眠りながらもアンチ俺派の敵襲を警戒していたが予想に反してそんな事は無かった。どうやら不満があっても抑え込めるだけの精神力を持ち合わせているらしい。警戒していたとはいえ十分な睡眠を取ることができたので身体のコンディションは好調。この時ばかりはミラのカリスマに感謝した。
そして〝ブルク〟から離れた草原まで移動する。一昨日に発生したばかりの異界の入り口の前には30人程の人が集まっていて情報交換や武器の手入れなど思い思いの時間を過ごしていた。
その中にはドゴールとクリスの姿もあり、クリスは身振り手振りをしながら話しかけているがドゴールは少女の姿をした召喚魔のお腹に顔を埋める様にして抱きついている。どうやら昨日の闇をまだ引きずっている様だ。そんなんで大丈夫かと思うかもしれないが、闇を抱えていたとしてもドゴールは一流のサマナーなのだ。その時が来れば切り替えてしっかりと働いてくれるはずだ。
「おい、お前」
声を掛けられたので銃を整備する手を止めて振り向けば、そこには真司が使役していた召喚魔のフェンリルの姿があった。昨夜と同じで露出が多い格好なので周囲のサマナーから色欲混じりの視線を向けられているが本人はそれを気にしていない様に見える。
そういったことに無頓着なのか、それとも意中の相手がいるので気にしていないのか。
「なんだ?こっちは間引きの準備してるんだけど」
「お前、シンジの知り合いみたいだけど舐めた真似するなよ?シンジは優しいからお前みたいな奴を気にかけてるだけで、本当ならお前なんて昨日のあれで死んでるんだからよ」
胸元を掴まれて顔を近づけられるがその口から出て来たのは脅迫まがいの言葉だった。どうやら彼女は俺と真司の関係が気に入らない様だ。それを真司に言うのは躊躇われたので代わりに俺に言ったのだろう。
その姿を見て反応に困る。俺からすれば間違い無く悪意しか感じられない言葉と態度なのだが、フェンリルからすればそれは真司を思って口にした善意なのだ。通常ならば幾らか煽って怒りを爆発させてからサマナーにチクるのだが、今は異界の間引きの直前。何が起こるのか分からない異界への突入を前にして和を乱す様な事はしたく無い。
「
さてどうしたものかと考えているとリーエルがいつも通りの姿で現れて俺の胸元を掴んでいるフェンリルの腕を掴んだ。
「あぁ?烏風情がしゃしゃり出てくるな」
「そうは言ってもな〜オレのサマナーが飼い主に尻尾と腰を振ってる犬畜生に絡まれてるからな〜召喚魔としては助けないわけにはいかないだろ?」
本来の堕天使という種族は魔法を扱う後衛型の召喚魔だ。フェンリルの方もそれを理解しているのかリーエルの手を振り解こうとしているが獣人という生粋の前衛型の召喚魔の彼女の腕力を持ってしてもリーエルの手は振り解けなかった。
ソシャゲ時代でリーエルの運用に魔法型だけでは限界を感じていたので物理もいけるようにしていて、こちらでもその方向で育てていたらこうなってしまった。堕天使らしく光で作った武器で戦うのは分かるのだが、拳に魔法を乗せて殴るとか訳が分からない。初めの頃はどうしてこうなったと頭を抱えていたが今では慣れてしまった。
リーエルとフェンリルが一触即発の雰囲気を作り出している中、他のサマナーたちは巻き込まれない様に距離を取りながらも完全に観戦モードに入っていた。今は仕事の直前なので控えているが、酒が手元にあれば飲み出しているだろう。然りげ無く俺もその中に入ろうとしたのだが呆気なく阻止されてしまう。
助けてと視線を向ける。
頑張れという視線がサムズアップと共に向けられた。
救いは無いのかと絶望していると背後から鈍い音が重なって聞こえて来た。振り返れば腕を振り切った状態で上半身を仰け反らせている2人の姿があった。顔を見れば2人とも鼻が折れ、鼻血を流している。どうやら互いに躊躇うことなく顔面を狙ったらしい。
「その辺にしておけ」
「そこまでだ」
フェンリルに銃を向けながら止めれば、ミラが剣をリーエルの首筋に突き付けていた。
「私情は後にしろ。これから間引きを始めるのだからな」
これ以上は続けられないと判断出来るほどに理性は残っていたのか、2人は互いの顔を忌々しそうに見ながら舌打ちをして離れた。
リーエルを〝ホスピタル〟の機能を使うことで回復させる。通常なら負担にならない程度の消耗でゆっくりと回復するのだが、負荷を考えずに魔力を使うことで即座に完治させる事もできる。軽い倦怠感に襲われたが、リーエルの折れた鼻はすぐに治り、元の綺麗な顔になった。
「ありがとうな」
「ん……」
叱ったり怒鳴ったりする事なく、感謝を口にして抱きついてきたリーエルの頭を撫でる。本当なら俺が何かしらのアクションを起こさなくてはならなかったのだが、代わりにリーエルが行動してくれたのだ。やった事は褒められる物では無いかもしれないが、それ以上に彼女の行動が嬉しかったので素直に褒める事にした。
ふと、視線が強くなった気がしたので顔をあげれば、観戦モードに入っていたサマナーたちが生暖かい視線を向けていた。中には親の仇でも見る様な殺意の混じった視線を向けながら召喚機と思しき物を取り出している者がいたのだが、そういう連中は隣にいた奴にチョークスリーパーを決められて失神していた。
「初々しいなぁ……」
「俺たちには無いものだよな……」
「若いって素晴らしい」
「甘酸っぺえ」
「俺たちがあいつくらいの歳の時は何してたっけな?」
「サマナーの修行が忙しくって女どころじゃなかった」
同性が異性と仲良くしている姿というのは大なり小なり嫉妬の感情を生み出すのだが彼らにはそれがなかった。どうやら達観し過ぎていて嫉妬よりも微笑ましさが優先されてしまうらしい。これには良かったと安心する。もしさっき失神させられた様な奴が多かった場合、この場で大乱闘が始まっていた可能性もあるから。
もっとやれと言う声に応じてリーエルの額にキスをすれば、サマナーたちからは歓声が上がった。良いぞ、良くやった、それでこそ男だと、囃し立てる様な声を聞いて気分を良くする。
「タ、タツキ?急にどうしたんだ?」
「いや、人が多いからちょっとばかりな」
敵愾心というやつなのだろう。今は感じなくなったが、さっきまではリーエルに向けられた下卑た視線を感じていた。彼女の容姿は優れていて、そういう目で見てしまうのも同じ男として分からないでも無い。
だが、だからと言ってそう言う目で見ることを許すつもりもない。
確かに俺は自他共に認める臆病者であるが、自分の女をその辺の奴に視姦されることを良しとするクズでは無いのだ。
「臆病者だが男を辞めていない様で結構結構」
「……何故両手を広げて待機している?」
「次は私の番だ」
「さっきまでのやり取り見てた筈なのに迷いなく言いやがった……!!」
両手を広げて満面の笑みでこちらに迫ってくるミラの背後に飢えた獅子の姿を幻視してしまう。後ろに下がろうとしたのだが足が動かず、足元を見れば誰かの魔法なのか草が足に絡み付いていて、逃げられない様になっていた。
憎しみを込めてサマナーたちを見れば、見ていた全員からいい笑顔でサムズアップを向けられた。これは微笑ましいものを見る為じゃない、面白いものを見るために団結してやがる。
「フフッ、捕まえたぞ……!!」
「するんじゃなくてされるのかよ……」
「しかもオレも一緒、嫌がらせか?」
逃げられないと悟って諦めた瞬間にリーエル諸共抱き締められた。しかも魔法で足元の土を退かされて、ミラの胸に顔を埋める形でだ。当然リーエルもミラの胸が当てられ、自分とは比べ物にならない胸囲に眼が死にかけていた。
サマナーたちは口笛を吹いたり拍手喝采と完全に出来上がっている。
しかし力強く、それでいて優しく抱き締められると言うのは悪い物ではない。手袋越しにではあるが頭を撫でているミラからは前に話した打算を一切抜きにした純粋な好意が感じられる。彼女と出会ったのは昨日が初めてな筈なのだが、これだけ真っ直ぐな好意は1日やそこらでは抱けるはずが無い。となれば過去に何処かでミラと関わりがあったはずなのだが、ここ三年の記憶を振り返っても彼女の顔を思い出す事が出来ないのだ。
間引きが終われば彼女の口からそこら辺の事は話されるらしいが気になるものは気になるのだ。
「失礼、少々宜しいでしょうか」
俺を抱き締めている事で御満悦なミラと、ミラの胸囲の暴力に晒されて加速度的に眼が死んでいるリーエルにどうすれば良いのか頭を悩ませていたところ、全身甲冑装備の召喚魔……真司がエインフェリアと呼んでいた亡霊騎士がやって来た。フェンリルの様にいちゃもんでも付けに来たのかと思ってがエインフェリアからは敵意は感じられず、バスターソードも盾も手に持っていないのを見て違うと判断する。
「どうしたんだ?報復にでも来たのか?」
名残惜しいと考えながらもミラの抱擁から抜け出してエインフェリアと対峙する。その際にリーエルだけを残してしまったがミラはそれに気づいていながらも彼女を離すつもりは無いようだ。
「違います……フェイが無礼をしたことを謝罪しに来たのです」
「フェイ……あぁ、あいつの事ね」
エインフェリアがフェイと呼んだフェンリルを見れば、お仕置きの最中なのか真司に見下されながらクレーターの中心で正座をして喘いでいる彼女の姿を見つけた。何をしているのかと思ったが、真司のそばに即身仏・大魔術師の姿があるので何かしらの魔法でもかけられているのだと推測出来る。
「申し訳ございません。彼女はサマナーを……シンジの事を何よりも重きに置いているのです。ですから昨晩の戦いで
「それで噛み付いて来た訳か」
「その通りです。身内を辱める様でアレなのですが、彼女はまだ未熟なのです。サマナーも私も、おそらくジーニアスも、貴方が昨日本気で戦っていないことを理解しています。あのまま戦っていたら、確実に勝てたとは言えなかった」
「あいつが未熟だから、あいつの行動を許してほしいと?それはちょっと傲慢なんじゃないか?」
未熟だから、そんな理由で全てが許される訳がない。リーエルが、ミラが止めてくれたから大ごとにはならなかった。もしも2人が止めようとしてくれなければ間引きを前にして殺し合いが始まっていたかもしれないのだ。異界で発生した
「お前がいくら頭を下げても俺は許さねぇよ。許して欲しかったら問題起こした本人が直接頭を下げるんだな。それが筋ってもんだろ」
「……分かりました」
俺の言い分に納得したのか、エインフェリアは頭を下げて真司の元に戻って行った。エインフェリアが戻ったことで真司が俺の居場所を知り、和かに手を振って来たがそれを無視して顔を逸らす。地球では友人だったとは言え、こちらでは赤の他人でしか無い。関係が続く様ならまだしも、そうで無い相手に一々愛想を振りまく必要なんて無い。
そうして未だにミラに抱き着かれて眼が死んでいるリーエルを救うことにした。
「さて、それでは異界への突入を開始する」
俺とリーエルを抱き締めた事で満足したのか、肌がツヤツヤしている様に見えるミラが良く通った声でそう告げた。さっきまで俺たちのやり取りを見ていてはしゃいでいたサマナーたちだが、それを聞いて巫山戯るのを止めた。高位のサマナーとなれば異界の危険性を身を以て実感しているので過度な悪ふざけは自分を殺すと知っているのだ。
「先ずは私とタツキ、そしてシンジの3人で異界に突入し、周囲の安全を確保する。諸君らはその後に続いて来てくれ。レベルが70を超えるものは前衛を、60の者は後衛を担当する様に」
ミラにより胸囲の格差社会を実感させられたリーエルを宥めながら話を聞いているとミラが集団を扱う事に慣れている様に見えた。やはり領主を勤めているというだけあって人を使うことには慣れているのだろう。指示こそ最低限に聞こえるが、誰も文句を言わずにそれに従っていた。
集団戦ともなればコンビネーションが注目されがちになるが、初めからそういう風に戦う事を目的としていない限りはコンビネーションというものはサマナーとその召喚魔たちの間だけの物になる。付け焼き刃のそれなんて危険極まりない。それならばある程度だけ纏まる様に指示をしておくだけに留めておくべきだ。それだけで良いのか不安に感じるかもしれないが、高位のサマナーともなればそこら辺の経験もキチンと積んでいる。自分がやれる事をやり、出来ないことを他の者に任せる事に戸惑いや躊躇いを感じない。
何でもかんでも1人でやってやるという英雄願望の持ち主は居ない。そんな者は早死にするだけだと理解しているのだ。
他のサマナーたちが準備を整えている間に召喚魔であろう毒々しい色合いの大蛇と三面六臂の阿修羅を従えたミラに近づく。その時に真司と眼があったが後ろにいたフェイが犬歯を剥き出しにしながら威嚇していたのでハンドサインでその事を伝えておく。伝わるか不安だったが真司はそれを理解してくれた様で、フェイに正座をさせて説教を始めてくれた。
「俺が一番に突入で良かったのか?」
「昨夜の戦闘を見る限りでは実力に問題ないと判断した。それに、ソロで活動しているのなら当然対集団への備えもしているのだろう?」
「そりゃあそうだけど」
ソロでの活動は自由だと見られがちだが、全ての出来事に対して1人で対処しなければならないというデメリットが存在している。なので俺のパーティーでいうとリーエルは魔法と物理、伯爵は対集団、ボマーは起爆と遊撃、ニトロロックは格上殺し、俺はバフと言った具合で振り分けてある。
本来のパーティーだとそこにデバフ専門のコクリ、魔法と物理とデバフを兼任したミツルギという召喚魔が入っていたのだが、彼らには未だに出会えていないのでその枠は空けてある。適当な召喚魔と契約してその枠を埋めようかと考えたこともあったのだが、最終的には却下した。そんな事をしたら、彼らとはもう出会えない気がしたから。
前にその事を話して、皆んなに苦労をかけると頭を下げたことがあったが、誰もがソシャゲ時代の記憶を持っていたからなのか俺らしいと笑って許してくれた。
ニトロロックだけは自爆させろと視線と態度で訴えていたが。
余計な事を考えたがミラの采配には文句は無い。全員で突入しても待ち構えられて奇襲されれば混乱し、立て直すまでが隙になってしまう。それならば最小限の、奇襲されても対処出来る人員を突っ込ませた方が良い。
召喚機を操作して伯爵とボマーを召喚する。
「大人しく従うのだな?文句の一つでもあると思っていたが……それに、日中に吸血鬼を呼び出して大丈夫なのか?私の知人が使役する吸血鬼は、日光に晒されるだけで死にかけていたのだが?」
「そりゃあ面倒ごとは嫌いだ。本当だったら文句の一つでも言いたいけど、
「その吸血鬼は余程下等な存在なのだろうな。その程度の存在ならば死にかけるだろうが、我輩クラスともなれば苦手なだけで済む。とは言え、流石に昨夜の様に戦えと言われても厳しいものがあるが安心しろ。その辺りの対策なんぞ取ってある」
「だそうで」
「個人的には深く追求したいところだが……戦えるのなら問題ない」
本当ならばどうしてそうなるのかを知りたかっただろうが、今はそんな事をしている場合ではないと理解しているのでミラは引き下がった。真司も真司でフェイへの折檻が終わったのか、エインフェリアと即身仏・大魔術師を連れて来た。
「フェイだっけ?あいつはどうした?」
「お仕置きって事で召喚機に戻したよ。あぁ、心配しなくてもエインフェリアとジーニアスだけでも間引きには事足りるから」
油断や慢心では無くさも当然の事の様に言ってのけただが、それは事実なのだろう。伯爵と互角に戦えるエインフェリアに、高火力の魔法を行使できる即身仏・大魔術師の二体がいるだけでも間引きには十分に貢献出来ている。
2人に準備が出来ている事を確認してから全員に
ミラが剣を、真司が鉄鋼糸を、俺が銃を抜いて戦闘準備を済ませ、ミラを先頭にして異界へと突入した。
割と若者のイチャイチャに関して寛容で、ノリの良いサマナーたち。レベル的にはタツキと同じくらいなんだけど、純粋にサマナーをやっている年月が違うから戦ったらそこら辺の経験で負けるっていう。
ミラネキはボインボインだ!!リーエルはスレンダー美人だ!!特に理由もなく、リーエルにミラネキの胸部装甲を押し当てる!!これぞ胸囲の格差社会!!