「リリィとイチャイチャしたいだけの人生だった……」
「喜べ市民。労働は義務だぞ」
恰好は外行き、眼鏡に髪を下ろしたヘヴンへと向かった格好のまま、一度アジトへと戻った。たくさんの影と闇が廃墟の合間に存在する廃墟都市では怪盗法の一つ、《闇に潜む》が使用出来る領域が腐るほどある。絨毯爆撃で廃墟と瓦礫を全て消し飛ばして影も闇も纏めて一掃でもしない限り、俺がこの都市で隠れた場合、見つけ出すのは不可能だろう。そもそも、そこまで追いかけられる程ヘマをするつもりもないが。
それはそれとして、一旦アジトに戻ってトーマを拾い、この《野良犬》がいる場所を目指している。野良犬が住み込んでいるのは比較的に《外》に近い境目の廃墟の一角であり、一番住人枠が軽い―――というか、まだ裏社会に染まっていない奴が比較的安全に過ごす事が出来る場所でもある。同時に一番捨て子が多い地域でもある。ストリートチルドレンのコミュニティが存在するほか、スラムと呼ばれる区画が存在するのもそこだ。
つまり、社会的にドロップアウトしている連中がうろつく場所が《外》との境目だ。ここに住み着く連中は一つ、奥へと進む事の危険性を理解している奴か、或いはそれを全く理解していない馬鹿しかいない。境目ではまだ犯罪もスリや強盗、暴行程度で済むのだが、奥へと進めば殺人、レイプ、奴隷、麻薬とかが関わってくる。個人で調査しようとしてあのヴェールの女に捕まって調教された者は数知れず。そういうのを乗り越えられる自信がないような連中は基本的に境目付近でうろうろしている。
とはいえ、その境目付近は陸や警邏隊の巡回範囲でもある。定期的に管理局からのチェックがあったりする。何せ、法律的に廃墟都市での居住は許可されていないのだから。とはいえ、管理局もある程度は見過ごさなくてはのっぴきならないのを理解している為、問答無用で追い返しているという訳でもない。
管理局の高官の中には逆にヘヴンに住まう者と取引する事で治安をある程度コントロールしている奴もいる―――廃墟都市はミッドチルダという世界の歪みの象徴であり、また同時に必要悪でもあるのだ。管理局と廃墟都市内部の組織とのつながり、関係を言葉で説明するのは難しく、完全に説明する事もまた難しい。とりあえずは廃墟都市と管理局の間にそういう繋がりがあるのだと理解すればいい。
が、それは本日の本題から離れる。
ミリタリーコートにリボルバーを装備したトーマはディバイダー、そしてリリィから離れた普通の少年とでも呼べるモードとなっている。流石に裏社会の仕事にあの娘は連れてこれないし、何よりエクリプスディバイダーは仕事をする上では殺傷能力が高すぎるのだ。アレを対策もしていない人間に叩き込めば、その瞬間に即死してしまう様な代物だ。そんなものを持たせて仕事させる訳にも行かない。
あんなのを常に使わせていたら、血の味を覚えてしまう。殺すという事に慣れてしまう。ガキの頃からそんなものを覚えてしまったら後戻りが出来ない。そういう事でトーマをデバイス抜きの一般的武装を持たせて連れ回している。許したのはハンドガン一丁と、ナイフが一本。
割と、これだけで十分すぎる。
「いや、働かなきゃいけないのは解るけどさ……これ、正直使いっ走りじゃない?」
「もっと食い込んだ大きな仕事がしたいって事は、どっかに所属するって事だぞ? その場合は上から嫌な仕事を投げられても拒否権がなくなるんだ。或いは追われたりするのを引き換えに断ってもいいかもな」
「リリィがいるのにそんな事出来るわけねぇよ」
「ま、つまりはそういう事だ。今のうちに仕事の内容に慣れておけ。フリーランスだとあんまりロクな仕事が来ないからな。大半は使い捨てのコマか、或いは下の仕事を代わりにやらせる程度の事だよ。それで信頼が出来ればもうちょっとラフなビズとかも任せて貰える。今回のは純粋に自分の手下じゃ対処が面倒だから回してきた、って感じだろうけど」
「なんか、連れ出して貰ってアレだけど思ってたのと違う……」
小さく笑う。まぁ、なんでもかんでもぶち殺して終わり! ……と、いう訳には行かないのだ。そうやって対処してしまえば前例が生まれてしまい、粛清という言葉が誰もの脳裏に過る。殺す事を許すという事は、次もその選択肢を許可する可能性を高めるという事でもある。それは恐れに繋がる。逆に領分を弁えて分別できるところは信頼できる。何かルールを作り、それを守って活動できるという事はそれだけの自制心と信頼が生まれるからだ。
まぁ、だから今回の《野良犬》退治は此方へと譲ったのだろう。奥のギャングやらマフィアは基本的にぶつかる時はぶち殺す時だ。そしてそういうのを前提に鍛え、装備を揃えている。若く、まだ染まっていない連中はこういう時は感情的に動くし、訓練された奴は逆に手加減し辛く間違えて殺してしまうかもしれない。
出来る奴に頼むのが一番楽なのは確かだろう。
「あーあ、俺もアレクみたいに盗法が使えればなぁ、スリをして生きていけるんだけどなぁ……」
「諦めろ、お前にアレの才能はないから」
「いや、絶対いけるって。ほら、もう一度やってみようぜ、なんか簡易診断あるんだろ?」
「えー……じゃあ、1回だけだぞぉ?」
「わぁい! そのクソ卑怯な技術を今日こそ見破ってやるからな」
境目近くへと来た所でトーマがそんな事を言ってくる。此方を窺ってくる視線が見える為、ポケットから硬貨を弾き、掴む。視線がそれに集まるのを見つつ、トーマに硬貨を見せて、それを再び弾いてトーマに握らせる。それを掴んだトーマを見つつ、手を振るう。この手がトーマに直接触れるような事はない。それは硬貨が小さく、簡単に掴めるものだから、という事がある。これで意識や呼吸、心だったらもうちょっと難易度が高いのだが、
「はい、ゲット」
トーマの手の中にあるべき硬貨は此方の手の中にある。それを指で弾いて、路地の中へと飛ばす。
「最近、クロウん所とぶつかってる馬鹿な娘が居るらしい。今の居場所を見つけて来たら残り半分を出すぞ」
路地裏で硬貨を握りしめ、走り出す音が聞こえた。新しく硬貨を取り出しながらそれを手の上で転がす様に、コイントリックで遊び始める。それを見ながら、トーマが腕を組んで息を吐く。
「やばい、何をやったのか全く分からなかった」
「盗法に才能のある奴はこれが
「人が気にしている所を一切遠慮なく抉ってくるなぁ! つか、相変わらず謎技術だよね、それ」
硬貨を手の上で転がしていると、そうかぁ? とトーマの言葉に対して答える。理論、そして技術は全て
素質が無ければ、形だけでもコピーする事は出来ない。
この素質にあるのは0か100のみ。
素質が少しだけある、普通よりは多いとか、
事実、才能の塊のヴィヴィオが何をどうやっても絶対に覚える事が出来なかった技が盗法なのだから。聖王の血筋、先祖返りの姫王とも呼ばれるアイツが真似できないのだから、後から覚えるというのは絶対に無理だ。
「俺は盗んだんだから、それが俺の手の中にあるのは当然だろう? 虚なる現実を俺が手にしているだけなんだし」
「いや、意味が解らないから」
「そう言ってるから覚えられないつってんだよ。第一覚えられる奴は見れば一目で理解できるって話だしな。零だよ零! お前の運勢と能力と同じく零だよ!」
「最後の言葉要らなかったよなぁ!」
トーマの言葉にゲラゲラと笑っていると、路地裏の方に気配を感じる。其方へと視線を向ければ、襤褸を纏った子供が出てくるのが見えた。此方を見て軽く頷くと、先導する様に路地裏の中へと消えて行く。無駄話もここまでだな、と判断してトーマに行くぞ、と目配せを送れば頷きが返ってくる。すぐさま走り出した子供を追いかける様に路地裏の中へと飛び込み、姿を追いかけて行く。
廃墟都市全体が非常に入り組んでいるが、12歳の時に家を飛び出して爺に拾われ、そして廃墟都市で修業しつつ育って既にここで6年ほど生きている。最初は俺もトーマの様に爺の付き添いで生きていたが、やがて何年かするとここの地形も覚えて来て、今では庭の様に走る事が出来る。それに関してはトーマも今ではそうだろう。奥に関しては怪しいだろうが、この境目付近であればおそらく、トーマ一人でも大丈夫だろうとは思う。
そんな事を考えながら路地裏を通り抜けて進めば、3階から先が倒壊している廃墟が見える。案内してきた少年とも少女とも付かない子供は廃墟を指さす。
「あそこ」
「お疲れ」
指で硬貨を弾いて渡す。アレで大きなパンを複数買えるだろう。さて、と声を零しながら廃墟を見上げる。ここに件の少女が居るらしい。うーむ、と声を唸らせながら廃墟へと視線を向ける。ここにエリーが居れば一瞬で熱源探知を行ってくれたのだが―――いや、アレは便利すぎる。慣れるとそれはそれで腕前が鈍る。となるとやはり、自分の力で探った方が良いか、と結論付ける。
「良し、トーマ逝って来い」
「明らかに鉄砲玉扱い……! いやに決まってんだろう!?」
「はぁ!? はぁー……何だこの年下無能後輩はさぁー……」
「何こいつ殴りたい」
トーマを見て鉄砲玉の一つも出来ないのかよ、と言葉を零しながら小さく笑いつつ、廃墟の方へと視線を向ける。とりあえず中に入って確かめない限りはどうしようもないだろう。さて、と呟きながら廃墟の前へと移動しつつ、
廃墟の前で、横にいるトーマを前へと向かって蹴り飛ばした。
「ほぁ!?」
「えっ?」
トーマが中に踏み込んだ瞬間、廃墟から飛び出す影が中へと蹴り飛ばされたトーマへと向かって踏み込みながら殴り飛ばす。だがその瞬間には既に腕を交差させ、トーマが拳をガードしており、軽く吹き飛ばされながら空中で一回転し、両足を大地に付けた。そうやって着地するトーマを見て、殴り飛ばした少女が一旦、拳を振り抜いた状態で動きを停止させ、トーマから此方を見て、トーマを見た。
「え、えーと……大丈夫……?」
「おい! クズ! おい! ……おい!」
「いや、隠れている気配は感じ取れたし……やっぱり鉄砲玉させたいじゃない?」
「人間の屑がこの野郎」
トーマが迷う事無く中指を此方へと突きつけてくる。殴りに反応出来てるならそれでいいじゃない、と思いながら少女の横を抜けて、廃墟の中に入る。廃墟を見渡し、そして適当に座れそうな瓦礫を見つける。そこに腰を下ろしながら座り込み、ふぅー、と息を吐く。
「良し、それじゃあ君、話をしようか」
「その前に俺と話そう? 拳で」
「えー、えーと……話せるのか……?」
困惑するような少女の姿、言葉、声、目の動きに
「えーと……君、最近ガラの悪いオジサンたちと殴り合わなかった?」
「ワシか? したぞ。という事は―――」
「あぁ、うん。無駄に突っかかるのを止めさせてくれって向こう側から頼まれているんだよ。何があったのかは知らないけどそろそろ関わるのは止めてくれないかな?」
「それはワシじゃなく連中に言うてくれ。ワシとしても良い迷惑じゃ。殴られた借りやら舐められた借りやら知らんが、殴り返したらなんじゃ増えて困るんじゃがな」
「んー? あぁ、成程。ちょっかいをかけられているのね」
「そうじゃ。で、追い払っても追い払っても尽きんから直接殴りに来るのは当然じゃろう?」
そこでなんでそこまで発想が飛躍するかは解らないが、だが納得は出来る。どうやら組織の一部が勝手にこの子に粉をかけて、追い返したら報復に戻って、それでも止まらないから追撃しに来た、という形なのだろうか。だとしたら、馬鹿な事をしたなぁ、としか言えない。
「頭を低くして過ぎ去るのを待っていれば余計な問題に巻き込まれる事もなかっただろうに……」
「それじゃあ筋が通らんじゃろう。頭を下げて耐えて待つんじゃどう見ても筋が通らん。そがいな事、ワシは許せん。何より向こう側から手を出してきたんじゃから、ワシに殴られて文句を言うのは筋違いじゃろう?」
個人的にはその考え方は嫌いじゃない―――だが、賢くはない。早死にするタイプだな、と小さく呟く。愚直で賢く生きられないタイプでもある。ぶっちゃけた話、裏社会に居られる様なタイプではないだろうと思う。
「大人しくここを去って表の世界に戻るってなら何もせずに帰しても良いんだが……」
「くどい! ここで下がってもワシがまた迷惑するだけじゃ。それに今回の一件で折角見つけた住み込みでの運送のバイトをクビにされてしまった! じゃけぇ次の働き口で同じようにならん保証もないんじゃから、帰れん」
「まぁ、そうだよな」
ここで説得するだけの材料がないなぁ、と困る。金を出したところで満足しないし、この娘が求めているのは当たり前の仁義だからだ。そんなもん、ここにある訳もない。求めている所で完全に無意味だ。だからこそ憐れとでも言うべきか。ここでそんなものを求めても、最終的には食い物にされて人生を潰されてしまうだけだからだ。こっち側ではなく、表側に出れば大成しそうなタイプだが、
まぁ、こんな所で一人で居る時点で、家出娘か、或いは孤児かのどちらかだ。
正直、さほど珍しい境遇でもない。驚く事でも同情する話でもない。
「はぁ、困った……言葉だけでどうにかなれば楽だったんだがなぁ……」
その言葉に少女がポニーテールを揺らしながら拳を握り、魔力を拳に宿らせた。魔法までの領域には至ってはいないし、身体強化にまでは至っていない。天性のセンスでどうやら魔力撃を扱おうとしているらしい。野生の天性というのは困るなぁ、と思いながら、
「トーマー、勝ったらリリィとのデートの為の資金だしてやる。ただし武器はなしな」
「いや、流石に俺も無手の年下相手に銃は抜けないから。……と、いう訳で俺のデートの資金の為、そして君の尊厳の為にも勝たせて貰う……!」
「尊厳? ……まぁええ、かかってこい!」
そして、始まるトーマと少女の勝負。拳を構えたトーマと少女、少女は魔力撃を放つ為に魔力を拳に纏い、トーマも最近ではめっきり慣れていた単独での魔法行使で魔力を使った身体能力の強化を行った。リリィなしでも出だしは好調。そう思いながら準備が整った二人が一瞬だけ見合いながら、
次の瞬間には飛び込んだのを見た。素早く踏み込んで切先を制したのはトーマ、魔力で身体全体を強化している分動きが少女よりも早かった。それで繰り出す拳を少女は回避しながら、
ゴス、と肉を撃つ音を響かせながら少女のカウンターがトーマに決まった。余りにもあっさりと決まったカウンターに少女が困惑しつつワンツー、ブロー、アッパー、そしてストレートと連続でコンビネーションを叩き込んでトーマを殴り飛ばした。一瞬で敗北した少年の姿が宙に浮かび上がりながら殴り飛ばされて散るのが見える。
「えぇー……」
「まぁ、トーマは近接戦の才能欠片もないからアイツー」
トーマは射撃のセンスならそこそこ存在するのだが、残念ながら近接戦には殴るか斬るかぐらいのセンスしかない。そもそもEC感染者であるトーマは、避けるという概念が戦闘では必要はない。だから相手の攻撃を喰らいながら再生しつつ直進、そのまま動きを止める事無く相手をぶった切ればいいのだから、回避動作もセンスもクソもない。
とはいえ、リリィなしだと防御力も貧弱。直ぐに回復するだろうが、年下に一瞬でフルボッコにされたという心的ダメージでしばらくは沈んでいるだろう。というかごめんリリィとか倒れながら茶番をしている辺り、既に回復を完了させて茶番に移っている。馬鹿じゃねぇのアイツ。解っていて戦わせた俺も非常にアレなのだが。困ったなー、困っちゃったなー、
「トーマ・ムノーが戦えないんじゃ俺が出陣するしかねぇな……!」
「人の名前を偽るの止めない? まるで俺が生まれからの無能っぽい」
「リリィなしで頑張れよ」
「無能です……無能です……」
そんなにリリィなしが嫌かこいつ。本当にゾッコンだなぁ、と笑う。根本的にセフレやらぶら下がる先なら幾つかあるけど、特定の付き合いというのを考えない、作らない身としてはそこらへん、気持ちが良く解らない。まぁ、見ている分には面白い執着なので良いのだが。
と、すっかり忘れていた。
「お前の相手をしないと」
「忘れてても良かったんじゃが」
「俺もお仕事だからなー。これでお金を貰えるならしっかりやらないと駄目なんだよ。という訳で君は今から俺の手によって地獄を見る羽目になるから、心の準備だけはしておけよ?」
立ち上がりながら床を転がっているトーマを足で蹴り転がして部屋の隅へと押し出した。完全にダメージが回復し終わっている辺り、本当に恐ろしいウィルスだな、と驚かされる。まぁ、それは忘れて座っていた瓦礫から立ち上がる。仕事だから仕方がないなぁ、と口にする。言い訳らしく。事前に申告しておかないとこういうのは駄目だからね? と言い訳する。
そうやって少女の正面に立って、相対する。
「えーと、お嬢ちゃん、名前は?」
「なんじゃ、急に」
「いや、名前を知らないのも話しかけ辛いしこれぐらいのコミュニケーションは社会人としては当然の事だろう?」
「気の削がれる奴じゃなぁ……」
ぐったり、と少女が肩を下ろし、フーカと名乗る。成程、フーカちゃんか、と口の中で声を転がす。今は汚れとかでちょっと汚れているが、風呂の中に叩き込んでやれば中々の美少女になりそうなんだよなぁ、と手でフレームを作りながら、フーカの姿を収め、ふむふむ、と頷く。
「あぁ、そうそう。俺はアレクね。とりあえずこれから君は地獄を見る事になるけど、ここまで君が強情に筋を守ろうとした結果だからね、恨むのなら自分の無鉄砲さを恨むと良い……!」
「……」
はっはっは、と笑いながら指の骨をゴキリ、と慣らした。それに反応してフーカが先ほど、トーマと相対したように拳を構え、魔力撃を放つ為に魔力を拳に纏った。当たったら痛そうだなぁ、と素直に思う。あまり、回復とか防御の魔法は得意ではないのだ、自分は。身体強化とかだったら得意なのだが。今回それを使う必要もないのだが。
無言で此方を睨んで相対するフーカを見て、合図も準備も了承も必要もなく、歩きながら一歩目を踏み出した。それに反応し、フーカが殴り飛ばす為に飛び込んで来る。気迫は十分らしい。というか気迫と気合の塊の様な少女だと思いながら踏み込んでくる少女の拳を軽く体を揺らす様にすり抜けながら片手を通り抜けさせた。掴み取った感触を手の中に感じつつ、ビクリ、とフーカが通り抜けた感触に体を震わせる。
一瞬の交差が完了し、手の中に勝ち取ったものを掴みながら、それを掴み、掲げた。振り返ったフーカが体を震わせながら掲げられたものと、そして自分の体を見て、そして下半身を見てから再び此方の手に握られている白いものを見た。
「盗ったぜ」
「わ、わ、わわ、ワシの下着―――!? えっ!? なんでじゃ!? なんでぇ!?」
フーカがホットパンツの中を確かめる様にパンツの腰を掴んで、中を確かめ、顔を赤くする。だが同時に一瞬で奪われた事実に物凄い困惑している。何時の間にか復活したトーマが羨ましそうな視線を向けている。
「俺もそれ覚えたい……」
「というかお前が覚えたいのこれだけだろ」
「リリィと初めての時が来たら、問題なく詰まらず脱がせられるだろうそれなら!」
「なんてレベルの高い童貞なんだこいつ」
その発想はなかった。本当にリリィ一筋という感じがある少年なのはいいが、その方向性、ちょくちょく暴走していない? 大丈夫? そんな事を考えながらこの白いパンツをどうしてやろうかと思っていると、顔を真っ赤にしたフーカがそれを取り返すべく、殴りかかって来た。前よりも早く、そして怒りで覚醒スイッチでも入ったのか、魔力を使って身体能力の底上げまでしている。
だがこの二代目怪盗ネメシス、おちょくる事と煽る事に関しては無類の強さを発揮すると自負している。そもそも力押し一辺倒では絶対に勝てないのが自分という存在だ。純粋な暴力では敗北しないタイプなので、多少覚醒して強くなられたところで、
先ほどの様にぎりぎりの所を掠る様にフーカの拳を回避する。そのまま通り過ぎるフーカのジャケットの下の白いインナーを掴み、服と手を透過させて、フーカの体を貫通させるようにインナーだけを傷を一つ付ける事もなく脱がした。
「ひぅっ!?」
「そうそう、女の子なんだから拳を振るうよりも可愛らしくした方が良いって」
殴り抜いたフーカはジャケットが広がりそうになったのを両手で掴んで無理やり閉ざした。脱がしながら通り抜けた時、ジャケットの下に裸の胸が見えたので、どうやらブラジャーは装着していなかったらしい。これでノーパンジャケットという世紀末スタイルになった。
「寧ろその世紀末スタイルこそこの廃墟っぽさがあって良いのでは? ナイスコーディネート、俺」
「なわけあるかぁ―――!」
怒ったフーカが片手でジャケットの前を抑えながら殴りかかってくるが、最初の殴り合いと比べれば動きが凄まじく稚拙になっている。羞恥と戦っているのだから当然と言えば当然だ。故に殴りかかってくるフーカの拳をまたひらり、と回避しながら今度は通り過ぎざまに、腰の裏からホットパンツを軽く掴んで盗んだ。急いで下を隠そうと足を閉じたフーカがバランスを崩して転がり、すかさず転がる姿を足で踏んで止めた。
「ぐ、ぐぐぐ、何故じゃ、力が入っていないのに動けない……!」
「動きを盗んでハイ、おしまい。誰に喧嘩を売ったのか、しばらくはその恰好で反省しておけ。俺以外の奴と会っていたらお前、最悪ミンチか売り飛ばされるかヤク漬けだったぞ? 俺が辱める程度で良かったな」
「良く、ない!」
そうかぁ? と思いながらしばらくそのまま、しっかりとフーカのヘイトが此方へと向けられるのを確かめてから、意識を奪った。気絶し、倒れたフーカを足の裏から解放しつつ端末を取り出し、仕事の終わりを報告する為に連絡を入れる。
「あ、どうも。こっちは今終わらせたけど原因はそっちの若いのが表で粉をかけてたのが原因っぽくて。えぇ、ヘイトをこっちへと全フリしたんでたぶんそっちじゃなくてこっちに噛みついてくると思う。はーい、お疲れー。報酬は何時もの口座に宜しく、という事で」
若頭との会話を終えて通話を切る。もっと、こう、簡単に終わらせる仕事ってないかなぁ、とは思わなくもない。まぁ、俺へとヘイトを擦り付ければそれで完了出来るのだからそれはそれで楽だと思わなくもない。どうせ、廃墟都市に居る間は見つけられっこない。そもそもアジトが入り口のない地下の時点で見つかるもクソもない。
「トーマ、ちょっと知り合いに電話かけてくるから、その間ちょっとこの子に服を着せておいてくれ」
「童貞に殺害宣言するの止めない?」
「頼んだぞー」
「マジかよこいつ……」
端末の中に電話番号を打ち込みながらほぼ全裸で倒れているフーカから離れる。トーマが唸るような声を放っているのに密かな愉悦を感じつつ、端末に記憶している電話番号を叩き込む。間違えていないか? と何度か確認しながら通話ボタンを押し込む。
数十秒待ってから、電話が繋がった。
「あ、もしもし、俺だよ俺。え? 違ぇよ、金を借りたい訳じゃねぇよ」
金なら自分で稼げるから、少なくとも今、金で困る様な事はない。そりゃあ2年ぐらい前までは割とお金に困ってあちこちから永遠に借りるぜ、状態だったが。少なくとも今では自分の力で安定した生活を得られるだけの金が稼げているから、金を借りる様な事はない。
「いや、だから面白い子を拾ったから……カキタレじゃねぇーよ! お前俺の事をどんなふうに思ってるんだよ! 大体合ってるよ畜生! まぁいいや。逢えるか? 良し良し、ならちょっと昏睡状態の娘を連れて行くから、受け取る準備だけして」
自分でも割と衝撃的な事を言っているのではないか? と思っているが、反応に迷いはなかった。オッケーが返ってくる。まぁ、あいつも今では教会で猫を被っているが、元々廃墟出身のストリートチルドレンだから、そこら辺の適応力や理解は高いのだし、まぁ、普通にオーケイを出すか。
「というか良いのか別に? まぁ、そうか、お前そう言う奴だもんな。そこか、あいよ。そんじゃまた後でな」
端末を切ってポケットの中に突っ込み、後ろへと振り返る。何か、盛大に仕事を成し遂げたような表情でトーマがフーカの着衣を完了させていた。うーむ、楽しむのではなくここで大仕事を成し遂げたような反応を見せる辺りが子供だよなぁ、と思う。
まぁ、面白い奴だ。それは間違いがない。
そんな事を考えながらフーカがちょっかいを出さなくなるように、その後始末先へと行く為の準備を始めた。
トーマ君は純情馬鹿のハイレベル童貞。才能はEC関係に全振りなので生身だとクソ雑魚の模様。アレクニキはクズで賢い馬鹿で自覚のあるクズ。そしてフーカは通りすがりの被害者だよ。大体キャラはつかめてきたころかな?
次回、ついに奴が登場する。おそらく序盤から出すのは割と珍しい。