※この作品はR-18です。

Stealing The Reality   作:てんぞー

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Phantom Thief Ⅱ

Rebooting Reality……

Age New Era 6X

 

 

「やばい、社会舐めてたわ」

 

 言葉と共にベンチに倒れ込んだ。

 

 ポケットから持ち出してきた財布の中身を確認すれば、既にその中身は空っぽになっていた。予想外に消費が重かった。住む場所を適当に確保するまでは良かった。そんなの、適当に廃墟に住み込めば良いのだから。問題はその後だった。最低限の生活の為の物、着替えを用意して部屋に戻ってみれば、それらが全部消えていた。

 

 どうやら、盗まれたらしい。

 

 それに懲りずに頑張って何とか隠れ家を作りながら日々の食事や糧を何とかしようとすれば、それだけで財布の中にあった数万の支度金は底をついてしまった。家にいる間はお小遣いを使う事なんてなかったため、それなりにお金があった筈だったが、実際に一人で生きようとしてみればこんなものじゃ全然足りないという現実を理解させられた。しかも実家とは絶縁、放逐されている。身分の保証人が存在しないのが理由で、アルバイトを探してもどこも雇ってくれない。

 

 デバイスがあればまだ何とかなったのかもしれない。だがそれは実家に投げ捨てて来た。デバイスなしの魔法使用は非殺傷設定が適応不可である為、好まれない。つまり腕っぷしを利用してどっかに雇われるってのもなしだった。一人で生きる、という事の難しさを肌で実感していた。だからこそ親父やお袋はきっと、何時帰って来ても良いなんて言葉を贈ったのかもしれない。一人で生きるというのは難しく、その内根を上げて帰ってくるとでも思ったのだろう。だけどそんな事は許せなかった。

 

 家督は、妹へと譲らなくてはならない。その為には―――俺が邪魔だ。俺の存在で家が穢されるのは見るに堪えない。だから俺が名前を捨てる必要があった。だから俺はアレク、ただのアレクだ。そこに続く名前は全部切り捨てた。そしてただのアレク君は今、絶賛腹ペコで死にそうだった。辛い、実に辛い。通りすがりの野良犬を雷撃で焼いて喰ってから二日間、何も食ってない。ここまで食べるのを我慢するのは初めての経験だった。

 

 公園のベンチで倒れ込みながら、今までの自分がどれだけ恵まれた環境に居たのかを自覚する……いや、大半の人間が知識としては理解していても、それをおそらくは実感していないだろう。空腹、渇き、体の痒み、明日への恐怖、盗まれない様に隣人を疑い、そしてそんな環境でも仕事を見つける為に笑みを浮かべて媚びを売らなくてはならないのだ。

 

「マジで社会舐めてたわ……」

 

 世の中、考えられるほど甘くはなかった、という話だった。保証人がいなければ信じられないし、廃墟へと非合法な仕事を求めようにもコネがないと蹴り転がされるだけだと聞いている。だったらどうすればいいのだろうか。そんな事を悩みながらベンチに倒れていた。飯を調達するなら適当な動物を殺して、電気で焼いて喰えば解決できるのは実践済みだ。ただこれはやり過ぎると睨まれるし、管理局のお世話になりたくない。

 

「……」

 

 やっぱり、家に帰らないと駄目なのだろうか? そう一瞬考え、振り払う。違う、駄目だ、と。家の人たちは優しい。だからこそ自分が出て行かねばならない。あの人たちの優しさに甘える事は許せない。何よりも自分自身を許せない。だからこそ出て行く事を決めたのだ。この意思は最後まで貫かなければならない。だがこうなってくると選択肢も潰れて行くわけだが。

 

「―――ほう、これぞ我が最後の天運という物か。よもやこのような所で我が最後の運命に逢えるとは、どうやらまだ現実には負けたようではなかったらしい」

 

 ベンチで転がっていると、そんな老人の声が聞こえて来た―――。

 

 

♦

 

 

 目を開けた。背中に感じるのは柔らかいソファの感触で、鼻に付くのはアルコールとチーズの臭いだ。昨夜、何をしていたのかを思い出しながら顔に手を当て、はぁ、と息を吐き出す。頭がややずきずきと痛みを訴えるのはやはり、昨晩飲み過ぎた事による影響だよなぁ、と片付けられた室内を片目で見まわしながら思い出す。自分が座っている個人用ソファとは別の、大型ソファにトーマは眠っている。ユーノ用のソファには彼の姿はなく、彼の荷物もない。

 

 ……どうやら、普通に出勤した様子だった。あのどんちゃん騒ぎの後で普通に出勤できるという辺り、割と真面目に尊敬する。真似したいとは毛ほどにも思わないが。しかしユーノはユーノでアレだ。社会的立場があるのに、ここまで付き合わなくて良いのに。まぁ、助かっているから文句はないのだが。仲間としてちゃんと見ているつもりだし。ふわぁ、と欠伸を吐きながら起き上がり、背筋を伸ばす。

 

 まだ眠っているトーマの姿を見てから、

 

「はぁー……懐かしい夢を見たな」

 

 そんな事を呟き、頭を掻く。もう一度欠伸を持たしつつ、部屋の掃除が終わっている辺りリリィとエリ―は既に起きているな、というのを確認する。そもそも姿が人間なだけで、中身はデバイスなので、あの二人は。機能としての睡眠は可能だがそこらへん、実は不要だったりするのだからまぁ、あんまり眠っていないのだろう後始末で。

 

「ふぁぁぁー……ぁ……。良し、エリー! シャワー浴びるからな!」

 

『背中を流しに行きましょうか?』

 

「流石に今日はいいや」

 

 子供がいるし、と呟きながらシャワー室へと向かって足取りをふらふらとさせながら向かう。とりあえず、今日は今日でやる事があるのだから、まずはシャワーを浴びて頭をすっきりさせた方が良い。そう思ってタオル捜索の旅へと旅立った。

 

 

♦

 

 

「はぁ、やっぱ朝はこれが無きゃ駄目だな。うめぇ」

 

「恐縮です」

 

 シャワーを終わらせて上半身裸のままリビングに出るとトーマが起きていた。入れ替わる様にシャワー室に入る少年を見送ってリビングへと戻れば、昨夜の乱痴気騒ぎを片付け終わった、何時ものアジトの様子が戻って来た。目覚めの為に珈琲をエリ―に淹れて貰い、その匂いを楽しみながらアジトに設置してある大型テレビの電源を入れた。光が灯ったテレビは既にニュースチャンネルに合わせられており、

 

『昨夜未明ルキア博物館にて展示中だった《太陽妃の首飾り》が盗まれました。現場には挑発する様に一枚のカードが残されており、どうやら怪盗団を名乗る連中による犯行らしく―――』

 

「お、やってるやってる。早速ニュースになってるな」

 

 テレビで流れているニュースは勿論、昨晩自分たちが盗み出した首飾りに関する事だった。今では古代、或いは神代とも表現されるアルハザードと呼ばれる黄金時代。あらゆる技術、思想、命、生物がその絶頂期にあったと言われる時代だ。本当に神と呼べるような存在が君臨していたとさえ言われる様な、そんな奇跡の時代の遺物の一つが《太陽妃の首飾り》と呼ばれるものである。

 

 その背景に関してはユーノが無限書庫からぶっこ抜いてきてくれた為、完全な情報が存在する。曰く、これは太陽の神性に対して嫁ぎに行った女が唯一身に着ける事を許された装飾品、だったらしい。数多くの衣服、装飾品、それらすべてが太陽神の前では虚飾に感じられた。故に妻となる女にその全てを捨てろと神は告げた。そしてその時待ったをかけて捨てさせなかったのがこの首飾りだったらしい。そして太陽神は月の神にさっさと日は落ちろと蹴り殺されるまではずっとこの首飾りとその宝石を愛でていた。

 

 なんというか、実にそれっぽい神話から出典されている品だった。神話なんてものは大半が神聖さを生み出すためのホラ話ばかりではあるが、不思議と神話に所縁のある品という物は管理局の科学力でも解析できないものが多い。ロストロギアの中でも最も古い部類、アルハザード産のものがほとんどだ。現代で個人で保有可能なロストロギアは古代ベルカ中期から出現し始めた、ベルカ時代に製造されたものがほとんどだ。此方はまだ解析して、技術は不明でも用途ぐらいは判別できる。

 

 その前の十二王時代とかになってくると次元侵略による技術混合と昇華によるカオスすぎる環境で、現状の管理局では把握しきれないという凄さがある。まぁ、自分には一生関係のない話だ。基本的に狙うお宝はアルハザード時代のものだと決めている。その方が大きく仕事が出来るし、何よりスリルとロマンがある。小物を選ぶよりは此方の方が遥かに良い。

 

「よしよし、漸く頭が動き出したわ」

 

「次を淹れましょうか?」

 

「頼む」

 

 エリ―に次の一杯を淹れて貰いつつ、テレビを眺める。美術館の盗難による被害はアレ1個でどうやら5億らしい。アーティファクト級ロストロギアとして用途不明であり、尚且つ何らかの効果を発揮した事がない以上、美術品以上の価値が見いだせず5億という値段に納まるとの事。これでも低い、と言われてしまう辺り美術品というものの価値観は末恐ろしい。

 

「ひぇー……とてもだが売れる値段じゃないなぁ、これは」

 

「アレク、朝食はどうしましょうか」

 

「なんか軽いもので」

 

「了解しました」

 

 キッチンの方から向けられる声にこたえていると、リリィが出て来た。片手を持ち上げて挨拶をする。

 

「おはようリリィ」

 

「おはようアレク。売ろうと思えば売れるの?」

 

 リリィが首元に指さしながら聞いてくるのに、まぁな、と答える。

 

「爺さん……師匠の事なんだが、死ぬ前に色々と連絡したり連れてってもらって爺さん名義の色々を俺へと切り替えてくれたんだよな。だから億単位でも売ろうと思えば売れるぜ。そういうのを専門に買い取りする奴とかいるしな。ただ億単位のお金を受け取った所で、金の動きってもんがあるかな……」

 

「隠せないんだ」

 

「俺はな。数千万ぐらいだったら俺でもどうにかなるんだけどな、流石に億単位になったら専門の人間を雇った方が安全だわな。まぁ、そんな事しなくても装備とか道具に必要なお金は俺が稼いでるから、そこは気にするな。拾ったやつの義務として独り立ちできるようになるまでは面倒見ててやるからな」

 

「なんというか……ごめん」

 

「また言うが気にするな。お前もトーマと昨夜みたいに俺の事を雑に扱ってりゃあいいんだよ。お前らは俺のトロフィーなんだからな」

 

 テレビを眺めながらそう、リリィに伝えた。まぁ、適当な所でトーマとリリィは幸せになっていれば良い。幸せになる事が盗まれた側としての責任だ。まぁ、言われなくても勝手になるだろうが。そんな事を考えつつ携帯端末を取り出す。ニュースを流しながら端末の中のSNSアプリにアクセスし、そこから自分のSNSの流れを確認する。

 

 と言っても確認するのは話題の流れだけだ。エリ―の時の様に始まっているのなら前兆がSNSでも確認できる筈なのだから。エリ―以来、本(・)当(・)の(・)仕(・)事(・)はまだ1度も起きていないとはいえ、ちょくちょくとチェックしてしまうのは、エリ―を盗んでしまった事が故、だろうか。まぁ、解る時が来れば解るだろう。それにしても今、確認している限り、話題に大きな変化はない。テレビで流れている首飾りと怪盗の話が話題になっているだけで、自分の記憶と食い違う様な現実の変化はない。

 

―――本日も世界は平和だったらしい。

 

「ふーむ……なんか新鮮なネタを探すか……いや、予定が開いたし仕事を入れた方が良いか」

 

「アレク、家に戻らないと心配されます」

 

「アレの事ならいいんだよ。そもそも絶縁してるんだから、なぜか合鍵を持ってる方がおかしいんだよアレは」

 

 うん、まぁ、気持ちは解らなくもない。だがそれはそれとして、ケジメはケジメだ。いい加減家に帰るつもりはないと、アレも理解してくれないと困る。嫌がらせを繰り返しているのにそれでもまだ来るし。一体何を慕っているのかが解らない……まぁ、今は忘れていても良い話だ。とりあえず他に考える事はある。端末でチェックする電子マネーのクレジットにはまだ余裕があるものの、昨夜の騒ぎで結構使ってしまった。やはり、働いて補充している方が安心できる。

 

「うっし、ヘヴンに行くか」

 

「お仕事?」

 

「ま、困ったらスリでもすりゃあいいけど惨めだしな。だったら普通に働いて喰った方が良いだろう。あんまり遺産には手を付けたくないし。朝飯食ったら行く事にするわ。っつーことでめーしー! エリ―! 俺の飯まーだー?」

 

「あと少し掛かります」

 

「そっかー」

 

 女に飯を催促して、自分は珈琲飲みながらゆっくりと待っている。控えめに行って結構屑なのでは? と一瞬だけ思ったが俺が家主で、同時にエリ―の今の持ち主なのだから、文句を言われる筋合いでもない。というかこいつに限らず大体女の家行って飯を催促している覚えしかない。まぁ、いいや。開き直った所で、シャワーを終えたトーマが目を覚ましたようで、半裸の状態で出てきたが、その姿を見たリリィが即座にトーマの方へと向かった。

 

「もう! まだ髪が濡れてる!」

 

「いや、これぐらい普通に乾くって」

 

「風邪引いちゃうかもしれないからダメ」

 

「いや、アジト暖かいし」

 

 トーマとリリィのやり取りを見て、小さく微笑んでいると、リビングの卓にエリ―が作った朝食を運んできた。どうやら本日の朝食はシンプルな目玉焼きとベーコンにスープとサラダらしい。確かにこれなら軽いな、と思いつつ朝食を食べる為に卓に付くと、

 

「あ、そうだアレク。俺もそろそろヘヴンで仕事を引っ掛けたいんだけど」

 

「あー……仕方がねぇな、なんか仕事拾って来てやっから大人しく待ってろよ」

 

「サンキュ」

 

 元々面倒な妹がいるのに、何故自分から面倒な弟と妹を自分は増やしてしまったのだろうか、と今更になって軽く頭を悩ませる。とはいえ、怪盗してしまった以上自立できるようになるまで面倒を見るってのが保護者としての責任でもある。少なくとも管理局から指名手配が裏でかかっている状態の少年少女を放り出したら一瞬で通報されて終わるだけだ。

 

 面倒だ―――そう思いつつも今のこの生活は嫌いになれなかった。

 

 

♦

 

 

 ヘヴン。即ち天国。それはこのアジトが存在する廃墟都市群の中である存在を示している。そこに正式名称は存在しない。その始まりは廃墟都市内部で誰かが商売をしようとしたところだ。表の世界では売りさばけないようなグッズやアイテム、或いはロストロギアに奴隷なんてものも扱っている。それらの商売を行う為に自然と発展し、ヘヴンという場所は生み出された。

 

 ヘヴンには固定された場所がなく、数日に一度場所を移動させる事で時空管理局からの摘発や調査を乗り越えている。云わば、移動する取引所、移動するブラックマーケットと呼べるような存在になる。この廃墟都市は多くの犯罪者の巣となっており、安易な考えで踏み込んだ局員は全裸になって外に叩きだされる事だって珍しくはない。ここに居る連中は利益を守るためにヘヴンを守ろうとする。

 

 そこで情報交換を行え、ビズを行え、そして欲しいものをなんでも手に入れられる。

 

 無法者の天国(ローグ・ヘヴン)。故にヘヴン。

 

 場所が変わり、あった筈の場所にそれが消えている。いかにも刹那的で、空振りしそうな俺達無法者に相応しい天国だった。定期的に居場所を変えるこのヘヴンの位置ではあるが、ここに居る住人は大体その場所を把握している。無論、それは自分も入る。とはいえ、いくつかルールがある。

 

 何があっても全部自己責任。それのみ。

 

 後はギャングやらマフィアやらが勝手に色々主張しているから、それに飲み込まれない様にするのが大事なだけである。ぶっちゃけ、廃墟都市には自治という概念が存在しない。だから主張した奴が勝ちという感じの勢いがある。その中でも喧嘩を売ったりしないことを意識しなくてはいけないのが大変なのだが。

 

 まぁ、それでも何年か通っていれば慣れるものだ。

 

 女連れだと襲われるから連れて行かない。子供を連れて行くと舐められるから連れて行かない。常に武器を携帯し、見える所に装備しておく。その上で軽い変装を整える為に眼鏡を装着しておく。軽く後ろへと普段は流す金髪も知的な雰囲気を作る為に下へと下げている。見てやばい、怖い、強いというのを見せれば大体の連中は突っかかってこない。

 

 ジーパンに白いシャツと黒い革のジャケット、腰のベルトにマチェットと大型ハンドガンを見える様に装着する。デバイスなどの電子機器はハッキングされた場合対処が遅れてしまうのが恐ろしいので、こういう所に持ち込む武器はなるべく原始的なのが良い。髪を下ろして眼鏡を装着すれば、マフィアの若頭にでも見えそうな男の出来上がりだ。

 

 こう見えても元貴族、見た目だけなら良いのだ、見た目だけは。

 

 そう言う事で他の連中を全員置いてヘヴンへとやって来た。

 

 今回は廃墟都市北部元地下ショッピング街が会場となっている。

 

 廃棄された店舗等が再利用されている。後ろめたい連中は基本的に顔を隠している。奴隷商人とかそれが解りやすい。奴隷商売に参加している連中は全員、黒服の上に顔を仮面で顔を隠している。ただやはり目立つのは、くっきりと体のラインが出る、模様も何もない黒いドレスを装着している上にヴェールで顔を隠している、奴隷商人の女だろう。たぶん、この集団の中で一番相性が悪いであろうことは、直感的に理解できた。

 

「変わらねぇなぁ」

 

 ヘヴンへと来たところで、息を吐きながら言葉を吐けば、入り口近くで酔いつぶれている男が笑った。

 

「ははは、変わるもんか! 無法者(ごみくず)は生きている限り生まれるもんだ、俺達が滅びる日は来ねぇよ」

 

「違ぇねぇな。集まりは?」

 

「一番大きなレストランが代わりを果たしてる。行って奥だ」

 

「ありがとよ」

 

 親指でコインを弾けば、それを酔っ払いが掴んで嬉しそうに笑みを零す。明らかに管理局の支配、管理している秩序が全く存在しない世界に到達する。やれやれ、気が抜けないな、と思っていると奥の方から銃声が聞こえた。うーむ、実に平常運転である。ここはどう足掻いてもトーマはともかく、リリィは不可能だな、と思う。リリィを連れてきた場合、三秒で拉致られてレイプ不可避だろう、アレは。

 

 エリ―はエリ―で反射的に魔力暴走しそうで怖い。

 

「安心して連れてこれるのがクソフェレットかヴィヴィオとか困るなぁ……」

 

 やっぱり、その内トーマにはこっちに来れる様になる必要があるだろう。少なくとも表の管理された環境でトーマは生きて行けない。リリィが保存されていた研究施設に踏み込んでしまった事が原因で、公的には死亡扱いされているからだ。それを数奇な巡りで、リリィ共々トーマを盗み出して、連れて来たという経緯が間にある。そしてそのまま見捨てる事も出来ず、養う様な形で面倒を見ている。

 

 とはいえ、何時までも面倒を見るつもりはない。この裏社会で生きるだけの力が蓄えられたら容赦なく貸しているアジトの部屋から蹴り出す予定ではある。というか15歳ぐらいになったら多分アジトで盛り始めそうで困る。

 

 中学生ごろなら割と真面目にあり得る。

 

「……まぁ、後でいいや」

 

 なんでもかんでも後回しにしようとする癖があるよなぁ、俺。解りつつも後回しにしてしまう癖は、誰かに叱られない限りはいつもそうなのだ。そう思いヘヴンの商店を通り過ぎて行く。今日もヘヴンのブラックマーケットは非合法な品で溢れかえっている。ブルーシートの横には体の6割がサイボーグ化されている姿さえ見る事が出来る。

 

「今ならサイバネティックスも安いよー。内臓型デバイスのメンテナンスも請け負うよー! 今ならなんと首だけ脱出する装置もつけるよ!」

 

「A&F66あるよー! 弾丸一発で戦車さえもひっくり返す! まぁ、反動で腕が消し飛ぶけどな!」

 

「高性能盗聴器いらんかねー。最新の自立バグ型だよー」

 

 どれもこれも表の世界で売ろうとすれば一瞬で牢屋に叩き込まれる様な代物ばかりだ。サイバネティクスに関しては違法性が高く、3割を超えるサイバー化は現状、非常に危険で有害技術扱いを受けている。A&F66と言えば人体を破壊する事だけを考えたクレイジーなガンスミスのブランドで、盗聴器に関してはもはや説明する必要もないだろう。

 

 更に視線を反らせば、大きな一角を奴隷市場が占拠しているのが見える。味見と称して犯されている男や女の姿が見える。やっぱり、この光景がある以上トーマとリリィをここに連れてくるのは後2年は無理かもなぁ、と考える。

 

「……」

 

 と、奴隷商人の女がヴェール越しに此方に笑みを向け、軽く会釈した。それに会釈を返しつつ、ヘヴンの奥にあるレストランへと進んで行く。元は大衆向けのレストランだったのだろうが、今では酒場の様な風景を感じさせるように削られ、片付けられ、整頓されていた。

 

「おいおい、アレクじゃねーか! ここしばらく見ないからくたばったかと思ったぞ!」

 

「おいおい、俺がそう簡単にくたばる訳ないだろ?」

 

「そりゃそうだ! 賭けは俺の勝ちだな!」

 

「クッソ! 次は死んで来いよな!」

 

「馬鹿かよお前……」

 

 とは答えつつも苦笑する。この、馬鹿さ加減と喧騒は嫌いじゃなかった。寧ろ、統制された、管理された社会よりも此方の方が遥かに過ごしやすさを感じていた。当然ながらそれがアウトローの本質というものだ。管理され、支配され、統制され、そして規律の中で生きるのはどう足掻いても無理だ。その息苦しさが嫌で、表の世界で生きられるのに、態々この裏社会に身を投じているのだから。

 

 この混沌が居心地が良いのだ。

 

 警戒し続けなければならないのは面倒だ―――だが自己責任の範囲で、自分は完全に自由だ。ここでは社会のルールというものが暴力一つで覆る。裏は裏で、表では評価されないルールで動いている。それがどうしようもなく自分に馴染むのだ。アウトロー、アウトサイダーのルールが。

 

「よぉ、アレク。まだ元気の様だな」

 

「お、これは若旦那」

 

 さて、仕事を探そうかと思ったところで護衛にガラの悪い男を連れた、サングラス、オールバックの灰髪の白いスーツ姿の男が近づいてくる。軽く話しかけてくる男はその見た目の通り、まともな商売についている者ではない。いわゆるギャング、或いはマフィアと呼ばれる集団の若頭を務める男だ。

 

 廃墟都市にもマフィアやギャングと呼ばれる組織は幾つか存在する。当然ながら無法にも法が存在するからだ。常に争ったりしているこの集団だが、廃墟都市を拠点に住んでいる、生きている者からすればいい仕事先でもあるのだ。常に競争があるという事はそれだけ何か、働けるところがあるという事でもあるのだから。だからこの若頭も自分からすれば良い働き先でもあるのだ。

 

 自分からすればちょくちょく働かせてもらっている仕事先の一つである。

 

 と言っても、そこまでダーティーな事をしている訳ではない。自分にも《悪の美学》とでも呼ぶべきものが存在する。それが許す範囲で仕事をしているだけなのだから。それを理解して仕事を回してくれるのがこの若頭だ。そういう意味で個人的に好感度は高い。

 

 だから愛想良くするわけではないが、片手を上げて挨拶する。

 

「景気はどんなもんで」

 

「悪くねぇよ。ただ昨夜、大暴れした怪盗がいるせいで近いうちにこっちに探りが入りそうなのが面倒ってところだな。それ抜きにすりゃあ悪くねぇさ」

 

「ほぇー、怪盗ねぇー……」

 

「あぁ? ニュースを見てねぇのか?」

 

「いや、見てるけどいきなり怪盗って言われても……ねぇ?」

 

「は、は、は、は。確かにそれもそうだな」

 

 まぁ、その本人を目の前にしているとは思わないだろう。何せ、怪盗として出る時は仮面を被っているのもそうだが、それとは別にエリ―とのユニゾンで性別、顔も切り替えているから本来の姿の特定が不可能なのだから。なんでも、ユニゾンデバイスとの相性が良ければ良い程身体的な特徴が変質するらしい。エリ―との相性の良さは理論最高値だとか、そんな事をエリ―が言っていた気がする。その為、完全にエリ―を利用できる他、見た目が混ざり、ややエリ―側に引きずられるとの事。

 

 そう言う理由から、ネメシスという別人の姿が出来上がる。

 

 まぁ、バレる理由が存在しない。直接現場を見られでもしない限りは。そしてそこら辺の対策はキチンとしてある為、そういう事が発生する可能性はない。なのでセーフ。と、それはそれとして、

 

「若頭、なんか仕事ない?」

 

「仕事を探しに来たか。だが丁度良い。うちの縄張りに野良犬が入り込んでな、そいつの相手を頼みたかったんだ」

 

「野良犬かぁ」

 

 野良犬、つまりは余所者で事情をよく把握もせずに裏の連中に掴みかかってくる奴らの事だ。ケースは様々で、表から流れ込んできたもの、正義感のある奴ただの馬鹿とか色々とケースがある。なお管理局だった場合は番犬だとか言われる。野良犬って事は所属なしの奴の事なのだろう。

 

「そっちのもんで相手は出来なかったのか?」

 

「いや、やっても良いんだが噛みついて来たのがメスガキだったからな。ウチの連中は女と殺しの扱いなら慣れてるけど、ガキの相手は苦手だからな。間違えて殺しちまうからな」

 

「手加減できない程度には強い、と」

 

「そういう事だ。手加減やら殺さずってのはお得意だろう? これを片してくれたら別の仕事も回す事にする。とりあえずは一発目にこれだ。行けるか?」

 

「若頭には世話になっているしな、やろう」

 

「おう、頼んだぜ。……ダニー。アレクに居場所と特徴を教えろ」

 

「うっす、アレクさん端末持ってますよね? 情報今送ります」

 

 肩幅が大きく、ガタイの良い護衛が手の中に納まる端末を取り出し、それを操作して情報を此方へと送ってくる。それを受け取りながら、相手がいるらしい位置情報と、そして姿を撮影した写真を入手する。端末に送られてきた写真には茶髪のポニーテールを緑色のリボンで纏めた少女の姿が映っていた。

 

「マジでガキじゃん……」

 

 これ、リリィよりも若いぞ、と軽く戦慄していると若頭から言葉が送られてきた、

 

「見ての通りまだまだ若いからウチでも中々扱いに困っていてな……。対処方法はお前に一任する。ただし殺しはするなよ、ガキを殺すと名前が汚れるからな。それ以外は大体好きにやれ。一人称がワシで語尾にじゃを付ける変わり者だ、間違える筈もねぇ」

 

「キャラが濃すぎる問題」

 

 ここの連中にも負けない個性の暴力だなぁ、と思いながら端末をポケットの中に押し込んだ。了承し、仕事が終わったら連絡を入れるからという所で解散し、元レストランの酒場を出る。

 

 とりあえず、これで繋ぎの仕事が作れた。まずはこれをさっさと終わらせて次の仕事へと繋げようと考え、アジトでぐーたらしているトーマを思い出す。リリィを外に連れ出すのはトーマとのリアクト中以外では反対だが、トーマ単体で連れ出す事は……これぐらいの仕事なら問題ないだろうと判断する。

 

 ともあれ、

 

 仕事を拾ってこれたので、アジトに戻ってトーマを連れて行く事にする。




 今回は結構登場するキャラの割合が多いかもしれない。まぁ、メインで活躍するのは絞られるかもしれないけどサブとしてちょくちょく登場する枠は多めって感じで。

 改めて思うけど、若年層に対して魔法世界厳し過ぎない?
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