召喚都市という名前ではあるが、召喚都市にはサマナーだけしかいない訳では無い。外部からの出入りが認められているのはサマナーだけであって、元からこの街に住んでいるのならばサマナー以外でもいることを認められるのだ。そう言った人間がサマナーたちから侮蔑されているかと聞かれれば、そうでは無い。
この街に住むサマナー以外の人間はほとんどがサマナーをサポートする職についている。例えば武器や召喚機の職人。簡易のメンテナンスや修理ならばサマナーは自分で済ませる事が出来るのだが、本格的な物になると専門職に任せるしかなくなるのだ。生命線に等しい彼らのことを蔑む様なサマナーはこの街にはいない。いるとすればサマナーを始めてから日の浅い者か、サマナーという存在のことを何も知らない者になる。
そういう手合いは召喚都市に入った翌日には死んでいる。それが召喚都市における常識だ。
そして大抵のサマナーは召喚都市のどこかに専属の職人がいる。と、いうよりも召喚都市に置かなければ手間がかかるのだ。
職人たちはそれぞれのサマナーに合った調整を施す。それは付き合いが長くなればなるほどに洗練されていく。一応表の方にもそういうことをする職人は存在するのだが、表の職人たちは特別な用事でも無い限りは住んでいる街から離れようとしない。なので表の職人を専属とした場合だと、その街まで戻らなければならなくなってしまう。なので一部のサマナーを除いたほとんどのサマナーたちは扉さえあれば来る事ができる召喚都市の職人を専属としている。別の職人に任せるという事も出来るのだが、そうすると別の職人の癖が出てしまい、噛み合わなくなってしまう事があるのだ。弘法筆を選ばずという言葉があるが、戦いの場においてはそれは適応されない。自分に合わない物よりも自分に合った物を使った方が一番強いのだ。
無論、合わない物を使っても戦える様には鍛えてある。しかし、万が一……億が一の確率で、それが原因で危険に陥る事がある。格下が相手の場合ならばリカバリーが効くだろうが、これが同格か格上相手だった場合はそのまま死に繋がりかねない。故に、サマナーは専属の職人を求める。自分に合った、自分だけのメンテナンスをしてもらうために。専属の職人を見つける事を修行の仕上げにするサマナーもいるくらいなのだ。
俺の場合は街が
そして俺も、召喚都市に専属の職人がいる。ミラが希望に合ったサマナーを探しに行っている間に召喚機と武器のメンテナンスを済ませておきたいのだ。それが済んだら弾丸や魔石の補充など、やらなければならない事は山程ある。
大通りから外れて薄暗い路地裏を歩く。時折目につく血のシミや武器を使った本気の殺し合いをスルーしながら歩く事数分、六芒星と剣の看板がぶら下げられた石造りの家に着いた。
休業中。働きたくないと張り紙がしてあったがそれを無視して扉を開けて中に入る。店の中は前に来た時と変わらず、触媒やら素材やら何かのパーツやらで乱雑としていた。足の踏み場もない様な光景で呆れるが、それ以上に市場に出回れば軽く一悶着が起こりそうなほどに高価な物がまるでゴミの様に扱われている事に呆れてしまう。
それらを踏まない様に気を付けながらカウンターに向かうとそこには1人の青年が顔を俯かせていた。一瞬だけいよいよ餓死か孤独死てもしたかと身構えるが、よく見れば背中が規則正しく動いているので生きているらしい。
それを確認して安心し、その背中に張り手を見舞わせる。
「イッテェ!?」
「よぉ、起きたか?」
「起こしたの間違えだろうがこの腐り目チキン野郎……!!」
「黙れ種無し」
グハッ、と血反吐を吐きながら倒れた。こいつは前に病気持ちの娼婦を買った事が原因で性病に罹り、治る事には治ったのだが生殖機能が死滅しているのだ。男として死にたくなるのは良く分かるので、暴言を吐かれた時にカウンターとして使う様にしている。
「種無しは……種無しはダメだって……ンンッ!!で、タツキ。ウィンズリーの道具屋に今日は何の用だ?」
「無かったことにしようとしても種無しって事実には変わらないからな」
「目を逸らす事ぐらい許せや」
だがダメだ。現実は非情であり、目を逸らしたところで事態は勝手に変わることなど無いのだから。
ウィンズリーの道具屋の店主であるウィンズリーに現実を突きつけながら、召喚機のスマホとナイフ、銃をカウンターの上に乗せる。
「フルメンテ頼むわ。後、通常弾と状態異常弾、それに炸裂弾の補充も頼む」
「メンテは構わないが……弾薬まで補充するとは、何か仕事でも入れたのか?」
「入れたというか……入れさせられたというか……〝ブルク〟の近くで異界が発生してな、しかもそこが丁度活動期に入ってたんだよ」
「あぁ、王国からか。だったらチキンのタツキは断りきれないわな」
「チキンとか関係無しに国からの命令なんて断れる奴なんて早々いないだろ?」
「確か、お前の師匠は皇帝様から直々に頭下げてまで頼まれたのに唾吐いて逃げ出したって聞いたぞ」
「師匠は、ホラ、師匠っていう別ジャンルのナマモノだから」
「言いたい事は分かるけどそこまで言ってやるなよな」
師匠の伝でここを紹介されたので、ウィンズリーも俺の師匠の事を良く知っている。師匠はフリーダムな人間だから皇帝にツバ吐いたと言われてもやっぱりかという感想しか出て来ないので驚かない。
ウィンズリーはまずスマホを手に取ると、カウンターに刻まれていた魔法陣の上に置いて魔法陣を起動させた。スマホが宙に浮かび上がり、そこから夥しい数のルーン文字が流れる様に現れる。そしてウィンズリーはそのルーン文字に人差し指で触れると、ヒョイヒョイと位置変えを始めた。
師匠の手によって召喚機に変わってしまったスマホを形作っているのは地球の科学技術では無く、この世界の魔導技術。簡単なメンテナンスならば俺でも出来るのだが、それでは大雑把な調整しか出来ないのだ。本格的なフルメンテナンスをして細かな調整をしようと思ったらウィンズリーの様な魔導技術の専門家に頼まなければならない。
「ふむ……簡単なメンテはそっちでやってくれてるみたいだな。おかげで楽に済んで助かるわ」
「楽するのは構わないけど手を抜くなよ?メンテミスで死んだらテメェが種無しだって暴露しながら死んでやる」
「止めろ……止めろ、それは俺に効く……ッ!!それに手なんて抜かねえよ。タツキが死んだらお得意様が1人いなくなって俺の収入が減るからな」
「うーんこの畜生みたいな理由」
会話をしながらもウィンズリーはルーン文字を動かす手を止めようとはしない。知識を齧った程度では気軽に動かしている様にしか見えないのだが、ルーン文字の配置が変わる度に俺の魔力がスマホに流れ込んで行く事で生じる負荷が少しずつ軽くなっているのが分かる。巫山戯た態度の種無し野郎だが、魔導技術師としての腕は師匠が認めるほどの俗に言う天才なのだ。巫山戯た態度の種無し野郎だが。
「で、どういう具合なのがご希望?」
「負荷が増えても構わないから〝ホスピタル〟の回復速度を上げてくれ。それと〝アナライズ〟は俺のレベル以上の相手には自動で発動して記録する様に、もちろん隠密付きでな」
「あいあい……お、自動召喚機能が更新出来るな。しておくか?」
「頼む」
召喚機能とは俺が召喚するのでは無くて召喚機の中に入っている召喚魔たちが自分の意思で召喚機から外に出るアプリの事だ。どうやら俺のレベルによって更新が出来るようになるらしく、更新する度に召喚速度の上昇や召喚の際に掛かる魔力の消費が抑えられたりする。
そうやっている内にメンテナンスが終わったのかルーン文字がスマホへと戻って行き、カウンターの上に静かに着地した。
「よし、終わったぞ」
「相変わらず早いな。他の奴らなんて1日は普通に掛かるって言ってたぞ」
「そこら辺は才能と努力だな」
「ドヤっても種無し野郎じゃあなぁ……」
差し出されたスマホを受け取り、頼んでおいた機能が希望通りのものになっている事を確認しているとウィンズリーは種無しと言われた事で血反吐を吐きながらも銃とナイフのメンテナンスを始めていた。
ナイフは一目見ただけで耐久に問題があるものとそうでない物とを見極めて分別し、問題が無い物の刀身の歪みやグリップの具合を確認している。基本的にはナイフは投擲に使うのだが、必要に応じて近接戦も出来るように調整してあるのだ。そこら辺の物でも使えなくはないが、俺専用に調整されたナイフの方が使いやすい。戦闘ではその使いやすさが生死を分けるだなんて事はよくあるのだ。
そうやってナイフのメンテナンスが終わり、銃のメンテナンスに移るために分解しているとウィンズリーは顔を顰めてトリガーのパーツを掴み上げた。
「おぉ、ナイスタイミングだったな。トリガーの部分危なかったぞ」
「マジ?一応朝の内に整備はしてたんだけど」
「タツキは見た目で判断してるだろ?これ、中の方が限界に近い。金属疲労ってやつで、気づかずに使ってたらその内へし折れてて使い物になら無くなってる。豪運とは言えないけどこういう細かいところに関してはラッキーだよな……腐れ目チキンのクセに」
「俺の幸運を讃えたいのか罵倒したいのかハッキリしてくんない?」
「まぁパーツを変えれば大丈夫だから安心しろ、腐れ目チキン」
「黙れ種無し」
流石に何度も同じ言葉で煽れば耐性が出来てしまうらしく、ウィンズリーは血反吐を吐く事なく胸を抑えるだけで耐えることに成功していた。そしてトリガー部分以外にも金属疲労を起こしかけているパーツを外し、カウンターの上に置いてあったベルを鳴らす。すると店の奥から木箱を持った透けてしまいそうな程に存在感の希薄な少女の召喚魔シルキーが現れる。
ウィンズリーは魔導技術師であるが、それと同時にサマナーでもある。しかし俺の様な戦闘的な方面での運用の為ではなく、自分の仕事をサポートさせる為に召喚魔を用いている。伯爵の様な戦闘を求めている召喚魔にそんな事をさせれば叛逆待ったなしなのだが、ウィンズリーが使役しているシルキーは地球での伝承にあった様に温和な性格で家事を好んでするので問題無い。
「……」
「ん、確かに頼んだ通りだな。ありがとう、ドール」
木箱を受け取って中身を確認すると、ウィンズリーは感謝の言葉とともにドールの頭を撫でた。それを彼女は嫌がる素振りを見せず、寧ろ嬉しそうにしている。そして俺に一礼をすると静かに店の奥へと戻っていった。
ドールが持ってきたのは銃のパーツとウィンズリーが使えないと判断したナイフと同じ数のナイフ、それに頼んでいた銃弾だった。ウィンズリーは木箱からパーツを取り出してバラバラになっていた銃を瞬く間に元通りに組み立て、何度か動作確認を済ませて手渡してくる。それを受け取って同じ様に動作を確かめれば、俺がメンテナンスをした時よりも遥かにスムーズに動く様になっていた。
「相変わらず凄い腕だな。俺がやるよりも全然良いぜ」
「齧った程度のサマナーに負ける様じゃ専門にしてる意味なんて無いからな」
話をしながらもウィンズリーはナイフのグリップを俺の握りに合わせている。それを尻目に銃弾をスマホの中にしまっておく。用意してもらった銃弾の数は千を超えている。過剰かと思うかもしれないが、活動期に入っている異界へと赴くのだ。起こりうる事全てを想定していて、それ以上のことが起こっても不思議では無い。過剰だと思う程の備えをしていて、それでも足りないということが当たり前だと考えるくらいが丁度良いのだ。
「ん、ナイフの方も終わったぞ。合わせて53万キールだ」
「サンキュー。流石にここまで揃えたらこのくらいは掛かるか」
50万もあれば十分に富豪と胸を張れるのだが、その程度の金額ならば簡単に吹き飛んでしまうのがサマナー業の世知辛いところだ。活動期の異界へ入ろうと考えなければ、この半分くらいには抑えるのだが命には変えられない。スマホの中からキールを出し、ウィンズリーに渡す。そしてナイフをコートの至る所に忍ばせればいつも通りの状態に戻る。
「あぁ、領収書くれ。今回のは経費として落ちるらしいからな」
「そうでもしなきゃここまでしないわな」
ウィンズリーから今回のメンテナンスに掛かった金額と血印の押された領収書を受け取る事を忘れない。経費として落とす為にはそれだけ使ったという事を証明する領収書が必要不可欠なのだ。これが無ければ全て自腹になってしまう。生きるだけの金は残っているが、サマナーを続けられる程は残っていないので領収書をスマホにしまい、ウィンズリーの道具屋を後にした。
武器を選ばないっていうのは確かに強さの一つかもしれないけど、自分の為に用意された武器を使った方が強いのは当たり前なのだから余程の緊急事態でもない限りはそうするのが当たり前だよなって話。
そしてフルメンテするだけで富豪クラスのお金が簡単に吹き飛んでしまうのがサマナー業の悲しみ。ケチったら死ぬかもしれないのだから誰もケチらない。一応それに似合うだけのリターンもあるのだけどね。
年末になって忙しい+寒さで手が動かし難いなどの理由で更新が遅れるけど、そこは笑って見逃してくれ。