「それではそろそろ行きますね」
旅行用の荷物をまとめためぐみんの母、ゆいゆいさんが屋敷の前で皆にそう告げる。
隣には同様にめぐみんの父、ひょいざぶろーさんが立っている。
なんでも二人で一週間ほど旅行でもしてくるようだ。
危険が伴うためこめっこを預けに来たそうな。
「うむ、お二人ともゆっくり旅を楽しんできてくれ」
そう二人に返すダクネス。
「ほら、こめっこ。ちゃんと父と母を見送りましょう」
めぐみんもこめっこを脇に立たせて見送らせている。
「では、しばらくの間よろしくお願いしますね」
ゆいゆいさんはそう言いながらもう一度礼をしてきた。
「こめっこちゃん、お姉ちゃんが遊んであげるわ!ダクネス手伝って!」
アクアはこめっこの手を引きダクネスと共に庭のほうに歩いていった。
「ゆいゆいさん、ひょいざぶろーさん、ちゃんと大切にお預かりしますので」
「はい、今後も娘のことをよろしくお願いしますね」
ゆいゆいさんは俺の顔を見ながら、やけにいい笑顔で伝えてきた。
……ん?何故俺にだけ?というか今後も?
脇でひょいざぶろーさんが複雑な表情を浮かべ、めぐみんは顔を真っ赤にしている。
まあ、いいか。
「はい、分かっていますよ」
「カ、カズマ!?あなたも今それを言いますか!?」
めぐみんが驚いたように聞いてくる。
……?
どういうことだ?
分からなかったので、小声でめぐみんに話しかける。
「えっと、こめっこの話だろ?」
「はあ、会話が噛み合ってなかったのですね……。我が母ゆいゆいが言っているのは私のことですよ?」
「え!?……まあ、どうせ早いか遅いかの違いだし、勘違いでも何でもいいだろ、もう」
言ってしまったことは変わらないし、いずれ言わなければならない内容だったわけだ。
アクア達が居なかったおかげで聞かれずに済んだし、むしろ変に気を張らず言えた分よしとしよう。
そんな風に自分に言い聞かせていると、
「頼りにしていますよ、カズマさん」
めぐみんのご両親はそう告げ屋敷から発って行った。
俺は秋らしくなってきた空の下、こめっことめぐみんと共に街を散歩している。
「おにいちゃん、あれ美味しそうだよ!」
「どれだい?……あれかな?お兄ちゃんが買ってきてあげよう」
こめっこが指した果物の盛り合わせを買おうと財布を取り出す。
「カズマだめです。さっきから何回買い与えているんですか。こめっこが夕飯入らなくなりますから、今日はもう買わないでください。こめっこもカズマにそういうこと言わないこと!」
その言葉を受け仕方なく俺は財布を懐にしまいなおす。
「おやつ……」
残念そうにしているこめっこ。
……………。
「よし、夕飯の後に食べれるように買って置いてあげよう!」
「ほんと!?」
「う、それなら構いませんが……カズマ、こめっこに甘くありませんか?」
めぐみんの言葉を聞き流し、果物の盛り合わせを買ってきた。
「昨日や一昨日だって結構甘やかしてましたし……」
ぼそぼそといっている傍らで、
「六粒までな。あとは夕飯のあとだからな」
「うん」
俺は籠の中からブドウの実をいくつか取りこめっこにあげていた。
「言ってるそばから約束とは違うではありませんか!?その果物は私が預かります!」
「おねーちゃんひどい!おねーちゃんひどい!」
こめっこはめぐみんにまとわりついて籠へ手を伸ばしている。
そんな風にしながら屋敷へと戻っていくと、
「あ、めぐみん!それにカズマさんにこめっこちゃんも。何処行っていたんですか?」
「少し散歩ですよ。それよりどうしたんです?こんな入り口のところで」
「え……えっと……その、あ……遊びに……来たの」
小さな声でもじもじと俯きながらチラチラめぐみんを見ているゆんゆん。
「そうですか。ちょっとこめっこの相手で忙しいので後にしてください」
「え!?…………あ……うん……」
ゆんゆんはめぐみんに無下に断られ、しょんぼりしながら立ち去ろうとしていた。
「ゆんゆん、寄ってっても大丈夫だぞ?めぐみんもそろそろゆんゆんをからかうのを止めてやれよ」
「嫌ですよ。楽しいですし」
その言葉を聞き、涙目でゆんゆんがめぐみんに突っかかる。
「ねえ、めぐみん、からかってたの!?友達じゃ、親友じゃなかったの!?」
「友達ですよ?友達でしたらこれぐらいは冗談だって分からないとダメですよ」
「え!?これ、分からなかった私が悪いの!?」
「やー久しぶり!魔王討伐おめでとう!ちょっとダクネスと話しに上がらせてもらってたよ!」
居間に入るとダクネスとクリスが話をしていた。
めぐみんたちがそれぞれ挨拶を交わし近くのソファーに座る。
「そういえばアクアは?」
俺が聞いたと同時に、
「ただいまー!あ、カズマ帰ってたのね!こめっこちゃん、お姉ちゃんが面白いもの見せてあげるからこっちおいで!めぐみんは休んでいていいからね!」
「青髪のお姉ちゃん、今度は何見せてくれるの?」
背後からアクアの声がし、パタパタとこめっこが駆けていく。
そのまま二人は二階に向かっていった。
「かなり仲いいよな、あの二人」
「……ん、アクアの芸は大人でも驚きだからな。子供なら大喜びだろう」
「お前も大喜びだっただろ」
俺が指摘すると咳払いし誤魔化すダクネス。
「先日の花火大会の花火もアクアさんがしたんですよね?」
「あー!あれは圧巻だったよね!いやー忙しくて少ししか見れなかったけどさ!」
「まさかとっておきの芸と言いながら花火の形を変えに行くとは思いませんでしたよ。ただ空に向かって手を動かしていただけというのに」
先日の花火大会の話題になり話に花を咲かせていく。
「そういえば、ゆんゆんとめぐみんは最近二人でどっかいったりしてないよな?」
最近は朝早くに起こされ、めぐみんの爆裂散歩に付き合うのが日課になり始めている。
最初の一回だけめぐみんにマナタイトを貰い同時に放ったこともあったが、まあそれは置いておいて。
分からない場所に撃たれるよりはましだが……
「ええ、ゆんゆんが駄々をこねるので止めました」
「めぐみん!?違うんです!ただ無くなったから……!」
……?
無くなった?
「それよりさーダクネス、ちょっと前まであんまり街の中で見かけなかったけど、どうしたの?」
俺の疑問はクリスにより遮られた。
「ああ、国から見合いの話が沢山舞い込んでな。今はもう諦めてくれたらしく殆ど音沙汰も無い。手紙でもなるべく国のほうでも他の貴族にお断りの旨を伝えておくと書かれていた」
「それで最近機嫌が良かったのか」
こいつは本当に自分のことは自ら喋らないな。
ダクネスは紅茶を啜りながらクリスに目を向ける。
「クリスの方こそ全くと言っていいほど見かけなかったが……」
「いやー、ちょっと厄介な上に面倒で時間のかかる仕事押し付けられちゃって……まったくもう、苦労したんだよ?」
俺のほう見ながら言われても……まだあのことを根に持ってるのか。
俺は苦笑いしながら立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ夕飯作ってくるから。七人分だな?」
「いや、今日はまだやることが残ってるからそろそろ行かなきゃなくてね!だからキミ、六人分で大丈夫だよ!」
快活に笑いながら居間の入り口に移動していく。
「じゃあ、ダクネスしっかりね!めぐみん、ゆんゆん元気でね!キミはあんまり変なことしないでね!」
「へ、変なことってなんだよ!」
出て行こうとするクリスにそう返す。
「……ん。クリス、好きな時に来てくれ。今日は助かった。ありがとう」
ダクネスはクリスを見送るためにか、歩み寄っていく。
と思ったらまじまじとその顔を至近距離で見だした。
「え、ダクネス……?何かな……?顔が近いよ……」
「クリス……実はエリス様に会ったのだが……」
「へえ……それは凄いね……!でも、この距離で言うことじゃないんじゃないかな!?」
クリスが目をダクネスから逸らしながら慌てたようにしている。
「……クリス、正直に言ってくれ。エリス様か?」
「ちちち、違うよ!?……というかそろそろ時間がないっ!ごめん、それじゃあ!皆元気で!いってみよう!」
焦っていたのかとても雑な返しで居間から走り去っていく。
……こりゃダクネスにばれるのも時間の問題だな。
「……なあ、カズマ。反応までエリス様と似ていたんだが、実際どうなんだ?」
「さーて、夕飯でも作ってくるかな!」
俺はエリス様のためを思い、すっとぼけて台所へと向かった。
料理をしていると途中から二階が騒がしくなってきた。
アクアの奴、また何かしたのか?
「カズマ、ちょっと二階を見てきてもらってもいいですか?ダクネスに行かせたのですが、カズマを呼んできてくれと……料理は私が引き継ぎますので」
「いいけど……なんなんだ?」
「さあ……?ダクネスが顔を真っ青にしながら降りてきて、何も話してくれませんでしたので……とりあえずお願いします」
俺はめぐみんに言われたとおり二階に向かった。
騒がしい声はアクアの部屋からしている。
「うるさいぞ!めいわ……」
扉を開けると絶句する。
何故かバニルが居る。
それも片腕がない。
まあそれはこめっこが喚んだのだろう、それはいい。
いや、良くないが。
えっと、状況を要約すると、
こめっこがアクアを半泣きで思い切り揺さぶり、アクアがおろおろし、バニルがこめっこを止めようと必死になだめてる。
どうしてこうなった。
「やや、芸人女神の飼い主ではないか!とりあえず何も聞かずに、我輩の主たるこの幼女を止めてはくれぬか?」
「なんでげいにんのおねーちゃんはっ、わたしのつかいまに痛いことしたの!?なんで!?」
「あああっ!?こめっこちゃん!?とりあえず落ち着いて頂戴!?とんでも悪魔なのよ、そいつは!?」
……どう止めろと?
アクアの部屋でバニルとアクアを正座させている。
バニルはこめっこに何か言ってから腕を生やしていた。
こめっこには少しお菓子を与えて大人しくしてもらった。
餌付けじゃないかって?
ならどうやって止めるよ、あれを。
「で、どういうことだ?」
「「こいつが……」」
バニルとアクアが同時に指を指しあう。
「まずはアクア」
「カズマ、聞いてよ!私がこめっこに芸を見せてたら、突然この非道悪魔が私の部屋に現れたのよ!こめっこから何か受け取って食べてたわ!これはこめっこに対して何かやらかすんじゃないかと思って、先制でセイクリッド・エクソシズムで浄化してしまおうとしたのよ!そしたら……!」
うん、よく分からん。
「バニル」
「フハハハハ、ろくに何も知らずに好き勝手並べる無知女神め!この女神はな、我輩の主が召喚をして我輩を喚び、契約としてブドウを一粒口にした我輩に不意打ちで魔法を放ってきたのだ。長らく相手をしている故、その程度避けるに造作も無いのだが、契約故に能力が封じられ、腕が一つ消し飛ばされたのだ。さて、どのように反撃してくれようかと思ったところに……!」
うん、やはり分からん。
「こめっこ、どっちが正しい?」
「わがつかいまバニルがただしいです」
こめっこはお菓子をほおばりながら答える。
その言葉を聞き悔しそうにするアクアと、勝ち誇るように高笑いをするバニル。
「ちなみに一応こめっこの話も聞いていいかな?」
「うん。青髪のおねーちゃんの芸がすごかったので、バニルにそれよりすごいものやってもらおうと喚びました。もらったブドウをいけにえに契約をしました。そしたらげいにんのおねーちゃんがいきなり魔法を使って、わたしのつかいまに攻撃しました。バニルの腕がなくなっちゃったのでおねーちゃんを怒ってました」
なにこれ、めっちゃ分かりやすい。
流石は紅魔族というか知能が高いからだろうか。
「よし、とりあえずバニルが白、アクアが真っ黒だってことは分かった」
さぁーっと顔色を青くするアクア。
「フハハハハハ!日頃の行いの良さの勝利であるな!」
「人の悪感情食い散らかしてる悪魔が何を言っているのよ!」
「……アクア」
「……はい、ごめんなさい」
俺が強めに名前を呼ぶと、こめっこに向かって謝るアクア。
こめっこはもう気にしていないのかこちらを見てきている。
「どうした?」
「今日、夕飯はおにいちゃんがつくるはずです。できてますか?」
どうやら食欲が勝ったらしい。
「この二人が騒いでたから、お姉ちゃんに代わってもらったんだよ。たぶんもう出来てるんじゃないかな。行こうか?」
「うん。バニルも一緒に!」
「主よ、我輩とて暇ではないのだ。それに我輩は悪魔ゆえ食べなくても平気であると何度も言ったではないか」
「わがつかいま、バニルにめいず。一緒にごはんをたべて、それからすごい芸を一つ見せてください」
こめっこはバニルの話を聞かず命令を下したらしい。
今夜の食卓にはバニルも同席した。
「こめっこ……またですか……」
食卓にて呆れながらバニルをみるめぐみん。
「私のつかいまです。バニルはすごいんです」
こめっこを除く全員が微妙な表情で食事をほおばっていた。
「……この悪魔がいると食事が進まないな」
ダクネスがぼそりと呟く。
「我輩とて、このような微妙な悪感情では満たされぬわ」
その言葉に反応してか口元を不満そうに歪めながらバニルが言い返す。
「能力の使用が封じられるってのは見通す力もか?」
「いかにも。それ故今は何も見えぬのだ。それに早く戻らねばまた、赤字を出すことでは天賦の才のあるウィズがガラクタを……」
言いながらバニルは頭を抱えている。
苦労してるな、こいつも……
なんというか、バニルに弱点が生じたように思える。
「バニルさん、今度何か買いに行きますか?」
ゆんゆんが気を使ってかそんなことを言う。
「今度と言わず、今ではダメか?恥ずかしがりやの貴様にうってつけのポンコツ……いや素晴らしい商品を持っているのだ」
「今、ポンコツって言いませんでした?!」
バニルはゆんゆんが聞いてくるのを無視し、懐からポーションを取り出し続ける。
「このポーションは飲むと羞恥の感情を完全に消し去ってくれるというものである。その上に意気揚々とさせ勇敢にさせる効果もある。強敵に相対する時、何かしなければならない時に飲むのをオススメしたい一品であるな」
……悪くないんじゃないか?
「えっと、それなら……」
ゆんゆんが財布からお金を出そうとしている。
「ゆんゆん、少し待て。欠点はなんだ?」
ダクネスがゆんゆんを止めてバニルに聞く。
バニルがため息を吐きながら説明し始める。
「効力が強すぎて、人として残さねばならない羞恥も消し去り、本能的に逃げねばならぬ時も突っ込んで行くようになる。要は今聞いてきた変態な不器用娘が漆黒の鎧を着ており、モンスターと対峙している状態と同じ様になる。面白店主たるウィズが、友人が出来ても自ら声をなかなかかけられぬ娘のために仕入れたという前衛的な商品である。お一つどうだ?」
こりゃいらないわ。
「根も葉もなく私を貶める気か!そんなことは……!そんな……ことは……」
バッと席から立ち上がりダクネスはバニルに対し怒り出したが、自覚はあるのかだんだん尻すぼみになっていき、そのまま座りなおす。
ゆんゆんも表情を引きつらせ、財布をしまいなおしていた。
「うむ、悪感情大変美味である」
満足そうに席に座りなおすバニル。
ぶれないな、こいつ。
「そういえばさっきからアクアは喋っておりませんが、どうしたのですか?」
めぐみんはアクアの方を見て、首を傾げる。
当のアクアは無言で俯きながら黙々と料理を口に運んでいる。
「それは、こめっこに怒られてショック受けてるだけだから、そっとして置いてやってくれ」
普段よりも騒がしく食事が進み、バニルはこめっこに脱皮を見せて、そのまま帰っていった。
ゆんゆんはクリスが使っていた部屋に泊まるよう薦められ、「お泊り……!お泊りかあ……」と呟いていた。
今、俺はソファーでゆっくり寛いでいる。
「こめっこ、一緒にお風呂入りますよ!だから逃げないでください!」
「おねえちゃんいじわるだからいや!果物返してくれなかった!」
現状、こめっこを風呂に入れようとしているめぐみんが、こめっこから逃げられている。
「めぐみん、私に任せなさい!こめっこちゃん、じゃあ私と入りましょう!」
料理を食べて機嫌が元に戻ったのだろうか。
アクアがずいと前に出てこめっこの目の前で両手を広げるが、
「バニルに攻撃したから、ダメ!」
するっとかわされ、通り過ぎられる。
「仕方ありません!ゆんゆん!こめっこを頼みます!」
「え!?何!?どういうこと!?」
急に振られたゆんゆんは状況が分からないようだ。
「お風呂の話です!こめっこを入れてください!」
「えっ、あ、うん!こめっこちゃん!私と一緒に入りましょう?」
ゆんゆんは優しく微笑みながらこめっこに話しかけるが、
「ゆんゆんはゆんゆんなのでいやです」
「!?」
その発言で涙目のまま固まる。
「私は私だから嫌って……」
大分心に刺さったみたいだ。
そのままこめっこは今ちょうど風呂から上がって居間に入ってきたダクネスのところまで行き、
「金髪のおねえちゃん、お風呂一緒に入ろう?」
ダクネスは驚き、こちらの様子を見た後、
「ちょうど入ってきたところだが……、分かった。こめっこ、入ろうか」
「やった!」
そのままUターンして風呂場へと向かっていく。
「「「………」」」
こめっこに断られた三人は呆然とその様子を見ていた。
風呂から上がってもしばらく皆でリビングで話をしていた。
めぐみんがこめっこを寝かせに行ったりしたが。
アクアは既に酔って寝ている。
「めぐみんも何やってたのよ?!結局私が色々しなきゃいけなくなったんだからね!?」
「そうですか……ゆんゆん、そろそろ眠くなってきたので、続きは私の部屋で話しましょうか。ダクネス、カズマそれじゃあおやすみなさい」
そうしてめぐみんが立ち上がり二階へと歩いていく。
その後を慌てて追いかけるゆんゆん。
……あの二人も結局仲がいいよな
「さて、ダクネス、そろそろ俺らも寝るか?」
俺は立ち上がりダクネスに尋ねる。
「いや、少し話があるのだが、ちょっと外を散歩しないか?」
「今夜も月が綺麗だな……」
空を見上げ、歩きながら呟くダクネス。
夜空には満月に近い月が浮かんでいて、街を照らしていた。
今はちょうど屋敷と街の間の人が少ないあたりを散歩している。
「で、ダクネス。話って?」
「そうだな……もうカズマはめぐみんと付き合っているのか?」
さらりとそう聞いてきた。
突然聞かれ戸惑いながらも言葉を紡ぐ。
「どうして、そう思った?いつから……?」
「いや……王都から帰ってきたあたりから変だとは思っていた。今晩風呂場でこめっこが、『おにいちゃんいいよね。っていったら、おねーちゃんがお兄ちゃんはそろそろ本当にお兄ちゃんになりますよって言ってた』と言ってな。でもそうか……私ではなくやはりめぐみんを選んだか……」
俺の質問の言葉はダクネスにとって十分な回答になったようだった。
ダクネスは唯、空を見上げ月を見ている。
「なんとお前は言ったんだ?」
静かに、唯静かにそう聞いてくるダクネス。
その横顔からは何かを堪えている様な、しかし少しすっきりしたような印象を受ける。
「……俺から改めて告白したんだ。めぐみんに。帰ってきた夜に俺からめぐみんの部屋に行って。どんな所が好きかなんていわれてな。口からは自然に出てきて……」
「そうか……あの時から……」
半分くらい回答になっていないような俺の言葉を聞き、無言になる。
俺がどう反応していいか窮していると、ポツリとダクネスが呟く。
「私は出て行くよ」
「え?」
俺はダクネスが何を言っているか分からず聞き返した。
いや、聞こえてはいたが、理解したくなかったのか。
「……私は屋敷を出て行くよ。めぐみんとお前の邪魔はしたくない。……私はどうやら思った以上に執念深いらしい。今からでもカズマ、めぐみんからお前を奪ってやりたいと思うぐらい……それに、私が実家に戻れば、父に任せきっていた領主としての仕事もある。たまに皆で遊びに来てくれればそれでいい…」
ダクネスはそんな風に優しく穏やかに笑いながらそう告げてくる。
しかしその両目からは涙が零れ、身体は自らの感情のためか小刻みに震えている。
俺はダクネスの言った様子を思い浮かべ、即座に頭を振る。
これを言えばダクネスを傷つけるだけでは済まないかもしれない。
でも、
「出て行かなくていい」
口から出る言葉を止めることは出来なかった。
「え?」
ダクネスはその顔に疑問と不安を浮かべる。
「出て行かなくていいと言ったんだ。お前の気持ちの問題だから無理強いするつもりはない。ただ、俺は少なからずダクネスにはこのまま居て欲しいと思っている」
その言葉を受けくしゃっと表情を歪めるダクネス。
「だが……言っただろう?私はそこまで割り切れない。居ると迷惑をかけるぞ?めぐみんにも悪いし……」
「あのなぁ……迷惑なんて今更だろ?めぐみんだって前の様な感じに皆で面白く生活したいって言ってるんだ。もし出て行って戻ってこないつもりなら、めぐみんがダクネスを連れ戻すために領主邸に爆裂魔法を叩き込みに行くかも知れないぞ?」
「それは困るな……」
ダクネスはその様子を想像したのか口元を少し緩める。
「アクアだってお前が居なきゃ怖がってクエストも受けてくれなくなるだろうしさ、お前ほど固い盾役なんてこの世にそうそう居るもんじゃない。クリスだってそんなこと望んでないんじゃないのか?」
「そうなんだろうな……だが、私は今、内心、以前のハーレム発言が本当ならどれだけよかったかと思うような女だぞ?」
「お前は最初からそんな感じだったから驚かねーよ。第一俺がそんなことする度胸が無いことぐらい分かってただろうに」
「ふふっ、そうだな……なあ、なんで私じゃダメだったのか、答えてはくれないか?それが聞ければ少しは、いれるかもしれない」
そう言い真っ直ぐとこちらを見てくる。
俺はそれに応えるべく口を開く。
「めぐみんが異性として誰よりも好きだから。別にダクネスが悪かったわけじゃない。正直なところ、お前のことも好きにはなっていた。でも、前に言ったとおり変わらなかったんだよ、お前と付き合えないってのは」
「……分かった。ありがとう。先に、戻っていてはくれないか?少し一人になりたい」
ダクネスはその場に立ち止まり、無理したように笑い懇願してくる。
俺はあまり遅くまで出てるなよと告げ、その場から足早に立ち去る。
少し心配になって振り替えり、遠視スキルで様子を見た。
ダクネスは立ち尽くしたまま、空を見上げたまま、声も無く泣いていた。
俺が玄関の扉を開けると、目の前にめぐみんが居た。
「どうしたんです?こんな夜遅くに出て行ったりして。泣きそうな顔していますが大丈夫ですか?ダクネスは?」
「ダクネスは少し一人になりたいってさ。そのうち戻ってくるよ」
その一言で大体理解してくれたようだ。
「ありがとう、カズマ。嫌な役回りさせてしまいましたね……」
「いや、これは俺が言うべきだったから……」
居間に移動しながら話した事を伝えていく。
「ちゃんと、戻ってきてくれるでしょうか……」
不安そうにソファーに座るめぐみん。
「あいつ次第だからな……寝なくてもいいのか?」
「寝れませんよ、こんな状態で」
不貞腐れたように呟いている。
「起こしたのは悪かったよ。何か飲むか?」
「紅茶をおねがいします」
「わかったよ」
俺は台所からポットとカップを持ってきて紅茶を淹れる。
「……カズマ」
「ん?」
めぐみんが紅茶のカップを両手で持ち、口元に当てて上目遣いで名前を呼んだ。
「もし、私が後に告白していたら、ダクネスと付き合っていたのですか……?」
不安そうな目で見てくるめぐみん。
「いや……どうだろうな。状況に依るだろうからなんとも……」
そうは言ったものの、可能性は捨てきれない。
いや、高い確率でめぐみんが言ったとおりになっていたかもしれないな。
「ふふ、カズマらしいですね。最近は顔を見ていれば大体考えてることが分かります」
ほう、試してやろうじゃないか。
「いいですよ。受けてたちます。ふふん、いきなり驚きましたか?」
「驚くわ。どうなってるんだ?魔法でも使ってるのか?」
「私が爆裂魔法しか使わないことを知ってるではありませんか」
楽しいものを見るように笑うめぐみん。
これなら……!
「あ、こめっこが居る間はお預けですよ?」
まじか……
「残念そうにしてもだめです」
紅茶を啜り、つんと返してくる。
前封印したあの服の仕組みを学んで、応用させてめぐみんに……
「内容は分かりませんが、何かやるつもりならこちらにも考えがありますよ?」
…………。
「……お手上げだ。何処まで分かるんだよ、怖いんだけど」
めぐみんは口元を綻ばせながら、
「愛してればこれぐらいにはなりますよ?」
そんな事を言って……。
そんなこと……。
……え!?
「お、お、おまっ、お前、恥ずかしげもなく何を唐突にっ!?」
俺の反応を楽しむかのように頬を染めながら見てくる。
「結婚、するんですよね?」
「そりゃしたいし……そのつもりだけど……その……」
「私と凄い事をした上に、私の両親にも挨拶しておいて何を今更躊躇うんです?それとも……私とは遊ぶためにそこまで嘘をついたんですか?」
めぐみんがしおらしく聞いてくる。
「んなっ?!遊びなわけねーだろ!俺を見くびるなよ!誰かにそこまでするほど俺は鬼畜でもクズでもねーよ!自分が好きな相手なら尚更だろーが!俺だってめぐみんのこと、その、愛してるから」
恥ずかしくなり最後のほうはそっぽを向きながら伝えてしまう。
「みたいですよ?」
めぐみんがとても穏やかな表情でそう言って……え?
めぐみんが見つめる先を追っていくと、そこには顔を真っ赤にしたダクネスが立っていた。
えっと、つまりこれは。
全部聞かれましたね。
顔の温度が一気に上がっていくのを感じる。
「ダクネス、もうカズマは私と深い関係になっています。確かに私は前のような生活が良いとは思いますが、もうあまりアプローチしないでください。それに私はこの男がどんなに変わっても愛せる自信がありますから」
その発言を受けてかダクネスの表情から硬さが抜けて、いつもの穏やかな自信に溢れている様子に変わっていく。
「ここまで完膚無きまでにされたら、諦めるしかないだろう……。おめでとう、めぐみん。幸せになってくれ」
ダクネスは少し寂しそうにしながらも、めぐみんに祝福の言葉をかける。
「ダクネスは何を言っているんですか?」
「「えっ?」」
めぐみんの言葉の真意が分からず素っ頓狂な声を上げる俺達。
「私は皆で前のように面白おかしく生活したいのですよ?幸せになってくれ、ではまるで人事ではありませんか。それにどれだけ一緒にいたと思っているんです?そんな風に簡単に出ていこうなんて甘い考えは許しませんからね」
ちらりとダクネスを見ると驚いたようにめぐみんを凝視している。
「めぐみん……」
「カズマ、ダクネスと二人きりで話がしたいので外してもらっていいですか?遅いですしそろそろ寝れるなら寝たほうがいいですよ」
「ああ、ダクネスを頼んだ」
俺はそのまま自室に向かいベッドの上で横になる。
この中で最年少なはずのめぐみんが一番大人びてるんだもんな……
仲間との関係も、俺との関係も大事にして。
そんな事を考えながら眠りについた。
「カズマ、起きてください」
ん……?
めぐみんの声が聞こえたような……
「カズマ、起きてください」
布団越しに感じる揺らされる感覚と優しい声。
少し目を開くと辺りはまだ暗い。
そして至近距離にめぐみんの顔が。
とりあえず軽く上体を起こした。
「どうした……爆裂散歩か…?今日は何処まで行くつもりなんだよ……」
「いえ、違います……その……少し話を聞いて欲しくて……」
めぐみんは申し訳なさそうに、それでいて不安そうにお願いして来た。
ベッドに座るように促しながら、尋ねる。
「どうかしたのか?」
「ダクネスとの話です。……こうなることは分かっていたんです……カズマと付き合えばこうなるとは……私は誰かにカズマを譲る気はありませんから。でも……相手はダクネスです。大切な仲間で、親友の一人です……」
めぐみんがぽつりぽつりと呟いていく言葉。
それは罪悪感から来るものなのか、仲間に対しての哀しみからくるものなのか。
俺は背を向けたまま紡がれるめぐみんの独白をただ、無言で聞いていた。
何処までも仲間思いで、頭の回るめぐみんはずっと考えていたのだろう。
気付けば俺は後ろからめぐみんを抱きしめていた。
「カズマ……?」
めぐみんは驚いた為か振り返り、その顔には涙が流れていた。
どうしてこうも短いスパンで女性の涙なんか見るものなんだろうか……
かける言葉など持ち合わせてはいないっていうのに。
めぐみんはそのまま触れるぐらいの口付けをしてきた。
「……そこまで期待してませんでしたけど、カズマはたまにして欲しいことを的確にしてくれますよね」
口元を緩め安心したように笑う。
「殆どは期待外れってか?いいから続き話せよ」
「ふふ、はい……」
そうして外が白く明るみを増してくる頃までこのまま話を聞き続けた。
「……大分落ち着きました。ありがとうございます」
めぐみんの目は大分赤いものの、その表情は穏やかであり、曇っていない。
「もう朝が近いし、もう爆裂散歩行っちゃおうか?」
俺が着替えながらそう聞く。
「いいですけど、撃った後多分寝ちゃいますがそれでもいいですか?」
「構わないさ。抵抗もされず色々触れるわけだし」
「そんなことしてみてください。ただじゃ済みませんよ?」
そんなふうに冗談も交わせるぐらいには調子も戻っているようだ。
ふう……まったく荷が重いんだよ。
思いながらも内心ほっとしてるんだから不思議だよな……。
「ダクネスとは結局どうなったんだ?」
「それは少し心配ですが……それよりも。それじゃあ行きましょうか。誰も起きてこない内に済ませてしまいましょう!」
俺達が部屋から出ようと扉を開けると。
「うわっ!?」
「「………」」
ダクネスが目の前で盛大にずっこけていた。
いや、そうじゃない。
「「ダクネス、何でいる」んですか」
俺とめぐみんの視線が突き刺さる。
「い、いや!めぐみんが私と話した後しょんぼりしていて、心配で付いていくとカズマの部屋に入って、気になって夜通し話を聞いてたとか、そういうんじゃないぞ!」
……真っ黒だ、こいつ。
めぐみんの顔を見ると瞳が爛々と輝いている。
そりゃそうだよなぁ……
心痛ませてたというのに、すぐにこんなことされちゃなあ。
「カズマ、先程の言葉、撤回させてください」
「先程どころか、夜通し語ってた内容全部でもいいぞ」
ダクネスが、ひ、と息を呑み、そのまま正座する。
「ダクネス、私はダクネスに対して本気で怒ったことありませんよね?」
こめかみをひくつかせながらダクネスに近づいていくめぐみん。
「カズマ、支援魔法おねがいします」
「お、おう」
めぐみんの身体が白く光る。
「め、めぐみん、落ち着いてくれ……!ひた!ひたいひたい!ほほにひっはっていふんは!?」
めぐみんは無言でダクネスの頬を引っ張り何処かへと連れて行く。
その後、ダクネスはふりふりふわふわのとてつもなく可愛らしい服を、めぐみんによって着せられたまま屋敷の外に放り出され、一日中屋敷に入れてもらえなかった。
当然ダクネスは引きこもり、めぐみんの両親が帰ってくるまで部屋から出てこなくなった。
第六話を投稿させて頂きました、双碧という者です。年の暮れも近づき、色々と月名が如く動かなければならない今日この頃、合間を縫って書きました内容ですがお楽しみ頂けたでしょうか。毎度スローペースな投稿ですが、多くの方に閲覧して頂き、ありがとうございます!
活動報告の方で記載させていただいていましたが、近日中に唯一要望があった2の番外編をお試しで投稿させて頂こうかと思います。インフルエンザがちょくちょく出始めてきましたが、ご覧いただいている皆様も風邪などにお気をつけて年の瀬をお過ごしください。