俺たち四人とゆんゆん、ミツルギたち三人はギルドに集まっていた。
「えー。サトウ・カズマさん率いる一行は、魔王軍幹部および魔王を見事討伐され、世界に平和をもたらした功績を称えまして……。こ、ここに金五百億エリスを与えます」
報酬を渡す職員も物凄い脂汗をかいていた。
……当然というかギルド内の声がその一言で静まり返った。
「も、もう一度金額を言ってもらってもいいですか?」
とんでもない金額が言われた気がして、俺は思わず確認せざるおえなかった。
「ご、五百億エリス……ですっ……!」
聞き間違えではなかったようだ。
デストロイヤーが三十億であったから、およそその十七倍の金額である。
単純に八人で割ったとしても一人当たり六十二億八千万エリス入る。
なんでも魔王を倒したことにより魔王軍自体の活動が不活性化し、王都を含めたかなり大規模な範囲で魔王軍の活動が抑えられたということがこの金額になった理由らしい。
またこれだけ時間が掛かったのもそれだけの金額を用意する準備と、魔王に賞金をかけている範囲があまりに広かったためらしかった。
あまりの金額のせいかゆんゆんは近くにあった席にへたり込み、ミツルギさえも天を仰いでいる。
代表して俺が受け取ったものの、さて、どうしようか。
とりあえずそれぞれ一人分ずつ渡そうとしたが、ゆんゆんは
「こ、こんなに受け取れませんっ!恐いですっ!!その十分の一だけでも十分すぎますからっ!」
と約十分の一である六億だけ受け取り、ミツルギたちは
「これは殆ど魔王や幹部を討伐してきた君たちのパーティのものだろう?」
そんな事を言うミツルギにいいから受け取れと半ば強引に九十億エリスを渡した。
残すところ四百四億エリス。
いまだにあわあわしているめぐみんに、顔に手を当て上を向きながら笑っているダクネス。
アクアは「飲みましょう!ありえないほどあるし、とりあえず飲みましょうよ!」と騒いでいる。
めぐみんに残っているうちの四分の一を渡そうとすると、
「こんなに渡されても困りますのでカズマが預かっていて下さい。食費とか出してもらったりしているので。必要な時とか、定期的にお金を少しもらえればそれでいいですから」
と言われ、ダクネスは、
「領主として新たな領地と資金も与えられている。個人として使うつもりはないが、別に必要ない。カズマがそのまま貰ってくれ。こまごまと渡してくれれば構わないから」
と受け取らなかった。
ちらりとアクアを見ると目が合った。
「じゃあ私に半分頂戴よ!」
「お前には十億な」
「なんでよー!」
不満そうに睨んでくるアクア。
「お前は前に三億渡した時もろくな使い方しなかったからな。大体小遣いとして十億もの金額があればウィズのようなことをしない限り十分過ぎるぐらい遊んで暮らせるだろうが」
「それもそうね。それに無くなったらカズマから貰えばいいものね」
「無くなってもお前にはやるつもりはないからな」
そう言いながら手元に残った金額を見る。
三百九十四億エリス、絶対に使えきれないと思えるほどの金額。
そう、下手な貴族よりも大きなお金を持ったのであった。
その後ダクネスは使者に会いたくないからと屋敷に帰り、めぐみんはゆんゆんとまた何処かへ行ってしまった。
アクアはたまにこちらをちらちら見ながら酒場で騒いでいる。
そんな様子を見ている俺にチンピラAが絡んできた。
「アクアのねーちゃん、何でお前のことちらちらみてんのだろうな?」
「さあ、知らん」
「なあ、本当に俺にあの魔剣の分の金払うつもりはないのか?金ならあんだろ?」
会うたびにこう聞いてくるチンピラA。
正直少しうっとおしい。
「くどいぞ、あんな役にも立たないような剣で金をとろうだなんてな。大体落ちてたアイテムだろ」
「……そんなこというなよ。俺たちの仲じゃねえか。今少し金がねえんだ」
「どんな仲だ。金を貸すつもりもないからな」
しかし、このチンピラAにはなんだかんだ言って世話にはなっている。
無下に断らず少しぐらい与えてやってもいいかと考え直していたところに
「こらダスト!何英雄にたかっているの!」
「げ、リーン!?」
「カズマ、こんな奴に金なんて与えなくていいからね!」
「リーンてめえ!」
リーンを追いかけて酒場を出て行くチンピラA――改めダスト。
その様子を横目で見ながら、ちらちら見てくるアクアに近づく。
まだこちらの顔色を伺うかのように見てくる。
「アクア、さっきからちらちら見てきて……酔いが回って頭がおかしくなったか?」
「はあ?そんなわけないでしょ?馬鹿なの?というか見てくるなんて言っちゃって自意識過剰じゃないの?プークスクス!この女神である私がゲスニートをちらちら見ているなんてありえないんですけど!頭おかしくなったのはカズマの方なんじゃないかしら?」
おし、喧嘩売ってきていることだけは分かった。
「らしくもないから心配して聞いてみればその言い草は何だ?今からお前の宴会芸の品をここで全部出して、全てタネをばらしてやってもいいんだぞ」
「出来るものならやってみなさいよ。どうせカズマのことだから「『スティール』」
俺の手にはちょっとした箱がある。
「ちょっと、いきなり何するのよ。せ「「『スティール』」うん、私、話し合いが大事だと思うの、とりあえずま「『スティール』」あああああっ!私が悪かったから、もうこれ以上私の宴会芸の小道具取らないで!」
特段悪い事をしたわけでもないので泣きついてきたあと二、三回スティールしてから止めてやった。
先程ので飲む雰囲気ではなくなったのかアクアは帰りましょうと言い出してきた。
帰り道もちらちら見てくるアクア。
「カズマ、もう怒ってない……?」
「怒ってねーよ。大体お前が調子乗るからやっただけだし」
アクアは安心したように息を吐き出した。
「で、どうしたんだよ、最近?アクシズ教徒が減ったから入れ!とかそういう話か?」
「私の大切な教徒たちは減ったりなんてしていないわ!これだからこのニートは女神の偉大さを分かってはいないようね」
女神の欠片も感じられない奴に言われてもな。
「はいはい、大したことない話なんだな?犯罪を犯したとかじゃないんだな?」
「私は女神よ!?そんなことばかり言っているとお湯を沸かそうとしても沸かない天罰や、外に出ると必ず雨に降られてびしょ濡れになる天罰を与えるわよ!」
「お前の天罰って相変わらず地味だな。というか俺以外にも迷惑掛かるだろうが。大体お前がちゃんと話そうとしないから、過去にやらかしてきている例を挙げてるだけだし」
アクアはぎりっと歯を食いしばるが、思い当たる節はあるらしく屋敷に着くまで黙りこんでしまった。
翌日、めぐみんがモンスター討伐に行きたいと言い出し、ダクネスは参加できそうも無いので、アクアを連れて三人でも大丈夫そうなクエストを受けにギルドに来ていた。
「ねえ、どうしてクエストなんて受けるの?お金には余裕あるしわざわざしなくてもいいじゃない。このまま飲みに行きましょうよ」
「お前、税金のこと忘れてんのか?これだけもらった以上少しだけでも働いておいて温情をかけてもらえるようにしたほうが良いに決まっているだろ?確かに面倒だが、俺は税金を払うつもりはないからな」
アクアにそう言いながらクエストを見ていく。
思った以上にクエストが雑多で、街防衛の後殆ど誰もクエストを受けていないことが目に見えて分かる。
ふむ、このクエストがいいだろう。
「このゴブリン退治に行くぞ」
なんでも畑の近くの森に住み着いてしまったらしく、なるべく畑や森に被害が出ないように討伐して欲しいらしい。
「……これでは爆裂魔法を撃てませんが?」
「いや、近くに大きな窪地がある。そこに誘い込めばいけるだろ」
そうして俺達は窪地にやってきた。
作戦はこうだ。
まずゴブリン達のうち一体を俺が弓で射、群れを全員ひき付けて窪地に誘いこむ。
その後クリエイト・ウォーターとフリーズを使用し登って来れないように地面を凍らせる。
そこに待機していためぐみんが爆裂魔法を撃ち込む。
もし残った場合は俺が狙撃で倒すという流れだ。
アクアには支援魔法でサポートと、万一何かあった場合の回復をお願いしてある。
今回の目的は討伐よりもめぐみんの爆裂魔法にあるため、少し無茶な形をとっている。
初心者殺しは出ていないとの報告があったのもこれを選んだ理由だ。
「そいじゃ支援魔法かけるわね」
俺の身体が光り支援魔法が掛かったことが分かる。
「じゃあ、誘き寄せてくる」
俺は潜伏スキルを使用しながら森の中へと入っていった。
敵感知に多数反応が出たので弓をつがえて潜伏スキルを解きながら射抜く。
予定通りゴブリン達はこちらに気付き追いかけてくる。
ゴブリン達が追いかけてこれる程度に足を緩めながら窪地に向けて走る。
時々、弓を射てやり全員をこちらにひき付けたままにしておく。
こういうことをするならデコイなんだろうな……
そう思いながら窪地の底へと駆け下り、すぐさま対岸にフック付きの矢を放ちロープを張る。
ゴブリン達は俺に釣られて窪地の底へと入り込んでくる。
俺はすぐさまロープを使って上へと登り始め、途中で登れそうな坂を魔法で凍結させていく。
ちらりとアクアとめぐみんの方を見るとめぐみんが詠唱をしているのが分かる。
そのまま登りきり急いでめぐみんが居る位置に走る。
めぐみんは俺がこちらに来たのを横目で確認した後、
「『エクスプロージョン』ッッッ!!」
爆裂魔法を撃ち窪地ごとゴブリン達を吹き飛ばす。
その爆風は近くの森の中にも吹き荒れているようで、木がなぎ倒されはしないものの大きくしなっている。
「これでクエスト完了か」
「そうね、さっさと帰って飲みましょう!」
「そうですね……あっ……!」
俺とアクアの後ろを見て何かに気付いたらしく急に走り出しためぐみん。
恐る恐る後ろを振り返ってみると森の中から飛び出してきた鳥達が一斉にこちらに向かってきている!
「んなっ!?逃げるぞ!」
三人とも髪がぼさぼさになってギルドに帰ってきた。
鳥達はそれほど脅威というわけではなかったが、上空から頭めがけて突っ込んできたり、つついたりされた。
一応逃げながら狙撃を使って射たりはしたものの、いかんせん数が多すぎてどうしようもなかった。
ダクネスがいれば逃げなくてもよかったのかもしれないが……
そんな事を思いながらクエスト完了の報告をしてきた。
「えぐっ……えぐっ……」
めぐみんは俺が報告に行っている間に自身の髪を整えたらしく、今は酒場の隅の席で泣いているアクアの髪を整えていた。
「ダクネスがいたらこんなことも無く終わったんでしょうね」
「いや、絶対あいつは窪地に入り込んで、爆裂魔法を受けて気絶してるんじゃないか?それで今よりも逃げるのが遅くなっていたと思うんだが」
こういうことも結構いつものことなので呑気に会話をしていた。
「うぅ……なんで毎回こんな感じになるの……?私女神よ……?今日も特にふざけていた訳でもないのに……」
アクアは髪をぼさぼさにされたことが結構精神的にきているみたいでグチグチいっている。
「ところで四人でクエストに行けるようになるのは何時ぐらいからなんでしょうね?」
「ダクネスと国の使者次第だからなんともなぁ……ダクネスがいないともう少し上のクエストは厳しいだろうしな」
やはりダクネスが抜けるだけで結構出来ることが減る。
「もう帰りましょう!髪直してもらったけど、お風呂入ってしっかり整えたいんですけど」
アクアは既に飲む気はなく帰りたがっていた。
俺がめぐみんに目を向けると頷いたのでそのまま帰ることにした。
俺はめぐみんとアクアを屋敷に送り届けたあと、一人でウィズの店に向かった。
商品を卸すのと、ダンジョンの宝を持って帰るためだが……
……どうしよう、魔王と一緒にあの階層吹っ飛ばしていたことを忘れていた。
そんな鬱々とした表情で扉を開ける。
「へいらっしゃい!む、最近夜、惚れた女の部屋に行ったり来られたりしている小僧、貴様か。丁度今、店主が勝手に仕入れたアイテムの返品作業を行っていた所だ。我輩はちょっと忙しいので、先に奥で仕置き光線で焦げて寝ている店主に勝手に会いに行くがよい」
何かをせっせと箱詰めしながらバニルがそう言ってきた。
「そうさせてもらうけど。一体今回ウィズは何を仕入れたんだ?」
「これである。これは魔力を流し込むと周囲にどれくらいのモンスターがいるかを表示してくれる、簡易測定装置である。そこの穀潰し店主が『これを使えば退くかどうか判断する基準になる素晴らしい物ですよ!売れます!今度こそ絶対に売れますから、バニルさん!お仕置きしようとジリジリと寄って来ないで下さい!』と先程ひと悶着あったときの品だ」
それだけ聞くとまあ悪くはない気もするが。
「……どうせなにかあるんだろ?」
「無論だ。確かに魔力を流し込めばモンスターの数は表示される。その代わりにカウントされたモンスターはその時点からこちらに気付き襲い掛かってくる。その上魔力消費がそれなりに高い故、大抵は使用したものは魔法を使えなくなり、戦力として数えられなくなり……」
……それは、逃げられなくなる上、戦力低下で事態が悪化してるじゃないか。
「とりあえずウィズと話してくるわ」
奥に行くと椅子に座りへたり込んでいる黒焦げのウィズがいた。
「……あ……カズマさん……来ていたんですね……今回は、どうしたんですか……?」
「今回は商品を卸しに来たのと、ダンジョンの宝に関して話があって来たんだが……大丈夫か?」
ウィズは弱々しく微笑みながら、
「いつもの事ですから……それよりいくつ持ってきてくれたのですか?」
「一応こっちのマスクが三十と、劣化マイトが十だ」
大体二週間でこれぐらいだから、諸経費抜いても一月で百二十万は入るって所か。
「ありごとうございます。あ、バニルさん、ダンジョンのお宝のお話をしませんか?」
少し元に戻ってきたのか普段の声を上げるウィズ。
「いや、実は魔王を倒すために魔王ごとその階層を爆裂魔法で吹き飛ばしてしまって……」
「む、それは心配ないぞ小僧」
向こうから商品の返品作業が終わったのかバニルがやってきてそんな事を言う。
「どういうことだ?確かに俺はあの階層で爆裂魔法を撃ったんだが」
「フハハハハ!あまりにも逃げ回りながら姑息に魔王と戦うものだから、貴様のテレポートへの登録地点からかなり遠くで撃たれておるわ!ネタ種族の娘の爆裂魔法でもない限り埋もれていることはあるまいて!」
それは助かるのだが、なんかこう、イラッとした。
「悪感情、真に美味である!さて、行こうかボンクラ店主!」
「バニルさんは何時になったらまた普段から私の事を名前で呼んでくれるんですか!?ちょっと前まではちゃんと名前で呼んでくれていたのに!?」
多分ちゃんとした商品を仕入れられるようになってからじゃないか……
そのままダンジョンに行くためテレポートを使用した。
到着してみるとヴァンパイアの真祖が立てこもっていた部屋は崩れていなかったが、周りの通路は崩れていたり埋まっていたりでもう、歩いて来たり、歩いて帰ることは出来そうもなかった。
というかよく残ってたな、ここ。
「フハハハハハ!これで本格的に元手を確保できるぞ!」
そんな事を言いながら先に扉を開け入っていくバニル。
「ウィズは行かなくていいのか?」
「はい。バニルさんが全部持ってきてくれるみたいですし。それよりめぐみんさんとの話が聞きたいなと思いまして」
そういえば確かにそんな話もしてた!
「えっと、どんな話を……?」
「どうしてめぐみんさんなのかとか、どんな風に付き合っているのかとか、何処が好きなのかとか、一杯ありますよ!」
バニルが戻ってきてウィズを引きずっていくまで根掘り葉掘り聞かれた……
「ありがとうございます。おかげで全部持ってこれました!」
財宝を運び終えた頃には辺りは日が沈み始めていた。
「いや、約束だったしな。またちょくちょく店に来るから」
「それではな、小僧。我輩はこれからこの使い道を考えねばならん。礼といっては何だが数日後に魔王討伐と街防衛を祝った花火大会があるらしいぞ。貴様の仲間らと行くのが吉である!」
ほう、花火大会と。
「場所とかは?というか見通したのか?」
「こんな下らぬことに能力は使わぬわ。近所のマダムからの情報である。なんでも四日後街の外れで行うらしい。其処の屋台に臨時出店のつもりである。よければ見ていくがいい」
こいつは一体どんな繋がりを持っているのか分からないな……
「それじゃあまた今度な」
「はい、めぐみんさんとお幸せに!」
……こういう見送られ方は物凄い恥ずかしいんですが!
「ただいまー」
「「「お帰り」」」
帰ってきて居間に入ると三人ともそれぞれにくつろぎ雑談していた。
アクアは高級ネロイド割を飲みながらゼル帝を撫でており、めぐみんとダクネスは紅茶を飲みながら世間話をしていた。
「こんな遅くまで何処に行ってきたんですか?」
「ウィズの店に行って、ダンジョンの宝回収に付き合ってきた。ついでに面白い話を聞いてきたんだが……花火大会に興味はあるか?」
花火大会という言葉を聞いて三人は興味津々な様子だ。
「なんでも四日後に魔王討伐と街防衛を祝って花火大会を街の外れでやるらしく、屋台も出てそれなりに大きいものをやるみたいなんだ。ウィズ達も出店するみたいだし行ってみないか?」
「いいわね!お金もあるから豪遊できるし!」
「花火ですか。そういえばしばらく見てませんね。行きましょうか」
めぐみんとアクアは喜んで行きたがっているが、ダクネスは微妙な顔をしている。
「どうした、ダクネス。行きたくないのか?」
「いや、行きたい。行きたいのだが、私は今出れる状況では……」
「おいおい、花火大会は夜からだぞ?その時間なら出れるだろ?」
その一言でダクネスはぱあっと顔を綻ばせ、何をしようかと呟き始めた。
「で、だ。俺はその花火大会に合わせてお前らに着物を用意しようと思うんだが」
「着物?いいわね!清楚な感じのでお願いよ?こう水の女神様って感じの」
どういう感じだよ、それは。
アクアはすぐに分かったようだがめぐみんとダクネスは首を傾げている。
「着物って言うのは俺の世界の服で、綺麗な模様を象ったこっちでいうドレスみたいな立ち位置にある。ドレスほど煌びやかではないけれど……といっても分からないだろうから、まあ出来上がったものを見てくれ。ところでアクア」
「ん?なにかしら」
「着物の着付けって出来るか?俺、出来ないんだわ。出来るなら二人にしてやって欲しい。まあ知らないなら別にいいんだが」
まあ、どうせ知らないだろうな。
そう思いながら聞いてみると。
「出来るわよ?興味あったから一通り覚えているわ。浴衣に近いけど少し違うのよねあれ」
何てことなく話すアクア。
お、おお?ちょっと見直したぞ、伊達に容姿に拘ってないな。
「じゃあ出来上がったら頼むわ」
その後夕食を取りながら、希望の着物の色や帯の色を聞いていった。
「お、おおおっ!凄っ!」
花火大会当日の昼、俺は製作を頼んだ洋服屋に来てみた。
目の前にある着物は日本にいる頃に見たことのある高い着物と遜色ない様な色艶を放っている。
一つは黒をベースに金箔のようなもので笹模様を施してあり、帯が赤紫にしてあるめぐみん用。
もう一つは白を基調とし、その上に様々な色で花柄をあつらえており、帯も白で統一しているダクネス用。
最後の一つは淡い青地に銀箔のようなもので川を描かれていて、帯が紺のアクア用。
「流石に三日で作るのは骨が折れた。初めて作るもんだしな。こんな無茶な依頼は普通は断るんだ。だが、魔王を倒した英雄様の頼みとなれば話は別よ。時間と金と手間を全部注いでやった最高傑作だ。持ってけ!」
そう言ってくる店主に言われた金額を渡し、礼を言って立ち去り屋敷へと向かう。
「ただいま」
「「「お帰り!!」」」
屋敷に帰り玄関を開けると待ち切れなさそうな表情をしたアクア、めぐみん、ダクネスがいた。
「ねえ、私の着物はどうできてるの?女神が着るに相応しいのかしら!?」
「なあ、どんな感じかは分からないがアクアから話を聞いていたら、とても気になってしまってな。どうだ?凄いのか?」
「カズマ、早く見せてください!どんな感じか知りたいです!」
「落ち着けって。まず先に説明な。基本的にこれは汚すなよ?洗うのがとっても手間が掛かる。ちゃんと丁寧に扱うこと。しわになると取れにくいからな。それじゃあ居間に移動してから見せてやるから何か掛ける為のものを持ってきてくれ」
そういうとダクネスが走って二階に向かう。
めぐみんとアクアもそわそわしながら居間に移動していった。
それに続いて俺が居間に入ると同時に、
「持ってきたぞ!これで足りるか?」
ダクネスがクローゼットの中に入っていただろう棒を持ってきて設置している。
「十分だ。それじゃあお披露目だな。少し後ろ向いていてくれ」
三人は頷き後ろを向いた。
なんかここまで三人全員が乗り気なのは珍しいし、素直に言うこと聞いてくれるのは新鮮だな。
着物をかけおえる。
「こっち向いてもいいぞ?」
そう声をかけると一斉に振り向く。
その全員の顔が着物を見た瞬間に輝きだしていくのが見て取れた。
「「「凄い!」」」
そう言いながら自分用の着物に手をかけていく。
「そう、こういうのよ!水の女神アクア様を体現しているように仕上がっているじゃない!」
うん、流石にそれは言いすぎ。
その言葉を飲み込み、今日ぐらいはアクアには何も言うまいと抑える。
それに似合うだろう事は確かだし。
「なぁ、自分で花柄とは言ったもののこれは可愛すぎないか……?私には似合わないような……」
「何言っているんですか?それはダクネスが一番似合うでしょう!ふふ、私、この黒い着物大事にしますよ?とりあえず着てみましょう!アクア、お願いします!」
「任されたわ!ほらカズマは着替え終わるまで自分の部屋ででもゼル帝と遊んでいて!」
着替えると言い出され居間から放り出されてしまった。
仕方が無いので自室に戻りウィズの店に卸す商品を作っていた。
しばらくして部屋の扉がノックされる。
「終わったのか?」
こちらから声をかけてやるとめぐみんの声が返ってきた。
「はい、皆下で待ってますよ。少し早いけど行かないかとか、いやまだ使者がいるかもしれないからとか言い合ってますが」
「やれやれ、アクアの奴、ちゃんと夕暮れ時からと言って置いたというのに……」
そういい扉を開けた俺は固まった。
目の前には顔を赤くしながらぴらぴらと袖口を弄っているめぐみん。
に、似合うってレベルじゃない……!
「ど、どうですか、カズマ?に、似合ってますか?」
もじもじしながらそんな事を聞いてくる。
ちょ……!これは反則だろっ!
「あ、ああ。凄く」
俺はそっぽを向きながらそっけなくそんな事しか言えない。
だって無理でしょ!?
着物が似合うとかそういう次元ではなく仕草とか含めて、なんというかこう……!
そんな俺の様子を見ながら優しく微笑んでくるめぐみん。
「カズマ、早く行かないとアクアがやらかしますよ?」
おっと、そうだった、見惚れている場合ではない。
そのまま二人でアクア達が言い争っている場所に行った。
アクアを何とか説得し、夕刻になり屋敷を出発し街の外れに着く俺達。
結構な数の露天や屋台が出ており、人もかなり集まっている。
予定では花火が打ちあがるのは日が沈んでから二時間後ぐらい。
何でも祭りが佳境に入った頃から打ち上げるということだ。
花火を見るには近くの丘が良いらしい。
花火が打ちあがる頃にはその丘に集まるとして、それまで自由に行動しても良いという話にしたのだが……
「カズマ、凄いぞ!あのパフォーマーが持っている箱の中から鳩が沢山出てくる!どうなっているんだ!?」
「あんなものより凄いものを見せてあげるわ!ほら!こんなところから大量の鶏がっ!」
言いながら閉じたアクアの両手から鶏が大量に出てくる。
ほんとどうやってんだよ……というか向こうのパフォーマーが泣き顔だから止めてやれよ。
「カズマ、カズマ、あれ食べませんか?」
指してきたのはクレープみたいなもの。
「いいけど……」
そうしてめぐみんがクレープみたいなものを持ってきて俺に渡す。
…………………。
「あ、カズマ。あそこのネロイドのシャワシャワ買って来るわ。変わった味みたいなのよ」
ネロイドのシャワシャワは元から変わった味だろ。
「なあ、なんでお前らはこんなに俺と行動してるんだ?」
自由行動で別々に動くつもりだったのに、ここまで全員が一緒にいると意味が無い。
めぐみんと二人で周りたい気もあったが、そうでなくとも誰か一人だけならまあまだいい。
流石に全員となると周囲の目線が少し痛い。
というか、むしろ少し好意的なのが逆に刺さる。
さっきから、大英雄は違うな、とか、ハーレム野郎め羨ましいぜ、とか言われている。
めぐみんの件もあるから安易に否定できないところもあって、どうしようか本当に困る。
「何?こんないい女たちに囲まれちゃってカズマさん照れてるの?」
「……少なからずお前はいい女ではないから安心しろ」
「なんですって!」
掴みかかってこようとするアクア。
「あんまりそう動くとしわになるぞ」
「っ!?」
俺がそう告げるだけでパッと自分の着物を見てしわが無いか確認するアクア。
「なんだ、お前らに囲まれていると周りの視線が生温かくて居心地が悪いんだよ。移動もしにくいし。ダクネスやアクアはクリスでも探して誘えばいいし、めぐみんだってゆんゆんと見て周ってもいいだろ?」
「わ、私はこんな格好で一人で要るとら、ララティーナとからかわれるからっ……!」
「結構この格好って目立つので……その。カズマといればまあ大丈夫かな、と」
ダクネスとめぐみんはそんな事を言ってくる。
俺はアクアの言い分を聞こうと目を向けるとちらちら見てきていた。
……なんだ?
「私はその、カズマが何かやらかさないか心配だからよ!」
「一番やらかして俺に後始末してもらっている奴が何言ってやがる!」
こんなんだよ、もう……
「はぁ……しょうがねえなぁ……視線に関しては俺が我慢すればいいから、まあ許容するにして、少し離れろ。正直うっとおしい」
その言葉に少し離れる三人。
素直に聞いてくれてよかった。
「あ、カズマさん達ではありませんか!」
何処からかウィズの声が聞こえる。
「さあさあいらさいいらさい!お客様!ウィズ魔法具出張店!本日限定特別価格!殺虫スプレーに虫除けのポーション!どちらもお値段お一つポッキリ千エリス!虫の多いこの時期にお一ついかがか?」
人だかりの中バニルが売り込みをやっているのが見えた。
あそこか。
俺は三人が他の屋台に気を取られている内にささっとウィズの屋台に近づいた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!おや、誰かと思えばハーレム小僧ではないか。虫除けポーションお一ついかがかな?」
バニルが屋台風の服を身に着けていたが、もうこいつの服装には突っ込まないと決めている。
「なんかまともそうな商品だが欠点はないんだよな?」
「今回は我輩が仕入れたから安心するがいい。肌が露出するところに塗れば虫を追い払う」
「それじゃあ四人分」
「毎度ありー!」
バニルに四千エリスを渡す。
「バニルさん、バニルさん、少し周ってきてもいいですか?」
ウィズがこちらを見ながらそんな事を言ってくる。
「ウィズよ。貴様は我輩と今日一日一緒にいるのだ。そうでもしないとまたろくでもないものを仕入れるであろう?」
「ろくでもないって、酷いですバニルさん!ちゃんと魔力が篭った一級品を選んでいるつもりなのに!」
「フハハハハハハ!しかし祭りなどに出店するのもありだな!今後も定期的に出店しようぞ!」
ウィズは来れそうにも無いので、じゃあまたな、と伝えて三人の元へと戻る。
「何処行ってたのよ?」
「ウィズの店にちょっとな。ほら虫除けポーションだ。肌の露出しているところに塗っておけば虫が寄って来なくなるってさ。早めに塗るほうがいいぞ」
三人は虫除けポーションを渡すとそのままポーションを塗りつけていく。
「そろそろ時間みたいです。食べ物や飲み物も買いましたし、丘に移動しましょう?」
めぐみんの意見に従い丘に向かう。
既に何人か他の人が来ていたが、あまり人はいない様子だ。
「時間まだなのか?」
「いえ、場所をとって座ってみるにはこの位に来ませんと良い位置は取られてしまいますから。ダクネス、持ってきたシートひいて下さい」
そういうとダクネスは袖の中からシートを取り出しひいた。
そうしてその上に座り時間を待つ。
アクアが様々なカキ氷を食べたり芸を見せたり、ダクネスが激辛な物を頬を赤く染めながら食べていたり、めぐみんが買ってきた可愛いアイテムを見せてきたり……
そうしてある程度時間が過ぎた後ヒュー……と何かが上がる音が聞こえた。
その後心地よく響く音と共に夜空に光の花が咲いていく。
「ふふ、昼間魔法を使ってなければ上空に向けて爆裂魔法を放ちたかったですね」
「めぐみん、それはやめろ。傍迷惑だし大勢に謝りに行かなければならなくなる」
「冗談ですよ。でも本当に綺麗ですね」
「そうだな……私たちは本当に魔王を倒して全員無事に帰ってきて、それでまた前の様な生活をしている……夢のようだ」
そんなふうにしみじみと語るダクネス。
めぐみんもうっとりとしながら夜空を見上げていた。
「いいわね。……とっておきの宴会芸の一つ、見たいかしら?」
そんな事を聞いてくるアクア。
俺達は全員頷くとアクアがニコリと笑い、言ってくる。
「じゃあ見てなさい!一番右側花火の模様が途中から私の似顔絵に変わるわ!」
え……!?ちょ……!?
打ちあがる花火。
それに合わせてアクアが軽く手を動かし何かをしている。
花火が光り、花開く。
すると丸かった花火の火花が徐々にアクアの顔の形に近づいていく。
おおおおおおぉ……!
周囲からはそんな歓声が上がったが、大丈夫なのか……?
「ふふん、どうよ!もう主催者とは話しがついているからカズマは心配すること無いわ!存分に堪能しなさい!」
そんな事をいうアクア。
確かに宴会芸においてアクアの右に出るものは少なからずこの街にはいないだろうが……
次々ただ丸く広がるだけのはずの花火が様々なものに変えられていく。
ベルディア、デストロイヤー、キャベツ、エリス様、冬将軍……
正直圧巻物で言葉が出てこない。
それはこの花火を見ている誰もがそのようで、ただただ花火を見つめていた。
だからアクアが俺の顔を描いた時に反応が遅れたのだろう。
「は……?」
ハーレム野郎、と俺の似顔絵の上に文字が綴られていることに。
理解すること数秒。
「おい、アクア……何か俺に言うことはないか?」
「え、えっと、つい出来心で……あああああぁ!謝るからっ!私が悪かったから、そんな顔して何かしようとしないでぇ!」
おっと、顔に出ていたか。
俺の言葉に泣きついてくるアクア。
「なんだかんだ言っていつも通りですね」
「そうだな。いつも通りだな」
くすくすと笑うめぐみんとダクネス。
花火も一通り終わり、俺達は屋敷に向かって帰っている。
アクアがまたチラチラ見てきている。
「アクア、言いたいことあるなら言えよ」
「もうバカな事口走らない?」
バカな事って何だ?
「バカな事口走ってるのはお前のほうだろ?」
ぎりっと歯を食いしばるアクア。
何が気に食わないんだ?
「しかし、カズマ、お前は大分この街で人気が出ているようだな」
「魔王を倒したとなればそうですよ。寄り付く女の方もいましたし」
そのセリフを受けてふと軽い冗談を言ってみたくなった。
玄関の扉に手をかけながら、
「そうみたいだな。よーし、パパ、ハーレム作っちゃうぞー!ぐはっ?!」
言った瞬簡にアクアに殴られて吹っ飛ばされた。
「こんなクズニートと一緒に暮らしてたら身の安全が心配だわ!めぐみん、ダクネス!起き上がらないうちにさっさと入って!」
「お前と言う奴はまともになったかと思えば……しばらく反省していろ!」
地面に倒れたまま、アクアとダクネスに罵声を浴びせられる。
そのまま屋敷に入ろうとするめぐみんの方をちらりと見たが、物凄い冷たい、ゴミを見るような視線を向けられた。
ちょ、軽い冗談のつもりだったんだけど!?
「冗談でもいってはいけないことはあります」
そうぼそりと呟かれ玄関に鍵をかけられた。
……あ。
また屋敷を追い出されてしまった。
順調に投稿させて頂いております、双碧という者です。忘年会とか新年とかそんな子は知らないなー、なんて思いながら書き上げた此方の内容ですが、お楽しみいただけたでしょうか?ちょくちょく活動報告も書いていこうかなーなんて考えていたところ、なんとお気に入りに登録して頂いた方の人数が100名に達しました!ご覧いただいた方全員に、本当に感謝感激雨霰です!スローペースな投稿ですが、今後も守護霊の様にそっと優しく力強く見守って頂けると幸いです!