※この作品はR-18です。

この世界で今日も生きる   作:鎌鼬

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幻想の世界・8

 

 

スマホにインストールされているマップのアプリは俺にとって生命線とも言える。初めて来た場所でも時間さえかければ周囲の状況を把握してマッピングを済ませてくれる。異界に飛ばされた時に迷わずに出口へと向かえたのもこのアプリのお陰なのだ。

 

 

そしてこのアプリにはマッピング機能と索敵機能の他にもマーキング機能がある。無機物有機物を問わずに、マーキングした物の位置をマップに表示するのだ。これの対象は人でも出来るが、プライバシーの保護の為なのか相手の同意がなければ表示されないという弱点がある。今回はミラに許可を取ってマーキングをしているのできちんとマップ上にはミラの現在地が表示されている。

 

 

露店で魔石を購入してからミラのマーキングが施されている場所に向かうと、段々とアルコールの匂いが鼻に付く様になって来た。周りを見れば酒ビンを持ちながら道端で泥酔している者や、上機嫌に鼻歌を歌いながらフラフラと歩いている者たちの姿が見える。

 

 

確かに人を集めるのならばこの場所が一番だなと納得しつつ、頼むから問題を起こさない様にと祈りながらミラの現在地……俺の行きつけでもある酒場に辿り着いた。

 

 

中に入ると耳が痛くなる程の喧騒が聞こえてくる。誰も彼もが酒を飲んで気分が大きくなっているので自然とそうなるからだ。店の片隅から歓声が聞こえて来たので視線をそちらに向ければ、そこには飲みつぶれた男を見下しながらジョッキを傾けているミラの姿があった。問題は起こしてはいないが、今行くと面倒な事になりそうだと予感して気配を消しながらカウンターに向かう。

 

 

ミラが飲み比べをしている事に客の関心が行っているからなのか、カウンター席には上半身が裸の男と白を基調とした貴族服を着た青年の2人、店のマスターである初老の男性の姿だけしか無かった。その3人は知らない人間では無かったので、先に気配を消している俺の存在に気がついたマスターに手をあげながら挨拶する。

 

 

「む……タツキか」

 

「毎度、ご無沙汰です」

 

「え、タツキ?マジ?どこに居るの?」

 

「どうせあいつお得意の気配遮断だろ?つーかなんで気配消しただけで視認出来ない様になってんだよ」

 

「知るかよ」

 

 

普通ならば気配遮断というのは気配を消すだけの技術で、感覚的には捉えられなくなるが視覚では見ることは出来る。俺は師匠から気配遮断を教わったのだが、あの人も俺と同じ様に見えなくなる程の隠密をしてくれたのでそれが普通であると思っていたのだ。召喚都市に出入りする様になってから、俺たちの隠密は頭がおかしい事に気がついたのだが。

 

 

気配遮断の精度を視認できる程度まで落としてカウンターの空いている席に腰を下ろす。気配こそ消しているが、ミラならばその内気がつくだろう。それまではこちらで駄弁らせて貰うことにする。

 

 

「久し振りだな。ドゴール、クリス。マスター、なんか甘い酒よろしく」

 

「またかよ。タツキは相変わらず甘い酒ばっか飲んでるな」

 

「〝疾風〟なんて呼ばれてるのに味覚はお子様なんだよね」

 

「うっせえ。甘い酒が好きで何が悪い」

 

 

上半身が裸の男はドゴール、貴族服の青年はクリスと言い、俺が召喚都市に来た頃からの付き合いで友人でもある。出身地も育ちもバラバラなのだが、不思議と馬が合ったのでこうして連んでいるのだ。今まで何度か一緒に仕事をした仲でもある。

 

 

「そういえばティーラルドのお嬢様が来て異界の間引きするって言ってたけどタツキはどうするんだ?」

 

「俺は元から参加だよ。俺が異界を見つけて、報告したらそのままってな」

 

「タツキはチキンだからね〜どうせデメリットを考えて止むを得ずってところでしょ?」

 

「その通りだけど……それだけなら良かったんだけどなぁ……」

 

 

マスターが淹れてくれたカクテルを飲み干す。注文通りに甘く、そして俺の精神状態の事を考えてなのか酒精が弱めの酒だった。空になったグラスを差し出してお代わりを要求する。

 

 

「なんか含みのある言い方してんな。他に何かあったのか?」

 

「ミラ……ティーラルドのお嬢様に学園とのイザコザの時に婚約者扱いされて、気がついたらそのままガチの婚約者になってた」

 

「わーお……」

 

「に、逃げれば……」

 

「逃げたら王国のバレル将軍がチェイサーになって追ってくるって脅迫されたの……」

 

「バレル将軍がチェイサー」

 

「これもう詰んでるとかいうレベルじゃないね」

 

「外堀を埋められたと思ったら城まで解体されてた気分だぜ……」

 

「タツキ、今日は奢ってやるから悪酔いしない程度に飲め」

 

 

グラスでなく、ジョッキで差し出されたカクテルをさっきと同じ様に一息で飲み干す。酒に関しては師匠が毎日浴びる様に飲んでいたのでそれに付き合わされ。、球では未成年の頃から飲む様になっていた。高レベルなこともあり、状態異常にはある程度の耐性が出来ているのでこの程度では全く酔えないのだが、マスターからの気遣いがとてもありがたかった。

 

 

「つうわけで俺は今とってもストレスを感じています。だから馬鹿話してストレスを緩和させてくれ。ガチで頼むわ」

 

「バレル将軍がチェイサーになるかもっていうのに偉そうだなこいつ」

 

「追い詰められてやけくそになってるだけだと思うけど……よぉし、それなら僕がとっておきの話をしてやろうじゃないか!!」

 

 

ジョッキに入っていたビールで口を湿らせてから、そう言ったのはクリスだった。

 

 

「みんな知ってると思うんだけど、僕ってば帝国の貴族なんだよね。上に兄がいるからサマナーやって放蕩が許されてるんだけど。んで、我が家の知り合いにとんでもない色欲魔の貴族が居てさ」

 

「権力者の行き着く先って言ったら大体色だからそんなに面白く無さそうなんだけど」

 

「まぁまぁ聞けって。で、この間そいつの主催で乱行パーティーがあったんだよ。運悪く、その日はそいつに用事があったから会いに行ったんだけどね、またまた一番初めに来た奴と鉢合わせになったんだよ……帝王陛下と」

 

「帝王陛下」

 

「乱行パーティーに帝王陛下」

 

「よっぽど楽しみにしてんだろうね。帝王陛下ってばマントの下はパンツだけで、精力剤ガブ飲みしながら勃起してたから」

 

「パンイチマントの帝王陛下」

 

「帝国終わったな」

 

「まぁ直ぐに正室と側室の方々がやって来て帝王陛下フルボッコにして連れ帰ったから乱行パーティーには参加出来てないんだけど……近いうちに王子か王女が増えるんじゃないかな?」

 

 

なんと言うか、帝国の闇を知った気分になった。なんだよ、パンイチマントで勃起させながら現れる帝王陛下って。トップの頭がおかしいとか帝国大丈夫かって考えたが、王国、帝国、皇国のパワーバランスはおおよそ均等なので為政者としては有能なのだろう。さっきまで絞首台に向かう死刑囚の様な心境だったのに、パンイチマントで勃起させながら現れる帝王陛下のせいで一気に吹き飛んでしまった。

 

 

「んじゃ、次は俺の番だな。俺の弟はな、兄である俺の目からしても可愛い部類に入るんだ。それこそ女物の服を着せたら女にしか見えない程にな」

 

「女顔の弟」

 

「おや、遺伝子が突然変異でも起こしたのかな?」

 

「それに関しては同意する。んで、俺がサマナーになる前に実家で暮らしてた時、夜中にトイレに行きたくなって目を覚ましたんだよ。トイレを済ませてまた寝ようと部屋に戻ってる最中でな、何かが軋む音と噛み殺す様な声が聞こえたんだ」

 

「それって親がドッキングしてたってオチか?」

 

「いや、親父と弟がドッキングしてた」

 

「……え?」

 

「マジかよ」

 

「マジだよ。それも、どこで買ったか分からないけど、ヒラヒラのドレスを着た弟が親父の事を掘ってた。掘られてる親父のアヘッてる顔はガチでトラウマになって、最近まで不能だったからな」

 

「女装男子に掘られる父親」

 

「お前たちの周り、闇が深過ぎない?」

 

乱行パーティーに参加しようとしていたパンイチマントの勃起帝王に勝るものなんて存在しないと思っていたが、ドゴールの口からあっさりとそれを飛び越える話が出てきてしまった。パンイチマントの勃起といい、女装男子に掘られる父親といい、何故俺のストレスを緩和させる為に面白い話を要求したのにゴミでも捨てる様な気軽さで闇の深い話を聞かされなければならないのだろうか。一応俺には被害はなさそうなので笑える話ではあるのだが、その時の事を思い出したのか目が死んでいるドゴールの事を見ていると笑うに笑えない。

 

 

「その光景を見て、ここにいたら俺の処女が危ないって気がついてな、直ぐに村から飛び出したんだ。で、そこで俺の師匠(マスター)にあってサマナーになったんだよ」

 

「その……なんと言うか……御愁傷様?」

 

「近親ホモセとか業が深いなぁ……あ、そういえば僕んちの妹はガチレズでさ。前に一度、父上から母上を寝取った事があるよ」

 

「え?何?サマナーの身内って頭がおかしく無いといけないの?」

 

 

ドゴールだけかと思っていたら、クリスもまた身内で同性愛者がいる様だ。何事もない様に言っているが、恐ろしくて仕方がない。

 

 

「ーーーなんだ、タツキも来ていたのか」

 

 

マスターがドゴールに強い酒を差し出しながら慰めているのを横目で見つつカクテルを飲んでいると後ろからミラが抱きついて来た。背中に感じられるムニュムニュと形を変える胸の感触が素晴らしい。女性特有の甘い体臭に混じるアルコールの匂いが無ければ良かったのだが。

 

 

「酔っ払ってるのか?この後に差し支えるぞ」

 

「私の事を案じてくれているのか?心配するな。私は深酔いし辛く、その上簡単に酔いが覚める体質でな。このくらいなら直ぐに素面に戻るさ。それに、そういうタツキこそ、この後決闘があるのに飲んでも良いのか?」

 

「鉄火場に放り込まれても酔っ払っていられる程に肝は太くなくてな。そういう場面になってるって理解したら自然と覚めるんだよ」

 

 

夜に決闘があると理解しているから、いくら酒を飲んだところで酔いなど回らない。マスターが気を利かせて酒精の弱いカクテルを作ってくれるのだが、今の俺からすればジュースと変わらないのだ。この状況が良くならない限り、俺が酔うことは無い。

 

 

「タツキ、そちらの彼女がさっき言ってた人かい?」

 

「そうだよ。ところで、人は集まったのか?」

 

「予定していたら人数は揃ったし、それとは別に60代の者にも声を掛けてある」

 

「そっか……なら帰るぞ。俺はともかく、お前はあっちでやる事は山程あるんだからな」

 

 

俺は決闘と明日の準備だけをすれば良いのだが、〝ブルク〟の領主であるミラにはやらなければならない事は山程ある。ヒュールさんが幾らか代理を務めてくれている様だが、領主であるミラしか決定できない事は残されているはずだ。なら、用を済ませたのに油を売っているわけにはいかない。

 

 

「つーわけで俺は帰るわ」

 

「了解。明日の間引きには僕もドゴールも行くから、また明日ね」

 

 

ヒラヒラと手を振って別れの挨拶をするクリスにまた明日と返事をしてカウンターから立ち上がる。ドゴールの方を見ればカウンターに突っ伏して泣き崩れ、マスターに慰められていた。

 

 

俺にはどうすることも出来ないので、そのまま〝ブルク〟に戻る事にした。

 

 

ドゴール、強く生きてくれ。

 

 

 






貴族サマナークリスと裸族サマナードゴール登場。レベルはタツキと同じくらいあるので、十分に強い部類に入るゾ!!尚、周囲の闇は深い模様。

R18にしてると、直接的な描写を濁さ無くって良いから楽。

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