「バレてない? バレてないよな?」
「超バレてない、超バレてない。だからゆっくり、ゆっくりな……」
『あー! あーあーあー! あー!』
「うるせぇ! わざとらしく妨害すんじゃねぇよお前!!」
「こっちは身バレの危険と戦ってるんだよ……!」
『いやぁ、だったら君もサポート担当してみるかい?』
『ちなみに、この遠距離通信を傍受されずにサポートを行うには10種類の魔法を同時に展開しながら両手で違う絵を描きつつ足でゲームコントローラーを操作するぐらいの技術が必要です』
「おっす、先生サポート頑張ってね」
「やっぱ現場が最高だな」
馬鹿な事を口にしながら、そっと前へと進んで行く。光によって照らされた空間は徹底して隠れる場所が存在せず、死角と闇に同化して進んで行くのにも限界がある。ここら辺が限界だな、と理解する。姿を隠すのに使っている闇の中、ホロウィンドウを消灯モードで出現させ、地図を広げた。それを確認しながら完全な闇の中に溶け込みつつ、うーん、と首を捻る。
『駄目だね、迂回ルートはないよ。そこから先は目的地まで強行突破しなきゃ駄目だね』
「美しくないなぁ……」
「だーけーどー?」
「偶にはいいよね、強行突破」
『何時もの事では?』
『割と毎回派手にやってる気がする』
『というよりは何時もの事かと』
「よっしゃ、理論武装は完璧だな?」
『何が……?』
声が変わる。男の声、女の声、少年の声、少女の声、自分の声。だがその全ては僅かな闇の中に沈んで完全に掻き消されて行く。それが闇の外へと漏れ出すような事はなく、闇に潜んでいる間は騒いでも大丈夫だったが、闇の外を窺っている限り、そこから先に動きはなく、姿を晒す必要があった。となると華麗に忍び込んで狙う、というのもどうやらここまでだったらしい。非常に残念だったが、
「ここからは派手なショウの始まりだな」
「じゃ、カウントダウンを始めよう」
闇の中に黒衣で身を包んだ黒騎士が銀髪を揺らしながら、目元を隠す様に仮面を装着している。それによって人相がなぜか把握できない、という不思議な効果が発揮されている。顔そのものを変化させられない以上、黒騎士にはその仮面が正体を隠す為、どうしても必要だった。だから闇の影の中で、互いに表情や姿を確認し、ちゃんと整えてあるのを確認する。それで互いに問題がない事を確認すると、少女の声が聞こえてくる。
『零零零式覚醒衝動スタンバイ。範囲限定化。対象限定化。出力限界値ロック。非殺傷モードで展開。カウントダウンスタンバイ、5、4、3、2、』
顔に装着している仮面に触れてから両手を保護する革手袋を引っ張る様に再度使い心地を確かめ、それがジャストフィットするのを感じ取りながら指を動かす。片手を闇に溶け込む床に付け、姿勢を低く、クラウチングスタートの様に飛び出す体勢に切り替えた。銀と金が混じって生まれた、長く伸びた白髪が軽く視界を遮るが、魔法の力によってその向こう側が透ける様に見える。
『ここを抜ければ大型ホールに出ます。その先の展示室が目的地です』
『さ、ここに居るのは特筆すべき存在のない雑魚ばかりだ。これで捕まる様だったら死んだ方が良いんじゃないかなぁ』
腹黒眼鏡の言葉に違いない、と笑い声を零しながら、カウントが1から0になるのを聞いた。瞬間、黒騎士が握っていた銃と剣が一体化している武装が振り上げられる。
「
闇を中心に波動が一瞬で世界に広がった。それに触れるのと同時に、世界に存在するあらゆる魔力の結合が強制的に解除され、その力を失った。そこに展開されていた大量の魔法による防衛術式、システム、機械、その全てが一瞬で魔力結合の分断により零へと導かれて機能停止を施すだけではなく、それに飲み込まれた魔導士のリンカーコアが一時的に窒息するような苦しさを味わう。
『GO! GO! GO!』
「さぁ、ショウタイムだ」
瞬間、闇から一気に飛び出した。飛び出した闇は人が一人、入れるだけの大きさをしていない。それこそ半身を隠すだけが限度だろう。人間が二人、入り込むには余りにも狭すぎる領域だ。だがそれを可能とする法則がこの世界には存在する。それを実現してしまう技術が存在する。そしてそれはこの世界では最もありふれた一つでもある。故に飛び出す、闇の中から。拘束具の様に大量のベルトが各所に装備されている黒く染まったコートの裾を靡かせながら髪を光の中で揺らし、一気に残った電子カメラと意識を保つ人々の前に姿を晒す。結合分断の威力を最小限レベルに抑えていたおかげか、多くの警備員が壁などに寄り掛かる様に意識を保っている。
そして視線を向け、動けないままに口を開く。
「怪盗ネメシス―――!」
ニコリ、と笑いながら飛び出した先から一気に通路へと飛び込む。魔力を身体能力の強化に使いながら正面、道を塞ぐように結合分断に耐えた魔導士や警備員が道を塞ごうとする。
「おい、黒騎士! 耐えてるやつ多いじゃねぇかこの無能!」
「これ以上の出力は死人が出るんだよ!! 見せ場だと思って頑張れ!」
「奴を止めろぉ―――!」
両手を抱擁する様に広げながら正面に立つ警備員たちの姿を見た。魔法は使えないようで、質量兵器頼みの武器を取り出した。余程展示品が大事なようだ。その姿を見て、はっはっは、と笑いながら少しだけ、気力を体に漲らせながら、何百回も繰り返してしてきたシンプルな動きを再現する。
「ネメシス流怪盗法―――」
警備員の合間を通り抜け、その簡単な作業を一瞬で腕を振るい、完了させた。一瞬だけゴキリ、と指の関節が音を鳴らし、そして一秒ほど時間が遅れて背後でばたり、と倒れる音がする。振り返る事もなく、
「―――意識を盗む、ってな」
背後で意識を奪われて倒れる警備員たちを置き去りにし、一気にホールへと飛び込む。そこに存在する警備員たちの数は多いが、ほとんどがグロッキーという形で倒れているのが見える。ざまぁねぇな、と笑みを零しながら倒れている警備員たちを飛び越えて、ホールを駆け抜けて行く。レーザーフェンス等の防衛装置も結合分断によって完全に機能が停止している。ハイテクの防衛装置や防犯装置は大抵が魔力を利用した技術の塊である為、黒騎士の結合分断を一発叩き込めば、それで大半が機能停止する。
故に、ゴールまで阻むものは一切何もない。
大型展示ホールを抜け、警備員を乗り越えながら、一番奥の特別展示室へと到達する。その奥、中央には厳重にケースで保護された美しい輝きのネックレスが存在していた。まるで太陽の光をその中に封じ込めたような大粒の宝石を一つだけ飾った黄金のネックレス。Sランク砲撃にさえ耐え切る対砲撃硝子による展示品に手を伸ばす、
伸ばされた手はガラスをすり抜け、ネックレスを掴み、そしてガラスを通り引き抜いた。そうやって手にした至高の美術品を掲げ、あらゆる闇を照らすその輝きをコートの内側に押し込み、それと入れ替わる様にメッセージカードをネックレスのあった場所に入れる。
「太陽妃の首飾り、確かに頂いた」
そこに怪盗の美学がある。気づかれずに仕事を果たすのは美しくない、楽しくない。対決し、遊び、そして一切の死人を出さずにお宝を奪うからこそ、怪盗という遊びにはどこまでもスリルと快感が付きまとうのだ。それが怪盗のルールと呼べるものであり、それを破ればただの窃盗犯でしかない。この美学、ルールこそが怪盗とその他の強盗団を分ける絶対的なルールになる。
『お見事です』
『さぁ、こっからは大脱走だ! ルートを表示するからさっさと逃げるんだ! アジトで温かいピザが待っているよ!』
「それを聞いたら頑張らざるを得ないな」
カードを残した所で犯行完了、後は逃げ出すのみ―――増援が来る前に。
システムのほとんどは結合分断によって停止している今、復旧までの間は隔離するようなシステムは行えない。その気になれば壁を壊して逃亡する事も出来るが、それはそれで最終手段だ。破壊して突破して行くのは怪盗らしくない。
故に、一気に来た道を戻って行く。床を蹴り、一気に飛び出す様に跳躍しながら体を加速させる。そのままホール、通路と抜けて一気に距離を引き離して行く。既に撤収作業に入っていた黒騎士と入り口間近で合流しながら、並走して大型美術館の出口を目指して行く。ほとんどの設備が結合分断で死滅している以上、そこまで難しい事では無かった。扉を抜け、ホールを抜け、通路を抜け、そして正面の扉を抜けて一気に美術館の外へと飛び出した。
それと同時に、大量のライトが生まれた。一斉に照らす様に生み出された機械光は美術館から飛び出してきた此方を一斉に照らすものであり、それと同時に此方へと向かって銃口が向けられるのを気配で感じ取る。だがその引き金が引かれるよりも早く、勢いよく跳躍し、美術館の壁を蹴って一気に管理局の壁を三角飛びで乗り越える。
そうやって宙を舞うのと同時に、足元に一枚の頁が出現する。
空でそれを足場に、更に一歩跳躍し、その先に頁が出現する。
視線を横へと向ければ、飛翔する黒騎士の姿が見えた。彼の横に浮かび上がる銀十字を刻まれた本から頁が飛び出し、それが跳躍する先に足場として設置されている、それだけの事だった。そしてそれを使って美術館の前に陣取っていた部隊を飛び越えてしまえば、
後は走って逃げるだけだ。
『逃亡ルートを表示します』
「では、アジトで会おう」
「あぁ、アジトで!」
そう告げると黒騎士が飛翔し、一気に加速しながら夜空に消えて行く。それに合わせ、此方も全力で道路を蹴り飛ばす様に体を弾丸の様に前へと飛ばした。魔法によって強化された肉体はそれこそ飛行や車両による移動に負けないほどの加速を一瞬で生み出し、音を置き去りにする様に体を前に飛ばした。
「あのクソ
「出来るものならな」
笑うように言葉を返しつつ、跳躍して美術館前の長い道路を越え、そのまま街の中へと飛び込む。黒騎士が逃亡出来る様に視線を此方へと集中させるように派手に、地を蹴って、そのままビルの壁へと着地し、そのままそれを足場にして一気に走り、ビルからビルへと跳躍する様に素早く移動して行く。漸く結合分断から回復してきた管理局員が追いかけ始める。とはいえ、動くのは治安担当の陸の部署。これが空の魔導士なら結合分断の最小限
段々と調子の悪さから足のペースが落ちて、やがて追いかけなくなってくる。だが完全にドロップアウトしない様に、適度に足を止めながらビルの上から見下ろすのは、注目を此方に集め、黒騎士の方が空から逃げ切れるようにするためだ。彼方はどう足掻いても交戦すると出力過剰で被害と悪目立ちが過ぎるのが原因だ。故にある程度姿を晒し、誘導する様に引き込んだところで、
『到着しました』
「では、太陽妃の首飾り、確かに頂いた」
ビルから一直線に逆さまに飛び降りる。落下しながら過ぎ去って行く高層建築の窓から、此方を見つめる多くの目が見える。それに向かって笑みを向けつつ、下、大地に落下する。
そのまま下へ―――下へ。
完全なる闇が支配する領域へと落下する。光が届かない場所へと。そこへと一切停止する事もなく、体が衝突し、沈み込み―――外の世界から完全に消え去る。そうやって隔離された、闇の中の世界へとビルの上から落下して着地し、立ち上がる。闇の中へと視線を向ければギリギリ追いかけて来た陸士たちが探す様に視線を巡らせ、闇の中に踏み込んでくる。そして衝突するコースで前に進み、
―――体がすり抜けた。
『虚数潜航完全成功、お見事です』
「呼吸する事を褒められてもな。とりあえず光に注意してアジトに戻るぞ。闇から出ちまうと一瞬でバレるからな」
『ではそこまでナビゲートします』
「頼むぜ相棒」
告げながら駆け込んでくるビルとビルの間の隙間、その闇の中。そこを探しに来る陸士の姿が増えてくる。やがてここも光によって照らされ、闇が潰されてしまう。そうなってしまう前に逃亡するのに限る。じゃあな、と最後に一回だけ仮面に触れて会釈をしてから闇から闇へと見られない様に駆け抜けて去って行く。
「かんぱーい!」
「乾杯!」
「いえぇー!!」
持ち上げたグラスを勢いよく叩きつければグラスから酒が零れ落ちる。それが手を濡らすのを気にせずに一気に自分の口元まで運び、それを浴びる様に喉の中へと流し込む。顔が濡れるのを気にせず、服が濡れるのを気にせず―――というより、アジトに戻った時点で変装は解除され、服も上を脱いで上半身半裸の状態、
怪盗成功の祝いに、何時もの如く宴会を開始していた。こうやって床もソファも汚すのは一度目の事ではない。何度か繰り返してきた事だった。だがこれほどの大物を盗み出すのは初めての事だった。活動を開始してから数年、このメンツが集まってから1年になるだろうか、それで初めての大物だった。
これがテンションの上がらない理由がない。
「見てたか? 俺が盗み出す瞬間をよぉ! すっと、一切傷つけずに取り出したのをさ! 他の誰にもアレは真似できないだろうなぁ……やっぱ、今回のMVPは俺で決定だろうこれは……」
「は? 正気? どう見ても俺の結合分断があったからこそどうににかなった作戦だろう今回は? そもそも俺のディバイダーなしじゃ難易度激上げするだろう? 完全分断兵装だよ? 零化現象なしで潜入できたと思ってるの? 地下から潜入した時に遭遇した硫酸ガス型の創造生物、アレ、俺が零化で分断解除しなければ死んでたよな??」
「はぁ……これだから現場主義の脳筋は……。どこからどう見てもMVPは常にバックアップを行っていた僕なんだよなぁ……。そもそも僕のバックなしでまともに進めたと思っている? 誰がシステムの解除とかやったと思ってるの? そもそも獲物の情報に関してだって僕が無限書庫からぶち抜いてるんだよ? 誰のおかげで狙えたのかなぁ!」
「これだから無能の三下共は……だが今夜の俺は? 超良い気分だし? 酒宴の戯言って事でとりあえず許してやるわ。まぁ、俺が本気になったらソロ突破余裕だしな」
「は? 何言ってんだこいつ、一番最初に怪盗やってたからって別にトップって訳じゃないだろ頭おかしいんじゃねぇの。でもまぁ、確かに酒が入って狂う事もあるし聞き流す事にしてやるか」
「これだから低学歴共は……おっと、思わず事実が洩れちゃったかな? まぁ、でも今でも表向きにエリートコースを歩んでいる僕とは違って、どこまで吠えた所で無能学歴なしの底辺犯罪者と、輝かしい経歴を持っている僕ではどちらが本当に有能なのかは社会とこの僕の頭脳自身が保証してくれているからね、論ずるまでに値しないけど……まぁ、そうだね、今夜ばかりは水に流そう。気分がいいしね」
「……」
「……」
「……」
無言で手袋を取り出して装着し始め、それに合わせ少年がゆっくりと本を取り出し、青年が装着している眼鏡を調整する様に触れた。この二人を相手にして、どちらも面倒だから二人一遍に意識を盗んでやろうか、そう考えた途端、パンパンパン、と手を叩く音がした。視線を外し、部屋の入口の方へと視線を向ければ、
長髪の女が二人、料理をトレイの上に乗せて運んで来ていた。
「はいはい、
「チーズケーキが好みだったと記憶しているので、持って来ました」
「わぁい!」
「僕達仲良し!」
「ラブ&ピース!!」
武器を捨て去って、テーブルの上にスペースを開ける。食べかけのピザを口の中へと流し込む様に一気に食べながら、その熱さにむせそうになる。それを何とか堪えつつ、クリーム色の長髪の少女―――リリィが運んできたミートパイを一つ、手づかみで受け取って口へと運んだ。口の中に焼き立てのミートパイのサクサク感と、肉の感触が広がって行き、言葉では表現できない満足感が満ちて行く。
あぁ、これが幸せか。そう思いながらミートパイを飲む様に食べ上げて行く。やばい、口の中でまるで蕩けて行くように食べて行ける。体が運動で消費したカロリーを求めているのとは別に、金を出して材料を調達しただけの成果がここにはあった。腕前も昔と比べ、かなり良くなっている。最初は食べられない物を出してくるもんだから、実に困ったもんだった。あぁ、幸せだ。そんな事を考えながらミートパイをもう一切れ奪うと、
「もぉ、トーマもね、もうちょっと綺麗に食べてよー」
「今日だけ、今日だけは許して。というかそれを言うならアレクにだって言ってくれよ」
「アレはエリーが担当だから」
「トーマ、お前の女に家主をアレ扱いさせるの止めさせろ」
「いや、だってお前のジャンルってアレじゃん」
解せない。そう思いながらどうしたものか、と思っていると横に長い銀髪の女が座る。その片目は黒い眼帯によって覆われており、左腕も欠損しており、袖のないスリットが入ったドレスの様な服装のエリ―は右隣―――腕のない方を此方へと向けるように横に並び、膝の上に皿を乗せている。その皿の上にはチーズケーキが乗せられており、唯一残った空いている手には水の入ったコップが握られている。
「では、食べ終わったら此方をどうぞ。此方の方は一度口の中を綺麗にしてから食べたほうが味わえるでしょうから。ではどうぞ」
トーマへと勝ち誇った視線を向けながら、両手はフリーのまま、エリーに水を飲ませて貰い、その後でチーズケーキを食べさせてもらう。正直な話、自分でやった方が遥かに食べやすいのは事実ではあるが、それはそれとして美女にこうやって食べさせてもらうのは凄い優越感がある。どうよ、これ。今の俺人生の勝ち組じゃね? という視線をトーマへと向ける。それを受けたトーマがリリィへと視線を向け、
「俺もアレやりたい」
「トーマは甘やかすと付け上がるからダメ」
「付け上がるから……」
「いやぁ、良い彼女じゃないか。しっかり彼氏の事を理解してくれているし」
眼鏡を少し押し上げながら普段は首の裏で髪を纏めているのを一時的に解いて、ラフな格好で一人用のソファに座っている青年、ユーノ・スクライアが笑いながらトーマをからかった。それを受けてトーマは味方がいないのを理解し、がっくりと肩を落とした。その姿を見て笑いながら、あぁ、と息を吐き、ソファに沈み込む。
廃墟都市の中にあるアジトは師から受け継いだものの一つだった。地下工房の様な施設であり、
「しかし、こりゃしばらくはお休みだな」
「だね。正直陸が名誉奪還の為に必死に捜索するだろうし、ある程度ほとぼりが冷めるまでは怪盗はなしだね」
「折角大仕事したのに! ……っては流石に言えないよね。俺もリリィも元々生活の為に協力し始めたんだし、これで生活する分には困らないし、こっちは問題ないよ。リリィは?」
「これでしばらくは生活するのに困らないし、私も問題はないかな。ただ、遊んでばかりだけじゃなくてアルバイトを見つけないと駄目だけど……解っているよね、トーマ?」
「……ハイ」
完全にリリィに尻に敷かれているトーマの姿は、アレで中々に相性が良いカップルだと個人的に見ていて思う。トーマはどこか自分に関しては不注意な部分がある。そして
難儀な物だった。
放逐された元貴族。
無限書庫の司書。
管理社会に居場所を失った少年。
そして人の形をしたデバイスが二人。
これがこの怪盗団の正体だった。たった5人だけの怪盗団。これ以外のバックアップなんて存在せず、それぞれが背景に何らかの事情を抱えている。ただ求めて出会って、怪盗となった訳ではなく、それぞれに理由があって出会ってしまった。そしてその結果、意気投合してこういう形にまとまっている一つのツギハギチーム。何時、どこで分解するのか解るもんじゃなかった。
だけどこうやって飯を食って、一緒に酒を飲むのはどこまでも楽しい連中でもあった。
「しばらく活動自粛となると、カヴァーの方をどうにかしたほうがいいな」
「僕は無限書庫に掛かり切りになるだけだからいいけど、アレクとトーマはどうするんだい?」
ユーノの言葉にトーマが答えた。
「元々俺とリリィは行き場所が現代社会にはないしな、こうやってアジトを提供されなきゃまともに暮らす場所さえないし。廃墟都市内で出来る仕事はするつもりだけど、それを抜きにすればいつも通りここで暮らす事になるよ。というか未だにそこら辺は慣れないんだけどいいんだよな?」
トーマの視線が此方へと向けられる。それに対して片手を持ち上げながらどーぞ、とポーズを決める。
「そもそもアジトはここだけど、セーフハウスだったらまだ3個あるしな。一番重要なのがここだってのはそうだけど、別に掃除して維持してくれる分には俺が来て掃除する必要はなくなるし、それで困る事はなにも無いんだよな。つーわけで、遠慮せずに使ってろ。家賃はお前が余裕が出来たら徴収すっからな」
段々とテーブルの上に乗せられていた料理が消えて行く。転がるビール缶。空っぽになったワインボトル。開けられたピザケース。話しながらも飲む様に食べられたミートパイ。そうやって広げられたスペースに足を乗せてくつろぎながらまぁ、と声を零す。
「拾った以上は面倒を見るから安心しとけ、そこは」
「普段はアレ扱いの癖に……」
「叩き出してやろーかてめー」
「冗談だよ、冗談。だからほんと、追い出すのは止めてください……」
トーマの声が震えている。しかしその年齢でホームレスとは中々にロックな環境だよな、としか言えない。いや、人の事を言えないのは自分もそうなのだが。自分もなんだかんだで実家を捨てたホームレス元貴族だ。実家を捨てた事に関しては未練が残らないと言えば嘘だが、それはそれ、自分の選択肢を変えるつもりはなかった。第一、今の怪盗生活は楽しい。
これを止めるなんてまずありえない。
「で、アレクはしばらくの間、どうするんだい?」
「俺か? 適当な女の家に転がり込むか、或いはギャングの用心棒でもやって食いつなぐよ。たぶんこの中で一番生き汚いのは俺だしな、その気になればなんだってやるさ。トーマ君がぁ? どうしてもぉ?? っていうならぁ? 仕事の一つや二つぅ? 紹介してもいいけどぉ?」
「腹立つなアイツ……」
「煽る事に人生の全てを込めているって感じが凄いよね」
流石にそこまでじゃないけどなぁ、と苦笑しながら酒を新しくグラスの中に注ぎ、それをちびちびと飲む。今夜の大物取り、太陽妃の首飾りは現在、リリィが装着して身を飾るのに使っている。正直、小娘には過ぎたものだが、それはそれとして、宝石や装飾品は着られてこそ意味がある。美術館で展示しているだけではどうしようもなく勿体ない。
外に持ち出せず、ここで装着するだけだが、この方が首飾りとしても本望だろうと思う。
「最初に盗んだのは練習ついでのスリだったんだよなぁ……そこからここまで来たと考えると結構遠い道を通って来たもんだ」
最初は放逐されたところを師に拾われて、修行しつつスリで生計を立てて技術を練習した。それで師が死んで最初の仕事はエリ―だった。エリーという存在そのものを現実に盗み出すのが最初の仕事だった。その次は偶然見つけてしまったトーマを助け出す為に、トーマとリリィを拘束していた施設から二人を盗み出す事だった。その次はハメられて冤罪をかけられたユーノの疑惑を晴らす為に無限書庫を私物化させようとした管理局高官の不正の証拠を音声と共に盗み出してユーノに告発させた。
今思えば、普通にまともな宝石や美術品を盗むのはこれが初めてではないだろうか? だとしたら、そういう意味でも今日はお祝いだろう。ある意味では順調なステップアップだったし。
「ま、年内は全員大人しくしている、って事で。余り派手にやって目を付けられたくないし」
「異議なし」
「右に同じく」
「異議はないよ」
「ありません」
「じゃ、全員一致で年内は活動自粛で。それまではバレない様に気を付けつつ、健康に気を付けて適度に鍛えながら生活しよう」
「お宝はどうする?」
「アジト内でなら使用自由で。ただ装備調達とかでお金に困る様だったら俺が売り払ってくる。一応
「まぁ、要らない警戒と、そして堕落しそうな日常が待っているなら何とか避けないとね」
そう言う訳だ、と声を零しながらソファに体を預ける。しばらくは怪盗する事もない、と考えると少々寂しさを感じるのも事実だった。下調べをする段階から発生するお宝を盗むためのスリル、そのロマン。それが体を駆け巡る快感が忘れられない。大物を狙ったが故に今は知名度も上がっている筈だ。
明日の朝にはニュースとして間違いなく上がっているだろう。そう思うと笑みが零れてしまう。テレビで、ニュースで、新聞で、そしてネットで、怪盗という仮面を被り、顔も性別すらも偽って活躍している自分がトップを飾るのだ。最初、怪盗の才能があると言われへんな修行に付き合わされたりもしたが、今では師にそれを感謝している。こんな楽しい事、家に残っていれば絶対に経験する事は出来なかっただろう。
思い出そうとすれば何時だって思い出せる。
自分の全ての始まり―――それは5年も前の出来事。
まだ自分が13歳の子供の頃の話だった。
俺は―――家を捨てた。それが全ての始まりだった……。
言うても管理局に対して反逆的な物語は大体ピカレスクロマンにジャンル出来るような。
という訳で熱があったので怪盗モノ。まだ出番がなかったキャラを起用しつつ、色々と挑戦。怪盗なので不殺という事で。
登場キャラに関しては性格、設定、背景、年齢の調整が施され、なのはメインシナリオそのものもだいぶ弄っているので、As以降の年表や展開、年齢に関してはもう設定とかを借りただけ、って状態になってます。Sts? 奴は死んだよ。
という訳で、現実を盗む怪盗モノ、始まるよ。