「カズマ、カズマ!早く起きてください!朝です!」
めぐみんの焦ったような声で目が覚めた。
「……なんだ、子供でも身篭ったのか?」
目を擦りながら上半身を起こす。
「それならこんなには慌てませんよ!むしろカズマが慌てるでしょう!」
それもそうか。
「で、どうしたんだ、朝っぱらから」
「朝だからですよ!確かに寝るのは誘いましたが、このままアクアやダクネスに会うのは流石に嫌なのです!誰も起きてこないうちに部屋に戻って着替えるなりしてください!」
欠伸をしながらゆっくりと返す。
「バレたらでいいって昨日言ってただろ?」
「うっ、確かに言いましたが……流石に鍵を閉めて寝てるのを装った手前、罪悪感が……」
まあ、気持ちは分からないでもないから戻って着替えてくるか。
「分かったよ……今日はどうせ祝杯だ何だで、昼間から騒ぐだろうしな。さっさと着替えてくるよ」
扉をあけようとして、
「待ってください!」
「なんだ?どう―」
振り向いた瞬間に口を塞がれた。
え、キス……?
理解することに数秒、そのままめぐみんは離れて、
「正式に彼女になったのですから、これぐらいしてもいいではありませんか……」
もじもじしながら言うめぐみんを見て、一瞬で目が覚めた。
部屋に戻るとダクネスが人のベッドで寝ていた。
めぐみん恐るべしというか、昨日の予想は外れではなさそうだ。
クローゼットを開け外出用の服に着替える。
そのままダクネスが起きないようにそおっと部屋を出た。
居間に向かうと台所でめぐみんが朝食を作ってくれているのだろうか、食器の音が聞こえる。
そのまま居間のソファーに座り込みマスクの素材を吟味していた。
しばらくするとダクネスが居間に入ってきた。
見た感じ寝不足のように見えるが……
「カズマ!一体昨日の夜は何処に行っていたんだ!探したが何処にもおらず心配したんだからな!」
「悪い、ちょっとな」
実はめぐみんの部屋に、なんて言うわけにもいかず、適当に誤魔化す。
ダクネスは不満そうにしながらも、仕方が無い奴だ、といいながら向かい側に座る。
ちょうどそのタイミングでめぐみんが台所から食事を持ってやってきた。
「朝食ができましたよ。アクアはまだ寝ているんですか?ダクネス、アクアを起こしてくるのを頼んでもいいですか?」
「ああ、任せてくれ」
そういいダクネスが出て行った。
めぐみんは持ってきた料理をテーブルの上に広げていく。
「手伝おうか?」
「カズマがそんなこと言ってくれるなんて珍しいですね」
そんなこというならやっぱり止めてやろうか?なんて思いながらもめぐみんの指示通りに配置していく。
「ありがとうございます。おかげで少し早く終わりました」
めぐみんはお礼をいいながら少しだけ口元を綻ばせた。
「べ、別に暇だったからな」
真っ直ぐに顔を見つめることが出来ず、そっぽを向いて告げる。
「前までは暇そうでも手伝いさえしませんでしたけどね」
「そう言うなら今度からは絶対に手伝わないぞ」
……本当にめぐみんに手玉に取られている気がする。
確かにそんなところも好きと言ったが、やっぱりダクネスにはめぐみんの部屋にいたと言えば良かったか?
そうしているうちにアクア達がやってきた。
朝食を皆で食べていると、
「そうです。ダクネスに手紙が何通か届いていましたよ?」
めぐみんがダクネスに手紙を渡した。
手紙の内容を見た瞬間にダクネスの表情が歪む。
「どんな内容なのかしら?」
「『貴族ダスティネス・フォード・ララティーナ卿。此度は王国貴族であるダスティネス家が魔王討伐に尽力なされ、魔王殺しの偉業達成の補助をしていたと聞き及んでおります。尽きましては近日中に王家からの使者を送り、貴殿の功績を称え、表彰したい旨を手紙にてお伝えしました。場所は、王城にて執り行う事となります。……』というのと、これは父からの手紙で、縁談の話らしい……」
縁談の話があるためか少し気乗りしていない様子だ。
「すまない、今日は屋敷に帰り王都へ向かう準備をしなければならなさそうだ。それと縁談の話を叩き返してくる」
そういうと食事もそこそこにし出発の準備を始めたダクネス。
「それじゃあ、私たちはギルドにでも行って祝杯をあげましょうか!」
ダクネスを除いた三人でギルドに向かった。
ギルドに着くと既にお祝いムード一色だった。
受付に何時ごろ報酬が入るかと尋ねると、今しばらく魔王とその幹部の賞金額の問い合わせが行われているらしい。
なお、既に町防衛の報酬は支給されているようでどんちゃん騒ぎしている。
アクアは入った瞬間にそちらに向かい、お酒など頼みながら宴会芸を披露している。
結局アクア自身は今回お金をあまり使用していないのでそれなりに余裕があるとの事。
昨日の段階で飲む気だったのはそれもあるようだった。
「カズマは行かなくていいんですか?」
「今から行くと夜の頃には金が寂しくなりそうだからな。しばらくアクアの宴会芸をみてから行こうと思う」
マナタイトを買って大半のお金が無くなったとはいえ、まだ数十万単位でなら蓄えは残っている。
当然生活費もそこから出しているので俺が自由に使えるのはほんの僅かだ。
めぐみんはそうですかと呟き、同じようにアクアの宴会芸を見始めた。
「カズマさんとめぐみんも来てたんですね」
振り向くとゆんゆんがいた。
「なんだ、ゆんゆんでしたか。何か用ですか?今二人でアクアの宴会芸を見ていたところなのですが」
めぐみんがそっけないことを言うと、ゆんゆんはおろおろしながら
「えっと……!何で向こうの方に行かないのかなって、思って……」
「単純にお金に余裕が無いからまだ混ざらないだけだぞ」
「そうなんですね……えっと、めぐみんは何をしようとしているの?」
めぐみんは何故かゆんゆんのローブの袖口を伸ばすように引っ張っている。
「いえ、ちょっと二人きりで話がしたくてですね」
「いいけど……」
めぐみんに引っ張られていくゆんゆん。
何か話しているようだが、だんだんゆんゆんが泣きそうになっているのは見間違いではないだろう。
そして急にテレポートを使って何処かへ行ってしまった。
一体なんだったんだ?
しばらくそのままぼーっとしていると、ギルドの扉が開きすっきりしたようなめぐみんと半泣きのゆんゆんが戻ってきた。
「何処に行っていたんだ?」
「秘密ですよ」
めぐみんはそう言い放ち、席に座って野菜スティックを注文する。
ゆんゆんは真っ青な顔して震えていた。
「ゆんゆんどうした?」
「な、なんでもないんです、なんでも……」
何かまためぐみんがやらかしたのだろう。
ゆんゆんが「これをしばらくって……」と呟いていたが、まあいつものことだと思い放置する。
その後アクア達のほうに入り込み、夜まで飲み交わした。
夜も深まってきたのでアクアとめぐみんに声をかけ屋敷へと戻る。
めぐみんはゆんゆんを引っ張ってきたが……なんでも夕飯を奢るらしい。
「う……気持ち悪い……」
アクアがたまに口元を押さえながら顔を青くしている。
「調子に乗ってガバガバ飲むからですよ?」
「し、仕方ないじゃない……誘われたら飲んじゃうわよ」
「全く……夕食はちゃんと入りますか?作る量減らしますか?」
「……減らしてください」
夕食を作る予定のめぐみんがアクアの背中をさすっていた。
「カズマさん、大人気でしたね」
ゆんゆんがそう言ってきた。
「まあ、魔王を倒した勇者、だからな」
俺を不名誉なあだ名で呼んでいた奴らも、もてはやしてきていた。
一対一で魔王を倒してきたというのは、それだけでも見る目が変わるようだ。
他の幹部を倒した時はあまり変化も無かったというのに。
「……う……私のお陰なのに……」
「はあ?まだ言うか?いくらお前が弱体化させたとはいえ、お前じゃ一対一で倒せなかっただろ?なんなら今から魔王の娘と一対一でやりあって来るか?」
「女神の力をなめないでよね!きっとそんなこと無かったわよ!だ、だから行かなくても……いいわよね?」
女神の力を手に入れて戻ってきたと言っていたが、あまり前と反応は変わらない。
アクアは叫んだのが響いたのか口元を押さえ、うう、と呻いていた。
屋敷について居間でゆっくりしているとゆんゆんが、
「そうです、カズマさん。頼まれていたアイテムを採ってきました」
「おう、助かった」
渡されたのは薄い綿状の毛。
アクセル近郊の草食系モンスターから採ってきてもらったのだ。
それを試作中のマスクの元の間に挟みこみ固定し、完成させた。
そのまま着用しても呼吸は辛くはない。
ゆんゆんは不思議そうに見てきて
「それは何に使うものなんですか?」
「マスクって言って、風邪などの病気にかかりにくくしたり、かかった人から移らないようにしたりするアイテムだ。こんな風にかけて使う」
「そうなんですね」
これは全て布系の繊維で出来ているから洗うことが出来るし、着け心地も悪くない。
完成だな。
一息ついたので周りを見てみる。
今、めぐみんが夕食を作っている。
何でも、力を入れて作るとか言っていた。
「あわ、あわわわ……友達の……友達の家で、ご飯……」
ゆんゆんはアイテムを俺に渡した後あたりからずっとそわそわしており、俺から見ても随分挙動不審だ。
暖炉の方に視線を移すと、アクアはその前に設置されているソファーに座りながらゼル帝を愛でている。
ゼル帝は嫌そうにアクアの指を突き返しているが。
ゼル帝はアクアを迎えに行く時にウィズの店に置いてきていたのをすっかり忘れていた。
それで昨日ウィズの店から帰っている途中でアクアに会い、「ゼル帝はどこ?!カズマ!食べちゃったんじゃないでしょうね!?」と泣きつかれたので、アクアをなだめて屋敷へと帰らせ俺はもう一度ゼル帝を受け取りに行ったのだ。
ダクネスに関しては置手紙があり、しばらく空けるとの事。
恐らく既に王都へ発ったのだろう。
「夕食が出来ましたよ。ゆんゆん、食べるのなら運ぶの手伝ってください!」
「あっ、うん!」
ゆんゆんがパタパタと台所へと走っていく。
食卓に全員がそろい食べ始める。
「そういえばダクネスはどれくらいで戻ってくるのでしょう?」
「俺たちの時は一日足らずで終わったが、あいつは何だかんだ貴族の令嬢だしな。それに場所は王都だ。短くても三日、長いと一週間は戻ってこないかもしれないな」
めぐみんの作った、鴨のスープを啜りながら考える。
「えっと、ダクネスさんはどうしたのですか?」
「ああ、王族から魔王殺しへの尽力の表彰だと」
「へ……!?そうだったんですか!?」
「色々とダクネスの家は幹部の撃破に絡んでいたりしたからね。当然といえば当然だわ」
大分酔いの気持ち悪さが抜けてきたのか、普段の調子を取り戻してきたアクア。
「ところで明日、俺はウィズの店に新商品を持っていくつもりだが……」
「私はまたギルドに行ってくるわ!まだまだ宴会が続きそうだし」
「では、私はカズマに付いていきましょう。ウィズに話もありますし」
「じゃ……じゃあ私も――」
「ゆんゆんはアクアが何かやらかさないか見ていて下さい。酔ったアクアは何をするか分かりませんから」
「え……あ……うん……」
物凄く寂しそうにしながらハンバーグを口に運ぶゆんゆん。
「ちょっとめぐみん?女神である私に対してどういう言い草かしら?」
「飲みすぎて具合が悪くなり夕食を減らすように頼んできましたよね?もし今後そのようなことがあったら、飲みに行った日の夕食はアクアの分だけ塩かけご飯にしてもいいんですよ?」
「止めて!止めて!謝るからそんなことはしないでよ!?」
簡単に言いくるめられるアクア。
食事を終えるとゆんゆんが帰り、眠かったのでそのまま自室で寝た。
今日はめぐみんと二人でウィズの店へ向かっている。
中々二人きりで街に出ることもなかったので、少し新鮮だ。
というよりも……
「なんかデートっぽいな」
単にウィズの店に商品を見せに行き、その後軽く街を散策するだけなのだが……
「何を言っているんですか?」
めぐみんは少し呆れながら、
「デートですよ?」
「いやっ……単に商品渡しに行って、適当に散策するだけだし……」
「二人で目的もなく話しながら歩き回るのもデートではありませんか?」
……そうなんだろうか。
そう言われ意識しだしたら少し恥ずかしくなってきたので話題を変える。
「ところでウィズに話ってなんだ?」
「カズマと二人きりになるための方便に決まっているではありませんか」
何それ!滅茶苦茶照れくさいんですが!
恥ずかしくないのかなと思いめぐみんの顔をチラッと見ると、少し頬が赤くなっているように見える。
ここまでされると物凄い反応に困るんですが!
なんとなく気まずい雰囲気の中、ウィズの店の扉を開ける。
バニルが香炉のようなものを持ちながらこちらを見る。
「へいらっしゃい!……おっと女と互いに惚れあい手玉に取られている小僧と容赦のない爆裂娘ではないか。良い所に来た。今日のオススメはこちらである!香を焚くだけでアンデットを追い払ってくれる、ダンジョン内で使用すると安全に探索できる聖なる香炉である。潜伏スキルを持った者や、ダンジョンに向かう冒険者にオススメしたい一品であるな」
……少しまともなのが来たな。
俺が一人でダンジョンに潜るにはうってつけかもしれないな。
「どうせ何か致命的な欠点があるんですよね?」
めぐみんは少し興味を示したが、以前のこともありそんなことを言う。
「フハハハハ!分かっているではないか、ネタ種族の娘よ。香を焚くと確かに煙が届く範囲からは追い払う。しかしその範囲は狭い上に範囲外から効果外の境界にアンデットを引き寄せる。さらにお香を使うにはどこか地面に接着させて動かせないようにせねばならない。怠慢店主が間違えて焚いて、煙がなくなるまで店に入れなくなったという欠陥商品である。……お一つどうだ?」
「いらない。というか売る気があるなら欠陥商品とかいうなよ」
「フハハハハ!返品予定であるからな。まともに売れるものではあるまいて」
香炉らしきものを箱に詰めなおしていた。
「そんなことよりも持ってきたぞ、例の商品」
持ってきたマスクと劣化マイトを取り出す。
めぐみんが「あっ!」と言って半眼で睨んできたが、気にせずバニルに渡す。
「ほう……これは悪くないものであるな。仕入れの話をしようではないか」
材料を伝え、どれ位コストが掛かるかを伝えると、
「ふむ、劣化マイトの原材料はこちらで仕入れてお買い上げいただき作ってもらうにして、マスクは簡単に作れる上、需要は多そうであるな。劣化マイトの単価は一つ七万、マスクは八千でどうか?」
ふむ、ジッポが一つ一万だったからそんなもんか。
「劣化マイトの原料はどれくらいで売るつもりなんだ?」
「一つ作るあたりに二万ぐらいで考えておる。衝撃を与えると爆発するポーションと特殊な燃えやすい土であるな。ポーションは一つで劣化マイト二つ分ぐらいは作れるであろう」
一つあたり五万か……まあ悪くはない、か。
「ちょっ、ちょっと待ってください!今度それを見つけたら捨てると前に言ったではありませんか!何邪道のものを普通に世に出そうとしているのですか!」
めぐみんは掴みかかり契約を取りやめさせようとしている。
「前にやった事なら謝るから、ちょっ、落ち着けって!おい、止めろ!」
「悪感情、美味である、美味である!」
……こいつ、止める気ないな。
バニルはにやつきながら俺たちの様子を見ていた。
俺は持っていた劣化マイトを高く持ち上げめぐみんに届かないようにして取られないように押さえる。
めぐみんは俺の胸ぐらを掴んできて俺の手元を引き寄せようとしてきた。
「バ、バニルっ!そろそろ止めてくれないと一つ商品を出せそうもないんだが!」
「それはあまり嬉しいことではないな。劣化マイトに妬いている娘よ。お前の魔法はそこのへタレが作った劣化マイトに負けるほどに弱いのか?自分の魔法に自信があるのならばその程度のこと許容してやってはいかがかな?」
バニルがそういうとめぐみんがピクリと反応した。
「フハハハハ!悪感情、大変美味であるぞ!そこにいる男に……うおっ!?いきなり仮面を剥がそうとするな!止めんか!どうしてそう貴様らはすぐに仮面を剥がそうとする!」
めぐみんは顔を真っ赤にしながらバニルと取っ組み合っている。
俺はめぐみんの肩を後ろから掴みバニルから引き剥がす。
「全く……そこの小僧が作った劣化マイトだが……衝撃を与えると爆発するポーションを実用レベルにまでに引き上げただけであり、爆発物としての火力は高々ポーション時一つ分と同じか、少し上ぐらいである。ネタ種族の娘がそこまでこだわることもあるまいて。それに、今の状態なら貴様を捨てることも要らない子判定を下されることもないことぐらい分かっているであろう?」
「……これだからこの悪魔は好きになれないんですよ」
何かを諦めたように呟くめぐみん。
「売る分には構いませんが、あまりに戦闘で使う機会が増えたりしたら、この知的財産権を私が売りますからね?当然劣化マイトの設計図なども私が預かります」
それで納得してくれるのであればそれぐらいはいいだろう。
「分かったよ。前は悪かった。お前を驚かせてみたくてな」
「私もむきになってすみませんでした」
俺は契約書にサインしようとペンを取る。
するとバニルは片手でそれを制した。
「フハハハハ!一応契約は当店の爆睡店主と交わすがよい!そろそろ焦げ墨店主も起きてくる頃であろう!」
「……ううう……バニルさん酷いですよ……せっかく売れると思って仕入れてきたのに……」
よろよろとしながら奥の部屋から所々黒く焦げているウィズが出てくる。
「あ、カズマさん!めぐみんさんまでいらしたのですね。その持っているものは?」
「駄目店主よ。これから仕入れることになる商品である。とっとと契約を結ぶがよい!交渉は既に済ませてあるぞ!」
「はい!」
さらさらとサインしていくウィズ。
その契約書に俺の名前を記して、劣化マイトの契約書をめぐみんに渡した。
受け取ると満足そうに微笑むめぐみん。
「あ、そうですカズマさん」
「なんだ?」
「上手くいきましたか?」
……ちょっ!?今聞いてくるわけ!?
「色ボケ店主よ。その小僧は無事関係を進めている」
こいつ……!まだ悪感情を食う気か!
「どなたとですか!?リッチーになってからはそういう話が全くなかったので!」
「カズマ……前来た時に……」
めぐみんが俺を見る目がどんどん冷たくなっていく。
「ふ、不可抗力だっ!」
「バニルさんが見通したんですよね。カズマさん次第だから、バニルさんはヘタレてこのまま変わらずかも知れぬ。なんて言っていましたけど……そんなことよりもお相手は誰なんですか!?」
ウィズの天然な発言によりめぐみんが驚いたように俺とバニルを見る。
バニルはウィズに向けて、つまらぬことをしてくれたな、というような視線を向けている。
その様子を見てウィズがパンと手を叩き、
「めぐみんさんとなんですね!一体何を言われたんですか!?どこまでしたんですか?!……」
ウィズが珍しくガンガンめぐみんに質問をしていた。
ウィズに肩をがくがくと揺さぶられながら、めぐみんは真っ赤になり、涙目でこちらを見つめてきた。
いくら気が付かれたら質問には答えればいいと思っていたとしても、ここまでがっつかれると、恥ずかしくもなるだろうし、嫌にもなるだろう。
バニルはワハハハと笑いながら傍観している。
「ウィ、ウィズ。とりあえず落ち着け!後で時間がある時にゆっくりお茶でもしながらでもいいだろう?」
「はっ……!すみません!あまりにも久しぶりにそんな話が聞けると思ったらつい!」
軽くウィズの肩を掴むと、ウィズはハッとしてすぐにめぐみんを離し謝った。
「それではお茶を入れてきますので……!」
「待て!もう俺たちは行くからな?それにそこまでがっつかれると話すのも躊躇うぞ?」
涙目のままのめぐみんの腕を掴みそそくさと店を出ようとする。
「あっ……すみません……また今度お願いします」
がっかりしたようなウィズと、満足そうにしていたバニルが出て行こうとしていた俺たちを見送る。
「久しぶりにこれだけの悪感情をいただいたので、礼に一つ予言をくれてやろう。ふむ……む?……小僧が調子に乗る……が何も起こず……?……大いなる脅威が迫る……が爆裂娘が難なく滅す……?フハハハハハ!……ふむ。貴様らはいずれ一度旅に出るであろう。その際に大きな出来事が起こる。見通す悪魔バニルが宣言する!それまで適度にクエストを受けレベルを上げることと、旅の最中は己の身をいたわることだな!フハハハ!」
最初のほうに嫌そうな顔をしながら何か呟いていたが、よく聞き取れなかった。
そのままめぐみんに手を引かれてそのままウィズの店を去った。
「……カズマ」
ぼそりと呟いためぐみん。
何だと尋ねると、
「ここまで話することに恥ずかしいと思ったことはありませんでした」
はあ、ため息を吐くめぐみん。
恐らく先程のウィズの反応を見てしまったせいで、仮に他の人から聞かれた時にまともに話せるのか自信がなくなったのだろう。
「まあ、なんだ、適当にあしらえばいいんじゃないのか?無理そうなら俺も手をかすし」
「……ありがとうございます。一応カズマにも聞いておくことがあるので」
めぐみんの瞳が紅く光り……光り!?
ちょっと身の危険を感じながらも
「な、何を聞きたいんだ?」
「一体バニルになんと予言されたのですか?」
「い、言わないと……ダメか?」
「言わないつもりなら今日の爆裂魔法の相手はカズマにしますよ?アクアの蘇生も必ずかけて」
「……バニルには『今夜が大きな分かれ目だな。失敗すればこの先はしばらくは望めぬな。上手くいけば色々と軌道に乗るだろうぞ。しかしその場合も後で大変なことになろうがな。貴様はそろそろ気持ちを固めてヘタレぬのが吉。言い訳などして逃げず自ら示すようにすべし。とりわけ今夜はな。今夜は貴様の方から部屋に向かうのが吉!誰にも邪魔されなかろうて!』と言われただけだ」
ほう、とめぐみんは長く息を吐き出すと、
「ちゃんと考えて選んでくれたのですね。安心しました」
優しく微笑んできた。
「なあ、こんな風に爆裂魔法で脅さないで欲しいんだけど……」
「何を言っているのですか。カズマはそれぐらいでもしないと、ちゃんと言ってくれないではありませんか」
……確かにその通りなのだが。
「それに私にそんな事を言わせないように、後ろめたい事をしなければいいだけですよ?」
ごもっともである。
「でもまあ、このまま話しながら散策とでもいきましょうか」
ふわりと笑うと立ち止まっていた俺の腕を引いて道を進んでいった。
「結構楽しかったですね。歩いたことがなかった場所がここまであるとは思いませんでした」
あの後俺たちは街の裏通りなど、普段だったら行かないような場所を回っていた。
日も傾いてきたのでそろそろアクアを回収して屋敷に戻ろうということになった。
「そうだな。昼食を食べたあの料理店も凄かったな。表通りに店構えれば、すぐにでも有名になりそうだったしな」
「そうですね。あのアクセサリー店もお洒落な物が多かったですね。また行きましょうか」
嬉しそうにしているめぐみんの頭には買ってあげた黒猫のヘアピンがある。
一番よく見ていたのでこっそり買っておいて、タイミングを見計らって渡したのだ。
「ところで本当に今日は爆裂に行かなくていいのか?」
「はい、先約がありますので」
「先約?」
「ゆんゆんと行くのですよ。ここしばらくはそういう約束をしましたから」
ギルドの扉を開け、先に行ってしまうめぐみん。
そのままゆんゆんに話しかけ何処かにテレポートしていった。
後に続いていくと、アクアが酒を飲みながら周囲の冒険者に愚痴っていた。
「だから酷いと思わない?せっかく女神である私がカズマのことを思ってそう提案してあげてるというのに、本当にロリコンで鬼畜でゲスでどうしようもないクズニートなのよ!こないだだって……!」
「……アクア、今話題のカズマさんだが、俺が何だって?」
声をかけた瞬間身体を強張らせ振り返るアクア。
顔を引きつらせ笑いながらも、
「え、ええっと、そう、カズマさんって、そこはかとなくいい男よねって話をしていたのよ。そうよね!?」
周りの冒険者たちも俺の顔を見た途端にアクアの言葉に同意する。
「そ、そうだぜ!なあ、相棒!」
「あ、ああ、アクアのねーちゃんが言うとおりだ!」
「おい、お前ら、この馬鹿を庇って嘘を吐くならレベルを1まで下げてやるつもりだが、どうする?」
そう告げてやると、
「アクアのねーちゃんがカズマの面白いエピソードや残念な話を教えてくれるっていうから聞いていただけだ!大半が愚痴みたいだったが!」
「そうだぜ!別に広めようだとかそんなことは微塵も考えていないから、見逃してくれ!」
あっさり白状した。
「ちょ、ちょっとあんたたち、何ばらしているのよ!そんなこと言ったら……」
アクアはこちらの顔を見て、
「だ、大丈夫よ、ほ、ほら私のとっておきの宴会芸を見せてあげるから!」
「アクア、これからしばらくお前の食事は水だけにして、外出も禁止にするからな。出ようとしたらスティールで身包み全て剥いでやる」
「わあああああーっ!ごめんなさいっ!カズマの悪口言ってたこと謝るから、そんなことは絶対にしないでーっ!」
めぐみんが帰ってくるまで延々とアクアに説教をし続けた。
無事二話目投稿させていただきました、双碧という者です。大体次回以降もこの一週間ペースで投稿できればいいなあー、と思いながら過ごしている今日この頃。今回もお楽しみ頂けたでしょうか?一話目から想像以上に多くの方に閲覧して頂きまして、驚いています。本当にありがとうございます!今後もそっと影から見守っていただければ幸いです。