―――夜。
「さて、と……流石に警備が途絶えないか。当然と言っちゃあ当然だけどな」
怪盗用の黒い拘束具の様なコートの裾を軽く揺らしながら、影の中から反対側の通りにあるベルカ大博物館の姿を見た。夜になってもライトアップされている博物館からは人の気配が消えない。当然ながら中にある値段にする事の出来ない価値がある品々を守っているからだ。究極的に、機械と魔法は騙せ、人間を騙せないものがある。その事を考えると常に人の警備を置く必要がある。故に警備員が昼間よりは減っているが、それでも残っているのが見える。
「アレク、私に異論はないのですが……本当に忍び込むつもりですか?」
「あぁ、お前の時と同じ
「いえ、妹想いの良い兄かと思います。私に構ってくれている分には他を気にかけても文句も不満もありません」
「言うじゃねぇか」
13次元格納空間からオペラグラスを取り出し、それを使って覗き込む。既に街灯が灯る夜の時間帯ではあるが、明るくなるまではこの街灯は消えない。となるとある程度、影は制限されてくるから《影に潜む》だけではなく、AR迷彩と気配遮断による隠密行動も必要としてくるな、と判断する。少なくとも普通に歩けば一瞬でバレる。怪盗ネメシスは数か月前に活動したばかりだし。
今回は1回も見つからず、痕跡すら残さず忍び込み、調べて出てくるのがミッションだ。まぁ、二代目ネメシスとしてはこれぐらい出来なくてはまるで意味がない。警戒もされていないこの状態ならそこまで難しい事はないだろうと判断する。ともあれ、そろそろ行動に移るべきだ。振り返り、エリーの方へと視線を向けた。
「
「私の身は何時でも貴方と共に」
戦闘形態姿、スリットの入ったドレス姿のエリーがいる。形態として二種類の姿があるらしいが、エリーが単体で戦闘を行う様な事がない為、専らプレイ用以外では使用していない。根本的に前に立たせる事そのものが危険だから当然と言えば当然なのではあるのだが。とはいえ、その考えは暇なときにやれば良い。
右手を伸ばし、それでエリーの頬に触れる。仮面を手にする様にその顔を掴み、引き寄せた。その動きに合わせエリーの体が引き寄せられる様に一気に近づく。そのまま反転、背中から此方へと抱き寄せられる様に体が吸い寄せられる。
そのまま引き寄せた体が沈み込む様に重なる。融合デバイスを構成する細胞の一つ一つが合致し、肉体と結合して行くのを感じる。沈み、混ざり、結合し、一体化して行く。そうやって肉体が少しずつ変容して行くのを細胞単位で感じ取れる。その行いが激痛を生むなんて事はなく、変容し、変わって行くその行いそのものが異様に絶頂してしまいそうな程気持ちが良く、その快楽を抑え込む為に歯を食いしばり、融合デバイスとの合一化を完了させる。
耐性が無ければそのままずるずると精神まで同化して戻れなくなってくる。相性が100%のデバイスとの融合行為とはそういう危険性を孕んでいる。そもそも性別の変化、姿の変化なんてものは副産物でしかない。融合デバイスと相性が良いと、デバイス側の特徴が発現するのが普通ではあるが、その相性の度が超えると今の様に、精神すら溶けて混ざる様な快楽と共に、存在そのものが変容しかかる。
その為、これはほぼ暴走状態とも呼べる融合行為になる。それを抑える為に普段はリミッターやらセーフティが存在し、それで融合係数を低下させるものだが、個人的にはこれが変装にも便利だし、欠けて衰弱しているリンカーコアを補強する手段としても優秀である為、行っている。
「ふぅ―――さて、潜入ショウタイムだな」
手を顔から外せば、そこには顔を飾る様に仮面が付けられている。怪盗らしい恰好へと変身完了した所で銀や金に近い光沢をもつ白髪を後ろへと流しながら、影から影へと一気に疾走する様に、影そのものとなって飛び込んだ。街灯と街灯の合間に発生する僅かな影の中を走り泳ぎ、飛び込みながら瞬間的な加速と跳躍で移動し、気配を完全遮断しながら一気に反対側の通りから大博物館の前まで移動し、
影の中を沈み、博物館の敷地を囲むフェンスをすり抜ける。
「お邪魔しまーす」
『と、言うには少々早いかと』
「おやおや、これはこれは可愛らしい歓迎で」
敷地内には警備用のロボットが放たれていた。それ以外にもセンサーの類が稼働しているのが見えるが、影の中の虚数領域を歩いて進んで行く。ロボットやセンサーを隠す為なのだろうか、大博物館の閉まっているこの時間帯では、ライトアップの類は行われていないらしい。となるとここら辺は《影に潜む》だけで終わってしまう。ちょちょいのちょい、と影の中に存在する虚数領域を歩いて抜けて行き、機械や魔法によるセンサー類を全て無視して突破する。
精神系魔法か、或いは発狂者か、それとも超精神的な能力持ちでもない限りはここら辺の影の虚数領域は潜れない。そういう精神的超越者がここら辺には存在しないという事の証でもあった。割と真面目に潜入の為の最高の武器なので無力化されるのは困るので、使えて良かったとも思うが。
『入り口を探索中……完全に正面以外からは空いている場所がありませんね』
「だが抜け道という物は古今東西どこにでも存在するもんさ。なければ? 作れば良い。そうやってルールってのは常に新しくされてきたのさ」
中庭を足跡を残さない様に重量を乗せない歩きで素早く抜け、そのまま大博物館の横にまでやってくる。基本的に壁ばかりだが、スタッフ用休憩室に繋がる窓を発見する。それに手袋越しに触れて、感触を確かめる。
「んー、当然の様な耐次元ガラスだなぁ」
『抜け道発見ですね』
見えない壁とは違って、向こう側が見えている硝子は盗法による透過が通じる物質でもあった。師匠はワンランク上の向こう側が見えない普通の壁なんかもすり抜ける事が出来たらしいので、未だに追いつけねぇなと思いつつ、軽口を零す。
「だぁな。ちょい胸がつっかえそうだけどそれは―――っと」
小さな窓を透過する様に足から先に飛び込み、関節を軽く外しながら隙間に押し込んで向こう側へと胸を軽く引っ掛けつつも通り抜けて、着地するのと同時に関節を元に戻した。やり過ぎると癖になるからあまり関節外しはしたくないのだが、このルートはソロ専用だな、と絶対にトーマでは入ってこれない道だと思いつつ立ち上がる。
休憩室は今の所、誰も利用していない状態ではあるが、光がついていた。おかげで影からは強制的に吐き出されていた。まあ、仕方がないと判断する。それに軽く休憩室から覗き見た感じ、大博物館全体のライトは落とされている様だった。
と、
「あーあ……疲れた……そろそろ休みをいれるかぁー……」
女の足音と声が聞こえて来た。それに反応し、素早く扉の影に来るように下がり、しゃがんだ。音と気配を殺して潜んだ所で、扉が開き、姿が影の中に隠れる。そうやって休憩室に入り込んできたのは、女の警備員だった。面倒臭そうに帽子を脱ぎながら振り返らずに扉を閉める姿に、丁度良いと判断する。
気づかれる前に、サクッと背後に回り込んだ。
「では少し借りるぜ」
「んにゃむにゃ……」
警備員だった女は椅子の上に座って眠っている。その体を軽く弄って服のデザインなどをエリーに覚えさせて、恰好を警備員の統一制服に変化させた。それに付属する帽子に自分の髪の毛を軽く纏めて突っ込み、目立つ白髪が帽子の下から零れない様に注意する。その上で女から
全ての生物は無意識領域によって共有意識を持ち、どこか繋がっていると言われる。故にその性質を逆に利用する。印象を軽く盗む事によって、不確かな、完全には見えない状態であれば印象による影響で、
あくまでも、顔が見られない前提だが。
前、エリーと来た時に監視カメラの位置は把握している。其方へと顔を映さない様にし、帽子を深くかぶった状態で、なるべくエンカウントしない事を祈りながら休憩室を変装したまま出る。
天井のライトは全て消えており、ついているのは足元の薄い電灯だけだった。それが最低限、足元をライトアップしている。博物館の他の区域からは少しだけだが人の気配を感じ、そして同時にその正面が軽く照らされるのも見える事から懐中電灯辺りを持ち込んでいるのだろう、こういう所は機械の誤作動防止のために魔法禁止が普通でもあるし。
場所は覚えている。人の気配を察知しながらカメラを注意しつつ、奥へと進んで行く。不用心なのか、或いはセキュリティに自信があるのかシャッターが閉まっている様な事はなかった。まぁ、まだ予告状を出した状態でもないのだから最低限の警戒状態なのはある意味当たり前だと思っておく。
そんな風に考えつつ奥へと進めば、あっさりと一番奥の展示スペースへと到着する。
即ち、オリヴィエの銀腕が展示されているスペースだった。闇のなか、僅かな光しか無いその空間でもまるで光を吸い上げる様な輝きを銀腕は魅せていた。いや、実際に光を吸い上げているのだろう。と言っても電灯とかの光ではなく、吸い上げているのは心の光、信仰の光、
「ビンゴ、
デートに来た時気になっていて、あの時はじっくりと観察する余裕がなかった。だがこうやって夜、誰もいない所で一人で観察する時間を与えられれば理解できる。まだ稼働状態にはなっていないが、これが放置されればいずれはロクでもない事になっていただろう。とはいえ、問題はこれを把握した所でそれが終わらないという事だ。今、ここで盗み出しても意味はない。
「……まぁ、ルートが解ったってところで今回は引き上げるか」
『良いんですか?』
「あぁ、核の無力化には一定の手順が必要だしな。……それにゃあ下準備が必要だ。これが後々ヴィヴィオに渡る事を考えたら、ヴィヴィオを抱き込んで行動に移したほうが早いだろうしな。つーわけで、今夜は切り上げて証拠を消したら逃げるぞ」
『映像に不審点はほぼないので、編集も楽そうですね、今回は』
「ほんとな」
苦笑しながら帽子をしっかりと被っているのを確認し、出口へと進むためにいったん休憩室へと戻って行く。とりあえず発覚した事実を頭の中で新しく情報として書き込みながら、年内は活動休止だった筈なのに、
また年内中に、一暴れする必要がありそうだ、と。だがその前に確認と共犯者の確保だ。今回に限ってはトーマもユーノも
翌日、一人で再び北部ベルカ自治区に来ていた
数多くあるベルカの自治区で何よりも重要なのが、このミッドチルダ北部にあるベルカ自治区はミッドチルダという次元世界における最大規模の自治区であると同時に、別の次元世界にある聖王教会本部に匹敵するだけの規模を誇っている。それだけ広大であり、そして力があるのはこのミッドチルダでヴィヴィオが発見され、そして残っているからだ。
つまり、大体はヴィヴィオを祭り上げる周りの力と影響によるものだった。ここ数年で一気に規模が拡大し、聖王を受け入れるのに相応しい規模にまで育ったという訳だ。そしてそれだけの大きさがあるという事は、それだけ多くの騎士やベルカ聖王教会関係者が務めているという事でもある。
基本的には大部分が一般開放されてはいるものの、関係者専用の場所もある。
ヴィヴィオが居るのはそういうエリアだ。そしてそこには八神はやてが保有するヴォルケンリッターがそれなりの頻度で出入りしているというのが事前の情報―――つまりはユーノから教えられている情報なので、エリーはなるべく遠ざけて近づけない様にしている場所の一つだった。
なので、ここに来るのは一人の時だけになる。
いつもの様に印象迷彩と呼べるような眼鏡を着用した恰好の状態で聖王教会内部へと入る。一応、一部の人間にはヴィヴィオと一緒に居たダールグリュンの男として認識されている為、一部であれば顔パスで通して貰えるだけの権限はある。
とはいえ、流石にヴィヴィオ本人に会いに行こうとするとアポを取る必要があるし、それだけで1カ月過ぎる。流石にそんな事は待てないので、何時も通り、ヴィヴィオに会いに行くのと同じ事をする。
夜の方が警戒心が高いという聖王教会は昼間の方が遥かに忍び込みやすい。
正門から堂々と一般の参拝客に紛れて聖王教会の敷地内に入り、そのまま列に紛れて大聖堂へと入り込む。ここら辺の彫刻と装飾も中々に見事で、スケッチしているだけで日が暮れるまで時間が過ごせるのだが、流石に今日は用事があるのでそれをパスするとして、大聖堂に侵入したらそこから気配を殺す。そのまま大聖堂横の騎士やシスター、関係者用の通路の中へと入り込む。
「えーと、あったあった」
修行僧用のローブを倉庫から引きずり出して、それを体に巻き付ける様に纏う。聖王家のエンブレムが彫られたローブは偽装不可の刻印が施されており、これを着て騙る様な存在はそれだけで死刑扱いされるのだが、自分のこれはヴィヴィオ本人からいつでも遊びに来いと渡された物だ。
……とはいえ、ヴィヴィオの周りの連中がそれを許さないのだが。
大体はこれを使って会いに行こうとすると理由を作ってアポを取られ、後回しにされてしまうのだ。まぁ、ヴィヴィオも真っ当な方法で使う為にこれを渡したつもりはないだろうし、これで良いだろう。そうやって姿を、顔を隠して修行僧のフリをして、関係者用の通路を抜け、大聖堂から本堂の方へと移動する。
「おっと、……」
「……」
通り過ぎるシスターや従士が此方へと視線を向けると、祈る様に頭を軽く下げた。それに合わせ此方も軽く頭を下げて奥へと進んで行く。基本的に聖王教会の教義は緩いものだ。その中で聖王教会の修行僧は厳しい戒律を自らに課す為、同じ宗派の人間からすればそれなりに尊敬される存在なのだ。故にこの恰好でも大体通れる。
後は目立たない様に存在を希薄にして、印象に残らない様にしつつ奥へと進んで行けば良い。ここにこうやって忍び込むのも一度目ではないし、そう難しい事ではない。こういう施設は人目が多い、という事実に油断している昼の方が夜よりも潜入しやすいという所まである。
まぁ、間に認証用の魔法等が立ち塞がるが、盗法を利用すればその悉くをスルー出来る。コツが必要な事ではあるが、それは存分に理解しているし、全く問題なく進んで行く。
歩いている最中に、騎士やシスターが多く在籍しているのが見える。本山程ではないが、ここも昔と比べて規模が大きくなったな、と休息日に家族でここへと訪れていた時を思い出す。
聖王教会に厳密に教義と呼べるものは存在しない。基本的に聖王教会は聖王を祖として崇め、そしてそれに続く聖王の血筋を続く者たちとして信仰する。その中でも祖である聖王と、そして最後の一人であるオリヴィエは特別な信仰を得ている。そして考え方はシンプルであり、健康に、強く、そして他人に誇れるベルカの者である、というだけである。
解釈する幅が広すぎるとでも言えるのだろうが、これはこれで人気なのだ。制限の幅が非常に緩いから自由に行動できるし、同じような考えの人間と気軽にコミュニティが組めるし。ベルカ人同士での結婚や出会いをサポートする動きだってあるし。まぁ、究極的には聖王教会とは一番メジャーなベルカ人用コミュニティだと表現するのが早いのかもしれない。
だが同時に騎士という存在に対する憧れがこのコミュニティには根強く―――いや、ベルカというコミュニティそのものに存在するのも否定できない。何せ騎士文化はベルカの根本にある思想であり、戦闘技能のプロフェッショナルとも呼べる存在である。鍛えられたベルカの騎士は、それこそ管理局の空戦型と5:1で戦っても勝利出来るだけのポテンシャルを秘めている。
その圧倒的強さに憧れるのは力ある者としてある意味、当然である。
そういう背景からか、聖王教会の信仰は未だに衰えない。特に一度滅んで、それでまた集まるほどの高い同族意識を持っているベルカ人なのだから特別信仰心にも篤いとでも言えるだろう。おかげで腐敗に関してはそこまで進行しておらず、熱心な信者で腐敗や賄賂を行おうとする連中を袋叩きにする事件が定期的に目撃され、あぁ、またか……という感じで見送られるという事もある。
まぁ、そのおかげでヴィヴィオは生き神扱いでもある。
そんなヴィヴィオの居住は今、この聖王教会深部にある。
広い敷地の一番奥、隔離された空間にあり、そこへと到達するには何個かセキュリティを超えて、その上で巡回する警備の騎士の存在をすり抜けて進まなくてはならない。間に検問の様に聳える壁もある。空を飛んだりすれば簡単に超えられるのだろうが、無論、それは目立つ。なので普通に扉を抜けるルートで進んで行く。
修行僧の恰好のまま奥へと進めばぶっちゃけ、検問している騎士に見つかる。流石に奥まで進もうとする修行僧はないから、奥の方へと行くには使える恰好ではない。とはいえ、浅いエリアでは効果は絶大的で疑う人もいない。そうやって修行僧の真似で進める所まで進んだ所で、進めるエリアの端まで移動すれば、そこには向こう側へと通じる窓が見える。無論、中からしか開けられないが―――そんな事実、自分には関係ない。窓をすり抜けて中へと侵入する。
「ここまで来たら顔を隠す意味もねぇな」
うろつく巡回の数は減るが、逆にここからは許可の無い人間は一瞬で捕まえられる剣呑さがある。まぁ、現代の王がこの先に居るのだから当然と言えば当然なのだが。とはいえ、忍び込み慣れている自分からすれば庭の様な領域だ。
ぶっちゃけ、ヴィヴィオから巡回ルートを教えられている。
影の位置、窓の位置、そしてサボタージュをしていなければ騎士たちの大体の居場所を把握している。その為、巡回ルートのどこにいるのかを影の中から確認し、通り過ぎるのを確認して全体の位置を把握する。そうやって通り過ぎたのを確認したら素早く影から影と跳躍する様に飛び込んで、姿と気配を殺して、場合によっては壁すら足場にして歩く。そうやって窓を見つけたら外ではなく窓をすり抜けて建造物内に入り込み、反対側の窓をすり抜けて向こう側に出る。
閉ざされている窓を侵入経路にするなんて発想、誰にも出来ない為、割とここら辺の警備は楽に突破できる。ここに居る連中も、まさか偶に遊びに来る為に警備を突破している奴がいるなんて考えもしていないだろうし。
そんな訳で、個人的な警備の評価はもっと頑張れ、に尽きる。定期的に男を通してるけどお前ら、それでいいのか? という言葉を与えたい。
まぁ、警備を強化されても困るので、証拠を残すようなことはしないのだが。
そうやって騎士たちの警備を突破すれば、聖王教会の奥に到着する。ここら辺から更に人の数が減り、今度は使用人などの姿が見えてくる。ここに来ると隠れるよりも逆に堂々としていた方が怪しまれないのは、ここまで突破できる存在というのは基本的に前の警備を通された人間である、という認識が使用人や働き手たちに認識されるからだ。
故に騎士たちの警備網を抜けて窓を通り抜けてヴィヴィオのいる居住地まで到着し、立ち上がり、隠れる事無く足を踏み出しながらヴィヴィオがいると思われる家屋へと向かう。その途中、働いている住み込みの侍女の姿を見かける。ウィンクして手を振れば、
「もぉ、また忍び込んで……ヴィヴィオ様ですか? アインハルト様ですか?」
「残念ながら今日はヴィヴィオに少しな、居る場所は解るか?」
「今日は自室で勉強中ですよ。侍女長が出払っていますし、逢引するなら今がチャンスです!」
「おう、ありがとうな」
「いえいえ! それではー!」
笑顔を返し、手を振りながらヴィヴィオの自室へと向かう。
まぁ―――そういう事だ。
侍女長以外の侍女たちは大方、ヴィヴィオの味方である。何せ、女という生き物は歳を食わなければ大抵ゴシップが好きで、そして夢見がちな生き物であり、お姫様の逢引なんてものはキャーキャー言える内容なのだ。夢見がちな女子としてはこれ以上ないゴシップネタになるし、見ていて関わっていて物語に出演するような気分になれる。
手伝わない理由がない。
まぁ、真面目にやっている連中はご愁傷様という話である。
なのでここでは普通に歩いていても割と問題はない。一番の敵はヴィヴィオの言うババアなのだが、それ以外は大体が味方である。その本人もどうやら今日は出ているらしいので、遠慮なく歩ける。
故にそうやって通り過ぎる侍女たちに手を振り、さっさとヴィヴィオの所まで行こうとすれば、その道を塞ぐように一つの影が出現した。冬が近くなり、寒くなって来たのかマフラーを着用するその姿を久々に見た気持ちだった。彼女はそうやって道の前に立ちはだかると、露骨に溜息を吐いた。
「出来る事ならアポを取ってから来てください」
「解っているだろう? 間に一体何人挟んで監視されて会話するとか俺もヴィヴィオも勘弁だぜってな。話している間ずっと睨まれているんだぜ、俺? めんどくさくてしょうがねぇよ」
「いえ、確かにそれはそうですが。それでも社会にはルールという物があるんですから、それを守ってくれないと困ります」
「めんどくせぇ」
「そう言うと思っていました」
彼女―――ハイディ・E・S・イングヴァルトは所謂
オリヴィエとは種類が違うがヘテロクロミアをしており、見た目もヴィヴィオに匹敵する美女になる。今は戦闘形態で出現し、ミニスカートの緑と白のバリアジャケットを纏っているが、普段はロングスカートの清楚な服装を好んでいる、正統派の美少女とでもいうべき女だ。ただこれがそこそこ頭の固い娘で、こうやってヴィヴィオに会いに行く時の最後の壁として立ちはだかる。
……まぁ、それがとある理由から最後まで保つことはないのだが。
「お帰りください、アポは私が取っておきますので」
「おや、可愛らしい言葉だなハイディ。もっと強気に出ても良いんだぞ、勝てると思うのならな」
ニヤリと笑みを浮かべ、ハイディを挑発する。その言葉にハイディは表情を変えず、マフラー付きの戦闘形態で此方を睨み、そして何時もの如く、追い返す為に戦いを挑んできた。
ネメシスちゃん公開&ツンツンハイディちゃん。偶にはツンツンなハイディちゃんも悪くないよね。だってその先にはデレがあるのだもの……きっと……そのツンが1話以上続くと信じて……。
それにしても性癖の絡む話は執筆が早い早い。