※この作品はR-18です。

Stealing The Reality   作:てんぞー

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Free Choice Ⅸ

 潜脳。

 

 洗脳ではなく潜脳。

 

 つまりはマ(・)イ(・)ン(・)ド(・)ハ(・)ッ(・)ク(・)。

 

 現代技術における体のサイボーグ化、電脳化はそ(・)こ(・)ま(・)で(・)珍(・)し(・)い(・)技(・)術(・)で(・)は(・)な(・)い(・)のだ。ベルカはどちらかというとナチュラリストが多く、体にサイバネを仕込んだり、肉体を薬物による改造を行う事を忌避するのだが―――まぁ、古代ベルカで人体改造、遺伝子改良で生み出された戦闘種族が何を言ってるんだ? と言いたくなるこの世の中、半電脳化は割と簡単な上に、人気の処置である。

 

 今ではインジェクターガンによるナノマシン投入技術も比較的安価になってきている。その影響でデバイスが無くてもどこでもホロウィンドウを表示させたりするのは普通になっている。ぶっちゃけ、子供のコンディション管理を体内に注入したナノマシンで管理できるので、子供の事故や迷子、誘拐に対する対策にもなって社会的に結構助かっている部分がある。決して異端技術ではないのだ。

 

 だがこのナノマシン投与を進めると、サイバネ化がある、ブレインチップや電子回路による肉体や思考強化が行われてくる。そういう事で、脳味噌とは別に、それと繋いだチップで脳味噌を働かせる人間がこの時代には居る。

 

 まぁ、これは簡単な上(・)限(・)突(・)破(・)方(・)法(・)でもある。つまり魔力や身体的能力で限界に到達した時に施術すれば、才能や素質ではなく、サイバネの質等で能力を決める事が出来るという事になる。実際、軍用サイバネはそれだけで陸戦魔導士のAランクに匹敵するだけの戦闘能力を秘めている。

 

 だからこそ空戦魔導士の希少性と価値が上がるのだが。

 

 そう言う訳で潜脳、マインドハックとはこのサイバネ化された人間の電脳へのハッキング行為である。それだけではなくデバイスなどへのハッキング、クラッキング行為も基本的には潜脳行為と呼ばれている。なぜなら電脳空間の内部へとアクセスし、ダイブし、そこで情報を盗み出したり改竄したりするからだ。

 

 無論、エリーも姿は人型だが、デバイスだ。だから潜脳は可能である。そしてその対策の為にアホみたいな桁の金額を投入している。当然リリィもそうやって潜脳対策は施されている。

 

 寝取り、寝取られ死すべし。

 

 そういう事で潜脳行為は基本的にハッキング行為とも言え、自分もその真似事は出来る。

 

―――無論、電脳に対してではない。

 

 古代ベルカの家系である為、体に施されている電脳処置、ナノマシン処置はない。我がダールグリュン家は生粋のナチュラリストであり、サイバネには一切頼らないタイプである為、普通にハッキングなどは出来ないし、される心配もない。ならどこにハッキングを行うのか? となると実に簡単な質問である。

 

 心に、だ。

 

「―――うっし、良い感じに冷たくなってきたな」

 

 指を風呂の中に突っ込んで痛い程冷たくなっている水が張られているのを感じ取った。指を引き抜いて軽くはぁ、と息を吐いて指先を温めながらそれをタオルで乾かした。風呂場の入り口にはエリーが立っており、此方を見ている。その表情は少し、不安そうに見えた。

 

「その……アレク、本当に大丈夫なのですか?」

 

「ん? あぁ、やるのは数年ぶりだけど問題ない問題ない。ちゃんとやり方は間違えていないし」

 

 服装は怪盗装束へと既にセットアップを完了させていた。拘束具の多いこのコートは、まさに自分の立場を、そして存在を端的に表している恰好という事でかなり気に入っている。ぶっちゃけ、俺センスの塊じゃねぇ? と思うレベルでは気に入っている。まぁ、今回に限ってはこの認識が非常に重要だ。それを捉えた所で、軽く首を回し、そして息を吐く。

 

「それじゃ、エリー」

 

「えぇ、1分経過したら引き上げろ、ですね」

 

「まぁ、問題が無ければ10秒ぐらいで出てくるから……うっし、気合いれるか」

 

 現実を盗む怪盗。真実を盗み出す怪盗。人の心を盗み出せる怪盗。それがハッキングするものと言えば? 当然、人々の心だ。ネメシスという怪盗が使う盗法、これはそもそも人間の認識、心理、そして真理を利用した妙技である。その為、ネメシスという怪盗は誰よりも人間の心に近く、そしてそれに唯一物理的に触れる事が出来る存在である。

 

 潜脳するのだ。

 

 その脳の中にある認識へと。

 

 その全てに繋がる領域へと。

 

「んじゃ、狂気と愛で満ちた世界へレッツゴー!」

 

 風呂の縁を掴み、一気に背中へと落ちる様に体を風呂の中へと投げ込んだ。直後、死ぬほど冷たい水が一気に体を包み込み、そして息が止まる。痛いほどに感じる冷水が服に染み込んで、体を下へと引きずり込んで行く中で、肺の中から酸素を全て吐き出した。そのまま、酸素を吐き切って感じる苦しみに身を任せ、

 

 体から体温が失われ、

 

 息が出来なく、

 

 意識が、

 

 徐々に、

 

 遠のいて、

 

―――消えて行く。

 

 心臓がその鼓動を止めた。

 

 息苦しさが一瞬で喪失した。その瞬間には底(・)が(・)消(・)え(・)て(・)い(・)た(・)。故に水を蹴り、体を一気に上へと向けて押し上げ、水を吹き飛ばしながら水面を弾き飛ばした。そうやって飛び上がった所で空中で一回転し、水を体から弾き出しながら片膝をつく様に水面の上に着地した。

 

 そのまま、口を開け、

 

「うえぇぇぇぇええ……気持ち悪ぅ!」

 

 肺の中に入り込んだ水の感覚を全て吐き出す様に息を吐き出して、そして深呼吸をした。体を軽く振って水を服から追い出し、一瞬で装束を乾かした。そうやって水面の上に立ち上がり、軽く耳をほじりながら、

 

 白と黒のモノトーンの世界を見た。

 

 場所はもはや風呂場ではなかった。

 

 周辺に広がっているのは墓地だった。ベルカ式の集団墓地。周辺には見渡す限りの無限の墓地が広がっており、そこに半透明の存在が静かに、何かをするわけでもなく漂っている。その一角にある、泉の上に自分は立っている。黒い空、白い墓石、黒い大地、見ていると発狂しそうなこの空間は、

 

「久しぶりに来たなぁ、あの世」

 

 文字通り、死後の世界だった。と、言うのも本物ではない。人間が生み出す死(・)後(・)は(・)こ(・)う(・)で(・)あ(・)る(・)べ(・)き(・)という認識が混ざって生み出された意識的な死後の世界だ。人間がどういう風に死をイメージし、それを形にするのか。それが実際に世界という形で構築されているのだ。最も人間に近く、入りやすい、死(・)ね(・)ば(・)気(・)軽(・)に(・)来(・)ら(・)れ(・)る(・)場(・)所(・)でもある。

 

 そう、今、リアルでは半死状態になっている。完全には死亡していない。それもそうだ、ネメシスの継承者は誰も殺せない呪いを、或いはルールを縛りとして追加されている。だがその本質は自(・)殺(・)防(・)止(・)なのだ。どこまでも狂いそうな現実の中でも、決して発狂する事を許されず、自分の役割を果たし続けなければならない。これはそういうゲームであり、自殺防止はクソゲー化しない為の予防措置だった。

 

 だけどそれを逆に利用してしまえば、こんな芸当だって出来る。

 

「さーて、時間制限があるし、サクサクとヴィヴィオとオリヴィエの《扉》を探させて貰おうか……あーと、こっちか」

 

 まずは《死》から逃げなくてはならない。ここは終わりの地。人間が終点であると認識する場所である。その為に色が存在しない。その先を人類は知らないから。そこには生の証がない、命が終わってから来る場所だから。考えれば考える程死そのものに囚われる場所でもある、と師匠は言っていた。

 

 なのでサクサクと次の目的地へと向かう。と言ってもここ、入り口付近は昔は師匠が、今は自分が久しぶりに使える様に、ある程度バックドアなどを作成してある。

 

 人間の意識にそんなものが可能なのか?

 

 可能だからこそ、自分たちは異端なのだ。

 

「さーて、っと……あったあった、師匠の墓っと」

 

 泉からすぐ近い場所に師匠の墓を見つけた―――本人も既に故人だ。だがこの墓だけ、見てみれば、色のついた花が置かれてあるのが解る。完全にモノクロしか存在していない世界の中で、唯一の彩色だった。それを確認したところで墓の裏手へと回れば、そこに扉があるのが見える。高い墓石の背に埋め込まれる様な形で。自分たちにしか解らない道だ。

 

 それを開き、そして向こう側へと抜ける。

 

 そうやって出るのは館の中だった。扉を開けて見えてくるのは自分が良く知る、ダールグリュン邸の中だった。

 

 出てくる場所は玄関ホールへ、丁度外へと繋がる扉の正面に来るように置いてある、現実には存在しない扉。近くの窓へと視線を向ければそこは夜になっている。違う窓を見ればそこからは夕日が差し込んでいる。別の窓は早朝で、別の窓は宇宙を見せている。法則もクソもない。

 

 ここが、拠点になる。

 

 前へと踏み出しながら玄関ホールの中央にたどり着く。

 

「と、り、あ、え、ず……時間が来る前に入り口を探さなきゃならんな」

 

 ポケットからヴィヴィオ/オリヴィエに昔、プレゼントされた今でも愛用している仕事用の黒革の手袋を取り出し、装着する。二人の扉を探す上で、縁を引き寄せる必要があるので、何らかの心のこもっている、或いは心の近い道具が必要なのだが、今回はこれでパスできる。後はどれか、正しい扉を探す必要がある。

 

「相変わらず集合無意識のルールはめんどくさいもんだ……ノゾキをしている様であんまり好きじゃねぇんだよなぁ、ここ」

 

 集合無意識。無垢心領域。或いはESと呼ばれる場所。つまりは人間の意識、その根っこの根っこ、その全ては繋がっている。その集合している世界そのものになる。死を通してここへと侵入できるのは、ルールによって自殺が禁止されている自分たちぐらいだろう。ここへと入れば、この自分のイメージをベースに構築された拠点を利用して、

 

 他の人の記憶や意識をハッキング出来る。

 

 これが所謂ネメシス流の潜脳になる。

 

 死という傍流の流れから意識の大河へと遡り、そこに小舟を浮かべて釣り糸を垂らしているというイメージが一番正しいのかもしれない。死ねない、狂えないという制限があってこそ成功するこの探索は、人間が何を隠しているのか、その想いの内側を相手に知られず、相手に理解されず、こっそり確認する為に利用できる事でもある。

 

 とはいえ、ここには《王》がいる。派手にやり過ぎると怒られる。

 

「さて……この扉でもなければこっちでもないな……えーと……」

 

 ほぼ第六感とでも言える感覚で、屋敷内の扉を一つ一つ、感覚でチェックする。ホール中央で腕を組みながら神経を張り巡らせ、一つずつ扉の繋がり具合を確認して行く。無限に存在する人類の中から一人分の扉を探すのだが、割とハードタスクでもある。とはいえ、今回は真面目にこれを利用しないとヴィヴィオとオリヴィエの考えている事を聞き出す事は不可能だろう。

 

 自分がどうするのか、判断するのはそれを見てからも遅くはない。

 

「と―――見つけた」

 

 両手をコートのポケットに突っ込んだ状態で、歩き出す。向かう先は螺旋階段を上がって二階へ、そしてそこから先に進んで奥へ。これが現実であれば、自分の部屋があるであろう扉の前まで移動した。いっそ、今は自分の部屋の扉が通じる道であることを考えると運命的にさえ感じる。それともそれほどまでに愛されているのだろうか、俺は。まぁ、と声を零す。

 

「責任は……取らなきゃな」

 

 惚れさせた、期待させた、惚れさせる責任を。

 

 だから迷う事無く扉を開けた。

 

 それと共に見えたのは海―――血のような赤い色をした海だった。二階なのに目の前には海が広がっており、空間が欠片もまともではない事を証明していた。だがそれがこの領域の特徴でもあり、全てだった。タイムリミットとなって蘇生する前に、知らなくてはならない。

 

 何故、あの二人があんなことを話し出したのか。

 

 その考えを知る為にも―――迷う事無く、海の中に飛び込んだ。

 

 そして意識は暗転する。

 

 

♦

 

 

「気色の悪いガキだな」

 

「気持ち悪い目の色……」

 

「なんだこいつ……本当に俺の子か?」

 

「なんでこんなに早く覚えられるのかしら……怖いわ」

 

 一番最初に覚えているのは気味悪がる親の顔だった。此方を見て笑う事なんてなく、ひたすら気持ち悪い、怖い、そんな言葉ばかりだった。

 

扱いはそれでもまだ良かった方だったのかもしれない―――俺は。気持ち悪い気持ち悪い言うが、奴らの視線はそれに付け加えて更に気持ちが悪かった。子供を人として見ていない。道具か、或いは成果か、所有物として見ている、根本的なクズだった。子供ながら俺は思ったね、アレは駄目だ。関わらないのが一番だって。

 

 だけど私はそれが出来なかった。私はきっと、お父さんとお母さんは話せば、そして素敵な何かを上げればきっと、振り向いてくれると信じた。だから作った、チラシを使って作った造花の薔薇を。会心の出来だった。子供の指で良く作れたものだなぁ、って思った。だけどそれを見て、お父さんもお母さんも私を更に気味悪がって、そして怒った。

 

「お前からこんな子が生まれる訳ないだろ! 誰の子を孕んだ!」

 

「糞、媚びを売りやがって!」

 

「私よりも優秀だって言いたいの!?」

 

 それは両親の逆鱗に触れた。既に悪化していた関係の中に爆薬を投げ込む様に。それは怒りと憎悪を燃え上がらせた。劣等感をすさまじい勢いで、燃え上がらせた。そしてその矛先は此方へと物理的に向けられた。

 

 お父さんとお母さんは、私の腕を切り落とした。それで理解した。この人達は親としての責任を果たすつもりはなく、愛はあっても、それは自己愛だけだった。痛みの中で呻きながら、気持ちの悪い子として、家には置いておけないと泣かれながら言われた。

 

 私/俺は捨てられた。

 

 私は腕を失った。傷だけは最後の慈悲か、塞がれていた。だから這いつくばって、上を見ない様に生きる事にした。捨てられた先―――廃棄都市と外で呼ばれるそれは、底辺の底辺が行き着く場所。誰もがお互いを見下し、略奪し、そして自分のものとする事しか考えていない。腕を失った事はある意味幸運だった。自分より明確に下の存在に連中は甘かった。媚びれば多少の暴力はあっても、それでも概ね嬲られ見下され、そしてこれ見よがしに施される。プライドなんてものは必要ない。そうやって媚びれば生き残れるのだから。だがこうやってほどこされる方がまだマシだったのかもしれない。

 

 俺にはそれが無理だった。最初から他人なんて信じちゃいなかった。誰もが見下している。誰もが奪っている。奪わなければ生きて行けない。媚びる事なんて無理だった。生きる為に欲しいものは自分の力で手にしなくてはならない。だから誰よりも何よりも、力づくで奪う事を覚えた。そしてそれを実践した。両腕があったから出来た。そして実行して―――恨まれた。嬲られた。殺されかけた。まだ体が小さく犯せないから口で奉仕を無理やりさせられた。塵の中に捨てられた逃げ出せない様に縛られて放置された事さえもあった。媚びる事を選ばなかったから、地獄を見た。賢い生き方が出来なかった故に報いだった。

 

 私/俺達はそうやって地獄を知った。

 

 這い蹲って、それでも生きる為の道を模索した。

 

 人としての尊厳を砕かれ、踏みにじられ、生まれた事さえ呪いながらも生きていた。

 

 そして救われた。

 

 今でも君/お前には感謝している。心の底から感謝している。あの時一緒に居てくれたからこそ今の自分があると断言できるから。だからこそ、同時に許せない。絶対に。この怒りは、ずっと消えない。決して。この身を襲い続ける嫌悪感と共に。この世から消えてしまえば良いとずっと思っていた。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと……ずっと、消えてなくればいいと思っていた。

 

―――消えてなくなりたい。

 

♦

 

 

「ぷっはぁ―――! げほっ、ごほっ」

 

「アレク、大丈夫ですか?」

 

「げほっ、ごほっ……おう、なんとか生き返った。あー、気持ち悪っ」

 

 今度は本当に口の中から水を吐き出しつつ、冷たい水風呂の中から体を引き上げて出てくる。怪盗装束を解除して、半裸になった状態でタオルをエリーから受け取り、冷え切った体を乾かして温めて行く。濡れた髪の毛を乾かしつつ、はぁ、と息を吐く。片手で顔を抑えなっがら、心の海の中で感じ取った二人の心、それがある一点において完全に共通している、というのを理解してしまった。

 

「どうしました、アレク。苦々しい表情ですが。……もしや、心肺停止していた事の影響が……」

 

「いや、それは大丈夫……というか何秒間死んでた?」

 

「3秒程ですが……」

 

「まぁ、3秒ぐらいなら問題ねぇかな」

 

 彼方側では1時間ぐらい活動していたのだが、やはり時間の流れが違う。まぁ、それに関しては既に慣れているし―――いや、慣れるべきものでもないから違うのだが―――それはそれでいい。だが問題は彼方側で聞き出した、あの二人の心の断片に関する事だ。聞いた事を思い出し、軽く頭を抱えながら風呂の縁に腰を掛けた。

 

 はぁ、と溜息を吐く。その姿をエリーが見て、そして不安そうに此方を覗き込んでくる。

 

「本当に大丈夫ですか、アレク?」

 

「あぁ、ちょっと悩みが増えただけだからな……」

 

「それは……ゼーゲブレヒトの事ですね?」

 

 エリーの言葉に頷く。ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトと、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト・その心の中は複雑だった。混ざり合う記憶と記録が混濁しているのが彼女の心の膿の様子であり、二重音声で語り掛けられている様な状態だった。だから聞くには少々精神力を必要としたが、それでも何とか、聞き出せた。彼女の心の中を。

 

 そしてそれを聞いて、あの二人をどうするべきか、というのを判断するべき時が来た。いや、理解したのだ何(・)故(・)二(・)人(・)が(・)そ(・)こ(・)ま(・)で(・)自(・)分(・)の(・)消(・)滅(・)を(・)願(・)っ(・)た(・)か(・)という事に。それはなんてこともない、ちっぽけな理由だった。だけど同時に、女の子らしさを感じる内容でもあった。その根っこの部分で二人が完全な同一人物である、という事を納得させる理由でもあった。

 

 だから余計に考えてしまう。

 

 二(・)人(・)を(・)同(・)時(・)に(・)助(・)け(・)る(・)方(・)法(・)は(・)な(・)い(・)か(・)という事に。

 

 あの二人からその本音を引き出す方法はなんであるのか、それは心の声を聞けば一瞬で解った。そしてそうする為の覚悟もある。いや、助ける事が出来るのであれば、それぐらいは安いと考える。だが根本的な問題は違う。あの二人を同時に助ける方法がない、というだけだ。

 

 だからそこに悩んでいる。

 

 どうすればいいのか。

 

 どうすればあの二人を助けられるのか。

 

 どうすればハッピーエンドへと到達できるのか。一人が失われ、もう一人だけが助かるなんて糞みたいなバッドエンドはいらない。たとえその事実を皆が忘れてしまって、対外的にはハッピーエンドに見えたとしても、駄目だ。どうにかして、どうにかしてあの二人を同時に助ける方法はないのだろうか? 本当に詰んでいるのか? 考える事の出来る範囲は全部回ったか?

 

 まだ本当にヒントは出揃っていないのか?

 

―――ある筈だ、どこかに。

 

 ヒントが、答えが、そして手段が。

 

 なぜならこ(・)れ(・)は(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)だ(・)か(・)ら(・)だ。ノーヒントのゲームはクソゲーですらなく、ただの塵だ。これは理不尽なゲームであり、プレイヤーにとってはどこまでもハンデが付きまとってくる。だが逆に言えばこれはゲームなのだ。ゲームは遊べなきゃ意味がない。一方的な展開はゲームとしては欠片も面白くはない。だから居る筈だ。

 

 ヒントを出す事の出来るキャラクターが、この盤面に。

 

 片手を仮面を被る様に半顔を隠す様に抑え、精神を集中させる。虚空を睨み、瞑想する様に荒立つ心を押さえつけ、思考する。自分の知り合い、或いはどこかで答えを知る様な人物はいるか? 自分で全ての答えを出す必要はない。一人で完結する人間は他者へと手を伸ばす必要すらないのだから。

 

 だから思考する―――誰だ、どこだ。どこに答えがある。

 

 二人を失いたくないから、必死に脳味噌を回し―――思いつく。

 

 一か所だけ、心当たりがあった。




 つまり無意識化では全ての人間は繋がっている、という概念。最も近いのは死であり、そのイメージから無意識の領域に移動している。死ねないというのを利用した探索方法。良い子も悪い子も真似しないようにね?

 さぁ、ヒロインは二人、選べるのは一人。だがどちらも捨てられないのであればどちらも救う方法を見つけなくてはならない。なぁに、失敗しても大丈夫、彼女たちは絶対に恨まないさ、最悪どちらかが消えるだけだから。普通に成功してもどちらか消えるだけだしね?

 大団円目指して頑張ろう主人公。
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