体絶命というか、粘液まみれで済む気がしないの……!色々謝るし、言う事も聞くから助けてカズマーッ!」
じりじりと尻餅をついた態勢で下がるアクア。
……だが、俺に助けを求めたところでこいつをどうにか出来そうも無いしな。
一応弓を構えてみるものの、どうしたものか悩んでいると。
「アクア!伏せろ!」
ダクネスが走りこんで間に割り込み、触手に背を向けた状態でアクアに覆いかぶさる。
直後、
「『エクスプロージョン』ッッ!」
ぎりぎりアクア達を巻き込まない程度の位置でめぐみんの爆裂魔法が炸裂し、周囲に理不尽な爆風が巻き起こる。
軽く吹き飛ばされ視線を飛ばすと、めぐみんが満タンのビンを片手に得意げに微笑んでいた。
流石に邪神の一種とはいえ、めぐみんの爆裂魔法には耐えられなかったようで、多少の欠片は残っているが動かなくなっていた。
「えぐっ………えぐっ……」
泣いているアクアを慰めているダクネスに近づく。
「流石に賞金首ってだけはあったな」
「……いや、これに関しては私はアクアのお陰でこの程度で済んでいると思うぞ?普通ならもっと攻撃的で容赦が無いはずだしな」
ダクネスはアクアの頭を撫でながらそう言う。
「……ぐすっ……もっと褒めて……頑張った私をもっと褒めて……」
「はいはい、よくやったな」
「ついでに借金の件をチャラに――」
「それとこれとは話が別だ」
「なんでよー!!」
俺の言葉に威勢よく掴みかかってくるアクア。
まあ、今回の討伐で得た賞金分は差し引いてやるけどな。
などと内心思いながらテレポートを唱え始めた。
夢共有前編を投稿させて頂きました、双碧というものです。書き始めてみたら思ったより内容を変えたくなり、気付いたら文章量も増えてました(ナンテコッタ)
そういった形で中途ではありますが、お楽しみいただけたでしょうか。
再び後日、とするのは心苦しくもありますが、お餅が焼けていくのを見るが如く温かく見守って頂ければ幸いです。