※この作品はR-18です。

ジ・アンブレイカブル・ハート   作:SAMICO

3 / 4
結衣のもう一つの大きな戦争(喧嘩)。
相手は、軍の腐敗そのものだった


Chapter3:情報部の戦い~売られた喧嘩~

校長の山本少将の推薦により、結衣は次席特権で中尉に任官し、統合幕僚監部情報部に配属となった。

その際の言葉が、

「神経が、ワイヤーロープで出来ている君なら、やって行けるだろう」

である。

 

配属された統幕情報部部長の松本浩史中将に、警視庁公安部への出向を命じられた。

出向中の身分は警部補。これは、「警察と軍部の相互監視」の意味合いを持つ。

警察は軍部のクーデターを警戒し、軍部は公安警察の領分逸脱を戒める。

そこで出会ったのが斎藤亮(あきら)警視正だった。彼もまた、警察庁からの出向組だ。

彼からは、とにかく人を疑えと教わった。そして、客観的に物を見る術と、緻密な捜査術を学んだ。

「高菜、とにかく我々の基本は冷静な判断力だ。常に心を落ち着かせて感情を制御する。殺(・)す(・)のではない。秘(・)め(・)る(・)のだ」

「……」

斎藤警視正は冷徹そうに見えるが、心根は熱い。

東大法学部を優秀な成績で卒業した、若きキャリアである。

名古屋大侵攻の少し前まで警視庁に勤め、捜査官としての手腕を学んだ彼女は、情報部に戻ってきた。

戻る際、極秘裏にバーに飲みに行った際、斎藤から告げられた言葉は、

「味方が味(・)方(・)であると思うな」

だった。

 

その言葉が理解できたのは、名古屋侵攻後少し経ってからである。

湊は名古屋侵攻後、ストレスで血を吐いた、と聞かされた。すぐにお見舞いに行こうとしたが、叶わなかった。

結衣は大尉への昇進と共に、佐世保鎮守府所属の遊撃隊への、法務士官としての赴任、を命じられたからである。

司法警察員として、逮(・)捕(・)権(・)限(・)のある法務士官の赴任は、『内(・)偵(・)捜(・)査(・)』を意味していた。

上官である松本中将から、「高梨未来大佐に、武力反乱(クーデター)の疑いがある。貴官の判断で処分(殺)しても構わない」

そう、命じられていた。

だが、結衣は、違(・)和(・)感(・)を感じていた。

セットで派遣される、作戦参謀系の赴任がなかったからだ。

その時に、斎藤の言葉を思い出した。

「なるほど『そういうこと』か……結衣は――」

喧(・)嘩(・)を(・)売(・)ら(・)れ(・)た(・)んだね。 そう認識して、ニィっと残忍な笑みを浮かべた。

そして、山本が自身を情報部に送り込んだ真(・)意(・)も。

 

佐世保に赴任するなり、調査対象である、高梨未来の前に出頭した。

遊撃隊長である高梨未来大佐、そして彼女の補佐艦であり、旗艦でもある戦艦金剛、そして秘書艦である時雨の前に出頭した。

「この度、『内(・)偵(・)捜(・)査(・)官(・)と(・)し(・)て(・)』赴任することになった、法務士官の高菜結衣大尉です」

「……は?」

「What?」

「……何言ってるの?」

三人は、ぽかーんとした顔をしていた。

すぐ冷静に戻ったのは、未来だった。

「ええと。内偵捜査官が身分を明かしたら、それ『内偵』と言わないんじゃあ?」

「……」

この部屋には四人しかいない。ただ、探られてるのは気づいていた。同時期に赴任した駆逐艦の清霜は、何処の部隊にも所属せずにいるからだ。

「だって、捜査する意味ないですもん」

「ま、やっかみか嫌がらせね」

「そうデスね」

「だろうね」

その言葉に、未来の顔を見てにっと笑うと、結衣は口元に指を当てて、とある書類を見せた。

そこには、『楽(・)し(・)い(・)国(・)家(・)転(・)覆(・)計(・)画(・)』と、書かれていた。

「………どう?」

「………悪くないわね」

未来は、翳りを帯びた笑みを浮かべた。

二人の艦娘はさぁぁっと顔を青くする。

 

こうして、国家転覆計画を始めた。

ただ、本(・)気(・)で(・)実行しようとしているのは、未来だけだった。

金剛も時雨も、事前にそれぞれと接触して、『未(・)来(・)の(・)身(・)の(・)潔(・)白(・)を(・)証(・)明(・)す(・)る(・)為』と、協力を求めておいたのだ。

結果的に、二人の艦娘も欺く形で始めていた。

二人の艦娘達は、この期間、生きた心地がしなかっただろう。二(・)人(・)共(・)、本気で計画を行っている、ように見えたからだ。

結衣自身も、『未来が本気で実行するなら、全て無(・)駄(・)にしても良いや』と、思っていたからである。

結衣のやり方は巧妙だった。清霜に致命的ではないレベルで、情報をリークした。しかも、結衣からとわ(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)ように。

そして撒き餌を撒いて、誘導する形で清霜もコ(・)ン(・)ト(・)ロ(・)ー(・)ル(・)していた。

全てにおいて、俯瞰的に物事を見定め、自分の役割に沿って『演じる』。

その間に、清霜に対(・)し(・)て(・)の調査も行っていた。

本来、あってはならない、『軍と公安の私(・)的(・)な(・)パ(・)イ(・)プ(・)』を活用して、極秘裏に斎藤に連絡を取った。

斎藤は、既に結衣の敵が、『情報部の中にいる』ことを察知していた。俯瞰的に、高菜家へのバッシングを見てきた彼は、その当時東大法学部に居た。

斎藤は、軍情報部に出向させている公安警察の仲間から、『結衣と未来が結(・)託(・)し(・)て(・)、クーデターを起こす』ことを期待していること、を突き止めていた。

だが、その答えを教えるつもりのない彼は、たったこれだけの返事を返した。

『味方を味方と思うな。お(・)前(・)の(・)考(・)え(・)て(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)正(・)解(・)だ』

とだけ。

結衣はそれを見て確信した。火のないところに煙を立てよう、としていると。

「さて。火をつけるか、は『あの娘』次第。でも、あの娘(湊ちゃん)のお姉ちゃんだから、い(・)い(・)子(・)だよね」

小さく呟くと、決戦場となる場所へ向かった。

「未来ちゃん。ちょっと内緒話したいから、ラブホ行こうよ」

「はい?」

突然の物言いに、キョトンとなっている。

その未来に、小さく耳元で、

「全ての準備OK」

と、囁くと未来は、笑みを浮かべて頷いた。

 

ラブホテルの一室に二人で入り、お互いカバンをベッドに置いたところで、振り向いた。

お互いの手には拳銃。

「あちゃ。バレてたか」

「裏(・)切(・)っ(・)た(・)わね」

そう。事前に自身の裏切りを、それとなく金剛に流していた。

金剛は、未来優先で動いているから、それを未来の耳に、『入れてくれていた』。

未来の表情は、怒りに満ちていた。氷のように冷たい冷静な彼女が、結衣に初(・)め(・)て(・)見(・)せ(・)た(・)生(・)の(・)感(・)情(・)だ。

「あは。結衣は言ったよね、『内偵捜査官』って」

「……最初から、騙(・)す(・)つもりだったのね。何故、自分の父親を冷遇した軍にいるの?」

その言葉に、結衣は首を振った。

「結衣は、本気で未来ちゃんがクーデターを起こす気だったら、協力してたよ。結衣がマ(・)マ(・)を(・)お(・)か(・)し(・)く(・)し(・)た(・)軍(・)にいるのは、結衣が何かを恨んだら、パパ無駄死にだから、結衣はしなかったんだよ。だって、馬鹿馬鹿しいじゃん。皆、あの肉声を公開したら、テノヒラクルーだよ?そんな、馬鹿ばっかの世の中で、何かを恨むだけ損々」

「……」

未来は何も答えない。

「本音を言っても、良いんだよ。お互い、銃を突きつけ合ってるから、最悪でも、冥土の土産にはなるからね。結衣は未来ちゃんの、『生の本音』を聞きたいな」

「……私は、こういう人生だってもう諦めてる。でも、妹を……湊を歪ませた軍を許せない」

その言葉に、結衣は頷いた。

「そっか、そうだよね。でもね、未来ちゃん。許せない、そんなことはないんだよ。ただ未来ちゃんが許(・)し(・)た(・)く(・)な(・)い(・)だけ。さっきも言ったけど、未来ちゃんが本気で実行するなら、協力する。自慢じゃないけど、公安にも居た結衣が立案できる、ベストのものを用意したつもりだよ。きっと上手くいく」

そう言ってから、心の中で呟いた。

――斎藤さんやあの横須賀の鬼神(各務原裕二)が、阻んでしまいそうだけど……と。

宮戸島で、『算出不可能』という戦果を持つ、あの男(各務原裕二)のことも、情報部にいる結衣は知っているのだ。一息吐いたあと、結衣が言葉を続けた。

「ただ……湊ちゃんの奪われた幼少期も、高梨提督も、三笠中将も、パパも、金剛も、時雨も、矢部総理も、艦娘の皆も、馬鹿だけど『そうであるように受け入れてくれた』国民の皆の思いの詰まった『艦娘基本法』、艦娘と一緒に歩む社会、そして、辛いなりに頑張った未来ちゃんも、やって来たことが全部無(・)駄(・)になるよ。結衣は、そんな世界……嫌だな。今度こそ、三笠さんも絶望すると思う。何もかもが開戦直後に逆戻り。クーデター派と反クーデター派で艦娘同士が殺し合う。絶望して、深海棲艦に味方する子も、出るかもしれない。そんな世界……嫌だよ」

「………私も嫌。でも……」

目に涙を浮かべる未来の顔を見ると、結衣はもうひと押し。そう思った。

「諦めることはないよ。過去は、もう変えられないんだ。ママの心も、高梨提督も帰ってこないし、過去はやり直せない。名古屋の人達も生き返らない。湊ちゃん、名古屋の作戦の時、胃潰瘍で血を吐いたんだって。湊ちゃんは壁を乗り越えたよ。未来ちゃんも、後もうちょっと、あと一歩、乗り越えようか?あと一歩まで、来てるんだよ。それとも、全部投げ出しちゃう?もし、投げ出しちゃうなら、一発で結衣の頭、撃ち抜いてよ。そんな世界見たくないから。楽に終わらせて?」

ふっと、笑みを浮かべて銃を下ろした。

未来は、銃を落として結衣に抱きつき、泣き出した。

「よかよか、よかよ。未来ちゃんはいい子。妹に似ていい子。良い子すぎたから、ちょっと悪(・)く(・)なろうか。金剛に全部話そうか?未来ちゃんの想いを」

そう言うと、結衣は端末を取り出して、金剛にメールを送った。フロントには、もうひとり増える、と告げて。

 

「未来テートク!」

「金剛!!」

飛び込んできた金剛に、未来は抱きついて、そして強く抱き締めた。

「金剛、私……解らなくなった。どうやって、これから生きていけば……全部壊せば、わかると思ってたの……」

「テートク……ワタシも、不安デシタ。いい子だって思ってたテートクが、急に変わってしまったから……」

その様子を、結衣はベッドに腰掛けて見守っていた。

金剛と未来は、お互いに思っていること、不安なこと、そして共に歩みたいことを打ち明けていった。

その時、お互いの左薬指が輝いた……

気がつくと、互いに白銀(プラチナ)色の指輪を、身に着けていた。

「おめでと。壁を超えたね」

結衣の言葉に、未来が振り向くと頷いた。泣き腫らしていたが、笑(・)顔(・)だった。

「ま、ケッコンカッコカリをしたなら、肌でも重ねちゃったら?あ、結衣も混ざっていいって言うなら、混ざるけど」

「What!?」

「……いいわよ。結衣さんも『寂しい』んでしょ?」

図星を突いた言葉に、結衣はケラケラっと笑って、

「あちゃ、バレてたか。よかよか。そーゆう鋭い子も、結衣ばすいとーちゃ」

「……九州出身だったの?」

未来の問いに、結衣は軽く答える。

「パパがね」

 

 

三人で肌を重ね合ったあと、眠っている二人を残して、結衣は服を身に着けた。

その瞳は、冷酷で冷徹な瞳だった。

「さて。喧(・)嘩(・)の(・)後(・)始(・)末(・)しますかね」

二人で立てた、楽しい国家転覆計画は、既にチ(・)リ(・)ひ(・)と(・)つ(・)残さず、抹消している。

結衣は、最初からカードを、死ぬか、説得するか、の二択しか持ってなかったのだ。

「安藤先輩は、馬鹿だ、と言うだろうね。『最短距離の最短距離を駆け抜けて、目標をもぎ取った』なんて。でも……」

眠っている二人を、ふふっと笑いながら見やると、静かに部屋を後にした。

 

そして、ホテルを出た瞬間、ポケットからすっと端末を抜き取って、指揮命令プロトコルを発令した。

未来は、プロトコル命令サーバに繋いだ状態で、置いておいたのだ。

結衣は、一本取られた、と思いながら、ありがたく未来の端末を拝借していた。

催眠モード、対象は近距離の全艦娘。

発令した直後、物陰で催眠モードで動けなくなっていた清霜を捕獲した。

「みぃつけた」

その時の、結衣の笑顔は、冷たいものだった。

 

 

結衣は、清霜に苛烈な拷問を加えた。

端的に言えば、痛みと、性的な快楽を、交互に与える。

諜報のプロではない彼女を、『堕とす』のは容易かった。

そこで、清霜が結衣の内偵調査を行っていることを白状させた。命令元が松本中将だということも。

指揮命令プロトコルを使って、強制的に松本に『異常はなかった。動く素振りはありません』と報告させた。

この命令の後、未来に端末を返却しているが、清霜は自(・)主(・)的(・)に(・)結衣に従うようになった。

清霜を九州に残し、未来と金剛に監視させている間に、結衣は東京に戻った。

 

出頭する前に、結衣は叔父である内閣総理大臣の矢部晋太郎と、新任の艦娘基本法担当大臣である大淀に会って、

松本中将等情報部の腐敗勢力が、『自分と未来のクーデターを誘(・)発(・)さ(・)せ(・)よ(・)う(・)とした』と報告した。

二人は、深刻な表情ですぐに対応する、と約束してくれた。

政治行政ラインに軍人が私的なルートで話を持ち込むのは、階級社会の軍部にとってはタブーだが、結衣は喧(・)嘩(・)の(・)手(・)段(・)を(・)選(・)ぶ(・)ほ(・)ど(・)大人しい女ではない。

斎藤には『ネズミ駆除をお願いします』とだけ連絡を入れた。

 

すぐに情報部に出頭。松本中将に、

「高梨大佐は、クーデターを起こす気配はありませんでした」

そう報告した。

その上で、結衣は不敵な笑みを浮かべて松本中将を見据えていた。

「その上で、申し上げますが……火(・)の(・)な(・)い(・)と(・)こ(・)ろ(・)に(・)煙(・)を(・)立(・)て(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)な(・)ら(・)、小(・)官(・)に(・)も(・)考(・)え(・)が(・)あ(・)り(・)ま(・)す(・)」

それだけ言い放って、執務室を出ていった。

 

その翌日、松本中将等は今度は防衛省からの内偵を受け、数日中には首根っこを抑えられ、失脚することとなった。

その際、警視庁公安部が大いに協力した。軍部は警察に大きな借りを作ることになったが、その埋め合わせとして軍で持っていた機密情報を警察にリークした。

松本中将等の失脚と時を同じくして、各地の汚職事件が報道されることとなり、警察の株も少し、上がることになる。

その時に、警察庁警備部公安局に逮捕され、解体処分にされそうになっていた清霜を、結衣があらゆるコネを用いて救い出し、新しい風が入ってきた情報部に出向させた。

後に海軍情報部で各地を飛び回る『草の者』となり、海に出ることなく軍務を終え艤装を置くことになるが、

清霜は救ってくれた結衣を恩人だと思い、影(草の者)であることにこだわり続けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。