「あんていく」で働き始めてすぐくらいの時に買い出しで絡まれたのを救ってくれた女の子のことが、僕は好きだ。
その日以降その子とはよく会うようになり、彼女と話すことで更に彼女に惹かれていく自分がいる。半喰種になってしまったあの日から戸惑う事や嫌になるような苦しいこともたくさんあった。でもそんな中でも彼女との不定期なその邂逅が不安定な僕を安定させてくれる、癒される時間だった。
そうして彼女と過ごすうちに僕は思ったよりも自分が貪欲なのだと自覚する。
もっと彼女と話していたい。もっと彼女を知りたい。もっと彼女の傍にいたい。
最近なんとか打ち解けてきたトーカちゃんに話してみた。
「あんた、それってさ・・・恋じゃないの?」
「え?」
「今のあんた、前にリゼの事見てた時の目してるよ」
ああ、そうか。これは恋だ。トーカちゃんに言われたその言葉がしっくりきてそのまますんなり落ちてきた。
そうするとやっぱり次の欲が出てくる。彼女を愛してる。彼女に愛されたい。ずっと傍にいてほしい。
――――――アヤセちゃん。
でもそれ以降彼女と会うことはできないまま12月を迎えようとしていた。
ある日僕らが店番をしていると万丈さんがリゼさんを探してやってきた。あまり間を置かずにアヤセちゃんも入店してきたのでびっくりしたけど嬉しかった。だってこの頃会えなかったから、想いを伝えてすらいないのにこの恋が終わってしまうんじゃないのかって思ってたから。早速話し掛けたかったけどどこか具合が悪そうに見える。大丈夫なのかな?と心配していたら続いてなんかゴツい男二人も入店してきた。万丈さんとアヤセちゃんとゴツい男たちは同じ組織に所属していてリゼさんを探しているようだった。
トーカちゃんとアヤセちゃんが戦うのをゴツい白髪の方の男をバッキバキにしつつ、見る。たぶんいなしてて一切攻撃に回ってないけどアヤセちゃんの方がトーカちゃんより強いのかもしれない。バッキバキにした男は指を鳴らすのがうるさかったのでよく鳴らしてた人差し指を折った。そしたらなんだか大人しくなった。あれ?
ちなみに僕はアヤセちゃんの血を飲んで以来Rc細胞を生成できるようになったらしくRc値は5万を軽く超えている。そのせいか僕の身体は頑丈になり、並大抵のことでは怪我を負わなくなった。ヨモさんと店長にも修行相手になってもらい二人から一本以上取れるようになっていたのでこの人の相手はさほど苦ではない。こないだの捜査官がヒナミちゃんとリョーコさんを襲撃してきた時もあんていくの制服を脱いで後ろから捜査官二人を襲撃して事なきを得た。ちなみに顔は紙袋を被っていたので見られていない、はず。
僕がこの人を倒したのが意外だったのか事情を知るトーカちゃん以外の面々が固まっている。その隙を突いてトーカちゃんがアヤセちゃんに一撃お見舞いした。そのままアヤセちゃんは店のドアにぶつかってへたり込んだ。
トーカちゃんも僕もさっきの戦いぶりからして当たるとは思わなかったので驚いた。と同時に甘い香りが漂ってくる。本能に訴えかけるような強い甘い香り。クラクラしそうなくらいのそれはアヤセちゃんから発せられている。
「ア、アヤセ、あんた・・・」
「・・・リゼはいねえし、ヤモリの奴もそんなだし、いくぞ・・・っ」
困惑しながらも心配そうにするトーカちゃんを相手にすることなく万丈さんと男に指示を出してアヤセちゃんはこの場を去っていった。取り残された僕も内心アヤセちゃんが心配で追うかどうか迷った。でも僕以上に顔色の悪いトーカちゃんが茫然自失のようにそのまま動かない。
「トーカちゃん、大丈夫?」
「あいつ・・・今日だったの」
「え?」
「オメガのヒート・・・」
オメガのヒート、動物でいう発情期。だからあの時あんな甘い香りがした・・・?でも学校の授業で嗅いだのはもっともっと薄い香りだった気がする。でもトーカちゃん曰くアヤセちゃんのヒートはオメガの中でも更に特殊で、濃密で範囲も広くアルファに限らずベータどころかオメガさえも寄り付いてくるほど強力なものらしい。時に薬でも抑えきれなくなることもあるそれは家族でベータであるトーカちゃんすら当てられるほどなのだと。
「どうしよう・・・私、アイツのこと探してくる!!」
「ま、待って、僕も行くよ!!」
こうして僕らは二手に分かれてアヤセちゃんを探し始めた。途中アヤセちゃんの匂いとオメガのフェロモンの匂いが強くなっていることに気付き、その方向に行ってみるとそこは廃墟なのにもかかわらず、多くの人で賑わっていた。みんなどこか興奮しているようで僕には気付いていないようだった。―――まさか
表は完全に人で埋まっていて入り口には近寄れない。なので僕は裏に回って窓を割って侵入した。途端により強くなるあの子の香りとオメガのフェロモン。そして暴れる音と複数の男女の笑い声が聞こえた。
「なあに~この子、ヨワッ」
「オメガのくせに手こずらせやがって」
「ま、いんじゃね?もう抵抗すら出来ねーみたいだし。にしてもRc抑制剤の効き目スゲーのな」
「じゃあ誰から入れるー?」
「その前に全部剥いでたっぷり今まで手こずらせた借り返して貰おうぜ」
「あ、それいい~じゃ、携帯でいい?」
「おうおう、写真だけじゃなくて動画もな!よかったなあ嬢ちゃん俺らに楯突いたおかげでこれから毎日ヤり放題だぜ?」
その不快な会話にいてもたってもいられなくなり僕は念のために持って来ていたマスクを付け、アヤセちゃん以外の全員を叩きのめした。
「カネ、っ・・・あんた、なんで」
「とにかくここは危険だから、いこうアヤセちゃん」
もう立ち上がる気力すらないアヤセちゃんを抱えて僕はあんていくに戻った。