「ジーク、デートしよう」
『なんや、エレミアの力でも借りたいんか』
「俺はジークを楽しませる。その対価にジークは俺の力になる。お互いに利益のある関係じゃないかなぁ」
『その図星でも一切隠そうとしない所はほんと今も昔も変わらへんなぁ。まぁええや。ヴィクターには悪いけどお兄さんをしばらく独占させて貰うとしよっかな! ほな、ウチのスケジュールをそっちに送るねー』
「こっちで予定調整しておくから次の休みな」
『ほなー』
「お前いつかほんと刺されるぞ」
アジトで、サクっとジークリンデにデートの約束を取り付けるのを聞いていたトーマが心配するような、呆れるような溜息を吐きつつそんな言葉を向けてくる。それに応える様にサムズアップを向ければ、駄目だこいつと視線を反らされた。失礼な。
「俺は自覚しているクズだから大丈夫だよ」
「欠片も大丈夫な要素はないんだけどそれ。というか今回はあの黒髪ちゃんかー。ツインテかー。ツインテも悪くないよねー……へへへ、ふへへへ、へっへっへっへ……」
お前もお前で結構道を順調に踏み外している感はあるけどな、と呟く。たぶんトーマの脳内ではリリィにツインテールにして、ワンピース辺りを着せている姿でも想像しているのだろう。たぶん、というかトーマは確実に一人の女の子に入れ込んで、それも際限なく入れ込むからそのまま破滅するタイプだ。ぶっちゃけ、出会ったのがそういうのを明確にストップと言えるリリィで良かったと思う。リリィ以外の普通の女だったらそこらへん、毟れるだけ毟ってハイさよなら、となっていたかもしれない。そこはやはりこの少年が天運を掴んだ、と表現すべきだろう。
俺の様な男に助けられて、ここまで面倒を見られているのだからかなり運が良い。
或いは天運がこの者、生きるべしと告げているのだろう―――神々も彼にこの先、何らかの物語か、或いは試練を用意しているのかもしれない。今は関係ないだろうが。とりあえず、
「女ってのは、割と簡単な生き物だ。それぞれ理想ってのを抱いているんだよ、男に対して。だからそれに触れるけど浸からないラインを維持するもんだ。完全に理想を再現するとその分、夢を見せてしまう。だけどそこに現実と自分自身の影を入れると面白いように転ぶんだよ、これが」
「ほんとクズだな! 教えてください」
「お前にゃあまだ早い」
いや、正確に言えば既にその年齢の頃には親父の武勇伝を聞いていた。ああやって口説いたぞ! こうやって誘ったんだ! 刺されそうになったから窓から飛び降りたら50階だった! とか。あの親父早く死なねぇかなぁ……と毎回聞きながらも思いつつ、アレを聞いていたら何時の間にかそういう技術が磨かれた。色々と罪深い親父だったが、会話の運び方、印象の与え方に関しては言葉を引き出すやり方としては優秀であると、認めなくてはならなかった。
親父はクズだけど。
母さんは良くアレと結婚できたなぁ、と今でも思う。そして親父は良く母さんを捕まえたままでいられるなぁ、と思わなくもない。親父のやらかしっぷりを理解しているのにそれでもまだいる上に普通に夫婦が出来ている。そこら辺の感覚、結婚を考える気もない自分には完全に異次元の話だった。結婚してしまえば今の様な生活は出来ないだろうし。まぁ、それはそれとして、ジークリンデから送られてきたスケジュールを確認し、その予定をチェックする。
自分の予定に何も入っていないのを確認してから、ジークリンデと会えそうな場所、そしてその周辺にある行けそうな場所を確認する。えーと、と呟く。
「エリー、手帳―」
「此方に」
ソファに座っていると、前方から黒革の手帳が飛んで来るのでそれを片手で掴み、ぱらぱらと頁を捲って中身を確認する。そうそう、ジークリンデは店の予約とかを気にしないタイプだった。どちらかというとその時の気分でころころと食べたいものを変え、適当なお店に入る博打タイプなので、店は予約するだけ無駄だ。それにどっちかというと体を動かすのが好きなタイプだから、ショッピングよりはどっかの遊戯施設に入った方が喜ぶだろう。
となると行ける場所は必然的に決まってくる。
『来週には博物館での展示が終了する予定で―――』
つけっぱなしだったテレビへと視線を向ける。そこではこの前、エリーとのデートで向かった博物館と、そしてそこで展示されている銀腕に関する事が流されていた。やっぱりベルカでの最大のニュースは今はこれになるよな、と思いつつ流されるニュースに耳を傾けている。
『展示が終了次第、S級のデバイスマスターによる銀腕の加工が決められており、国宝とされる職人の手によってオリ―――ヴィヴィオ・ゼ―ゲブレヒト聖王女に献上される運びとなっています』
一瞬、テレビ内のニュースキャスターがヴィヴィオではなく、オリヴィエの名前を口にしようとした。だが世界にノイズが走った次の瞬間にはそれがヴィヴィオという正しい名前で紡がれていた。誰もそれに違和感を抱かない。誰もその変化に気付かない。少しずつ、少しずつ現実は変わり始めている。もう少し余裕があったかと思ったが、思っていたよりも早く現実の浸食が進んでいた。
早めに決着を付けないと、ヴィヴィオが消える。遊ぶ余裕は最初からなかったと解っていたが、予想していたよりも二倍近く事態が進行している。やはり特大の信とメディアへの露出が事態を加速させている様に思えた。なのにまだオリヴィエに関する成果が無くて、少しだけ、本当に少しだけ苛立つ。
「ん? アレク?」
「あん? いや、ジークアレで結構文句を言う奴だから回る所で悩んでたんだよ」
「心配して損したわ」
「俺を心配するなんざ100年早いんだよ」
その気持ちは嬉しいが。だが現実の変化を記憶出来ない人間は―――力になれない。本音を語ることは出来ない。故にあっさりと慣れている嘘を口にしてトーマを騙し、安心させる。最終的に準備が整ったら、自分で予告状を送り出して怪盗宣告をしなくてはならない。この時、ユーノやトーマに足がつかない様に動かなくてはならないだろう。そこまで考えた所で軽く息を吐き出し、意識を切り替える。
とりあえずはジークリンデとのデートだ。楽しませて、そしてそこから相手をその気に乗せて情報を引き出さなくてはならない。未だに拘束されていたエレミアの名前は不明だし。それを調べるという事も必要だ。
……やることがまだまだある。厄介だと思いつつも楽しくなってくるのは、やはりこのアウトローとしての生活、活動を気に入っているからだろう。我ながら誰かの不幸を糧に楽しんでいるのは、業が深いかもしれない。
冬に入った。
北部ミッドチルダはかなり冷え込む事で有名で、それなりに厚着をしないとあっさりと凍える為、防寒対策は基本だ。ジークリンデとのデートは基本室内ではなく屋外になる。あの娘は基本的に中でゆっくりしているよりも、外で歩きながら話している方が好むからだ。こうやって二人だけで外に出るのは割と久しぶりになる事だな、と思いながらジークリンデと待ち合わせた駅前の大きなオブジェの前で待つ。
冬に入って気温は大分下がってきたもので、まだ雪は降っていないが何時降り出しても良い様に準備している姿がちらほらと見えている。とはいえ、天気予報によれば雪が降る可能性はまだ年末に入ってからだという事だった。まだ年末には1か月近くの時間がある。つまりはまだ雪は降らないのだが……もう、雪が降っていてもおかしくはないぐらい寒くなっている。
寒いと中々ユーノが持ち込んだあのロストロギア、コ・タツから抜け出せなくなるのが辛い。ユーノが持ち込んできたアレは本当にやばい。あの中から抜け出せなくなるし労働意欲まで奪って行くし、いろんな意味でやばい。なお薬局診療所のドクの所に布教させたら、去年は移動型コ・タツとかいうのを作成して中に潜ったまま動き回っていた思い出がある。今年の冬も後少し寒くなったらアレを出す予定である。アレを持ち出すと他の活動が死滅するから、なるべくぎりぎりの所まで温存したいのだが、まぁ、良いだろう。
モッズコートのポケットに突っ込んでいた懐中時計を取り出し、時刻を確認する。空を見上げれば冬の空が見える。まぁ、ジークリンデはそこそこ時間にルーズだし、もうちょい時間がかかるかな、と思いながら懐中時計をポケットの中に押し戻した。アイツの事だからもうちょい時間がかかるし、適当な所で珈琲でも買っておいた方が良いのかもしれない。ここが見える場所で時間を潰すか、と考えた所で、
「―――おーい、アレクー!」
「アレ? 早く来たつもりだったんだけど、待たせちゃったみたいだね」
此方へと向かって走ってくるヴィルフリッド・エレミアという女の姿を見て、思い出そうとすれば
「ファック」
「え、僕を見てからそういうのは流石に酷くない……?」
「いや、言ってみただけ」
「より酷いよ!? デートに誘って呼び出したと思ったら罵倒って特殊性癖の一種かな!?」
歩き寄って来たヴィルフリッドはそれでも、と黒一色の姿に、コートの下の暖かそうなタートルネックの首部分に軽く口元を隠すと、
「アレクがそういう趣味なら考えなくもないなぁ、って」
「良し、行くぞ」
「君が発端なんだから突っ込んでよぉ!」
うぇー、と声を漏らしながらヴィルフリッドが横に並び、そして腕を掴んで絡めてくる。そうやって腕を絡めてくる感触を、そして動きを自分は知っているし、何度も経験しているのを覚えている。知っている―――知っている暖かさだった。だけどこれは、真実ではない。それを誰よりも俺が―――いや―――俺だけが覚えていた。この世界で、俺だけがその変化とその前を記憶していた。頭の中には新しく追加され、そして先ほど決まった
だがそれとは別に、
「悪い、ジーク」
「うん? ジーク?
「まぁ、恋多き男なのさ、俺は」
苦笑しながら今は心の中で謝るだけに留め、腕を組んだままヴィルフリッドと冬の街の中を歩き始める。解っているが、彼女に罪は何もない。自覚すら存在しない。自分が誰かの代わりに成り代わっている、なんてことを。しかしこうやって動き出した事で解る事もある。だからそこは感謝し、心の中で自分だけが覚えている少女に済まない、ともう一度だけ謝りつつ、
慣れている、笑みを浮かべた。
「さーて、実はノープランだからここからどうするか特に考えてないんだよなぁー! リッド、どこか行きたい場所とかある? 今日は結構懐に余裕があるんだよ、俺。そこまで高くなければ散財できるぞ」
「あ、本当に? 実は僕もヴィクターに今月のバイト代早めに貰っておいたから懐が温かいんだよね。となると二人で今日はちょっと豪華なものが食べられそう。うーん、こういう時って先に予約を入れた方が良いんだよね? 夜どこで食べるか今のうちに決めちゃう?」
「当日予約が出来る高い店かぁ……と、ここで普通の男なら困るだろう」
「では普通じゃない刺されそうな男は?」
「来る前にある程度リサーチしておくものさ。肉の美味しいお店、魚の美味しいお店、鍋、焼き肉、さぁ、四種類の中から行きたいお店を選ぶと良い」
「肉」
「迷いがないな」
「基本的に肉食だからなぁ、僕。食べても食べても全部燃焼しちゃうおかげで中々体に肉がつかないし」
そう言ってヴィルフリッドが絡んでいる腕に胸を押し付けてくるが、感じられるのはコートの感触だけで、そこには胸の感触を感じられない。確かに、体にそこまで肉がついているという訳ではない。だが、
「その代わりに密度が高いだろ」
「そうだけどさぁ! 僕だってさぁ! 少しは女の子らしい体に育ちたかったよ!」
もぉ、といいながらヴィルフリッドが頬を膨らませている。なんでもない、日常を過ごす様に。素の姿に苦笑しつつ、昔から騒がしい奴だった、という事実を思い出しながら、吐き気のする苦しさに、息が詰まる。それを悟られない様に演技をするのは―――得意な事だ。顔に出さず、吐き出したい事を全部飲み込んで、そして消化する。叫んで泣いてキレた所で問題は解決しない。
究極的に、加害者は大衆であり、その罪さえも自覚していない。
明らか離れる様に、二人でゆっくりと歩き出す。ヴィルフリッドの背丈は俺よりも低いから、歩幅を彼女に合わせる様にゆっくりと緩めて歩く。知らない手を結んでいる筈なのに、これが初めてではないというのを経験と記憶が伝えている。相変わらず、変転した現実というのは正気を保とうとすると、気が狂いそうになる。どっちが正しいのか、何が正しいのか、それを見失いそうになる。とはいえ、
それで喚くような恰好の悪さは俺じゃない。だから笑みを浮かべ、一切の不満なんてものは消し去り、楽しむ為にヴィルフリッドをエスコートする。それがデキる男、紳士的なプレイボーイというものだからだ。
「あ、そうそう。今日はちょっとデパートに行きたいなぁ、って」
「デパート? なんでまた」
「いや、ほら、冬はヴィクターの誕生日が―――あ、こらこら、逃げるな逃げるな」
逃げようとする此方の腕を指を絡める様に手を取って、ヴィルフリッドが抑え込む。しかもそれをそのままポケットの中に突っ込んでくるから大胆だ。完全に逃げられない様に腕をロックしつつ、半分引きずられる様な形で、駅近くのデパートへと向かってヴィルフリッドに連行されて行く。えー、と声を漏らしながらもぐいぐいと、魔力ではなく筋力で体を引っ張って行く。
「ヴィクトーリアの誕生日プレゼント家を出てから渡してないし……」
「だから毎年、楽しみにしつつ残念そうな表情をしているよ? あ、今年もない……って感じに。いい加減プレゼントの一つぐらい上げたらいいのに。見た目と言動は大人びているけど、まだまだヴィクターも子供だよ?」
「うぐっ」
心に突き刺さる言葉に胸を抑えつつ、逃げる事を諦めて普通に歩きつつもでもなぁ、と言葉を零す。
「いや……今更プレゼント渡すのも、なんか違うだろ」
「いや、アレクのそれはただ単に申し訳なく思っているだけだからなんの問題もないから。寧ろ絶縁したとか言いつつなんだかんだで家にヴィクターを上げている事をどうにかしなよ君は。絶縁できてないじゃん。完全にただのシスコンじゃん。来るなって言いながら気にしているんだから態度もはっきりしてないし。だから未だにヴィクターが家に来るんだよ」
「止めろ、その言葉は俺を殺す」
的確に心を抉る言葉を選んでヴィルフリッドが突き刺してくる。吐血しそうな気持を抑えながら、でも、と声を零す。だがそんな此方の言い訳をヴィルフリッドは一切聞くつもりがなく、肘を軽く脇腹に突っ込んで、此方の言葉を黙らせた。
「その気になれば本当に絶縁することぐらい出来るのに……というか廃棄都市に出入りしている事は僕、知っているんだよ? それをこっそりと見つけて未だに黙っている事、感謝してもいいんじゃないかな? ん? んー?」
「……おっす、ヴィクトーリアのプレゼントを喜んで選ばせて貰います」
「ヴィクター」
「……ヴぃ、ヴィクター……」
「うん、宜しい」
諦めの溜息を吐く。流石に、家族には自分が《外》で言う廃棄都市に住んでいる、出入りしている事は黙っていた。というかそんな事を教えたらヴィクトーリアであれば突撃しかねない。だからこそ黙っているし、出入りに関しては割と注意していた筈だった。なのにいつの間にバレていたのだろうか。そうなるとエリー辺りも見られていそうだから頭が痛い。今度はもう少し、注意しよう。今でも割と注意していたつもりだったのに……。
少しだけ煤けた気持ちになりつつ、ヴィルフリッドに引かれてそのままデパートの中へと進んで行く。ここまで連れ込まれると流石に抵抗する気力も完全に失うので、自分の意思でヴィクトーリアのプレゼントを見繕うか、と考える。家を出たのが大体6年前になるから、6年ぶりのバースデイプレゼントとなる。6年前はアレに一体どういうプレゼントしたか、というのを全く覚えていない。故にデパートの中に入った所で、案内板の前に立って一旦、何を買うかを考える事にする。
「ふーむ、何にすっか」
「ヴィクターの事だし、適当な物でも凄い喜ぶと思うけどねー。兄が兄なら妹も妹だし」
「黙らっしゃい、妹には甘いって自覚はあるんだよ。一応は」
「甘いどころかゲロ甘だよ。正しく自己認識しよ?」
「こいつ……!」
正論、そして正論。それが解っていてヴィルフリッドが煽ってくるものだから何も言い返せない。ぐぬぬ、と声を軽く零しながらふぅ、と息を吐き、一旦繋いでいる手を軽く解いて、黒革の手帳を取り出し、軽く頁を捲る。その中身を横からヴィルフリッドが覗き込んでくるが、
「何も書いてないんだけどそれ」
「これ? 書いた本人にしか見えない様にプロテクトかかってるからな、見られたら困るわ。ふむふむ……まぁ、こんなところか」
「なんかもやもやする」
「んな理不尽な……」
まぁ、手帳の中身を確認し終わって、それをポケットの中に突っ込む。ヴィクトーリアの好みは把握しているが、それでも細かい事に関しては流石に時間が経過しすぎていて忘れている。特にプレゼントなんて長い事していないからなおさらだ。とはいえ、6年ぶり、となると選ぶものも慎重にならなくてはならない。
「ふーむ、とりあえず小物コーナーかな……」
「ありゃ、意外かな。アレクならこのまま宝石見に行くかと思ったのに」
「馬鹿じゃねーの」
エスカレーターへと向かって歩き出し、乗りながら振り返り、ヴィルフリッドへと視線を向ける。
「いいか、デートとプレゼントとは積み重ねだ」
「そうなの?」
「そうなんだよ。基本的に愛や好意ってもんは行動で示さない限りは理解されないもんであり、そして同時に非常に身近な存在なんだ。日常的に接しているからこそ伝わってくるものでもある。だからこそ、プレゼントとは吟味しなくてはならない。いいか、いきなり長い事会ってないエレミアの仲間から車をプレゼントされたらどうする?」
「困惑するけど……あぁ、成程ね」
納得する様にヴィルフリッドが頷く。が、同時に、
「ヴィクターならそんな事気にしないんじゃない?」
「色男としての矜持だし、余り
まぁ、良くあるケースだ。そしてそうやってプレゼントされたものを見て次へと踏み出す事が出来ない。まぁ、今回の話には関係ないが。とはいえ、6年ぶりのプレゼントで余りに重いものを渡すのは、少しマナー違反だとも言える。家族だからいいんじゃないか? と思われがちだが、実の所、そうやって無駄に期待させてしまうと次からの期待が重いし、俺を家にへと引っ張り出そうとするし、
祝い事なんて何度だって来るのだ、生きている間。
祝うのは新鮮にやる事なのだ。
「新鮮である為に、サクっと思い出に出来る様なものがプレゼントとしては良いんだよ。もちろん、一緒に生活して、時間を過ごして、これからも一緒である相手に対しては服やアクセサリーの類はプレゼントとして優秀だけどな。だけど祝い事を新鮮に、そして楽しく感じ、忘れられる事がプレゼントの趣旨としては理想的なんだ」
「だから花とかが人気なんだ」
そう、一般的には花が最適だって言われ、それを良く理解されていないが、個人的に花はプレゼントした所を思い出せ、そして特別な日をカラフルに彩る事が出来る演出の道具だと思っている。
その上で花は枯れる。
つまり消費される。そして枯れた花は捨てなくてはならない。つまり最終的には形として残らず消えてくれるのだ。そのおかげで次の祝い事、プレゼントの時は比較されないし、その時のイメージを思い出される事もなく、新鮮なプレゼントとして処理できると思っている。
「だから付き合いの短い相手、或いはジャブで攻めて行く場合は飾れて、楽しめて、そして消費できる物がベストだ。まぁ、ただの花にしておくのは流石に勿体ないし、もうちょい金を出して良いもんを買うとするかな……」
「プレゼント一つで結構悩むもんだなぁ」
「これでもそれなりに付き合いはあるからな」
「他の女の子とね!」
「なんか刺々しいなぁ!」
その言葉にエスカレーターを上がって行きながらヴィルフリッドが口元に指をあて、うーん、と声を零した。軽く首を傾げつつそうだね、と声を再び零し、
「……僕とのデートなのに他の子の事を考えている気がするから?」
「そんなこたぁねぇよ。今はお前の時間だから、お前の事しか考えてねぇよ」
「また素面でそんな事を言う。一体僕で何人目さ、そういうのは」
「何時だって一人目さ、目の間に居るお前だけを口説いているんだから」
「ああ言ったらこう言う」
その言葉に小さく笑う。言葉遊びは必然だった。怪盗として、概念を扱う者として、人々の心を駆け抜ける真実の使徒として、言葉は重要だったからだ。言葉の組み替え方、付け加え方、それだけで印象や意味は大きく変わってくる。だから言葉は慎重に選ばなければならなかった。今でもそうやって言葉で遊んでいる。女を転がすのはそういう言葉遣いを覚えれば、難しい話じゃなかった。
「さしあたっては……アロマキャンドルでも見てみるか。勉強漬けだろうし、適度に眠気を誘ってくる奴がいいな。アレは無理してでも終わらせようとするタイプだった筈だし」
「解ってるなら早く戻って来ても良いんだよ? ヴィクターもそうだけど僕も結構寂しい思いしているんだけどなぁー?」
「悪いな、一つの屋根の下に男が二人は居られないんだ。こればかりは男の性って奴さ」
「うーん、この一切戻る気の無い返事」
笑いながら到着したフロア、ヴィクトーリアのプレゼントを見繕う為に歩き出す。本日はデートだ―――予定は大幅に狂ってしまった。それでも続けるしかないのだ、この茶番を。そして理解しなくてはならない。
それを正しく苦しむことが出来るのは―――この世で、俺一人だけだから。
ルールその1、人物は上書きされる様に入れ替わる。
ルールその2、記憶と過去の情報が改変されて辻褄合わせが行われるので間違いはない。
ルールその3、上書きされた方も上書きした存在も被害者である。
さぁ、ジークが救いたかったらリッドを消そう。誰もジークの事なんて覚えていないけど。
現実が真実であるとは限らないのである。