※この作品はR-18です。

Stealing The Reality   作:てんぞー

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Beyond The Truth Ⅶ

 ―――オリヴィエはシュトゥラに来てから本当に楽しそうだった。まるで普通の少女の様だった。或いはそれが本来のオリヴィエ・ゼーゲブレヒトという人物だったのではないか、と僕はここに書きたかった。誰か一人でも彼女という人物の事を知っていて欲しかった……だからここに、僕が彼女に知る事の全てを書こうと思う。それが今、僕が唯一出来るであろうことだから。

 

 頁を捲る。

 

 ヴィヴィ様は絶対に言わないだろうし、そして態度に出さないだろう。だが僕が見た限り、彼女は民衆が知る様な愛されている王女じゃなかった。ヴィヴィ様は胎を傷つけられ、子供が産めない体をしている。その両手は今では僕が与えた義手によって生活が出来ている。それまでは義手を持つ事が危険である事とされ、日常的な世話の全てを侍女たちに任せて自分の腕を使う事さえ許されなかった。彼女は徹底して偶像として持ち上げられるも、何らかの実権を与えられないメッキの王女だった。だけどそれでも彼女の才覚を抑える事が出来なかった。ある意味、彼女に対するその対応は正しかったのかもしれない、と僕は思った。ヴィヴィ様の才能は他人とは次元が違う。彼女は両腕の無い、満足に勉強さえできない状態なのに誰よりも良く考え、聡明であり、そして腕の無いままに戦う方法を編み出していた。

 

 再び頁を捲る。

 

 始めて会った時、彼女が腕の無い状態で野盗を追い払った事に物凄く驚いた。オリヴィエ・ゼ―ゲブレヒトに―――ヴィヴィ様にあったのは才能だけだった。だがそれだけで彼女は必要最低限の条件を満たし、実行する事が出来た。本来、そんな事はあり得ない。だけど彼女には聖王核が一つではなく、二つ存在した。僕が食客としてベルカに滞在している間聞き出した話ではヴィヴィ様は生誕と共に母親の聖王核と呼ばれるコアを継承し、それが原因で母を死なせたという罪を背負っていた。そしてその聖王核は聖王家にのみ伝わる人造のロストロギア、完全解析のされていないゆりかごによって埋め込まれる聖王の証の様なもの。どうやら成長に従い肉体と魔力、リンカーコアを生き、戦う為に理想的な形へと成長を促進させる力を持っているらしい。つまり、才能を作り出すロストロギアと言い換えても良い。それがヴィヴィ様には母親から継承したもの、そして誕生と同時にゆりかごから与えられたもので二つ、存在した。

 

 頁を捲る。

 

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトはその生誕故に同じ聖王家の兄妹に恐れられていた。生まれた時点でヴィヴィ様の才能は他の兄妹たちと格が違っていた。それに聖王陛下も誰よりもヴィヴィ様を気に入り、可愛がっていた。将来的にはヴィヴィ様が玉座を継ぐ者となる、とさえ言われていた―――魔導実験に巻き込まれるまでは。ヴィヴィ様は兄妹の魔導実験に招待され、そこでの事故に巻き込まれた結果次代を産むための胎と、両腕を失った。それが理由でヴィヴィ様は継承権を失った。それからは多くが知っての通り、ヴィヴィ様は両腕の無い状態での生活を余儀なくさせられた……だけど僕は今になって思う。強すぎる義手などを与えて危険だと言って両腕を奪った聖王陛下。その姿は一見、ヴィヴィ様を封じ込める様に思えるが……僕にはあの方が必死にヴィヴィ様を守ろうとしていたのではないか、と思う。この結末に至ってから僕は自分の未熟さを自覚する。そして同時に聖王陛下の先見の明に驚く。きっと、あの人は見えていたのだ、ヴィヴィ様の歪みが。そして誰よりも先の事を見通していたからこそ、ヴィヴィ様から事故以来、力を奪おうとしていたのだろう、って。

 

 軽く息を吐き、片手で目頭を揉む。それで軽く眼を休めてからその手を下に戻し、長い黒髪を梳く作業に戻しつつ、もう片手で再び、古びた手記の頁を捲って行く。

 

 僕は……僕は、何て愚かだったんだろう、と今更ながら思う。誰よりも近くに居て、誰よりも話を聞いてあげられる場所に居たんだ。なのにヴィヴィ様から一度たりとも、その話を聞き出す事が出来なかった。才能があるから、王女であるから、王家であるから、という言葉に常に踊らされてしまったのだ、僕も、クラウスも。結局のところヴィヴィ様を唯一理解できたのは実父の聖王陛下だけだったんだ。シュトゥラへと留学した事でヴィヴィ様は今まで以上に快活になった。ベルカに居る時よりももっと活動的になっている姿を見て、僕はそれが本来のヴィヴィ様だと思っていたんだ。いや、それは正しいんだ……正しすぎたんだ。それをもっと深刻に受け止めるべきだった。

 

 綴られている。その手記には後悔の全てと、彼女がそれまで経験してきた事の全てが描かれていた。実物の完全なるレプリカ、コピー、複製品だった。それは或いは彼女の本音。彼女の心臓に最も近い存在でもあった。そこに描かれる文章は全て、その後悔を具現するかのように血によって綴られている文章だった。或いはそれ以外に彼女が文字を書く道具がなかったのかもしれない。凄まじい後悔の中で、彼女がどんな思いでそれを書き綴ったのかは―――触れているだけで、脳髄を犯す様に伝わってくる。

 

 ヴィヴィ様は責任感の強い人だった。責任感の強い、ただの少女だった。そう、それがオリヴィエ・ゼーゲブレヒトという存在の正体だったんだ。才能のある人間は大にしろ、小にしろ、どこか螺子が外れている。それは僕にもクラウスにも言える事だった。だけどオリヴィエ・ゼーゲブレヒトはそういう天然の天才ではなく、偶然の産物として生み出された人工的な天才だった。つまり発想や閃き、天才的な精神性を持って生まれた怪物的なサイドではなく、聖王核に影響されてなぜか覚えてしまう、その原理も理論も一切できない、凡人の精神と心を持っている怪物的なほどに天才の肉体の持ち主としてヴィヴィ様は生まれてしまったんだ。彼女の神経と血肉の全ては聖王家最高の作品とも呼べるだけの美と能力を兼ね備えていた。だがその中身、ヴィヴィ様という精神だけは普通の少女だったのだ。民衆に愛されて当然だった。彼女は誰よりも民衆を理解できる心の持ち主だったのだから、誰よりも彼女を身近に感じる事が出来たのだから……。

 

 手記の終わりが近い。ページを捲る。これは一人の少女の現実(げんそう)の全て。その残り滓。最も心に近い場所から引き抜いた彼女という幻想(げんじつ)の全て。引き抜けばその現実は真実へと回帰する。故にこれが、彼女の心臓となる物だった。彼女という存在を構築する上では、認識から切り離せないもの。

 

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトという女との繋がり、そして真実だった。

 

 ヴィヴィ様はただの女であるべきだった。立場も、権力も、力も、才能も与えるべきじゃなかった。その全てを奪った不自由な状態でこそ彼女は責任感を前にする必要がなかったんだ。それを聖王陛下は理解していた。だからこそ義手を与えず、飼い殺していたんだ。シュトゥラへと留学に送り出したのも勉強だけに責任の範囲を狭める為だったんだと今更思う。だけど全ては失敗した。十二王戦争の開戦により、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトはゆりかごとの適性率116%というありえない数字を叩きだしてしまった。彼女は……ヴィヴィ様は、誰に言われずとも、自分から乗り込む事を選ぶ。きっとそれが王族らしい責任の取り方だろうと思って。だから、僕は―――。

 

 ここから、オリヴィエに関する事は書かれていなかった。そこから先にあるのはヴィルフリッドの後悔の言葉と、そして現代のヴィルフリッド・エレミアとしての言葉や生活に関する雑記だった。今、この手の中にある手記は過去と現代、その二つのヴィルフリッドが混同されて生まれたものであり、ヴィルフリッドがジークリンデを核として上書きした時に顕現された事に対する触媒でもあった。

 

 今ではもう、ヴィルフリッドの残り滓の象徴とでもいうべき物であり、存在しない手記と言っても良い。誰もその価値を理解できず、誰もその意味を理解する事も出来ない。俺だけが、その価値と意味を理解している。だからそれを懐の中へと押し込みながら、そぉっと、起こさない様に指で艶やかな黒髪を梳く。

 

 膝の上を枕にする様に、ジークリンデ・エレミアがそこに眠っていた。ヴィルフリッドとはちょっと違う、少しだけ頑張ったような大人しめの大人っぽい恰好はジークリンデが背伸びをしたような感じがあって、可愛らしかった。目を瞑り、自分が消えていたなんて事実さえも知らずに膝の上で眠り続けるジークリンデは、楽しそうに眠り続けていた。軽く、一番まずい部分の記憶は奪っておいた。その為に細かい部分は覚えていないだろう。だが根本の問題として、何が起きていたのか、自分がヴィルフリッドに置換されていた事なんて知りもせず、幸せそうに眠っている。

 

「はぁ、流石に気分が滅入ってくるな……こういう時は面白可笑しい話を聞くのに限るけど……そうだな」

 

 とりあえずホロウィンドウを出現させ、通信を行う。最初につなげる先はアジトに居るトーマだった。いきなり通信が繋がってきた事にトーマが驚くが、耳に鉛筆を乗せている辺り、勉強中だったかもしれない。変な所で真面目な奴だった。とりあえず、通信が繋がったので、

 

『あれ、アレク? 今デート中だって聞いてたんだけど』

 

「余は今、退屈している。何か面白い話をせよ。見事退屈を紛らわせたら一日デート護衛権をやろう」

 

『よっし、任せろ!!』

 

 簡単に釣れる小僧め……と、心の中で罵りながらトーマの話に耳を傾ける。

 

『えーとこれは俺が孤児院に居た頃の話だなんだけどさ』

 

「おう」

 

『一つ上の組みというかグループがあったんだけどさ、基本的に上の連中は下の連中の面倒を見る義務があったんだけどさ、こいつら孤児院の中でも指折りの悪ばかりでさ、全く面倒を見ないどころか逆に少ない飯とか奪ってく始末だったんだよ』

 

「おう、中々過酷だな」

 

『まぁ、それで個人的に下の連中で結託してさ、復讐を考えたんだよ』

 

「おう」

 

『だから勝手に顔写真取って、ゲイアピールの広告を作ってゲイバーに張り付けて来た。見事そっちの方向へと出荷されてくれたぜ』

 

「うーん、微妙だなぁ……」

 

『えぇ……』

 

 トーマが困惑しているので、本当の面白い話という物を貴様に聞かせてやる、とトーマとの通信はそのまま、今度は無限書庫のユーノと通信を繋げた。ユーノなら、それでもユーノなら絶対に面白い話を用意してくれていると信じて、通信を繋げると、どこか煤けたユーノが自動人形に膝枕して貰いつつ通信に出た。

 

『やぁ、二人とも。こんな朝にどうしたんだい』

 

『寧ろお前がどうした』

 

『僕? ちょっと同僚を今から病院に出荷する所だったからね、その前に仮眠を取る予定だったんだよ……あ、ちょっと愚痴りたい気分だから言っても良いかな?』

 

 ユーノのその珍しい言葉にトーマと視線を合わせ、頷きをユーノへと返した。するとユーノはそうだね、と言葉を置いた。

 

『実はね、同僚の一人が女装オナニーにハマっててね』

 

『のっけから凄いの来た。この時点で負けた気がする』

 

『え? そう? 女装オナニーぐらい試してみない? 僕も一時的にハマってた時期あるし、アレクだって女装どころか変態できるし』

 

『そういう事情を聴きたいんじゃねぇんだよ……!』

 

「まぁまぁ……それで?」

 

 男の性事情なんて聴いていても不毛なだけなのだから、ここはさっくり流して話の続きを求める。元々このヴィルフリッドの手記を読んで感じた無情さとセンチメンタルさを消し飛ばす為の話を求めていたのだが、どうやらそれ以上に脳味噌がぶっ飛びそうな話の気配にちょっとわくわく感を感じていた。

 

『えーと、あ、そうそう、同僚が女装オナニーにハマっているんだけどね? かなりハマったらしく美人の彼女よりも俺の女装の方が上だっていって婚約解除までしちゃってね、そいつ』

 

「女装オナニーで婚約解除」

 

『で、エブリデイ女装ライフを楽しみ始めたんだけどそいつ、どうやら前の方で楽しむだけじゃ満足できなくて後ろの方でも楽しむようになり始めた結果、とりあえず……ほら、月間次元の戦艦ってのあるじゃないか? 毎月次元戦艦の模型のパーツがついてきてコツコツ組み合わせて完成させるアレ』

 

「あぁ、アレ無駄にお金がかかるからキットをそのまま完成させた方が遥かに安上がりなんだよなぁー」

 

 うん、まぁ、そこが論点じゃないんだけど、とユーノが言葉を置く。

 

『何を考えたのかその完成された次元戦艦の模型を停泊させよう! って発想に至ったらしくてね……』

 

『えっ? ……えっ?』

 

「嘘だろお前」

 

『飲み干してしまった僕のアースラ……! 停泊! In! ドック! 出航できません! な状態になってしまってね……』

 

『ごめん、人類の話をしているんだよね?』

 

「人類の可能性を見たわ」

 

『僕もいきなり同僚が……スクライア司書! 私のドックからアースラが出航しません! チェーンバインドで引き抜けませんか!? とか言ってケツを出された時は現実を疑ったよ。時々現実ってファンタジーを超えるよね。という訳で今から同僚を病院へ出航完了させる為に送り出す前に軽く休んでるんだ、ごめんね……で、なんの用事だっけ?』

 

「いや……なんでもないわ……」

 

『うん、しっかり休んでて』

 

『そう? それじゃあね』

 

 ユーノとの通信が切れ、トーマと数秒間視線を俯かせ、黙り込む。どうしよう。こういう時、一体何を言えばいいのだろうか。俺にはそれが全く解らなかった。ただ解るのは無限書庫という場所は魔境だという事だった。あれほどストレスがたまる環境になると人間は簡単に歪んでしまうのだろうか。

 

『俺さ』

 

「おう」

 

『ちょっとネット調べててさ、人型デバイスに恋をしたり好きになったり、恋人になるのは異常で病気だって書かれているのを見てちょっとムっとしてさ、なんか……こう、もやもや感じる部分があったけど』

 

「おう」

 

『なんか身近に闇が深すぎる所があったから俺なんてまだまだ普通だって解ったわ。ないわー。アレはないわー。俺まだ全然健全じゃん。なんでもないじゃん。というか模型って入る物なのかよ……』

 

「神様だってそんな事を想定して人類をデザインした訳じゃないだろうからびっくりだろうな」

 

 俺も久しぶりに心の底から驚けた。いやぁ、良い笑い話だった。衝撃と諸々でセンチメンタルな気分が一気に大気圏外まで吹き飛んだ。じゃあな、とトーマとの通信を切り上げながら、気分が落ち込んだらこれ、無限書庫での愚痴を聞くのが一番楽しいのかもしれないと理解する。いや、だって何をどう聞いても明らかに面白すぎる。お前らどうすればそこまで欲望を解放出来るんだって言いたい。裏社会でもそこまでクレイジーなのは中々見つからないのに。まぁ、お前はそのままのお前で居てね、と心の中で祈りつつ、

 

「んっ……」

 

 僅かに身じろぎ、そして覚醒し始めるジークリンデの姿を見た。漸く起きたな、この娘め。そう思いながらも小さく微笑み、髪を梳く。

 

 初めて現実を盗み出したのはエリーの件だった。だがあの時は直接身内に関連する現実改変が発生していなかった為、その実感は薄かった。だがこうやって手の届く範囲に居る大事な人が消えて無くなってしまったのを知覚し、自分がどういうモノに触れているのかを理解する。

 

 そうすると、どうしようもなく、触れている存在が愛しく感じるのだ。

 

 ……だからこそ、より、ヴィヴィオを失えないんだと。そう思ってしまう。

 

「……ん? ぁ……あっ。ウチ、寝てしもた」

 

「おはようジーク、良く眠ってたな」

 

 昨晩、ヴィルフリッドの心臓から現実を引き抜き、ジークリンデに戻してからは諸々の始末を行い、それから眠るジークリンデを自分の家へと連れてきた。ベッドで寝かせようかと思ったが、人肌恋しかったのもまた事実であった為、引き抜いた時に出て来たヴィルフリッドの手記を読みながら居間のソファで、膝枕をしつつ手記を読み続けていた。そうやって、ジークリンデは目覚めた。

 

 ゆっくりと目を開き、そして此方を天井を見て、視線を周りへと向け、

 

「あ……。あーん、勿体のぉ事したぁー」

 

 目を覚ましたジークリンデは悔しがるように両手で顔を隠し、そのまま膝を曲げて体を丸め、隠れる様に姿勢を取った。それでも膝枕から降りようとしないのだから、隠れるつもりは欠片もないという事が伝わってくる。やれやれ、と元気そうな姿を見て息を吐き、安心する。ジークリンデに関しては、もう完全に大丈夫だった。現実の改変を乗り越えた今、それに彼女が巻き込まれる事はないだろう。

 

「というか嘘やろ? ウチ今夜はオールナイトで盛り上がるつもりやったのにぃ―――! いやぁ―――! 折角お持ち帰りされたのにこんなオチいややぁ―――!」

 

「ほれ、起きたんならいい加減俺の膝を解放してくれ、サービスタイムは終了したぞ、お姫様」

 

「もう一日! もう一日デートしよ! 今度こそは、今度こそはウチ酔い潰れたりはせぇへんから!」

 

 余りにも必死で憐れな言葉だったが、ゆっくりと髪を梳きながら駄目だ、と告げると駄目かぁ、と声を零してジークリンデががっくりとした。

 

「おかしいなぁ、ウチそこまでお酒に弱いつもりはなかったんやけどなぁー……」

 

「ま、楽しくて酔いが回っちまったんだろうな」

 

「この一切フォローするつもりのないいけずぅー!」

 

 はっはっは、と小さく笑い声を零して頭を撫でてからジークリンデを下ろそうとしたが、それよりも早く起き上がったジークリンデが素早く股の間を占領する様に座り込んで、逃げ場がない様に背中を押し付けてくる。仕方がないなぁ、と片手で腰を抱きながら、もう片手で解いてある髪を軽く撫でる。

 

「悔しい。これで割と満足しそうなウチの事が悔しい」

 

「オメェにゃあまだ色々とはえーよ」

 

 軽く額を叩いてから頭を撫でるのに戻ると、ジークリンデが此方に寄り掛かりながらんー、と声を零す。

 

「なんや、色々と昨晩の事はあやふややけどな」

 

「おう」

 

「……家、一度戻ってくれるん?」

 

「……ま、約束だからな」

 

 俺しか知らない、覚えていない娘との約束だ。彼女が消えた事で、その約束を覚えている人間は俺しかいないし、今ではそれをジークリンデが約束した事になっている。現実の辻褄合わせだ。都合の良い様に過去が改変されてそれが現実になっている。だからそれを守る必要はない。必要はないのだが―――それでも、約束したのだから、そればかりは守らなくてはならない。

 

 そうしなければ、あまりにもヴィルフリッドが報われなさすぎる。

 

「だからお前を送り返すついでに家にも顔を出すよ。そん時にプレゼントは渡せばいいだろ」

 

「ほんまか!?」

 

 振り返りながらジークリンデが聞いてくる事に対してほんとだよ、と苦笑しながら答えれば、一気にそのまま抱き着かれる。胸に押し付けられる柔らかい感触はヴィルフリッドにはなかったものだよなぁ、と昨晩の感触を思い出す。アレは本当に憐れな感触だった。それに比べてジークリンデは結構育っている。ヴィヴィオ程ではないが。正直ヴィヴィオはアレ、聖王とかいうチート血筋の影響が少なからず発育に影響を与えているんじゃないだろうかと思う。

 

「ま、今回だけな。約束したし」

 

「流石お兄さんや! キスさせてーな! ほら! ほら!」

 

「歯を磨け。話はそれからだ」

 

 その言葉に一瞬でジークリンデが動きを停止させ、瞬きをした瞬間には離れており、少し離れた場所で息を吐き出してそれを嗅ぎ、それ以外にも自分の体臭等を確かめる様に数秒間、無言で自分の状態をチェックしてから、

 

「風呂場借りるで!!」

 

「ゆっくり、な」

 

 苦笑しつつ、女の子らしいリアクションを見せたジークリンデの姿を見送った。その姿を見る限り、後遺症の類もなさそうだった。完全にジークリンデの真実を現実へと引き戻すことに成功していた。故に安堵のため息が口から洩れる。

 

 そして同時に、溜息も漏れる。

 

「実家、か……今更、どんな顔をして行けばいいんだ……」

 

 帰ったらまず間違いなく親父に殴り飛ばされるだろうなぁ、というのは予測できる。そしてたぶんそのまま殴り合いに発展する。それがよーくわかる。だって親子だもの。今まで音信不通だったし、そこにノーアポで突撃すれば間違いなくキレる。とはいえ、それはそれ。

 

 ヴィルフリッド最期の約束なのだから、守らねばならない。

 

「ほんと、厄介な女だったよ、お前は」

 

 ソファに横になり、足を組んで手を頭の下にしつつ、はぁ、と息を吐く。凡そ6年ぶりの実家への帰還は、えらく気の重いものになりそうだった。




 古代ベルカはクソ、はっきりしてんな。

 それはそれとして、ユーノ君今までの出演時間がなかった分ダークサイドを詰め込んで吸収している様なキャラの濃さをしているけど、今まで出演少なかったキャラはこういう運命になる法則でもあるのかな???
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