ただ盗めば良いという訳じゃない。
ネメシスとは現実の怪盗である。認識を奪う者である。そしてそれに触れるにはそれを理解する必要がある。ただ盗むのではなく、理解して盗むのだ。それが怪盗ネメシスという存在の大前提でもある。心、存在、願望、その事柄への理解が力へと変わる。触れられる領域の拡大へと移る。その為、基本的に影、虚数、精神心理などに関する学術書は片っ端から読み漁って、自分に理解しやすいように把握している。そも現実改変をベースとした事象は理解の力なくては非常に無力だ。
何せ、概念ベースの能力はほとんどが言葉遊びだ。だからそういう意味では知恵が最大の武器となる。人類にのみ与えられた知識を活用する術、知恵。それが未知の脅威に対して最大の武器となるのだから人生とは実に面白い。
まぁ、そんな事実はともあれ―――盗むのであれば、その想いを理解する必要がある。その想いだけではなく背景、歴史、用途、所有者等の情報を頭に叩き込んで行く事で盗むときの精度が上昇して行く。例えば見知らぬ人間相手であれば最低限の窃盗しか行えない。意識、呼吸、視線、魔法程度が限度だろう。だがこれが例えば良く知るハイディが相手であれば心、技術、思考―――果てには一時的に死さえも盗み出して死んだ事実を掻き消せる。
ネメシス流怪盗法とはそういった現実改変に対する概念によるカウンター術である。理解する事で手が届くようにして奪い出すのだ。大衆がそれを目撃する事で奪われたという深層心理での共有意識を理解し、その認識で現実を元に戻すという手法である。
故に大前提として、知識が必要なのだ。馬鹿に怪盗は務まらない。日々の鍛錬が忍び込むための体を作り、そして日々の勉学がターゲットへの理解を生み出す。つまり勉強しなくてはならないのだ。ターゲットはオリヴィエ・ゼーゲブレヒトが保有していた戦争用銀腕。持っている情報はそれだけであり、事前に調べて解ったのは聖王女オリヴィエが着用していた義腕はエレミアによって贈られたものであったという事実だった。そしてそこに自分は大量の悲しみを感じていた。
それのみである―――つまりは不十分である。
調べなくてはならない。理解しなくてはならない。そしてそういう時、丁度都合の良い奴が一人いる。
次元世界最強の情報の集積地。そこに就職している実質的な支配者。つまりは無限書庫の存在になる。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトに関する正確な記録は
まぁ、それが見つかる前に横から掻っ攫って読んでみようという考えだった。存在するなら。どうせユーノの事だから本気で探している訳もないのだと思う。あの眼鏡フェレットもだいぶ悪どくなったもので、優先度が低いのであればある程度遅延させて金を毟り取る事を学習している為、かなり懐に金があるらしい。
頼れるものはやっぱりコネだよな、そう考えながら無限書庫に入って、
ピンク色な女の子の声に迎えられた。うん? 間違えたかな? と思いながら正面を見たが、ロングスカートのミッドスタイルメイド姿の女の子が二人、笑顔で此方を迎え入れる姿が見えた。その姿を良く見てから、使っているメイド服の値段は大体一着15万相当のオーダーメイド品だな、と怪盗の性として勘定計算をしてから、両手で文字を作り、
「タイム」
「はい、タイムですね、お客様! メイ知っています! 偶に男のお客様がベッドの中でタイム! タイム! あーあー! あー! タイム! タイムぅぅぅおほおおおぉぉってするの!」
「失礼、妹は少々頭が弱い方でして」
「成程……成程?」
久しぶりに思考停止していた。とりあえず無限書庫へと通じる扉を見事なバックステップで脱出しながら扉を閉めて、そしてふぅ、と息を吸いながら眼鏡を取ってから両手で顔を抑え、もう一度息を吐く。空間倉庫からパイプを取り出し、そこにハッパを詰めようとしたところで流石に正気に戻り、倉庫の中に叩き込みながらゆっくりと、扉の方へと歩いた。
「……良し。大丈夫だ。俺は正気だ。ピンクのカバとかまだ見えてないし。まだ正気を失ってない。今日はまだキメてない筈だし。そうだよな? うん、そうだ」
良し、と呟きながら再び無限書庫の扉を開いた。
「いらっしゃいませ、お客げほっごほっ!」
「あぁ、途中でドジっ子ルーチンが稼働しちゃって……!」
「あざとい、妹系ドジっ子方実にあざとい」
「使えそうなのでそのデータ、頂きますねー」
「増えてるぅ……」
えぇ……と、困惑の声を漏らしながら扉を開けた先に居るメイドの姿が見えた。メイド服によって良く隠れているし、かなり消音されていて常人では気付けないだろうが、機械音が聞こえる。それに存在そのものから心を感じない。いや、存在そのものに作成者の異様な情熱と込められた魂を感じ取れるが。それでも心を形成するレベルではない。まぁ、職人芸レベルの作品という所か。人間、意味不明な状況に直面すると冷静に変な事を考えるよな、と冷静になって考える。
というか俺がトリックスター的なポジションの筈なのだが、何なのだろうか、これは。メイドロボ―――侍女式自動人形が合計で5体程、入り口に集まっている。それ以外にも無限書庫の奈落へと向かって視線を向ければ、本棚の整理やクリーニングで働いている無数の自動人形が見える。しかも全員メイド姿の侍女式だ。
「なんてこった、俺はメイド・イン・ワンダーランドへ来ちまったのか」
「侍女なだけに」
「だけど待ってください! 無限書庫は異界じゃありません! ワンダーランドのランド部分を訂正する必要があります!」
「一理あります。ここは書庫なのでランドではなくルームの方が正しいかと」
「是。命名インフィニット・メイド・イン・ルーム」
「翻訳して無限のメイドがすし詰めされた部屋」
「この世の地獄ですね! でもある意味天国! ヘブーン! メイド・イン・ヘヴン!」
「というか書庫部分はどこへと消えたんだそれ」
やべぇなこいつら、一生会話が終わらないぞぉ? おかしいなぁ、仕事の事前調査の為に無限書庫に来ていた筈なのに、まるで異次元へと到達してしまったような気分だった。しかもこれ、改変の反応がないのでリアルである。現実なのである。誰かの持ち込み品なのである。嘘だろお前。誰だよ発狂した奴。出直そうかなぁ、と思ったところで、知っている気配が近づいてくるのを感じ、視線を無限書庫の内部へと向けた。
そうする事で、此方へと向かってくる姿が見えた。
「やぁ、アレク。ノーアポだけど今日は私的な勉強かい?」
ユーノだった。飛行魔法を使って接近してきたユーノはこの光景をまるで普通の様に受け入れていた。どうしよう。おかしいのは俺なのかな? そんな事を考えていると、自動人形がユーノを見てあ、と声を出した。
「ご主人様!」
「ご主人様」
その発言をオウムの様に繰り返すしかなかった。並んでいる自動人形を見て、そしてそれからユーノを見て、ふっ、と笑いながら眼鏡をくいっと持ち上げるその姿を見た。自慢げな表情でユーノは言葉を口にした。
「これが僕のメイド書庫だ……!」
「お前の事馬鹿だ馬鹿だって前々から思っていたけど、まさかここまで突き抜けた馬鹿だとは思いもしなかったぜ」
だけど嫌いじゃないぜ、お前の様な馬鹿は。
何時もアルバイトをするのに使っている部屋に入った所にもやはり、侍女式自動人形が存在していた。此方が席に着く間に紅茶を用意してくれていた様で、湯気と共に良い香りが室内に充満するのを感じる。所作のそれは一流のそれであり、思考ルーチンもそれなりに高いのを出しているな、と言うのが解る。まぁ、少なくとも実家で雇っていた使用人レベルはある動きだった。故に席に座りつつ、マナーに合わせて紅茶を取った。長い間やっていないから忘れているかと思ったが、叩き込まれたそれはそう簡単に消えるものではなく、驚くほど自然に出て来た。
それを見届け、侍女人形は頭を下げて部屋を出てった。
ユーノと二人、小さなテーブルを挟む様に足を組みながら紅茶を片手に、口を開く。
「やはり狂ったかこやつめ」
「はっはっはっは! はーっはっはっはっは! はーっはっはっはっはー!」
「笑ってないで喋ろよ」
「うん、ごめん。僕でもちょっとなんでこうなったか良く解ってないんだ」
「お前がそれを言うのかよ……」
その言葉にユーノがいやいやいや、と言葉を付けた。ティーカップをソーサーの上に戻し、両手を組みながらいやさ、とユーノが言葉を置いた。
「この前来た時にさ、メイドでも置こうかって話をしたよね?」
「おう、したな」
うんじゃあ僕の記憶に間違いはなかったんだ、とユーノは言葉を置いてから話を続けた。
「いや、それでさ、真剣にちょっと無限書庫内での福祉について考えたんだよ。ほら、僕は少しぐらいのオーバーワークは平気だけどさ、皆そういう訳じゃないだろう? だからメイドは大げさだけどさ、少し娯楽というか癒しと呼べるものを無限書庫に予算を組んで導入しても良いんじゃないか、って思ったんだよ。ぶっちゃけ、僕らブラック環境だしそれぐらいしても怒られないよね?」
「あぁ、まぁ、凄い頑張ってるからな」
「うん、だから何かシステムを導入しようと思ったんだ。休憩室に娯楽品の持ち込みは許可していたんだけどね? だけどもっとサービス的なものを導入して、精神的な疲れを取る手段を作ろうって司書を集めて会議を開いたんだ。そこでとりあえず話のとっかかりとしてメイドさんの導入でもどうかなぁ、って提案したんだ。もちろん冗談半分で」
「おう」
「大うけだった」
「お前らの事がほんと心配になってきたんだけど……」
そう言うとユーノがうん、と俯きながら頷いていた。なんというか、精神状態が明らかにおかしいというか、大丈夫じゃないというか、なんか一周回って突き抜けてしまった感じの状態に明らかに突入していた。そしてどうやら、話はそれで終わらないようだった。
「うん、それでメイドの出張サービスを頼んでちょっと精神的ケアを導入しよっか、って話になったんだけど、司書の一人が童貞で彼女歴なし、そもそも女性との会話だって難しくて呼び寄せたのは良いものの、気持ち悪いとかめんどくさいとか言われたら一生生きていけないとか言い出しちゃって……」
「そんな発想してるから童貞なんだよ」
「死体蹴りはやめるんだ。だけど、うん。そんな発想から人間じゃなくて侍女式自動人形でも導入すれば一々呼ぶ必要はないし、空いているタスクを任せればいいし、それに人間じゃないから否定される事はないし、容姿にしても金さえかければどうにでもなる問題だって気づいちゃったんだ」
「気づいちゃったかー」
まぁ、エリーも一部パーツがぼろぼろすぎて肉体の一部を取り換える必要があったし。エリーの今使っている肌とか特注品だから数千万かかってるとか誰も信じないだろうなぁ、と思う。胸とか、ヒップとかそこら辺も割と特注品だし。やばい、俺も段々とだけど人の事を言えない気がする。
「うん。で、予算を組もうとしたらそんなものに出す金はねぇって本局に怒られちゃって」
「そらそうなるわ」
「じゃあ自費で投入してやるよクソが、って僕達全員で一致団結で決定したんだ」
「お前ら頭がおかしいよ」
「お金も! 地位も! コネもあるんだよ! ないのは時間と恋人だけなんだよ!! こっちは! 君みたいにナンパして連れ込めるような環境じゃないなら好き勝手出来る楽園を僕たちの手で作るしかないんだ!」
「その結果がアレかよ……」
その言葉にユーノがうん、と眼鏡を持ち上げながら答えた。
「LILIA社製自動人形のカスタムモデルの素体、エリアス社デザインのオーダーメイドのメイド服は全員が金を出して共通資産として出す。そこから外装を整える為のオプションやパーツは自己負担していった結果、個人の欲望と趣味の塊が次から次へと生み出され、今まで使う事もなかったお金が不思議な事にどんどん自動人形に吸い込まれて行って……!」
「お前ら本物だよ……本物の馬鹿だよお前ら……」
俺でもキメてないとそこまでぶっ飛ばない。キメていてもここまで改造とかには乗り出さない。童貞共のこの気合と根性は時々、驚かされるものではあるが、もっと違う方向で驚かせてほしかった……。いや、それが平常運転とか言われたら凄い困るのだが。だからえぇ、と声を零し、紅茶で喉を潤しつつも、
「……大丈夫なの?」
「寧ろ仕事の効率が6割近く上がったよ……」
「言葉もねぇ」
「知ってるかい、ここで一番人気なプレイは幼児プレイなんだって。認められなくても、評価されなくてもいいから働いているのを労って癒されたいって皆が言うんだ」
「やめろ、それ以上無限書庫の闇を拡散させるのはやめろ。心が辛いからやめてくれ」
司書達が自動人形でオギャってるとか知りたくもない真実をまた知ってしまった。頭を抱えて忘れようとするが、頭の底からオギャアオギャア言っている姿が消えない。どうしてくれるのだろうか。これでは今夜、軽い悪夢確定ではないか。俺はそんな情報を知る為にここに来た訳じゃないのに。そう、違う、こんなことの為にここへ来たわけじゃなかったのだ。
「思い出した、勉強のために来たんだった……!」
「あ、そういえばそうだったね。すっかりこの悪夢を共有する忙しさで忘れてたよ」
「お前……」
このフェレット、一回ペットショップに叩き込んでやろうか、と思いながらホロウィンドウを複数浮かべ始めるユーノがで、と声を零した。
「当館へようこそ。ミッドチルダ並びに次元世界最高峰の当館には欲しい情報が何でも手に入るよ―――無論、見つけられるのなら、と言う条件が付くけど」
「聖王の歴史関連の書籍はないのか? 出来たら中期メインなのがいいんだが」
「お、アレクも運が良いね。少し前にオリヴィエ聖王女の父王、つまりは先々代聖王の手記が発掘出来たんだ。金になりそうだから公開せずにとっておいたんだけど、この際二人で中身を先に確認しちゃおうか」
「お、マジか。やるじゃねぇか」
レア中のレアものであるのには間違いがなかった上に、見事ジャックポットと叫びたい気分だった。何せ、書物は古代から無数に存在しているのだ。探せば探すほど存在するし、ピンポイントで欲しいものが出て来るとは決まっていない。一応見つからなくてもその周辺人物の手記などを探す予定だったが、いきなりオリヴィエの父王の手記が見つかるとは思いもしなかった。片手でポン、とユーノがそれを取り出すので、ホロウィンドウで内容を拡大しながらテーブルの上に広げた。
「さて、世紀の聖女様の神秘のベールが剥がれるかどうか……」
「まだ僕も読んでいないから結構楽しみにしているんだよね」
じゃ、中身を確認して行こうぜ、と思って開き、そして書いてある内容を確認する。
オリヴィエたんマジかわいい……マジ天使……やばくない……?
マジでこの世に舞い降りてしまったエンジェル感強くない……?
この胸が苦しいのはやはり愛か……と思ったら息子に毒盛られてたわ。
でもね、パッパヴィヴィたんに玉座譲るから気合で治したのぉ!
パタン、と音を立てて手記を閉じた。それをテーブルの上に放置し、腕を組んで数秒間お互いに黙りつつ、ふぅー、と息を吐いた。前は吸うのを止めたパイプを取り出し、そこに前、ドクから処方して貰ったストレスを和らげる為の葉っぱを詰め込んで、マッチで火を付けて、軽く吸う。それで感じる重圧というか、見当違いの方向へとぶっ飛んだ内容のアレを色々とソレする。
言葉が出てこない。
「良し! 読むの止めるか!」
「発禁処分でいいかな?」
「こんな! もん!! 世の中に! 出せるわけが!! ないだろ!!!」
聖王教会の権威が揺らぐわ! 衝動的に燃やしそうになるのを堪えつつ、改めて手記を見る。そこに感じるのは歴史と想いの重みだった。ふざけた内容しか今は見えなかったが、後の方になればそれなりに重い内容になってくるのだと思うが、いきなりこれでパンチが入るとなると読む為に頁を捲る指が急に重くなってくる。
「頑張れ……! 頑張れアレク……!」
「お前も一緒に読むんだよぉ! 速読できるんだからさっさとまともな内容が書いてあるところまで読み込むぞぉ!」
「うーん、そりゃあそうなんだけど……人間って時代を超えても本質的には変わらないんだって事実を知らされたような気分だったよ。うわ、凄い……中身がオリヴィエたんちゅっちゅとかすりすりとかどんだけ溺愛してるんだろこれ。世の歴史家が作り上げた厳格な先王のイメージが一瞬で崩壊して行くんだけど。あ、一緒にお風呂入れなくなって手記が途切れてる……」
これ本物だよな? と確認するが、自分の鑑定眼、審美眼が共にこれが本物であるという事実を伝えてきている。まことに信じたくはない事実ではあるが、これは本物に類するものである様だ。うーん、これは辛い。俺のご先祖様はこんなのに仕えていたのか、と思うと少しだけショックな気持ちがある。ドロップアウトしたとはいえ、それでも血筋は貴族なのだから。
と、半分以上進め、最後の数ページになってから内容が劇的に変わってくる。
「ん……ここら辺は真面目な内容だね。ベルカを中心とした連合国間での緊張感の高まりと、連合を脱退して戦争を開始する事に関して書かれている。成程、これが《十二王戦争》の正しい日付の始まりか。コピーを取っておくね」
「ふーむ、どうやらこのころはオリヴィエ聖王女は外国へと留学に行っていたみたいだな。その間に先制の禁忌兵器で国土を焼かれたのが戦争の発端、と。ルール無視で始めるからルール無視で続行した地獄の様な戦争か……」
「ここら辺は他の記述とも合致するね。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトはシュトゥラへと留学に出され、そこで未来の覇王であるクラウス・イングヴァルトと出会い、友情を育んだって話は今も残っている。当時の様子を残した日記や手記の類はイングヴァルト家がまだ現存しているから残っているしね。ただ詳細やその後に関しては意図的に処分されたのか、残されていないんだよねー……」
「うーむ……」
戦争開始、オリヴィエが帰還して、そして、
「オリヴィエが勝手に動かない様に軟禁したって書いてあるな。最初の頃のアレが嘘みたいに謝る文面が書かれているし。筆跡からも後悔と悲しみと怒りを感じる」
「ふむ……先王はこの時にオリヴィエに王位を譲る事を決意したみたいだね? その理由とかが書かれていないのは意図的に抜いたのかな? どちらにしろこの手記はここで途切れているみたいだね。先王はオリヴィエ聖王女がベルカを救った時には既に死亡していたという話だったし。手記の内容と一致する」
「ここまでかー」
細かい事に関する先王側からの補足は入ったが、根本的なオリヴィエ・ゼーゲブレヒトという女に関する情報は増えなかった。いや、今のベルカ社会の根本を支える中心人物であり、今の瞬間までほとんどが謎に包まれている聖女なのだからそりゃあそうなのかもしれないが、それでもここまでして見つからない、というのもまた違和感を覚える出来事だった。
……隠蔽でもされているのだろうか? いや、それもありえなくもない。オリヴィエに関連する話は常にオリヴィエを持ち上げる様な事ばかりだし、ベルカを救ったという話しか残されていない。そこに不都合な真実があったとして、それをオリヴィエという存在を使って隠蔽しているという可能性もある。
だとすれば、あの銀腕に込められた悲しみと後悔の意味が解ってくる。とはいえ、その詳細な内容が伝わってこないのが非常に歯がゆい。先王の手記に残されていないのならば……側近の手記だろうか? 少なくともハイディとジークリンデは何も知らないだろう。隠せるような器用さはないし、あの二人が持っているのなら既に聖王教会が保有している。
そして聖王教会が保有していれば俺が既に何度か忍び込んでいるので、見つけ出せる筈だ。故にそこには存在しない。実家の蔵も忍び込んで調べた事があるし、あそこにも無かった。他に知っている者と言えば……ヴォルケンリッターか? 知っていて黙っているというのはありえなくもない。とはいえ、必死に隠す程の真実ならそれらしい感情が見え隠れするし、それをユーノが知らないとは思えない。
「……」
「それにしても今更聖王に関する勉強とは珍しいね。新しいターゲットでも見つけたのかい?」
「あぁ、オリヴィエの銀腕をちょっと見て来たからな、デートで。ちょっと意欲を刺激されたんだ。年内は活動自粛中だけど……」
「来年は未定、って所だしね。ヴィヴィオ様の所にあるというのなら盗み出すのも楽そうだし、ターゲットとしても悪くないんじゃないかな。……盗み出した後で本人に返却とかサイコーにロックだと思うし」
「やっぱり、お前俺よりも悪の才能あるよ」
ユーノの発想に椅子に寄り掛かりながら笑い声を零した。おそらく、此方側の世界にジャンプしてダイブしてきたこのフェレット眼鏡が一番愉しんでいるだろうと思っている。まぁ、情報が足りないのなら仕方がない。後数日はここで情報収集に頭を捻らせようと思った所で、ふと、疑問が浮かんだ。
「お前も自動人形購入したのか?」
「うん? 勿論だよ。僕も僕で癒しが欲しいからね」
「どんなのを選んだんだ。身近に美少女多いしお前」
有名人が三人もいる上にヴォルケンリッターとかいう騎士のあこがれもいるし、ベースを見繕おうとすればそれなりに結構、居るんじゃないか? と思った所で、扉が開く。その先から出てきたのは背の低い―――というよりは小さなメイド服姿であり、
それはフェレットの姿をしていた。
「貴様まさか」
「ふ―――美少女美女なんて見飽きてるんだよ、僕は。時代は美フェレット」
「お前にはいろんな意味で一生勝てる気がしない」
情報収集しながら友人同士の馬鹿をやる一日になった。
美少女に見飽きてケモナーに走った奴。
今回は野郎共の出番が多い分、キャラがガンガン崩れて行くというアレ。最近ギャグ薄めかなぁ、と思いつつカップの水の中に3倍の濃縮カルピスの原液をバケツ単位で流し込んで行く。
真の姿がフェレットだから仕方がないね。