※この作品はR-18です。

Stealing The Reality   作:てんぞー

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Free Choice Ⅲ

 軽く体を動かす。

 

 腕立て伏せ、宙返り、側転、二段ジャンプ。更に空中で大きく軌道を変える様に方向転換。後は軽く拳と蹴りを繰り出し、それでボディコンディションが一切問題ないのを確認した。体は自由に動くし、リンカーコアの延命措置も問題なく稼働している。やはりドク、根本的には邪悪だけど腕前は間違いなく神医師級だと確信できる。まぁ、今ではほとんど魔力なんて使わないから別に消えた所で問題はないのだが―――早い段階で消えると疑われてしまうからな、と自分の心に言い聞かせる。

 

 ともあれ、軽いウォーミングアップをこなした所で眼鏡を装着し、インテリっぽい雰囲気を出す。そうしたところで指をパッチン、とスナップさせて虚空からステッキを取り出し、それを突き立てながら寄り掛かり、足を軽く組む。挑発するような、しかし余裕を見せるかのような姿勢を同じようにウォーミングアップを終わらせたジークリンデ、ヴィクトーリアに見せる。

 

「さぁて、折角お袋がオーディエンスとして見ているんだ。ここでいっちょ、俺の事に関しては一切心配する必要がないという事を証明する為にも一つ、余裕で相手をしてやろう。年長者の圧倒的実力というのを一つ、華麗に披露してやるから、好きな方から来ると良い」

 

「ほぉ、余裕やんかおにーさんは。……で、それ、ブロイエ・トロンべの代わりなん?」

 

 ジークリンデの姿は手元のステッキへと向けられている。体を真っ直ぐと立たせながらそれを回転しながら握り、真っ直ぐ構えて―――ぽん、とその先端に花が咲いた。

 

「いや、違うけど」

 

「えっ」

 

 ジークリンデに向けていたステッキは先端からどろりと溶け、影となって下に落ちる、やがてそれは平面の中に生きる影の姿をした魚となって裏庭の平面を泳ぎ出す。それはジークリンデの背後でやがて集合し、大きな影の塊となり、

 

 ぬらり、と三次元的な人影を生み出す。

 

―――終わる頃にはぽん、とジークリンデの肩を叩いた。それと共に先ほどまでジークリンデの正面に居た俺自身が割れて、無数のトランプとなってバラバラになって散った。そのカードもしばらく空中を漂うと溶ける様に消えて行く。

 

腕をジークリンデの頭に乗せる様に寄り掛かりながら、さて、と声を置く。

 

「ご堪能いただけたかな?」

 

「確かに夕餉の種にはなりそうやなぁ」

 

「あら、完全に雷帝式はやめちゃったのね、アレク」

 

「大事な部分は全部ヴィクトーリアに丸投げしたからな。《零式》もそっちだし。こう見えて見栄え良くするために筋肉を落としたりするのに結構苦労したんだぜお袋? 贅肉が出来ない様に筋肉の質を変えるの、ほんと大変だったわ」

 

「うーん、確かに思っていたよりがっしり育っていないのは栄養不足が原因かと思ったけど、そうじゃなくて意図的に体重落としたからなのね」

 

 観察する様に告げる母の言葉は割と鋭い。まぁ、当然ながら母はダールグリュンの女であり、ダールグリュンは政治ではなく元は武門の家だ。今ではある程度聖王教会にも力を発揮できるようになっているが、基本的に騎士と戦士の、将兵の家だ。だから当然、母もそこら辺には大きな理解がある。幼い頃から何人もの戦士や騎士を見てきているのだから、その分目が肥えているのだ。

 

「そもそも雷帝式自体が剛のタイプだから、一気に柔タイプに切り替えるのにも凄い苦労したもんさ。方向性が真逆なもんでな」

 

「そこまで難しいんかぁ?」

 

「生まれが特殊な奴は黙ってろ」

 

 お前ら一族揃って天才を天才でサラブレッドして更なる天才を生み出そうとする蟲毒の一族を基準にされたらほんと困る。年下ではあるが、いろんな面で戦闘技術に関してはジークリンデに負けているのだから。つまりこいつの一族はそういうのがゴロゴロいる。古代ベルカを生き抜けたのも納得の集団だ。と、それはさておき、

 

「ま、そういう訳で……雷帝式じゃないのは残念かもしれないけど存分に相手をしよう。今回はちょっと手札を晒すかもね?」

 

「へぇ、ウチの挑発してええんか? ウチ、ヤるの好きやで?」

 

「今日だけは特別だ。商売道具を幾つか使ってやろうじゃないか。こう見えても奇術師の手札は多いものさ」

 

「鑑定士じゃなかったん?」

 

「副業で奇術師さ。ほら、ナンパする時に使えるだろう? こういう手のって」

 

「アレク?」

 

「うーぷす」

 

 母からの鋭い視線が此方へと向けられるので、とっさに視線を反らして口笛を吹き、逃げる様に空を見上げた。あぁ、今日もいい天気だなぁ! と露骨に話題を反らすも、母からの視線が背中に突き刺さるのを感じる。仕方がないんだ、恨むのならダメな親父を恨んでほしい。だってほら、男としてかわいい子を口説かないのは人理に反する行いではないかと思うのだ。そう、それはルール違反だ。男は口説くべき! と思ったら女を口説くべきなのだ。

 

 悪い事ではない。

 

「アーレークー?」

 

「いやいやいや、婚約者も許嫁もなし、恋人がいるわけでもないんだからこういう遊びぐらい許されるでしょ!?」

 

「いや、アレク放置してたらレオナルドの時みたいに本局の屋上から飛び降りパワーボム喰らわされそうだし、今のうちにその悪癖直さないと致命傷よ」

 

「なんで親父それで生きてるんだ」

 

 やはり父の方が年季のある分、いろんな意味で上だなぁ、というのを自覚させられる。いや、まぁ、上回っちゃいけない類のアレなのだが。まぁ、それはそれとして、両手を広げて許して、とポーズをとるが、母が両手でバッテンを作ってノー、と返事を返してくる。心の潤いだから女癖の悪さは許してほしいんだけどなぁ、と呟いていると、

 

「では―――私が兄様のお相手を致しましょう」

 

「お、ヴィクトーリアが最初は相手か」

 

「ついでに私が勝ったら家に帰ってきてもらいます」

 

「おぉっとぉ、なんかいきなり条件が付き始めたぞ」

 

「ほな、頑張ってなおにーさん。ウチはあっちでアップ始めるわ」

 

「殺気が満々だなお前も」

 

 ばんばんと叩いてくるジークリンデが裏庭の端へと、母と合流する様に移動し、それと入れ替わる様に正面にブロイエ・トロンべ―――元は自分が保有していたインテリジェントコア搭載型のアームドデバイスを握っていた。ハルバード型のそれは雷撃制御に特化しているものであり、資質が足りなくとも雷をコントロールする事に優れており、ダールグリュンの雷帝式を更にサポートする為のデバイスでもあった。

 

 元は自分が保有していた物を出て行く時に餞別の一つとしてヴィクトーリアに渡したものだ。そもそも、雷の変換資質をヴィクトーリアにあげた手前、もはや自分には無用の道具でもあったのだから当然の処置でもあった。徹底して全てを捨てて家を出たのだから。

 

 さーて、と言葉を呟きながらポケットから黒革の手袋を取り出し、それをゆっくりと装着した。仕事道具であるこの両手は何よりも大事にしなくてはならない。それを保護する意味でも手袋は非常に大事である。故に手袋を装着した所で、ヴィクトーリアを見た。

 

「お前さ……色々と将来が不安になってくるんだけど、大丈夫?」

 

「不安に思うならいつでも帰って来て良いんですよ兄様?」

 

「それじゃあお前が成長しないだろう。第一親父とは馬鹿は出来るけど、毎日顔を合わせてりゃあ喧嘩しかしねぇよ」

 

「そんなもんですの?」

 

「それが男の親子ってもんよ。男の子から男になるとぶつからずにはいられないもんさ」

 

 昨晩みたいにちょくちょく会って飲む分には問題ないだろう。だが育って男になってくると、存在感そのものが邪魔になってくる。一緒に暮らすのが難しくなる。それが男としての本能とも、縄張り意識とも言えるものだ。今となってはそれが良く解る。だから家に戻ってくるのは居心地が悪いと思う。もう、自分の縄張りとコミュニティを抱いているのだから。

 

 故に胸に手を当て、そして華麗に礼を取る。

 

「さ、お姫様、先手どうぞ。その条件で俺に帰れというのなら一生叶わない願いだからな?」

 

「むっ……ですが私も昔のままではない事を兄様に証明するとしましょうか」

 

「かもん、キティちゃん」

 

 挑発する様に言葉を放てばふっ、とヴィクトーリアが笑みを零した。どこか、楽しそうに此方を見ながらブロイエ・トロンべの矛先を此方へと向けた。重く、そして無骨なハルバード型のデバイスは雷帝式を効率的に運用する為の道具である他、根本的に受け、流し、そして殴るという戦車の様な戦闘スタイルを補助する為の重圧な武器でもある。斬る、というよりは叩いて潰す、殴る、叩き割るという方がその重量からは適している。

 

 根本的に雷帝式は超重量や十二王戦争後期に出現した禁忌兵器を破壊する為に一撃の破壊力を追求した流派であり、電撃による内部破壊と神経破壊、並びに電磁波による疑似センサー、奥の手である神雷による疑似浄化による魔法遮断という事が行える流派である。

 

 その基本は受けて返す事。タンクとしての役割が強く、生まれてくるダールグリュンの者たちも生来、体が頑丈で、肉付きが良く、耐久力に優れた肉体をしている。ヴィクトーリアの年齢にしての肉付きの良さはそういう部分からも来ているのかもしれない。

 

 ともあれ、その事実が解っていれば、彼女がどう来るかなんてのは解ってくる。

 

 当然―――踏み込みからの振り下ろし。根本的に二の次で殺すという発想が雷帝式にはない。前に出て、受けて、そして殺す。それが全てだ。華麗だとか、そういう概念は一切ない。的確に殺す事だけを考えている流派であり、当然の如く、それを自分も嗜んでいた。故にヴィクトーリアが踏み込んでくる姿は良く見えた。素早い上段からの振り下ろしは隙だらけのように見えて、魔力が装甲の役割を果たしているのと、その下には見えない様に電流が通っている。

 

 無論、武器にも。

 

 振り払おうと武器と武器をぶつければ感電し、デバイスであればそのまま回路を焼き切って無力化する。隙の多い動きは実際、相手を誘い込む為の餌となっている。迷いのない、力強い踏み込みにヴィクトーリアがさぼらずに鍛錬しているのが一瞬で感じられた。故にほほう、と声を漏らしながら、

 

 避けずに、そのままハルバードの一撃を受けた。

 

 体がぱっくりと半分に割れる様に見え―――断面から青い蝶が飛び立つ。そのまま体は青い蝶へと完全に分解されて行く―――様に見える。やっている事は自分と同一の分け身を体に纏い、そして斬られる直前でそれで視界を遮りながら振り下ろされたブロイエ・トロンべの影の中に潜り込み、分け身を蝶へと変換させて、視界を遮る様に演出しただけだ。

 

 そうやって姿が消失した事にヴィクトーリアが一切焦る事無く雷撃を放出し、一気に自分の周辺の空間を電撃で焼き切る様に広げた。だがその閃光が影の面積を更に増やす。それに合わせ影から影の中を伝い、ヴィクトーリアの背後、その足元へと一瞬で到達し、影から両手を出し、

 

「にい―――ひゃっ!?」

 

 一気に、足を掴んでそれを引きずり落とした。

 

 一瞬で引きずり込まれたヴィクトーリアの体が胸元まで一気に影の中に沈み、そしてそこで影が切れ、姿が影の中から叩き出される。よっと、と声を零しながら地面に半分埋まったヴィクトーリアがまだ握るブロイエ・トロンべの上に片足を乗せて、封じれば、

 

「さて、これまでかな」

 

「え、ちょ、ちょっと待ってください兄様! 駄目です! 今のは反則です!」

 

「はーっはっはっは! 兄より優れた妹なぞいねぇ……! 勝利こそ正義! 良い言葉だ」

 

 言い訳をするヴィクトーリアを前に、しゃがんで見下す様に笑いながらその頭を軽く小突いて遊ぶ。ヴィクトーリアが反撃して手をバチバチしながら振ってくるが、それをチョップで受け流しつつはっはっは、と笑う。完全な初見殺しによる確殺戦術だった。寧ろこれに対して初見で適応出来た場合の方が恐ろしい。妹がジークリンデとかヴィヴィオの様な人外とも言える様な超反応の領域に踏み込んでいない人間のままで安心した。あの領域は本当に人類卒業レベルなので困る。

 

 ともあれ、

 

「これで俺の1勝だな?」

 

「もう一度! もう一度お願いしますわ!」

 

「おぉ、気合十分のなのはええが、ウチの事も忘れて貰っちゃ困るで?」

 

「あらあら、人気ね、アレク」

 

 母がそう言うと罪悪感を感じるのは何故だろうか。というか母も母でたぶん解ってて言っている様な気がする。早く、早く俺をここから逃がして……安息地へと俺を帰して、そう心の中で呟く。

 

 

♦

 

 

「あ、アレは……!」

 

「えぇ、ECアルカンシェル・シュールストレミングドラゴン……!」

 

「アルカンシェルとドラゴン要素どこから来たんだこれ! えぇい零! 零になれ! 匂いよ零になぁーれぇっ! なってぇっ! お願い! 零になって消えろよぉ!」

 

 

♦

 

 

 アジト、大丈夫かなぁ? と、少しだけ不安を覚えるが、本当にどうしようもなくなった時はエリーから通信が来るだろうから問題はないのだろうと判断しておく。とりあえずヴィクトーリアの次はジークリンデを相手にする約束だ。ヴィクトーリアが影に入る様に軽く位置を変えると、勢いよく影の中からヴィクトーリアが吐き出され、上へと吹き飛ばされる様に飛び出した。そして落ちてくる姿を両手で横抱きにキャッチする。

 

「え、えーと、そのありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 ヴィクトーリアを立たせるように下ろし、そのまま視線をジークリンデへと向ければ、既に鉄腕を装着したジークリンデが残像を残す様に拳を何度か振るい、そして構えて来た。やはりやる気満々というか殺気満々という様子を見せてくれるジークリンデだった。その姿を見てうーむ、と唸る。

 

「やっぱ止めにしない?」

 

「ジムではぎょうさん手札隠したままっぽくて不完全燃焼やったから、ちょっと気合入るで、今日は。もうゴリラのつり出しに遠慮せぇへんでもええしな」

 

「駄目みたいですね、これ……」

 

 呆れの声を吐いて肩を下げるのと同時にジークリンデの姿が消失した。一瞬で距離を詰める様に拳を振りかぶり、背(・)後(・)か(・)ら(・)そ(・)の(・)姿(・)が(・)出(・)現(・)した。その毛先はジークリンデが、一族が内包する異能、技能、その発動を証明する様に白く染まっていた。まるでフィルムをカットで進めて行くように時間が断続的に割り切られ、そのフレームを移動する様に一つ一つのカットでジークリンデが割り込み、一気に拳を振り下ろしていた。最初からぶっ飛ばすを通り越して殺す勢いの拳を放ってくる妹分の迫力に辟易としながらも、何時も通り受けて抜けて回避する方法を通れば、エレミアの消滅(イレイザー)に触れて、無効化されながら体が貫通されるなぁ、と嘆く。

 

 故に、

 

「さぁて、花に棘はあるものらしいが、邪魔だから抜こうか」

 

「ふぁっ!?」

 

 ジークリンデの時間を奪った。動きの前に発生する時間、それを奪う事で時間的な空白を作り出し、拳が到達する前に自分の動きを挟み込む。そうやって生み出された時間でゆらり、と揺れる様に体を振るい、拳の激突コースから外れる様に体を動かしながら、ジークリンデが振り下ろした鉄腕に触れて、

 

 そこから繋がる消滅を掴んで投げ捨てた。

 

 そのまま、指先の動きでジークリンデを前転させる様に空中で転がして投げるが、投げられている間に体勢を整えたジークリンデが両足で着地した。着地してから数秒間、両手を見て、広げては閉じて、そして再び髪色が白く染まり始めるのを見て、楽しそうな表情を浮かべて此方を見た。

 

「おっとぉ、ここでジーク選手テンションを上げて来るー」

 

 返答はなく、振り返ったジークリンデが一気に飛び込んでくる。楽しそうな表情を浮かべる様子に苦笑しながら振るわれる拳を後ろへと倒れる様に回避し、ヴィクトーリアの時と同じように分け身を作って、それに紛れる様に姿を視線外へと逃がす。再び色鮮やかな蝶が殴り砕かれた分け身から溢れ出し、それが一気にジークリンデの視界を遮る。

 

「悪いがウチはヴィクター程簡単やないで!」

 

「ご存じだとも」

 

 震脚を入れて足元へと刺激を通し、影への潜航を封じ込みながらジークリンデの一撃が風を巻き起こし、蝶を吹き飛ばす。だが一度見られている事をもう一度やるのは二流のエンターテイナーのやる事だ。

 

 そのまま、何の変哲もない正面から一気にジークリンデに接近し、指で軽く頬を撫でる様に横を抜けた。指先がそれをジークリンデから引っ掛ける様に奪い取り、ジークリンデの動きを停止させた。

 

「―――」

 

「さて、まずはエレミアン・クラッツを」

 

 盗んだ。そこに派手なエフェクトはなく、頬を軽く撫でたら急に動きを思い出せなくなった、ジークリンデが動けなくなった。そういう風にしか回りからも本人からも理解できないだろう。故にそのリアクションが楽しく、そしてその動けていない合間に一気に続けて腕を振るい、薙ぎ払おうとするジークリンデの動きを掻い潜って盗み出す。

 

 直感。

 

 経験。

 

 判断力。

 

「……っ!?」

 

「俺と付き合いが長いのが運の尽きだな」

 

 武術、経験、直感、判断能力。それだけ盗んでしまえば、もはや格闘術の入り口に立った赤ん坊と同じ程度の実力しか存在しない。ステッキを取り出してそれでジークリンデを背後を横切る様に足を引っかけて転がし、そのまま背中の上に座り込んで制圧完了。

 

「ぐえぇー」

 

「ま、ざっとこんなもんだな」

 

 盗んだものが時間切れとなってジークリンデの中へと戻って行くのを手放しつつ確認し、ふぅ、と息を吐いた。他者への理解を深める事で触れる事の出来る概念、領域は深まって行く。何年も一緒に馬鹿をやっている様な幼馴染が相手であればこのように、何から何まで盗み出す事が出来る。

 

 そう、心まで。

 

 理解する事によって心に触れ、それを盗み出すのが盗法。故にジークリンデ程良く知っている人物―――ヴィルフリッドの分を合わせ、エレミアという一族自体に対する理解力。これだけであれば、こんな風に無力化して制圧するぐらいは問題はない。

 

「兄さん、見ておらんうちに軽く此方側の領域に踏み込んでへんか?」

 

「いやいや、ここら辺が俺の限界だよ。そもそも覚醒した状態のお前を止められる自信が割とない」

 

 そもそも、ジークリンデが覚醒入ると干渉遮断状態に入るせいで、たぶん此方から盗み出そうとしてもその結果がジークリンデに届かないと思われる。まだ先ほどの様な限定状態ならいいのだが、結局の所、本気のジークリンデには勝てない。というか経験と武術と直感に判断能力まで奪わないと勝てないという時点でもはやアレとでも言いたくなる差だった。

 

 あぁ……いやだいやだ、才能のある連中は。

 

 だけどそう言う連中を全力で、こうやっておちょくるのは本当に楽しいというのも一つの事実で困った事だった。根本的に自分が不真面目な資質があるという事に家を出てから気付かされた。そしてこういう風に、自分よりも上に居ると思える連中を玩具にするのも楽しいのだから困った話だ。

 

「まぁええわ。こんな風にウチをあしらえるもんがおるってだけでもウチとしては大満足や」

 

 椅子にされている癖に、そう言うジークリンデは楽しそうだった。実際、この娘なら時間さえあれば対策の三つや四つ、作り出すだろうなぁ、というのを確信できる。例えば攻撃方面の能力を全部防御方面へと回すとか。どうすればこの先も年長者の威厳を保てるもんか……そう思いながらジークリンデの背の上で溜息を吐いた。

 

「さって、と」

 

 声を零しながら立ち上がり、ぱっぱと体に付いた埃を払いながら指先に蝶を一羽止め、

 

「十分に運動したし―――」

 

「次お願いしますわ!」

 

「次や次や! 負けたままではおられんわ!」

 

 背後で元気よく飛び上がったジークリンデの気配と、自分を挟む様に反対側にヴィクトーリアがブロイエ・トロンべの矛先を此方へと向けて来る。自分の技の大半は初見殺しの塊だし、使える道具が限定されるからあまり見せたくはないんだけどなぁ、と助けを求める様に視線を母へと向ければ、

 

 いい笑顔とサムズアップを向けられた。

 

「お袋……」

 

「年長者の矜持があるんでしょう?」

 

「昔より俺への当たりがつよーい」

 

「社会人なら妹の面倒ぐらい見れるものでしょう? 負けたら恥ずかしいわよー?」

 

「わぁーい、煽ってくれるぜこの母親」

 

 仕方がないなぁ、と呟きながらなんとか、兄としての威厳を保つ為に裏庭で、妹と妹分の相手に励む事にした。




 今まで書いて来た戦闘というのは地味で、コンパクトで、最速で最短を行う事で効率的に倒すというのばかりだった。じゃあ逆に大げさで派手でまるで意味のない遊んでいる様な、エンターテイメントみたいな動きにしよう! という結果が此方。たぶん3人称で見るのが一番楽しいだろうなぁ、と思う。

 今までの武芸者タイプとはまるで違う方向性。奇術師とも。RPG的に言うなら超回避デバフ特化型かな。
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